◆ 第38話 本局生活2日目 ◆
一夜明け、舞台はまだ管理局である。
いや、ユーノもPT事件の資料作りが終わったみたいだし帰れるかなー? とか思ってたんですけどね。
なにやらユーノが例の無限書庫に臨時職員として放り込まれたらしいので、結局3日いっぱいこっちにいる事になったのだ。
3日もご主人分が補充できないとか、間接的にとはいえ兵糧攻めだろ、これ……
あぁ、ユーノほっといて帰れないんだろうか。実際、ぬこ関係ないよね?
とまぁ、そんな訳で妙に暇になったぬこはというと、クロノの執務室でゴロゴロしてるのである。
ごろごろ。ごろごろ。
あ、これは新品のクッション。爪立ててやれ。
「おい、やめろ。そんなに暇ならどこか散歩にでも行って来い。こっちはそれこそユーノの手を借りたいほど忙しいんだ」
(で? あ、言っておくけど猫の手も借りたいほど忙しいとか上手い事言ってもぬこは手伝わないから)
「元から期待してない」
(さいで)
などとクロノがグチグチと文句を言ってるのを無視していると、入り口の扉が開いた。
そこから顔を出したのはお馴染みセラスさんでござい。
「失礼するよ。ちょっと猫くんを借りてもいいかな?」
(む、セラスさん? 何かご用でも?)
「あぁ、君が頼んでいた例の物の試作品が出来たらしくてね、呼びに来たんだ」
(出来たんですか! 行きます行きます!)
もうできたのか、早い!
ゴロゴロと寝転がっていたソファーから飛び降りて、セラスさんの下に。
「? おい、例の物とは何のことだ?」
(それは秘密)
「なぜなら」
「(その方がカッコいいから!)」
「何で揃って言うんだ!?」
「(その方が……―――)」
「それはもういいッ!」
もういいから出てってくれ!そう言われてセラスさんと一緒につまみ出された。
短気だなぁ……カルシウム不足ですか? だから、背も伸びないんですよ。あとで煮干を奢ってやりましょう。
この当たりの気遣いが人気の秘訣なのです。
ま、とりあえず試作品とやらを見に行きますかね。
◆
セラスさんの部屋に到着すると、そこにはメガネの女の子がいらっしゃいました。
たぶんエイミィさんと同じぐらいの年頃じゃなかろうか?
「初めまして! 私、マリエル・アテンザって言います。よろしくね、みぃ君」
(はい、よろしくお願いしますね、マリエルさん)
「あ、マリーでいいよ?皆そう呼ぶから」
(了解です、マリーさん)
ところで、ぬこがこのマリーさんに何を頼んでいたのかと言いますと、お母様たちにご主人が魔法の事を教えるときに備えて、ぬこの念話がお母様達には聞こえないから簡易デバイスを作ってもらって念話を音声に変換してお話しできるようにお願いしたのです!
こんな事もあろうかとぉ!とか言ってご主人を吃驚させるのが狙いだったりします。
このカミングアウトもそう遠くない内にやる事になるんじゃないかと思う。
でも、よく考えてみるとお母様はぬこの念話すらなくても意思疎通できる件。
まぁ、いいか。美由希さんとかアリサ嬢、すずか嬢とかは必要だもんね。恭也さん達? 男は別にいいや。
「はい、これがそのデバイスだよ」
(おぉ!)
マリーさんが持って来てくれた箱には、赤い宝石のようなコアが取り付けられた白い腕輪が鎮座している。
この赤いのはご主人のレイジングハートとおそろいだな!
「一応首輪とかしないってセラスさんから聞いてたから、足に装着できるようにしておいたんだけど、どうかな?」
(……しかし、ぬこの手じゃ自分で着脱不可な件について)
「あ、そう言えばそうだね……」
頑張ればできないこともないんでしょうけど、少々厳しいです。
「まぁ、今回は試作品なんだし次に加えればいいさ。とりあえず私が付けてあげよう」
(ありがとうございますー)
前足を差し出して着けてもらう。
ふむ、重くもないし、動いても邪魔にならない、と。着け心地も悪くないですな。
「よし、それじゃ起動してみてね」
(はいって……どうするんです? やっぱりセットアップとか言うんですか?)
「ん? 別にそんな事はないけど、設定すればできるよ。音声入力にしようか?」
(んー手間になるようなら別にいいんですけど……)
なんか憧れないですか? こう、前口上とか。ご主人も最初の頃とか言ってましたよね。
憎悪の空より来たりて! 正しき怒りを胸に……! 我等は魔を立つ剣を取る!! みたいな。
ちなみにぬこはロリコンじゃない。
「大丈夫だよ、そんなに難しいわけじゃないし」
「せっかくだから『ごしゅじーんッ!! 好きだぁぁぁぁぁ!! 大好きだぁぁぁぁ!!!』とか恥ずかしい事を機動キーにしてみようか」
「やめてください死んでしまいます」
主に羞恥心的な意味で。
セラスさんも舌打ちしないでください。
大体、そんな事叫ぶぐらいだったらぬこは死を選ぶよ!
