Scene3:通学路 AM08:10
不良に絡まれてるところを助けて貰うなんてお約束な出会いで。
助けて貰って嬉しかったと言うよりも、不良相手に喧嘩する彼の姿がかっこよかった。
追いかけるように入ったバイトで色々教えて貰って。
優しくて飾らない人柄にますます好きになってしまった。
赤岩紘一。22歳、大学生。
今はまだ「バイトの同僚」だけど、いつかは……
「あれ?桃谷さん、今から学校?」
突然声をかけられて硬直。心臓が口から飛び出しそうになる。
今まさに頭の中で思い描いていた声。
くたびれた革ジャンに油染みの残るジーンズ、適当になでつけられた髪に、いつもながらどことなく気の抜けた表情で。
「はははははい、赤岩さんは、どどどうなさったんですか?」
声が震える。頭に血が上る。
友人に助けを求め……いない。
振り返ると、二人揃って少し離れた曲がり角から顔だけ出して「ファイト!」とか言ってるし。
――あいつら、後でシメる。
「いやー、昨日の件で青山が荒れてさあ。今まで二人で飲んでた」
少し眠たそうな目で言う割には吐息に酒臭さはないところを見ると、自分は大して飲まず、やけ酒につきあってあげていただけのようだ。
気が短いくせに気苦労の絶えない赤岩の「後輩」――そういえばなんの先輩後輩なんだか聞いたことはなかったが――の顔を思い出す。上司がとらえどころのない田中さんじゃ、ストレスも相当だろうなあ……昨日は遅くまで「あいつら」に振り回されちゃったし。
「昨日は学校大丈夫だった?」
「ははははい、大丈夫です!あの、えっと、あああ赤岩さんも、その」
かがみ込むように覗き込まれて、近すぎる顔の距離に焦りまくる。
赤岩さんにしてみれば、目線の高さを合わせようとしてくれてるだけなんだろうけど……意識されてないだけじゃなくて、どこか子供扱いされてるみたいで不満。
「ん、まあ今は工事とか入ってないし」
知ってか知らずか、伸びをすると頭を掻く赤岩。
赤岩は生活費と学費を自分でまかなうため、その体格と体力を生かして工事現場や引っ越し手伝いなど肉体労働系のバイトを幾つも掛け持ちしている。
今の進路に進むため親父と喧嘩したからだと苦笑していたが、元来体を動かすことが好きなんだろうなと有香は思う。
そして多分……自分の力を持て余している。
今の「バイト」は、そういう赤岩にはありがたいのだろうけど……
「聞いてる?」
「え?あ?は、はい!」
「お友達がさっきから合図を送ってるんだけど……」
まだ見てたのか。っていうか気づかれてるし!
隠れるならもうちょっと上手く隠れないと!
振り返って睨み付け、二人がしきりに手首を指さしているのに気づく。手首?……時計?
「うわあ、遅刻!」
「はは、引き止めちゃってごめんね」
「い、いえ!た、楽しかったです!ま、また!」
「うん、また後で」
ぺこりとお辞儀して猛ダッシュ。
ついでに二人にラリアット。
赤岩さんはそんな有香の背中に小さく手を振ってくれていた。
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