No.473643 そらのおとしものショートストーリー5th あの子と海6 この世全ての悪っ子2012-08-22 01:50:02 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:1420 閲覧ユーザー数:1358 |
そらのおとしものショートストーリー5th あの子と海6 この世全ての悪っ子
「畜生……っ。どうしてこんなことになっちまったんだ……」
楽しいものになる筈だった海でのバカンス。
イカロスやニンフは勿論、日和や鳳凰院月乃なんかも呼んで皆でワイワイやるつもりだった。
おっぱいボインボインお尻プリンプリンの水着の美少女達に囲まれてうっはうっはのむっひょっひょのひと時を過ごすつもりだった。
ところがだ。
それぞれ都合がどうとかで1人欠け2人欠け、海に到着したのは当初の予定より大幅に少なかった。
たわわに実るおっぱいの量が減ってしまった。
だが俺に訪れた悲劇はそれだけでは終わらなかったのだ。
俺達は観光用ヨットに乗って大海原へと繰り出した。ところがいつものお騒がせメンバーがこともあろうに船内で喧嘩を始めた。
そして危険指数は超1級品である奴らはお約束的な展開として船に大穴を開けてくれた。沈み行く船体。俺は水面へと放り出され……運良く浮いていた丸太に捕まって事なきを得たが、その後気絶してしまった。で、現在……。
「こんな無人島に流れ着くなんて俺は漫画の主人公かっての~~っ!!」
綺麗な淡い青い色をした海に向かって大声で叫ぶ。
何と俺は漂流してどことも知らない無人島へ流れ着いてしまったのだ。前に1度、会長達に騙されてそはらと2人きりで無人島生活体験もどきをさせられたことはある。が、今回は正真正銘の本物だ。本当に無人島に流れ着いてしまった。
「うふふふふふ~。英く~~ん。貴方の愛する会長はここよ~♪ 恥ずかしがらずに助けに来て構わないのよ~」
会長は全身から黒とピンクのオーラを発しながら大海原を見て笑っている。
そう、俺と一緒にこの島に辿り着いたのは会長だった。
ムチムチボインな美女と一緒になったのは良いが……俺はもう死の予感しかしていなかった。
「うふふふふふ~。コンセプトは鬼畜桜井くんに捕らえられた会長を英くんが勇ましく無人島から助け出すよ~~」
どこから調達したのか黒板に『コンセプト』と大きな文字を書いた会長は楽しそうに喋り始めた。
「英くんは今~私と離れ離れになって~最高に寂しい想いをしている筈だわ~」
会長は『英くんは寂しがり屋さん』と書きながら鼻息を荒くする。
「そして会長がいなくなった現状になって英くんは気付くの。英くんにとって私がどれほど大切な存在であるのかを~。そして私の全てを狂おしいほどに求めているのよ~」
「いや~先輩にそういう人間らしい反応を求めるのは無理なんじゃないかな~」
ダンッと弾丸が発射される音がした。警告なしの射撃が俺に向かって飛んで来た。俺は直感だけを頼りにゴールキーパーのように右に飛んでいた。
弾丸は俺が先ほどまで座っていたこめかみの部分を通過して海へと消えていった。
避けていなければ確実に即死だった。危ねえ危ねえ。
守形先輩との妄想をちょっと否定されたぐらいで人間を何の躊躇もせずに消しに掛かる。さすがはこの世全ての悪の名に恥じない人だぜ。
俺も迂闊なツッコミは避けなくては命がもたない。
「そういう訳で会長が鬼畜王桜井くんに捕らえられている所を勇者英くんが助け出すというのが今回の無人島漂流の主旨よ~」
会長は楽しそうに笑っている。今回の漂流は会長の中ではもう偶然の産物ではなく、守形先輩と仲良くなる為のテキストと化している。
恐ろしい。恐ろしすぎる。
「桜井くんには今回2つの選択肢をあげるわ~。会長に逆らって今すぐ死ぬか~。会長の命令を実行してもうしばらく生き延びてみるか~」
