No.394604

仮面ライダーディージェント 第2話:代行者、来訪

水音ラルさん

ディケイドライバーがライダー大戦の際に壊れた際にバックアップとして生まれたディケイドの代理人こと破壊の代行者・仮面ライダーディージェント。
ディケイドに代わって本当の目的を果たそうとするも、門矢士が復活したせいで存在を保てなくなってしまった。
しかし自分の代わりに計画を実行できる素質を持った一人の青年に自分の力をすべて託し、青年はその計画を代わりに実行するために動き出す。
仮面ライダーディケイドに代わり、自らの使命を遂行する者、仮面ライダーディージェント。 自らの存在意義を求め、その歩みは何処へ行く。

2012-03-19 21:24:13 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:413   閲覧ユーザー数:413

須藤歩がディージェントになって2年後……

 

とある何の脅威もない平凡な世界の2月9日……

 

その世界の朝、一人の少女は自分の通う岩森学校の冬服の制服の上に茶色いブレザーを身につけ、長い黒髪を真ん中で分け、後ろで束ねたポニーテールの少女・須藤亜由美は走る時に生じる風でポニーテールを靡かせながら走っていた。

亜由美は寝坊して学校に遅刻しそうになっていた。急いで学校に行かなくちゃ…!そう思った時だった。突然辺り一面がドロドロとした灰色に包まれた。

 

「えっ!何なの!?」

 

突然の事態に戸惑うが、奥にポッカリと灰色ではない外の景色と思われるような空間が見えた。

 

「あ、ひょっとして出口!?」

 

歩はその方向へ走ると、その外の景色がブワッと広がり見覚えのある場所についた。

 

「え、ウソ…学校?」

 

気がついた時には学校の校庭にいた。幸いにも生徒たちは全員教室に入ってしまってるようなので誰にも見られていないようだった。

 

「ってヤバ!早く入らないと!」

 

しかし教室の窓から何気なく外を見て先ほどの異常現象を見てしまった者が一人だけいた。

 

「何?今の……」

 

 

 

 

 

「亜由美!朝のあれは何!?」

 

高校の食堂で小声ながらも鬼気迫る口調で亜由美に朝の光景を目にしていた一人の女子が亜由美に問い質してきた。

 

「え?ひょっとして…見てた?」

「ええ、偶々外見てたらね。それであの灰色のカーテンみたいなの何だったの!?答えなさい!」

「わ、私だって何なのかわかんないよ!?ただ、早く学校行かなきゃ~って思ってたら急に出てきて、それで気が付いたら校庭にいたの!」

「思ってたら…?」

 

目の前の女子はそう呟くと左手を口元にあてがい、思考の海に漂い始めた。

目の前の女子…藤崎加奈は亜由美の友人だ。

 

亜由美より少し短い位の亜麻色の髪をツインテールにしているが、クセッ毛なのか左右の二つの束は蟹の鋏のように真ん中のあたりは開いている。もし彼女に「蟹頭」などという単語を放とうものなら瓦をいとも容易く割れそうな威力のある脳天チョップが直撃する事になるだろう。

 

彼女は気になることがあれば徹底的に調べなければ気が済まない性分だ。今回亜由美に起こった現象もまた納得するまで調べるつもりだろう。

 

将来、探偵とか似会いそうだな~とかどうでもいいことを思っていると、閃いたのかこちらの方を向き、

 

「亜由美、学校が終わったらウチに来なさい!良いわね…!?」

 

小声でまたも鬼気迫る口調で言い放った。しかも今度は命令ときたもんだ。

 

「ウ…ウン……」

 

亜由美はその迫力に怖じ気づきつつも何とか了承した。

 

 

 

 

 

「で、どうすればいいの?」

 

亜由美は加奈の部屋に入ってそう第一声を放った。

 

「私個人の見解としては、どこかの場所をイメージすればそこに行けると思ったんだけど…何にも起きないんだよね~」

 

とりあえず先ほどの現象は自分の意思とはあまり関係がないのではないかと思いそう言うが、

 

「あんたね、それって授業中に思ってたんじゃないの?」

 

加奈が溜め息交じりにそう聞き返してきた。

 

「え?ウンまぁ、そうなんだけど……あ、あと加奈の家に行く途中でも考えてみたけど……」

「おバカ!」

「イッタ~!?」

 

亜由美の言葉を遮り、加奈が亜由美に脳天チョップを喰らわせた。

 

「それは“あくまでイメージした”だけであって、“本当にそこに行こう”とは考えてなかったでしょ!?」

「え、ウン、まぁ……」

 

