No.475538

Masked Rider in Nanoha 三十話 動き出した闇

MRZさん

貨物室でスバル達を待っているモノがいる。
その形となった恐怖相手に二人はどうなるのか?エリオとキャロはどうするのか?
人がその力を限界まで出して尚届かぬ時、彼らは現れる。人間による闇に対する宣戦布告を支えるように……

2012-08-26 06:48:41 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:2776   閲覧ユーザー数:2651

「ロングアーチ、飛行許可をお願い!」

 

『了解です! ライトニング1、飛行許可申請を受理しました。どうぞ!』

 

「了解っ!」

 

 シャーリーの声にフェイトは力強く返事を返し、懐から信頼する相棒を取り出した。金色の三角形。それは彼女のデバイスであるバルディッシュの待機状態だ。それを手にフェイトは叫ぶ。

 

「バルディッシュ・アサルト……セェェェェット、アップ!」

 

”イェッサー”

 

 慣れ親しんだ声を聞きながら、フェイトはその身にバリアジャケットを纏う。それは漆黒のバリアジャケット。今や信頼するライダーと揃いの色となったそれを翻し、フェイトは雷光のような速度で空へ飛び上がる。

 

「ライトニング1、フェイト・テスタロッサ・ハラオウン……行きます!」

 

 目指すは彼女の親友とクウガが守る空。一刻も早く現場へ到着せねばならない。そう思ってフェイトは急ぐ。仮面ライダーがいるというのに何故か不安感が消えないのがその裏にはある。他に明確な理由もなく根拠もない。それでもフェイトはその感覚を信じる事にした。

 それにゼスト隊の隊舎を出た時、後を追ってきた光太郎から告げられたのだ。嫌な予感がすると。それはフェイトの中では絶対に近いもの。良い事も悪い事も恐ろしい程の確率で当ててきた光太郎。その言葉と感覚には重きを置いて然るべきと考えて。

 

(待っててなのは! 私が行くまで頼みます、五代さんっ!)

 

 澄み渡る青空を飛びながらフェイトはそう願って速度を上げる。その表情を険しくしたままで。その頃、六課隊舎内の指揮所―――ロングアーチでも不安感に悩まされている者がいた。

 

「AMFか……」

 

 はやてはフェイトから聞いた報告に苦い表情で呟いた。並みの魔導師にとって恐ろしい装備であるAMF。新人達にとってもそれは同じだが、はやてが苦い顔になっているのはそれが理由ではない。

 なのはから教えを受けている四人ならばAMFが相手でも何とかする術を身に着けている。問題は、その戦闘をどれだけの時間続けなければならないか不明だからだ。

 

(いくらスバルとエリオの体力が常人離れしてるとはいえ、長時間魔法無しで戦うんは……)

 

 なのはかクウガが援護に行けば問題はないのだが、現在二人はフェイトが着くまで制空権を抑えるために奮戦中。そのフェイトは先程飛行許可を求めてきたのでそれを受理した。おそらくは最大速度で現場へ急行しているだろう。

 光太郎はフェイトの車を隊舎まで運んだ後、本人の希望で念のため現場へ向かう事になっている。それを聞いたはやては翔一にも向かってもらう事を考えたのだが、さすがにライダーを全員出動させるのは行き過ぎていると思って止めたのだ。

 

「八神部隊長、クウガとスターズ1が第二派と交戦開始しました」

 

「そうか。ライトニング1はどれぐらいで現着しそうや?」

 

「現在の速度なら五分……いえ、三分程かと思われます」

 

「ならライトニング1が現着次第、クウガへ連絡して列車の方へ向かってもらおか。元々ライダーは陸戦が得意やし」

 

「了解です」

 

 アルト達もAMFの事を聞いた瞬間こそ焦りが生まれたが、その後現れたクウガの姿を見てその安心感を実感しその不安は既にない。はやてにとってはクウガの姿を見るのは久しぶりだったが、やはりその姿には安心感を覚えた。

 更に緑の金の姿を見る事が出来、不謹慎かもしれないが喜びさえ感じていたのだ。話によれば、四つの色全てに金の力―――五代曰くミレニアム特別バージョン―――があり、はやてだけでなく、なのはやフェイト達でさえ密かに見たいと思っている事の一つだったのだから。

 

「ライトニング1、交戦空域に侵入。スターズ1とクウガへ合流します」

 

「分かった。引き続きアルトは状況把握に努めて、ルキノは各隊員達へのオペレートや。シャーリーは敵の詳しい情報をゼスト隊へ問い合わせてくれるか」

 

「「「了解です」」」

 

 アルトの報告を受け、はやては三人へ指示を出す。それに反応しルキノがモンター越しにクウガへ先程のはやての指示を伝え始めた。その異形を目の当たりにしてもルキノには微塵も恐怖などはない。

 それはクウガが恐ろしい形相ではないのもあるが、一番はそれが五代と分かっているからだ。今もあの明るい声で彼はルキノへ答えている。

 

『俺はスバルちゃん達の方へ向かえばいいんだね?』

 

「はい。お願いします五代さん」

 

『了解っ!』

 

 サムズアップ。それにルキノもついつられてそれを返し、無意識に笑顔まで浮かべる。五代がいつもそれをする時必ず笑顔なのを思い出したからだ。心なしか、それにクウガも笑顔を返してくれた気がして、ルキノはそんな事を考えた自分に思わず笑みを深くする。

 それを隣のシャーリーとアルトが気付くも何も言わない。代わりに二人はルキノへサムズアップをして笑顔を見せる。それを見つめ、はやてとグリフィスも笑みを浮かべる。状況は好転した。何より、自分達にはライダーがいる。その安心感をはやてとシャーリー以外の三人も知る事が出来た。それだけでも収穫といえる。はやてはそう考え、表情を再び引き締めた。

 

「さ、油断せんといこか。まだ何が起こるか分からんからな」

 

「「「「了解」」」」

 

 いい返事だ。そう思ってはやては視線をメインモニターへ向ける。そこには、次々とトイ達を撃墜するフェイトとなのはの姿があった。

 

 

「……もうそろそろだね」

 

「そうね。次が貨物室のはず……」

 

 疲れた様子で座り込むスバルの声にティアナはそう答えながら視線を車両から彼女へ戻した。スバルの表情と今までの戦闘風景を思い出し、ティアナはその疲労が少なくない事を把握する。だが、それだからこそ聞かねばならない。そう思って彼女は口を開いた。

 

「どう? まだいけそう?」

 

「う、うん。何とか」

 

 いける。そうスバルが言おうとした時だ。ティアナが呆れたようにため息を吐いたのだ。その表情と反応を見てスバルは内心苦笑した。読まれていたと感じたのだ。自分がまだ動けそうにない事を隠してそう言うだろう事を。

 

「ったく、アンタは……。いつも言ってるけど、無理は出来る限りしないようにするのがアタシ達の約束でしょ? いいからもう少し休んでなさい」

 

「でも……」

 

