前書き~
前回、砂糖増量の要望があったので、自分なりに頑張って増量してみましたwww
もし増えたな~と感じられたらコメントお願いしますwww
……おかげで中々話が進まないぜぇ……
それでは、どうぞッ!!
めーでーめーでー俺は今、かつて無い窮地に立たされている。
どれぐらいヤバイかと聞かれれば、返答に困るが……例えて言うなら……そう、100秒しか潜ってられねえ水中ダイバーが水の中で息を堪えて100寸前で水面に顔が出せそうになった瞬間……グイィッ!!っとまた海中に引きずり込まれて息が出来なくてパニックに陥った時ぐらいヤバイ。
顔に血が集中して血管が張り裂けそうなぐらい脈打ち、体温も体がオーバーヒートしたんじゃないかと思うほどグングンと上昇し体中がカッカッして熱くて堪らない。
極限の緊張と興奮による口の渇きを潤すために喉をゴクリッと鳴らして唾を飲み込む。
俺の命、生命を司る心臓の鼓動は、普段の3倍以上の速度で忙しなく動き、さながらブロー寸前のエンジンみたいだ。
そして俺の体が異常なほど興奮、緊張してる原因はといえば……
「くぅ~~~~~~~ん♡♪♪♪///」スリスリスリ
緊張の原因………それは今までに見た事が無いほど幸せそうな笑顔を浮かべた……まさに可愛さMAX状態のアルフが俺の腕の中ですんごい甘えるような猫撫で声を出して、俺の胸に頬ずりしてるのが原因です。
完全に甘えん坊モード全開で俺に抱きつくアルフは今までみたいに体格差が無いからか、遠慮無しに全身を俺に預けてくる……オマケにアルフの体中から発せられるクラクラするほどの甘い香りがこれでもかと俺の脳を揺さぶってきやがる。
な、なんつー声で鳴きやがるかねこの狼っ娘はッ!?狼のくせに甘えん坊な子犬様を連想させる声で鳴きやがってぇッ!!?
そんな尻尾フリフリしながら…甘える声を耳の近くで囁かれたら…もっと鳴かせてやりたくなるじゃな、ゲフンッ!!ゲフンッ!!ゲフンッ!!
ち、ちくしょうッ!?ドンだけ俺の萌え心と自制心を掻き乱せば気が済むんだよッ!?お前もフェイトも主従揃ってあれかッ!?俺を萌え殺したいってかッ!?
アルフの存在を腕の中で余すとこ無く感じているせいで、俺の心臓は今までに無いぐらいの緊張と興奮でバクバクと速く鼓動している。
いや、別に今までが嫌ってわけじゃなかったけどよ……こう、男の俺としてはヤッパリ、自分でその存在全てを抱きしめてあげたいわけで……今までみたいに覆いかぶさられて甘えられるよりはこうやって自分の腕の中でギュッと包容してやるのが男としてはその……頼られてる感じがして嬉しいわけで。
ちくしょう、本気でアルフが可愛いすぎるぜ……その赤く染まった愛らしい笑顔もチラッと口の端から見えるチャームポイントの八重歯もフリフリと左右に揺れ動くあの癒し筆頭の久遠と甲乙つけ難い程に毛並みのいい尻尾も、もう全部が凶悪なぐらい可愛いすぎて困る。
今、抱きしめている状態から全然動くことができねえ……本気で離したくなくなってきちまった。
でも緊張して、俺の心臓の鼓動音がアルフに聞こえそうで離れたいって矛盾した気持ちもあって、アルフの甘い香りが俺の頭ん中グチャグチャに引っ掻き回して考えが纏まんなくて……あぁッ!!もうどぉすりゃいいんだよぉッ!!?
ええいッ!!しっかりしろよ、橘禅ッ!?
お前は可愛いものには可愛いと面と向かって言い切って慌てふためく女の子を愛でるという
なんのこたぁねえ……何時も通りに、頭は冷静に、心は熱くアルフを、いや可愛いものを愛でるぐらいやってのけろッ!!お前ならそれが出来るッ!!
「ね、ねえ?……ゼン?…ち、ちょっと聞きたいんだけど…さ…///」
と、俺が絶賛パニック中にアルフが腕の中からさっきまでの上機嫌な声じゃなくなんか不安そうに声を掛けてきた。
「んおッ!?ど、どどどうしたよ?///」
そしてパニックなうの俺がアルフに返した返事はこれ以上無いくらいにテンパッた声だった……って俺のブァカーーーーーッ!!?
何をさっそく上擦った声出しちゃってんのッ!!?これじゃアルフを意識してんのモロバレじゃねーかッ!?
初っ端からやらかした俺はドキドキしながら腕の中のアルフに視線をむけたんだが……不幸中の幸いか、アルフはその事に気づいていなかったようで、特になにも言わないで俺を見つめていた。
そして、何をそんなに不安そうな顔で聞いてくるのかとアルフの言葉を待っていたら……
「あの……さ?///……ァ……アタシって……本当に…その……か、可愛ぃ……の?///」
「…………はいぃ?」
俺を見つめていた目線をずらして俯きながらなんかとんでもないことをのたまってくれやがりました。はい。
え?
マジで何をグレートにとんでもない事言ってくれちゃってんのこの子犬様は?一瞬マジで何をおっしゃってるのか理解できなかったんですが?
アルフの言葉の意味が解らず、俺は黙ってジーッと見つめていたら、やがて俺の視線に気づいたアルフはゴニョゴニョと小さく口を動かしはじめた。
「ほ、ほら…アタシって口も悪いし……あ、頭で考えるよりも……先に体を動かすタイプ……じゃん?そ、それにガサツだし、気に入らないことがあったらすぐ怒る……後……手が出るのも…早いわけで……さっきはゼンに、か、可愛いって言って貰えて…スッゴク、嬉しくて……浮かれてたけど…さ…ちょっと考えたらアタシって全然、女らしいトコないなぁって思っちゃって……だ、だから…ゼンは本当に…ァタシのことを///…か、可愛いって……思ってくれてるのかなって///…そ、そう考えたら不安になってきちゃ…て……だから………教えて欲しくてさ///…」
小さく、でもハッキリとした声でアルフはそれだけ言って黙りこむと、またもや俺の胸に顔を押し付けてそのまま動かなくなってしまった。
……なぁ、ベイビー?お前、絶対狙ってやってんだろそうだろそうなんだろそうなんだよなぁ?
お前の今の発言のせいで俺の心の
このまま回り続けたら過電圧で死んじまうよ俺?
