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恋姫夢想 ~至高の鍛冶師?の物語~ 第二十話

龍々です。
第二十話投稿です。

執筆意欲が湧かず、文が上手く作れずに時間がかかってしまいました。
今後もこれ以上の時間がかかるかもしれませんが、余程の事が無い限りエタる事だけは避けるようにしていきますので、皆さんよろしくお願いします。

続きを表示

2012-05-09 21:16:56 投稿 / 全18ページ    総閲覧数:6083   閲覧ユーザー数:4722

俺の名前は北郷 一刀。聖フランチェスカの学生だ。

どういう訳か、俺は三国志の世界に来てしまっている。

ただし、名のある武将・文官が『女の子』になっている世界だが。

 

 

ある日、俺が目を覚ましたらそこは荒野の真っただ中、しかも何故か制服姿だった。

俺は確かに着替えてベッドで寝てた筈なのにだ。

更には、いきなり現れた三人組の賊に刃を突き付けられて

完全に混乱状態に陥った。

そんな俺を助けてくれたのは、まるでナース服を改造した様な服を着た女の子だった。

まさに赤子の手を捻るように賊を追い払ってくれたのだ。

俺が女の子にお礼を言っていると、頭に人形を乗せた金髪の幼い女の子と

眼鏡を掛けて凛々しい雰囲気を持った女の子がやってきた。……何故か眼鏡の子は

壷を抱えていたけど。

そのすぐ後、(その時の俺は知らなかったが)俺は不用意に金髪の女の子の真名を

呼んでしまい、一悶着あった。すぐに訂正して事なきを得たが、悪い感情を

持たれてしまった。

それでも女の子達は名乗ってくれようとしたのだが、ちょうどその時に土煙が見えた。

眼鏡を掛けた子が言うにはこの辺りを治めている人間の軍らしい。

面倒になる前に、と女の子達は行ってしまった……助けてもらってなんだが、せめて

何らかの情報位は教えてほしかった。

そして女の子達と入れ替わる様に、俺の前に軍を率いた金髪縦ロールの女の子・華琳が

現れた。

この時は正直、こんな女の子が軍を率いているのかと面食らった。

そして華琳の傍には黒髪で長髪の女の子・春蘭と青い髪で片目を隠した女の子・秋蘭が居た。

なんでも、この三人は盗人を追ってここまで来たらしく、その時に自分を見つけたらしい。

春蘭が俺が盗人なのではないかと言ってきたが、華琳の

 

「盗人は中年の三人組だった筈だわ」

 

の一言で容疑は晴れた。

でも俺が怪しいという事に変わりはなく、俺は近くの街で尋問される事になった。

確かに荒野で一人きり、しかも何の荷物も持たずにいたら怪しいよな…。

 

 

そして尋問を受けていたのだが、その時にこの三人が

 

「曹操」「夏候惇」「夏候淵」

 

だという事が分かった(前の事があるので先に名前を教えてもらった)。

この三人、特に「魏の曹操」は三国志に詳しくない者でも聞いた事くらいは

あるだろう名前だ。

だが、この時はまだ魏はなく、あくまで華琳がいずれ立ち上げようとしている国の

名前の候補として挙がっているだけだったそうだ。

しかもそれはまだ誰にも話していなかったらしい。傍に居た二人も知らない様だった。

 

「なぜ魏の名前を知っているのか」

 

と問われたが、俺はその質問の答えに必要な事だと言って、いくつか質問させてもらった。

ここはどこなのか、今は何年で、今の皇帝は誰なのか等の質問を。

そして俺は『信じられない事だろうけど』と前置きをして、俺の考えを話した。

俺は時間を遡ったのではないか、と。

だが俺の知る歴史では曹操達は男である、という事も(春蘭だけは具体的な例を

挙げないと理解してくれなかったが)。

 

その言葉に春蘭は明らかに胡散臭げな眼を向け、秋蘭も似たような眼を

向けてきたが、華琳だけは考える素振りを見せた。

他にそれを証明できる物はないかと問われ、俺は制服のポケットを漁った。

そして入っていた携帯電話と、財布の中から硬貨を取り出し、三人に見せた。

華琳達が硬貨の彫刻を褒め、俺の世界ではその硬貨が普通に安い金として出回ってると

教え、携帯も簡単に操作して見せた。

硬貨はともかく、やはり携帯はこの世界では存在しないそうだ(あったらあったで

驚きだけど)。

 

