No.394609

仮面ライダーディージェント 第3話:須藤歩尾行作戦

水音ラルさん

ディケイドライバーがライダー大戦の際に壊れた際にバックアップとして生まれたディケイドの代理人こと破壊の代行者・仮面ライダーディージェント。
ディケイドに代わって本当の目的を果たそうとするも、門矢士が復活したせいで存在を保てなくなってしまった。
しかし自分の代わりに計画を実行できる素質を持った一人の青年に自分の力をすべて託し、青年はその計画を代わりに実行するために動き出す。
仮面ライダーディケイドに代わり、自らの使命を遂行する者、仮面ライダーディージェント。 自らの存在意義を求め、その歩みは何処へ行く。

2012-03-19 21:32:14 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:372   閲覧ユーザー数:372

放課後、亜由美、加奈、皐月の三人は昇降口の物陰に集合していた。

三人はそこで教師用昇降口から出てくる筈の今回のターゲットである臨時教師の須藤歩を物陰から覗き込みながら待っていた。

 

「でもさぁ、本当に出てくるの?もしかしたらもう帰っちゃったんじゃない?」

「フフフ…それはないわよ亜由美。さっき職員室に明日の時間割の確認と称して入った時、歩先生はまだいたから」

「……その行動力には、もう脱帽しちゃうね」

「お!二人共、出て来たぜ」

 

皐月は教師用昇降口を指差しながら話している二人の会話に割って入る。

そこには茶色いスーツを着た男が黒い鞄を持って出てくる姿があった。

 

「いい? 絶対に気付かれないようにするのよ」

「イエッサー」

「……ハァ」

 

亜由美は暴走する二人の友人と、それを止められない自分の不甲斐なさに溜め息を吐きながら二人の後に続いた。

 

 

 

 

 

まず始めに向かったのは商店街だった。そこでターゲット(須藤歩)は卵や肉、野菜、米と言った一通りの食材を買い、商店街を後にしようとしていた。

 

「あ、商店街から出るみたいだよ二人と…も…って、どうしたのそれ?」

 

亜由美が二人の方を振り返ると、二人はサングラスにベレー帽とキャップタイプの帽子を付けて亜由美の後ろに立っていた。しかも二人とも制服を着ているから違和感バリバリだ。

因みに加奈はベレー帽で、皐月はキャップタイプの帽子である。

 

「やっぱり形から入らないとね」

「そこの雑貨屋で売ってた。因みに会計2575円。驚きの安さだぜ?」

「いやそんな事どうでもいいからね!?やっぱり二人ともふざけてるの!?それだったら私もう帰るよ!?」

 

亜由美はとうとう堪忍袋の緒が切れたのか帰る宣言を二人に申し渡す。

 

「あ~悪かった悪かったって。だから帰るなんて寂しい事言うなよ。アタシ達、友達だろ?」

「サングラスと帽子を付けて、首から下が女子高生の制服の人に友達なんて言われたくありません!!」

「あ、二人とも!早くしないと見失うわよ!急いで!」

「イエッサー!」

「あ、ちょ、引っ張らないでよぉぉぉ!」

 

亜由美は皐月に腕からガッシリとホールドされて引っ張られてしまう。しかも相手は不良の一人や二人を簡単に蹴散らしてしまうような奴だ。

そんな格闘系少女に抗える訳もなく、そのままズルズルと引き摺られていった。

 

 

 

 

 

何とか見失わずに済んだ三人は住宅街に来ていた。そこでターゲット(須藤歩)は何の変哲もないマンションへと入って行った。

 

「あそこが敵のアジトみてぇだな」

「そのようね」

「いやいや敵って何よ敵って…一体何と戦ってるんですか……」

 

加奈と皐月は物陰から相手の様子を窺っていたが、亜由美はその背後から二人の様子を見ていた。

今の二人は不審者以外の何者でもなかった。

正直、知り合いと思われたくない。

 

「で、この後どーすんの?」

 

