No.476630

Masked Rider in Nanoha 三十一話 戦士集いて合わさる時

MRZさん

邪眼の手先と対峙する仮面ライダー達。それを支えるは魔法世界の住人達。
本来ならば繋がれる事のなかった手が繋がる時、大きな力の胎動が始まる。

2012-08-28 14:45:46 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:2982   閲覧ユーザー数:2826

 ゼクスの爪が唸りを上げる。それをクウガは冷静に見つめ、その攻撃をかわすと同時に相手の腕を掴んだ。そこでクウガは気付いた。先程破壊したはずの爪が再生を始めている事を。そこにクウガはかつて戦った未確認との相違点を見ていた。

 一方、スバルとティアナは座った位置でクウガとゼクスの戦いを見ていた。気持ちとしては援護をしたいが、まだ戦える程体力も魔力も回復していないためだ。だからこそ余計にその表情には力が入っている。ライダーが怪人と戦うのを気持ちだけでも応援するために。

 

「っ!? クウガ、気を付けて!」

 

 クウガに抑えられた腕とは逆方向の腕。そこの爪が完全に再生を完了する。それに気付いてティアナが叫んだ瞬間、クウガはゼクスの腹に蹴りを放った。

 

「おりゃ!」

「ぐぅ!」

 

 たたらを踏むように後ずさるゼクス。だが、クウガはそれを見ても追撃をかけようとはしない。何となくだが気付いているのだ。迂闊に攻め込めば痛手を負うのは自分だと。それに戦っている場所も問題だった。

 

(ここはスバルちゃんの魔法の上。下手をしたら下に落ちるかもしれない、か。あまり迂闊な事は出来ないな)

 

 ウイングロードでの戦い。それはクウガが格闘戦をやるにはやや不向きな場所だった。直線的な動きしか出来ないし、何よりこれではクウガの決め技が使い辛いのだ。せめて下との距離が十五メートルならば赤のクウガでも平気だ。しかし一番の問題は、そこから下手に落ちればゼクスがスバル達を襲うだろうと考えられる事。

 加えてどう見ても現在の位置は許容出来る高さを超えている。青のクウガでも下からここまで戻れるか分からない。そこまで考えたクウガは戦場を変える事を検討し始めた。そのためにゴウラムを使いたいのだが、肝心の物が無いためそれをどうするか迷っていた。

 

(ビートチェイサー……は六課だもんな。ゴウラム単体じゃ少し厳しいし……)

 

 ビートチェイサーもゴウラムのように呼べば来てくれれば。そんな事をクウガは思う。その瞬間、脳裏に思い出すものがあった。それはRXのバイクであるアクロバッター。

 

「そうかっ! もしかしたら……」

 

 自分とRXの共通点を思い出し、クウガは意を決して叫んだ。

 

「アクロバッターっ!」

 

 その声は確かにアクロバッターに届いた。いや、正確にはクウガのアマダムからの信号を感じ取ったのだ。それはクウガのアークルに使われた石がRXの物と同質の物だという何よりの証。そう、太陽の石の原石という証拠でもある。

 アクロバッターはその声に応じるように動き出した。クウガを知る以上、アクロバッターにとっても彼は共に戦う仲間なのだから。それを視界に入れながらもRXは止める事はしない。クウガはアクロバッターを呼んだ後RXに通信を入れてきたのだ。

 

———先輩、アクロバッター貸してください!

 

 それにRXは即座に了承の意を返した。自分が怪人と戦っているように、クウガもまた怪人と戦っているのだろうと予想したのだ。

 

(頼むぞ、アクロバッター! クウガを助けてやってくれ!)

 

 

 ゼクスの鋭い爪をクウガが辛うじてかわして反撃を繰り出した。しかし、それはゼクスへは当たらない。そう、クウガは次第に追い詰められていた。理由は一つ。ゼクスがISを駆使するようになったためだ。

 このままではクウガに勝てないと思ったゼクスはISを使ってその下から攻撃をするようにしたのだ。ウイングロードを壁にし、クウガの足元を執拗に狙う戦法。クウガから攻撃を受けそうになるとその手を引っ込め、その攻撃をウイングロードへと向けさせるのだ。

 

「あいつ……」

「これじゃ……クウガが戦えない」

 

 その光景を見つめ、ティアナとスバルが悔しがる。その時だ。二人の耳にバイクのエンジン音が聞こえてきたのは。いち早くスバルが視線をそちらへ向けると、見た事のある青いバイクが無人でこちらへ走ってくるのが見えた。

 それに彼女は驚きを隠せない。それでも少し前クウガがその名を呼んでいた事を思い出し、咄嗟にウイングロードを伸ばしたのは好判断だった。それに呼応するようにアクロバッターも崖から勢い良く飛び出したのだ。そして、見事にウイングロードへ着地しクウガ目掛けて疾走する。

 

「あれ……どうなってんの?」

「分かんない。でも、きっとクウガが呼んだから来たんだよ!」

 

 その光景を見てティアナが信じられないと言うように声を漏らす。それにスバルも同意するがアクロバッターが向かう先で戦うクウガを見てどこか嬉しそうに拳を握った。そして、アクロバッターの登場はクウガの好機へと繋がる。

 

「な、何っ?! バイク!?」

 

 思わぬ乱入者にゼクスの意識が一瞬クウガから逸れた。それを見逃さず、クウガはその腕を掴み引きずり出したのだ。

 

「うおぉぉりゃっ!」

「しまったっ?!」

 

 そして即座にその腕を放す。一旦態勢を整えるためにゼクスがウイングロードへ着地する。すると、それを待っていたかのようにアクロバッターがそこを掠めるように通過した。その衝撃でゼクスが体勢を崩し倒れるのを見て、クウガはアクロバッターへ向かって走った。

 それに応じるようにアクロバッターが向きを変えて動きを止め、クウガが素早く跨ってアクセルを握る。それを合図にゴウラムがそのボディに融合し、アクロバッターの姿を変えた。それを見て驚愕するスバルとティアナ。それに構わず、クウガはアクセルを解き放ってゼクス向かって走り出す。

 

「スバルちゃん! この道、あの崖まで繋げて!」

「分かりました!」

 

 その頼もしい返事を聞きながらクウガはアクロゴウラムをゼクスへぶつける。そのカウル部分にゼクスを乗せたままクウガは一路陸地を目指した。伸びていくウイングロードをアクロゴウラムは駆け抜けていく。

 ゼクスは思惑通りにはさせまいとしたのだろう。ISを使ってそこから脱出しようとした。だが、何故かアクロゴウラムを透過出来ない事に気付く。そう、ゴウラムもアクロバッターも生きているためだ。

 

 ゼクスのISでは生物を透過する事は出来ない。しかし、アクロバッターやゴウラムが生命体である事を知るはずもないゼクスはただ動揺するのみ。更にゼクスが下手な動きを出来ないようにクウガは速度を上げた。

 

「っ!」

 

 強烈な加速度による重圧がゼクスを襲う。そして、そのままクウガはゼクスを自分が戦い易い場所へと運んで行くのだった。

 

 

 クウガがゼクスを運搬し始めようとしていた頃、RXはフィーアのISに困惑していた。幻影を作り出し視覚やセンサーなどを欺くシルバーカーテンだ。しかも、生み出された幻影の内何体かは幻ではなく分身体。

 それは、かつて彼が戦ったカメレオン怪人と同じ能力。ゴルゴム怪人と同質の力をフィーアは有していたのだ。更に本体は保護色に変わる事でRXの視界から消えていた。勿論、RXの目はそれを見破る事が出来る。しかし、それは落ち着いてその視覚に意識を集中しなければならない。

 

 よって幻影や分身達に紛れるように攻撃をしてくるフィーア相手に、動きを止めてその機能を使う事は出来なかったのだ。その証拠にRXのボディへまた傷が増えた。

 

「ぐあっ!」

「ふふっ……どうしたの? 手も足も出ないのかしらぁ」

 

 幻影と分身達が同じ動きをしながら手負いのRXを嘲笑う。RXは湧き上がる怒りを抑え、対応策を考えた。幻影はただの幻のため恐ろしさは少ないが分身体は攻撃をしてくるので注意が必要。しかもフィーアはそれらに紛れるように動いている。

 その攻撃によるダメージは馬鹿に出来るものではない。実際、彼の体は多少なりとも傷を負っているのだ。何とか現状を打開しなければ不味い。そう判断し、RXはこれまでの戦いから何かヒントはないかと頭を巡らせた。

 

(くそっ……何か、何か手はないか! ……そうだっ!)

