「もう!一体いつになったら着くのよ!!?」
「お姉ちゃんもう飽きた~」
「姉さん達、もう少し我慢して」
「人和の言う通りだぞ?天和、地和」
今、俺達はある街を目指して移動しているのだが、その内の二人が文句を言い始めた。
とは言っても、馬車に乗ってるとはいえ、かなりの間移動し通しだからな。
むしろ我慢出来た方か。
「でも本当に大丈夫なの?その街。前みたいな事は嫌よ」
「…事情を話せば、少なくともあいつなら受け入れてくれる筈だ」
俺達にやましい事は何も無い。きっと大丈夫だ。
「それに姉さん達。私達は馬車に乗せてもらってるのよ?
これ位で文句言ってたら他の人たちに悪い」
「いやいや人和ちゃん。これは俺達が好きでやってる事なんだから気にしないでいいって」
「でも…」
「本当に気にしないでいいって。俺達は好きで人和ちゃん達や先生に
付いて来てるんだから。
なあ、お前等!!!」
「「「「「「おうよ!!!」」」」」」
馬車を牽いてる男の言葉に周りの人間が威勢よく答える。
初めは俺が天和達に同行しての四人旅が、三人の歌に惹かれたのかどんどん人が
付いて来ていつの間にか大所帯になってたからな。
何人かは俺の弟子になった人間もいる。
「う~、分かったよ。我慢する」
「ちいも。これ以上わがまま言うと皆に悪いもんね」
どうやら二人とも分かってくれたようだ。
「けど、街に着いたらご飯一杯食べさせてもらうからね!!!」
「あ、お姉ちゃんも~」
「それは私も同意する…」
……着いて早々、あいつに迷惑を掛ける事になりそうだ……。
茹でた卵の殻を剥き、黄身は細かく潰し、白身は荒く刻む。
白身と黄身を混ぜたら酢・卵の黄身・油で作った自家製マヨネーズで和え、少量の塩と
辛子で味を整える。
この卵を、裏庭で焼き上げ、薄く切った食パンで挟み
卵サンド完成。
他に野菜や肉を挟んだサンドイッチも用意。
それを皿に盛って食卓へ。
「……お腹すいた」
「やっぱり居るんだな」
もう、恋が毎度毎度居あわせる事に突っ込むのはやめるべきかもしれない。
居る事を前提にして大量に作った俺も俺だが。
「さあ、それをさっさと恋殿に献上するですぞ!へっぽこ鍛冶師!」
今回は陳宮込みだ。だが陳宮、飯時の俺にその言い方は駄目だぞ。
「恋。陳宮の分も食べていい『恋殿との食事の機会を奪おうとは鬼畜の所業ですぞ!?』
…大人しく席に着いてろ」
そう言うと陳宮は恋の隣に座った。
で、三人で昼食となった訳だが
「くっ。へっぽこ鍛冶師の癖になんでこんなに料理が上手いのですか」
いきなりこれだ。
「褒め言葉として受け取っておこう。それはそうと陳宮」
「なんですぞへっぽこ鍛冶師」
「食わんと無くなるぞ」
「ぬお!?いつの間に!!?」
そりゃ恋が無言で食べ続けてるからな。
陳宮も急いで食べ始め、皿の上のサンドイッチがどんどん消えていった。
そんな中
「わんっ!」
恋の足元に居た、首に赤いハンカチ(?)を巻いた子犬がこちらに向かって吠えてきた。
「……セキトも食べる?」
「食わせるなよ?」
「……どうして?」
「人間用に味付け・調理された物は犬にとって病気や肥満の元だ」
「……そうなんだ」
……あからさまにしゅんとしないでほしい。
俺が悪いみたいじゃないか。
ご飯食べてないのか?とも思ったが、恋が忘れる訳ないので
単純に俺達の食事を見て食べたくなったんだろう。
このセキト、恋が飼ってる(でいいのか?)犬の一匹なのだが、恋が
大好きらしく、よく後を付いて来ている。
元捨て犬で、俺が街から出ている間に恋が拾ったらしい。
最初に会ったのは俺がこの間帰って来た時。
裏庭で動物達と寝てる恋が腕の中に抱き締めていた時だ(店の戸締りはしたが
裏庭は開けたままにしておいた)。
しかし本当に仲いいな。史実だと呂布の相棒といえば赤兎馬だから
それも関係あったりするのだろうか。名前しか関連ないが。
「………なんか食べられる物持ってくる」
犬といったら骨だが、さすがに無いので生肉をあげた。
「……美味しい?」
「わんっ!」
「……よかった」
まずは俺に礼を言うのが筋ではないだろうか?
