No.434065

眠れる森 エターナル 天界編 2話前編

簡単なあらすじ。
空を飛んでいる夢を見る。
学校の屋上で殺された少年が目を覚ましたのは天界であった。
天界には地上にはないものがあったり似た様な建物があったりいろいろ珍しいが少年ミライは一つの願望を持っていた。
自分を殺した犯人が誰なのか知りたい。殺されたとき、ミライは犯人を見たはずなのに覚えていない。さらにその人は俺の知っているはずの人。

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2012-06-08 01:05:45 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:556   閲覧ユーザー数:556

第2話 天使と天界

 

 

空を飛んでいる夢を見る。真っ青な空、下には真っ白な雲。俺はそんな所で飛んでいた。

羽が生えて鳥のように飛んでいるのかそれとも風に揺られて飛んでいるのかはよくわからない。ただ、俺の動きは何かの流れに沿って上昇下降を繰り返す。

おそらくそれは気流。そこまで来たら俺は風に揺られて飛んでいるのではないかと思ってしまうが感覚は曖昧。風に揺られているようで自分の意志で飛んでいるようでわけがわからない状況だ。もし、俺が俺の意志で飛んでいるとしたらどこか知らない土地に行ってみたい。外国が良いかな。それとも日本で行っていないところがいいかな。

世界には俺の行ったことのない場所がたくさんある。俺はその全てを見てみたい。

それが俺が空を飛んでいる理由なのだろうか。

今の俺の様子はおそらく渡り鳥といったところだろう。自由に飛んでいるようで自由に飛んでいない。俺はこれからどこへ向かうのだろう。

………

 

……

 

 

 

黒から白へ視界が移行する。

しかし、白と言っても純白の白ではなく少し黄ばみのある白だ。

さらに白の合間には蛍光灯がありここがなんらかの部屋であることに気付く。

俺の体はベットに横たわっているらしく体はだるい。

「……こ、ここは?」

口が動く。唇は乾燥して喉はカラカラ。なのにきちんと音が出た。

「起きたみたいだな。」

ベットの横から声が聞こえた。この声はタケト。あれは夢ではなかった。

俺が死んで天界という場所に来たのは夢ではなかった。

「俺は……いったい?」

だるい体を無理やり起こした。だるいが痛みがあるわけでもない。

「無理をするな。お前はまだラインについて勉強してないから。回復も遅いはずだ。」

ライン?また意味が分からないような単語が耳に入る。

しかし、今はそれどころではない。俺は思い出す。あの時のことを。

噴き出る赤。倒れるクリス。そう、クリスは殺された。しかも、仲間らしき人に。

 

