◆ 第37話 フェレットと執務官とぬこ ◆
僕、ユーノ・スクライアは本局に到着すると同時に、人間に捕らえられたグレイみたく両脇を抱えられて、此処 無限書庫へと引きづられてきた。
どこでまで来ても扱いが酷いなぁ、僕。まあ、いいけど。
ともかく、与えられた仕事はきちんとやらないとね。
クロノからの指示を聞かされ、資料を収集し始めていたんだけど……。
目の前に広がる本、本、本本本本本本本本本本本本本本本本本本本本――!
いや、話には聞いていたけどこれはヒドイ……。
まぁ、現時点で管理局が把握できている世界だけでも100を優に超えているのだから仕方ないのかもしれないけど、もっと整理されててもいいんじゃないかと思うのは僕だけなんだろうか?
目録すらまともに更新されてないのはどういうことなのさ。8年前のだよ、これ。
人員不足は分かるんだけど、せっかくの資料を積んで放置しっぱなしっていうのはいかがなものか……とか、クロノに言ったら僕に矛先が向くんだろうなぁ。
「ほぅ、なら君が整理してくれるのか? それはありがたい。それなら僕も遠慮なくこき使えるしな」とか言ってくるに違いない。
ただでさえ、さっきから司書長のおばさんの眼が獲物を狙うかのようにギラついてて怖いっていうのに……。
いや、これは司書長さんが「手伝いましょうか?」って言ってくれたときに「検索魔法とか得意なんで大丈夫です」なんて気楽に言った僕も悪いんだろうけど……
それで実際に手際よく資料を探し当ててる僕を見たせいで、司書長さんの関心はさらに加速したんだろうね。
ま、とりあえず今回のジュエルシードの資料と例の資料の収集もできたことだし、一旦クロノのところに報告に行かなきゃ。
「スクライア君っ。お茶でも飲んで一息入れませんか!」
「あはは、こちらは終わったので先にクロノ執務官に報告に行ってきますねー」
そのハイライトの消えた目で見詰めないでください、夢に出てきそうです。
「そんな事言わずにっ。私のとっておきのお茶請けも出しますからっ、ネ?
(はぁ、はぁ……! せっかくの優良物件よ……逃がさない、逃がさない、逃ガサナイ逃ガサナイ逃ガサ―――!)」
「ひっ……ぼ、僕、急ぎますのでッ!」
あまりの暗黒闘気に司書長さんから逃げるように無限書庫から出て行った。
あのままお茶をしていたら、なし崩し的にここの司書長とかにされててもおかしくない……できるだけ近づかないようにしよう。そう、心に固く誓う僕だった。
しかし、この時の僕は重大な勘違いをしていたことに気が付いていなかった。
この時に気がついていれば、きっとあんな事には……いや、もう遅いか。
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「腐、フフフ、せっかくセラスちゃんからもらったお薬なのに失敗しちゃったわ。 何がいけなかったのかしらね?」
「司書ちょー、鼻息を荒立ててそんな眼をして近寄っていったら、誰だって逃げると思いまーす。私だってそうする」
「あら、失礼しちゃうわねっ。あんなに可愛い子が一緒にいるだけで私の仕事の能率は倍プッシュよ?
ユーノきゅんの短パン、ハァハァハァ(*´Д`)」
「はいはい、司書ちょーの性癖はどーでもいいですから、ちゃんと手を動かしましょーね?」
「あら、手を出してもいいのかしら?それならそうと言ってくれれば……あ、大丈夫よ。スクライア君はちゃんと皆でワケワケしましょうね?」
「………(スクライアくん逃げてー超逃げてー)」
僕は今、自分の執務室で、PT事件に関しての資料をまとめている。
ユーノたちを迎えている途中で突然のバックアタックをくらい気絶した僕は、何故かエイミィに膝枕されてる状況で先ほど目を覚ました……本局の廊下のど真ん中で。
エイミィの話によるといろんな人に見られたらしい。母さんとか三人娘とかレティ提督とか……欝だ。
母さんなんて「あらあら、若い子達の邪魔をしちゃ悪いわねー」とか言って仕事を押し付け、レティ提督とスイーツ(激甘)を食べに行ったらしい。働いてください。
そして、エイミィもそこに合流しに行くらしく、すでにここにはいない。
執務官ですが、補佐官と艦長が働いてくれません。労訴を起こしてもいいだろうか。
くっ、このままではストレスのあまり胃に穴が開いてしまう……!