「そ・れ・に! なのはさんも言ったでしょ。無理しない程度にって。今は、暴走し出しているこの列車を止めて、レリックを確保出来るように最善を尽くす。いい? 最善を尽くすの。決して最高を目指せって訳じゃないんだから」

 

 そう言ってティアナは頬を掻く。欲を言えば彼女とて自分達だけで確保まで持って行きたい。しかし、無理をして何かあってからでは遅いと考え、少し休息を取る事を選んだのだ。何せ、ここまで彼女はスバルにトイの相手を任せてきたのだから。

 AMFの前では、今のティアナの射撃は牽制にもならない。なので、幻術を使い相手を撹乱する事しか出来なかった。しかも、それは魔力を多く消費するためあまり多用が出来なかったのだ。それでもスバルだけに戦わせる訳にはいかないと思った彼女は、要所要所でそれを使って援護を行っていた。

 

(アタシが今出来るのはスバルの支援。それも攻撃面じゃなくて行動面が主になる、か。幻術はもう後何回も使えそうにないし、何とか頭使って少しでもあの子の疲労を最小限にしないと……)

 

 精一杯自分の出来る事を。そう考え、ティアナは周囲を見渡した。そこには先程までスバルと戦っていたトイの残骸が転がっている。しかし、奇妙な事があった。それはその状態にむらがある事。

 半壊しているものや全壊しているものがある中、ほとんど形を残しているものがあるのだ。しかも、数を数えるとそちらの方が多いようにティアナは感じた。

 

(どういう事? スバルの攻撃力は少しだけど訓練を通して上がったはず……。なら、どうして破壊出来てない方が多いのよ……?)

 

 そんな事を考えているティアナを見て、スバルは何を考えているのかを悟った。その視線が向いているものを見たからだ。

 

「……私も変だと思ったんだ。それ、やけに硬いんだよ」

 

「嘘……じゃ、アンタでそう思うならエリオ達はどうやって対処して……ああ、そうか」

 

 スバルの言葉に何か言いかけるティアナだったが、何かに気付いて納得した、スバルはそれに不思議顔。そんな彼女にティアナは若干苦笑しながら説明を始めた。

 

「あの子は槍使いでしょ? それの強度を上げて、持ち前のスピードを生かして攻撃力高めてるんだわ。それにキャロの得意はブースト魔法だし、AMFの効果範囲外から使えば問題ないわよ」

 

「そっか! 私が壊した方法と同じ事をやってるんだ!」

 

 自分がトイを完全破壊した時の事を思い出し、スバルは理解出来たとばかりに手を叩いた。それにティアナは頷いて視線を最初の位置へ戻した。そう、貨物室へ。

 

「さて、もう休憩はいいわね? 行くわよ」

 

「うんっ!」

 

 気合十分とばかりに立ち上がるスバル。それに頼もしいものを感じ、ティアナは笑みを見せてある仕草を送る。それに気付き、スバルもそれを返す。それはサムズアップ。大丈夫との思いと気持ちを込めての仕草。

 そして二人は貨物室へと足を踏み入れる。そこに待っている恐ろしい相手に気付かずに。一方、反対側で戦うエリオとキャロも貨物室へ近付きつつあった。スバルと違い、加速をつけるために魔法を必要とするため、二人はややトイの撃破速度が遅かったためだ。

 

「エリオ君、それで最後だよ!」

 

「分かったっ!」

 

 キャロの言葉に返事をしながら迫り来る最後のトイの攻撃をかわし、エリオはストラーダをその目のような部分へ突き立てる。それにトイが若干怯んだようになったのを確認し、即座に彼は距離を取った。そしてすかさず高速移動魔法を展開し、もう一度同じ場所へストラーダを突き当てる。

 

「はあぁぁぁぁ!!」

 

 その一撃をかわそうにも、既にエリオが動き出した瞬間にトイの命運は尽きていた。音速の矢と化したエリオの前にトイは為す術も無く破壊される。それを見届け、キャロは小さく安堵の息を漏らした。

 二人も後一車両突破すれば貨物室という位置にいた。これでも彼らなりに急いだ方なのだが、やはり力自慢のスバルには及ばなかったのだ。更に彼らはブースト魔法による疲弊も考慮し、最初の一車両目以外はエリオだけの力で戦った事も関係している。

 

 二人は出来る事ならブースト魔法はエリオだけでは倒せない時に使うために残しておこうと考えたからだ。そしてもう一つ。二人がスターズコンビに遅れている理由があった。

 

「エリオ君お疲れ様。少し休もうか」

 

「そうだね。さっきと同じで一分休んで次に行こう」

 

「キュク~」

 

 そう言ってエリオとキャロは共に床に座った。そう、こうして必ず一つ突破する毎に小休憩を挟んでいる事がそれ。最初こそしっかり休んでいたが、トイとの戦いにも慣れた現在はその時間を減らし、呼吸を整えるためだけにしていた。

 初めはトイ達相手にエリオとキャロも戸惑いと緊張を隠せなかったが、それも最初だけ。次第にその対処と方法を構築し、二人は互いに支え合って切り抜けていた。エリオがトイを食い止め、キャロがバインドで僅かにでも動きを止めるか、もしくは鈍らせる。そしてその稼いだ時間を使いエリオがとどめを刺す。それを軸にしていた。

 

「……もうスバルさん達は貨物室かな?」

 

「そうだと思う。僕らも出来るだけ急ごう」

 

 休憩は終わりとばかりに立ち上がるエリオ。キャロもそれに頷いて立ち上がり動き出そうとした。残る車両は一つ。それを超えれば目的の場所だ。そう思って二人は歩こうとした。丁度その時、その貨物室のある方向から大きな音が上がる。

 それは衝突音。しかも、かなりのものだ。それに二人は同時に互いを見やり、同じ事を考えたと理解した。スバル達の方で何か起きている。それも、あまり良くない事が。

 

「急ぐよキャロっ!」

 

「うんっ!」

 

「キュク!」

 

 答えると同時にキャロはブースト魔法をエリオへ施す。それに頷いてエリオは高速移動魔法の準備を始めながら次の車両へと向かう。もう悠長に構えていられない。そう感じ取ったが故の行動。

 細かい事を伝えずとも通じ合う二人。そこには、これまでで培った絆の深さが見える。こうしてエリオとキャロも貨物室へと急ぐ。そこに待つ恐ろしい相手。それに苦戦しているだろうスバルとティアナを支えるために。

 

 

 貨物室に足を踏み入れたスバルとティアナを待っていたのは、どこか冷たい感じのする少女だった。その姿は、髪の色を除けばセインそのもの。しかしセインを知らぬ二人がそれに気付けるはずもなく、ただその場違いな存在に警戒心を抱くのみ。

 

「女の子……?」

 

「どうしてここに人が……」

 

「あ~、やっと来たのか。持ちくたびれたよ」

 

 少女はそう言って笑う。それは笑顔。だが、その笑みにどこか薄ら寒いものを二人は感じた。顔は笑っていても心は笑っていない。いや、本当に笑っているのか分からない。そんな印象を受け、二人は微かに身構える。