「ミライ……。」

タケトが悲しそうな顔で指をさす。俺をさしたわけではない俺の向こう側のある場所をさしたのだ。俺はその方向に顔を向ける。

「…っ!?」

まさか……いや、まさかそんなことがあるはずがない。

その場所に座っていた人物は俺が目を向けたことに気付くと「やぁ」と声をかけてきた。

「ミライ、ようやく起きたんだねっ。僕、心配したよっ」

クリスだった。クリスが座っていたのだ。俺の目の前で死んだはずの人。

彼がいた。

「タ、タケト。これはどういうこと?」

「はどうもこうもない。天界で天使は死なない。つまり俺たちは不死身ってわけだ。」

不死身……なんて都合の良い設定なのだろう。ってことは不死身ということがわかってて彼女はクリスを殺したということになる。つまり……心配した俺はただのアホ。

「心配してくれてありがとー僕、大丈夫だからー。それよりもミライ。起きたら学長室まで来いってさ。」

「学長室?」

「うん、学長室。この部屋の隣の隣にある部屋だよ。」

親切に教えてくれるのはありがたいが俺は起きたばかりでまだ気分が悪い。せめて、連れて行ってもらえたら嬉しいのだが…。

しかし、クリスとタケトは俺を連れて行ってくれそうもない。

仕方ないので無理やり体をベットから起こす。

「あらっ?」

すると不思議なくらいに軽くベットから起きれた。ほんの少し前まで不調だったのに一瞬で治ってしまった。

「あはは、初めて回復したんだから身体に感覚が追い付いてないんだよ。ミライはもう不死身で不老なんだから不調になるってことはほとんどないんだよ。」

クリスの助言でようやく俺は俺の身に何が起こっているのかよくわかった。

追い付いていないのだ体の異常な回復の速さに意識が。だから、意識が重いのに体は快調。

クリスがピンピンしている理由が身を以てわかった気がする。

俺は軽い体を動かしてその部屋を出る。

部屋を出たらそこは廊下らしくリノリウムの床に横に広い空間が広がっていた。

そこが俺がかつて住んでいた学校と同じようで違う。そんな印象を受けた。

一歩外へ出たことによって気づいたことがある。

あると思っていた物がないのだ。それはプレート。保健室だとか職員室だとかわかりやすいようにドアのところにつけるプレートである。

クリスは学長室と言ったが俺にはそれがどこなのかわからなかった。

隣の隣。両隣とも部屋はあるしその先ももちろんある。部屋にそれ以外の特徴もない。

「……じぃー。」

ふと、目があった。それは部屋を出たところで右側を向いたら居た。今まで気づいてはいたが極力、目をあわせないようにしていた。

距離にして4m弱。特徴的な長い髪はボサッとしていてあまり手入れをしていないようだ。

目は半目でとろんとしており真面目にやっているのか?と思うほど緊張感がない。

くすんだ感じの金髪。彼女はエリーゼだ。

エリーゼはずっと俺を見ているだけしかも「じぃー」という言葉まで出して。

そんな視線に耐えかねた俺はエリーゼに声をかける。

「あの……。」

「じぃー。」

「なにか…用、かな?」

俺の言葉にエリーゼはコクリと頷く。そして、ゆっくり口を開いた。

「ごめんなさい……私、あなたのことを変態を勘違いしてた。」

変態…あながち外れではないもののあんな目にあわされたら本当のことは言いたくない。

「本当は…道に迷ったんでしょ…。そうとは知らずに…ごめんなさい。」

なにか勘違いしているようだが、仲直りできたのだから良いのだろう。

「あの……っ」

彼女からおずおずと右手が差し出される。

「握手……仲直りの握手しよ。」

エリーゼがどういう人物かまだわからないが俺はエリーゼの差し出した右手に俺も右手を差し出す。

そして、握手しようと触れようとした瞬間、悪寒が全身を走った。

ビクッと痙攣するまるで電気が体を巡ったかのような感覚。

握手をして良いのだろうか。俺の中にある何かが握手することを妨害している。

だが、そこまで酷いものではない。だから俺はためらわず彼女と握手をした。

「ん……。」

握手が終わってエリーゼは指をさす。もちろん、その方向は俺ではなく扉。おそらくそれが学長室なのだろう。

俺がそれを確認したのがわかるとエリーゼはパッと走って行った。

そのまま廊下の奥へと向かい俺から見えなくなる。

なんだったんだろう。

だが、エリーゼに構っている場合ではない。俺は学長室のドアをノックした。

「入っていいよ。」

中から若いような男の声が聞こえた。俺はドアを開き部屋に進入する。

部屋は学校のような廊下とは違い、とても趣のある内装だった。

準西洋風とでもいうのだろうか。学長室の真ん中にはゆったりとしたソファとテーブル。

左右の壁にはタンスやクローゼット、本棚があり奥の方にはベットがあった。

タンスやクローゼット、本棚には彫刻が掘られておりとても高そう。

ただ、そんな西洋風の部屋に一点だけ違う部分が存在した。それが掛け軸。

この部屋の窓の横に掛け軸がかかっていた。それも良いものだろうか達筆で俺にはなんと書いてあるか読めなかった。

生活感にありふれた部屋。ここが学長室のだろうか。

その場には俺を含めて三人の人がいた。

一人は俺。二人目はクロエ。そして、三人目がここの主であろう青年だ(?)。

青年と言ったが年の頃は十代後半から二十代前半あたりだろう。ただし、すごく若くは見えるが彼から迸る目に見えないオーラはとても落ち着いており彼がかなりの年生きてきたことを告げる。