ホントなんなんだよ?何時もは活発で元気で明るくてそんでもって言いたいことはハッキリと言うさっぱりとした性格の前向きなアルフが…こんな、こんな初心な少女みたいな一面をさらけ出して恥ずかしそうに自分が可愛いかどうか不安になって聞いてくるとか……もう、だめぽ…
……今の俺の心境を表すのにピッタリの言葉がある……それは……
震えてるぞハートッ!!萌え尽きるほどヒートッ!!
……って言葉だ。
「そ、そそそそそれは…だな……えと…///」
もちろんそんな風に萌えっぱなしの俺がまともな返事をできるはずも無く、どもった挙句に返事につまった。
つうか、お前のドコドコが可愛いなんて具体的に声に出して、オマケに面と向かって言えと?俺を悶死させる気か?この萌える狼っ娘は?
そのまま俺は黙り込んでたんだが……ちらっと腕の中にいるアルフを見下ろしてみると…すっごく泣きそうな顔になってた。
「…な、なんで黙るのさ……やっぱり…ァ、アタシって……可愛くなぃ…の?……ゼンの…好、みに……あ、合わな…ぃ?///」ウルウルウル
そんな潤んだ目で見つめてくんのと弱弱しい声出すの止めてください。
本気で我慢効かなくなりますから。
好みに合わない?いいえ、ドストライクですよ?というか、女の涙ってズルイぜ。
男である以上それにゃ勝てねえよ。
「そ、そんなこたぁ無えってッ!!俺は本気で「だったらッ!!///」…」
「だ、だったら……どうしてそう思ったのさ……教えてよ…お願い///」キュッ
俺の言葉を遮ったアルフは俺を上目遣いで見つめたまま、両手で俺のシャツをぎゅっと握り締めてきた。
なんだなんだよなんですかぁ?このキュートすぎる生き物はぁッ!?
こ、ここでお願いってされたら、どうあっても言うしかねえじゃねぇかッ!?つうか、さっきの可愛いって言葉だけじゃ満足できねえのかよッ!?
そ、そんなに知りてえってんなら……『言葉』じゃなく『
俺は見つめてくるアルフには何も言わずに、無言のままアルフをギュウッっと優しく抱きしめてやる。
「ぁっ……///」
いきなり全身が密着するほどに抱き寄せられたアルフは、頬を赤く染め、驚いて小さく声を上げたが、全く抵抗せずに俺の胸板に顔を預けている。
ここまできたらもう引きさがらねえッ!!ガンガン逝くぜぇッ!!
「い、今、お前の耳には何が聞こえるよ?アルフ///」
イキナリすぎて驚いたのか、アルフはなんかポケ~ッと呆けた顔をしてたがそれには構わずに、俺は質問する。
「ふぇ?///……し、心臓の音が…聞こえる///」
俺の胸元に耳を当てるように抱き付いてるアルフは俺の心臓の鼓動音を確かめるように小さく呟く。
「どんな風に…聞こえる?……俺の心臓の音は?///」
俺は片手でアルフの頭をあやす様に優しく撫でながら聞いてみた。
腕の隙間からちらっと覗いて見ると、アルフは目をゆっくりと閉じながら俺のシャツを握り締めていた手をほどいて、手の平を胸に当てながらじっと心臓の音を聞いていた。
「……すっごく……早い……破裂しちゃいそうなぐらい…ドクン…ドクンって…鳴ってる…よ?///」
アルフの言う通り、俺の心臓は極度の緊張でハジケちまいそうなぐらい忙しなくビートを刻んでいる。
まぁ、それもこれも全部アルフのせいなんだけどな……
「つ、つまりはそーゆうこった///」
「…ぇ?」
だが、この行動だけじゃ何も解らなかったのか、アルフは疑問の声を上げながら俺の胸から顔を上げて、再び俺を見つめてくる。
……これで察してくれたらここで終わりだったのによ……更なる上をご所望ですかベイビー?……OK、い、言ってやるぜッ!!
「だ、だからだねぇ……今、俺のハートがハジケちまいそうなぐれぇに激しいビートを……刻んでんのはよ、お…おおおお前を///…可愛いすぎるアルフを抱きしめているからであってだ…な///」
ちくせう、もうドコのドナタでもいいから誰かいっそのこと俺をハッ倒してくれ、こっ恥ずかしすぎて死ねる。
俺はどもりながらも、鼓動の激しい原因はアルフであると目を見ながら確りと口にする……すると
「ッッッッ!!?///」
俺に可愛いと言われたアルフは俺を見つめたまま顔全体を真っ赤にして驚いていた。
ってなんでお前が驚くッ!?お前が言えと言ったんでしょうにッ!!?こ、ここまでくりゃ腹ん中、全部吐き出してやんよッ!!
俺は驚いてるアルフの肩と頭から一度手を離し、両頬に手を添え直して、目を逸らさないようにジッとアルフの潤んだ水色の瞳を覗きこむ。
すると、いきなり顔を固定されたアルフは恥ずかしげにしながらも同じように目を合わせて俺の言葉を待っていた。
「普段の元気いっぱいなアルフも、悲しくてしょげ返ってるアルフも…い、今の顔を真っ赤にして恥ずかしそうにするアルフも、俺ぁお前の全部が可愛いくて仕方ねえんだよ…そうでなきゃ、心臓がこんなにも激しいビートを刻んだりはしねえよ……ハ、ハッキリ言えば、だ…俺がこんなにドキドキしてんのは……お、お前が可愛いすぎるせいなんだぜッ!?///」
もはや羞恥の限界を軽く超えた俺の顔は体中の血が集まったんじゃないかと思うほどに熱い、多分、傍から見れば真っ赤に染まってるだろう。
ぎゃあーーーッ!!?やっぱりもうこれで勘弁してくれぇぇええええええッ!?なんだこの気障で歯の浮くどころか天井にブッ刺さりそうなセリフはよぉーーーーーッ!!?
「ぁ、あぅッ!?///で、でもでもでもッ!!ア、アタシはホント怒りっぽいし、フェイトみたいに女の子らしいトコなんて一つもないし…」
だが、ここまでこっ恥ずかしい思いをしながら必死に答えたのに、アルフは可愛らしい悲鳴をあげて瞳をウルウルさせたままそう言って俺の答えを否定しようとしてきやがった。
いやいやいやッ!?今のお前ほど女の子してるやつぁいませんからねッ!?っていうかもうそろそろ納得してくれませんかねえッ!?
