Scene2:通学路(回想) 一月ほど前のAM17:45
もうだいぶ日も落ちて夕飯の支度のおみそ汁の香りなど漂ってくる住宅街。
近道しようと通った路地裏で、有香は三人の男に絡まれていた。
リーゼントにパンチパーマ、スキンヘッドのデブとあつらえたようなセット売りに、服装も今時珍しい改造学ランにちらちら覗く裏地には刺繍までしてるという念の入りよう。
「いいからとっとと出すもん出せっつってんだよぉ!」
リーダー格らしいリーゼントの脅し文句までお約束である。
――昭和の学園マンガの登場人物か、こいつらは。
内心呆れながらも三人を見据え、カバンを持つ手を堅く握る。持ち手がぎしっと嫌な音を立てて歪んだ。
「嫌に決まってるでしょ!」
胸を張ってきっぱりと。少しも恐れた様子のない有香の気迫に、三人組は一瞬たじろぐ。
これじゃあメンツが立たないと焦ったリーゼントが一歩前に踏み出し、
「あぁ!? 痛い目見てぇのかコラ」
と改めて凄みを効かせようとして……足を止めた。
「それぐらいにしておけよ」
背後から聞こえた落ち着いた声に有香が振り返ると、一人の青年が立っていた。
安手のトレーナーを着た上からでもわかる鍛えられた体は、温厚そうな顔とはどこか不釣り合いで。
どうやら銭湯帰りらしく小脇に洗面器を抱え、手に提げたコンビニ袋からはビールの缶とおつまみが覗いている。
悠然とした足取りで、あっけにとられた有香と不良達の間にいつの間にやら割って入る。
「て、てめえ、ふざけやがって!」
いち早く気を取り直したリーゼントが、逆上して青年に殴りかかった。
いや。
殴りかかろうとして……転んだ。
「おいおい、だっせーぞ……!?」
味方とはいえみっともない有様に笑おうとしたデブとパンチが、くずおれたままのリーゼントの様子に息を呑む。
「おい、てめえ、何しやがった!?」
食ってかかる二人に、困ったように頬をかく青年。
――殴ろうとして踏み込んだところに脚払い、倒れてきたところに肘うち。
ほとんど動いていない、不良達の方からはリーゼントの陰になって見えなかっただろう一瞬の攻防を、有香は見逃さなかった。
流れるような一連の動きに、迷いがない。場数を踏んでいる証拠だ。
「大丈夫?」
残りの二人を気にもかけてないかのようにこちらを振り向き微笑む。
「あ、ありがとうございます!……あっ」
思わず高鳴る鼓動と赤くなった頬を隠すように慌ててお辞儀をしかけて……しびれをきらしたように青年の背後から襲いかかる不良達に気づく。
「危ない!」
咄嗟に鞄を投げつけ――持ち手がとうとうバキンと破断音を響かせたのは諦めた――見事にデブの顔にクリーンヒット。
角をめり込ませて倒れたデブを見て、裏拳一発でパンチパーマを沈めた青年が「ほう」と感嘆のため息を漏らした。
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