 

 そこで思いついたのは相手の視覚を一瞬でも奪おうという事。そのための手段がRXにはあった。彼はその両腕をベルトの上へ置くようにして叫ぶ。

 

「キングストーンフラッシュ!」

 

 その声がキッカケとなり、ベルトであるサンライザーから強烈な光が放たれた。その輝きが辺りを包む。それが幻影を消し分身達を怯ませた。そしてフィーアの姿をも出現させたのだ。

 そう、強烈な光を浴びる事でフィーアはその同化能力を一時的に失ったために。それはクウガと戦ったメ・ガルメ・レと同じ現象といえる。偶然にもRXの使った手段はフィーアにこれ以上ない効果をもたらしていた。目をやられ、フィーアが悶えるように地面に倒れ込む。それを見たRXは勝機と悟り地面を蹴った。

 

「トゥア!」

「な、何? 何が起きてるの?!」

 

 うっすらと視覚が戻った時、フィーアはRXの姿を見失っていた。見渡す限りその周囲には誰もいない。分身達も視界を失っていて、とてもではないが役に立たないとフィーアは理解する。そんな時、フィーアはふと地面に出来た影を見て視線を上へ動かした。

 

「RXっ?!」

 

 だが、その動きはもう手遅れだった。そこにいたのは右拳を握り締めて降下してくるRXがいたのだ。

 

「RXパンチっ!」

 

 高々と空に跳び上がったRXは、その勢いのままフィーアへその拳を突き出した。キングストーンと太陽エネルギーを複合したハイブリットエネルギーが込められた鉄拳。それを喰らい、吹き飛ばされるフィーア。

 だがそれでRXの攻撃は終わらない。彼は着地した瞬間、しゃがむように身を縮め、右手で地面を叩いたのだ。それを合図に彼は再び空へ跳び上がる。それは、彼がBLACKだった頃の必勝の連携技だ。

 

 丁度その瞬間、クウガがアクロゴウラムに導かれるようにそこを通りかかった。視界の端に見えるRXと恐ろしい怪人の姿。それを見たクウガはアクロバッターが予想よりも早く現れた事の理由を悟り、同時に怪人が一体ではなかったと知ったのだ。

 

「RXキックっ!!」

 

 後方宙返りから両足を捻らせて放たれるRXの蹴り。それを見てクウガは驚いた。それは彼が以前放ったものを彷彿とさせたのだ。それはゴ・ガドル・バとの戦いで黒の金の姿になった際、決め技として放った蹴りと似ていたために。

 故にクウガはRXにあの時の自分の姿を重ねその勝利を確信する。そんなクウガの目の前でRXの蹴りがフィーアに炸裂した。堪らずかなりの距離を吹き飛ばされるフィーア。それでも何とか立ち上がるが、既にその体からは火花が出ていた。RXの攻撃で内部から崩壊が始まったのだ。

 

「う、嘘……こんな事が、こんな事が!」

 

 うわ言のようにそう呟きながらフィーアは首を横に振る。それを見つめるRXは何も言わない。ただ、黙ってその姿を見つめ続けていた。

 

「創世王様ぁぁぁぁぁ!!」

 

 その絶叫と共にフィーアの体が後ろに倒れる。直後起きる爆発。RXはそれを見て思った。またこうして怪人との戦いが始まるのだ、と。彼にとって見慣れた感さえある光景。邪眼が名乗っている創世王との名。

 否応なく彼へゴルゴムとクライシスの事を思い出させる事ばかりだった。決して戦いが終わる事はない。人が自然を破壊し続ける限り、いずれ第二第三の怪魔界が生まれる。そんなクライシス皇帝の言葉を思い出して、RXは拳を強く握り締める。

 

(違う! そんな事にはならない! 決してこの世界の人達も、自然を破壊し、自らの星を死に追いやったりはしないっ!)

 

 脳裏に浮かぶのはこちらで出会った者達の顔。優しく平和を願い、自然を愛する者達。更に時代を超えて出会った想いを同じくする二人の男を思い出して、RXはもう一度心の中で告げる。

 

―――もしそうだとしても、俺は決して絶望しない。この胸に、この心に彼らの笑顔がある限り……

 

 そしてRXはクウガが去った方向へ視線を向けて走り出す。万が一に備えてその手助けに入ろうと思いながら。

 

 

 RXとフィーアが戦っていた場所からそう離れていない場所。そこへクウガはアクロゴウラムを急停止させた。そのためゼクスは勢いをつけたまま宙へと投げ出され、勢いよく地面へ体を叩き付ける。その音を聞きながらクウガは確認を取るようにアクロゴウラムへ視線を向けた。

 

「大丈夫? まだいけそう?」

「アア。ダイジョウブダ」

 

 クウガの問いかけに平然と返すアクロバッター。それを聞いたクウガは頷き、視線をゼクスへ戻した。先程の衝撃が相当大きかった事もあってかゼクスの体勢が安定していない事を見て、それを好機と思ったクウガはもう一度アクロゴウラムを発進させる。

 その車体が加速していき、先端の角の部分に封印エネルギーが集束していく。これならいける。そう強く感じながらクウガはそのままアクロゴウラムをゼクスへ突撃させた。

 

「がはっ!」

 

 最大時速八百キロ。その速度へ瞬時に到達し、封印エネルギーを加えたアクロゴウラムの突撃。その名は、ダイナミックスマッシュ改めダイナミックアタック。実はそれはアクロバッターだからこそ出せる一撃でもあった。

 アクロバッターはRXのハイブリットエネルギーを受けてアクロバットボーンと呼ばれる必殺技を放つ事が出来る。だがクウガにはハイブリットエネルギーはない。故にその繰り出された一撃は、かつてアクロバッターがバトルホッパーと呼ばれていた頃の技に近いものだったのだ。

 

 全身へ強い衝撃を受けたゼクスは軽く五十メートルは跳ばされて再び地面へ叩き付けられる。その身に受けた凄まじい威力のためかゼクスはその場から起き上がる事も出来ずもがいた。

 

「嫌だ! 死にたくないよぉぉぉぉぉ!」

 

 その叫びにクウガはゼクスを見て思わず顔を逸らした。その姿が怪人からセインそっくりの少女の姿に戻っていたためだ。その光景にクウガは心を痛めていた。いくら未確認と同じような存在とはいえ、少女を自分が殺す事になるとそう思ってしまったから。

 ゼクスの全身に浮かぶ封印を意味する巨大な文字。そのエネルギーがゼクスの全身に駆け巡り、行き場を失った膨大なエネルギーが起こす事は一つ。

 

「覚えてろ……クウガァァァァ!!」

 

 それは爆発。暴走したエネルギーに耐え切れず、ゼクスの体は爆散した。だが、その断末魔の内容にクウガは違和感を感じて顔を動かした。

 

「覚えてろって……どういう事だ……」

 

 それが地獄に落ちろなどの恨み言ならまだ彼も納得出来た。しかし告げられたのはどこか死に際には相応しくない捨て台詞。まるで仕返しをするとでも言っているような内容だとクウガには思えた。

 その意味を彼が考えているとRXがその場へ姿を見せた。するとその視線がクウガが乗っているアクロゴウラムへ動き、軽く戸惑いを見せたのだ。

 