「だ、だからよッ!!///そうやって妬き餅妬いて怒るのも、噛みついてくるのも、自分は女の子らしくないって不安になっちまうトコも、そういったのも全部ひっくるめて、俺ぁアルフの事が可愛いすぎてもうどうにかなりそうなんだってんだよチクショーーッ!!///」ギュウウゥゥゥウウッ!!
も、もう、無理だぁーーーッ!!これ以上は本気で恥ずかしすぎて、アルフと目なんざ合わせてらんねえよッ!?
留まるところを知らない勢いで羞恥加減が天元突破した俺は、体を屈めてアルフの小さな体を思いっ切り抱きしめる。
今の真っ赤に染まった顔を見られないようにするためだ。
そうやって抱きしめるとさっきまで見つめあっていたアルフの顔は、俺の肩にあごを乗せるような形になった。
「hdfbdそhふぁlkkづんhるlvrkyッ!!!?/////」
いきなり抱き寄せられたアルフは声にならない悲鳴をあげて、俺の腕の中で体を硬直させる……今や、お互いの身体は完全に密着状態になって、遮るものは衣服だけの状態だ。
そして、衣服越しに感じられるアルフの心臓の鼓動も凄いことになってた…もう、お互いの心臓の音が混ざり合ってどっちがどっちの音かなんて判別できねぇよちくしょう。
「こ、これがッ…俺の心臓が刻んでるこの激しすぎるビートがよ…お前が……ア、アルフがグレートに可愛い女の子だと、俺が心の底から思ってる証だ……わ、わかったかベイビー?///」
右手で頭を撫でながら顔の横にあるアルフのふわふわとしたケモノ耳に口を近づけて、優しい声音でトドメのセリフを放つ。
え?なんのトドメかって?そりゃもちろん俺の羞恥心ですがな(泣)
「………ひゃぃ…///(…もう……だめぇ………し、しし幸せすぎて……嬉し……すぎぃ……て…ぇ……溶け、ちゃぅ♡///)」
まぁ、アルフにも効果は抜群だったようで……呂律の回っていない、それでいてグンバツにとろけた声出してるぜ…さっきまで残像が見えるぐれえ振り回されてた尻尾も今はゆらりゆらりとスローに振られてる。
いやまぁ実際、ここまで言わせておいて信じてもらえなきゃ泣くとこだったぜぇ……ま、まぁとりあえずはだ、俺の顔の赤みと羞恥心が納まるまではこのままでいて……
「……きゅぅん♡///」
と、俺が離れるタイミングを計ろうとした時に何とも切なげな声を上げながらアルフは俺の背中に手を回して抱きしめ返してきた。
しかも背中に回された手は俺の背中をゆっくりとした動きで撫でている。
……あ、あれ?これってもしかしてアルフが離してくれないとこの体勢から離れられない?……そ、そんなバナーナ、いやバカーナことはねぇだろ。
嫌な予感がしたので試しに体を離そうとしたら……
「…やぁ///……んぅ♡///」ギュウ
トロットロのチーズ並みにトンデモなくとろけた声音を俺の耳元で囁きながら首をイヤイヤして、背中側にまわされたアルフの手が少し離れた俺を引き寄せて留めようとしてくる。
……あっるぇ~?……ひょ~っとして俺ってばまたもや盛大にヤラかしてるぅ?
自分で招いた逃れようの無い現状に今更ながらに冷や汗を流す俺ですた。
ちなみに……
(だぱーーーーーーー…けほっ…だ、だめ~、止まらない…止まらないのぉだぱーーーーーー)←空気に当てられた
(うぅ……な、なのは……だいじょだぱーーーーーー)←もらい砂糖
外野では2次災害が起きていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(……胸が苦しい……締め付けられて、どうにかなってしまいそうだ…)
胸に走る痛みに顔をしかめながらアルフとゼンがイチャイチャとラブコメを繰り広げているのをリインフォースは悔しげに見ていた。
先程まで、闇の書の闇を上回る程の威圧感を纏って二人を見て…否、アルフを睨んでいたのだが、ゼンがアルフを思い切り抱き寄せたのを見て、胸が締め付けられとても悲しい気持ちが湧きあがり、纏っていた威圧感と怒りは全て掻き消えてしまった。
リインフォースは長い時を魔導書として守護騎士達と共に生き、様々な主の下で様々な人間を見てきた。
その中には、自分を改悪した主もいたが、はやてのように心優しい主も何人かいたのだ。
そして、その主達の中には、普通に異性と恋をして、幸せな家庭を築いていた者も……そういった主達の恋愛模様を見てきたリインフォースは、自分がゼンに向けている想いが何なのかを知識だけではあるが、しっかりと理解している。
主や守護騎士達……家族のように思っている人達に抱いてる思いとは違う……親愛ではなく恋慕の情を…そして、その想いを向ける男が目の前で別の女を抱き締めている…その光景は自分にとっては気持ちのいいものではない……思わず全魔力を注ぎ込んだ、全力全壊最大出力のデアボリックエミッションをぶちカマしたくなるほどに、だ……何故、自分ではないのかという悲しみの感情と、今ゼンの腕の中にいる幸せそうな顔のアルフに向いている身を焦がすような嫉妬の炎はリインフォースの中で複雑に混ざり、心を掻き乱していく。
(魔導の器である私が自らの感情の制御一つすら碌にできないとは……これが……嫉妬……か……これでは、テスタロッサやアルフのことを言えた義理ではないな…)
目の前にいるアルフと今はこの場にいないフェイトに言った言葉が丸々と自分に返ってきたことにリインフォースは自嘲めいた笑みを浮かべてしまう。
まさか注意した自分自身が嫉妬という感情の渦に捉われるとは夢にも思わなかった……ここで彼女は改めて自分が……リインフォースという存在がタチバナ・ゼンという少年を愛おしいと想っているという事実をその身を持って実感した。
……時間を遡ると、フェイトとアルフの二人からタチバナ・ゼンは怒れる乙女の癇癪と嫉妬を一身に受ける(O☆HA☆NA☆SHI☆)という逃れようの無いダメージで気絶したのだが……実は気絶した後もそのO☆HA☆NA☆SHI☆は続行されそうだったのだ。
フェイトもアルフも自分の感情に歯止めが効かず、そのまま追撃に入ろうという時に周りの視線やゼンの可愛いという言葉からやっと我に帰ったリインフォースが二人を叱責したのだ。
この時のリインフォースにしてみれば、命を諦めるしかなかった自分を絶望の闇から救い出し、愛しい主と共に生きていく人生を贈ってくれた恩人であり、泣いていた自分に優しく笑いかけてくれた少年……愛しく想う男を攻撃されるのが堪らなく不快だったのだ。