 

いずれにせよ、俺はこの世界の人間ではないと認められた。

この時に『胡蝶の夢』という話が出たが、夢か現実か確かめる術もないので

この話は直ぐに終わった

さらに俺が「『天の御使い』なのではないか?」という話も出た。

なんでもある占い師が、この世界に二人の「天の御使い」が現れて乱世を治めるという

占いをしたらしい。俺はその片割れなのではないかという訳だ。

もしそうだった場合、やっぱりもう一人も俺と同じ世界の人間なのだろうか、とも

考えたが、答えは出せないのですぐに頭から外した。

そんな中、華琳が俺に捜査の協力をしないかと言われた。盗人を見つけたのは

見回りの人間であったらしく、しかも詳しい人相等は分からないらしい。

もし俺を襲った賊がその盗人なら、俺が見れば分かるという訳だ。

俺はすぐにそれを了承した。

なんせ土地勘も無い、金は華琳達が知らない時点で使えない、サバイバル技術も無い俺だ。

ここで断れば簡単に野垂れ死にしてしまうと考えるのは当然だ。

さらに俺が自分の事を話す時は「天の国から来た事にしろ」と言われた。

胡散臭い事この上ないし、俺自身そんな考えはないが、タイムスリップだのなんだの

よりは受け入れられるだろうと思った。

……妖術使い扱いされて首を刎ねられたくないだろうとも言われたが。

あと俺の持ってる知識が華琳の覇道の助けになるだろうという考えもあるらしい。

いずれにしろ、俺は華琳の所で厄介になる事になった。

 

 

そして華琳が確認の意味も兼ねたのか、もう一度名乗ってくれた。

次いで春蘭、秋蘭も。俺もそれに合わせて名乗ったのだが、そのすぐ後に

ある質問をした。

 

「三人はなんで違う名前で呼び合ってるんだ?」

 

と、いう質問を。

すると三人は揃って「質問の意味が分からない」と見ただけで分かる顔をした。

この時に俺は華琳の口から「真名」の意味を知らされた。

「真名」は家族や親しい人間、または心から認めた人間にしか呼ぶ事を

許さない神聖な物だそうだ。

この説明を聞いて、なぜ先程の女の子達が狼狽したのか分かった。

さらに華琳が「真名」の事を訪ねられた為に俺に疑問を持った。

 

「あなたには真名が無いの?」

 

と。

それに対し、俺は無いと答えた。強いて言うなら「一刀」が俺の真名に当たるとも。

それを聞いて華琳達はとても驚いていた。

会って間もない自分達に真名で呼ぶ事を許していたのかと。

あくまで無理矢理真名にするなら、って事だから別に気にする事はなかったんだけど。

けどそれでは気が済まなかったらしい華琳は、俺に真名で呼ぶ事を許した。

華琳様が許すなら、と春蘭・秋蘭も。春蘭は少し渋ってたが。

断るのも侮辱になるという事らしいから、俺はそれから三人を真名で呼ぶ事にした。

 

 

そして俺は華琳の所で厄介になりながら、華琳の手伝いをする事にした。

華琳曰く

 

「ただ飯食らいを置いておく程、私は優しくないわよ」

 

との事。

実際盗人が捕まらないと確認ができないから、本当にただ飯食らいになってしまうので

それは避けたかった。

賊の討伐にも連れ出され、人が大勢死ぬ所を見せられ、

俺は本当に違う世界に来たんだなという事を自覚させられる事になった。

その時に、猫耳フードを被った女の子、桂花。鉄球を振りまわせる程の力を

持った女の子、季衣と出会った。

桂花は史実で曹操の覇道の基を作ったといわれる荀彧、季衣は曹操の親衛隊長で有名な

許緒だ。

ただ、季衣は俺の事を「兄ちゃん」と呼んで慕ってくれてるのだが、桂花の方は

顔を合わせる度に罵詈雑言を浴びせられている。俺としては桂花とも

仲良くしたいんだけどなぁ……。

真名を許してくれたのも

 

