No.431970

黒髪の勇者 第二編 王立学校 第十九話

レイジさん

第十九話です。
宜しくお願いします。

黒髪の勇者 第一編第一話
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2012-06-03 10:21:06 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:537   閲覧ユーザー数:534

黒髪の勇者 第二編第二章 王都の盗賊(パート9)

 

 「爆発音が聞こえなくなったわ。」

 詩音達が二階に到達して暫くの時間が経過した時、フランソワが窓の外を眺めながらそう言った。

 「それにしても、手の込んだ仕掛けですわ。この短時間にアリア城全ての城門を爆発させるなど、狂喜の沙汰としか思えません。」

 セリスがそう言った。

 「無駄な行為、とも言えるけれどね。」

 続けて、アルフォンスがそう言った。

 「無駄?」

 詩音がそう訊ねると、アルフォンスが小さく頷いた。

 「だって、アリア城の門扉は全て鉄製で、周りはがっちりとした石垣で覆われているだろう。多少の爆発で崩れるような代物ではないよ。」

 「そうだな。」

 となれば、やはり陽動だろうか。詩音がそう考えた時、それまでとは根本的に異なる、強い爆発音が響き渡った。

 いや、爆発音だけではない。宮殿全体が恐れるように鳴動する。何事、と思った詩音の耳に、突き刺すような絶叫が響いた。

 「賊だ!玄関がやられた!」

 まさか、と思った詩音が階段を駆け下りようとした時である。

 王国軍の一人が、血相を変えて階段を駆け上がってきた。髭の濃い、体格の優れた兵士である。

 「一体、何が起こったのですか。」

 「分かりません、とにかく玄関がやられました!これから女王陛下にご報告に向かいます!」

 その兵士はそう言うと、足早に階上へと駆け上がって言った。今ビアンカとアレフは三階の警護を担当しているはず、と考えながら詩音は階下へと下りる。そこは困惑した表情を隠さない兵士たちが集ってはいたが、ざっと見る限り被害が出ているようには見えない。

 「何があったのですか?」

 詩音が手近にいた兵士にそう訊ねると、兵士が少し興奮した様子でこう言った。

 「玄関先で爆発物が仕掛けられた様子だ。だが、門を少し焦がされた程度で、目立った被害は無い。」

 「分かりました。」

 だが、賊が既にアリア城に侵入していることは間違いがないだろう。一体どうやって侵入したのか検討もつかないが、あの警備の中を突破してきた以上、いつ宮殿に侵入されるか分かったものではない。

 詩音がそう考え、冷静さを取り戻す様に太刀の柄に触れた時、二階からフランソワの叫び声が響き渡った。

 「シオン、大変なの!すぐに戻ってきて!」

 「どうした、フランソワ!」

 大声でそう答えながら、シオンは再び階上へと戻る。そこにいたのは顔面蒼白となったフランソワの姿であった。

 「シオン、大変なの、聖玉が。」

 息を詰まらせるようにフランソワがそう言った。

 「聖玉が、どうした。」

 まさか、と考えた詩音に、フランソワが漸くという様子で言葉を続けた。

 「聖玉が、盗まれたという置手紙が発見されたの!」

 「まさか、どうやって侵入したんだ!」

 「とにかく、さっきビアンカ様とアレフが血相を変えて下りてきたの。アルフォンスとセリスも先に宝物庫へ向かったわ。」

 急いで、と言わんばかりにフランソワは宝物庫へと向けて駈け出した。それに続いて、詩音も宝物庫へと目掛けて走る。

 だが、何かが引っかかる。

 どこか、そう、何かが不自然だ。

 詩音はそう考えた。

 やがて宝物庫に到達すると、アレフと守衛の近衛兵が宝物庫を解錠しているところであった。近くには、先程詩音とすれ違った髭面の兵士の姿も見える。どうやらユリウスも宝物庫の警備に当たっていたらしい。

