No.473652 そらのおとしものショートストーリー5th あの子と海7 きゃる~んっ子2012-08-22 01:59:47 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:1407 閲覧ユーザー数:1336 |
そらのおとしものショートストーリー5th あの子と海7 きゃる~んっ子
「畜生……っ。どうしてこんなことになっちまったんだ……」
楽しいものになる筈だった海でのバカンス。
イカロスやニンフは勿論、日和や鳳凰院月乃なんかも呼んで皆でワイワイやるつもりだった。
おっぱいボインボインお尻プリンプリンの水着の美少女達に囲まれてうっはうっはのむっひょっひょのひと時を過ごすつもりだった。
ところがだ。
それぞれ都合がどうとかで1人欠け2人欠け、海に到着したのは当初の予定より大幅に少なかった。
たわわに実るおっぱいの量が減ってしまった。
だが俺に訪れた悲劇はそれだけでは終わらなかったのだ。
俺達は観光用ヨットに乗って大海原へと繰り出した。ところがいつものお騒がせメンバーがこともあろうに船内で喧嘩を始めた。
そして危険指数は超1級品である奴らはお約束的な展開として船に大穴を開けてくれた。沈み行く船体。俺は水面へと放り出され……運良く浮いていた丸太に捕まって事なきを得たが、その後気絶してしまった。で、現在……。
「こんな無人島に流れ着くなんて俺は漫画の主人公かっての~~っ!!」
綺麗な淡い青い色をした海に向かって大声で叫ぶ。
何と俺は漂流してどことも知らない無人島へ流れ着いてしまったのだ。前に1度、会長達に騙されてそはらと2人きりで無人島生活体験もどきをさせられたことはある。が、今回は正真正銘の本物だ。本当に無人島に流れ着いてしまった。
「愛する守形先輩と離れ離れになっちゃうなんて……智子ったらなんて悲劇のヒロインなの。全ては悪の会長のせいよ~~っ!!」
智子はわざとらしく滝涙を流しながら海を見て自分に浸っている。
そう、俺と一緒にこの島に辿り着いたのは智子だった。
幾ら美少女といっても……元々が俺だった存在じゃ嬉しい筈もなかった。
「ああ~っ。会長が船内で大暴れしなければ智子は今頃守形会長と平和でラブラブなクルージングを満喫していたのに~っ!」
悔しがって地面の砂浜を叩きつける智子。けれど、その仕草は俺にとって腹立たしい以外の何でもなかった。
「ヨットが壊れたのはお前と会長の争いのせいだろうがっ! 自分には責任がないみたいな言い方すんなっ!!」
ヨットが豪快に転覆したのは毎度おなじみのコイツと会長の守形先輩争奪戦の派生被害によるものだった。
「だって、そんなこと言われたって、水着姿の先輩がいるのよ。野生の血が騒いで襲い掛かりたくなるのは当然の衝動でしょ」
「お前はもう少し人間という自覚を持てっ!」
俺も水着姿の美少女の群れを見たら野生に返ってしまう可能性は高いが。
「そしたら会長もまた飢えた野獣の瞳で守形先輩を狙っていたの。あれは獰猛な肉食獣の瞳。先輩の操を守るには戦うしかなかった。歴史的必然だったのよ」
「お前らが人間らしく振舞えなかったせいで俺達は死に掛けたんだぞっ!」
反省の色が見えない智子に怒りをぶつける。
船が沈みかかった時にいち早く上空へと逃れたニンフとそはらは無事だろう。けれど、縄で縛られたまま船内に転がされていた守形先輩は果たして無事に脱出できたのだろうか?
「今頃守形先輩は悪の会長に囚われの身になってお嫁にいけない体にされてしまったんじゃないかと心配で溜まらない~っ!!」
「守形先輩は嫁をもらう方で嫁にはいかないから心配するな」
そんな心配よりも守形先輩が生きているのかどうかがもっと重要だ。
何でこう、会長とコイツはずれた心配の仕方しか出来ないのだろう?
