「伯珪殿さえよろしければ、この北郷一刀この身を持ってしてあなた様が天下無敵になる手伝いをさせていただきます」
玉座の間にて公孫伯珪様を前にした俺は告げる。隣には既に仕官の決まった元直がいて、周りには趙雲、田豫、他に数人の文官らしき人と護衛の兵士がいるだけだ。
「いや、別に私天下無敵とかめざしてないんだけどな」
「・・・・・えー」
俺が自分の道を決めるため踏み出した一歩が容赦なく払いのけられた。
「で、でも昨日はいいって言ってくれたじゃないですか!」
「き、昨日の夜の話はするな!!あれは全て忘れろ!!」
「ふむ、伯珪殿と昨夜はさぞ色々あったのであろうな、男と女が一夜を共にすればできる絆も深いというものだ。
覚えておくといい、国譲殿」
「は、はい」
ちょ、趙雲さん田豫ちゃんに変なこと教えるなよ。そういうのを教えるのは俺の役目のはずだ。
教え子とのいけない関係とか想像するだけで興奮する。
「せ、星!茶化すな!と、とにかくせいぜい私ごときは太守で既にいっぱいいっぱいだ」
「伯珪様、昨日は『こっちは新しい部下のろいおんだ、じゃあ警備よろいくにゃ』とか言ってたのに・・・
語尾に『にゃ』ってのは定番ではありますが、定番だからこそ必須、確実だと思いますよ」
「よし、国譲、処刑場の準備を頼む。子龍は処刑具の準備を。私自ら手を下そう」
伯珪様が田豫と趙雲に命を下し、玉座から立ち上げる。
やばい。あれは本気の目だ。オーラに真っ赤な怒りの色が見える。
「え、えっと、あのそれはさすがに北郷さんがかわいそうなのでは」
「まぁ主の命令では仕方ない、北郷殿すまぬな」
っく、心配してくれる田豫ちゃんは嬉しいが趙雲はあきらか面白がっている。さすがに処刑はしないと思っているのであろう。
だがなんとかしないとやばい。俺の命的な意味でやばい。
「は、伯珪様!昨日の事は全て忘れました。無礼な態度をとってしまい申し訳ございません。
ですが伯珪様に仕える件は認めてもらえればと思います。
伯珪様は既に幽州に置いて善政を務められております。ですが大陸を見ると悪官が政治を行い、賊がはびこり民の生活は脅かされる
一方です。微才ながら政治については智を持って行うことができます。その理由も別に田豫ちゃんが可愛いからだとか、
酔うと可愛くなる美人さんの元で働きたいという不純な動機ではなく太平の世を築く為であります。
どうか処刑だけはご勘弁を!!」
命の危機を感じた俺は必至で説明する。なんとか伯珪様も玉座に座り直し話を聞いてくれた。よし、いける。
「まぁ・・・わが軍も人材不足だから猫の手でも借りたいところだが・・・、とりあえず文官見習いということで雇ってみるか。どうだ?国譲、子龍、元直」
「え、えと、変態さん、じゃなかった、北郷さんはいい人なのでいいと思います」
「私も賛成ですぞ。北郷殿がいれば面白そうだしな。それに北郷殿は武もそれなりに使えますぞ。まぁ将まではいきませんが一般兵よりは強いでしょう。そちらでも使えるのでは?」
「何?そうなのか?じゃあ文官見習い兼兵卒ってことで」
「っくく、まぁその辺のやつよりは役に立つと思いますよ。使えなかったら捨てたらいいだけですよ。
後は水鏡私塾でも水鏡先生の補佐みたいなことをやっていたので伯珪様の秘書見習いにしてはいかがかと?」
田豫ちゃんはいい。何度でも言うが幼女に変態さんと言われるのは我々の業界では御褒美です。