「やりました先輩。ゴウラム合体アクロバッターボディアタックで」

「……長くないか、それは」

「えっ?」

 

 ぼそりと告げられたRXの一言。それが一条とのやり取りを彷彿とさせ、クウガは思わず声を出した。それに気付かずRXは少し考えて彼へこう提案した。

 

「ライダーアタックとかライダーブレイクにしたらいいんじゃないか?」

「あ、それいいですね! じゃ、ライダー……ブレイクで」

 

 そのどこか気の抜けるような返事にクウガらしさを感じてRXは内心苦笑しながら頷いた。そして視線をアクロゴウラムへ戻す。それにクウガも視線を動かし、静かにアクロゴウラムから降りた。

 すると、ゴウラムがアクロバッターから離れて互いに元の状態へ戻ったのだ。クウガはゴウラムが石にならない事に内心安堵しつつ、どこかで納得していた。

 

 やはりゴウラムとアクロバッターは似ていると。共に己の主人とも言える存在の呼びかけに応えて現れる事。意志を持っている事。何より、ゴウラムが融合したにも関らずアクロバッターに大きな異常も変化も無かったのだ。

 どこか疑問が消えないRXへクウガは簡単にゴウラムの事を話して聞かせて納得させた。そして自身がアクロバッターを呼べたように、RXもゴウラムを呼べるかもしれないと彼は告げたのだ。

 

「……そうか。ゴウラムは、君にとってのアクロバッターなんだな」

「多分そうです。言葉みたいなのも喋りますし」

「そうなるとやはりゴルゴムの技術は超古代のものが発祥なのか……」

「そうかもしれませんね。もしくは、ゴルゴムは間違った道を歩いた古代人で、昔のクウガが守った人達は正しい道を歩いた古代人かも」

 

 クウガの言葉にRXは不思議と納得した。怪人を使い、人間を支配しようとしたゴルゴム。それとは逆に怪人を倒して人間を守ろうとしたリント。ならばその歩き方は正反対だ。そう考えRXは思う。だからこそクウガの力は世紀王などと呼ばれる物ではないのだと。

 それは、守るための力。クウガは決して支配などをするための存在ではない。誰かを危険から守るためだけにある力なのだ。そう感じ、RXはクウガへ共に列車へ向かおうと告げる。それに彼も頷き、二人はそれぞれの相棒と共に動き出すのだった。

 

 

 光太郎が六課隊舎から走り去った直後、そこを目指して歩く小さな少女の姿があった。しかし、その周囲にはトイが合計二十はいる。それらを引き連れ、少女はゆっくりと六課隊舎を目指していたのだ。

 

「……あれが創世王様の障害、か」

 

 そう呟いてチンク似の少女―――フュンフは憎々しげに視線を隊舎へ向けた。その姿は、やはり髪の色以外はチンクそのもの。フュンフは片手を静かに挙げると、それを隊舎へ向けると一言告げた。

 

―――行け。

 

 それに呼応し、トイが一斉に隊舎へ向かっていく。だが、それを阻む者がいた。その者達の攻撃がAMFを搭載しているトイを軽々と貫いていく。物言わぬ残骸となった二機のトイを眺め、フュンフは微かに表情を歪める。

 

「私の邪魔をするのは誰だ?」

「烈火の将、シグナム」

「鉄槌の騎士、ヴィータ」

 

 二人の騎士はそう告げてフュンフの前に降り立った。二人は隊舎に接近するトイの反応を感知したロングアーチの要請を受け、こうして出動してきたのだ。だが、二人はフュンフを見て何か嫌な既視感を抱く。

 

(何だ……? 奴の気配、どこかで……)

(こいつ何かに似てるような……)

 

 何故か悪寒がする。どこかで近い感覚を感じた事がある。そこまで考え、彼女達はそれが邪眼と対峙した時だと思い出した。故に相手の外見に惑わされずに戦おうと気を引き締め直す。それをフュンフも感じ取り、歪んだ笑みを浮かべた。

 それに僅かにだが彼女達の表情が険しさを増す。邪悪な笑み。決してチンクならば浮かべぬだろう笑みに嫌悪感を抱いたのだ。どこまでも他者を見下すような印象を与えるその表情。そして、雰囲気に。

 

「守護騎士か。貴様らのデータは必要ない。いるのはアギトのデータだ」

「アギトのデータだと?」

「お前、どうしてアギトを狙ってんだ!」

「答える必要はない。創世王様に逆らった愚か者共に天誅を下す。それが私に与えられた使命なのだ」

 

 フュンフはそう言うと、手から何本もの糸を放つ。それは特別製の鉄糸。フュンフのISを生かすために作られた特殊装備だ。それをかわし、二人はフュンフへと迫る。だが、それにもフュンフは慌てる事もなく、むしろ嬉しそうに口の端を歪めた。

 それに違和感と同時に嫌なものを感じるシグナムとヴィータ。それが間違いでなかったと二人へ告げるようにフュンフは小さく呟いた。

 

―――爆ぜろ。

 

 その言葉を合図に鉄糸が爆発する。IS、ランブルデトネイター。金属にエネルギーを込め、爆発物に変える能力だ。鉄糸はいつの間にか二人の背後にも回っていて逃がす事なくその体を爆発へ巻き込む形となっていた。

 しかし、それであっさり終わるようなベルカの騎士ではない。爆煙が晴れた先にいたのは連結刃で身を守ったシグナムと、防御魔法を展開して事無きを得たヴィータの姿だった。それにフュンフは何の反応も示さず、再び鉄糸を放つ。

 

「同じ手は喰わんっ!」

 

 今度はそれをシグナムが連結刃で弾いた。そして、それと同時にヴィータがフュンフへ向かって魔力弾をぶつけるべく動く。手にしたグラーフアイゼンを振りかざし、前方に出現させた魔力弾を勢い良く叩き飛ばしたのだ。

 それがフュンフへ殺到しその体を煙が包む。それを見て二人は一旦距離を取った。何故だか切り込むのはしてはいけない気がしたのだ。まだ相手には何かある。そんな確信めいた予感があった。

 

【ヴィータ】

【ああ、分かってる。こいつはやべぇ】

「どうした? もう終わりか……?」

 

 煙の中から聞こえるフュンフの声。しかし、二人の前に現れた時、その姿は煙に包まれる前とは別人だった。それは蜘蛛。巨大な蜘蛛の怪物がそこにはいたのだから。二人はそれに息を呑む。

 やはり邪眼の関係者だと思った事だけではない。その異様と不気味さ。何よりもその邪悪さに嫌悪感が沸き起こったからだ。決してこの世界に存在していいものではない。そんな気持ちさえ抱く相手に彼女達は臆する事なく動いた。

 

「舐めるなっ!」

「行くぞっ!」

 

 騎士の誇りに賭け、この怪物を倒す。そう思って動く二人だったが、その攻撃をフュンフは避けようともしなかった。それに疑問を抱いた二人がその狙いに気付いた時にはもう遅かった。

 二人の振り下ろされるデバイス。その先に二機のトイが盾のようにやってきたのだ。身代わりになって沈黙するトイ。その瞬間を狙ってフュンフは口から糸を吐いた。それは、先程から使っていた鉄糸。それが二人を絡め取る。そして、即座に大気に触れ硬化した。

 

「どうだ、私の特製鉄糸の味は。これは大気に触れると瞬時に硬くなり、相手の動きを封じる事が出来るのだ」

「くっ……」

「駄目だ……動けねぇ……っ!」

「無様だな、守護騎士。まるで芋虫だ」

 

 フュンフの勝ち誇ったような声を聞いて、二人は足掻こうとするものの体を包む糸は微塵も解けそうにはない。それを見てフュンフは嘲笑いながらその足でヴィータを足蹴にしようとした。