亜由美はこの尾行作戦の指揮官(必然的になっていた)にため息を吐きながら訊ねていた。もう相手の住んでる場所も分かったんだし、今日は此処までにした方がいいんじゃないかと思っていた。

しかし、そんな亜由美の希望は打ち砕かれた。

 

「そうね…じゃあ今度はあそこの管理人に先生の事を訊いてみましょうか」

 

そう言いながら加奈は先程ターゲット(須藤歩)が入って行ったマンションを指差す。

 

「そこまですんの!?」

「当然でしょ。じゃないと私の気が済まないの」

「それにはアタシも賛成だな」

「皐月まで!?」

 

「オフコース」と言いながら亜由美にサムズアップをする皐月。その姿に亜由美はガックリと肩を落とした。

 

皐月は基本、面白そうな事があればとことん喰い付く性分だ。

今回の場合は加奈の「気になる事があれば分かるまで調べなければ気が済まない」という性分と見事に合致してしまったのだろう。

そうなってしまうと二人のブレーキ役である自分でも止められない。

 

「じゃあ、そろそろ行くわよ!」

「イエッサー!」

「えぇっ!?ちょ、待ってー!」

 

最早、小判鮫の様に二人にくっ付いて行く事しかできない自分に正直泣きたくなっていた。

こうなっては二人が何か問題を起こさない様に見守るだけだ。

 

 

 

 

 

管理人から話を訊いた後、「今日はもう遅いからここまでにしましょう」という加奈の号令により、「須藤歩尾行作戦」はようやくお開きする事になり、現在三人は帰路についていた。

 

「やっぱり謎よね、あの教師……」

「あぁ……」

「……ウン」

 

早速加奈が代表として管理人に須藤歩について訊いてみたところ、このような返事が返ってきた。

 

曰く「つい一月ほど前に越して来たのだが、その時の事はよく覚えていない。多分歳の所為かのぉ?」

他にも「今日ここを通るのを見た事はあるが、昨日より前にここを通っていた所を見た記憶が全くない。歳は取りたくないのぉ」というものだった。

 

所々いらない情報が入っていたが、その中には大きな矛盾があった。

 

あのマンションは裏口の非常階段を使えば外に出る事は出来るが、内側から鍵を掛けているため外から入る事が全く出来ず、入る際にはあの管理人がいる出入り口から必ず入らなければならないのだ。

いくらあの管理人が歳でボケていたとしても、全く記憶にない(・・・・・・・)というのはいくらなんでも不自然だ。

 

しかも管理人があそこに居ない時は常時作動させている監視カメラで居なかった時の分を早送りではあるが必ずチェックしている。そのカメラは裏口の非常階段にも備え付けられてあるのだが、そこに須藤歩が写っていた事は一度もないのだ(・・・・・・・)。

 

越してきた後一ヶ月間留守にしていたというのならば話は別だが越して来たばかりの人間が、ましてや社会人になったばかりの年齢である須藤歩がそんな事をする理由がない。

 

「一度実家に帰ったんじゃねぇの?」という皐月の見解が出たがそれはない。

何故なら彼には保護責任者、つまり親がいないのだ。

 

移住届に保護責任者が書かれていない場合、親・里親がいない事になっているのだ。そんな人間に帰る場所がある筈もない。

此処までの情報を得られたのも、藤原加奈という将来名探偵候補No.1(と、亜由美は思っている)の手腕によるものだろう。

 

「もう加奈、高校出たら探偵稼業やっちゃいなよ」

「イヤよ、そんな給料不確定な仕事。なるんだったらやっぱり公務員よ」

「えぇ~、天職だと思うのに~」

 

「勿体無い」と言わんばかりに盛大にため息を零すが、それでも加奈の意思は変わらないだろう。

 

実は加奈の父は刑事なのだが、彼女は将来そんな父の様になりたいと思っているそうだ。

まぁ、探偵も刑事も亜由美にとっては似たようなものなのだが加奈には何の上下関係もない探偵になってもらいたいものである。その方が加奈らしい。

 