「華琳様が許してるのに私が許さない訳にはいかないじゃない」

 

って理由だし。本当に嫌そうな顔をしながら俺に真名を教えてくれた。

けどあそこまで言われる理由はないんじゃないかな、とも思っている。

「全身精液男」とか、まるで俺が誰かれ構わず女の子と関係を持ってるみたいだ。

俺はそんな事をした覚えは無いし、まだ童貞なんだけどな………うん、泣かない。

 

 

俺達が頻発する賊の対応を話し合っている時、領内の見回りをしている秋蘭達から

救援の要請があった。

見回り中、賊に襲われている街を発見し、その救護に向かったらしい。

だが数の差は明白、自分達が加わっても戦況は思わしくないと考えた秋蘭が早馬を

寄こしたのだ。

それを受け、華琳は直ぐに部隊を編成。既に春蘭の部隊は先行している。

ある程度の人数と、それを指揮させる為に桂花を城に残し、俺達は全速力で出発した。

桂花から

 

「なんであんたがお供できて私が留守番なのよ!!?」

 

と怒鳴られたが。

まあ、愛しの華琳からの命令だから結局従ってたけど。

 

 

「処置完了。後は医者にちゃんと診てもらうように」

「あ、ありがとう……」

「ん」

 

夏候淵達が投降した賊を縛り終え、俺とぼたんも街に戻った。

防衛に徹していても、やはり犠牲は出てしまい、負傷者も多く出てしまった。

街に居る医者が総出で診てはいるが、人数が人数なので

俺も簡単な処置をしている。

家が家だったから、応急処置程度の簡単な治療はできる。さすがに本格的な物は無理だが。

 

「次は……何だ?」

 

俺が次の人間を診ようとした時、遠くから土煙が上がっているのが見えた。

他の人間も気付いたらしい。皆何事かと注視している。

 

「真也さん!」

「凪」

 

すると、近くで俺と同じように、怪我人に応急処置をしていた凪が俺に話しかけてきた。

 

「逃げた賊が戻ってきたのでしょうか?」

「いや、頭を失った状態でそれは無い筈だ。戦力が残っていたとしても、もっと早くに

 投入してる筈」

 

長引けば長引くほど増援が来る可能性は高まるのだから、その前に片を付けようとする筈。

わざわざ控えさせる必要はない。

それに夏候淵達が来た時もそんな様子は無かった。

だが万が一賊だった場合に備え、動ける人員で警戒態勢を取った。

そうしてる内に、街に向かってくる一団が見えてきた。

 

 

「馬に乗ってるみたいですね。かなり速い」

「あと……旗を掲げてるみたいだな」

 

どうやら先程の賊の可能性は低くなったようだ。旗はともかく、かなりの数が馬に

乗って向かってきている。

あれだけ馬を持っていたのなら、もっと乗っている賊が居てもよかった筈だ。

となると

 

「もしかしたらあれは」

「姉者だ」

「夏候淵殿?」

「あ、やっぱりあれ春蘭様ですか」

「ああ。間違いない」

 

俺と凪の会話に、片目を青い髪で隠した女性とピンク色の髪をした女の子が

入ってきた。青い髪の女性は夏候淵、ピンク色の髪の少女は許緒という。

確か、史実ではどちらも曹操の配下だった筈だ。

 

「姉者……というと、あれは私達への援軍ですか?」

「ああ。私が姉者を見間違える事は無い。それに旗に『夏』の字。

 この辺りであれを掲げるのは、私を除けば姉者だけだ」

 

夏候淵はそう断言した。まだかなり距離があるから俺には判別が

できないのだが、夏候淵には見えているらしい。

流石弓使い。眼がいい。

 

「けど許緒殿、あなたも良く分かりましたね」

「ん~~~、なんとなく。それに春蘭様ならきっと先行してくるだろうと思って」

 

俺の疑問に許緒はそう答えた。

どうやら春蘭という人間は仲間想いで行動派の人間らしい。

 

「しゅうらああああああん!!!きいいいいいいいいい!!!」

 

ついでに、ここまで聞こえてくる叫び声を聞いて

 

「突撃思考持ちか…」

 

という呟きが口から出てしまった。

聞こえてた筈の夏候淵、許緒が否定しなかったが。

 

 

「……おかしいわ」

 

秋蘭達の救援に向かう俺達の視界に街が見えてきた時、華琳がそう呟いた。

 

「華琳?」

「戦が終わってる」

 

確かに街が見えてるのに戦っている様子はない。けどそこまでおかしい事なのだろうか?