 その時だった。突如、フュンフの体を封じるように緑のバインドが出現したのは。それにフュンフが驚くのと同時に二人を捕らえていた糸を何かが断ち切ったのだ。それは青い魔力光で出来た棘のようなもの。それが地面から突き出てきたのだ。

 

「「っ!」」

「ちっ、残りの守護騎士か!」

 

 体が自由になったのを感じるや否や二人はその場から離れる。それを忌々しげに見つめるフュンフの視線の先には騎士甲冑に身を包んだシャマルとザフィーラの姿があった。

 

「シグナム、ヴィータちゃん、大丈夫?」

「してやられたようだな」

「ああ」

「悪い。助かった」

 

 シャマルとザフィーラと並ぶように移動し、シグナムとヴィータはデバイスを構える。そして念話で彼らへ告げたのだ。相手の吐く糸に気をつけろと。それを聞いていたかのようにシャマルのバインドを破壊したフュンフが動き出した。

 それに反応し、四人もそれぞれ動き出す。シグナムとザフィーラが前線を務め、ヴィータがその援護をするように動き、シャマルは後方から支援と指示を出す。ヴォルケンリッターとしての本領発揮とばかりにチームとなって戦う四人。

 

 そのまま彼らはフュンフの吐く糸に気をつけながら、その連携を以って少しずつではあるが怪人を追い詰め始めた。だが、それもすぐに終わりを迎える。そこへ厄介な存在が現れたのだ。

 それは、フュンフを劣勢に追いやっているシグナム達へ凄まじい速度で接近。そしてそのまま後方のシャマルへ襲い掛かった。

 シグナムとザフィーラがその存在に気付いた時にはもう遅かった。ヴィータが何とかそれを阻止しようとするものの間に合わず、その刃はシャマルが展開した防御魔法をあっさりと切り裂いていった。

 

「きゃあぁぁぁぁっ!」

 

 彼女の腕から流れる鮮血を見て、シグナム達に悔しさと怒りが浮かぶ。それでも即座に三人はシャマルの傍へ移動し、守るようにフュンフと突然現れた相手を睨み付けた。

 

「何を手間取っている、フュンフ」

「ドライか。何、少し遊んでいただけだ。もう終わらせようと思っていた」

「良く言う。苦戦していたではないか」

 

 黒髪のトーレ―――ドライはその言葉を鼻で笑い、視線をシグナム達へと移した。何とかシャマルは自分で傷を癒しているものの、そのダメージは大きくこれ以上の戦闘は厳しいと言わざるを得ない。

 そう判断したのかドライはつまらなさそうに鼻を鳴らすとその姿を変える。それは蟷螂。両手が鋭い刃となり、不気味な目でシグナム達を見つめながら隣のフュンフへ告げた。

 

「不本意だが創世王様のためだ。ここは共闘するぞ」

「ふん! お前が手を出したいのなら勝手にしろ」

「チッ! 誰が好きで貴様などに手を貸すものか」

 

 ドライの手助けをまったく感謝もしないフュンフ。むしろ余計な事をと言いたそうだった。それにドライも苛立ちを感じた事を隠そうとしない。そのやり取りを聞き、シグナム達に焦りが生まれる。

 四人で息を合わせ何とか怪人を追い詰める事が出来ていた。だが、それがもう一体増え尚且つシャマルは負傷した今、劣勢となるのは必至だった。加えてシャマルの守りのためにザフィーラを後方に下げなければならない。

 

 そう考えた四人は視線を互いへ向けた。その眼差しに宿る光を見て、四人は揃って頷いて構える。

 

 決して諦めない。そうその輝きは言っていたのだ。守護騎士として、そして仮面ライダーと共に戦った者としてここで退く訳にはいかないと。能力では劣るとしても、せめて気持ちだけはライダーと同じように強くありたい。

 それが彼らを支えていた。例え勝てない相手だとしても、自分達の後ろには守りたい者がいる。ならば、背を向ける事等出来るはずはないのだ。力の限り戦い、それを守る事。それこそが、彼ら守護騎士の役目なのだから。

 

「ヴィータ、あのカマキリは私がいく」

「分かった。あたしはあのクモだな」

「ザフィーラ、二人のフォローをお願い」

「心得ている。だが、お前を守る事が最優先だ」

 

 どこか悲壮な雰囲気さえ漂わせる四人だったが、そこに二つの声が聞こえた。

 

「シャマルは私が守ろう」

「カマキリは俺が引き受けます!」

 

 その声に四人の視線が動く。そこにいたのはリインと翔一だった。シグナム達の危機を知り、はやてがリインへ念話で救援を頼んだのだ。そして、翔一は彼女と共にこうして四人を助けるべく付いて来た。ライダーとしてだけでなく、八神家の一員として家族を守るために。

 はやてはまだなのは達が任務中のためロングアーチを離れる訳にはいかない。それに相手が怪人でははやてはむしろ不向き。故にリインと翔一に頼るしかなかったのだ。そのはやての気持ちを二人は背負ってきたのだから。

 

「「「「アイン! それに翔一(さん)!」」」」

 

 自分達の家族が助けに来た事に喜び、四人に明るさが戻る。リインは素早くシャマルに近付くと治療魔法を掛け始め、翔一は二体の怪人の前に立つように歩き出す。それを見て二体の周囲に残ったトイが集まり出した。

 

「シグナムさんとザフィーラさんでクモを頼みます」

「ああ」

「任せろ」

 

 頼もしい返事に翔一は頷き、視線をヴィータへ移す。その視線はどこか申し訳なさそうだ。

 

「ヴィータちゃんは、残った機械の相手を頼んでいいかな?」

「……それはいいけどよ、終わったらお前の助けに入ってやっからな」

 

 やや照れくさそうにヴィータはそう言ってトイへ向かって動き出す。そしてシグナムとザフィーラがフュンフへ挑みかかり、翔一はドライを見据えて構える。

 

「変身っ!」

 

 一瞬にして姿を変えてアギトはドライへ敢然と立ち向かう。それを見守るように見つめるシャマルとリイン。こうして隊舎前で二つの怪人戦が始まった。丁度そこへ近付く大勢の人影がある。それに真っ先に気付いたのは当然ロングアーチの面々だ。

 

「はやて部隊長、隊舎近くに多くの人間が近付いて来ています!」

「何やて?」

「あ、待ってください。首都防衛隊から通信です。……彼らの多くは民間協力者で、一人だけ局員だそうです。所属は陸士108」

 

 シャーリーの告げた言葉にはやての表情が変わる。108は彼女の恩師とも言うべき男性が部隊長を務める部隊だったからだ。それを考え、はやては通信を開かせる。モニターに映った相手は彼女も何度か会った事のある相手。ゲンヤの娘のギンガだった。

 どうしてここにとはやてが問い質す前に彼女ははっきりと告げた。援軍に来た、と。そして、その周囲にいる者達の顔を見てはやては驚いた。そう、チンクとトーレを見たからだ。

 

 ウェンディのISで飛行出来ないチンクとディエチは運ばれ、トーレのように空を飛べる者は飛行し、ギンガとノーヴェは共に真司の腕を抱えるようにして走っている。アギトはそんな真司の肩に乗っていた。ちなみにセインは邪魔にならないようにとISで地面の中を移動中。

 

『ぎ、ギンガ、その子達は……』

「民間協力者です! 詳しい説明は後でします! 今は、手伝いの許可を!」

 

 はやての言葉を遮ってギンガは切羽詰った声で告げる。その視線の先には十数機のトイを相手にやや苦戦するヴィータがいたのだ。それをはやても気付き、躊躇う事無く頷いた。

 

『ギンガ陸曹、協力感謝します』

「いえ、ではまた後ほど……」

 

 通信が切れた瞬間、今度は別のモニターが出現した。それにはウーノが映っている。

 