「……っと、アタシんちはこっちだから、この辺で帰らせてもらうぜ」

 

そう言って皐月は二手に分かれた道の左側へと歩みを進めていくが、途中で振り返ると「ニカッ」とまるで太陽の様な笑顔で手を大きく振りながら明るい声で叫んだ。

 

「何か分かったら教えてくれよ~!」

 

そう叫んだあと再び自宅へと駆け出していった。

 

「まったく…こんな時間に大声出したら近所迷惑でしょうが……」

「ウン、そうだね」

「全くだね」

 

二人が顔を向い合せ苦笑をするが、そこに一つ抑揚のない淡々とした声が加わっていた。

二人がその声に聴こえた方向にバッ!と振り向くとそこには今回、加奈達が面白半分で跡をつけていた須藤歩が立っていた。

 

「え!?何時の間に!?」

「そんなに警戒しないでよ。本当は君と二人っきりで話をしようと思ってたけど、そっちの子も知ってるみたいだから良いかな?」

「知ってるって、何を?」

 

警戒する二人に対して歩は「ん~そうだな~」と言いながら頭をガリガリ掻いた。

やがて考えがまとまったのか、掻くのをやめると話を切り出した。

 

「まずはこれを見せた方が理解してもらい易いかな?」

 

そう言いながらポケットの中から一枚のカードを出した。

カードにはピンクと黒の細かい縦線が走っており、中央の大きな黒い円の中には白い矢印にも顔にも見えるマークが描かれていた。

 

それを裏返すとマークの元になったものと思われる下を向いた矢印の様なものが付いた青黒いロボットの様なものが描かれていた。

 

「それって…!」

 

亜由美はそのカードに描かれていたものに驚愕した。なぜならそれは……

 

「知ってるんじゃないかな?君がロボットだと思いこんでるこのカードに描かれている…仮面ライダーディージェントを……」

 

夢の中で見た、謎の存在そのものだったから……。

 

「仮面…ライダー?」

 

亜由美は初めて聞く、だが、何処か聞き覚えのあるその単語に疑問の声を漏らした。

 

「どうやら少しだけどその情報も入っているみたいだね」

「え?」

「聞いた事がないのに何故か聞き覚えがあるんでしょ?それくらいの思考は読めるよ」

 

そう言いながら歩は二人に見せていたカードをポケットにしまった。

そんな歩に亜由美はある仮説を思いつき歩に問い質した。

 

「え!?ひょっとして私の考えている事が解るの!?」

「少しだけね。流石に深層心理とかそういう細かいところは無理だけどね」

「じゃ、じゃあ、その…プライベートとかは……」

「それは今考えてなければ読めないよ」

 

つまり、それは亜由美が着替えているところとかを思い出していれば目の前に居るこの死んだ魚の目をした無表情男に見られてしまうという事か。

亜由美は考えないように必死に別の事に頭を回そうそするが、人間、考えるなと言われればどうしてもそちらに考えが向かってしまうものである。

 

「あぁ、そんな無理しなくていいよ。思考は僕からも君からも遮断できるから」

「それは早く言って下さい!!」

 

亜由美はそんな人の気も知らないで抑揚のない口調で答える歩に思わずツッコンでしまった。

 

「って言うか、貴方は一体何者なんですか?さっきのカードに描かれていたロボット…仮面ライダーディ何とかって言うのと関係あるんですか?」

「ディージェントね。仮面ライダーディージェント」

 

加奈は亜由美たちのやり取りに嘆息を零し、自分が気になっていた重要事項を歩に問い質した。

それに対し、歩はまた頭をガリガリと掻きながら加奈にもう一度名乗った。

 

「そして僕はその仮面ライダーディージェント。正真正銘、さっきのカードに描かれていた君たちが言うロボットだよ。まあ、正確にはロボットじゃなくてパワードスーツなんだけどね」

