No.349930

リング・ル・ヴォワール 6話

さん

映画「リング」と恐山ル・ヴォワールからの影響を受けた小説です。
ある日、呪いのブルーレイを見てしまった和行。その1週間後、彼の元に出てきたモノは……。
http://milk0824.sakura.ne.jp/doukana/  こちらの日記にも絵を書いています。なお日記絵は描いている時の様子を見ることができます。アニメ塗りの講座に使えるかもしれません(笑)

2011-12-20 09:49:51 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:467   閲覧ユーザー数:457

 

――今居る場所はブリックモールという。

俺たちが住む町にある特大百貨店の一角だ。(よく『エブリデイ、ヤングライフ…』とか何とか曲が流れている)

ショッピングモールなのだが、なんでも中世ヨーロッパの町並み風がコンセプトらしい。

レンガ造りの建物、石畳の歩道。そんな風景が一つの建物の中に再現されている。

若者を中心に人気があり、週末とあらば挙(こぞ)って押しかけてくる。まあ、ウチの町にはここ以外に遊びに行くところがないということも事実だが。

今は学校が夏休み中のため平日でも賑わっている。

 

俺と竜司、そしてさだこがその中を歩いていた。

……行き交う人誰もが、俺の後ろをついて来るボーイッシュな格好(俺の服なワケだが)の大和撫子がまさか物の怪だとは毛ほども思っちゃいないだろう。

たまに視線が飛んでくるのは、こいつが人間基準で美人の分類、それもかなり上位ランクに入るからだろうなあ。

 

物の怪さだことの同居のことは……こいつも行くあてがないと困り顔で言うので、まあ、仕方ないから俺の家に居候ということで合意したわけだ。

どう考えても人畜無害。大きな問題はないとは思う。たぶん。

まさかこんな形で同居人が増えちまうとは一昨日までの俺は思いもしなかったぞ。

 

 

「――竜司、他になんか必要なものって思い浮かぶか?」

「必要最低限は揃ったろ」

「さだこは他に入用なものは本当にないのか?」

後ろを付いてきているさだこをチラリと目を配る。

「と、特にはっ! 居候する身で物なんて買ってもらってしまうなんて……」

シュンとするさだこ。

「特にはって言われてもなぁ。女の子を泊めるなんて初めてだから何が必要かわかんないんだよなぁ」

「クククっ、今の言葉を美沙あたりに聞かれたらアウトだったな」

「なんであいつの名前が出てくんだよ。っつーか住むのは女の子ってより人外だぞ」

 

自分が手に持っている袋に目をやる。

そこには歯ブラシやシャンプー、石鹸、それに塗り箸なんてものも入ってる。

もちろん買い物中にさだこの奴に

『何が欲しい?』

なんて聞いたが

『いえっそんなっ! 買っていただくなくとも私は和行さんが使っているので十分ですからっ』

と遠慮の塊みたいな奴だった。

むしろ箸やら石鹸やらは俺と同じものを使われるのはちょっと気まずいわけだが(礼儀というヤツだ)、その辺良くわかってないようである。

あと個人的には包丁コーナーに行ったときは包丁を見ながら「…ククク…」とかいうのを期待してたんだが……。

残念ながらそんな物の怪らしい素振りは一切見せず、終始「なんでこの包丁、穴が開いてるんですか?」というごく普通の質問だった。(切ったものが包丁にくっつき難くなるという生活の知恵を伝授してやった)

気が利くのは案の定竜司だ。

一人暮らしの俺の部屋に足りないもの――食器やコップの準備を提案してくれたわけだ。

大学に入って一人暮らしを始めた時、一人で生活する必要最低限しかなかったからなぁ。

そんなわけでさだこの分を買ったのだが、これが手にかかる重量の80%は占めているに違いない。

要するにかなり重いのだ。

 