「今すぐにでも智子は先輩の元に辿り着きたいのに……どうしてこんな無人島で足止めされているの?」
両手を組んで涙ぐみながら自分に浸っている智子。マジうぜぇ。
「そんなの、お前には飛翔能力がないからに決まっているだろう」
シナプスの科学力の産物でもある智子は尋常ではない力を秘めている。会長と並ぶ握力なんかその見本だ。
けれどそうはいっても空を飛んだりは出来ない。この見渡す限り海しかないこの無人島では智子の怪力も脱出に使いようがなかった。
「どうして智子はこんな無人島で猿と2人きりで足止めされているの~?」
「誰が猿だっ! 失礼なことを言うなっ!!」
コイツの口の悪さは月日が経つ毎に酷くなっている気がする。きっと会長の影響に違いない。
「そうか。猿、猿なのよっ!!」
「猿猿言うなっ!」
瞳を輝かせる智子に文句をかます。
「そうじゃなくて、フュージョンよっ!」
智子は大きく手を叩いた。
「はっ? フュージョン? 何だそりゃ」
聞いたこともない言葉だった。
「融合よ。融合」
「融合?」
首を傾げる。
「野菜の星の戦士達は2人が融合して凄い力を持った1人の超戦士にしばらくの間なることが出来るのよ」
「へぇ~」
へぇとは頷いてみるものの、俺は格闘系アニメには興味がないのでよく分からない。
「つまり、あたしとアンタがフュージョンすれば超戦士になれるってわけ。そうすれば空を飛ぶのも難しくないわよ、きっと」
智子はグッドアイディアとばかりに瞳を輝かせている。
「けどそれって、フュージョンじゃなくて、ピッコロと神様が元の1つの体に戻るとかそういう類のやつじゃないのか?」
「そういう細かいことはどうでも良いのよ! とにかくフュージョンするわよ、智樹っ!」
元来お気楽ノー天気娘である智子は考えることをやめて結果だけを追い求めることにした。
胡散臭い。けれど他にこの島を脱出する方法も思いつかないし、少しだけ付き合ってやるか。
「で、そのフュージョンとやらはどうやるんだ?」
フリーザ様までしかよく知らない俺にはフュージョンのやり方がよく分からない。
「智子も細かいことはよく知らないわ。少なくともアンタがそはらやニンフと漂着したらすぐに行うに違いない男女合体ゴー・アクエリオンとは異なるものよ」
「俺をエロ猿みたいに言うなっ!」
このジェントル・智樹を何だと思っているんだ。
「そう? 漂流生活を始めてから6年経ったとかそんな表示が出て、アンタは5人の子供のお父さんとかなっているに違いないわよ。この鬼畜王。そはらを15歳でママにするなんて」
「勝手な妄想で俺を貶めるな~~っ!!」
会長と同じ様な悪意をコイツから感じる。
「とにかくあたしの微かな記憶を頼りにすると、マッスル・インフェルノかマッスル・リベンジャーかマッスル・スパークのどれかを完璧に掛けるとフュージョン出来た筈よ」
智子は自信満々に述べた。
「ぜってぇ~違えってのっ! それもう元にしている漫画が違うじゃねえかっ!」
「問答無用っ! 全ては愛の為なら許されるのよぉ~~っ!」
叫ぶと同時に智子の姿は消えていた。そして次の瞬間、智子は俺の背後に回って背中を蹴って空中へと浮き上がらせていた。
「まずはマッスル・インフェルノ。相手の背中に乗って波乗りの要領で水平方向に進んで頭から壁に叩き付けるっ!」
「ロデオ馬になった気分で上に乗っている人間を振り落と……ぎゃぁああああああああぁっ!?」
巨大な岩に頭から突っ込んで穴が開く。今ので俺の頭は致命的なダメージを受けたのは間違いなかった。
「次にマッスル・リベンジャー。ヘディングの要領で相手を大空高くへと放り投げて、全身を固定して頭から地面に向けて落とすっ!!」
「うわぁああああああああぁっ!! 動けないぃいいいいぃ……グヘ!?」
尖がった岩の頂点に頭から叩き付けられる俺。俺のライフポイントはもうとっくに0だ。だが智子の攻撃はまだ終わらない。