もちろん、そのことが判っていてもフェイト達にとっては面白いことではない。
彼女達からしてみれば、酷い怪我をして目を覚まさずにいた…すごく心配していた……自分の好きな男が別の女にばかり構っていた事で溜まった嫉妬、鬱憤であり、なおかつその構ってもらっていた女からの叱責だ。
どれだけフェイトが他の小学生より早熟であろうが中身は9歳の女の子なのだ。
本来なら感情の赴くままに遊び回る年代であり、制御を学んでいく前のため感情が爆発しても誰も責める事はできない。
アルフも人間形態では大人の姿をしているが、使い魔としての年齢で換算すれば、フェイトやゼンよりも年下であり、生来の性格ゆえか、感情の制御は苦手な部類。
そういったこともあってリインフォースの叱責に余りいい顔ができなかった二人だが彼女の放ったある言葉は二人にとっては看過できないものであった。
「二人とも嫉妬するのはほどほどにしておいたほうがいい、そうやってゼンに辛くあたってばかりでは、いつかは彼に嫌われてしまうかもしれんぞ?お前達もそんなことは望んでいないだろう?」
この言葉がフェイトとアルフの心に深く染み込んだ。
二人にとって、橘禅という少年は自分達の母親や主人を助けてくれた恩人というだけでなく、自分達の心すらも癒してくれた掛け替えのない存在でもある。
その少年に嫌われるという未来……想像するだけでも、二人の心が張り裂けそうな思いでいっぱいになっていく。
フェイトはその時、自分の足元で気絶しているゼンを見て落ち込んでしまった……自分は感情に任せてなんて酷いことをしてしまったのだろうと……原因の全てはゼンにあるのではやてやなのは達、他の面々にはゼンに対しての同情の余地は全く微塵も無いのだが…そして、アルフも渋々ながら拳を納め、ゼンへのO☆HA☆NA☆SHI☆はなんとか終了したのである。
ここでフェイトのバルディッシュは流しこまれた大量の魔力(カートリッジ×6を含む)による負荷で外周に損傷が入り、内部もエラーコードが出てしまった。
少しばかり冷静になってそれに気づいたフェイトは慌てて外周だけでも治そうと思ったが、管制人格たるバルディッシュが沈黙していては流し込む魔力の割り振りが出来ないため自身では修理が不可能な状態だった。
それならばとフェイトはゼンの『クレイジーダイヤモンド』でバルディッシュを治してもらおうと思ったがゼンは先程、自分が気絶させてしまったのでそれも叶わず。
フェイトのバルディッシュやなのはのレイジングハートのようなインテリジェントデバイスは他のデバイスよりも群を抜いて高性能なかわりにとても繊細なため、故障を放置しておくと何が起こるか判らない。
早急に修理をしてもらうためにフェイトは皆と一度別れてかなり沈んだ表情を浮かべながら、デバイスルームにとぼとぼと歩いて向かっていった。
その時に、プレシアとアルフがフェイトに付き添うと言ったのだがフェイト自身が一人になりたかったため、二人の申し出は遠慮した。
……その際、娘に断られて涙腺が崩壊しそうになってたプレシアが目撃されたが、完全な、本当に完全な余談である。
そして気絶したゼンをザフィーラが背中に乗せて今いる会議室まで運び、皆が席に着いていく中でクロノとユーノがゼンを椅子の上に乗せたのだが……ここでリインフォースは極自然にゼンの隣の椅子に腰掛け、ゼンの頭を自分の膝の上に優しく横たわらせたのだ。
これにはさすがに誰もが驚いた。
守護騎士達は主であるはやての傍に座るものだと思っていたが、自分達が主の周りを立った状態で占領していたのでそれならば自分の想い人の傍にと思ったのだろうと余り深くは考えず、主であるはやてに至っては最初こそ驚いたものの、リインフォースの大胆な行動を褒めるかの如く満面の笑顔で頷いていた。
一方で先にこの会議室に着いていた3人の男女は目の前で起きた出来事に目を点にした。
もちろん周りの視線に気づいているリインフォースは顔を真っ赤に染めて恥ずかしそうにしていたが、自らの膝の上で安らかに寝息を立てているゼンの髪を梳くように優しく撫でる彼女の表情は、その羞恥心すらも上回る程の幸福感に満ち溢れ、まるで芸術的絵画のワンシーンのような光景を全員に連想させた。
その慈愛に満ちた表情は聖母像すら霞む程の美しさを持ち、その微笑を見た3人の男女は文字通りアゴが外れたんじゃないかと思うほど、あんぐりと口を開けて驚愕してしまう。
だがそれも仕方が無いのかもしれない……
それも一人の少年をまるで壊れ物を扱うかのように優しく自らの膝に横たわらせ、愛おしそうに介抱してるのだから二重の意味で彼等は驚愕した。
今回の戦闘に参加したメンバーはそんなリインフォースのとても幸福感に満ちた表情を見ると、横槍を挟むことができなかった、いやしなかった。
それは彼女の今まで過ごしてきた過酷な人生を知っているからでもあり、やっと掴んだ幸せを噛み締めて欲しいという思いがあったからだ。
「(チーーーン)」←気絶して完全に沈黙しているゼン
「……ふふ♪///(…あの野生的な目で…み、見つめられた時は///…とても雄々しく、男らしい顔つきだと思っていたが……寝顔は年相応に、幼いものなのだな…///)」ナデナデ
気絶しているゼンを膝枕しながら、幸せいっぱいといった表情を浮かべるリインフォースはゼンのちょっと硬めの髪の毛に手櫛を通すように優しく、溢れんばかりの愛おしさを込めて撫でる。
だが……
「ち、ちょっとッ!?なんでリインフォースがゼンを膝枕してんのさッ!?」
このような美味しいシチュエーションを同じ男に恋する乙女が見逃すはずもなく、アルフは速攻でリインフォースに喰って掛かった。
「…(ムッ)私が…ゼ、ゼンをひ、膝枕してはいけないのか?///」ナデナデ
気分良くゼンを介抱していたところに横槍を入れられたことにムッとしながらも、リインフォースはアルフに言い返す……恥ずかしいのか、言葉がつっかえているが頭を撫でる手は止めていない。
「い、いけないって言うよりも……ず、ずるいっていうか…そうだずるいよッ!!アタシやフェイトには止めろって言っておいて、自分はゼンを独り占めしてるじゃんかッ!?」
「納得いかないッ!!」といった表情を前面に出しつつ、アルフはリインフォースを指差して不満をぶつける。
アルフからすれば、自分とフェイトをゼンから引き離しておいてリインフォースがゼンを独り占めしているのが納得がいかないのだが……