亜由美は痛みに頭を抱え込みながらも加奈に返事をした。

 

確かに亜由美がイメージした場所といっても、行った事のないサハラ砂漠のど真ん中やら、パリのエッフェル塔といったものばかりだ。

そして本当にそこに行きたいと思っていたわけでもない。もし本当に行ってしまったらサハラ砂漠で冬服のまま立ち往生する事になるだろうし、パリなんかに行けば言葉が通じず路頭に迷う事確定だ。

もしイメージすれば帰れるとしても何処にもそんな確証はないし、もしかすれば突然使えなくなってしまうかもしれないからだ。

 

「いい?亜由美が本当に行きたいところをイメージするのよ」

「わ、分かった」

 

とは言ってもそんなの急に言われても思いつくわけがない。とりあえず神経を集中させて考え始める。

 

(あ、そう言えば喉渇いたな……)

 

しかしどうでもいいことを考えていた。

 

(とりあえず加奈んちの冷蔵庫に何かあるかな~)

 

さらにどうでもいいことを考え出した……。

 

しかしそれが思わぬ結果(亜由美にとって)を齎(もたら)した。加奈の部屋に灰色のカーテンが現れたのである。

「出た!!」

「えぇ、ウソォ!?」

 

あんなどうでもいい事で出てくるとは思わなかった亜由美は思わず驚嘆の声をあげてしまった。

 

「でも何か小さいわね」

「あ、確かに」

 

加奈の言うとおりその灰色のカーテンは子供が屈まないと入れないくらいの大きさしかなかった。

やはり別のことを考えていたからだろうか…そんな事を思っていると、灰色のカーテンは亜由美たちから離れるように移動し、そして消えた。しかし先ほどまでカーテンがあった場所には先程まで無かったものがチョコンと置いてあった。それは……

 

「あ、これ冬季限定イチゴ牛乳じゃん。ねぇコレ飲んでみていいと思う?」

「まぁ亜由美が出したんだしね。いいんじゃない?」

 

加奈からの了承を得てそのパックに付いていたストローの袋を破りストローを差し込み飲む。

 

「それにしても何処をイメージしたの?まさかどっかのコンビニとかから取り出したんじゃあないでしょうね?」

「あぁ~それは……」

 

言葉が詰まった。亜由美がイメージしたのは藤原宅の冷蔵庫。そして加奈は亜由美と同じく甘党である。つまりこのイチゴ牛乳は加奈のものである可能性が高いのだ。

加奈はそんな亜由美の心情など気にもせず、ある事を思い出していた。

 

「どうしたの? この世が終わったみたいな顔して。あ、そう言えば私もそれ買ってたんだ…っけ」

 

そこで亜由美が今の表情をしている原因を思いついたのだろう。加奈は慌てて自分の部屋から出て行った。しかもその際『そこを動くな』と凄まじいまでの眼力によるアイコンタクトを残して……。

 

 

 

 

 

「ゴメンナサイ……」

 

頭に大きなタンコブを作った亜由美は加奈に土下座していた。

結果から言えば加奈が冷蔵庫に入れていた冷蔵庫は消えていた。それを確認した加奈はダッシュで部屋に戻り、問答無用で亜由美に脳天チョップ三連発をお見舞いしていた。

そして現在に至る。

 

「まぁ、結果から言えばあの灰色のカーテンは亜由美の任意で作り出せるって事が分かったわね。代償は大きかったけど……」

「だからぁ、ゴメンってぇ……」

「口答えしない」

「プギュッ!」

 

再び亜由美に脳天チョップ(弱)を喰らわせる加奈であったが、これで加奈の仮説は立証された。

やはりあの灰色のカーテンは亜由美の意思で作り出されるようだった。しかしそうなるとなぜ亜由美にそんな異常な能力があるのかが謎だった。

 

「でも何であんたそんな能力持ってんの?」

「私だって知りたいよぉ」

 

脳天チョップ(弱)とはいえ、やはりタンコブがある状態で食らえばそれなりに痛みが増すのであろう。亜由美は自分の頭をなでながら答えた。

 

「何か心当たりってないの?変な商人から怪しげな薬を貰ってそれを飲んだとか、夜道を歩いてたらUFOに拉致されて改造手術を受けたとか」

「さすがにそれはないです!そんな薬絶対に飲まないし、昨日は学校から帰ったあとずっと家に居ました!」

 

加奈のボケとしか思えない仮説に全力で否定のツッコミをする亜由美だが、「あ、でも…」と何かを思い出したのかその心当たりを語っていった。

 