「まだ死なないでよ、智樹っ! マッスル・スパークを行くわよっ!」
「…………っ」
もはや俺に智子に言い返すだけの力は残っていない。
「マッスル・スパークはブリッジの姿勢から背筋の力を使って相手を空中へと放り上げる」
「…………っ」
俺の体が10m近く浮き上がる。
「そして、空中で両足をそれぞれ首と腿に掛けて相手の体を固定しながら力を込めて全身の骨を砕くっ!」
「ゲホッ!?!?」
全身の骨が砕かれ心臓が破裂する音が鳴り響く。
「そして再びブリッジの姿勢を取りながら相手の全身を固めて着地の衝撃と共に残りの骨も砕くっ!!」
「…………パトラッシュ。俺はもう疲れたよ」
黒い尻尾を生やした凶悪な面をした天使が俺を手招きしている。そして──
「長かった戦いよ……これでサラバよっ!!」
地面に衝突した衝撃と共に俺は全てが真っ白になった。
「やった。フュージョンに成功したわよっ!!」
こうして俺は肉体を失うのと引き換えにフュージョンに成功したのだった。
「フュージョンは成功よ。やっぱりあたしの理論構築は完璧だったのよっ!!」
フュージョンに成功して喜んでいる智子。しかし、俺は素直に喜ぶ気にはとてもなれなかった。
『完璧じゃねえよっ!! 俺の肉体はそこで死んでるじゃねえかっ!!』
今の俺は魂だけが智子の体の中に入っている状態だ。肉体は全身を有り得ない方向に曲げながら海岸に横たわっている。
「別に智樹の肉体なんてどうでも良いじゃない。島の肥料にでもくれてやりなさいよ」
『おいっ!』
智子の気の使わなさに驚愕する。
「心配しなくても、無事に空美町に戻れたらニンフ達にその体を回収してもらって治療してもらえば良いわ。それから元の体に戻れば良いじゃないの」
『そうだな。後で生き返ってから戻ることも可能だもんな』
智子の話に納得する。
「…………死んだ体に戻れるとは思えないけれどね」
『何か言ったか?』
「何も」
これで憂いはなくなった。
後は脱出するだけだ。
「ああっ! 島の中央の火山が爆発してこの島がマグマに包まれようとしているわ!」
『何ぃいいいいいいぃっ!?』
一難去ってまた一難。島の火山は大爆発を起こし、溶岩が俺達の元に向かって流れて来ていた。
「けれどこんな溶岩ぐらいスーパー智子には何でもないわ。とぉっ!!」
掛け声と共に智子は空へと飛んだ。
『すっ、すげえ。本当に飛んでいる』
あっという間に島が米粒みたいに小さく見える地点まで上昇してしまった。
『うん? ちょっと待て!? 俺の体はどうなったんだ!? 溶岩迫る砂浜に置きっ放しじゃねえか!』
「あの体ならもう溶岩に飲まれてしまっているわよ。新しい体はイカロス達にもっと美男子か美少女に作ってもらえば良いわ」
『なるほど。美男子か美少女の体を持てば美少女達に触っても怒られない。悪くないっ!』
以前の体では不可能でも新しい体なら可能なことが……うひょっひょっひょ。
「智樹が本当にどうしようもない馬鹿で助かったわ」
『何か言ったか?』
「何も」
会話を続けている間も俺達の体は上昇を続ける。そして数分もしない内に宇宙に辿り着いてしまった。
『って、宇宙にまで来てどうするんだよ! 行き過ぎだろうが!』
智子に向かって内部からツッコミを入れる。宇宙から見る地球と宇宙は普段とは違った景色で美しかった。
けれど、俺達の目的は宇宙見物じゃない。空美町へ帰ることだ。
「ちょっと見て、智樹っ! 大変よっ!」
『へっ?』
智子の焦った声に慌てて意識を智子の視線にシンクロさせる。
俺の視界には超巨大な白い彗星が地球に向かって一直線で向かってくるのが見えた。
「白色彗星帝国が地球を滅亡させようと接近してきているのよっ!!」
『何でそうなるんだぁ~~っ!!』
突然の超展開にさすがの俺も付いていけない。
「人類を遥かに超越した科学力を持つ彼らの力に対抗できるZ戦士はもう私達しかいない。体を反物質と化す特攻を仕掛けてあのデカイのを止めるわよ!」