 それに気付き、少女は笑顔から楽しそうに口元を歪めて笑みを作る。それは二人の出方が面白くて仕方ないといったものだ。そのどこか不気味ささえある笑みに二人は警戒心を強めた。絶対好意的な相手ではない。そう思ってティアナが尋ねた。

 

「アンタ、何者よ」

 

 その問いかけに少女は鼻で笑うように呟く。それは目の前にいる二人を心底見下したような声だった。

 

―――何者、か。ホント、人は愚かだね。そんな事も分からないなんてさ。

 

 それを聞いて二人は不快感をあらわにした。だが、少女はそれを見て楽しそうに笑い出す。その笑い声は完全に二人を嘲笑うもの。その癇に障る笑い声に遂にスバルも苛立ちを抑えられなくなった。

 

「何がおかしいんだ!」

 

「あはは……いいよ、教えてやる。あたしの名は、ゼクス。創世王様に創って頂いた僕さ」

 

 ゼクスはそう名乗ると自身がどういう立場かをあっさりと告げた。そんな相手に二人は何となくだが嫌なものを感じる。自分の事を僕などと言い切る事もそうだが、その中に出てきた創世王という響きに何か引っかかるものを感じたからだ。

 そんな二人の反応に構わず、ゼクスは自身が何故ここにいたかを話し出した。彼女はここでレリックを取りに来る相手に伝言を伝えるためにいるのだと。それはこんな内容だった。

 

―――我の邪魔するのなら、その愚かさを身をもって知れ。創造主たる我に逆らう者共よ……

 

 一切の感情を持たず、どこまでも平坦に、どこまでも無表情に告げられる言葉。それに二人は背筋が凍るような感覚を覚えた。見た事のない悪意の塊が全身を包み込むような嫌悪感。それが彼女達の体を駆け巡った。

 

(な、何?! この感じ……怖いっ!)

 

(足が……竦むっ!?)

 

 そんな内から沸き起こる恐怖に戸惑い怯える二人を見てゼクスは愉しそうに嗤う。

 

「いいね、その表情。確かに伝えてね、お前達の仲間に。あ、それと”仮面ライダー”を名乗る虫けらにも、ね」

 

「「っ!?」」

 

「じゃ、あたしはレリックもらって帰るから。バイバイ、弱虫さん」

 

 その言葉に二人の表情を変える。先程までの恐怖は消えた。代わりに沸き起こるのは、ここに来るはずの飛行型のトイを食い止めているある男の事。その事を思い出し、二人はゼクスを睨む。

 その変化にゼクスも気付き、面白くなさそうな表情を浮かべた。その理由。それは弱いはずの存在が強がっているその光景ではない。その目に先程まであった恐怖が欠片として残っていない事だ。それが彼女には堪らなく嫌だった。

 

「嫌な顔。さっきまでの方が見てて愉しかったのにさ」

 

 そんな事を述べるゼクスに対し、二人は互いに告げる。

 

「なら、アンタにも伝えてもらおうじゃないの!」

 

「お前達のやる事は、絶対私達が止めてみせる!」

 

「「仮面ライダーと機動六課がっ!!」」

 

 それは誓い。それは願い。それは、確信。共に仮面ライダーと接した事があるからこそ言い切れる言葉だ。五代ならば、翔一ならばこう言い切ってくれる。決して誰にも屈せず、その想いを、生き方を貫いてくれる男達ならと。

 それに彼女達は憧れた。それを目指した。故に、ここで黙っている訳にはいかない。怯え、震え、守ってもらうだけの自分はもういない。彼らの背中に守られるだけでなく、その背中を少しでも支える事が出来る。今の彼女達はそんな存在になったのだから。

 

(私は五代さんのように誰かを笑顔に出来る人になりたい……)

 

(アタシは翔一さんのように何事にも動じないようにありたい……)

 

((だから、ここは行かせないっ! 絶対に!))

 

 決して二人は自分達が強いなどと思わない。だが、何もしないままで悪を見逃す事は出来ない。まだその体の震えが消えた訳ではない。それでも、今はそれを上回るだけの何かがある。故に、彼女達は立ち向かう。己の全てを以って、目の前の邪悪に。

 

「……そう。なら見せてやるよ、あたしの本当の姿を。創世王様から頂いた、この力をっ!」

 

 そうゼクスが叫ぶとその体が変わっていく。可憐な少女は、それとは似ても似つかない醜悪な姿へと変化していく。それを見て、二人は無くなりかけていた恐怖心が再び息を吹き返すのを感じていた。

 生理的嫌悪感。それを全身から漂わせる姿。それだけではない。人の姿をしたモノが不気味な化物となっていく光景を見せられるのは、それだけでも精神的にくるものがあった。

 

 やがてその変化は終わり、ゼクスはその本来の姿を見せた。それは、もぐら。だが、牙を剥き出しにして凶暴な形相をするそれは、誰もがイメージするもぐらのものではない。眼はつり上がり、鋭く二人を見据えている。手には触れただけで斬れそうな爪が生え、足にも同様の爪がある。

 スバルとティアナは何とかそれを相手に身構えるが、その体は小刻みに震えていた。それを必死に抑え付け、何とかゼクスを睨むように見つめ返している。それをゼクスは面白くないとばかりに舌打ちし、動いた。

 

「っ?!」

 

「速いっ!?」

 

 その動きにスバルは言葉を出す事も無く吹き飛ばされ車両を突き破った。それを見たティアナは、どこか鈍重な印象さえ受けるその姿とは正反対の速度に驚きを隠せない。スバルは落下していくのを感じながら痛む体でウイングロードを展開し、何とか窮地を脱するものの受けたダメージは大きく表情を歪めていた。

 

「っ……危なかった……」

 

「スバルっ!」

 

「……しぶといね。このあたしの手をあんまり掛けさせないで欲しいんだけど」

 

 相棒の無事に安堵しつつ、ティアナは後ろから聞こえた声に咄嗟に反応する。そう、振り向くのではなくその場から急いで走り出したのだ。その瞬間、ティアナの後頭部に風が起きる。ゼクスの手が薙いだのだ。

 爪によってティアナの髪の毛が数本風に乗って散る。それを感じながらティアナはスバルがいる場所目指して跳んだ。スバルもそれを理解していたのか、ティアナが届く位置までウイングロードを伸ばしそれをサポート。

 

 何とかウイングロードへ着地すると同時にティアナはスバルの元まで走る。ウイングロードはそれに合わせて縮められ、ゼクスとの距離が開いていく。それをゼクスは見つめ、実にあっさりとその場から跳んだ。

 その行動にティアナもスバルも驚きを隠せない。飛行魔法でも使わないと届かないであろう距離。それを単純に助走も付けずに跳んだだけで届かせてみせたからだ。

 

「……で?」

 

「嘘、でしょ……」

 

「あの距離……私でも無理だよ」

 

 見せ付けられた自分達との能力の差。それに二人はなけなしの戦意が萎えていくのを感じる。それは、かつて邪眼と対峙した時なのは達も感じた絶望という闇。人外の力と姿、そして邪悪さ。それに対し恐怖や無力感を抱かぬ者はいない。