「どうせ先輩が会長を助け出す段取りで俺を始末するつもりなんでしょ!」
「うふふふふふふふ~」
会長は笑うばかりで否定しなかった。それの意味する所は肯定に他ならない。
「嫌だぁああああああぁっ!! 俺にはもう死ぬしか未来が残されていない~~っ!!」
会長と2人きりという状況で予測はしていたが、俺の未来にはもう絶望しか残っていない。
「それじゃあ最初は~悪の鬼畜王が住むのに相応しい~王宮が必要よね~」
そして会長は俺の嘆きなど全く聞いてはくれなかった。アリの声に耳を傾ける人間がいないように。
「そういう訳で桜井く~~ん。王宮の建設を今からお願いね~~。あの火山に神殿っぽいのが見えるから~あれを100倍の規模にして快適に暮らせるようにリフォームする感じで~~」
「そんな大工事を1人で出来るか~~っ!! 断固拒否するっ!!」
労働しようがしまいが待っているのは残虐な死のみ。なら、働かずに死んだ方がマシってもんだ。
「頑張ってくれたら~~会長がご褒美をあげるわ~~♪」
会長は赤いビキニ水着を少しだけずらして見せた。ブラに隠されてまだ日焼けしていない肌の白さが目に入る。その瞬間、俺の中の何かに火が付いてしまった。
「畜生~~っ!! 罠だと分かっているのに体が勝手に反応してしまう~~っ!!」
気が付くと俺は身長の倍はありそうな大きな石を火山神殿へと向かって運び始めていた。
「畜生っ! 男って惨めだぁあああああああぁっ!!」
「うふふふふふふふぅ~~♪ 飴と鞭の使い分けが人の上に立つ者に必要な才能よ~~♪」
こうして俺の過酷な労働生活が始まった。
「うふふふふふ~。王宮が完成したら今度は大きなお風呂が欲しいわあ~。桜井くんが覗いても分からないぐらいに巨大な露天風呂が~~」
「畜生っ!! 作れば良いんだろ! 作ればっ!! ちゃんと入浴して下さいよっ!」
「うふふふふふ~。助けに来てくれた英くんがこの島で一生暮らそうと私に言ってくるかも知れないわね~。もっともっとインフラの整備が必要だわ~」
「そんな訳があるかっての!」
「でも~一緒に漂着した相手が見月さんやニンフちゃんだった場合……桜井くんは速攻で手を出して子沢山のお父さんになるんじゃないかしら~?」
「人をケダモノみたいに言わないで下さいよっ!!」
「きっと漂流生活を始めてから6年経ったとかそんな表示が出て~桜井くんは5人の子供のお父さんみたいな待遇になっているに違いないわ~♪ 本当に鬼畜王なんだから~♪」
「根も葉もない妄想で俺を貶めるな~~っ!!」
「王宮と言う名の新居も建てたし~英くんと一緒に入るお風呂も作った。英くんと遊ぶように文化施設も作った。後必要なのは2人が年老いた際に一緒に入るお墓だけよね~。会長は聖帝十字稜を建てることを所望するわ~」
「これ以上俺をこき使うなっ! 本気で死ぬっての~~っ!!」
「さあ、桜井く~~ん、。これから私と英くんが一緒にはいる~大せつな場所だから念には念を入れてもやってね~チラッ」
「ぶふぅううぅうっ!?」
この島に流れ着いてから1年が過ぎた。俺のこの島での待遇はまさに奴隷だった。
ご褒美で胸チラサービスはくれるものの、それ以上のハプニングは期待できない。夢見ることさえ叶わない。それが俺の現状だった。早く迎えに来て欲しい。まじで……。
「うふふふふふ~。桜井くんのおかげでお墓の建設も最終段階に入ったわ~。後はこの聖碑を頂上に運ぶだけよ~」
にこやかに笑う会長が指差した先には俺の身長よりも大きな四角すいの石が存在していた。
「この島の付近にある海底神殿には素敵なオブジェが満載だったの~。お礼なんて要らないわよ~」
「誰が言うかっ!」
笑う会長に激しくツッコミを入れる。
ていうか会長はこの大きな石を海中からここまで運んで来たというのか?