『何でそう簡単に死亡フラグを立てるんだぁ~~っ!!』
大声で心の中で絶叫する。
俺はもう桜井智樹の肉体を失った。この上智子の肉体まで失ったら完璧に死んでしまう。
「でも、守形先輩がどうなったのかそれだけが気掛かりで……」
俯く智子。コイツの行動原理はほとんどが守形先輩だから納得とも言える。
そうか。守形先輩を出汁に使えば死なずに済むかも知れない。いや、きっと死なずに済む。
『なあ、智子。守形先輩が今どこで何をしているのか探そうぜ。特攻はその後からでも出来るだろう?』
守形先輩に特攻するなと言われれば智子は自分の命を投げ出さないだろう。我ながら完璧な作戦だ。
「そうね」
智子が地球に向けて下降を始める。僅か3分ほどで地上、しかも福岡県に戻って来た。空美町の隣の花美町だ。6年後の別の漫画の舞台となっている町。
『やっぱ空を飛べると早いな』
上空100mほどの地点で止まって先輩を探す。
『おおっ、先輩みっけ。……へっ?』
制服姿の先輩はすぐにみつかった。赤いランドセルを背負った10歳程の可愛い少女と手を繋いで歩きながら。
「みなさんこんにちは。秋風こすもすです。10歳です。今日は色々あって守形お兄ちゃんと結婚することになりました」
「魔法天使は新大陸に通じる存在。新大陸の為ならば10歳の子供と結婚することも問題なかろう」
2人は誰に向かって説明しているのか知らないが、自分達の関係を喋りながら歩いていた。
『10歳少女と結婚するのは犯罪に決まっているだろっ!!』
激しくツッコミを入れる。だが、俺の声は智子の心の中にしかもう響かない。
「………………っ」
智子は俺のツッコミには何も言い返さず、再び宇宙に向かって飛翔し始めた。
『おいっ? 智子っ!?』
あっという間に成層圏を突破する。
「守形先輩にも……ようやく一生を託せる女性が現れたんですね。ご結婚おめでとうございます」
智子はポロポロと涙を流している。
『どう見てもそんなんじゃねえって! もっと策謀とか打算に満ちたそんな縁組だぞ、あれはっ!!』
「守形先輩があのこすもすって子と一生平和に暮らしていけるように地球はこの桜井智子が命を賭して守りますっ!!」
『お前が死ねば俺も死ぬってことを忘れるな~~っ!!』
智子は全身から黄金のオーラを発しながら宇宙空間へと再び舞い戻る。
巨大な白い彗星は地球へとグングン迫って来ていた。もう時間的猶予はなかった。
「うふふふふふ~。英くんが私のものにならないなら~みんな死ぬしかないじゃない~っ♪♪♪」
白色彗星帝国のボスは案の定この世全ての悪会長だった。自分を選んでくれなかった守形先輩に報復する為だけに宇宙帝国を乗っ取り地球を滅ぼしに来たのだ。納得過ぎる展開だ。
「守形先輩の幸せは……あたしが守るっ!! うおおおおおおおおおおぉっ!!」
悲劇のヒロインに自己陶酔した智子が超巨大彗星に対して特攻を仕掛ける。自らの体を反物質へと変えながら。自爆して彗星を吹き飛ばすつもりに違いなかった。
「私のジェラスと智子ちゃんの自己陶酔。どちらが上か勝負よっ!!」
「望む所よっ!!」
激突する両者。そして吹き飛んでいく両者。
智子の体の中に残っていた俺の意識は、激突によって生じた光の渦の中にかき消されていく。
『智子と会長の争いがヨット1隻壊したぐらいで済む訳がねえもんな……』
消失する直前、自分が消失する運命に至った原因を再検討してみた。その結果、2人の争いを甘く見ていた自分に気付いた。
『それから守形先輩。幼女との結婚は犯罪ですからね……』
守形先輩の無自覚ハーレムは一体どこまで広がれば果てが見えるのだろう?
そんなことを考えながら俺はこの魂を地球防衛の為に奉げたのだった。
了
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