 

その時、亜由美は思い出していた。あの夢の続き…あの青黒いロボットが現れた後、白衣の男の手を掴んでそのまま腰に着けた機械だけを残して消えていったのを……。

そして再び襲いかかって来たライオン男にその機械を付けてロボット…ディージェントに変わって迎え撃ったのを……。

 

「じゃあ、あの夢に出て来た男の人って…先生だったの?」

「そう言う事になるね。後、僕の用事を説明しようと思うんだけど、口だけで説明しても信じてもらないかもしれないし、これを使った方がいいかな?」

 

そう淡々と言いながら右掌を上に向けると、その上に灰色のカーテンが現れた。

 

「え!?ウソ!?」

 

亜由美は自分と同じように灰色のカーテンを出す事の出来る歩に驚愕するが、歩はその様子に気にした様子もなくその中から出てきた四角い機械に持ち手部分の付いたディージェント専用変身ツール・ディージェントドライバーを取り出した。

 

それを腹部に当てると、持ち手とは反対部分から帯が飛び出し歩の腰回りをぐるりと一周して持ち手部分の根元にカチリという音とともにくっ付いた。

そしてくっ付くと同時に右手側にある持ち手部分を引っ張る。すると四角い機械部分が時計回りに90度回転し、上部にカード挿入口が現れる。

 

「やっぱりここは、変身せずにこのカードを使った方がいいかな?」

 

そう言うと先ほど取り出したカードとは別のカードをポケットから取り出すと、それをカード挿入口に装填した。

 

[ツールライド……]

 

挿入すると同時にカードを認識した電子音声と、待機音声が流れる。

 

Dシリーズにはそれぞれ成長記録機能が付いている。

Dシリーズ装着者が何らかの経験をすることを条件に、それに応じた機能やライドカードが追加されるのだ。

今使ったカードも歩がこの二年間、様々な世界を渡って手に入れたカードの内の一枚だ。

 

[ビジョン!]

 

持ち手部分を押し込むと電子音声が鳴り響く。

すると周りの空間が黒く歪み始めた。

 

「ワ!ワワワ!?」

「何したの!?」

「落ち着いて。これはただの幻覚だから」

 

歩が狼狽する二人に話している間にも周りの景色は変わり続ける。

やがて周囲一帯が黒一色に変わると、彼方此方(あちこち)から小さな光が瞬き始める。

まるで宇宙空間の様だと感嘆しながら二人は辺りを見渡していると、幾つかの光が此方に近づいて来るのが見えた。

その近づいてくる光がやがて視認できる距離まで来ると、二人は驚愕した。

 

「え!?地球!?」

「それも、こんなに沢山!?」

 

その近づいてきた光…地球は全部で九つ。それらが三人の足元に輪を作るように並ぶと、歩は説明を始めた。

 

「世界は無数に存在する。でもある一部の領域にある世界が融合を始めた」

 

歩は指をパチンと鳴らすと足元にある九つの地球が互いに距離を縮めるように輪を小さくし始めた。

やがて互いに触れ合う距離まで来ると、その触れた部分から粒子を出しながら崩れ始めた。

そして九つの地球が一か所に重なると、粒子を大量に放ちながら完全に消え去った。

 

「世界が融合しようとすれば、世界が互いに拒絶反応を起こして消滅してしまう。そこで僕達Dシリーズは世界が拒絶反応を起こさないようにするために世界を渡っているんだ。謂わば潤滑油だね」

『………』

 

二人は歩の余りにも壮大すぎる話の内容に開いた口が塞がらなかった。

そんな非現実めいた事、俄(にわ)かに信じがたいがこんな今の時代では出来ないような立体映像付きで説明されては無碍にはできなかった。

そこで加奈は一つの疑問が浮かんだ。

 