幾ら何でも馬鹿力過ぎる。
「会長が仕入れた風の噂に拠ると~今日この付近の海を英くんが通るそうだわ~。英くんに救出される絶好のチャンスよ~」
「どうやってそんな情報を入手した?! っていうか、情報をやり取りできるのなら、俺達の現在位置を知らせて助けを呼べってのぉ~~っ!!」
会長の人生設計は余裕があり過ぎて怖い。
「そうは言われてもイカロスちゃん。私達の無事を告げると原稿で忙しいからと毎回すぐに帰ってしまうから~」
「イ~カ~~ロ~~~ス~~~~ッ!!!」
大空に向けて怒りの声をあげる。
俺はイカロスがこの島に様子を見に来ているなんて全然知らなかった。
大方会長に簡単に丸め込まれているのだろうが、俺のエンジェロイドを名乗るのならマスターの命の危機ぐらい察しろっての!
俺が一緒にいるのはこの世全ての悪なんだぞっ!
「そういう訳で後は桜井くんが聖帝十字稜を完成させて、英くんが私を救出してくれれば全てはハッピーエンドよ~」
「墓を建てる必要絶対なかったよな?」
「うふふふふふふ~。さあ~英くん。2人きりのスィーティーな無人島暮らしの始まりよ~。うふふふふ~。だけどすぐに2人から3人、3人から4人と増えるから心配ないわ~」
当然ながら会長は俺のツッコミなんか聞いてくれない。
仕方なく俺は聖碑を墓の頂上に向かって運び始める。
会長の命で作らされたピラミッドは高さが100mを越えている。何トンあるかも分からない石をその頂上まで運ぶのは並大抵のことではなかった。
「そのオブジェは大切なものだから途中で地に着けては駄目よ~。桜井くんを殺してしまうから気を付けてね~」
会長は巨大な槍を手にしながら俺を脅してくる。
「俺が生き残る為だったら……こんな石の重さぐらい……何でもないってのっ!!」
フラフラになりながら石を頂上へと運んでいく。
そして──
「やっ、やっと頂上だぁ~~」
登り始めて約15分。ようやく俺は頂上に到達した。
「すげえ……綺麗な景色だ」
俺の目の前には一面の蒼い海と空がどこまでも広がっていた。
無人島に着てからこの方景色なんて眺めている余裕はなかった。それがこの極限状態で初めてこの島の持つ魅力を目の当たりにすることが出来た。
心洗われるとはまさにこのことだった。
「あっ! 船だっ!! 大きな船が見えますよ、会長っ!!」
クルージング中らしい豪華客船の姿が沖合いに見えている。船はこの島に向けて進路を取っている様にも見える。
俺達のことを発見してくれれば助かるかも知れない。
「そう。さっき来たばかりのイカロスちゃんの言う通りだったわね~」
「改めてイカロス~~っ!!」
せめて俺を空美町に連れ戻せってのぉ~~っ!!
「じゃあ、私を救いに来た英くんとこの島で2人きりで暮らすにあたって邪魔者を排除しましょう♪」
会長はとても楽しそうに微笑んだ。
そして──
「えっ?」
会長は右手に持っていたその巨大な槍を俺に向かって放り投げたのだった。
槍は一直線に向かって俺に飛んで来る。巨大な石を担いでおり、おまけに体力の限界を迎えていた俺にその槍を逃れる手段はなかった。
「ぐぎゃぁあああああああああああああぁっ!!」
槍は俺の胸を貫通した。明らかな致命傷。
「なっ、何故……?」
口から血を滴らせながら会長を見る。
「だってぇ~英くんに誤解されたら困るでしょう~? 私が鬼畜王桜井くんの手によって既に汚されているなんて誤解を受けたら~。英くんはまだ清い体の女の子しか好きじゃないかも知れないし~。だから会長は別の鬼畜王を立てることにしたのよ~」
そう言いながら会長が見せたのは干からびたクラゲとワカメだった。
「この島はクラゲとワカメが超高度な文明を築いていて~1人で漂着して囚われの会長はクラゲたちにこき使われていた。けれども天変地異が起きてクラゲたちが全滅。会長はようやく自由になった所で英くんに運良く助けられた。どう? 完璧なシナリオでしょ~♪」
会長はご満悦に笑っている。
「畜生。それじゃあやっぱり俺が死ぬことは最初からプランに入っていた訳か……」
「私は随所に2人きりという表現を使っていたわよ。桜井くんがいたのでは3人になってしまうわ」
伏線は張っていましたという余裕綽々の表情を見せるこの世全ての悪。