「…お前は、ゼンを引き摺りまわして、あげくには殴り倒しただろう?……私にとって、彼は…ゼンは、私を絶望の淵から救い出してくれた…新しい人生を贈ってくれた、とても大切な人だ…そんな人を、あんな目(O☆HA☆NA☆SHI☆)に遭わせた者から引き離そうとするのは当然だろう…ひ、独り占めしたいから等という理由で、お前とテスタロッサを止めたのではない///」ナデナデ
「うっ!?…そ……それはそう…だけどぉ……うぅ~~~ッ!!///」
だが、そんなアルフの不満もどこ吹く風、といった具合でリインフォースは表情を変えることなく先程のアルフとフェイトの行い(O☆HA☆NA☆SHI☆)を持ち出して言い返した……相変わらず、ゼンの頭を撫でる手は止まっていないが……
オマケに、リインフォースの言っていることは全く間違っていなかったので、アルフは思わず言葉に詰まった。
事実、アルフも頭の中では、先程のO☆HA☆NA☆SHI☆は少しやり過ぎたかなと反省していたために、その指摘には言い返せなかったのだ。
だが、頭と心は別物で、理解はできても納得はできないのか、悔しそうな唸り声をあげていた。
(…リインフォースの言う通り、やり過ぎちゃったのは事実だし……で、でもそれは元はといえば、ゼンがアタシとフェイトをほったらかしにしてたのがいけないんだし、で、でも…殴っちゃったアタシも悪いわけで……ここで駄々こねても仕方ない…か……よしッ!!ゼンが起きたらさっきのこと謝って、優しくしてあげようッ!!…そ、そうしたら……あ、頭撫でてもらえるかもしれないし///)
しかし、この現状を打破できないと悟ったのか、最後にアルフの至った結論はゼンが目覚めてから構ってもらおうということだった。
なんだかんだ言ってもゼンという少年はアルフにも、フェイトにも、いや可愛いものには甘い所がある、だから寝ている今、無理矢理こっちから構うよりもゼンが起きてから沢山構ってもらおうと考え直した……その対象が複数いるのは恋する乙女のアルフとしては大変、大変気に入らないのだが……
(うん、よしッ!!今はもう少しだけリインフォースにゼンを撫でさせてあげるかッ!!その後でアタシがたっくさん……えへへ~///)
アルフは先に待ちうけるであろう甘い時間に想いを馳せつつ、心を落ち着かせてリインフォースに言葉を返そうと……
「ばっどえんどぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!?」
したところで、わけのわからない絶叫をあげながら、対象、覚醒。
気絶から帰還を果たし、体をバネ仕掛けの人形の如く跳ね起こす。
……しかも……
がばあッ!!
ぶにゅううううう
「きゃあああっ!!?///」
何故か、リインフォースの女性の象徴……
……この時、会議室にいる者達の反応は様々であった。
まず、先程から予想をひっくり返すどころか大気圏外まで撃ち上げられ続けた3人の男女はこれまたイキナリの出来事にまったく反応できなかったようで、ガッチリ硬直している……まるで時間を止められたかの様に。
はやて以下、八神ファミリーは皆(ザフィーラ以外)、先程の微笑ましい表情のまま固まり、ユーノ、なのははこの時点で顔を真っ赤に染めた。
プレシア、リンディ、そしてクロノは巻き込まれないようにか、はたまたこれも日常の一部と受け取っているのか、何事も無かったかのように目の前のお茶に手を伸ばしていた。
そして……
「……」
ゴゴゴゴゴゴ……
目の前でそのふざけ倒した光景を見せられたアルフは、先程までの上機嫌ぶりは大気圏どころか次元の果てまでブッ飛んでいった。
だが、そんなことを知る良しも無いゼンは、更に……
「…?…何じゃこりゃ?」
ぐにゅう
「ひうッ!?///」
自分の顔を埋めていないもう片方の漢の
起きたばかりで頭の覚醒していないゼンにはリインフォースの悲鳴が届いていないのか……
ぐにぐにぐにぐにぐにぐにこねこねこねこねこねこね
「ふあっぁあッ!?///ひゃああああああッ!!?///」
ご丁寧に、鷲掴んだ爆乳を、揉んで、しだいて、こねて、といった3拍子のオプション付きで、これでもかと堪能していた……視線の外にいる修羅に気づきもせずに……
ここで意識がしっかりとしてきたのか、寝ぼけ眼だったゼンの目がハッキリと見開かれ、乳に埋めていた顔を離して、現状の確認を始めた……逆方向にいるアルフには一切気づかなかったが…
そして、正面にいた守護騎士やなのは達の赤く染まった表情を確認したゼンは、何故かとても澄み切った笑顔を浮かべた…「もう、アレよ、やっちまったもんはしょうがねぇぜ?」といった感じの諦めにも似ていたが。
「あ、あの……ぁッ///……ゼ……ゼン?///」
そんな彼に、切なく、それでいて艶を含んだ声で話しかけるのは……
「そ、そんな、に///……んぅッ!///……ハ、ァ///わ、私の………むむ、むッ……『胸』///……を///…ふぁ、っ……揉ま、ないで///」ウルウルウル
これでもかと胸を弄ばれ、頬を赤く上気させたリインフォースであり、声の発信源に顔を向けたゼンはその体勢のまま、とろけた表情のリインフォースと見つめあって動かなくなった。
そんな状況をさめざめと見せつけられたアルフはというと……
(……落ち着け、落ち着くんだアタシ。ゼンは寝ボケてるだけなんだって……直ぐにリインフォースに謝るさ……だから手に集めてる魔力を消すんだ…)
努めて、努めて冷静にグツグツと煮えたぎらんばかりの激情と自分自身を抑えていた。
……実のところ、この時点では、アルフはそこまで怒っていなかったのである。
例え、握り締めた拳が、有り余る力でギリギリと音を立てていようと、ありったけの魔力を纏っていても、歯を食いしばりすぎて奥歯にかなりの負荷がかかろうと、こめかみと綺麗なラインの眉毛がピクピクと痙攣していても、まだそこまでは怒っていなかったのである。
それはひとえに、ゼンは起きたばかりだからあんな行動をとってしまったのだろうと、それなのに怒っては可哀想だろうと、そう理性が訴えかけてきたからである。
それにアルフの中では先程、ゼンが起きたらめいっぱい優しくして、更にさっきのことを謝って、沢山可愛がってもらうという目標ができたばかりだ。
ここで怒って全てを台無しにしては本末転倒である、と考え直したアルフは湧きあがる怒りを抑えつけ、ゼンが正気に戻って、リインフォースに謝るのを待つことにした。
ゼンが誠心誠意、リインフォースに謝罪すればアルフはゼンの行った所業を許すつもりだったのだ……