「待って。今“僕達”って言いました?という事は先生の他にもそのDシリーズっていうのがいて、それが世界を救うために活動してるって事ですか?」

「そういう事になるね。でも殆どのDシリーズは好き勝手に行動してるから実際のところは僕だけだね」

「……それで先生、先生のここに来た目的は何なんですか?先生の言葉から推測するに、ここがその融合を始めた世界じゃないみたいですけど……」

 

加奈は亜由美の目の前に立つように移動し、歩を睨みつけるように言い放った。

その言動に歩は一瞬だけ目を見開いたがすぐに戻すと、面白そうにニヤリと笑った。しかしそれでもやはり目が虚ろなため、何処か無気味に見える。

 

「……へぇ、よく解ったね」

「伊達に刑事の娘はやってませんからね。それで、亜由美に何の用事なんですか?」

「え? 何? どういう事?」

 

二人のやり取りに付いていけてない亜由美に加奈は軽く溜め息を零した後、軽く説明を始めた。

 

「アンタねぇ、解んないの?先生は最初『二人っきりで話したかったけど、君も知ってるみたいだからいいかな』って言ったのよ。そして知ってるって言うのはあの灰色のカーテンの事。つまり最初っから灰色のカーテンを使えるアンタを狙ってんのよ」

 

その言葉に亜由美は寒気を感じる。

もしかしたら歩は自分の持っている能力の本来の持ち主でそれを取り返しに来たんじゃないだろうか。

もしその方法が命に関わるようなものだとしたら……。

 

二人は歩から距離を摂るように少しずつ距離を取るが、ここは歩が作り出した宇宙空間。幻覚と言っていたからある程度距離を取ってしまえば消えるかもしれないが、そんな確証はないし、亜由美の灰色のカーテンで逃げようにも上手くいく可能性は薄い。

 

そんな二人の様子に歩は軽く嘆息すると、弁明し始めた。

 

「何か勘違いしてるみたいだけど、別に獲って喰おうとかは思ってないよ。ただ協力して欲しいだけで……」

 

そこまで言った途端、周囲に変化が訪れた。

周りの空間が最初の時の様に歪み始め、徐々に本来の景色に戻り始めたのだ。

それを好機と見たのか、加奈は亜由美に言い放った。

 

「亜由美!カーテン出して逃げるわよ!場所はとりあえず私んチ!」

「あ、ウン!」

 

亜由美はすぐに昨日入った事のある加奈の部屋をイメージし、灰色のカーテンを呼び出して加奈と一緒にその中へ逃げ込んだ。

 

「あ、待って!あまりそれは使わない方が……」

 

歩が何か言いきる前に二人は灰色のカーテンの中に消えていった。

 

 

 

 

 

「一体、何が起きて……」

 

徐々に色付いて行く空間の中で、歩は考え込んでいた。

 

「ツールライド・ビジョン」のカードは少し特殊だ。

このカードを使えば自分がイメージしたものを具現化してまるで本物の様に見せるカードなのだが、今回は「Dプロジェクト」の情報を一部イメージしてそれをあの二人に見せたのだ。

 

しかし効果が切れるのが早過ぎる。

もしまだ正常に機能していた時に亜由美が次元断裂空間を展開していたのならば、空間そのものにダメージを与えてビジョンの効果が破壊されていたが、彼女が展開したのは効果が切れ始めた時だ。その前に展開していた気配は一切なかった。

だが、一つだけビジョンの効果を自動的に消す条件があった。その条件とは……

 

「“何らかの脅威が近づいた時”…でも、まだここに来て二十四時間も経っていない。そんなに早く『歪み』が生じるわけが……」

『お、エモノはっけーん』

「ッ!!」

 

周りの景色が完全に元に戻ると、突如くぐもった声が聞こえ、そちらの方を振り向くとそこには脅威がいた。

ステンドグラスの様なカラフルな表皮に、羊の様な捻じれた大きな角を持った怪人…ゴートファンガイアだ。

 