「……だけどよ。とんでも話が大好きな守形先輩はそれで納得するかもしれないけれどな……イカロスにはどう説明するんだよっ! イカロスを怒らせれば幾ら会長でも……」
さっきも来ていたんなら俺が生存していたことは百も承知の筈。俺の死を知ればイカロスも怒り狂って会長に報復してくれる筈だ。
「イカロスちゃんには桜井くんが超巨大大王イカの触手攻めに遭って散ったと報告しておくわ~。それならイカロスちゃんも大満足の散り方よ~」
会長は満面のドヤ顔をしてみせた。
「イカロスなら……そんな反応するかも……な……っ」
意識が半分飛び掛りながら肯定する。
「さあ~桜井く~ん。その聖帝十字稜は桜井くんの生贄によって最後の完成をみるわ~。私が英くんに救出される様を見ながらゆっくりと息絶えてね~♪」
会長の横手からは狼煙が上がっていた。
その狼煙が見えたのか、船から1艘のボートが降ろされて2名の男女がこの島に向かってやって来ていた。
その内の男に俺たちは凄く見覚えがあった。
「英くん♪ 遂に私を助けに来てくれたのね~♪」
会長は両手を合わせて乙女の表情で見ている。
そう。ボートを運転しているメガネ男こそが守形英四郎先輩に違いなかった。
「クッ……守形先輩……」
俺は近付いて来る先輩に会長の悪逆非道を伝えたかった。
けれど、もはや虫の息と化した俺にはそれさえも不可能なことだった。
ただただ会長が演出した感動の再会を死に掛けの体で見ているしかない。
にしても、先輩の隣に座っている、三角帽子をかぶった魔女みたいな格好をした大学生ぐらいの綺麗なお姉さんは一体誰なのだろう?
「英く~ん♪」
会長は元気いっぱいに手を振りながら先輩を向かえる。
間もなく先輩たちが乗ったボートが海岸へとやって来た。
「イカロスの報告通りに元気そうだな」
ボートに乗ったまま先輩は会長を見ながらメガネを光らせた。
先輩は会長を発見したことに全く驚いていない。イカロスが何と報告しているのか知らないが、会長はこの島でヴァカンスか何かしているように受け取っているようだ。
「げ、元気なんてことはないわ~。英くんに早く助けて貰わないと私は死んじゃうわよ」
会長の態度に焦りが生じた。計算が狂ったと思っているに違いない。
「ところで英くんの隣に座っている綺麗な女性は誰かしら? 船員さん?」
会長は話を逸らしに掛かった。だが、それは大変な事態を引き起こすことになるトリガーだった。
「彼女の名は皇園子(すめらぎ そのこ)。未来の世界では俺や美香子と同じ高校に通い、6年後の世界では一緒のアパートに住んでいる」
「へっ?」
会長の頬が引き攣った。
「そしてこの度は色々あって園子と結婚することになった。今は新婚旅行の世界一周クルージングの真っ最中でここに寄ったという訳だ」
「そういうことよ~」
園子さんという人は楽しそうに手を振った。
ていうか先輩……アンタ、俺以上に色んな女にフラグ立て過ぎです。真のハーレム王とは先輩のことっす。
だけど会長の前でそんな他の女といちゃついてばかりいたら……。
「うふふふふふ~。英くんご結婚おめでとう~。英くんみたいな甲斐性なしに結婚してくれる女の人がいたなんて驚きだわ~」
会長は自棄になって手を叩く。そして、全身を暗黒のオーラで染め上げた。
「カモン。海底神殿に眠る宇宙戦艦レッドノア。こうなったらこの世の全てを焼き尽くしてやるわ~」
会長が指を鳴らす。すると海中からウラヌス・システムよりも遥かに巨大な円盤状の飛行物体が飛び出して来た。
「会長が英くんと結ばれない世界なんて~~リセットするしかないじゃない~~」
怒り狂う会長を見てボートは大急ぎでUターンして船へと戻っていく。
果たして地球はこの後どうなるのだろうか?
イカロス達は会長の地球破壊の野望を止めてくれるのだろうか?
ていうか、聖帝十字稜やっぱり意味なかったじゃん。俺、死に損じゃねえ?
そんなことを思いながら俺は、石の……人生の重さに疲れて目を瞑り、そして体を倒したのだった。
地球の未来に幸多からんことを願いながら。
了
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