ぼたんが鳥の雛を拾ってきて数日が過ぎた。
雛を鶏農家の人間に見せたら、やはり猛禽類の雛だったらしい。
鋭い爪に鉤型に曲がった嘴を持ち、肉を好んでいたからそうだろうとは
思っていたが。
だが、種類までは分からないそうだ。さすがに元居た世界みたいに
様々な動物の事が分かっている訳ではない様だからこれは仕方ない。
で、当然小鳥などを襲って食べる猛禽類の雛など置いてくれる訳が無く、店で
引き取る事になった。
とりあえず鳥の育て方を教えてもらったので後は試行錯誤だ。
ちなみに、雛の名前は「ぼんぼち」に決まった。
考案者は霞だ。
雛が居る事を知った董卓軍の面々が自分に名前を付けさせてほしいと言い始め、収拾が
つかなくなりそうだったのでくじ引き形式にしたのだ。
それぞれが考えた名前を木片に書かせ、名前が見えない状態で雛の目の前に置き、雛が
最初に触れた木片に書かれた名前に決定する方式だ。
雛がいきなり置かれた木片に対してやや警戒を持っていたようだが、少しして
一つの木片を突ついた。
それが霞の書いた木片で、書かれていた名前が「ぼんぼち」だったのだ。
本人曰く
「前に真也が作ってくれた『焼き鳥』が美味かったから」
との事。
全く理由になってない上にどういう意図があったのか知らないが、決まった物は
しょうがない。
そのまま「ぼんぼち」で定着させた。
そんな中、丁度昼飯時に俺がぼんぼちに餌をやっていた時だ。
「……追加注文か? 詠」
「残念。それ以外の用事よ」
詠が誰も連れず、一人で俺を訪ねてきた。
「ちょっとあんたと話したい事があってね」
「他の人間には聞かれたくない事か?」
「別にそういう訳じゃないわ。ただ、あんたには関係ありそうだから、先に話して
おこうと思って」
用があるなら俺を城に呼べばいいのに、自身が来たことから他言無用な話かと
思ったが、どうやら違ったらしい。
「それで?」
「最近の黄巾賊についてなんだけど」
黄巾賊。俺も遭遇した、身体の何処かに黄色い布を巻き、街等を襲撃している
奴等の名称だ。
ちなみに、この名前に俺は関わっていない。あまりに特徴的だから、民の間で自然に
呼ばれる様になったのだろう。
「少しずつだが、静まってきてるんだろう? あいつ等」
「それをしてるのが朝廷じゃなくて、各地の豪族っていうのが情けない話だけどね」
この騒動が本格化した頃に朝廷も腰を上げ、軍を動かしたらしいのだが、鎮圧する
どころか逆に敗れ、勢い付かせる結果に終わったらしい。
すると朝廷は、黄巾賊の鎮圧を月様含む各地の豪族に丸投げしたのだ。
「攻められる心配が無い。つまりは戦う機会が無い。だらけていくっていうのは
わからなくもないが……」
仮にも軍が農民の集まりに負けるっていうのはどうなのだろうか。
いや、数の暴力というのは脅威だが、それにしても情けなさ過ぎる。
しかも丸投げって。
これが騒ぎのすぐ後であればまだ言い訳できたかもしれないが、負けた後では
自分達では敵いませんって認めた様なものだ。
「朝廷に関してはとりあえず置いとくわ。ボクが話したいのは黄巾賊の噂よ」
「噂?」
黄巾賊に気になる様な噂などあっただろうか?
最近出回ってる、黄巾賊の首領張角の人相書きなんか全く噂ってレベルではないし。
というか、髭もじゃのおっさんなのはいいとして、腕八本の足四本って何の化け物だ。
出鱈目過ぎて参考にもならない。
「ボクも各地に斥候を放って情報を集めるんだけど、その中に気になるのがあるのよ。
他のは街を襲撃して、略奪を繰り返すって内容ばかりなのに」
「それが俺に話す事か。その内容は?」
「人々の心と体を癒す奇跡の集団」
「…………は?」
今、耳を疑う様な言葉が聞こえた気がしたんだが?
「うん、あんたの反応も分かるわ。ボクも最初にこの情報見た時は同じようになったから」
ついポカンとしてしまったが、詠は俺の反応は想定済みだったらしい。
いや実際、こんな情報聞いたら誰でもそうなるんじゃないかと思う。
「……いやいやいや、真逆にも程があるだろう、それ」
「そうなんだけどね、実際に情報が入ってるのよ」
「……具体的には?」
「なんでも、その集団は四人の人間が中心になってるらしくて、その内三人がその声で
どん底まで落ち込んだ心すらも活気づけ、残る一人は不思議な力で怪我や病気を
治しているらしいわ」
「不思議な力?」
「そう。それでこれが、あんたと話しておこうと思った事」
不思議な力というから術関係とも思ったが、違うのだろうか?