「変な夢を見たんだよね……」

「夢?」

 

亜由美の言葉に加奈は鸚鵡返しに聞き返した。

 

「ウン、辺り一面が廃墟でさ、その中を白衣を着た男の人が歩いてたんだよね」

 

亜由美はその夢の中の状況を思い出しながら、続けた。

 

「その人の顔はよく覚えてないんだけどしばらく歩いてたら、目の前にライオン男が出てきて、それが頭の上に天使の輪っかを出して……」

「ストォップ!!」

 

あまりに奇天烈な夢の内容に加奈は思わず待ったをかけた。

 

「どういうこと!?何でライオン男が出てきたの!?しかも天使の輪っかって何!?そのライオン男、実は天使だったっていうの!?」

「しょうがないじゃん、そういう夢だったんだし」

 

二人は知らないだろうが今話しているライオン男…もといアンノウンは本来神の使いであり、あながち間違った解釈でもない。

 

「まぁ夢の話なんだし、一々ツッコンでたら話が進まないか。続けて」

「ウン」

 

加奈はこのままツッコンでいては日が暮れると思ったのか亜由美に続きを促す。

しかし今はもう5時、この時期なら日が暮れるのも時間の問題かもしれない。

 

 

 

 

 

亜由美は自分が見た夢の続きを思い出しながら話していた。

襲いかかって来たアンノウン、それを灰色のカーテンで撃退した白衣の男、そして男の前に現れた青黒いロボットのような存在……。

 

亜由美が見た夢というのは別の世界に存在する須藤歩・ディージェントの事だった。

須藤歩は亜由美の異次元同位体…つまり別の世界の須藤歩だ。

彼がディージェントから情報を流し込まれる際、次元断裂を出していた。そこに生じていた僅かな「歪み」がほんの一瞬だけ亜由美たちのいる世界と繋がったのだ。

その一瞬の間に歩の異次元同位体である亜由美に一部ではあるが膨大な量の情報が流し込まれたのだ。

彼女が灰色のカーテン…次元断裂空間を使えるのはその副産物でもある。しかし、今の彼女達にそれを知る術はない。

 

そう、今は……。

 

 

 

 

 

「ここか…僕の異次元同位体がいるのは……」

 

須藤歩は高層ビルの屋上に出現した次元断裂からその姿を現れると、夜闇に包まれる街並み眺めて呟いた。

 

彼の今の服は薄汚れた白衣ではない。

世界を移動する度に服装がその世界での役割に順じたものに変化していくのだ。

そして今回の彼の姿は茶色いスーツに黒鞄を持った何処にでもいそうな社会人の格好だった。歩はおもむろに鞄の中を漁ると手帳を取り出す。そして手帳の1ページ目を見るとそこにはこう記されていた。

 

「岩森高校 2月10日より臨時教職員として勤務…か……」

 

 

 

 

翌日、2月10日……

 

亜由美はあの後、もうすぐ日が暮れそうになっていたので灰色のカーテンの話はここまでとし、帰路に着いた。

そして現在、朝のホームルーム前の亜由美たちのクラス・三年D組ではある一つの話題で持ち切りになっていた。

 

“野原先生の代わりの臨時の先生が来る”

 

亜由美たちのクラスの担任である野原は先月結婚したばかりだ。しばらくの間は新婚旅行を楽しむ為、その間は代理の教師が代わりに受け持つらしい。

 

一部のその教師を見た生徒たちの話だと、曰く「その教師は二十代前半である」

曰く「それなりにイケメンだけど、目が残念だった」

曰く「体の線が細く、見るからに草食系。もっとガッツリ来いガッツリと」といった物だった。

明らかに最後の情報は蛇足である。

 

やがて学校全域に響き渡るチャイムが鳴り、亜由美達の教室のドアがガラリと開いた。そこから入って来たのは…新婚旅行を前日に控えた野原であった。

若干教室にガッカリ感が漂っている教室の雰囲気に気付いていないのか、「俺はしばらく嫁さんと楽しんでくるから、お前らも早く彼氏・彼女作れよ~」ととても教師とは思えない発言をかましてきた。

一部の生徒達は「ふざけんな!」と罵声を浴びせてはいるものの、野原はそれらの暴言の嵐を華麗に聞き流し、このクラスの者達が今一番望んでいる情報を連絡し始めた。

 

「で、だ…俺がいない間お前らの臨時の担任になった先生を紹介する」

 

「ではお願いします」と臨時教師がいると思われる教室の外に声をかけると、教室のドアを開け茶色のスーツを身に着け、少し長めの黒髪を真ん中で分けた若干細身の男が入って来た。