何かいいストレスの解消法はないものかと考えているその時。
キョロキョロしながら部屋に入ってきた獲物(いんじゅう)が一匹。
「っと、いたいた。探したよ」
「ん? あぁ、なんだフェレットもどきか……終わったのか?」
「あぁ、さっきね……ってぇ! だ、誰がフェレットもどきだよッ!?」
「? おかしなことを言う奴だなぁ。ここには僕と君しかいない。明白だろ?」
「……フフフ、どうやら君とは一度なのは式でOHANASHIしないといけないようだな!」
青筋を立て始めるユーノだが、君は今失言をしたぞ。
「遠慮しておく。あぁ、それと今の発言については本人に伝えておくから」
「ちょ、おまっ!」
「冗談だ」
「ぐ、ぐぬぬぬ……っ」
はぁ、スッとした。
ストレスの溜めすぎは体に良くないからな。
いや、思わぬところで役に立つなこのフェレットもどき。
とはいえ、こんなことをずっと続けるわけにもいかない。
さっさと本題に入ろう。
「ま、とりあえず報告を聞こうか?」
「く、覚えてろよ……」
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「ふむ、つまりジュエルシードが生み出された世界において、本来ジュエルシードは本当に願いを叶える力を持っていたわけか」
「うん。でも、実際はなんでも叶うというわけではなくて、生物へ害を与えるような願いというものには制限が掛けられていたらしいんだ。さすがにそれらの術式の詳しいことまで解らなかったけど」
「ん? それは可笑しくないか? 君たちの報告や実際にジュエルシードの確保を行ったときには、起動したジュエルシードによって攻撃を加えられたじゃないか」
「うん、そうだね。でも、一回だけ例外があったんだ。いや、例外というよりは、こっちの方が正しい作用だったんだけど」
「例外……? ……あぁ、アイツが魔法が使えるようになった時のか」
なのはの友人の家で発動した時に巻き込まれたんだったか。
確かに猫が巨大化したというだけで、これといった被害はなかったはず。
「そう、あの時の子猫の願いはおそらくだけど正常に叶えられてた。厳密に言えばみぃの願いも。暴走なんてすることもなく、ね」
「……では、なぜ他のジュエルシードはその制限があったにも拘らず暴走なんてしたんだ」
「それがジュエルシードを作った文明が滅んだ理由だったらしいんだ。
これは発掘時の遺跡から読み取れた情報と無限書庫にあった歴史資料から分かったんだけど、どうやら当時の違法研究者らの暴走で一部を除きほとんどのジュエルシードの制限が取り払われたみたい。
あれだけのエネルギーを持つジュエルシードの暴走だからね、その世界はボロボロになっていった。
後に全てのジュエルシードを遺跡に封印処理を施したんしたんだけど結局どうにもならなくて、その世界は滅んでしまった……ということらしいね」
「……再度、制限をつけるだけの余裕もなかったというわけか」
ふむ、それだけの力を持つロストロギアが引き起こした事件にしては被害は少なかった、といった所か。
被害を最小限に抑えることに貢献したということにすれば、酌量の余地も生まれそうだな。
それにしても、聞く限りでは相当な魔法技術を持った文明だったんだな……それ故に滅んだとも言えるが。
「とりあえずこんなところかな」
「あぁ、助かったよ。それにしてもずいぶんと早かったな? 普通無限書庫での捜索はチームを組んで年単位でやるんだぞ?」
「ま、まぁ、検索魔法とか得意だったしね……。というか、司書さん達の目が怖かったら急いで終わらせたんだ」
「……ソ、ソウカ、大変ダッタナ」
「? 何で片言?」
こいつ、気付いてないのか……!?
いや、年齢を考えれば仕方ないのかもしれんが……
ん? 待て、こいつがあそこで働けば僕の貞操は守られるんじゃないのか?
軽くシュミレートしてみよう。
ユーノが司書になる→職員たち歓喜→仕事を頼める→淫獣の貞操消失→仕事が充実→彼女ができる
完璧だ!