俺は術は使えないから、これ関係で話されても困るし。
「なんでも、その人間が患者に勢いよく触れると、溢れんばかりに光が発せられるそうよ。
で、光が消えると患者は元気になっているらしいわ」
「光?」
「光」
……成程、確かに関係があるかもしれない。
というより……。
「それ、あいつしか思い浮かば『賈駆様!!!』!?」
「どうした!!?」
俺が自分の考えを言おうとした時、血相を変えた兵士が飛び込んで来た。
そしてそのまま発した言葉も、全く洒落にならない物だった。
「黄巾賊らしき集団がこの街に接近! 至急、御戻りを!!!」
黄巾賊接近の報せを聞き、詠はすぐさま城に戻り、華雄達将軍勢と共に出陣して行った。
その間に、俺はぼたんとぼんぼちを連れて城に避難する。
街にもそれなりの数の兵士が残っているが、万が一に備えて避難するよう通達されたのだ。
他にもたくさんの街の住人が城に避難していた。皆突然の事に、困惑と恐怖が
顔に表われていた。
そんな中
「とんでもない事になったな、大将」
「店主」
店主が俺に話し掛けてきた。よく居場所が分かったな、と考えたが、ぼたんが邪魔に
ならない様に端にいたので見つけるのは容易だったのだろう。
というか、ぼたん自体が目印になるが。
「けどなんだな。賊の奴等、一体何考えてやがんだ?」
「いや、俺に訊かれても困る」
だが店主の疑問も分かる。
この辺りの人間なら、この街に軍が存在する事は知っている筈だ。
例え知らなかったとしても、調べれば簡単に分かる。
特にここ最近、恋、霞、華雄の三人は二つ名も呼ばれる様になった。
それぞれ 『飛将軍 呂布』『神速の張遼』『豪斧の華雄』だ。
恋と華雄は自身の武から、霞は用兵の巧みさから呼ばれる様になったらしい。
恋の場合、さらに『血濡れの』と付く場合があるらしいが。
何が言いたいかというと、軍がある事に加え、有名になってきた三人の居る街に
襲撃をかける等、自殺行為に等しいという事だ。あまりにも利が無さ過ぎる。
まさか本当に死ぬために向かってきてる訳ではないだろうし。
朝廷の軍が負けた直後であれば、調子に乗って他の軍の実力を把握していない、等も
考えられたが、華雄達は幾度となく出撃して賊を鎮圧しているので知られていない
というのは無理がある。
勝てるように大軍で攻めてきたというのであれば、もっと早くに情報が入ってきても
いい筈だからこれも無い。
つまり
「全く分からない」
「だよな~」
と、店主と意見の一致を確認した所で
「『鋼鷹』の店主はいるか!? ってそこに居たか」
「どうかしましたか?」
兵士が一人、城内に入って来た。
「賈駆様がお呼びだ。同行してもらおう」
「? それはいいのですが、賊はどうなったんです?」
「それも含めて、お前を呼んでいる」
俺を呼んでるって事は戻って来たって事だよな。
何かあったのだろうか?
入って来た兵士の様子を見る限り、そこまで緊急というわけでは無いみたいだが。
賊が来たのに落ち着いている、というのはおかしいとも思ったが、とりあえず
ぼたんとぼんぼちを店主に預け、兵士と一緒に詠の所に向かった。
「真也!」
「…………成程、俺を呼ぶ訳だ」
俺を呼びに来た兵士と一緒に詠の所に来てみると、顔見知りの男が居た。
真っ赤な髪、格闘家と見間違うような引き締まった腕、一見すると
爽やかそうな顔、さらに白衣を改造した様な外套。
つまり
「久しぶりだな、獅子」
「ああ!」
獅子が居た。
「よく来たな、とか、けどなんで賊が来てた筈なのにお前が居るんだ、とか言いたい事は
いろいろあるんだが、とりあえず後ろに居る三人は?」
獅子の後ろに、見慣れない女の子三人組が居るんだよな。
恐らくは、文に載ってた獅子と一緒に居る女の子達だとは思うんだが。
そんな俺の質問に対し
「ふふ~ん、よくぞ聞いてくれました~!」
「ちぃ達は、張三姉妹! またの名を、数え役満姉妹!!!」
「歌で大陸一を目指す、旅芸人」
女の子達が自信満々に答えた。
張三姉妹は知らないが、数え役満姉妹の名前が出たから間違いなさそうだ。
「で、わたしは一番上のお姉ちゃんで、張角」
「ちぃは張宝。二番目ね」
「三女、張梁です」
……………………なんですと?
ボツネタ
「ふふ~ん、よくぞ聞いてくれました!」
すると三人が横に並び
「優しい長女、天和!」
「元気一杯の次女、地和!」
「知的な三女、人和」
それぞれが個別に名乗り
「大陸一の歌い手を目指す、私達の名は!」
決めポーズを取り
『数え役満姉妹!!!』
自分達のグループ(?)名を名乗りながら、その背後で
ピンク・緑・青の三色の爆発が起きた。
どこのスーパー戦隊だ、お前等。というかいつ爆薬仕込んだ。
「「「「「「「ほわあああ! ほわっ! ほわああああああああ!!!」」」」」」」
そしてこいつらはどこから湧いてきた!!?
悪ノリしすぎなので却下。でも舞台の上ならやるかもしれない。
後書き
抽選の結果、雛の名前はeitoguさんの『ぼんぼち』に決まりました。
多くの名前の応募(?)、ありがとうございました。
本当は獅子達の再登場はもう一、二話先の予定だったんですが、どうにも話が
上手くできないので早めました。
おまけに、前話の文に獅子達の事を書き忘れていたという……orz。
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龍々です。大変、大変長らくお待たせしました……!
ようやく書き上がりました!
なお、今回雛の名前が出ます。前回のコメントで挙げられた名前の中から
ガチで抽選しました。
では、第二十二話、どうぞ。