No.497313

すみません。こいつの兄です。26

今日の妄想。ほぼ日替わり妄想劇場。26話目。修学旅行編です。計画せず妄想のままに書いているので、旅程的なものが出てくるとつじつまが合わなくなるのではないかと心配です。

最初から読まれる場合は、こちらから↓
(第一話) http://www.tinami.com/view/402411

続きを表示

2012-10-17 21:54:45 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:1027   閲覧ユーザー数:930

 修学旅行が始まった。

 その朝、四日間部屋に逃げ帰れないというプレッシャーだけで真奈美さんは死にそうだった。けっこう真面目にやめさせたほうがいいんじゃないかと思った。それでも真奈美さんは、キョドった目で俺を見ながら首を振って「ううん。行く。行くの」と言った。

 しかたないな。じゃあ、お守りをあげておこう。

 お守りにストラップをつけて、真奈美さんの首にかけてあげる。

「お守り、貸してあげる。ジャージの中にぶら下げておくといいよ」

「…う、うん…しょ」

真奈美さんは、ジャージの中どころか中のTシャツの襟元まで広げて中にお守りを入れる。見えたぞ。真奈美さんの肌、外に出ないから真っ白だ。通学のときも長袖のジャージだし…。美沙ちゃんの姉にしてはささやかな膨らみの上部まで見えたぞ。あれが、抱きつかれる度にやわらかいアレか…。

 うん?

 いつの間に俺、真奈美さんに女の子を感じちゃっているんだ?最近、真奈美さんが普通への道をちゃくちゃくと歩いているからかもしれない。

 いけない。

 真奈美さんに女の子を感じると、おもらししたときや抱きつかれたときに懊悩としてしまう。抱きつかれたときはともかく、おもらしで懊悩としてしまうと変態さん認定がいよいよ確定してしまう。

 真奈美さんは真奈美さんだ。女の子とは、ちょっと違った生き物だ。ヤシガニー・マナミンクス・イチノセシスだ。そう自分に言い聞かせる。

「じゃあ、行こうか」

 真奈美さんから、デイバッグを受け取って空いたほうの肩にかけて、いつもより大きなリュックを前に抱える真奈美さんの手を取る。今日は、学校まで甘やかしに甘やかしておこう。HP満タンで挑ませないとね。真奈美さんの目が少し落ち着く。よかった。

 学校の校庭にはバスが入って生徒たちを待っていた。集合時間までは少し時間があるが、だいたい集まっているみたいだ。やけにでかい荷物を抱えた上野と橋本も来ている。

「よー。上野。ハッピー」

「よー。二宮」

「二宮、お前もご苦労なやっちゃな」

「…う、上野くん。橋本くん…お、はよ…う」

真奈美さんも律儀に挨拶する。こんなのにわざわざ挨拶しなくてもいいぞ。

 そのまま駄弁っていると集合時間が来た。

「そ、それ…じ…わ、わた…むこう…だか…」

自分のクラスの列に並ぶ時間になって、真奈美さんの挙動が一気に不審さを増す。本当に大丈夫かな。

「ほらほらー。男どもー。市瀬さんを監禁してるんじゃなーい」

酷い言われようだ。だんだん佐々木先生の、俺たちに対する扱いが無遠慮になってきている気がする。そのまま佐々木先生が真奈美さんを連れて行く。

「乗り物酔いする人は他にいるー。前に座りなさいねー」

佐々木先生上手いな。真奈美さんが乗り物酔いをするかどうかはさておき、そういう理由で自分の近くで保護しておく作戦か…。さすがだ。

「おらー。早く乗れー」

うちのクラスの引率は筋肉ムキムキの物理教師宮元だ。だれに似てるかといえば、ベルセルクに出てくるゾッドに似ている。そっくりだ。当然クラスの男子連中は、修学旅行始まる前から不満メーターが振り切っている。

「なんで、うちらゾッドなんだよ」

「一組、つばめ先生ってずるくねーか」

「三十代だぞ。佐々木先生」

「あれなら、ぜんぜんありだ」

「むしろ、いろいろお願いしたい」

「いろいろってなんだよ」

「言っていいのか」

「やめておけ」

途中から、つばめちゃん批評になってた。こいつらに『俺はつばめちゃんにメイドコスプレさせて、ご主人様って言わせた』って教えてやりたい。言わないけど…。佐々木先生は、美人なんだよな。エロ漫画描いているけど…。そうだ思い出した。俺をモデルにするのだけはネームの段階でやめさせないと。作画に入ったら言いづらくなる。

 そんなことを考えながらバスに乗り込む。

 あれ?