 

「春蘭が援護に入って終わらせただけじゃないのか?」

「春蘭の事は信頼してるけど、それでも早すぎるわ。

 秋蘭が援軍を求める位の状況なのよ?」

 

言われてみればそうだ。仮に春蘭が来た事で逆転できたとしても、完全に静かに

なってるのはおかしい。

 

「まさか、春蘭が間に合わなかったんじゃあ……」

「それこそまさかよ。仮にそうだとしたら、今頃春蘭は怒り狂ってる筈だわ」

「でも、そうなると一体…『華琳様~~~!』春蘭?」

 

俺と華琳が訝しんでいると、春蘭が華琳の名前を叫びながら向かってきていた。

 

「春蘭。どういう状況なの?秋蘭と季衣は?」

「二人とも無事です。それと、私が到着した頃には既に戦は終わっていました」

「終わってた?勝ち目がないから援軍を要請した筈よ?」

「はっ。それに関しては秋蘭から話すそうです」

「そう、分かったわ。とりあえず、私達も街に入りましょう。

 行くわよ、一刀。

 春蘭、先導をお願い」

「はっ!」

「わかった」

 

そして俺達も街に入っていった。

 

 

「夏候惇……か」

 

叫びながら街に来た、黒の長髪の女性。夏候淵のいう姉者は夏候惇だった。

史実では曹操の右腕、隻眼の勇将だと記憶していたが、夏候淵とは血縁ではあっても

兄弟ではなかった筈だ。まだ隻眼ではないし。

まあ、この世界でそんなのは些細な事だろうが。

それにしても

 

「全然似てないな、あの二人」

 

顔も性格も全く違う。色違いだが同じ形状のチャイナドレスを着て、鎧を二人で対称に

なるように着けていなければ、何らかの関係があるとは思わないだろう。

その夏候惇は先程再び見えた土煙(夏候淵が言うには自分達の主の軍らしい)に向かって

駆けて行った……馬に乗らずに。

危険は無いって知らせに行ったのはいいが、何故乗らん。

 

「ああ、あわてん坊な姉者も可愛いなぁ……」

 

こっちはこっちで、なんかうっとりしてるし…。

 

「許緒殿。いつもこうなのですか?」

「うん、そうだよ」

 

………否定しないのか。

 

その後、夏候淵と許緒は自分達の主を迎える為に街の外に出た。

少しすると、夏候惇と一緒にかなりの数の兵士が街に入ってきたが、その中に一際目を

引く存在があった。

明らかに他と存在感が違う金髪縦ロールの少女と

 

「………は?」

 

太陽の光が反射して、まるで輝いているように見える白い服を着た男だ。

 

 

「お、おい。何だあれ。光り輝いてるぞ」

「あんなの見た事ねえ」

「もしかして、あれが噂の『天の御使い』じゃねえか?」

「ああ、きっとそうだ」

「ありがたや、ありがたや」

 

俺の周りに居た人間が途端に騒がしくなった。

中には拝んでる人間もいる。

こっちの世界に来てからかなり経つが、あそこまで光を反射する服は俺も初めて見た。

確かにこの世界の服は、スカートやズボン等があったりする。

しかし材質自体は天然素材であり、その点だけはおかしくない。

あんな物まであるとは思っていなかったのだが、周りの反応からすると

こちらの人間も知らなかったようだ。

 

「『天の御使い』……か」

 

あいつが本当に『天の御使い』なら、少なくともこの軍は他の勢力に比べて

一歩抜きん出ていると考えていいだろう。

あの噂の広まり具合からみて、『天の御使い』に民は大きく期待している。

例え名前だけだったとしても、それは大きな力になる筈だ。

もう一人の『天の御使い』の行動次第では、それも当てにはならないが。

そんな事を思っていると、金髪縦ロールの少女と白い服の男が夏候淵と話しているのが見えた。

少しの間話していたが、ふいに夏候淵が辺りを見渡す。

そして俺の方を見たと思ったら再び金髪の少女に話し掛けた。

少女は何やら目に好奇心を宿し、後ろに夏候惇、夏候淵、許緒、そして白い服の男を

連れてこちらに歩いてきた。

 