別にいいけど。そうしていると
「む。今日はずいぶんと大所帯だな」
「華雄?」
いつの間にか華雄が店に入ってきていた。
「珍しいな。昼時に来るなんて」
いつも茶を飲みに来るが、それでも飯時は外していたのに。
「こっちに来る用があったから寄ったんだが……それはなんだ?」
「俺の作った料理。サンドイッチっていうんだが……食べるか?」
「いただこう」
卵サンドが一個だけ皿に残ってたのでそれを華雄に差し出す。
恋が最後の一個食べられなくて不満気だが無視だ。
かなり食べたんだから一個位いいだろ。
「……美味いな」
「ならよかった」
「このへっぽこ鍛冶師!恋殿の分を奪うとは!!!」
「だったらお前が今手に持ってるのをやればいいだろ」
「はっ!?」
俺の言葉に気付いたらしい。恋が物欲しそうな目で陳宮の手にあるサンドイッチを
見詰めていた。
「…………ど」
「ど?」
「どうぞですぞ、恋殿……」
「ん」
悩みながらも恋を取ったか。
震えながら恋にサンドイッチを差し出し、恋もそれを
躊躇い無く受け取り、そのまま口に運んだ。
「何をしているのだ?この二人は」
「気にしないでいい」
サンドイッチを食べ終えた二人と一匹は、早々に店を出て行った。
陳宮がこちらを怨みがましく見てたが、無視した。
恋の役に立てたんだからいいだろう、別に。
「そういえば鷹原。ぼたんの姿が見えないようだが…」
「ぼたんなら近くの森に行ってる。最近よく行くんだ」
前から偶に行ってはいたが、帰って来てからは少し頻繁になっている。
賊を吹っ飛ばした事で何かを傷つける事に愉しみを覚えてしまったのでは、という考えが
頭を過り、一度跡をつけたのだが、ただ自由気ままに森を歩いているだけだった。
で、俺は店に送られてきた文を読んでいたのだが、華雄が興味を持ったらしい。
どんな内容なのか俺に訊いてきた。
「各地にいる店主の…いや、お前の弟子か?そいつらからの文か」
「ああ。いろいろ近況や出来事が書いてある」
ある所では街の往来で美少女が鼻血を出しながら倒れて大騒ぎになったり、また
ある所では小さい子供が姉だろう人物と店の手伝いをしに来てくれたり、またある所では
「羽丸印」の料理を教えてほしいと子供に頼まれたり(勿論断ったそうだ)、さらに
ある所ではメンマだけを肴に酒を飲む客が居たり………これは星だな。
あと獅子の事が書いてある文もある。なんでも、今は『数え役満姉妹』という三人組の
歌い手と行動を共にしているらしい。
「凪からも文が来たんだが…」
「?どうした?」
「……州牧の所に仕官する事にしたらしい。友人と一緒に」
「州牧?楽進の街一帯のか?」
「ああ」
まさか曹操の所に行くとはな。となると史実では楽進達は曹操の配下だったのか。
「あいつは仕官するとしたら董卓様の下だと思っていたのだが」
「治めてる範囲に自分の街が入っているのが大きかったんだろ。こっちは
凪の街からは遠すぎる」
凪が仕えると決めた人物なら悪い奴ではないだろうし。
曹操自身、カリスマらしき物があるからな。「天の御使い」も擁しているらしいから
仕える側からしたら魅力だろう。
凪がそんな事を理由に仕官を決めるとは思わないが。
ついでだが、華雄達には俺が賊との戦闘に関わった事は話してある、というか吐かされた。
戻ってきた報告をした時に華雄が俺に違和感を感じたらしく、根掘り葉掘り聞かれ、全部
話さざるを得なかった。
誤魔化そうとしてもすぐ感づかれて不可能だった。