「ちょっとまて、何でお前らそっちに先に座ってんだ?」

気がついたら、二列のシートに橋本と上野がさっさと座っている。通路を挟んだ反対側を見ると、Fカップ癒し系東雲史子さんと並んで、子供みたいな背丈の八代美奈さんが座ってる。

「なにしてんの?グループごとなんだから、早くここ座りなさいよ」

一つ前の列で、三島ロケット由香里がこつこつと指で隣の席をつつく。

 橋本と上野にハメられた…。

 バスは三島の横で縮こまる俺と、楽しそうなクラスメイトを乗せて西に向かってひた走る。

 

 後ろの列が楽しそうだ。

 

 ハッピー橋本と上野が、東雲さん、八代さんとウノをやってて楽しそうだ。

「二宮。移動時間は読書にちょうどいいのよ」

俺は、移動時間は癒し系Fカップ東雲さんとのウノやババヌキに丁度いいと思うのだ。

「だから、二宮が好きそうな本をたくさん持ってきたわ」

PSPで対戦するのもいいよな。協力プレイもいい。

「マイケル・クライトンのタイムラインなんかどうかしら。SF好きでしょう?映画にもなったけど、断然原作がいいわ。まずは京都に行くんだから過去に旅する物語がいいと思うんだけど…ちょっと、人の話を聞きなさいよ!東雲さん、気をつけて!この変態野郎が上から東雲さんの襟元を覗いて谷間に強酸のよだれをたらすところだったわよ!」

むちゃくちゃだ。

「冤罪だ!」

「じゃあ、ちゃんと前向いて座ってなさいよ!座席の背から後ろを覗くなんて怪しいのよっ!次、いやらしい目で東雲さんの胸を見たら蹴り殺すわ」

三島は恫喝したりしていない。殺害予告してる。

「悪かった」

命は惜しい。

「じゃ、じゃあ、ほら。本、貸してあげるから…読んでいいわよ。私もこの間読んだばかりだから、夜に本の話が出来るようにバスの中で読みきってしまいなさいよ」

夜まで監視されるのか…。あまり楽しい修学旅行ではない気がしてきた。

 ふと橋本と上野を見ると、やつらは全開でエンジョイしてやがる。いつの間にか席を入れ替えて、男女男女の並びになってりる。本気だ。本気のエンジョイだ。

 いろいろ、あきらめた。

 『タイムライン』を読もう。マイケル・クライトンって、確かジュラシック・パークの作者だよな。この人。

 文庫本を開く前に、ふと窓の外を見ると太平洋が見えた。キラキラと午前の陽光に波が輝いている。そんな空と海との境界線を越えて、真っ青な空に飛行機が雲を引く。遥かかなたを目指して飛行機が飛ぶ。高校時代の一ページ。

 青い車窓を背景に、隣に座る三島由香里が文庫本に目を落としている。

 しなやかな脚と鼻筋の通ったシャープな横顔を見て、俺はつぶやく。

「ヴェロキラプトル」

「なんですって?」

きしゃーっ。

 

 バスがサービスエリアに止まる。トイレ休憩。ハッピーと上野はさっそくじゃがバターを買いに行っている。東雲さんと八代さんも一緒だ。なんか楽しそうだな。

 真奈美さんは…。

 一人でキョロキョロしながらトイレに向かっている。荷物持ってないな…と思ったら、バスからつばめちゃんがウインクしてくる。ああ、なるほどつばめちゃんが荷物に悪戯されないように見ててあげているのか。