 

「あなたが鷹原?」

「…そうですが、あなたは?」

 

俺の名前を確認した少女に、俺はそう返した。

夏候淵と許緒がつき従っているから、本人が言っていた曹操だとは思うが、あくまで

予想にすぎないからだ。

すると

 

「頭が高いぞ貴様!この方こそ我らが主、曹操様だ!」

 

夏候惇が知らない事を咎める様に少女の名前を叫んだ。

やはり曹操だったか。

けどな夏候惇…

 

「………州牧様でしたか」

「あら、私の事を知っているのね」

「夏候淵殿から『自分達は州牧である曹操様の配下』と聞いておりますので」

 

名前だけ教えられても正直困る。夏候淵から主が曹操で州牧って聞いてなかったら

分からなかったぞ。

 

「姉者、それだけでは華琳様が何者か分からないぞ」

「何を言う秋蘭。華琳様の事を知ってるのは当たり前の事ではないか」

「春蘭、それはいくらなんでも…」

「そうですよ、春蘭様…」

 

男と許緒の言うとおりだ。

そりゃ知ってる人間からしたら当たり前だろうがな、知らない人間には分からないぞ。

 

 

「それで、州牧様が私に何か?」

「まずは礼を言うわ。賊の撃退に多大な貢献をしてくれたそうね」

「そこまで言われる程、俺が何かした訳ではありませんが」

 

俺、というか俺達がやった事は簡単な事。

俺、というかぼたんが賊の頭らしき奴を街の近くまで追い回し、許緒がわざと

目立つ行動を行い、それに奴の意識が集中されてる間に夏候淵が矢で討つ。それだけだ。

いろいろと穴はあるが、上手くいって良かった。

本来なら防衛に徹して夏候淵と許緒の主の援軍を待つ予定だったのだが、夏候淵達が

来てから急に攻めが苛烈になり、このままでは間に合わないと夏候淵が判断。

何か手はないかという話になったのだ。

守りながら全員で必死になって考えていたらふと思いついた。

攻められてたら間に合わない。なら攻められなくすればいいのでは? と。

攻められてる最中だから柵や堀等の防護策は当然ながら無理。

ならば相手を混乱させる手段となるが、そこで白羽の矢がたったのがぼたんだ。

大の男すらびびらせるぼたんを賊の中で縦横無尽に走らせれば嫌でも混乱する、と

いう訳だ。

そして可能であれば先程の手段で頭を討ち取るという案も出された。

ぼたんに乗るのは夏候淵や許緒という案も出たが、弓や鉄球などのあからさまな武器は

警戒されるので却下した。

無手の為にぼたんに乗ると気弾しか攻撃手段が無くなる凪は初めから

考えに入れていなかった。

こちらの都合だが、ぼたんの牙には布を何重にも巻き付けてある。

万が一でも牙で賊が切り裂かれ、ぼたんが血の味を覚えて人を襲わない様にするのを

避ける為だ。

最も、ぼたんの突撃をくらえば大怪我は免れないだろうが、賊がどうなろうと知った事じゃない。

殺す事を第一にする気も無いが。

ついでにさくらだが、襲撃中は街の一カ所に集められていた子供達の相手をさせていた。

幸いさくらはまだそれほど大きくないから怖がられないし、人懐こい動物が近くに

居るだけでも精神的に違うだろうと考えた為だ。

……やっぱり、俺ほとんど何もしてないな。

 

「そう。なら単刀直入に言うわ」

「?」

「あの猪、私に譲る気はない?」

「……は?」

 

いきなり何を言い出すのか、この少女は。

 

 

「賊の中を走り抜けられる胆力、その威力、我が軍で使えば中々の力になる筈だわ。

 もちろん、それなりの謝礼はするつもりよ。どうかしら?」

 