というか元直、お前が1番ひどいことを言ってるからな。俺の心にクリティカルヒットだからな。捨てられたくねえよ。
でも美人のお姉さんが拾ってくれるならダンボールに入れられて雨の日に捨てられるのも悪くないかも。
だがその場面を想像するとシュールでしかないな・・・。
「わ、私に秘書か。・・・なんか偉くなったみたいで緊張するな。
だがこれから先忙しくなったら私の仕事の補佐も欲しいトコだな。ま、まぁ、じゃあ、そうするかな。人がもっといればなんとかなるんだがな。
ということで北郷は文官見習い兼兵卒兼私の秘書兼雑用ってことで」
なんか増えてる!!最後おかしいでしょ。まださっき昨日の夜の事茶化したの恨んでるのかな。
ねちねちと美女に弄られるのは好きだが仕事面で忙しくなるだけはちょっと・・・
「良かったな一刀、これから一緒に働けるな。あと肉まん買ってこいよ」
「北郷殿よろしく頼むな。私はメンマと酒でいいぞ」
元直と子龍が雑用扱い=パシリ扱いをし始める。誰が買ってくるかよ。お前らのパシリになれと言われたつもりはない。
とそこで子龍が田豫をちょんちょんとつつき、何か耳元で言っているのが見えた。
「え、えっと何か甘いものが食べたいです。一刀さん」
キューテクルボイス&ファンタスティック笑顔で田豫ちゃんが言う
「・・・買ってきます」
俺は足早に玉座を去った。
「あ、あれ私のは聞かないの?私の秘書じゃないのかよ・・・」
伯珪様の元で働き始めて1週間ほどが過ぎた。いや、5日だったかな?すでに時間の感覚がない。
起きて鍛錬して起きて政務して飯を食べて雑用をして寝て起きて伯珪様と政務をして・・・
しかも文官見習いって言っても何をすればいいのかわからないトコから入ったから覚えることが多くてきつい。
朝から朝まで仕事し続けるとか大丈夫なのかよ
この国労働基準法とかないよね?こういう時どこに相談すればいいんだろう?
とりあえずハローワークを探そう。新しい仕事を紹介してもらうんだ。
っふぅ、やっと一息がつける。朝からかかりきりになっていた仕事がひと段落ついた。
仕上げた竹簡を隣の机に積み上げる。少し休憩するか。
飯でも食うかと思ったけど、今日ってごはんたべたっけ?
「っくく、一刀、飯なら一昨日食べていたではないか」
「ちゃんと毎日食べさせてっ!!?このままじゃ俺倒れますよ!」
「安心しろ、一刀がボケても皆介護してくれるはずだと思うぞ」
「何その曖昧な言い方!?それにまだボケてないし、ボケる予定もないぞ」
「ボケてる人は皆そういうのだ・・・。まぁ元気をだせ」
元直が憐れみの視線を持って俺の肩に手をやる。
「違うから!ボケてる人の強がりでもないからな。
相変わらずひどいなお前は、で?元直は何の用?
俺はこの竹簡が終わったらお休みの時間なんだけど?」
健康そうな笑顔を見せつつ元直が文官達の執務室へやってきた。俺以外にも文官が何人かいるがその顔はグロッキーであり、
サスペンスであり、ホラーであり、カオスである。要するに死にそうってこと。
だが元直は仕事が早い為自分の分、といっても俺の2倍以上はあるが・・・それをそつなくこなし、自分の時間を得ている。
あと国譲ちゃんは元直並みに優秀なのだが日が沈むと眠くなってしまうのか既にお休みだ。
寝てしまった国譲ちゃんを寝台までお届けするのは俺の役目だったのだが、元直に見つかってからはそれもできない。
元直、俺の一息の幸せを奪うとは何事か!?