『トイを連れて現れた相手は、どうも私達のコピーから作られた怪物よ。今、六課の人間が戦ってるわ』

「成程、だからはやてさんがどこか驚いてたのか。了解。なら、真司さんはここで」

「ちょ、ちょっと待って。今降ろされたら……おわっ!」

 

 ギンガはノーヴェへ目配せし真司を放す。ノーヴェもそれに応じて腕を放し、彼は地面に尻餅をつく形で着地。そのままギンガは走り去り、ノーヴェもその後を追うように走り抜ける。更にウェンディ達やトーレ達が通り過ぎて行く。

 それを見送る形になりながら真司は小さくため息を吐いて立ち上がった。と、その足元からセインが現れると胸元からコンパクトを取り出す。その意図を計りかねる真司へ彼女はそれを向けて笑う。

 

「真司兄。ほら、これで変身していきなよ」

「まだギンガは真司の力を知らないからしょうがないって。でも、これで教えてやれよ。真司は、強くて優しい仮面ライダーだってさ」

 

 そう言ってセインとアギトが笑う。真司はそれに頷き、取り出したデッキを構えた。それを合図にその腰へVバックルが装着される。次の瞬間、そこへ真司はデッキを挿入した。

 

「変身っ!」

 

 その体に鎧を纏う真司。それを見てアギトとセインも頷いた。そこには赤き龍騎士がいたのだ。

 

「っしゃあ!」

 

 真司が龍騎へ変わったのを見てセインは走り出す。その後を龍騎も負けじと追って走り出した。アギトは龍騎と並走するように飛び、戦場へと向かう。トイの相手はトーレ達に任せ、自分は怪物の相手をしなければ。そう思って龍騎は急ぐ。そこで待つ異世界の仮面ライダーとの出会いを知らずに。

 

 

 フュンフと戦うシグナムとザフィーラだったが、やはり苦戦を強いられていた。吐き出す糸は身動きを封じるだけではなく爆発して攻撃にも使える厄介なものだったために。先程まではその使い道をしていなかった事を思い出し、二人はフュンフが言った遊んでいたと言葉はハッタリでは無かったと感じていた。

 そんな時、シグナムの左腕が何かに当たる。それが硬質化した糸だと気付き、彼女は即座に離れた。しかし、それを気付かぬフュンフではない。瞬時に糸は爆発を起こし、シグナムへ少なくないダメージを与えたのだ。

 

「くっ!」

「ここはもう私の巣だ。お前達に勝ち目はない」

 

”AD VENT”

 

 獲物を追い詰めたと言わんばかりのフュンフ。そこへ何かの音声が響き、燃え盛る炎が押し寄せた。それに糸が次々と燃やされ消えていく。その光景を見た三人の視線が一斉に同じ場所へ動いた。そこには赤い龍がいた。口から高温の炎を吐き、邪悪な巣を焼き払うドラグレッダーが。

 そして、その龍の隣には騎士がいる。手には剣を持ち、体を銀色の鎧で包んだ騎士。それを見て、シグナムとザフィーラはどこかクウガ達と同質の安心感を感じた。一方のフュンフはその姿に苛立ちを感じていた。

 

「龍騎か。貴様もここに来るとはな!」

「龍騎?」

「それが奴の名か」

 

 忌々しげに吐き捨てるフュンフ。それでシグナムとザフィーラは乱入者の名を知る。龍騎はそんな言葉を聞いても何も反論せず、シグナム達へ視線を向けた。

 

「俺も手伝います! こいつ、早くやっつけましょう!」

 

 その言葉と雰囲気に二人は五代や翔一と似た印象を龍騎から感じ取った。故に互いへ視線を向け頷き合い、龍騎へ頷いてみせる。それに龍騎も頷いて、三人はフュンフへ対峙した。その構図に若干フュンフが警戒した瞬間、シグナムの一撃が反撃の口火を切った。

 

「紫電一閃っ!」

 

 放たれるシグナム自慢の一撃。それにフュンフも微かにではあるが怯み、そこを突く形で龍騎とザフィーラが動き出す。そんな光景を遅れてきたアギトは見て驚いていた。シグナムが使う燃え盛る炎。その騎士然とした雰囲気。何よりも、直感で感じ取ったのだ。シグナムは自身と相性が良い相手だと。

 烈火の名を持つアギト。同じくシグナムも烈火の名を持っている。だがアギトはそれを知らぬでも感じ取った。自分のロードになる資格をシグナムが有していると。その瞬間、アギトは真司との約束を思い出した。

 

 彼と違い、普段から融合係数の高い相手を捜し、気に入ればそちらをロードにする事。

 

(アタシは真司をロードって決めた! でも、真司と約束したし……)

 

 信念と約束の間で揺れるアギトの前で龍騎達の戦いは続いていた。フュンフの吐く糸が一番警戒するべき攻撃と判断した三人は、それを何とかしようと動き出していた。

 

「そこだ!」

 

 まずザフィーラの魔法がフュンフの糸を防ぎ、更にその手を固定する。それを好機と捉え、シグナムがレヴァンテインを振り払った。それと同時に排出されるカートリッジ。それは剣を別の形へ変えるための予備動作。

 

”シュランゲフォルム”

 

 連結刃となったレヴァンテインを動かし、フュンフを攻撃するシグナム。それを糸で絡め取りフュンフは攻撃を防いだかに見えた。

 

「な、何っ!?」

 

 だが、糸はレヴァンテインの周囲を炎が包んだ事で燃やされ消える。シグナムの魔力変換資質は炎。それを使って彼女は魔力でレヴァンテインを燃やして糸を断ち切ったのだ。

 先程ドラグレッダーが炎を使って糸を焼き払っていた事。そこからシグナムは糸が高温の炎に弱い事を見抜き、これを狙っていたのだ。こうして自由を取り戻したレヴァンテインは、そのままフュンフへと襲い掛かる。

 

「飛竜、一閃っ!」

 

 放たれたシグナムの一撃が怪人の体を炎で包む。もがき苦しむフュンフの隙を見逃さず、ザフィーラがバインドを口へ出現させた。更に周囲を包囲するように魔法の棘を展開し完全に怪人をその場へ封じ込める。

 

「ここだっ!」

 

 二人が作り出した最大のチャンス。それをものにせんと龍騎は一枚のカードを取り出した。それは彼のマークが描かれたもの。

 

”FINAL VENT”

 

「トドメは任せてくれ!」

 

 龍騎はそう二人へ告げてその場で構える。それをシグナムとザフィーラだけでなくトイを片付けたヴィータ達も固唾を飲んで見守った。龍騎の周囲を巻きつくように動くドラグレッダー。そして、龍騎はその場から大きく跳躍した。

 その瞬間、龍騎のやろうとしている事を知るセインなどは全員勝利を確信し、シグナム達はその体勢から繰り出される技を想像し、同じような印象を受けていた。そう、それは邪眼を倒したクウガとアギトの姿を思い出させるもの。赤い体のライダーが放つ必殺の一撃なのだから。

 

「うおぉぉぉぉっ!!」

「お、おのれぇぇぇぇ!!」

 

 ドラゴンライダーキックがフュンフを蹴り飛ばす。その衝撃でバインドが壊れるものの、フュンフは自由を取り戻す事もなく地面を二転三転しながら断末魔と共に爆発し果てるのだった。

 龍騎がこうやってシグナム達と協力して怪人を撃破したように、少し離れた場所で戦うアギトもまた魔法世界の者達の協力を受けて怪人との戦いを行う事となる。

 

「ぐっ!」

「ふんっ! その程度か、仮面ライダー!」

 

 ドライの高速機動にアギトは翻弄されていた。トーレ以上の速度を出すその力の前に遂にアギトがその場から大きく飛ばされる。だが、距離を取った事でアギトはベルトの側面を叩いてその姿を変えた。

 それは赤い体。五感が鋭くなるフレイムフォームとなったアギトはベルトからフレイムセイバーを取り出すと静かに構える。それを見たドライは警戒する事もなくISによる高速機動で接近した。