……他は馬なのに一人だけ猪に乗ってる人間がいるって、かなりシュールな光景に

なりそうだが、とりあえず…

 

「……ぼたんが応じたら、構いませんよ」

 

これが最善だろう。

 

「……猪と交渉しろと?」

「言葉は分かってるみたいなので問題ないです」

「貴様~!華琳様に猪なぞと話せと…」

「決めるのは貴女方です」

「……いいわ。その猪の所に案内なさい」

「華琳様!?」

「では……」

 

 

俺は曹操達をぼたんの所に連れて行った。

で、当のぼたんはというと…

 

「………」

「な、なあ。あっち行ってくれよ。暴れたりしねえから……」

「………」

「な?行ってくれたら美味い物やるから。な?」

「………」

「こ、このくそ猪!下手に出てりゃ、いい気『ぶぎぃ!!!』すいませんごめんなさい!!?」

 

捕縛されてる賊に睨みを利かせている。

周りに曹操が連れてきた兵達もいるが、痛い目を遭わせた張本人(?)が

居ればまず馬鹿な行動はしない。

 

「……本当に理解してるみたいね」

「でしょう?ぼたん!」

「ぶぎゅ?」

 

ぼたんを俺の所に呼び、曹操がぼたんと交渉をした。

結果…

 

「………(プイッ)」

 

見事に振られました、と。

 

 

「貴様~~!猪の分際で華琳様に恥を掻かせるとは!!!」

「ちょっ!?やめろって春蘭!?」

「落ち着け姉者…」

「放せ秋蘭!北郷!この猪は叩き斬ってやらねばならんのだ!!!」

 

剣を抜こうとするが、男と夏候淵に止められる夏候惇。

抜いたら流石の俺も容赦はせんぞ?

 

「やめなさい春蘭」

「しかし華琳様!」

「春蘭」

「…はい」

 

曹操の一言で夏候惇がおとなしくなった。

まるで叱られて落ち込む子供の様だな。

 

「お~~、お前触り心地いいな~。乗っていい?」

「……ぼたん」

「ぶぎゅ」

「やった!」

 

交渉中ずっとぼたんに触り続けていた許緒がぼたんの背中に乗る。

そしてぼたんはそのまま駆け出した。

街の中なのであまり速くはないが。

 

 

「……先に貴方を誘うべきだったかしら?」

「さて、どうでしょうね」

 

俺が先でも応じる事は無かったが、別に言う必要はない。

少しすると、ぼたんがこちらに戻ってきた。

 

「楽しかった~。ありがとね、おっちゃん!」

「…満足したなら良かったです」

 

許緒は俺の事を『おっちゃん』と呼ぶ。『兄ちゃん』だと別の人間と被るかららしい。

けどこの年で『おっちゃん』呼ばわりされるとは

思わなかったぞ、本当。

おい後ろ、笑いをかみ殺してるんじゃない。

 

「……そろそろ行っていいでしょうか?」

「そ、そうね。手間を掛けたわ」

「では。行くぞ、ぼたん」

「ぶぎゅ」

 

病が発生しない様、野犬が来たり腐って異臭がしない様にと建前をつけて

賊の死体は燃やして灰にしてしまえと凪達に伝えて、街を出る旨も伝えて

さくら、ぼたんと共に俺は街を出立した。

 

 

ボツネタ

 

「貴様~!猪の分際で華琳様に恥を掻かせるとは!」

 

ブンッ!(春蘭が剣を振るう音)

キラン!(ぼたんの目が光る音?)

 

ガキンッ!

 

「なにい!!?」

「嘘でしょ…」

「「姉者(春蘭)の剣を…」」

「猪が…」

「「「「「受け止めた~~~!!?」」」」」

 

しかも銜えて止めました。

 

 

さすがに遊びが過ぎるのでボツ。

 

 

後書き

一刀は真也の事を「もしかしたら…」とは思っていますが、訊くには至ってません。

この外史は姓と名を合わせて名乗るので「鷹原」だけでは

元の世界のような姓だけなのか、今の世界とおなじ姓と名なのか判断が

付かなかった為です。

夏候淵と許緒も姓だけとは思ってません。

緊急事態でもあったのでお互い簡略に名乗っただけです。

 

 


 
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