 それでも、それでも二人は諦めない。震える足に鞭打って、逃げ出そうとする気持ちを奮い立たせ、それぞれに思い出す。それは、己への誓い。

 

 スバルは、あの火災の際に出会った赤いヒーローのようになりたいと。ティアナは、兄を助け、自分を変えてくれた者のようになりたいと、それぞれが誓ったものがある。そして、その者達は決して諦めないと知っているから。

 

「ティア……」

 

「何よ?」

 

「援護、よろしく」

 

 その言葉にティアナは驚くでもなく、ただ苦笑混じりに答えた。

 

「援護? 馬鹿言わないで。……アタシが倒すんだから」

 

「なら、二人で倒そう」

 

「……ま、それが一番可能性が高いか」

 

 どこか普段通りに会話する二人。だが、共に相手を倒せる自信はない。それでも、逃げない。逃げたら、己の目指す者達に、何よりあの日の自分自身に合わせる顔がないと知っているからだ。

 

「殺しはしないから安心しな。ただ、もう伝言役は諦めてもらうけど」

 

 そんな言葉にも二人はもう反応を示さない。それにゼクスの不機嫌さが増していく。その様子にむしろ二人の闘志が高まっていく。最後の最後まで足掻いてみせる。なのはは必ず来てくれると言ったのだと、そう思い出して。

 

「行くよ、マッハキャリバー」

 

”了解”

 

 その返事にスバルは心強さを覚える。己にいるティアナ以外の味方の存在に。

 

「頼むわね、クロスミラージュ」

 

”お任せを”

 

 その一言にティアナは笑みを見せる。己やスバルと共に戦ってくれる存在がいる。それが嬉しくて。

 

「「アタック!」」

 

 その声をキッカケに二人は動き出す。人としての誇りと自身の信念を支えに恐ろしい怪人相手の生き残るための戦いを始めるために。

 

 

 最後の車両を突破し貨物室に着いたエリオとキャロが見た物は、壁に大きく開いた穴ともうかなり後ろになってしまった場所で怪物と戦うスバルとティアナの姿だった。その予想だにしない状況にさしもの二人も一瞬思考を停止したのは仕方ないといえる。

 それでも素早く現状を把握し、二人は自分達のすべき事と出来る事を考え始めた。そしてその数は多くなかった事もあり、二人は互いの顔を見合わせた。

 

「エリオ君、スバルさん達が戦ってるのってもしかすると」

 

「きっとそうだ。キャロはフリードを本当の姿にして。それで、レリックを持ってフェイトさん達かヘリに合流して欲しい」

 

 状況を考え、エリオはまずレリックの確保を優先した。非情かもしれないが、自分達が援護に行っても二人の助けになるとは思えなかったためだ。その証拠にフリードが先程から怯えているのだ。他でもないあの怪物を見てから。

 だからキャロをまず逃がそうとエリオは考えた。だが、素直に逃げろと言えばキャロは反対する。だからエリオはキャロへレリックの護送を頼むと告げる事にした。キャロはそれからエリオの優しさを感じ取り、申し訳なく思いながらそれに感謝するように頷いた。

 

 そして彼女は怯えるフリードを宥めて、レリックの入ったケースを抱えると告げる。

 

「竜魂召喚!」

 

 キャロの声に呼応し、穴から外に出ていたフリードはその姿を巨大な翼竜へと変えた。それこそがフリードの本当の姿。白銀の飛竜と呼ばれる所以がそこから感じられる。それを見て、キャロは心から安堵した。落ち着いている時でもまだ完璧と言える自信はないため、今回はフリードがやや怯えているので成功するか不安だったのだ。

 しかし、キャロの手をエリオがずっと握っていた事もあり、彼女はその制御に成功した。無論、それだけではなくキャロが六課入隊前から少しずつ制御を可能にするために努力していたのも大きい。フリードの背に乗り、エリオとキャロは見つめ合った。

 

「キャロ、フェイトさん達と合流したら」

 

「戻ってくるから」

 

 エリオの言葉を遮り、キャロははっきりそう言い切った。それにエリオは思わず言葉を失う。

 

「絶対、戻ってくるから! だからエリオ君も約束して! 絶対待っててくれるってっ!」

 

「……キャロ」

 

 目に涙を浮かべ、そう告げるキャロ。それにエリオは嬉しく思い、力強く頷いた。それはキャロを安心させるものであり、自分に対する戒めでもあった。キャロを逃がす。それは、キャロを本当に思っての事ではなかったと気付いたのだ。

 キャロを本当に思うのなら、その判断を委ねるべきだった。キャロには戦う力があまりない。そう自分は勝手に考えて戦闘から遠ざけようとしていたと気付いたのだ。

 

(僕はキャロと共に支え合うために局員になったはずじゃないか。なら、この戦いも一緒だ。僕がキャロを守るだけじゃない。キャロも僕を守ってくれているんだ!)

 

「分かった。キャロが戻ってくるまで頑張るよ」

 

「約束だよ? 約束だからね!」

 

 キャロの言葉にエリオが向けたのはサムズアップ。それにキャロも頷いた。そして、フリードを飛び出させて列車から離れていく。それを見送ってエリオは後方のスバル達を見つめた。もうかなり離れてしまったが、それでもまだ何とか出来る距離だ。

 そう判断してエリオは疲れた体に喝を入れて走り出す。目指すは列車の最後尾。そこからストラーダの加速力と自分の魔法を使った跳躍で何とか二人が戦っている場所まで行かねばならない。

 

 そんな時だ。車両と車両の連結部からその上へ登ったエリオの前に巨大なトイが出現したのは。それは従来よりも大きな球体型のトイ。しかし、エリオはその存在が厄介な相手だと即座に気付いた。

 

「こいつ、AMFの範囲が広い!?」

 

 まるで鞭のような長いアームを捌きながら、エリオは魔法が完全に発動しない事を確認した。先程までは出来ていたソニックムーブ。それが同じ距離を取っても使えなかったのだ。それは今までの戦い方が使えないという事を意味する。

 疲弊した体。魔力も体力も減ってきたところに現れた厄介な敵。エリオはそれを相手取り、己の未熟さと至らなさを痛感していた。せめて周囲の安全を確認してからキャロを送り出すべきだったと。

 

「でも……まだ負けてない!」

 

 反省をしながら、エリオはストラーダを握る手に力を込める。魔法に頼る事が出来ない事は先程から変わらない。ならば、何も困る事はないのだ。自分の持てる全てを使い、挫ける事無く戦うのみ。何故なら、最後に自分を助けるのは力ではないと彼は知っているのだから。

 

「自分を助けるのは……諦めない気持ちだっ!!」

 

 自分が憧れ、目指す男が教えてくれた言葉。それを思い出し、エリオは吼えた。それと同時に思いっきり床を蹴って跳び上がる。それから少し遅れてストラーダが火を噴いた。魔力による噴射の勢いを乗せ、エリオはそのまま空中へと向かう。