 

横顔だけで亜由美の席からでは顔全体は髪に隠れて良く見えないが、黒板に白のチョークで自分の名前を書き始める。徐々に書かれていく名前に亜由美を含んだ生徒達は軽い驚きを見せ始めた。

 

やがて名前を書き終え、生徒たち全員に顔が見えるように正面を向いた。

その顔は「なるほど」と事前の情報に納得できる顔付きだった。顔は基本的に端正なのだが、目だけはどこか虚ろだ。

 

亜由美の第一印象で言えば「死んだ魚の目」をしていた。

 

「今日からしばらくの間、皆さんの担任をさせて頂く事になった“須藤歩”です。よろしくお願いします」

 

 

 

 

 

「しっかし驚いたよな。亜由美とほぼ同じ名前なんてよ」

 

昼休みの食堂では昨日一緒に昼食を食べた加奈の他にもう一人加わった状態で学食を食べていた。

 

先程の男勝りな口調で感想を述べた亜由美の正面に居る黒髪を短く切り揃えたボーイッシュな印象を受ける少女の名は多々井皐月。亜由美の友人の一人である。

 

普段は女子柔道部に所属していており、昨日はそこの部活仲間と一緒に昼食を摂っていたのである。

見た目はスレンダーであるが実際はそんじょそこらの不良だったら軽く蹴散らすくらいの実力を持っている柔道部のエースだ。

ちなみに現在絶賛彼氏募集中だったりするが、少なくとも彼女と同等の実力を持っていなければ彼氏は務まらないだろう。

 

更に蛇足だが今話題をしている臨時教師の情報で「体の線が細く、見るからに草食系。もっとガッツリ来いガッツリと」と言ったのは彼女だったりする。

 

「確かに、あそこまで名前が一緒なんてすごい偶然よね」

「なんかあそこまで一緒だと他人事とは思えないんだけど……」

 

加奈が皐月の話題に頷き、亜由美はあの教師に違和感を覚えていた。

名前が似ているというのもそうだが、それだけではないような気がするのだ。寧ろ、何処かで会った事がある気がする。

 

「あ~確かに髪型も亜由美と同じ真ん中分けだったし、亜由美を男にしたら丁度あんな感じになるんじゃねぇの?」

「私はあんな死んだ魚の目じゃありません!!」

「誰もそこまで言ってないと思うわよ、亜由美……」

「誰が死んだ魚の目だって?」

「ヒャアーウ!?」

 

皐月と若干漫才染みたやり取りをしていると、突然背後から男の声が掛けられ、思わず素っ頓狂な声を挙げてしまう。

後ろをぎこちない動きでゆっくりと振り返るとそこには今話題となっている渦中の人物が空の皿とのコップが乗っただけのトレイを持って虚ろな目でこちらを見ていた。

 

「あ、歩センセー。チィーッス」

「あぁ、確か僕のクラスの……」

「多々井皐月ッス。もう昼メシ食い終わったんすか?」

 

皐月も今気付いたのか、歩に挨拶をするがその挨拶は教師にするには余りにもフランク過ぎる。上の名前で呼ばないのは、亜由美と被ってしまうための配慮だろう。

だが歩もただ「まあね」とだけ言って返事を返す。

 

この教師は台詞こそフレンドリーなのだが、口調は抑揚がなく淡々としているため、素っ気ない言葉使いになってしまっているのだ。簡単に言えば、感情が籠ってない。

 

正直この温度差が亜由美と加奈にとって非常に居づらい空気を作ってしまっているが、元凶の二人は全く気付いていないまま会話を続ける。

 

「そういや、センセーって今いくつ何すか?」

「21だよ」

「ヘェ~意外と若いっすね~。彼女とかっているんすか?」

「いた事はないね」

「亜由美とはどういう関係っすか?」

『ブフォァ!?』

 

フランクに次々と質問を繰り出す皐月と素っ気なく一言で返事を返す歩のやり取りに、亜由美と加奈は気を紛らわすため軽く水を飲もうとするが、皐月の思わぬ変化球によって思いっきり吹き出してしまった。

 

「ゲホッ、ゴホッ…な、何聞いちゃってんの皐月!?何処でどうしてそういう質問になったの!?」

 

咽ながらも加奈は皐月にツッコミを入れ、即座に脳天チョップをかますが易々と受け止められてしまう。

そして当の本人はキョトンとした顔で当然の如く(本人にとってだが)答えた。

 