だというのに……
「お、おっ持ち帰りぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいッ!!!」
コレである。
プッッッッッッッッッッッッッッッッツッッッッッッッッッッッッッッッッン☆
ここでアルフの中の切れてはならない何かが切れた。
それはもう盛大な音を立てて、ブチンッと豪快にブッ千切れたのだ。
そもそもアルフは何かを考えてから行動するタイプの者ではない。
正しく、感情の赴くままに動く、良く言えば天真爛漫、悪く言えば単純なタイプだ。
そんなアルフがブチ切れたのはこのような光景を目の前で見せ付けられれば当然の事で、誰も責めることができない、否、責めない。
元々忍耐力に乏しいアルフがここまで理性を保てたのは、場が場ならアカデミー賞受賞ものだ。
ゆえに……ゼンの調子ブッこきまくりの発言とだらしなく緩みきった顔を見たアルフの右腕が、しなやかに、それでいて力強く、めいっぱい腰の反対側まで捻られていくのは当然の事。
「ひゅえッ!!?///」
そして……リインフォースが普段なら絶対ださないであろう悲鳴を聞いて、さらにだらしない顔を見せたゼンにその矛先が向かうのは自然の摂理。
つま先から足首、足首から膝、膝から腰へと、各関節を同時に加速させ、我慢という戒めから解き放たれた手の平は……音速を超えた。
アルフが放ったのは、この世界において女性のみが使用することを許された技……女性が生まれた時から、既に本能的に会得しているといわれる、シンプルにしてシリアスな威力を誇る
この攻撃を受けた男性は精神的なショックから、その大半が改心するという言い伝えがあるほどの技だ。
原動力は単純明快、しかし単純故に究極。
「なぁぁぁぁにやってんだいアンタはぁぁぁああああああああッ!!!!!」
切ない乙女心とやるせない悲しみと荒れ狂う嫉妬が絶妙な比率で混ざり合うことで生まれる奇跡の体現……そう……
パアァァァァアアアアアアアアンッ!!
「えぶろっしゃあぁぁぁぁああああああああああああああッ!!!?」
『
色々な想いが篭った荒ぶる一撃は物質が音速を超えた事を示す破裂音を発生させ、乙女の怒りを買った哀れな子羊の体を紙切れの如く持ち上げ重力の鎖をブッ千切り、宙に浮いた体を高速回転させる。
ズドンッ!!
「ぼべッ!?」
そして、きりもみ回転しながら、地面に頭から突撃したゼンはなんとも情けない声を出して悶絶する。
後に残ったのは、惚れ惚れするほど綺麗なフォームのまま手の平から煙を立ち昇らせるアルフだけだった。
……その後はすったもんだの末に、愛しい男の腕のなかで幸せいっぱいの笑顔を浮かべるアルフだったのだが……いつの間にか位置が入れ替わり、あまつさえ抱擁されているアルフに今度はリインフォースが嫉妬の炎を燃え上がらせる。
その嫉妬の炎は、何千年もの間、戦場という戦場を戦い、勝利し、生き抜いてきた生粋の猛者であるヴォルケンリッター達を震え上がらせ、主であるはやてを恐怖させるところまで燃えあがった。
そして、今現在、あれほど燃え上がっていた怒りも、悲しみに変わってしまったリインフォースは頭を振りながら気持ちを切り替えようとしていた。
(こんな……嫉妬に狂った顔も…私の中にある醜い思いも……ゼンには気づかれたくない…なんとかして抑え込まないと…)
好いた男には自分のそういった醜い部分は見せたくない…彼の前では綺麗でいたい……フェイトに並ぶ程に純度100%、乙女心フルスロットル状態のリインフォースは先程のハグを見て、悲しみで纏っていた威圧感が消えたのを機にざわめく心を落ち着かせ、平常心を取り戻すことに成功した。
幸いにも、アルフとラヴにコメってるゼンは、リインフォースのオーラに終始気づくことは無かったのだが……それはそれで自分が眼中にないように思えてきて、また悲しくなってくるリインフォースだった……いつの時代も乙女心は複雑怪奇なものである。
ちなみに……
(な、なんや?急にリインフォースから…ダ、ダダダークオーラが消えたんやけど……助かったんか?…はふぅ)
あちらの修羅場?からちょっと離れた場所では、先程クロノから死刑宣告を頂いたはやてが、急にリインフォースが生み出していた暗黒的威圧感が消えたことに混乱し、同時に安堵していた。
(は、はやてッ!!大丈夫ッ!?)
また、傍に控えていたはやての守護騎士であると同時に妹のような存在である鉄槌の騎士ことヴィータはそんなはやての様子に慌てながら念話で話しかけていた。
いかにリインフォースの主といえども、あの威圧感を真正面から浴びれば死は免れない。
主に精神的な面やプレッシャー的な面等のアレやコレが破壊されること間違い無しといったレヴェルのオーラ。
それを真正面から浴びずに済んだはやての心境は、まさに歓喜に打ち震え、生きている喜びを噛み締めつつ、いるかもわからない神に感謝するほどであった。
(う、うん大丈夫や……心配してくれてありがとな、ヴィータ)
自分を心配してくれる可愛い妹分にはやては柔らかく微笑みながら念話を返す。
(な、何言ってんだよッ!?アタシははやての守護騎士なんだから、心配すんのは当たり前だよッ!!///)
照れているのか、上擦った声で返すヴィータの頬は少々赤くなっていた。
はやてはそんなヴィータが微笑ましくて仕方がなかった。
(うん♪ありがと……しっかし、一時はどうなることかと思ったわ~……はぁ…)
(アタシも……正直、さっきのリインフォースには絶対勝てねえし、まず近寄りたくねー……本気でアースラごと吹き飛ぶんじゃねーかと思った…)
そう言って二人は重い、重い溜息を吐いた。
二人の顔には疲労が濃く出ており、先程のダークなリインフォースの威圧感がどれほどのものだったかを物語っていた。
(ま、まぁでも、リインフォースも落ち着いたみたいやし、もう大丈夫や…)
「るあぉッ!?///」
やっとプレッシャーから開放されたはやてが安堵して目を閉じたその時、なにやら間の抜けた声が……いや悲鳴のようなものが会議室に響いた。
目を閉じているはやてにはそれが何なのか直ぐには判断できなかったが……
「お、おいアルふぉうッ!?///」
そのすっとんきょうな悲鳴をあげたのがゼンで……
「…んぅ♡///」ちゅりゅ
次に続くなんとも甘ったれた声が、アルフの声であると判った瞬間、はやては悟った……そう……
(……あかん、あかんで私ッ!!絶対に目を開けたらあかんッ!!)