 ほいじゃま。俺も、安心して用を足してこよう。

 トイレから出て、ついでに高速道路の楽しみ。ジャンボフランクを買う。マスタード鬼盛り。バスに戻る途中で三島に会う。三島もジャンボフランクを持っている。

「やっぱり肉なんだな」

「やっぱりってなに?」

「ヴェロキラプトル」

「いい加減にしないと…あ。ひょっとして、あ、あれか…かしらね。き、気になる子には、ちょちょちょっかいを出しゅって…やつ?」

「噛み噛みだぞ」

「うるさい。殺すわ」

「殺害予告はするな」

「予告ナシの方がいいの?」

「殺さないでくださいませんでしょうか。お願いします」

三島が、元の窓際の席に陣取る。俺はその後ろの窓際に座る。

「なんで、美奈の席に座るのよ?」

「クラスメイトの交流を広めるために、たまに席の順番を変えたほうがいい」

「二宮の席はここでしょ」

隣の席を指でつつきながら言う。

「そうだ。二宮、どけ」

いつのまにか戻ってきた橋本が俺からジャンボフランクを預かり、上野が俺の手を引っ張って実力行使する。橋本と上野の買ったじゃがバターは後ろに並んでいる東雲さんと八代さんが預かっている。なんてチームワークのとれたグループなんだろう。抵抗できる気がしない。

 元通り三島の隣に座らされ、手にジャンボフランクが戻される。後ろの列は楽しげな空気だ。

 バスが動き始める。窓の向こうの一組のバスはまだ停車中だ。先頭に佐々木先生と並んで座る真奈美さんが見える。窓ガラスと前髪の向こうに、真奈美さんの目が見える。不安を湛えた目。…真奈美さん!…後方に流れ去る。がんばって。近くにいない俺は、そう祈ることしかできない。

「…二宮?どうひひゃの?」

気がつくと、三島がジャンボフランクを食べていた。おお…いいね!

「写メ撮っていいか?ジャンボフランク食べてるところ」

がぶっ。ラプトルが肉を食いちぎった。

「ジャンボフランクを食べてないところならいいわ」

「じゃあ、いらね」

「死になさい。二宮」

恐ろしい言葉を口にするラプトルは無視して、俺もジャンボフランクにかぶりつくことにした。

 うわ。マスタードがこぼれる。あぶね。

 ぱしゃっ。

 シャッター音がした。隣を見ると、三島が携帯のカメラを構えていた。

「俺が食べてる写真は遠慮なく撮るんだな」

「姉さんにいいお土産が出来たわ。仕事の資料に喜んでくれそう」

「ちょっとまて、三島の姉さんって仕事はなんだ?」

「どうでもいいじゃない」

胸のうちに、嫌な予感が湧き上がる。

「どうでもよくない。仕事はなにをしていて、どんな内容なんだ。俺の写真がなんの資料になるんだ。てか、今すぐ写真消せ。」

「いやよ。あと、知らないほうがいいかもしれないわよ」

「知らないほうが良くても、知らないでいると気になる。教えろ」

ここは退くわけにはいかないところだ。詰め寄る。

「…!ちょ、ちょっと二宮…。ち、近いわよ。は、離れなさい」

「だったら、早く教えろ。あと写真消せ」

「ま…漫画家よ」

「どんな?」

「……」

「俺の目を見ろ。三島」

「…っ!こ、こんな近くで…に、二宮の顔なんて…み、見れないって…ば」

くそ、そんなに姉の仕事を言うのが恥かしいのか?小型恐竜のくせに真っ赤になりやがって。しかたない。三島から少し距離をとる。

「これでいいか。で、どんな漫画を描いている漫画家さんなんだ」

「…ぼ、ボーイズラブ」

最悪の予想が当たってしまった。

「その漫画の資料に、俺がジャンボフランクを食べてる写真が使われるのか?」

「最高の資料だと思う…」

「写真消せってば」

「…つーか、もう姉さんに送信したし。ほら返信」

三島が見せてきた液晶モニタには、興奮を示す顔文字だらけのメールが表示されていた。

 

《こぼれそうになって焦っているところが奇跡のタイミング!グッジョブ!由香里!グッジョブ!受け顔の彼にご馳走様って言っておいて!》

 

 ふざけんなぁーッ!!

「て、手遅れじゃねーか!お前にだけ勝手なことさせるか!お前も、ほらフランク咥えろ!」

こうなったら、三島のフランク食ってる写真も撮ってやる。つばめちゃんの漫画の資料にしてもらうがいい!三島!

「きゃっ。ちょ、二宮。そ、そんな強引に…!」

「宮元せんせー。二宮が三島さんに『俺のジャンボフランク咥えろ!』ってやってまーす」

「なにいっ!二宮!キサマ!なにをやっとるか!」

なんだと!?ゾッド登場だと?

 

 京都に着くまで、俺はゾッド宮元の隣で過ごすことになった。

 

 

(つづく)


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
3
2

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択