 

「ふんっ! 姿を変えたところで私の動きは」

「はぁ!」

 

 超感覚を発揮するフレイムフォーム。それは、かつて邪眼の電撃を切り払ってみせた程の恐ろしさ。故にその場で静かに佇めば、接近してくるドライを捉える事は造作もない事だった。

 ドライの言葉を遮るように繰り出された一撃は、完全にその動きを捉えてその肩に浅くない傷を付ける。その痛みにドライが表情を歪めた。その傷のために僅かにだが速度が落ちたのを見逃さず動く者がいた。

 

「IS、ライドインパルス!」

 

 それは高速戦闘を得意とするトーレだった。彼女はトイの相手を妹達に任せ、一人アギトの援護に来たのだ。理由は特にない。強いてあげるのなら、龍騎が六課の援護を受けていたので彼女もアギトの援護をしに来ただけだろう。

 その色合いがどこか龍騎を思わせるものがあったのも関係しているかもしれない。ともあれ、トーレのブレードの一撃がドライの肩にアギトのそれ程ではないが傷を作った。

 

「ぎゃぁぁぁ!」

「私と同じ声で叫ぶな。気分が悪くなる」

 

 不意打ちの一撃による痛みからドライが上げた絶叫。アギトの隣に降り立ったトーレはそれにそう嫌そうに告げる。アギトはその言葉でトーレとドライの声が同じ事に気付き、納得するように頷いていた。そして思い出したように頭を下げたのだ。

 

「ありがとうございます。助かりました」

「……礼はいい。ちっ、来るぞ!」

 

 アギトの低姿勢にやや面食らいながらも、トーレは視界の隅で立ち直るドライを見て鋭く告げる。そこへ二つのブーメランが飛来し、ドライの動きを阻んだ。それを見たトーレは苦笑し、アギトは驚いた。

 それをやってのけたセッテは戻って来たブレードを腕に付け直しながらドライを睨む。敬愛する姉と同じでありながら異形となった相手。そして、その醜い在り様に怒りを燃やしていたのだ。

 

「トーレ姉上、私も助太刀します。それと」

「あ、俺はアギトです。仮面ライダーアギト」

「「仮面ライダー!?」」

 

 アギトの名乗りにトーレとセッテの声が重なる。龍騎から話を聞いている二人にとって、仮面ライダーとは龍騎と殺し合う存在でしかない。しかし、何故かアギトはそんな二人の反応に驚く事もせず、何かに弾かれるようにその場を動いた。

 

「危ないっ!」

 

 アギトのフレイムセイバーが視線を逸らしていたトーレを狙い放たれたドライの鎌を防ぐ。それにトーレは我に返ると同時に思う。目の前の相手は誰かと殺し合うような性格ではないと。根拠はない。だが、その行動にトーレはアギトを今は味方をしてもいい相手と思う事にした。

 

「セッテ、今はまずこの化物を倒すぞ。詮索はそれからだ」

「心得ました」

 

 そう思ってのトーレの言葉。それにセッテも同じような印象を抱いたのか特に反論もなくそれに頷いてみせた。そして彼女は二人の横へ移動すると身構える。相手が三人となった事に不快感を感じるドライは威嚇するかのようにその手を擦り合わせていた。

 

「アギトと言ったな。後で少し聞きたい事がある」

「はいっ!」

「アギト、か。彼女の名と響きが同じですね」

「言ってる場合か。行くぞっ!」

 

 三人はそれをキッカケにドライへ向かっていく。既に龍騎達の方も大詰めになっている事をトーレは感じ取り、セッテと一計を案じる事にした。アギトはそれを知らず、ドライの動きを見切ろうと神経を研ぎ澄ませる。

 トーレとセッテは二人してドライの高速機動の要を見破っていた。それは、背中の羽。それがトーレ以上の速度を出させ、そして制御しているのだ。故に、それをどうにかしようと考え、トーレはセッテのISを使って動きを制限させる事にした。

 

 スロータアームズにより、二つのブレードが前後からドライを襲う。それをかわそうとするドライだったが、その瞬間左右からトーレとセッテが突っ込んだ。その体に取り付き、動きを僅かにだが鈍らせるために。

 

「ぐっ! 貴様ら、離れろ!」

 

 二人の狙いを理解し振り払おうとするドライだったが、それの成功と引き換えに羽を切断される事となった。振り払う事に気を取られたために前後から迫るブレードを避け損ねたのだ。

 結果、綺麗に切断されるドライの羽。それがドライの姿勢と速度を乱す。その時を待っていた二人は素早く動きドライの体をアギトの方へ向かって蹴り跳ばした。

 

「「後は頼む!」」

 

 その声にアギトは頷くでも声を返すでもなく、手にしたフレイムセイバーの鍔を展開させる事で応えた。バランサーでもあった羽を失い体勢を整える事が出来ないドライをしっかりと見つめ、アギトはその手にしたフレイムセイバーを構えた。

 眼前に迫るドライをアギトはその手にしたフレイムセイバーで迎え撃つ。それはさながら居合の達人のような雰囲気さえあった。何とかアギトの攻撃を軽減しようと両手の鎌で防御するドライ。

 

「はあぁぁぁぁっ!」

 

 しかし、その行動は意味を成さない。一刀両断とばかりにセイバースラッシュが見事にドライの体を切り裂いたのだ。そして、その体は左右に分離しそのままアギトの横を通り過ぎると後方で爆発するのだった。

 

 

 

 ウイングロードの上でスバルとティアナはクウガと入れ替わるようにやって来たなのはとフェイトに事情を説明し、二人を驚かせていた。怪人の存在もそうだが、それが人の姿をしていた事が恐ろしい意味を持っていたからだ。

 そう、それは怪人が日常に紛れる事が可能だと言っているようなもの。しかし、彼女達は知らない。そもそも仮面ライダー達はその日常に潜む闇を見つけ、影となって戦い続けていたのだから。

 

「……そう。それで、今は五代さんが怪人をね」

「はい。光太郎さんのバイクが走って来て、そしたら大きなクワガタがそれにくっついて……」

 

 なのはの言葉にスバルが興奮気味に話し出す。その荒唐無稽な話を聞いてなのはもフェイトも軽い疑問を感じたが、ティアナがそれを肯定したのでそれが事実だと信じる事にした。

 ゴウラムの事をただクウガの仲間としか聞いていないなのはとフェイトとしては、また聞く事が出来たと思った。それとは逆に、アクロバッターが勝手に動く事はあの空港火災の際に知っているので、そちらには納得していたが。

 

 するとそこへフェイトの指示でエリオをヘリに運び終えたキャロがフリードと共に現れた。その巨大なフリードの姿にスバルとティアナは驚きを見せ、なのはとフェイトはそれが意味する事に驚きよりも笑みを見せた。

 そしてフォワードメンバーの疲弊具合を考え、なのはとフェイトは同時に同じ決断を下す。即ちここからは自分達の仕事だと。だが、それは決してスバル達が役立たずだからではない。それも含めて指示を出そう。そう考え二人は視線を向け合った。

 

「列車の方は私達で何とかしよう、フェイト隊長」

「そうだね。キャロ、スバルとティアナをフリードに乗せてあげて。六課での初出動でいきなり厄介な存在を相手によく頑張ったし、大事を取って今日はもうヘリで六課へ戻って休んで」

「お疲れ様。今日は訓練を休みにするからゆっくり休んでね」

「「「お疲れ様です」」」

 

 フェイトの言葉に三人はどこか疲れた顔で嬉しそうに笑みを浮かべ、なのははそんな彼女達に微笑ましいものを感じながら心からその頑張りを称えるように告げた。それにしっかりと返事を返すスバル達。

 なのはとフェイトはその様子からスバルとティアナの心の強さを見せられ、互いに念話で嬉しそうに話していた。

 