そのセリフ自体に偽りはないけども! 全くの本音だけど!! 恥ずかしすぎるでしょうッ!?
そもそも、起動の度にそんな事言ってたらぬこの命がいくつあっても足りないですッ!!
シスコンと親バカ的な意味でね。
そして自分がそれを言ったところを想像して悶絶しているぬこは、後ろでコソコソ相談している二人を見逃してしまったのである。
まぁ、聞いてた所であの悲劇は避けられなかったんでしょうけどね……。
「こっそりと設定しておきましょうか?」
「さすがだね、よく分かっているじゃないか」
「それほどでもありません」
・
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ともあれ、落ち着きを取り戻したところで仕切り直しです。
「さ、それじゃあやってみようか?起動しろって、念じれば起動するはずだよ」
(じゃあ気を取り直していきまーす)
念じると言ってもよく分かんないので、起動しろ~起動しろ~と頭の中で言ってみる。
すると、装着したデバイスのコアが光り始めた。
「うん、とりあえず起動は成功っと。それじゃあ念話の要領で私達に話してみて」
「―――っと、聞こえますかーって、おぉッ! 括弧が変わった!」
「便利だね……こういうときの表現は」
「メタなこと言っちゃダメですよ?二人とも」
申し訳ないです。
いや、でも自分の声をこうやって耳で聞くのはこの姿になってから初めてかも分からんですよ。
「どう? 違和感とかないかな?」
「こっちは普段の君の念話と同じ声で聞こえているんだが」
「大丈夫みたいです。違和感とかもないですよ」
これなら問題なくお話できそうですな。
まぁ、それこそうちの家族とか魔法関係者の前ぐらいでしかしゃべれないけども。
「ふむ、とりあえず完成みたいだね」
「そうですねー。あとは、例の音声入力と着脱の件……だけでいいのかな?」
「はい」
「ホントに? それだけでいいの?」
「は?」
突然何を言い出すんですか? マリーさん。
その期待するような目は一体なんですか。
「他にも何か付けないッ?! 個人的にはね? みぃ君もミッドのバリアジャケットとか、ベルカ式の騎士甲冑って言うのを着けたらカッコいいと思うんだけど。あ、他にリクエストとかあれば何でも言ってくれてもいいよー」
「ふむ、ならばしっぽからミサイルを……」
「ちょっとぉぉぉ!? マリーさんはともかくセラスさん!? まだそれ諦めてなかったの!?」
「え、ダメなのかい? カッコいいと思うんだが……アテンザ君はどう思う?」
「私はミサイルよりもドリルかなぁ?」
「この人も若干マッドだったッ!?」
などと、バカな事をのたまいだす二人をなだめるぬこなのであった。
◆
マリーさんが再びぬこのデバイスの調整に戻ったので、セラスさんとお茶をしています。
むむ、本局のミルクもいいのを使ってるなぁ……。そういえば、こっちにも普通に牛とかいるんだろうか?
ユーノの話を聞くと場所によってはドラゴンとかいるらしい……実にふぁんたじぃ。
どんな生態系なんでしょうね? 区分としては爬虫類でいいのかしら。
ともすれば、このミルクも牛のじゃなかったりするんだろうか…そう考えると若干飲むのが怖くなってくるな。
「っと、そうだ。猫くん、もうフェイト君達には会ったかな?」
(えっ、会えるんですか?)
ぬこがバカな事を考えていると、セラスさんがそんな事を言ってきた。
あれ? 今裁判中なんじゃなかったっけ?
「裁判中だからと言って自由な時間がないわけじゃないさ。君の所に送られてきたビデオメールでも、まぁ局内なんだが、いろんな所で撮られていたろう?」
(そういえばそうでしたね……でも、ぬこが会ってもいいんですか?)
「問題ないよ。案内しようか?」
(是非に!)
さすがにビデオメールだと念話が伝わらないからねー。
前のメールだとご主人に通訳してもらってたんですよね。あれは申し訳なかった……。
ともあれ、ぬこはセラスさんに連れられフェイト嬢の部屋に移動する事になるのであった。
・
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・
・
という事でやって来ました、フェイト嬢たちのお部屋。
セラスさんは空気を読んで、すでにここにはいなかったりします。
さて、心の準備もできた事ですし、行きますか……!
(こんにちはー。高町家からぬこのデリバリーですよー)
言うや否や、中からガタガタと物音が……。
「あぅ! 痛いぃ…」とか「だ、大丈夫かい、フェイト…」とか聞こえるんだが、何が起こったし。
「はぁ、はぁ、ひ、久しぶりだね!」
(あの、大丈夫ですか…?)