 そこでエリオは真下に見えるトイを見据えて魔力を使う。それは、自分を救い出してくれた女性が使っているものと同じ電撃。そう、AMFの効果範囲外なら魔法は使える。しかも効果そのものは無効化出来ない事はエリオ自身がここまでの戦いで知っていた。

 

「行くぞ、ストラーダ!」

 

”どうぞ”

 

「はぁぁぁぁっ!」

 

 魔力を電撃に変えてストラーダに纏わせ、それを落下速度に加速を加えて突撃する。今、エリオが思いつく限りの最大威力の攻撃だ。例え電撃を無力化されても、エリオにとってはどうでもいい事だった。

 まず、目の前の障害を突破する。話はそれからなのだ。故に迷いはない。魔力の電撃は消せないはず。自分の全てを込めた一撃で勝負するのだ。その強い気持ちがストラーダへ伝わったかのようにカートリッジが排出される。

 

 それを合図にエリオは一筋の閃光となる。それを迎え撃とうとするトイだったが、そのアームが彼を捉えようとした途端その体が更に加速した。

 エリオがAMFの範囲内に入る前にアームが届いてしまったがための、些細な、だが致命的な失態。攻撃の瞬間が一番の隙となると理解していたエリオはソニックムーブを使い、加速すると同時にその手にしたストラーダをトイに突き刺したのだ。

 

 そのままトイは天井を破る形でエリオと共に車両の中へ落下する。彼はその衝撃に顔を歪めながらも車両の床にしっかりと両足を着けた。そして全身に力を入れ、そのままストラーダを持ち上げていく。

 

「あぁぁぁぁぁ……っ!!」

 

 ゆっくりとではあるがたしかにトイのボディを切り裂くストラーダ。それをエリオが振り抜いた瞬間、トイは爆発した。だがそれを見届ける事無く、彼は振り抜いた姿勢のまま疲れから意識を失ったのだ。

 その体は爆発で出来た穴へ吸い込まれるように動き、そこから静かに谷底へと落下していく。すると、そこへ何かが接近する。今にも墜落しそうなエリオを見てその手を精一杯伸ばしながらそれは叫んだ。

 

「だめぇぇぇぇぇっ!」

 

 その声にエリオは失っていた意識を微かに取り戻す。目を開けた先には見慣れた桃色の髪の少女がいた。

 

「キャ……ロ?」

 

「エリオ君!」

 

 フリードの背に乗ったキャロがエリオの体を抱きしめる。その温もりにエリオは自分がトイに勝ったのだと実感した。だが、それと同時に思い出す事があった。

 

「キャロ……どうしてここに? それに……レリックは……」

 

 そのエリオの言葉にキャロは少しだが驚きを見せる。しかし、微かに苦笑した。こんな状況でも心配するのがまずレリックの事だという真面目さに。それを思って苦笑しながら彼女はレリックはもうヘリへ運んできた事を告げた。そしてスバル達にも心強い援軍が向かったとも。

 

 キャロはあの後一番近いだろうフェイト達へ合流するためにフリードを急がせていたのだが、その途中で見たのだ。そう、列車へ向かうゴウラムに乗ったクウガの姿を。それにキャロが驚きを見せると、彼はサムズアップをやって見せた。

 それだけでキャロは彼が五代、即ちクウガだと理解して安心する事が出来た。そのすぐ後にヘリを見つけた彼女はヴァイスにケースを預けて全速力でここへ戻ってきたのだから。

 

「五代さんが、仮面ライダーが行ってくれたから」

 

「……そっか。なら、安心……だ」

 

 仮面ライダーがスバル達の援護へ向かった。それを聞いてエリオは緊張の糸が切れたように再び目を閉じる。そんな彼の状態にキャロは労わるようにその体をもう一度抱きしめた。自分との約束を守ろうとした槍騎士の健闘を称えて。

 

(スバルさん達の手助けに行きたいけど、エリオ君の事もあるし……)

 

 一度フェイト達の指示を仰ごう。そう決断し、キャロは静かにフリードをフェイト達がいるだろう場所へ向かわせる。その際、少しだけスバル達がいる方向へ視線を向け、彼女は心から願う。二人が無事でありますようにと。

 そして出来るだけすぐに自分も向かうと心の中で告げ、キャロはフリードと共にその場を離れた。丁度その頃、なのはとフェイトも完全にトイを駆逐し、列車へと向かって動き出していたのだった。

 

 

 ゼクスの爪が唸りを上げる。それをスバルは何とか魔法で防ぎ、その硬直を狙ってティアナの射撃が襲うもゼクスはそれを避ける事もしない。ただ眼前のスバルを押し込んでいくだけだった。

 ティアナの魔法はゼクスにはそよ風にも近い程度のダメージしかない。故に、警戒するのは自分を傷付ける事が出来るだろうスバルのみという訳だ。

 

「ぐぅぅぅぅ!」

 

「へぇ、中々粘るね。さすがは機械仕込み」

 

「っ!?」

 

「どうして、アンタがスバルの事を……」

 

 ゼクスが呟いた一言にスバルが動揺し、ティアナは驚愕。その反応にゼクスは嘲笑うような声で告げた。自分達の創造主である創世王は、スバルだけでなく姉のギンガの事さえ知っていると。

 

「出来損ないの改造人間。いや、戦闘機人だったっけ? どちらにしろ同じ失敗作には変わり無いか」

 

「だったらアンタは……何だって言うのよ……っ!」

 

「あたし”達”はそれを超えた改造機人。ま、でも創世王様が言うには怪人って表現が正しいんだってさ」

 

「……怪人」

 

 ゼクスの言葉を聞いてスバルは噛み締めるように呟いた。何故だか、その響きに言い様のない感情を抱いたのだ。改造人間との単語もスバルには気になる。それは、戦闘機人を言い得ているような言葉だったのだ。

 しかし、そんなスバルと違い、ティアナはゼクスの言葉に得体の知れない不安を感じていた。それは、戦闘機人を出来損ないと言い切る事。普通に考えてもスバルやギンガのような力を持つ事は、下手をしたら周囲に恐ろしい結果をもたらす。それにも関らず、それを超えた力に対しゼクスは少しも何かを感じる事がないのだ。

 

 それは、自分の体に対して恐怖も嫌悪感も無くその力を振るう事に何の躊躇いもないと言う事を意味している。それが良い事に使われるのならいい。しかし、どう見てもゼクスはそんな事に使うような相手ではない。

 それを理解し、ティアナは身震いがした。そんな存在を作り出す存在がいて、尚且つ作り出された存在は喜んで他者へ害を為そうとするのだ。それは並の犯罪者よりも恐ろしい。絶対に野放しにしてはいけない。そうティアナが決意を新たにした時だった。

 

「きゃあぁぁぁぁっ!」

 

 スバルの口から悲鳴が上がる。ゼクスが少し力を込めただけで、先程までは拮抗していたはずの力関係があっさりと覆ったのだ。それを見てティアナは悟る。自分達は遊ばれていた事を。彼女達が必死に足掻くのを見てゼクスは楽しんでいたのだ。

 そう考えた途端、ティアナは怒りを抱いた。必死に足掻くものを嘲笑うような態度に。懸命に生きようとする者を馬鹿にするその言動に。残った魔力を全て使ってでもこの相手には少しでもいいから傷を負わせたい。そう思ったティアナは力強く叫んだ。

 

「ファントムブレイザァァァァッ!!」

 

 彼女が誇る最大魔法。ティアナはそれをゼクス目掛けて放つ。オレンジの魔力光がゼクスへ殺到し、それに少しだがその意識が逸れた。それを感じ取ったスバルも動く。そう、ティアナが狙ったのは自分の攻撃でのダメージだけではない。一撃の破壊力に秀でるスバルを、少しでもいいから動けるようにする事も視野に入れていたのだ。

 

(頼むわよ、スバル!)