【まさか、怪人相手に立ち向かえるなんてね。スターズコンビは凄いな】

【にゃはは、昔の私達よりも凄いもんね。怪人相手に二人なんて、今でも少し不安だもん】

【そうかも。でも、もしそうしなきゃいけないってなったら……】

【勿論やってみせるよ。私とフェイトちゃんだけでも倒してみせるから】

 

 強がりではない何か。それがそのなのはの声には宿っていた。フェイトもそれを感じ取り、頷いてみせる。彼女も同じなのだ。決してあの頃と同じにはならない。いつまでも怯えるだけの自分達ではないとの想いがそこにある。

 今度怪人と対峙する時には毅然と立ち向かってみせよう。そう思ってフェイトは視線をキャロへ向けた。スバルとティアナがフリードへ乗れるようにするキャロは頼もしい表情をしていた。出会った頃の脆そうな印象はまったくない。

 

(私を強くしてくれる支え。それが、今は沢山増えた。あの頃とは違うんだ……)

 

 拳を握り、フェイトは力強く自分に言い聞かせる。もうライダーの背中を見つめるだけではない。その背を支える事が出来るようになってみせる。それだけの強さを手に入れたのだ。力ではなく、心を鍛えて。

 なのはは、今はその柱にクウガとユーノを据え、フェイトは、RXにエリオとキャロを据えた。二人は知らないが、はやては当然アギトと家族達を据えている。あの邪眼との戦いで三人の少女が得たのは恐怖だけではなく決意と覚悟。

 

 そして、強い希望と可能性。仮面ライダーの存在がもたらす奇跡。それを目の当たりにしたために、三人は強く願ったのだ。今度共に戦う事があるのなら、背中を見るだけではなくその背を守りたいと。

 

 それは、守られる存在ではなく共に歩む存在になりたいというもの。力は及ばずとも、せめて心だけは同じ場所にいたい。それは、仮面ライダーと共にあった者達が揃って抱く想い。魂だけは、魂ぐらいは共にありたい。

 仮面ライダーになりたいとは、絶対思わない。それは彼らに対する裏切りだ。望んで得た力ではない。それをなのはもフェイトもはやても知っている。ならばそれを求めるなど論外。自分達は今のままで足掻く。

 

((それが、ライダーと共にあるための最低条件……だよね))

 

 そう想い、二人は何かに気付く。そう、それはバイクの駆動音と何かの飛行音。どうやらスバル達もそれに気付いたようで、視線をそちらに向けて輝く笑顔を見せていた。それになのはとフェイトもその相手を理解し、笑顔を浮かべてそちらへ振り向いた。

 

 そこには、列車と並走するように走るアクロバッターに乗ったRXとゴウラムに掴まるクウガの姿があった。六課の初任務はこうして終わりを迎える。フォワードメンバーは未知なる敵を前に一歩も退かない強さを見せ、なのは達は改めてこの部隊の可能性を見出した。

 

 その頃、六課隊舎前は異様な雰囲気に包まれていた。その原因は互いに見つめ合って沈黙するアギトと龍騎。自分達と共通点の少ない龍騎に疑問符を浮かべているアギトと、仮面ライダーは基本自身と敵対する者と考える龍騎。

 そのため、互いに相手の出方を窺っていたのだ。どう会話を切り出そう。そう考える二人をシグナム達とナンバーズ達は見守るのみ。一人ギンガはどちらの立場にもなれず居心地が悪いように困惑していた。

 

「あんたも……ライダーなんだ」

「はい。貴方も仮面ライダーなんですか?」

「まぁ。で、どうする?」

「えっと……何をです?」

「俺と戦うのかって事。あんたにも叶えたい願いがあるんだろ?」

「え? 願いって?」

 

 どこか互いの認識が違うような受け答え。それを聞いて、周囲も疑問を浮かべた。そして至ってシンプルな答えに辿り着く。

 

「真司、どうもこいつはお前の知っているようなライダーとは違うようだ」

「翔一、どうやらあいつはお前とは違う世界のライダーらしい」

 

 チンクとシグナムの言葉に両者はとりあえず変身を解除する。そして、そこで真司は完全に翔一が自分とは異質のライダーだと悟る。カードデッキを所持していない事に気付いたのだ。つまり、それは自分と違い、デッキの力で変身している訳ではない証拠。

 そこまで考えて真司は先程までの自分の発言を詫びた。挑発的だったからと。それに翔一も頭を下げた。ちゃんと事情を話すのが遅くなったせいで誤解を与えたんだからと。それに真司がそれは自分だと返し、翔一も負けじと自分がと言い始め、このままでは埒が明かなくなると踏んだ周囲が動いた。

 

 翔一をシグナムが、真司をチンクが止める事で謝罪合戦は不発に終わったのだ。

 

「丁度ええ感じにみんなおるか」

 

 そこへロングアーチから解放されたはやてが現れ、全員に任務の成功と怪人が他にも現れていた事を告げた。列車の暴走はRXがロボライダーになり、ハイパーリンクを使って制御を奪い返して事無きを得た。

 また、その二体も創世王の手下だった事やセインとクアットロにそっくりだった事を告げられると真司達から怒りが漂い出した。それにはやても共感出来るため、若干怒りの色が顔に宿った。

 

「ま、それもクウガとRXが倒してくれた。でも、気になる事をクウガが言うとってな」

「何?」

「覚えてろ言って死んだらしいんよ。それがどうも気になったみたいで」

『おそらく邪眼はプロジェクトフェイトを使って怪人をコピー出来るのでしょう』

 

 ウーノの言葉を聞いたはやての表情が変わる。そう、それは下手をすれば今回の比ではない怪人軍団がいつ襲って来るか分からない事を意味していたのだから。

 故にはやては表情を真剣なものへ変えて考え出す。そうなった場合どうやって対処するか。また被害を抑えるためにはどうするべきか。それらを目まぐるしい速度で考え始めたのだ。

 

「でも、おかしいよ」

「何がだ、セイン」

「だって、コピーを作れるのなら今だって何体も送ってくれば良いじゃん」

 

 そのセインの言葉に全員が盲点を突かれたように黙った。そして邪眼は何らかの理由で同じ人物のコピーは一体しか作れないのではないか。そうセインが結論付けようとした。だが、それを聞いて異を唱える者がいた。シャマルだ。

 

「待って。もしかしたら、邪眼は遊んでいるのかもしれない」

「どういう事や?」

 

 シャマルはフュンフの言っていた遊んでいたと言う言葉を出して、こう告げた。邪眼は一気にこちらを押し潰そうと出来るからこそ、敢えて遊んでいるのではないか。いつでも倒す事が出来る。故に少しずついたぶるような手段を選んでいると。

 

 そう考えれば、色々と納得が出来る点も多い事も理由になった。最初にジェイル達のラボを奪った時も全員で襲い掛かれば龍騎達を倒す事が出来た。それにも関わらずしなかった。それをクアットロが告げるとはやてもシャマルの考えを理解してそれに続いた。

 そう、今回の列車襲撃もそうだったのだ。レリックを奪えたにも関らず、敢えて奪わず伝言を伝えるために残していた。それにさっきの隊舎襲撃もそう。その気になれば、あの二体以外にも怪人を投入して攻め込み、ライダーが三人揃っていたとしても六課を壊滅させる事が出来たはずなのだから。

 

 挙げられていく内容を聞き、全員が邪眼への怒りを燃やしていた。侮られている。しかも、徹底的に。いつでも倒せると言わんばかりの対応をしている邪眼。それに正直に怒りを吐き出し悔しがる程、この場にいる者達は自惚れてもいなかった。

 確かに怪人を大量に送り込まれれば現状では対処し切れないのは間違いないからだ。仮面ライダーがいかに強いとはいえ、人数は限られている。同時多発的に襲撃されれば手が足りない場所がどうしても出てくるのだ。