しかし、そんなオーラよりも彼には誰にでも一瞬でわかる特徴があった。

それは目だ。彼の目はとても鋭いのだが睨みつけているというわけでもない。

かといって真剣な目をしているとかしてないとかもない。読めないのだ。目からこの人が何を考えているのか今はふざけているのかそれとも真面目なのか。

そして、彼は隻眼だった。いや、正しくは隻眼であるかわからない。ただ彼は右目を髪でかくして左目だけで物をみているようだ。

「やぁ、君がミライ君だね。」

彼がにんまりと笑う。教職者とはほど遠い笑い。不気味だ。

「君のことはある程度、彼女から聞きました。大変でしたねぇ。」

笑いながらそう言うので冗談のように聞こえる。あんまりおもしろくない冗談に。

「とまぁ、先にあいさつとでもいきましょうか。私はジェームズ。ジェームズ・P・エクスシアイ。ついでにあなたに天使の名前について教えます。天使の名前は仕事と階級を示します。例えば、こちらにいる彼女はG・ケルビム。仕事は新人の案内や天界の門の守り。階級はケルビム。ケルビムには門番という意味がありますが階級的には第2位の位に値します。まぁ、かなり上の方ですが門番には第3位の位以上でないとなれませんから。…で、私はというとプロフェッサー・エクスシアイ。プロフェッサーは仕事です。そのままで教授という意味です。エクスシアイの方の意味は教え導くなどあります。階級は第6位の位。簡単に言えば、私は彼女よりも階級的に低い位置にいます。」

と彼の長い自己紹介が終わる。

とりあえず、話は何となくしかわからないがクロエが先ほどした説明では不足だったということは分かった。

しかし、名前の話を今して何がどうなるのだろう。

彼、ジェームズは俺を値踏みするように全身くまなく視線を巡らせると再び口を開いた。

「んーむ。君は本当におもしろそうな。新人だね。形があるようでまったくない。」

「学長、あなたはあなたの仕事をしてください。」

クロエが横から口をはさむ。するとジェームズはおっといった風に驚く。

「まいったね~。位の高い人からそういわれちゃ仕事するしかないよね~。」

「ふざけないでください。」

「はっはっは。では、ミライ君。君には選択権がある。」

一頻り笑った後に急に真面目な顔になって言った。

選択権。何を選択するのだろう。真面目なこと。仕事。それは俺にとって重要な選択なのだろうか。

「一つ、ここで天使になる試験に受けてもらう。二つ、一つ目を辞退しておとなしく死ぬ。この二つだ。」

ようするに天使にならない奴はいらない。そういことなのだろう。

俺は死ぬ気などまったくない。むしろ、生きて知りたいことがたくさんある。

俺を殺した犯人について。殺した理由。何故、泣いていたのか。そして、俺がいなくなった後の世界。俺がいなくなってどう状況が変化したのだろう。彼女は…俺の幼馴染は今はどうしているだろう。俺の感覚的にまだこっちの世界に入って数日も経っていない。せいぜい一日か二日。今ならまだ戻れそうな気がするができないであろう。

つまり、俺の心などとうに決まっている。

「天使になります。俺にはまだ知りたいことがあります。」

「ほう。」

ジェームズが俺の答えに目を細める。その行為は俺の質問を気に食わなかったわけではなく俺の質問に疑問が生まれたからだろう。彼は口を開く。

「それは天使になってもできること?」

まるで就職試験のような質問。まぁ、天使になるのも似たようなものなのだろう。

「天使でないとできないこともあると思います。」

「ふふ、やっぱり面白い。天使になる理由は様々だけど。君みたいなことを言うのは稀だよ。大体みんな、世界をよくするために天使なるだとか法術にあこがれてーとかそんなことばかりだからね。君みたいに生きることに執着したのは久々だよ。」