「残念ながらお休みの時間は延期だ。伯珪様がおよびだ」
「黄布党の本隊を叩く、ですか」
ついにか。
軍議の間に伯珪様と公孫軍の幹部が集う。
黄布党の活動は日に日に勢いを増している状況だった。幸いにも幽州付近は烏丸対策で鍛えられていた公孫軍の働きにより大きな被害は少ないが他の地域では幾つもの村や街が襲われ被害も大きいと聞く。
その本隊を叩くことで黄布党を根絶やしにしようという考えなのだろう。
「あぁ何進大将軍からの使者の話は知っているな。既に朝廷では黄布党を防ぎきれず、各地の諸侯に頼っている状況だ。
私達も幽州を越えての軍事行動が許可されている。ならばこの機を逃すことなく黄布党を殲滅すれば民達に平穏が訪れよう」
伯珪様の言葉に重臣達も頷く。ここにいる重臣達は皆伯珪様に長らく仕えていてその人柄も尊敬できる人ばかりだ。
そう考えると新参者でたいした智も武ももってない俺がここにいるのはおかしいが一応伯珪様の秘書兼雑用ということで
重臣の方々には認めてもらっている。伯珪様にもついに春が・・・とか言ってる爺さんもいたが気にしないことにした。
「既に軍の兵糧、武具の準備等は整っております。黄布党の本拠地と思われる場所の情報もつかんでおり、
その場所に放っている斥候が戻り次第、出発できる状況です」
元直が伯珪様に告げる。元直も新参者であるがその類まれなる智により既に皆の信頼を得ている。
一応筆頭文官的な立場なのは田豫ちゃんなのだがまだ幼い為、元直がそれに似た立場についている。
戦の気配を感じているのか武官達が険しい表情を浮かべる。
俺もその気に当てられ緊張してきたところに伯珪様が告げる。
「皆、今回の戦いは只の賊の討伐ではない。やつらの総数は10万とも20万とも言われている。
この戦いで相手するのはそのすべてではないとしても厳しい戦いになるのは間違いない。
だが苦しんでいる民がいる限り私達は戦うのをやめない。そして必ず勝つ!!
今までの鍛錬を思い出せ!そしてその武をその智を民の平穏の為に活かすのだ!!
行くぞ我が愛する家臣たちよ!!」
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオォ!!」
伯珪様の激に皆が奮い立つ。武官の人たちは言わずもがな文官の人達も雄たけびを上げる。
とそこに伝令と思わしき兵が駆けてくる。
「失礼します!黄布党の本拠地と思われる場所への偵察をしてまいり戻りました!!」
皆がその兵を見る。その顔は既に戦場の将の顔であり、もたらされた情報によりどう動くのか決まるのがわかっているのだあろう。
兵はその視線を浴びて少し申し訳そうな顔をする。
「よし、よく戻ってきたな。ではこの場でよい。本拠地にいる兵の数、布陣、士気、その他の情報を話せ。
それにより私達は出陣し、必ずや黄布党を討つであろう」
いつにない伯珪様の威厳ある顔に皆がほれぼれしている。やはり普段はちょっとあれな感じの伯珪様だがやる時はやる人だ。
俺もその顔を見て先ほどまでの緊張が消えた。この御方についていけば大丈夫だという気がするし、
伯珪様を支えたいと思っていた。
「えーっと、そのですね・・・・」
斥候の兵が言葉を詰まらせる。
「どうした。敵の数の多さに臆したか?案ずるがよい、我が精強な公孫軍なら数の多さ等どうにでもなる」
伯珪様の言葉に重臣達や武官達が頷く。
「その・・・、黄布党と思われる軍勢は既に壊滅していました」
「・・・・え?」
「他の斥候等の情報と示し合わせると曹操軍、劉備軍、孫策軍により本隊は壊滅、首謀者である張角、張宝、張梁は曹操軍の者が討ち取ったと。すでにその3軍は残党狩りに入っているとのことです」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・え、えっと賊も討ち取られましたし、民に平穏がもどって良かったですね~」
誰も言葉を発しない重い空気の中勇気を持って言ってみた。
「・・・そ、そうだよな。民の平穏が1番だからな。べ、別に活躍の場がなくなって残念とかはないからな」
伯珪様が作り笑顔で続く
「・・・・・・・・・・・・・」
「っくく、さすがは孔明に士元、機を見るに敏だな」
「え、えっと賊さんがいなくなってよかったです」
「ふむ、やはり劉備殿の方が武を振るう機会があるのか・・・・」
ちょいちょい、お三方ボソっと言うな。というか趙雲の離脱フラグがたったんじゃね?
伯珪様も機を見ていたんだろうが・・・・、なんでだろう、少し残念だ。
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どもです。
白蓮様は史実では有能な人だったと思います。
ですがちょいちょい残念なトコがありそこが恋姫に反映されたのかと
今回は短い上にあまり進みません。幕間ってことで勘弁を