 

 そんなティアナの思いに応えるように、スバルは素早くその右手をゼクスの腹部に押し当てる。同時に排出されるカートリッジ。その数、三つ。そして彼女の右手へ集束する青い魔力光。それこそ、スバルの取っておきにして最大の攻撃。

 かつて見たなのはの魔法。それを彼女なりに身に着けたもの。憧れた女性が放った砲撃。それを模した彼女の自慢の一撃。

 

「一撃! 必倒っ!」

 

「何をするつもりだ?」

 

 ゼクスの眼前に迫るティアナの魔法。しかし、自分の間近くで発動しようとする魔法にも意識を向けなければならない。そんなゼクスへ、スバルはその声を掻き消す声で叫ぶ。

 

「ディバイィィィン、バスタァァァァァッ!!」

 

 零距離で放たれる青い砲撃にも似た攻撃。そして、それとタイミングを合わせたかのように飛来し威力を加えるオレンジの魔力光。ゼクスを飲み込んだそれを見つめ、ティアナもスバルも手応えを感じた。

 それを後押しするように、魔力光の輝きが消えた時にはもう誰もいなかった。それに二人は安堵の息を吐く。もう戦うだけの魔力も体力も残っていない。文字通り全てを出し切った。それ故の安堵。

 

「……もう、何も出来ないよ~」

 

「同感。レリックはエリオ達に任せましょ……」

 

 寄り添うように座り込む二人。その表情は疲れていてもどこか明るい。やり遂げたという達成感が体の中にあったためだ。そのままの雰囲気で帰った後の事を話し出そうとした所で、非情な現実が二人に襲い掛かる。

 

―――いやぁ、さっきのは中々驚いたよ。

 

 聞こえるはずのない声。それが何故かすぐ近くから聞こえ、二人は表情を強張らせる。周囲にはゼクスの姿はない。しかし、声はすぐ近くで聞こえる。その矛盾。すると、その声の出所にティアナが気付いて愕然となった。

 ゼクスがいた場所。それはウイングロードの下。そう、ティアナ達が座っている真下に爪を使い張り付いていたのだ。それに気付いても、ティアナとスバルは動く事が出来なかった。

 

「IS、ディープダイバー。それを使ってあの攻撃を隠れ蓑にお前達の下に回りこんだって訳」

 

 恐怖と脱力感から何も言葉が出ない二人を見て、ゼクスは嬉しそうにそう言った。そして、器用に爪でウイングロードを移動しながら再び二人の前へと現れた。その姿は、確かに多少ダメージは負っているものの、お世辞にも痛手を負ったようには見えなかった。

 それも二人にとっては恐怖を増す材料にしかならない。自分達の全力を持ってしても、少しダメージを与えるだけが精一杯と分かってしまったのだ。

 

「あれ? もう言葉もないのか。な~んだ。もう少し愉しめるかと思ったのに……」

 

(どうしよう……もう、立てないよ……)

 

(何か手は……ないわよね。嫌……死にたくない……)

 

 ケラケラと嗤うゼクス。それが二人の目から希望を奪っていく。なまじ気を抜いてしまった分、その絶望と言う名の毒は深く早く浸透していくのだ。スバルとティアナの様子にゼクスは心から嗤った。それが増々二人の恐怖を加速させていき、それがゼクスの喜びへと変わっていく。

 

(父さん……母さん……ギン姉……)

 

(お兄ちゃん……)

 

 二人の脳裏に浮かぶは家族の顔と目指す男の顔。互いに最後に思い出すは、自分達を変えるキッカケをくれた相手だった。それが浮かび、二人は願った。なのは達から聞いた闇の書との最終決戦。その際、邪眼相手に五代と翔一が力強く名乗ったそのもう一つの名を。

 

((仮面ライダーっ!))

 

「さ、じゃあこれで……」

 

 その声と共にゼクスの爪が二人へ目掛け振り下ろされそうになった瞬間、何かがその爪を砕いた。

 

「な、何?!」

 

 突然の事に動揺し辺りを見渡すゼクスだったが、当然その周囲には何も見えない。そこへ更に何かが飛んで来る。

 それは、圧縮された空気弾。またの名をブラストペガサス。そして何かが飛来する音と共に、呆然となっていた二人の目の前へ誰かが降り立った。

 

 それは、スバルにとっては二度目の、ティアナにとっては初めての出会い。赤い体の仮面の戦士だった。

 

「お、お前は確か……」

 

「クウガ。仮面ライダークウガ!」

 

 その名乗りが先程までスバルとティアナの体を包んでいた闇を消し払う。希望がそこにいた。その背を見つめ、二人は不思議ともう恐怖を感じなくなっていた。どんな相手がいようとクウガがいれば、仮面ライダーがいれば大丈夫だと、心から思えたのだ。

 

「大丈夫? スバルちゃん、ティアナちゃん」

 

「「はいっ!」」

 

 返事にも自然と力が戻る。戦えないと思っていたはずの体に微かにだが力が戻ってきたような感覚を覚えながら、彼女達は表情を喜びに変えた。それにクウガは頷いて、視線を戻すと同時に構えた。それに応じるようにゼクスも構える。ここに舞台は整った。これを以って、邪眼とライダー達の戦いの第二幕が上がる。

 

 

 フェイトがなのは達と合流した頃、光太郎は乗ってきた車を隊舎前に止めて格納庫へ向かおうとしていた。アクロバッターで現場へ向かうために。しかし、その時光太郎を呼び止める者がいた。翔一だ。

 

「光太郎さん!」

 

「翔一君? どうしたんだ」

 

 何か妙な表情をしている翔一に光太郎は変な感じを受けた。まるで、何かに戸惑っているように見えたからだ。すると、翔一は光太郎が予想だにしない事を言い出した。

 

「あの……俺が倒した奴がさっき現れて黒い太陽に伝えて欲しい事があるって言ってきたんです」

 

「何だってっ!?」

 

「影の月が踏み躙られる。それと自分に出来るだけの事はしたから後は頼むって」

 