嫌な感じのある言葉。何がいけないのだろうか。生きることに執着することが。

俺は俺のために生きる。それ以外なんの理由があるのだろう。

「いやぁ、そんな攻めることは言ってないよ。ただ、君みたいのはレアケースだから。何か彼の意図を感じるよ。」

彼?そんな言葉に引っかかる。まぁ、彼とはなんなのかわからないがジェームズから嫌な感じが抜けた。

「ところで、君は天使になったらどんな職に就くつもりだい。天使にはいくつか職があってここを卒業しても職によっては学校へ通ったり適性試験などを受けてもらうことになるんだ。まぁ、職と言ってもおおまかには僕らみたいな教職、天界を守護したり悪魔とか敵対する者と戦ったりする戦闘職、地上や天界を維持、管理する管理職の三つしかないんだよ。」

職、つまりクロエやジェームズのように仕事をするのだろう。

俺としては仕事でもいいから俺の元居た場所に行ってみたいのだが…。

「地上でする仕事ってありますか?」

「ふふ、地上勤務かい。地上勤務には第5位の位以上の階級と地上派遣選抜試験という試験に受からなければいけない。第5位の位以上の階級になるには並の天使では2年以上かかる。それに地上に行きたいという者はたくさんいるから試験は狭き門。そして、地上は非常に危険。天使は天界では死なないけど地上、魔界では死ぬ。」

事務的に内容を伝えた彼はにやりと笑った。

死ぬ、天使は天界では死なないと聞いた。つまり、天界以外の場所では死ぬということ。

しかし、そんなことでは俺の意思は変わらない。

「それが良いです。俺はそれを目指します。」

「良い目だね。現実はどう君を貶めるか。僕はそれが楽しみだよ。」

また不吉に笑う。食えない人だ。人いや天使か。

「まぁ、僕の仕事は暇なときに研究してそれ以外の時はここの生徒を教え導くことだからね。君の夢がかなうよう僕もある程度は協力するよ。でも、そのためには明日から基本授業を受けてもらいます。担当の教員はアニー。明日の朝ここの階にある教員室へその先生を尋ねてください。話は通しておきますから。」

不気味なくらいすんなりと話を進めるジェームズ。会ったばかりなのに俺はこの天使がまり信じられないらしい。

胡散臭い。何を考えているのかわからない。理由なんていくらでもある。

ただ、彼は仕事として俺を導いてくれるそうだ。そこだけは信じなければいけない。

俺はそう思い一礼した。するとジェームズはしっしっと出て行けとサインを出した。

まるで俺には秘密の話を今からでもするように。

仕方ないので俺は部屋を後にする。ドアを開きつつ中をチラッと見たが彼の顔は笑顔のままであった。

 

ミライが部屋を出たのを確認するとクロエはホッと息を吐いた。

普段から事務的であんまりプライベートを出さない彼女にとってこの部屋は数少ない休める場所。

ジェームズがそんな彼女を見て笑顔で言う。

「クロエさん。あなたテンパりすぎですよ。もっと笑顔でいなくちゃ。」

「そういう先生こそなんですか?その笑顔。気持ち悪いです。」

「あはは、言われちゃったなぁ~。今日は久々に面白そうなことが起きたからさ。つい、ね。」

そういって片目しかない目をぱちりと閉じて開く。ウインクのつもりらしい。

「それでどんな感じですか。彼は。」

「ん~ミライ君?面白いね~。天使は普通、地上に未練のまったくない者がなりやすいんだけど…彼はまったく未練がましい。なんで彼は神に選ばれたのか。当分、僕の研究は彼についてになりそうですよ。このままではストーカーにでもなってしまいそうだよ。」

そういうジェームズの顔は先ほどまでの張り付いたような笑みではなく冷たい表情。何もない無の表情。

クロエはそんな彼を見ながらこう言った。

「変態。」


 
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