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「やっぱりね、あたし変だと思うんですよ」
羽室坂高校の校門前のバーガーショップ。
校門がよく見える窓際のカウンター席に腰をすえて、ハンバーガーセットをつつきながら葵は言った。
『何がだ?』
「いやね…」
ポテトを一本取り上げ、口に運ぶ。
「十三年前のいじめの復讐に十年前に来るって、おかしいじゃないですか。だって、いじめられた後ですよ?彼はもう三年もひきこもってるんですよ?いじめられる前に何とかしちゃわないと、結城君のこれからって変わらないじゃないですか」
『ふむ、確かにそうだな』
「そりゃね、いじめられた人ってずっと復讐心って忘れないと思うんですよ。でも、事が終わった後にわざわざ跳ぶんなら、現在でやっちゃえばいいじゃんってハナシなんですよ。なんか他にある気がしません?」
葵はずるずるコーラをすすった。
陽は暮れだし、校門から吐き出される生徒の数も減っている。今や学校内に残っている生徒たちは部活生のみで、あとは教師が数名残っているくらいである。
兵藤や中川も、一時間ほど前に帰宅する姿を、葵は見ている。結城が二人の自宅を知っているとは考えにくかったので、葵はこうして校門の監視を続けているが……。
「これ、多分無意味ですよ。そもそも、結城君ってのは、アホ二人がハムコーに通ってるって知ってんですか?」
葵の中で兵藤と中川はアホに成り下がっていた。今度二度と、彼らは名前を呼んではもらえないだろう。
『彼の部屋からは兵藤と中川に対する怨み言を書き連ねた日記しかみつけられなかったのでな、復讐心に捕らわれているとしか考えなかった。』
「もっと調べたほうがよかったですって、絶対」
『しかしそうは言ってもな、部屋の有様を見たら、君だってきっとそう思ったと思うぞ?』
「たしかにあたしは部屋を見てないですからね。でも、こうも考えられません?結城シゲキは確かに…」
『重幸だ。結城重幸』
「そう、結城重幸は最初の三年間は確かに復讐心を持ってひきこもっていた。だけど何かがあって、彼はトラベルマシンが必要になった。結城君はトラベルマシンを作ることにその後の十年をささげ、そして今に至った。だから彼の部屋自体は、十年前の状態のままで止まっている。だから傍目には復讐のためにトラベルマシンが作られたように見える。そうは考えられないですか?」
『ふむ……』
浦沢は押し黙る。
なるほど葵の言うことには一理あった。
怨み言の書かれた日記と、トラベルマシンの製造が、同時進行だったとは限らないのだ。日記には途中から日付がついていなかったから、いつまでの日記だと断定することは不可能だが、途中で日記を捨て、トラベルマシンの制作に没頭したと考えることも、確かにできる。
そしてそう考えるなら、確かにターニングポイントは十年前の七月なのだろう。
『わかった、調べてみよう。君は引き続き、見張りを続けてくれ』
「わかりました。あ、日付が変わったら寝てもいいですよね?」
『ああ、構わん。結城も動かんだろうしな。小さいが近くにビジネスホテルがあるはずだ。そこに泊まるといい』
「豪華なホテルがいいです。蟹食いたいです」
『贅沢を言うな。それに、蟹は季節が違う。大体君はバーガーを食べただろう?』
「あ、そっか。満足しときます」
葵はぺろっと舌を出す。
時間調停者は現場に赴き、指揮官に従って動くだけなので食事等も取る暇が多いが、指揮官は指示をする前にも調査や作戦立案などがあり、食事を摂る時間がないこともある。
現在、浦沢は食事を取っていないのだろう。
それと比べれば、ファストフードとはいえ、確かに贅沢なことだった。
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