アルフさんに頭をさすられながら出てきたのは、涙目のフェイト嬢でした。
可愛……げふんっ、痛ましいお姿ですね、はい。
(どうも、お久しぶりですー)
「う、うん!」
元気よくお返事をしてくれるフェイト嬢なのですが、どこか落ち着かない様子であたりをキョロキョロと挙動不審でございます。
はて、どうしたんでしょうね。
「久しぶりだね。なのはたちはどうしたんだい?」
(あぁ、だからさっきからフェイト嬢は挙動不審なんですね)
「ち、違うよ……?」
(でも、残念ながらご主人は今回はこっちに来てなかったりしてるんですよねぇ)
「そっか……」
あらあら、見るからに落ち込んでしまいましたよ、この子。
ううむ、ぬこだけで申し訳ないです。
ご主人も本当はこっちに顔を出したいって言ってたんですけどね。
さすがにPT事件の時に休んでた塾をまた休むわけには行かなかったのである。
成績も下がっちゃったしね。
(ちなみにユーノも無限書庫で缶詰です)
「ん? 何でまたあんなとこに?」
(さぁ? 何かクロノとかが手を回して押し込んだとか聞きましたけど)
「クロノ……」
まぁ、闇の書とか調べる時間が増えたから別にいいんでないかと。
ぬこがやるわけじゃないから他人事です。
まぁ、そんなこんなで近況などを話していくぬことフェイト嬢たち。
いやー、ビデオで知ってはいたけど元気そうで何よりです。
(へぇー、思ったより早く終わりそうなんですか)
「あぁ、クロノの話によるとたぶんあと2ヶ月かそこらで終わるんじゃないかって話だよ」
(そうなんですかぁ。2ヶ月……となると10月ですかぁ、2学期は始まっちゃってますね)
「……? 2学期って?」
(ご主人達の学校の事ですよー。まぁ、始まってからでも編入は出来ますけど)
「え、えっ? で、でもっ、私ッ!」
「いいじゃないか、フェイトっ! なのはと一緒に学校にいけるんだろう?」
(ウチのご主人も大喜びしそうですしねー)
そう言うと、フェイト嬢は二人で登校するところでも想像したのか顔が緩んでいます。
二人して、めっちゃニコニコしながら学校に通いそうだな。
やばい、お母様にビデオカメラの準備を頼まねば!
永久保存だろ、勿論ブルーレイで高画質で。
「ま、その辺りはリンディ提督に訊いてみてからだね」
「あ……うん。そうだね」
(? どうかしたんですか?)
「あぁ、今回の事件でフェイトが天涯孤独になっちまったろう? だからリンディさんがさ「私の家族にならない?」って言ってくれたんだよ」
ふむ、それは喜ばしいことですな。
まぁ、プレシア女史の事もあるし、返事は保留中みたいですけども。
これは本人の気持ちの問題ですからね、ぬこが口を出せるようなことじゃないですね。
「……でも、私なんかが」
(その『私なんか』っていうのはダメですよ?)
「え?」
前言撤回。
前から若干ネガティブがちだったけど、これは見過ごせない。
ちょっと口を出させてもらおう。
(それはフェイト嬢の事を大事に思ってるいろんな人の事を侮辱してますよ? アルフさんやリンディさん、ご主人にプレシア女史の事だって)
「………」
(フェイト嬢だからリンディさんだって養子縁組のことを言ってくれたんだし、ご主人だってお友達になろうって言ってくれたんですよ?)
「そう、だね。ごめんなさい……」
(いやいや、ぬこも偉そうな事言ってごめんなさいです)
なんだ、このSEKKYOUは……?
ぬこのキャラじゃぬぇ。フェイト嬢の前じゃなかったら、ゴロゴロとのた打ち回るレベル。
フェイト嬢と二人で暗い雰囲気を醸し出していたら、空気に耐えられなくなったアルフさんが強引に話題を変えてきた。
かなり無茶な変え方だけど、正直助かりました。
「そ、それよりっ! あんたはいつまでこっちに居るんだい?」
(えっと、たぶん明日あたりには帰る事になるんじゃないかと)
「そっか……せっかく、会えたのに残念だね」
ただし、少なくともぬこはと言う注釈が付くかもですが。
ユーノって解放されるんですかね? 慢性的な人材不足だって聞いますし、なにより無限書庫の職員と思しき人がセラスさんから怪しげな薬をもらってたんだけど……
ま、まぁ、ユーノに投与されると決まったわけでじゃないから、大丈夫だよね、きっと……めいびー。
「大丈夫かい?なんか顔色が悪くなった気がするんだけど……」
(いや、なんでもないですよ? ぬこは)
『……?』
(ま、まぁ、ともかく! あんまり此処にお邪魔してるのもアレなんで、ぬこはそろそろお暇しますね。今日はお二人と会えてよかったですよ)
「うん、私も会えて嬉しかったよ。あの、なのはに……その……」
(はい、フェイト嬢が元気でしたってちゃんと伝えておきますね)
「あ、うんっ。お願いね」
「私もよろしく言っておいてくれよ」
(了解です。今度はご主人と一緒に会えればいいですね)
「うんっ」
そう言って二人の部屋から出たのであった。
さて、今度会うときまでにはやて嬢の件が解決するといいんですけどねぇ。
そうすれば、八神家の皆さんも一緒に紹介できるし。というか、ユーノの報告によっては下手をしたらアースラ組に協力を要請する必要もあるかもだけど……ま、それは帰ってからの報告会で皆で考えますかね。
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