「なあ竜司、荷物持つ気ないか?」

「ねぇな。これっぽっちもねえ。そりゃおまえの仕事だろ」

とてもクールでいらっしゃった。チクショウめ。

「あの」

後ろから透き通った声。

「私の買い物ですので私に持たせてくださいっ!」

「ダメ。ってか無理」

「いえっ! どうか私にっ」

後ろで「和行さん~っ」と言っているさだこを無視して足を進める。

ちなみにこのやり取りも3回目。

……こいつの細腕じゃ無理だろ。どう考えても5~6キロ以上ある。

「いいじゃないかカズ、さだこに持たせてやれよ」

「お前なぁ、楽しんでるだろ?」

さだこに持たせたら最後、ガチャーン、キャー!というアン・ハッピーエンド到来が目に見えている。

「後ろ」

竜司が半ば呆れたような目線を後ろに向けた。

「なんだよ?」

「見てみろ」

目線を流したほうを見ると、

 

「むぅ~…」

さだこがつつけばプニプニしそうなほどホッペを膨らませていた。

……微妙に拗ねていらっしゃるようだ。

 

「拗ねるのかよ!? とりあえず物の怪なんだろお前!? なに手伝えなくて拗ねてんだよ!?」

「拗ねてません」

……拗ねていた。

ポン、と肩に竜司の手が乗せられた。

「おまえ…女の扱いをまるでわかってねえ」

「女じゃないだろ!? ってか人ですらないだろ!?」

――う。

マズイ。ツッコミどころ満載のせいで言い過ぎた!

恐る恐るさだこに目を移すと、

 

「……~~~……」

半分涙目だった。

 

これはヤバイ。なんで物の怪に気を遣ってるのかわからんが、これはヤバイ。何がヤバイって世間的にヤバイ。

周りに目を向けると『あんな美人に…鬼畜だ…』とか『優しさ履き違えてるよね~』とか『リア充爆発しろ』とか視線が痛い!

 

「わ……わかったわかった。手伝ってくれ」

「いいんですかっ」

パ~ッと明るくなるさだこの顔。さっきまで拗ねてた奴の顔とは思えない。結構な百面相だ。

「いいけど落とすなよ。……手、痛くなったら言えよ」

「ふふっ、ありがとうございますっ」

鼻歌でも歌い出しそうなその様子に苦笑しながらも、注意を払ってその手に重い荷物を渡した。

 

――ひょいっ

 

「……は?」

「どうしました、和行さん?」

その細腕は軽々と、まるでスナック菓子しか入っていない袋のように重い重い荷物を持ち上げていた。

「重い……だろ?」

「いえ、全然」

「重い……よな?」

「これですか? いえ、全然」

6キロオーバーはあろうかという袋を目の高さまで持ち上げて、きょとんとしている。

その動作には一切の無理やヤセ我慢が混じっていない。本当に自然で、重いの「お」の字すら感じていない動作だった。

「いつでもお手伝いしますので言ってくださいね」

「さ、サンキュ」

「居候の私に気遣いなんて無用無用です、ふふっ。えーっと次はどこを見るんですか?」

俺が弱音を吐いていた重量が、か弱そうな女の子(?)に軽々持たれてしまっている。

男として傷つくぞ……。

 

「……竜司、どういうことなんだよ?」

足を進めながら竜司の脇をつつく。

こいつも口元が引きつってるあたり、意外だったようだ。

「成り損ないでも鬼は鬼、多少のスペックはあるってことだろうよ」

「マジか……金棒とか持たせられないな」

「んなもん京都にも売ってねぇから安心しろ」

 

あいつと一緒に寝泊りして大丈夫なのか、俺?

そんなことを思いながらさだこに声を掛けようと後ろを見ると、

後方でなぜか床に四つん這いになっていた。

「……あ」

俺と目が合った瞬間に固まりやがった。

……。

その下に目線を移す。

 

 

「ア”」

底が見事に破れた袋と、床に散乱する新聞紙に包まれた食器たち。

周りのお客さんも『だいじょうぶ? 手伝うよ?』『いえっ、は、はいっ、すみませんっ! ごめんなさいっ!』『よーし、お父さんも人助け頑張っちゃおうかな!』『お父さんがんばって~』とかワラワラと人だかりができ始めている。

俺は……全てを理解した。

 

「竜司……」

「なんだよ」

「鬼ってのは天然属性がついてるもんなのか……?」

「知るか」

 

俺は黙って自分の財布の中身を確認した。

 

 


 
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