 「ビアンカ女王、宝玉が盗まれたと聞きましたが。」

 詩音がそう訊ねると、ビアンカが振り返り、ああ、と頷いた。

 「それを確かめに来たのよ。どこからも侵入された気配がなかったから。」

 冷静に、ビアンカがそう答えた。そう、不自然さの一つがそれだ。これまで侵入者の姿らしきものは一切見当たらなかったではないか。

 「23時50分、ね。」

 ぽつり、と懐中時計を取り出したフランソワがそう言った。予告期限まで、後十分。

 詩音がそう考えた時、解錠を知らせる金属音が響いた。すぐにアレフが、続いてビアンカが宝物庫に姿を消す。

 続けて詩音達四人が宝物庫へと入った。だが。

 「やはり、こんな所だろうと思ったわ。」

 そこには、以前詩音が見た時と同じままの姿で鎮座する、海の聖玉の姿があった。

 「盗まれて、いなかったのですね。」

 安堵したようにフランソワがそう言った。奪取を諦めて、せめてもの抵抗とばかりに紙切れ一枚だけを残したのだろうか。

 詩音がそう考えた時であった。

 詩音は、強い殺気を覚えて背後を振り返った。その視界に映ったものは光り輝くワンドの切っ先。

 そして、それを手にしたユリウスの姿であった。

 「皆、避けろ!」

 詩音がそう叫んだ直後、ユリウスが力強くワンドを振り下ろした。次の瞬間、まるで巨大台風の様な暴風が宝物庫を襲った。

 背後から突風を受けたフランソワがバランスを崩して倒れる。咄嗟の攻撃でもビアンカの前に立ったアレフが吹き飛ばされて壁に激突した。

 「何事なの!」

 風が収まった所で、ビアンカがそう叫んだ。暴風で瞬時に乱れた髪を掻き上げながら。その隙に、ユリウスが海の聖玉に向けて走った。

 「させない!」

 どうにか突風を耐えた詩音が叫んだ。だが、その詩音に向かってユリウスが小さくワンドを動かし、そして呟くように言った。

 「ヴェント」

 再び詩音を襲った突風には耐えきれず、詩音もまた足元を崩して膝をついた。魔術を喰らったのはこれで二回目だが、ギリアムの魔術とは比べ物にならない程に素早く、そして重い。

 「ご苦労さまです、皆様。」

 海の聖玉を掴んだ所で、ユリウスがそう言った。

 「ふざけるな!」

 剣を抜いたアレフがユリウスに向けて剣を振り上げ、突撃を試みた。だが、ユリウスは冷静に哂うと、もう一度ワンドを振り下ろした。三度目の暴風にアレフがその足を止める。

 「暴力は、本当は嫌いなのですが。」

 口元を歪めながらユリウスはそう言った。そして、勝ち誇った口調で続ける。

 「わざわざこちらの誘いに乗って頂き、誠にありがとうございました。近衛兵として潜伏してもう半年になりますか。ともかく、もうお分かりでしょうが、私盗賊ジュリアンと申します。ちなみに、そちらに兵士が相棒のタートル。」

 そう言うと、ユリウスは先程の髭面の兵士を指差した。タートルは不敵に笑うと、慇懃に頭を下げた。

 「本名はユリウスと申しますが、まあそれは些細なことです。ともかく、海の聖玉は頂戴いたしました。それでは皆様、ごきげんよう。」

 「おふざけはそこまでですわ!」

 続いて、セリスがそう叫んだ。それに合わせて、詩音とアレフがそれぞれに構え、ユリウス目掛けて飛びかかる。

 「残念、僕はそうそう捕まりませんよ。」

 ユリウスはそう言うと、鋭く叫んだ。

 「テンペスター!」

 それはそれまでの暴風とは次元が異なる、強烈なかまいたちであった。避ける間もなく身体の至る所を切り裂かれて、セリスが悲鳴を上げた。詩音もまた、右足と左腕に痺れるような痛みが走る。

 「それでは、皆様。」

 ユリウスはそう言うと、一目散に宝物庫から飛び出していった。続けて、タートルも足早に走り出した。

 「待ちなさい!」

 背後から、フランソワがマスケット銃を放つ。だが、着弾は外れて空しい銃声だけが響き渡った。

 「ドンナー!」

 続けて、ビアンカが右手を突き出しながらそう叫んだ。右手の薬指には淡い光を放つミスリスの指輪が嵌められている。その指輪から発生した稲妻がユリウス目掛けて、まるで飛びかかる蛇のように襲いかかった。だが、ユリウスは一度振り返ると、ワンドを小さく回転させた。その動きだけで稲妻の軌道が変化し、代わりにタートルに稲妻が直撃する。

 「あああ!」

 びくり、と痙攣したタートルがそのまま脚を崩した。

 「タートルは置いていきますよ、好きにしてください!」

 高笑いをするようにユリウスがそう言った。そのまま、宝物庫から姿を消す。

 「逃がしませんわ!」

 気丈にも再び立ちあがったセリスはそう叫ぶと、加速した速度のままで瞬時に宝物庫から飛び出して言った。その後ろから、詩音とアレフ、そしてアルフォンスが続く。だが、宝物庫を飛び出した所で詩音の視界に映ったのは尻餅をついたセリスの姿であった。恐らくユリウスの魔術にやられたのだろう。

 「大丈夫か!」

 アレフがそう訊ねた。

 「それよりも、盗賊を!」

 セリスがそう返した。続けて現れたフランソワが心配そうにセリスに手を差し伸べた。その間に、詩音とアルフォンスが駆ける。

 向かった先は二階のテラスであった。

 


 
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