目を開けたその先に待ち受けるであろう光景は……とびきり厄介なビッグトラブルに違いないと。
はやては下を向いて目を閉じ、絶対に前を見ないよう己に声をかける。
なにしろ、やっとリインフォースのトンデモなく真っ黒なオーラから開放されたばかりなのだ。
自分の心労的にもそろそろ勘弁して欲しいというのがはやての心からの願いだった。
「や、やめるぇッ!?///」
だが、ゼンのどこか力の抜けた声と……
「……れるぅ♡///」ぴちゃ、ちゅる
どこか酔っ払ったようなアルフの甘い声と、後に続く湿り気を帯びた
(見るな見るな見るなッ!!……な、なんの音なんやろ?この水っぽい音は?……あ~ッ!!あかんッ!!激しく、激しく気になるわッ!!……ち、ちょっとだけなら……)
そして、はやては欲望に負けた。
はやては怖いもの見たさと好奇心に突き動かされ、閉じていた瞳をそっと開いていく。
目を開けたその先に待ち受けていた光景は……
「……(フフッ…不思議だ……今なら、神にさえ勝てそうな……そんな気分だ…力が溢れて止まらない)」ニコニコ
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド……
見るんじゃなかった。
それがはやてが真っ先に頭に浮かべたことだった。
はやては失念していたのだ……自分の視線の先にいるのが、ゼンとアルフではないことを……はやての視覚、その正面に飛び込んできたのは……
「………フフッ…フフフッ♪」ニッコニコ♪
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド……
(は、はやてぇッ!!)
(ヴィータぁッ!!)
姉と妹のような存在の二人は、互いの名前を念話で呼びあいながら、どちらからとも無く抱き合う。
はやてとヴィータを震え上がらせたモノ……それは、この会議室の天井まで届かんばかりの……巨大なしゃれこうべ(ガイコツの頭)を従者の如く、背後に従えた、目の笑っていない笑顔を浮かべているリインフォースであった。
おまけにこのしゃれこうべ、カタカタと嗤うかのように、口を上下に忙しなく動かしている。
間違いなく、現実はそんなもの存在していない…余りのオーラの強さにそう見えてしまった…つまりは、はやて達の幻覚……のはずだというのに、まるでそこにあるかのように、しゃれこうべはカタカタと嗤っている……まるで怒っているかのように……
傍に居るシグナムは震える手で待機状態のレヴァンテインを強く握り締め、平和な時に見ていたドラマの影響か、あれほど修羅場を期待していたシャマルは予想以上の大惨事に顔を真っ青にして涙目で震えていた。
皆が恐怖に震える中で、はやては只、願った……どうか、自分の心優しい家族が早く元に戻りますようにと……主に、自分の心労的に。
そしてもうひとつ……
(禅君……これが落ち着いたら……一発、思い切りドつかせてもらうわ……ずぇったいにッ!!)
自分達がこんな状況に陥った元凶に対する制裁を、胸に強く決意した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「……もすも~す?アルフさ~ん?」
「きゅぅ~ん♡///(もう、ずっとこうしていたいよぉ///)」
「……ダメだこりゃあ…」
アルフは今、自分を抱き締めているゼンに身体も心も自分の全てを委ね、その至福の時を心ゆくまで堪能していた。
身体はゼロ距離で密着していてゼンの顔が見れないのは残念だったが、この体勢から離れることはしたくなかったのだ。
……アルフにとって今のゼンという存在は甘美な毒そのものだった。
言葉だけではなく、自身の想い人による力強い抱擁も、自分の頬に添えられた暖かい手も、真っ直ぐに見つめてくる男らしいワイルドさが溢れる瞳も、ゼンの行う行動の一つ一つがアルフをとろけさせていく。
自分が女の子らしくないと思っていた不安すらまさに褒め殺し級の威力を持った数々の言葉という麻薬に侵され消えていった。
更に不安を掻き消すだけでは飽き足らず、トドメとばかりに耳元で甘く囁やいて紡がれる弩級の殺し文句はアルフの身体を、心を痺れさせ、アルフを一つの色に染め上げてしまう。
ゼンの心臓が奏でる激しい鼓動も、自分という存在全てを包み込むようにまわされた逞しい腕も、心を暖かく、そして胸をキュウッと締め付けてくるような気持ちにさせてくれる頭を撫でられるという行為も、アルフ自身の手で感じる、女性とは違う広い背中も、鼻につく逞しい雄を彷彿させる汗の匂いも、ゼンの全てがアルフというメスの本能を惑わし、愛おしいという想いを昂ぶらせる。
そして、その昂ぶった感情の赴くままに、アルフはゼンにマーキングをするように身体をスリスリと擦りつけていた。
「~~~♪///…?…ぁっ」
だが、チラリと視界の端に入ったあるモノ、それが何なのかを認識すると、アルフは不安そうな声を小さく上げてしまう。
「…?どうしたよ、アルフ?」
当然、ほぼゼロ距離にいるゼンがその声に気づかないはずも無く、ゼンはアルフに疑問の声を投げかける。
そのままアルフの言葉を待っていたが……
「……ンよ…」
「…んぁ?なんだって?」
しかし、ゼンの問いに返したアルフの声は、ゼロ距離にいても聞こえるものでは無く、ゼンはアルフに聞き返した。
するとアルフは背中に回した手に少し力を入れて沈黙した後……
「…ゴ、ゴメンよ?……噛んじゃって…い、痛かった…だろ?」
そうゼンに問いかけた。
アルフが見たモノ、それは先程アルフが感情を爆発させた際に噛みついた痕……歯型だった。
あの時、アルフは感情の制御ができずにいたため、力加減を忘れ、思いっ切り噛みついた。
ゼンの首筋に残っている歯型はかなり深く食い込んでおり、クッキリとその痕が刻み込まれていた。
しかもアルフの鋭い犬歯の部分は、肉が裂け、血の痕が滲んでいる。
感情を全部吐き出して落ち着いたアルフは改めてその傷痕を見ると、自責の念が溢れてきた……それと同時に不安も。
さっきは笑って許してくれたけど……やっぱり、怒ってるんじゃないかと不安で堪らなかった。
「あ~……まぁ、別にいいって」
だが、何を言ってるのか理解したゼンが返してきた答えはやはり変わらず、全くアルフを責めてはいなかった。
「で、でも血が…」
「いやまぁその…俺がお前を放ってたのが原因なわけだしな」
アルフのしどろもどろの反論もどこ吹く風といった具合に、ゼンはあくまで自分が悪いと言い張る。
それ自体は嬉しいのだが、自分のせいでゼンが傷を負っているのは事実なのでアルフは申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「……それにだ」
そこで一旦言葉を切ってアルフの頭を撫でていた手を後頭部に添えるように移動した。
頭を撫でるわけじゃなく、グッと引き寄せて逃がさないようにだ。
「親父が教えてくれたことなんだけどよ…曰く『女のいいところだけじゃなく、怒るとか妬くとか、そういった感情も全部ひっくるめて、呑み込んでやれるのがイイ男の条件だ』ってよ……だからまぁ……あんま頻繁には困るけどよ……今度からは爆発する前に俺にぶつけてきな…」
「はぅッ!?///」
この台詞がなんなのか理解すると、アルフは身体に電流が流れたような感覚を味わった。
だが、まだゼンは言い足りないのか、引き寄せたアルフの耳に今まで以上に顔を、いや口を近づける……ゼンの熱い吐息が、アルフの脳を甘く痺れさせ、顔が火照ってくる。
そして……
「お前のそういった感情も全部……俺が呑み込んでやっからよ…」
追加のトドメであった。
「ッッッッッッッッッ!!??///」どっきゅぅううぅんッ!!!
