◆ 第8話 散歩と狐とたい焼き ◆
どうも、ぬこです。今日も今日とて看板ぬこをしています。そして少々飽きてきました。
ぬこの事を構ってくれる人が来ない間は特にすることもないんですよねぇ。
ということで、ちょっと散歩することにする!
こういう時にぬこだと「旅に出ます、探さないでください」みたいな置手紙ができないから困る。
まぁいいや、お母様に報告して出かけますか。
ちょうどお客さんを見送っているお母様に声をかける。
というわけで、行ってきますがお母様、問題ありませんね?
「いってらっしゃい、暗くなる前に帰るのよ?」
無論、にゃんとしか言っていない。
まあ、いいか。意思疎通できるならそれでいいよ。
さてと、どこへ行きますかねぇ……
◆
ひとまず、神社にやってきました。
そういや、猫地蔵とかないのかしら。あったらお礼を言うのに……呪いありがとうございます、満喫してます! と。
まあ、そんな地蔵はなかったが、なぜか狐は見つけた。
珍しい、と言うかこんな人里に狐が下りてくるものなのか?
中の人の実家の近くではよく狸が道路で轢かれていたが。
とまぁ、そんなどうでもいいことは置いといて、ちょっと近づいてみることに。
「くぉん」
どうも、ぬこです。そこな狐さんはなぜこんなとこにいるんだい?
ここは稲荷神社ではなかったと思うが……なに、飼い主を待ってるだと?
なんだ、ご同輩ですか。
ふむ、狐をペットとは珍しい。
……でも、何か許可とか要るんじゃあ? まぁ、ぬこが気にしてもしょうがないか。っと、待て。じゃれつくんじゃない。
最近、動物にじゃれ付かれてばっかりな気がします。何かフェロモン的なものが出てるのかしら?
むぅ、それにしてもいいしっぽを持ってるじゃないか、さすが狐。もふもふである。
でも、ぬこのも負けてないと思うのだが、どうか?
「久遠~? どこなの~」
などと、子狐とお互いのしっぽをもふもふとしてるとどこからか、女の人の声が聞こえてくる。
お迎えですかな?
「あ、こんなとこにいたのね…って、あれ? 猫さん?」
そうです、私がぬこです。
「久遠のお友達?」
「くぅ」
「ふふ、そうなの。珍しいわね、あなたが他の子と遊ぶなんて。」
ふむ、久遠というのか、いい名前でないか。ぬこは、みぃと言います。お見知りおきを。
なんて、ちゃんと通じてるかわからないけど一応、自己紹介。
さて、飼い主さんが来たという事は、そろそろお帰りですかな?
「それじゃあ久遠、帰りましょうか。猫さんも久遠と遊んでくれてありがとね。
また遊んであげてね、この子余りお友達いないから……」
フフ、任せてください。何を隠そう、ぬこはお友達作りの天才。ただし、動物に限る。
飼い主さんがぬこに向かって手を振りながら帰っていくのを見送り、神社にはぬこだけになってしまった。
むぅ、ちと寂しい。ぬこもどこか別の場所に行くとしますか。
◆
という訳で何の当てもなく公園にやってきました。
ここの公園は結構人がいますなぁ、ゲートボールのご老人方や、カップル(妬ましい…!)、そしてたいやき屋が一軒。
ふむ、たい焼き屋か。あんこにカスタード、チーズに、カレー……だと?ちょッ、食べてみたい!!
でも、ぬこだからだめじゃね? カレーはたまねぎとか入ってそう……
いや、チーズならいける! って、ああぁーーーッ!! お金がなきゃ買えないじゃない!
えっ、元人間なのにそんなことも分からないのかって?
だって、いつもみんながくれるからっ! ちょっと忘れてただけだよッ!!
くそぅ、あきらめるしかないのか……
「あれ、そこにいるのはみぃじゃないか」
このグリリバボイスは! 恭也さん、恭也さんじゃないか!
なんというタイミングの良さ、出待ちしてたのか? しかし、今はそんなことは関係ねーですッ!
それはさておき、恭也さん小腹が空いてないか……!? 空いてますよね!?(断定)
「珍しいな、お前がこんなところにいるなんて。どうした? こっちとたい焼き屋を見比べて?」
くっ、この愚鈍が! 察してよ! たい焼きが! 食べたいんです!!
「ふむ、なるほどわからん。まぁ、お前もせっかくここに来たんだからあそこのたい焼きを食べてみろ。
そうだな、チーズのほうがいいか」
おお! ここにきてミラクル! わかってないのにわかってるじゃないか!
愚鈍とかいってごめんなさい。
「ほら、熱いから気を付けて食べろよ」
そういって、半分に割って片方をこちらによこしてくる。
ありがとうございます! そして、いただきます!
……熱い!! そういえばぬこは猫舌でした。ふーふー言いながら食べる。
美味しかった。たい焼きの生地とチーズの食感が見事に調和している……!
まさにパーフェクトハーモニー……! 恭也さんには感謝ですな!
そして、恭也さんが話しかけてきたのは、そんなことを考えてるときだった。
「……ありがとうな」
むぁ? いきなりなんでございましょうか?
「お前がうちに来てからなのはは明るくなった。いや、以前も明るかったが、どこか取り繕っていたからな」
はぁ、その話ですか。
まぁ、きっかけはぬこだったかもしれないけど、今はすずか嬢やアリサ嬢もいるし、ぬこだけが貢献したというわけじゃないと思う。
それに、変わったと思うなら、それはやっぱりご主人の力だと思うのですよ。
「父さんが入院してから、俺たちは忙しさを理由になのはにかまってやれなかった。
一番、家族に甘えたい時期にだ……ッ。そのせいでいつの間にかなのはは、どこか俺たちに遠慮がちになってしまっていた。
家族である俺たちに、だ。それを俺は、いや俺たちはずっと後悔してきた」
…………
「でも、そんなある日になのはがお前を連れて帰ってきた。
あのときのなのはは必死でお前を家族にしてくれと訴えていた。
俺も、口では翠屋のことがと言っていたが、なのはのためにも飼ってやれないかと思っていた。
まぁ、思ったよりもあっさりと飼うことになったがな」
と言って、苦笑する恭也さん。
「あのとき、本当に久しぶりだったんだ。なのはがわがままを言ったのが。
いつも遠慮していたのに、あの時だけは必死になって。お前を家族にしてくれって。
だからやはりなのはを変えたのはお前だと、そう思う。――もう一度言わせてくれ、ありがとう」
……ぬこは、そんなたいした奴じゃないんだけどね。
こっちとしては命の恩人でもあるわけだし。そんなにかしこまられると困ってしまうよ。
あぁ、だからシリアスは嫌いなんだ。
そんなことを思った一日だった。
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空白期1
後でもう一話ほど掲載します。