 翔一の言葉に光太郎は表情を険しくした。黒い太陽とは彼にゴルゴムが付けた名前で、それを知る者はもう彼しかいないはずだったからだ。それに影の月とは彼のかつての宿敵の事を意味している。

 光太郎もそう結論を出し、翔一へ尋ねたのだ。伝言を頼んだ相手は一体何者なのかと。それに翔一が答える事が出来たのは普通の人間ではないという事だけ。詳しい話は長くなると理解し、光太郎は今はそれだけで十分と判断して頷いた。

 

「分かった。翔一君、ありがとう」

 

「いえ。光太郎さん、気をつけてください。後、ティアナちゃん達を頼みます」

 

 翔一の言葉に頷き、光太郎はその場から走り出す。格納庫にいたはずのアクロバッターが彼へ向かって来ていたのだ。それに翔一は驚きを抱くも、食堂へ戻るために背を向けて走り出す。今の自分が出来る事は疲れて帰ってくる五代達に心安らぐような食事を食べさせるだけと思ったのだ。

 互いに相手と反対の方向へ走る翔一と光太郎。アクロバッターに飛び乗った光太郎はアクセルターンを決めるとすぐさまアクセルを解き放つ。その音を聞き、翔一は一度だけ後ろを見た。光太郎の姿が遠くなっていくのを見て彼は思う。

 

(大丈夫。光太郎さんと五代さんが行ってくれるなら絶対に)

 

 そんな翔一の信頼を背に受けながら光太郎はクラナガンの街を駆け抜けていく。その脳裏には翔一から言われた言葉がずっと反芻されていた。

 

(シャドームーンが甦るとでも言うのか。信彦はもう、眠ったはずだ……)

 

 思い出すのは幼い子供二人を助け、眠りについた銀の体の戦士。彼の親友であり幼馴染。悪に身を堕としながらも、最後にはきっと、きっと優しい心を取り戻したに違いないもう一人の仮面ライダー。それがシャドームーンだ。

 だが、その命は既に尽き果て、光太郎しか知らぬ場所で眠りについた。そんな存在が甦るはずはない。ましてや異世界であるここへ現れる事はないはず。そう思って光太郎はアクロバッターを加速させる。その姿は青い疾風となってミッドの街を駆け抜けていく。

 

(それにしても……城戸真司。彼も、もしかしたら……)

 

 次に脳裏に思い出すのは、ゼスト隊の隊舎で出会った真司の事。邪眼と戦い、勝利した男。BLACKだった彼が手も足も出なかった相手を倒したという事が光太郎の中では引っかかっていたのだ。その男も、もしかしたら未来の仮面ライダーかもしれないと光太郎は考えて始めてある事に気付いた。

 

(っ?! まさか、自分に出来るだけの事とはこの状況か!?)

 

 自分を含め、時代を超えた仮面ライダーが同じ場所に呼び寄せられている現状。それこそが翔一からの伝言を指していると彼は解釈した。しかも、相手はあの邪眼。甦るために時空を歪め、キングストーンにこだわり、彼とクウガを付け狙う相手なのだ。

 それが仮面ライダーがいない世界にいた。そして、目覚めようとしていた事を察知した者が仮面ライダーを呼び集めた。そこまで考え、改めて光太郎は翔一から詳しい話を聞こうと決意する。それはその伝言を伝えて来た相手との戦い。そこに、この事を説明もしくは解決する手掛かりがあると思ったのだ。

 

 既に光太郎はミッドの市街地を抜け、人気のない郊外を走っていた。列車が走っている場所までもう少しとも言える距離。そこで嫌な予感を感じた彼はアクロバッターを減速させ、周囲を窺うように見渡した。そして彼はある一点で視線を止めるとアクロバッターを停止させたのだ。

 

「隠れても無駄だ。出て来いっ!」

 

「あら、意外と鋭いのねぇ。小物かと思ったのに……」

 

 その声に反応し、光太郎の視線の先が歪む。そこから現れた相手に光太郎は違和感を感じた。そこにいたのはクアットロそっくりの女性。ただ、髪の色が違う。

 

「お前は何者だ!」

 

「ふふっ……私の名はフィーア。改造機人よ」

 

「何っ?!」

 

 フィーアの口から告げられた改造機人との言葉に、光太郎は直感で怪人かもしれないと考えた。そして同時に思い出す。邪眼はジェイルの研究施設を乗っ取った事を。故に、目の前の相手がジェイルと共にいた者と同じ外見をしていても納得が出来る。

 そう考え、光太郎は身構えた。先手を取られる前に動かなければと、長きに渡る戦いの経験からそう判断しフィーアへ攻撃を開始したのだ。

 

「トゥア!」

 

「ふふっ、結構速いのねぇ~」

 

 光太郎の蹴りをかわし、フィーアはそう上からの物言いで呟く。それを聞いても光太郎は怒りも見せず、冷静にもう一度蹴りを放つ。それをフィーアが受け止め、にやりと笑った。その見かけによらない怪力から光太郎は確信する。

 そう、目の前の相手が怪人であると。いくら戦闘機人といえども女性が今の彼を抑えつける事は出来るはずないのだ。そう判断した光太郎をフィーアはそのまま力任せに放り投げた。

 

「……っ!」

 

「あら? やるじゃないの」

 

 地面へ激突するかに見えた光太郎だったが、前転しながらその勢いを殺して事無きを得た。そんな彼を見てフィーアもどこか違和感を感じたようだった。だからだろう。フィーアの体が変化を始めた。

 それはカメレオン。どこまでも醜悪にされたその異形。おそらくクアットロが見たのなら激怒する程の外見だ。だがそれを見た光太郎も決意する。その正体を明かす事を。

 

「変身っ!」

 

 今のままの自分では勝てないと悟り、告げる。それは、自身を変える呪文。彼、いや彼らにだけ許された魔法。秘められた人外の力を存分に振るう事が出来る姿。それへの変化を起こす力ある言葉。

 それを受け、光太郎の体が変わる。瞳の中に激しく光が瞬き、腹部の輝石が輝き出す。それを契機に姿が変わる。細胞に稲妻が走り、腕は巨人の剣に、脚は逞しい大樹になっていく。それは黒い勇者。地球を二度守り抜いたヒーローの姿。

 

「俺は、太陽の子っ! 仮面ライダー、BLACKっ! RXっ!!」

 

「RXですって? でも、データにはそんなライダーはいないはずだけどぉ……」

 

 フィーアはRXの姿を見て不思議そうに呟くも、最後にはこう告げた。

 

―――まぁ、いいわ。この姿になった私に勝てるはずないもの。

 

 その言葉にRXは拳を握りしめる。命を弄ぶだけでは飽き足らず、更にそれを怪人へと改造した邪眼。そして、そんな体になった事に何の躊躇いも迷いも抱かぬ目の前の相手への怒りと哀しみを込めて。RXは右手を振り払うように動かして吼えた。

 

「俺は、貴様達に決して負けないっ!」

 

 それは心からの否定。悪に、闇に屈しないと言う確固たる決意。人ならざる痛みも苦しみも抱かぬ者に負ける訳にはいかない。そう考えるからこそRXは怪人ではなく仮面ライダーなのだ。