この一言で、アルフの中にあった申し訳なさや不安は全て吹き飛んだ。
心は溢れそうなほどの想いで満たされ、心臓は弾けんばかりに脈動し、息遣いがどんどんと荒く、艶を含んでいく。
(…ば、ばかぁ♡///…どれだけアタシを堕としたら気が済むんだよぅ///……もう…アンタから離れられなくなっちゃうじゃんかぁ♡///もう///この雌ったらしぃ♡///)
心の中でそうゼンを非難するが、実際は全然嫌がっていないのが丸判りであった。
「そ、それにこんぐれぇの傷、『舐めてりゃそのうち治る』って」
ピクッ
その何気ないゼンの一言が、アルフの体を揺らし、頭の中に染み込んでいく。
(……あぁ、そうだよね///…舐めたら治るよね///)
ゼンの言葉を聞いたアルフはゼンの首筋に刻まれた自分の歯型をじっと見ていた。
もはやキャパシティをブッちぎりオーバーする程に甘い言葉をもらったアルフの脳みそは、これでもかととろけきっており、正常な判断など到底つけられる状態ではなかった。
(それに……久遠とかいう雌狐……)
だが嫉妬ゆえか、アルフが思い浮かべたのはゼンのことではなく、未だに顔を合わせていない自分の恋敵のことだった。
会わせてもらうという約束自体はゼンに取り付けたのに、こともあろうに自分に内緒でその雌狐に逢っているのだ。
その度に、幾度と無く制裁を加え、自分一人で探し出そうとしたが、ゼンに邪魔をされて捜索できず、その溜まった鬱憤をゼンに噛みつくことで消化して今日まで過ごしてきた。
何度も、ゼンに逢うたびにその雌狐の匂いを身体に染み付けてくるのだ。
いくら上から体を擦りつけて匂いを上書きしても、次に逢う時には雌狐の匂いしか残っていないのではアルフからすれば溜まったものではなかった。
(いつもいつも…ゼンに嫌な匂いつけやがって……いいさ…ソッチがその気なら…)
「…お~い?アルフ~?」
何も返事が無いのが気になったのか、ゼンがアルフに声を掛けるが、熟考しているアルフには届かなかった。
そして……
(もう……上書きできないように……)
アルフは自分のつけた歯型に……
(アタシの匂いを……たぁっぷりと染み込ませてやる…)
「……ん♡///」れるぅ
「るあぉッ!?///」
自らの唾液で妖しく濡れた…『舌』を傷に丹念に這わせた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
な、なんだなんだッ!?今のヌメッとした感触はぁッ!?
アルフがさっき噛んできた時にできた傷のことを謝ってきて…またもや歯が浮くような台詞をカマしたらなんかアルフが黙っちまったなぁとか思ってたら…なんか熱くて、それでいてザラザラした感触のモンが俺の首筋を這い周りだしたんですけどッ!?
こ、こここれってもしかしなくても……
「お、おいアルふぉうッ!?///」
俺が声を掛けている間にも、そのヌメッとした何かは、俺の首筋を動きまわっている。
ちょっ!?背筋がゾクゾクしてくるッ!!
「…んぅ♡///」ちゅりゅ
しかもそれに続くように、アルフの口からなにやらすんごく艶かしい声が出てる……あぁ、やっぱりな。
どう考えてもアルフさんの『舌』ですね。本当にありがとうございます。
しかしそんな風に現実逃避しても、アルフの舌は止まるどころか更に苛烈さを増してくる。
レロレロレロレロレロレロレロレロレロ
「や、やめるぇッ!?///」
おいいいいいいいッ!!?そんな舌で歯型の上をなぞるように往復するなああああああああああああッ!!?
おかしいよねッ!?なんで俺アルフにペロペロされてんのッ!?何この超展開ッ!?
「……れるぅ♡///」ぴちゃ、ちゅる
這い回る舌は、淫猥な水音を立てながら俺の首筋を濡らしていく。
って今度は先っちょでクリクリすんじゃねええええええええッ!!?
とても気持ちいいけど頼むから止めてくれませんッ!!?こんなとこフェイトに見られ……
プシュー
「す、すいません。今戻りま……し……た……」
扉の開く音と共に、会議室に響く愛しのソプラノボイス。
同時に、会議室を覆う絶対零度の空気……
……ゴッドよ…この世界に生まれて初めて……アナタに祈ります…………ボスケテ……
もしくはいずれどうしようもないゴッドキャットでもいいからッ!!なんとかしてちょッ!!
『ちょっwwwwwむwwりwwぶふぅっwwww』
……ゴッド…いつか俺がアンタの御許に逝ったときは覚えとけよコラ……
『ニャン・トゥ・マン・ディフェンス♪』
……何が、何から、何をッ!!?
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第24話~何してんだろ俺ぇ…