で、ぼたんに乗って単騎駆けした所で全員にがっつり怒られた。
心配から来る怒りだからかなり堪えた。
本当に、ああいうのは出来る限り体験したくない……。
閑話休題
そして華雄も、俺と少し話したら城に戻って行った。
「……遅いな、ぼたん」
夕飯を作りながら俺はそう呟く。
もう日が暮れているのにぼたんが帰ってこない。
いつもならとっくに裏庭に居る筈なのだが。
と考えていたら
ドス ドス ドス
重そうな足音が店の玄関方面から聞こえてきた。
どうやらぼたんが帰って来たらしい。
普段は店に入る事は無いから珍しいと思ったが、出迎える為に
俺は夕飯を作る手を止めた。
「お帰り、ぼたん。今日は遅かったな」
「ぴぃーぴぃー」
「………ぴぃ?」
聞き慣れない鳴き声が聞こえ、そのまま店の方へ行くと
ぼたんと、地面に置かれた涎まみれの雛であろう鳥がいた。
まさか口の中に入れて運んできたのか、ぼたん。
とりあえず雛の体を水で洗って、布で拭いた。
目はパッチリしていて羽毛は灰色、モコモコで手触りはいい。
大きさはなんとか片手に乗る程度。雛の割にはでかい。
餌は肉と野菜それぞれを細かく刻んだ物をあげてみたが、どうやら肉が
好みらしい。
少し食べたら寝てしまった。
この雛は明日巣に帰そう。場所はぼたんが知ってるだろうからな。
……嫌な予感がしないでもないが。
で、帰しに来たはいいんだが……
「……ぐしゃぐしゃだよ」
地面に落ちてて、おまけに原形留めてなかった。たぶんぼたんが雛を連れ出した後に
鳥の匂いで寄って来た獣に踏まれたな。
考えたら、そうでもない限りぼたんが雛連れて来る訳ないよな。
けどそうなると
「…人の手でしばらく育てるしかないか……」
まさかその辺に置いていく訳にはいかないしな。
間違いなく獣に食われる。
鳥の育て方を知ってる人間がいればその人に頼むんだが、期待しない方が
いいかもしれない。
鶏を育ててる場所はあるが、もしこの雛が猛禽類だったら不味いしな。
「ぴぃーぴぃー」
と、手の中にいる雛が鳴き出した。
巣が滅茶苦茶になってる事を悲しんでるのかと思ったが
「……腹減ってるだけか?」
雛の目が巣を一切見ずに、俺を見て固定されているのでそう結論づけた。
巣に置いていこうと思って持って来た挽き肉を目の前に出したら
がつがつ食べ始めたし。
「……帰るぞ、ぼたん」
「ぶぎゅ」
ま、成るように成る、だ。
おまけ
「………」
「何を作ってるのだ?鷹原」
「遠距離用の武具をちょっとな」
「…楽進の街で何かあったか?」
「凪に今の俺の気の練度を見せたらまだ実戦では使えないと駄目出しされた」
「そういえば、お前は気弾を放てるのだったな」
「ああ。こいつは、まともに放てるまでの繋ぎだ。
焼き石、というか投石なんてどこでもできる訳じゃないからな」
「そうか」
新武具作成中。
後書き
あ、ありのままに起こった事を話すぜ。
書き終わったらいつのまにか鳥の雛が登場していた。
な、何を言って(ry
いや、原因は自分が動画で動物のをいろいろと見てたせいでしょうけどね。
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龍々です。
とりあえず一月程度で次話更新できました。
でもクオリティは期待しないでください……。
前回のボツネタですが、あれ続けると
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