さて、まずはこいつを無限書庫で働きたくなるように仕向けなくては。
「いや、彼女たちも悪気はないんだ許してやってくれ。重要な仕事なんだが、人手不足で大変なんだ。
そりゃあ、馬鹿みたいに仕事の量は多いし、有給どころか時間単位での休暇すらまともに取れない。
さらに残業しても仕事はなくならないし、娯楽はないし、徹夜だって四日や五日は当たり前。いくつか仕事の依頼が重なれば、もはや阿鼻叫喚の生き地獄。
気が付けば職員の大半が辞めてるし、自分が辞めようとしたら目の前で辞表を破かれる。
代わりに手当てとしてお金だけはかなりもらえるけど使う暇なんてまったくない。ちなみに福祉は充実してるぞ、労災の申請は降りないが。
後は主食が栄養ドリンクになるし、痩せるというよりやつれるし、気が付けばさらに本が増えてる。以下、無限ループ。
とまぁ、地球で言うところのブラックでアットホーム(笑)な企業みたいな仕事だから仕方ないのかもしれないがな」
「 う わ ぁ 」
「そこで、だ。君もあそこで働いてみないか?」
「遠回しに僕に死ねって言いたいのかッ!?」
「何を馬鹿なことを。君の能力を高く評価してるんだぞ、僕は。だからこんなに無限書庫がすばらしい職場であるとアピールしてるんじゃないか」
「どこにそんな要素があったの!? 僕は嫌だからね、絶対にそんな所じゃ働かないからな!!」
「フリか」
「違う!」
くそっ、ダメか。何がいけなかったんだ。僕の作戦は完璧だったはずなんだが……。
何か違う作戦を考えなくては―――
ピピッ
ん? メールが……
ほぉ……渡りに舟だな(ニヤリ
「……どうしたのさ、いきなりニヤニヤして」
「いや、今艦長からメールが来てな。艦長の友人で人事関係の仕事をしている人がいてな、その人から無限書庫での人員についての相談を受けたそうだ」
「ま、まさか……」
「おめでとう。君は艦長の推薦によりここにいる間は無限書庫で働いてもらうことになった。いやー艦長直々に推薦だなんてすごいなーあこがれちゃうなー」
「嘘つけぇッ!? 棒読みじゃないかッ!?」
「ここに居れるのは確か3日程だったか? 残念だな、僕としては永久就職してくれても構わないのに」
「永久就職の使い方間違ってるだろ!?」
「いや、ある意味正しいだろ」
「意味分かんないよッ!?と、とにかく僕は帰るからっ!! みぃにはよろしく言っておいてくれ!!」
「安心しろ。もう迎えは来ている」
「へっ?」
「失礼します」
ユーノは慌てて出口に向かおうとしてたが、先にドアが開き、司書長が中へと入ってくる。
「どうも、さっき振りですね、スクライア君?」
「あ、あ、あ……」
「なんだ、感動のあまり声も出せないのか? あぁ、司書長。僕のことは気にせず彼を連れて行ってくれていいよ」
「そうですか? では、お言葉に甘えましてお連れさせていただきます。あぁ、執務官も遠慮せずにこちらに来てもらっても構いませんからね?
職員一同で歓迎しますわ(そうすれば美少年同士の絡みが……ハッ!?いけない鼻から赤い母性が…)」
思いっきり、顔に考えている事が出ている。
背中に伝う冷や汗を感じながら、表面上はにこやかに断る。
「いや、お構いなく。まだ仕事が残っているんだろう?」
「あ、そうでした! それじゃあ失礼しますねっ。ほら、行きますよ」
(さらばだ淫獣。骨は拾わないが、安心しろ)
(い、嫌だ、行きたくない~~~っ!!)
ふぅ、いい仕事をした。
さて、裁判の資料作りに戻るとしよう。
……どこかでぬこと同じく残念なことになってる奴がいる気がする。
まぁ、どうでもいいか。どうせユーノかクロノだろう。
「おや、何を呆けているんだい? 薬が足りなかったのなら今度はこっちの……」
(いや、なんでもないです! そんなショッキングピンクなお薬よりも説明の方をお願いします!!)