「え?だってここまで似てっともう生き別れの兄妹とか思うじゃん?」

「だからってねぇ……」

「………」

 

加奈はこのフランクすぎる大バカの代わりに謝ろうと歩の方を振り向くと、歩は難しそうな顔をした後亜由美の顔をジッと見つめた。その目はやはり虚ろではあるものの、真剣味を帯びた目つきだった。

 

「え?アレ?」

「な、何ですか?」

「アレ?ひょっとして、マジで?」

 

三者三様に驚いていると、歩はふと我に返ったように他の二人にも目配せをすると、「いや、何でもない。流石に兄妹という事はないよ」と、軽く愛想笑いをしながらそう言うと、トレイを返却口に置き食堂を後にした。

 

「……怪しいな」

「ええ……」

(やっぱり、あの人どこかで……)

 

やはり、あの教師は自分と何かが似てると亜由美は感じた。それは名前や容姿などの外面的特徴ではなく、もっと内面的な事で……。

 

「これは調べてみる必要がありそうね」

「へ?」

 

意識を戻すと加奈が左手を口元にあてがいながら、好奇心で目を輝かせていた。

 

「だなぁ」

 

皐月もその目を加奈と共鳴させるかのように輝かせながら、とても女子がするとは思えない「ニタァ」と擬音が付きそうな笑顔をその顔に張り付かせていた。

 

「え?え??い、一応二人が何考えてるのか大体分かるんだけど、何する気?」

 

亜由美はこれからこの友人二人が起こそうとするアクションに嫌な予感を感じつつ訊ねると、二人の声は見事にハモッた。

 

『そりゃあやっぱ尾行でしょ(だろ)!』

「エェェェ……」

 

亜由美は二人が考えていた事が見事に的中してしまった事に思わず呆れ返ってしまった。

だがやはり自分もあの教師は気になる。流石に教師を尾行して停学になる事は恐らくはないだろうが、良心的な意味で気が引ける。

 

「それって私も付き合わなきゃ…ダメ?」

『ダメ』

「だよねぇ……」

 

どうやらこの尾行作戦に自分が参加する事はすでに決定事項になっているようだった。

 

 

 

 

 

「さて、どうするかな……」

 

歩は職員室に移動する道中で思考に耽(ふけ)っていた。

 

須藤亜由美が自分の異次元同体である事は知っている。そして彼女もまた自分と同じ次元移動能力を持っていることも。

 

歩は本来この世界に来る必要はなかった。あの日、ディージェントになってから二年間、歩はディージェントが自分の元に来るまでに移動していた世界を辿りながら、仮面ライダーたちが存在する無数の並行世界の領域・「ライダーサークル」へ向かっていた。

 

ディージェントが自分を探すために様々な世界を高速で移動していったため、その素通りした世界に「歪み」が生じていたのだ。

歩はその「歪み」を修復しながら「ライダーサークル」へゆっくりと、だが確実に進んでいった。

 

この世界は本来ディージェントが通ったわけではないのだが、歩にとっては「保険」として来ておく必要があったのだ。

 

この世界に居る自分の異次元同位体…須藤亜由美とシンクロしておくためだ。

この世界を渡れば次はいよいよ、「ライダーサークル」の領域へ辿り着く。そこではどんな事態が起きるか分からない。そのためのシンクロだ。

シンクロしておけば、万が一自分が死んだあとでもディージェントの情報が彼女にダウンロードされ、新たなディージェントとして計画を再開できるのだ。

 

但し歩も彼女の日常を壊すような事をしようとは思っていない。彼女が断れば能力の多用をしないよう忠告してそのまま次の世界・「ライダーサークル」へ向かうだけだ。

 

彼女は自分の持っている能力が「歪み」を生み出す事を知らない。

もし彼女が能力を多用すれば、空間に綻(ほころ)びが出来て「歪み」が生じ、この世界の近くにある脅威…「ライダーサークル」の怪人が現れ、この世界を破滅へと導く事になるだろう。

 

歩としては亜由美とシンクロしてもらいたいのだが、前述の通り彼女の日常を壊したくない。そのため、彼女に中々話を切り出せずにいた。

 

期限は約二週間、それ以上この世界に滞在すればこの世界の住人ではない歩の存在に対して世界が拒絶反応を起こして「歪み」が生まれる。

それまでに説明しなければならない。しかし、どう切り出すか……

 

そんな物思いに耽っていると、目的地である職員室の前まで辿り着いた。

 

「まぁ、あと二週間までに何とかすればいいか」

 

そう考えを締め括り、歩は職員室の扉を潜った。


 
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