No.402684

涼宮ハルヒ 無題 2009/01 改

offeredさん

特に複線などありません。
少し手直ししてます。

2012-04-04 16:08:02 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:735   閲覧ユーザー数:735

「キョン、古泉君。 いままで楽しかったわ」

「ああ」

「僕も皆さんと出会えて楽しかったですよ」

 

北高校門を出た俺たちの手には卒業証書が握られている――そう、今日は卒業式だ。

俺たちは最後までハルヒと秘密を守り通し、そして幾多の危機を乗り越えて現在に至る。

 

 

しかし、今此処に居るのは俺とハルヒと古泉だけ。朝比奈さんは一年前に未来へ帰還し、

長門も卒業前に統合思念体の一部へと還っていった。

ハルヒは直接監視対象から外れ……そう、いつの間にかハルヒから厄介な能力は消失したのだ。

 

 

 

俺たち三人は北高校舎内を歩いていた。

一年の教室からSOS団が始まり……そういや生徒会室に乗り込んだこともあったな。

 

「もうここに着いちゃった……案外ここの校舎って小さかったのね」

「俺にはまだ大きいかな」

 

その日最後に立ち寄った部室からはコスプレ衣装やゲームの類は片付けられ、

既に型遅れになってしまったデスクトップパソコンが一台佇んでいる。

来年には此処を使うであろう文芸部員が埃を払ってくれるのだろうか。

 

校門を出るとき無言のまま振り返り校舎を眺めると、思い出が頭の中に過ぎっては消えていった。

俺たちは最後に軽く挨拶して別れた。

 

 

卒業から二年が過ぎ、俺は何とか入った地元の大学で勉学に励んでいる。

ハルヒは留学して音沙汰無し、古泉は監視の任を解かれ普通に学生をやっている。

いつからだろうか、あいつらに電話もメールもしなくなったのは。

 

ふと頭の中にSOS団の思い出が浮かび、ダンボールにしまって置いた文芸部誌を出して眺める。

俺は出先で時計を忘れた事に気付いたような、そんな落ち着かない気持ちになった。

 

 

それからは楽しんでいた筈の大学生活が急に色あせて見えた。

所属していた文芸サークルを辞め、週三回のバイトを週五回に増やした。

狭く薄汚れたサークル棟の空気がSOS団を思い出させるからだ。

あの場所にはあいつらが居ない、そんな空間には居たくなかった。

 

同じ大学に通っている谷口はそんな俺を心配して合コンに誘ってはくれていたが、

俺はどうしても楽しい気持ちになれなかった。

話そうとしてくれる女の子に大仰にSOS団の思い出を語り、遠ざけたりもした。

 

そんな行動ばかりするものだから、俺は変人扱いされるようになっていた。

黙って酒を飲み空想にふけるのが楽しかった。

俺には未来も現在もなく、あのときから止まったままなのだ。

 

一月ぶりに合コンに呼ばれた俺は、相も変わらず一人酒を楽しむ。

ここ最近は人数あわせと割り切られているだろう、今日も誰も話しかけては来ないはずだ。

 

「ここ空いてるな」

「見ての通りだよ」

 

谷口が酒を持って俺の隣に腰掛ける。

 

「キョン、お前が SOS 団のことを忘れられないのも分かるがなぁ」

「ああ、お前にはいつも感謝してるよ」

「そろそろ忘れろよ、ハルヒとSOS団が特別なもんだとしても小説みたいなものと思えばいいじゃないか」

「キョン君はその…ハルヒさんのことを好きだったの?」

 

唐突に割り込んできた声に驚き、顔を上げる。 知らない女の子に何故話しかけられたのだろうか?

……ああ、そういえば合コンの最中だったか。

 

「よく分からん」

「……やっぱ好きなんだ」

「いや、そうでもないと思う」

「ふーん」

「ごめん、挨拶もまだだったな。えーと……」

「飲むのは二回目だけど?」

「すまん」

「まあ、いいや。 SOS団ってどんな事をやってたの?」

「俺と宇宙人、未来人、超能力者、おまけに神様みたいな存在が一人居て、そいつ等と不思議探しだ」

 

俺は黙ってビールを飲んだ。こう言っておけば大抵はキモいと言われて終わる。

 

「それってもう不思議な事を探さなくてもいいんじゃない?」

「そうなんだが……」

 

クスクスと笑う声に少し驚く。参った、絡むな。

いつも通り谷口に相手してもらおうと思ったのだが、もう別の席へ行き女の子に声をかけている。

 

「その中の一人だけには秘密っていうルールなんだ、だから不思議探し。 参っちまうよな」

「バラしたらだめか……たとえば世界が滅びちゃうとかそんなところ?」

「そう、そんな所だ」

「そりゃ大変」

 

「それでキョン君は何か特殊能力は無い? 例えば……酔った女の子を家に瞬間移動させるとか」

「もうそんな時間か……あと、俺は小○館の青狸じゃないし超能力も無い」

「残念、じゃあ普通に送ってよ」

「了解した。 ……ところで、何で俺のアダ名を知っているんだ?」

「最初に会ったときに自己紹介してたじゃない。 あ、あたしはA子でいいわ、ABCのA子」

「随分と適当だな」

「お互い様でしょ? さあ、早く出た出た」

 

俺はA子を家へ送り届けると、そのまま帰宅した。

 

ベッドに身を投げ出し思いを巡らせていると、いつのまにか空が白み始めていた。

また、あの忌まわしい退屈な日常がやってくるのだ――俺はハッとして飛び起きる。

……ハルヒは俺だったんだ。

 

 

そうと分かればこっちの物だ、この退屈を終わらせる方法を知っているからな。

最初にする事は決まっている。

 

俺は机にノートを広げ、タイトルを書き込んだ。 「涼宮ハルヒの憂鬱」

 

 

おわり


 
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