「む、そうか。なら、早速始めるとしよう」
セラスさんの取り出した薬をさらりとスルーし、説明をしてもらうことに。
ちなみに前回から何があったかは訊いてはいけないよ? ぬことの約束です。
で、前回の簡易検査の時みたく要約してしまうと以下の通りである。
・どうやらぬこはジュエルシードの影響を受けていて、一部その性質を継承した可能性があること。
・魔法生命体となっている。アルフさんみたいな、使い魔と同じような生態構成になってるらしい。
・また精神リンクはあるにはあるが、使い魔として契約したわけじゃないのでかなり微弱なものである。
・魔力量は上昇してない etc
(ジュエルシードの性質の継承とか、明らかにぬこのパワーアップフラグじゃないですか!ついにぬこの時代の到来っ! これで勝つる!!)
「さて、それはどうだろうか。先ほどクロノ執務官からジュエルシードに関する資料の報告が来たんだが、どうやら攻撃魔法に関しては制限が掛かってるみたいだし、魔力量も特に増えてない事から考えると少々疑わざるを得ないね……」
(ぐふっ、だったらダメじゃないですかぁ。ホントに何か継承してるんですか?)
「ふむん、そうだね……それじゃあ最近何か突然できるようになったことがあったり、不思議なことが起こったりとかしてないかい?」
そのときふしぎな事が起こった! みたいな感じですかね。
果たしてそんな事があっただろうか。
(そんなことは……あ、最近というか、二ヶ月ぐらい前なんですけども、何故か使えなかった結界の類の魔法が急に使えるようになったって事はありましたけど、これって何か関係あります?)
「……使えるようになる少し前に、結界魔法が使えればいいのにと思ったかい?」
(んーと……まぁ、思いはしましたけど)
でも、そこまで強く思った覚えはないです。
使えなきゃならないほど、切羽詰ってたわけでもないですし。
「どうやらそれが正解みたいだね」
(んあ?)
「さっきの執務官からの報告に書いてあったんだが、どうやらジュエルシードには本当に願いを叶える力があったみたいでね。
おそらく君のその願いに反応した結果、結界魔法が使えるようになったんじゃないかな?」
(……キ、キタァーッ!! 今度こそぬこ強化フラグでメシウマ状態!!)
「ま、だからと言ってそんな力がポンポンと使えるわけでもなさそうだけどね」
(へっ? そうなんですか?)
「そもそも君の魔力を基にして願いが叶えられているのだから、限界はあるだろうさ。さっきも言ったけど魔力量も増えてないし、報告を見る限り、攻撃魔法に関しては制限がつけられようるようだ。
それになにより君のご主人がいる限り滅多なことはできないだろうしね」
(……デスヨネー)
所詮、ぬこはこのような役回りなんです……えぇ、分かっていましたとも。
「まぁ、魔力量に関してはなのは君から供給を受けることもできるんだけどね」
(どちらにしろご主人の了解がいるんですね、分かります)
まぁ、こんな能力があっても使うことなんて特に思い浮かばないからいいんですけどね。
はぁ、やっぱり地道に頑張るしかないのか。 たまには厨な夢を見させてくれてもいいじゃない。
一度でいいから、ぬこTUEEEEE!! とかやってみたいんですよ。
まあ、制限されてるといっても、早々攻撃魔法なんていりませんからね、ぬこは。
攻撃に関してはご主人がぬこの分を補って余りあるくらいですし。
それはさておき、ぬこの予定は終わったわけですが、ユーノの方の調べ物はどうなったんですかね?
フェイト嬢のことは勿論だけど、はやて嬢たちのためにも、何か有益な情報でも出て来てればいいんだけど。
その当の本人が貞操の危機に陥ってるとは思いもしないぬこは、のんびりとセラスさんとお茶を楽しむのであった。
◆ あとがき ◆
読了感謝です。
ジュエルシード関連の話は言わずもがな、捏造、独自設定です。
あと、ユーノの貞操に関しては……うん。良心的な職員に頑張ってもらうしかない。
本局でのお話はもう一話だけ続くんじゃよ。
誤字脱字などありましたら、ご報告をお願いします。
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