ファンガイアは「キバの世界」と呼ばれる「ライダーサークル」の世界の一つに存在するその世界の脅威だ。

人間から生命力…ライフエナジーと呼ばれるエネルギーを糧に生きる、人間を家畜としてしか見ようとしない種族だ。

 

「そんな…いくら何でも早過ぎる……」

 

歩が驚愕と疑問が入り混じった声を零す(しかし表情にはそれほど出てないが)と、ゴートファンガイアはその声に気付かずに何やらぼやき始めた。

 

『ヘッヘッヘ、此処にはホントーにキバも王もいねぇみてぇだな。やっぱり付いて来て正解だったぜ』

 

“付いて来て正解だった”…その言葉に違和感を覚えた。

その言葉が本当だったとしたら、誰かがこの脅威をこの世界に連れ込んできたという事になる。

 

「連れて来たのは、一体誰だい?」

 

歩は抑揚のない声でそう淡々と問い質すと、ファンガイアはその表情を訝しげに歪めた。

 

『ハァ?下等生物が何ほざいてんだ?お前には関係ねぇだろぉが』

 

どうやらこのファンガイアは相当人間を見下しているようだ。

人間よりも強靭な肉体を持つが故の慢心だろう。

 

「……どうやら、力尽くで聞き出すしかないみたいだね」

 

そう言いながらすでに装着されているディージェントドライバーの持ち手部分を引っ張ってカード挿入口を展開し、ポケットの中からディージェントのカードを取り出す。

 

このディージェントは他のDシリーズと比べ、変身すると「歪み」が生じ易いため極力控えたいのだが、この目の前の脅威を放っておけば被害は更に広がるだろう。放ってはおけない。

 

『オイオイ、人間如きがオレ様に勝てると思ってんのかぁ?』

「まぁね。でも少なくとも、君の所のキバや王くらいには強いよ?僕は」

 

その淡々とした口調が癪(しゃく)に障ったのか、ファンガイアは荒々し口調で叫んだ。

 

『テメェ一体何様のつもりだ!!』

 

その問いに対し、歩は「ん~そうだな~」と呟きながら、頭をガリガリ掻く。

やがて考えが纏まったのか掻くのをやめると、ファンガイアに向かってこう答えた。

 

「自分の存在意義を探す仮面ライダーだ。別に覚えなくていいよ」

 

そう吐き捨てるよう答えるとカードを装填し……

 

[カメンライド……]

 

「変身」

 

そう呟いて音声コードを言い放ち、持ち手部分を押し込んだ。

 

[ディージェント!]

 

歩の身体がアナログテレビようなの砂嵐とザーザーという灰色と音に包まれ、ディージェントドライバーの機械部分の中央にある丸く青黒い部分からライドプレートが数枚飛び出す。

ライドプレートはブーメランのように回転しながら灰色の砂嵐に包まれている歩の頭部に4枚突き刺さり、残りのライドプレートは両肩に横に2枚づつ、両脚の脛部分に縦に1枚づつ突き刺さる。

するとその突き刺さった部分から砂嵐が消えていき全身を一瞬だけ薄い水色に染め上げ、そこから更に色を深くさせて藍色に染め上げる。

そして最後にDを鋭角に尖らせ、鏡合わせの様に反転させた黄色く大きな複眼が光ると、すべての変身過程が完了した。

 

深いインディゴカラーの装甲と四肢と胸部に矢印を描く様に伸びる白いラインの入った黒いボディに黄色い複眼、下を向いた二本線の矢印の様な形を作っているライドプレート。

しかし中央に突き刺さっている2枚のライドプレートのその角の一部に以前付いていた黄色いシグナルポインターは、ブランク状態を示す灰色になっていた。

 

歩はディージェントへの変身が完了すると同時に両手をそれぞれグローブを嵌め直す仕種を取った。

 

「さてっと、まずは半殺しにして聞き出そうかな?」

 

そして、淡々とした口調で何気に恐ろしい事を呟いて、目の前の脅威に立ち向かって行った。


 
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