川神院にある門下生が修練をする場所。
そこに川神鉄心と、ルー・イー、九鬼家の従者で序列0位ヒューム・ヘルシングがいた。
彼らは『何か』を感じ、その発信源であるこの場所に来ている。
「ヒュームよ。お主も感じたのか?」
鉄心が白く長い髭を撫でながら尋ねる。
「正確にいえば、感じさせられたというべきだな。『あれ』は俺達三人だけが感じるように調整していた」
確証はある。傍にいた同じ同僚のクラウディオ・ネエロは一切感じなかったと言っていた。それに、その『何か』は三人が到着すると同時に、より強くなっている。
「……現れたようじゃの」
鉄心の眉がピクリと動く。
「ご来店ありがとうございます。川神鉄心様、ルー・イー様、ヒューム・ヘルシング様」
それは仮面を被ったどこかの学生服を着た青年。
「小僧。俺達を客と呼ぶならば、それ相応のもてなしがあるということかな?」
ヒュームは冗談交じりでを言葉を返すが、その表情は真剣そのものだ。
「君は、一体何の目的で私達を集めたのかネ?」
真意が読み取れず、ルーは探るような目で青年を見た。
「実は、あるお客様の依頼により、貴方様方を拘束させていただきます」
「拘束だと?」
「はい」
ヒュームは笑う。
「ハハハハハッ! おもしろい冗談を言うなっ!」
「………」
青年の表情は仮面を被っているのでわからない。
「そうだネ。冗談にしても笑えないネ」
そういいながらも、ルーの心の中では不安が生まれる。自分含めて、壁を越えている者。それを知らない相手ではないはずだからだ。
「冗談ではありません。もう、すでに拘束しています」
青年はそういい残すと消えた。
「むっ!?」
鉄心を含め、三人は周囲の状況の異変を感じる。
「これハ……異空間?」
さらは自分達には何百十ともいえるほどの結界が張っていた。
「むぅ……これは、破るのに三日ほどかかるかのぉ……」
鉄心は髭を撫でて柔和な笑みになる。自分達が相手の策に乗ってしまったことに笑う。
「ご安心してください、三日後に解放いたしますので、その間は仕事で疲れていた体を十分に休息させてください」
異空間からあの青年の声が聞こえた。
「いったいこれはどういうことだネ?」
ルーは返ってくるかどうかわからない青年に詳しい説明を求めた。
「闘争の世界」
鉄心の眉がピクリと動く。
「川神百代様が望む闘争の世界を創り上げることが私の役目でございます」
川神鉄心、ルー・イー、ヒューム・ヘルシングが拘束されてから数分後。
川神市にある九鬼財閥のビルでは、激しい交戦が行われていた。戦いは九鬼の劣勢で、ビルは崩壊しようとなっている。さらに一番に非難しなければいけない九鬼英雄と九鬼紋白はまだそのビルにいた。
理由は二つ。
一つは、自分達よりも従業員を宝と認識している二人にとって、全員が非難完了していない状態で非難などありえなかったからだ。
二つめ、例えすべての全員が非難完了していようとビルが崩壊しかけようと逃げるわけにはいかなった。
「どういうつもりだ。李?」
九鬼家の従者で序列16位の李静初が、二人を捕らえようとしていたからだ。
「………」
李は英雄の質問に答えず、ジリジリと二人を追い込む。
「李よ。なぜ、兄上の質問に答えぬ? こういう行動をするということはそれなりに目的があるからしているのだろ?」
今度は紋白が質問するが、李に返答は来ない。
ちなみに本来なら二人を守るために他の従者や忍足あずみなどが駆けつけるはずだが、来れない理由があった。
「ハッハハハ――!! 弱い弱いぞ! 虫ケラ共!」
九鬼財閥が生み出した「武士道プラン」のメンバーの葉桜清楚と武蔵坊弁慶が他の従者達を引きつけて、圧倒的な力ですべてを看破していたからだ。
特に葉桜清楚は、以前は温厚で読書を読むのを趣味としていた女性だったのだが、この戦いが始まってからはビル破壊や相手を倒すことをまるでゲーム感覚のように楽しんでおり、予測がつかない行動もあって手がつけられない状態。
さらに、一番の原因は九鬼家の従者で序列42位桐山鯉の手引きが原因で、彼がどうすれば九鬼ビルが崩壊するのかを知っていたために、崩壊は防ぎようのない状態へと陥ってしまっていた。
もちろん九鬼家の従者で序列3位クラウディオ・ネエロや九鬼家の従者で序列15位のステイシー・コナーなどが応戦するが、全く歯が立たない。
「紋よ、我が李を引きつける。逃げろ」
英雄は紋白を庇うように立つ。
「何を言っているのですか兄上!? 逃げるなら兄上も……っ!」
紋白は驚いて聞き返した。
「状況はこちらが不利。外部とも連絡が取れない以上、誰かが姉上や母上に知らさなければいけない」
「ですが……っ!」
「あずみ!」
英雄があずみ叫ぶ。
「はっ!」
途端、体に生傷やメイド服がボロボロになったあずみが英雄の前に現れた。
「紋を連れて、逃げろ! これは命令だっ!」
「…………かしこまりました」
あずみは少しだけ辛い顔をするが、すぐに頷き紋白を抱きかかえた。
「兄上!」
紋白の兄を思う悲痛の叫びが響く。
「……行かせません」
李は二人の逃走を阻止しようと動こうとする………が。
「言ったはずだ。ここは我が食い止めるとな!」
英雄が李に飛びかかり時間を稼ぐ。
「………くっ」
英雄も拘束対象になっているために、二人を追いかけることはできない。
「ほちゃ――――!」
英雄の蹴りが李を襲う。李はそれを簡単に受け流して眠り針を打ち込む。
「………無……無念」
そして、英雄は悔しそうな顔で倒れこんだ。
その数分後、九鬼財閥のビルは完全崩壊した。
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第三話
『拘束』