 だが、フィーアは違う。自分を美化し、周囲を見下すだろうとRXは悟っていた。ならば、彼の答えは決まっている。他者を見下す者を決して認めはしない。そんな独りよがりの生き方をする者を、彼は許しはしないのだから。

 

「命を弄び、蹂躙する事に躊躇いもない邪眼。それに組するお前を……俺は、絶対に許さん!」

 

 彼は告げる。それは、生命の守護者の宣言。歪められてしまった存在だからこその、強く尊い誓い。それを聞いて、フィーアは不愉快そうに吐き捨てた。

 

「許さない? 馬鹿言わないの。貴方の方こそ覚悟するのねぇ。何者であろうと、創世王様に逆らう者には死あるのみよ」

 

 それと共にフィーアから殺気が流れる。それを感じ取ってRXもまた身構えた。人知れず、ここでも戦いの幕が上がろうとしていた。

 

 

 クウガやRXがそれぞれ戦場へ向かっていた頃、ゼスト隊の隊舎ではギンガとナンバーズは談笑を続けていた。そんな中、真司は一人ある事を考えていた。

 

(光太郎さんだっけ? あの人、どうして邪眼と会った事があるんだ?)

 

 突然現れた邪眼。だが、それと以前会った事があると告げた光太郎に真司は違和感のような疑問を感じていた。邪眼がどこかで現れたとすれば、どこで現れたのか。そして、どうしてジェイルのラボに出現したのか。それも考え始めたのだ。

 そんな時、真司達のいる部屋へクイントが現れた。何故かその表情にはやや険しさが見える。それにゼストが気付いて視線を向けた。

 

「どうした?」

 

「謎の機械を……トイを引き連れて湾岸地区に現れた者がいるそうです」

 

 その言葉にその場の雰囲気が変わる。ゼストはそれに頷いて部屋を出て行った。真司は閉まったドアをやや見つめていたが、やがて何かを決心して立ち上がる。それに誰も何も言わない。分かっているのだ。真司が何をしようとしているのか。

 だから静かにナンバーズがそれに呼応するように立ち上がった。それをジェイルは苦笑で見送り、一言気をつけてと声を掛けるのみだ。ギンガも同じように苦笑しつつ、真司達を止めようとはしない。彼女も分かっているのだ。

 

「ゼストさん」

 

「……どうした、城戸」

 

「俺も、いや、俺達も手伝います」

 

 向かった先は、ゼスト達が話し合っている廊下。そこには、クイントだけではなくメガーヌもいる。三人の視線を受け、真司は告げた。自分達の力は誰かを守るためにある。だから手伝わせて欲しい。そう、三人の目を見て言った。

 それに三人は一度だけ互いを見つめ合い、クイントとメガーヌがゼストへ向かって頷いた。それにゼストが小さく苦笑するも頷きを返す。それを見ていた真司はそれがどういう意味かを察して笑みを見せた。

 

「頼めるか?」

 

「はい!」

 

 ゼストの声に力強く頷いて真司はその場から走り出す。すると、真司は走りながらも後ろに向かって大声で告げた。

 

―――俺、先に行ってます!

 

 その言葉にゼスト達は苦笑。本来なら止めるところだが真司の性格を知ってしまった以上、もう三人にそれを止めるつもりはなかった。だからこそゼストはギンガへ視線を向ける。

 

「本来ならこちらが動かないとならんのだが、生憎まだ体勢を整えられん。すまないが、保護対象の次元漂流者が危険にならないように護衛を頼めるか、ナカジマ陸曹」

 

「はいっ!」

 

「貴方達も行っていいわよ。真司君、心配でしょ?」

 

 メガーヌの言葉にトーレとチンクが頭を下げ、後を追って走り出す。それをキッカケに次々と感謝の言葉を述べながらナンバーズが走り去る。しかし、ウーノとドゥーエだけはその場に残った。

 

「ゼスト部隊長、私達に真司さん達の指揮をさせてくれませんか?」

 

「私達二人はISが戦闘向きじゃないの。だから後方支援の方がいいかと思って」

 

 それにクイントが理解を示してゼストへ視線を向けた。ゼストもそれだけでクイントの言いたい事を理解したのか軽く頷いたのだ。それにナンバーズの事をこの場で誰よりも理解しているのは二人しかいない事もある。

 下手にクイントやメガーヌが指示を出すよりもウーノ達が出した方が上手くいくだろうとの考えもそこにはあった。案内するようにクイントが二人を連れて歩き出すのを見送り、メガーヌは小さく呟く。

 

「まるで、最初からこうだったような感じがしますね」

 

 その言葉にゼストは言葉を返さない。しかし、その表情はどこか微笑みさえ浮かべていた。ジェイル達がこのゼスト隊に来てまだ二週間にも満たない。それでも、真司を始めとする人懐っこい者達が先頭に立って隊の者達との交流をした結果、ゼスト隊に真司達を変な目で見る者はいなくなっていた。

 

 食堂で真司やドゥーエ達が懸命に働いている姿を見たのもあるだろうし、隊舎内の掃除などをしているのも関係しているかもしれない。だが、一番はやはりその性格。皆、根本は優しく明るいのだ。

 ノーヴェやクアットロのようにやや癖がある者もいるが、概ね人当りは悪くない。加えてナンバーズは皆可愛い少女や美しい女性故に、かつて真司が予想したように男性にはナンバーズは評判がいい。

 

 元々ゼスト隊の構成員は男が多い。そのため、それぞれに気にいる者さえ出始めている程だったのだから。

 

「とにかく、俺達も行くぞ」

 

「はい」

 

 真司は次元漂流者でナンバーズは民間協力者。しかし、それはあくまでゼスト隊だけの認識。管理局自体では、未だにジェイルは指名手配中の相手でナンバーズはその存在を知られていない。真司はその扱いを次元漂流者とするか否かを判断しかねている事もあって保留としているのだ。

 それは、真司を見つけた場所と時期にある。嘘を吐く事がゼストは出来ない。故に、虚偽報告をしないためにはジェイルとの出会いから記さないといけないのだから。

 

 そんな風に考えながらゼストはメガーヌと共に動き出す。目指すは報告を受けた場所。ミッドの首都であるクラナガンではなく郊外の湾岸地区だ。そこにある目ぼしい建物を考えるも特に心当たりはない。

 何故人気の無い場所に出現したのか。それだけがゼストの中で引っかかる。何か妙な感じを受けつつもゼストは歩く。この後、彼らは知る。人知れず恐ろしいモノと戦い続けていた者を。そして、自分達が対峙しなければならない相手を。

 

 

--------------------------------------------------------------------------------

ついにオリジナル怪人登場。アイディアはデルザー軍団からですが強さはあそこまでないです。モチーフの動物や昆虫は予想出来るかもしれませんが当たっているかは今後で確かめてください。

 

次回で初戦闘は終了。そして遂に四人のライダーが怪人戦を行いますのでお楽しみに。


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
2
1

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択