 

「……奴は、我々を使ってゲームをしているとでも言うのか」

「それが一番近い認識でしょうね。悔しいけど、私達じゃ怪人を一人で倒す事は出来ないから」

 

 どこか怒りを秘めたようにシグナムが呟いた言葉をシャマルが悔しそうに肯定してみせる。それを聞いて翔一と真司以外の者達が一様に拳を握り締めた。ライダーのように一人で怪人を倒す事が出来れば。そう思って誰もが無力感を感じていたのだ。

 

「な! 兄貴やこいつがいるじゃないか! 他にもライダーがいるんだろ? なら」

「ノーヴェ、いくら真司達が強くても精々相手出来て二体が限度だ。しかも、奴等は私達のISと素材となった生物の力を組み合わせて使ってくる。苦戦は免れんだろう」

 

 トーレの諭すような言葉にノーヴェが悔しそうに唇を噛む。真司や翔一はそんなノーヴェに掛ける言葉がなかった。ノーヴェが感じている悔しさは彼らの悔しさでもあるのだ。大量の怪人に対する無力感。それを二人はライダーであるが故に余計に感じていた。

 

 そんな時、そこへゼスト達が遅れて現れた。真司達がそれに気付き、はやて達は何故ゼスト達がここへと思いその説明を求めた。そこでゼスト達が真司達を保護していた事を聞き、全てを納得出来たのだ。そしてそれを受けてならばとはやてが口を開いた。

 

「グランガイツ部隊長、真司さんだけでも機動六課へ預けてもらえないでしょうか?」

 

 突然の勧誘。しかも相手は次元漂流者ともいえる者だ。その申し出にゼスト達は困惑するが、はやてがロングアーチに言って出現させたモニターを見て言葉を失った。そこには醜悪な怪物と戦うアギトや龍騎の姿が映し出されていたのだ。

 

「これが仮面ライダー……そして、これが六課の敵」

「不気味……なんてものじゃないわ。これは具現化した恐怖そのものよ」

 

 息を呑むようなメガーヌとクイントの言葉を聞き、はやてとゼストは視線を交わす。

 

「グランガイツ部隊長。これらは間違いなくライダーを狙ってきます。こないな事は言いたくありませんが、今回の事で真司さん達をそちらが預かっている事を怪人達は知ったはずです。次の襲撃があればクラナガンの危機に繋がる可能性も」

「八神二佐、そちらは何か勘違いしているようだ。こちらには城戸達を引き渡す権利などない。その身の振り方を決めるのは彼ら自身ではないだろうか」

 

 ゼストはそう言って真司達を見る。ナンバーズはそれに少し戸惑いを見せるが、真司は翔一へ向かって力強く告げた。

 

―――俺、戦うよ。仮面ライダーとして怪人や邪眼と。あんた達と、翔一さんと一緒に。

―――ありがとうございます。邪眼を倒して平和を取り戻しましょう!

 

 笑顔を見せ合う二人。それを見てナンバーズも意を決した。ゼスト隊でも邪眼とは戦えるだろう。だが、六課は邪眼対策の部署としての意味合いが強い。つまり、ゼスト隊よりも邪眼に関する情報や戦いは多い。

 それは自分達の家を取り戻すための力が手に入るという事でもある。その最終目的を果たすため六課に協力するのも悪くない。そう判断したのだ。それにこのままでははやての言った通りクラナガンの街に多大な被害を出す事も考えられる。

 

 それを考慮し、彼女達もまた六課へ身を置く事を決めた。どこかで翔一達異世界のライダーに興味を抱いたのも要因の一つとして。周囲の反応を見てゼストとはやては薄く笑みを浮かべた。

 

「どうやら決まったようだ。少々出過ぎた物言いをした事をお許し願いたい」

「いえ、わたしこそ局員としての嫌な部分をお見せしてしまいました。なのでそれで御相子としてください」

 

 両部隊のトップ同士が話をする横では、新しく加わる事が決まった真司達へ翔一達が笑顔を向けていた。

 

「互いの自己紹介は後でするとして、とりあえず俺達はどうしたらいいんだ?」

「あ、すみません。俺、食堂戻らないといけないんです。料理の仕込み途中なんで」

「待て翔一、私も行く。では主、また後ほど」

 

 真司の問いかけに翔一はそう思い出したように言って隊舎内へ走り出あい、リインもそれを追うように走り去る。それを聞いて真司が何故か腕まくりを始めた。その理由を即座にナンバーズだけが悟り、苦笑を浮かべた。

 

「よし、じゃあ俺達も手伝うか。行くぞディード、ディエチ、チンクちゃん」

「はい」

「うん」

「まったく、お前と言う奴は……」

 

 真司を先頭に走り出す四人。彼らは翔一達を追い駆けるように隊舎へと向かって行く。その背を見送るノーヴェだったが、このままここに留まるのも嫌だったのかぽつりと呟いた。

 

「……アタシも行くか」

「お、ならアタシも行くッス。手伝いは多い方がいいッス」

「あ、あたしも行く!」

 

 ノーヴェとウェンディが仲良く走り出せば、セインが置いていくなとばかりにその後を追い駆け始めた。その姿を見て周囲の者達は微笑んでいた。その一人であるセッテもこのままではいけないと思ったのか視線を動かす。

 

「トーレ姉上、クアットロ姉上、私達も行きましょう」

「……まぁ、世話になるのだしな」

「そうねぇ。初めが肝心とも言うし……」

 

 セッテが歩き出すのをキッカケにトーレとクアットロもそれに続いて動き出す。こうしてその場に残ったナンバーズはオットーのみとなった。そんな彼女はモニターに映る姉二人へ今後の動向を尋ねていた。

 

「ウーノ姉様とドゥーエ姉様はどうするのですか?」

『ドクターと一緒にそちらへ行くわ』

『構いませんか?』

 

 ドゥーエがそう答えりとウーノがゼストへ許可を求める。それにゼストが苦笑気味に頷くとモニターが消えた。それに呼応するように彼はメガーヌへ転送魔法を使って隊舎へ戻るよう指示を出す。その意図を察し、メガーヌとクイントが若干苦笑した。

 それを後目にオットーが動き出そうとした瞬間、これまでの流れを眺めていたヴィータが六課を代表して呟いた。

 

―――お前ら、馴染むの早そうだな。

 

 その言葉にオットーの後を追おうとしていたアギトが笑みと共に答えた。

 

―――おう。真司がいるからな。

 

 その言葉に何故か全員が心から納得した。そんな周囲の反応に楽しそうな笑みを浮かべてアギトはオットーの後を追う。それから遅れる事少ししてはやて達も隊舎目指して歩き出し、ゼストを先頭にクイントとギンガもそれについていく。

 ゼストははやて達六課の人間へジェイルの事を話す必要もある。クイントとギンガは怪人達と六課が戦う以上この事件はもう他人事ではないからだ。その情報や対処なども話し合うべき。そう考えて三人も六課隊舎へと足を踏み入れていく。

 

 こうしてこの日の戦闘は終わりを迎える。ついに揃った四人の仮面ライダー。対する邪眼が擁するはナンバーズの力を持った怪人達。しかし、彼らは知らない。まだ邪眼には恐ろしい手駒がある事を。それはミッドを炎で包む事の出来る邪悪な存在。

 

 死者の列は群を成し、死人を喰らいて増え続ける。冥府を司る者求め、彼らは行く。

 

 

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戦闘が雑だったかもしれません。怪人は使い捨てではなく何度も甦ります。再生ではなく新生ですので以前より弱体化するというお約束はなしです。次回は戦闘無し話。

 

仮面ライダーがいる事で変化していく機動六課。そして人ならざる体の少女達や悲しい生まれの少年へ光太郎が伝える想い。なのは達とジェイル達に存在する溝のようなものを払拭しようとする五代などがメインです。


 
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