No.366420

リング・ル・ヴォワール 7話

さん

映画「リング」と恐山ル・ヴォワールからの影響を受けた小説です。
ある日、呪いのブルーレイを見てしまった和行。その1週間後、彼の元に出てきたモノは……。
http://milk0824.sakura.ne.jp/doukana/  こちらの日記にも絵を書いています。なお日記絵は描いている時の様子を見ることができます。アニメ塗りの講座に使えるかもしれません(笑)

2012-01-21 20:01:25 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:487   閲覧ユーザー数:486

再び買い物を終え、俺たち3人は百貨店内をブリックモールに向かって歩いていた。

さっきまでは割れた皿を買いに戻っていたわけだ。

まぁ、割れたのが下の2枚だけだったのは不幸中の幸いか。

ちなみに買い足した皿はプラスチックプレートなのは予算的なものと不幸再来に備えてあるせいだ。

もちろん買い物袋は俺の手にある。

 

「重いようでしたら私がお持ち――」

「いーや、俺が持つ」

「袋も二重にしてもらいましたし、さっきみたいなことは――」

「いーや、俺が持つ」

「私、居候ですし和行さんのお手伝いを……」

「いーや、俺が持つ」

「え~と」

「いーや、俺が持つ」

「む~……」

 

さっきからさだこはと言えばこんな感じだ。

おせっかいと言えばいいのか、「居候=迷惑かけちゃいけない=なんでも手伝う」みたいな構図がこいつの中では成り立っているらしい。

その辺はいいんだが、これ以上こいつに食器類を持ってもらったら俺の財布がピンチに陥ることは確実だ。コーラを飲めばゲップが出るくらい確実だ。

 

百貨店をしばらく歩いていた時だった。

「あ」

「どうした、さだこ? いきなり立ち止まったりして」

さだこの目は遠くの一点を見つめていた。

「あのキラキラした場所はなんですか?」

指を差した先。

「ああ、あそこはゲーセンな」

 

立ち並ぶUFOキャッチャーやコインゲームの筐体からにぎやかな音楽と光が溢れていた。

どうあがいても田舎のゲーセンのため、ぬいぐるみなんかも少し前の物だったりと残念感がにじみ出ている。

そんなのだから客入りが非っっ常に少ない。

十中八九、日本各地の田舎百貨店ではよく見られる光景だろう。

 

「もしかしてもしかしてお祭りでもやっているのでしょうかっ」

すげー目がキラキラしてるよ……。

「わぁ! 金魚すくいならぬお人形すくいですか、あれっ」

さだこは俺の袖をクイクイと引くものの、目はゲーセンに釘付けだ。

物の怪さんからすれば寂れたゲーセンも相当に珍しいようだ。

「あー……」

竜司に目配せ。

ぽりぽりと頭をかいた竜司だったが、

「ま、オレ達も久々だし、いいんじゃねぇか」

「――さだこ、行ってみるか?」

「えっ!」

振り向いたさだこの顔はもう目から星くずをばら撒いていた。

さっきまで荷物を持てずに拗ねていた奴とは思えない。ころっころと表情が変わる奴だ。こりゃ見ていて飽きないな。

 

 

***

 

 

「にしても客いねぇな」

竜司の言うとおり、中には客が2~3人程度。

さびれすぎだろ。

で、だ。

 

「きゃ~っ、きゃ~っ、きゃ~~~っ」

 

そんな中ただ一人、レインボーオーラを発しながらあたりを見回してる奴一名。

夏祭り会場に入った小学生みたいな反応だな、おい。

ド田舎百貨店のゲーセンでここまでテンションが上がる奴もそうそう見かけないだろう。

ここまで喜んでもらえればこのゲーセン管理者も本望だろうよ。

 

「和行さん、竜司さん、あそこのお人形すくいに行ってみましょうっ」

「UFOキャッチャーって名前が――」

「わぁ、わぁ、わぁっ! あの可愛らしいクマさん! 少しでいいので見たいですっ」

聞いちゃいねぇ。

 

立った先はずっと前に流行ったリラックマの筐体の前。

「――これ、どうやってやるんですか? 金魚すくい…とは違いますよね? 周りは透明の板に囲まれてますし……」

「あー金魚すくいとは全然違うだろ。最初は俺がやってみるか」

がんばってくださいっ!というさだこからの声援を受けUFOキャッターの前に立つ。

久し振りだ。前にやったのは高校のときぐらいだったか?

「こういうのは欲しい物よりも取りやすい物を優先するのが鉄則ってな」

獲物を見極めコイン投入。

 

――ズンジャカズンジャカ♪

 

一つ目のボタンを目測でストップ。もちろん取り出し穴に一番近いリラックマ狙いだ。

二つ目のボタン。筐体の横から見てタイミングを計る。

そして獲物の前で……止める!

「ほう、やるじゃないか」

竜司の声が背にかかる。

 

アームが下がり……止まった。

ベストポジションだ!

アームが閉まり、見事にリラックマの胴体と首の境目を捉えた!

「和行さん、すごいすごいっ!」

さだこの嬉しそうな声。

 

ぽろっ。

 

空のアームが律儀に穴の上まで戻り、何にもないアームを開いた。

「……ぐ」

「鉄則の割りにあっさりミスったな」

「しゃーないだろ、久し振りなんだしよっ」

一発はやっぱり無理か、くそう。

なかなかこの手のものは難しい。

「やり方はわかりました! 次は私にも挑戦させてくださいっ」

さだこが俺の前に躍り出た。

「マジか……大丈夫なのか?」

「はいっ! 和行さんの仇はこの私が取ります!」

 

鼻息荒く目をキラッキラと輝かして獲物(クマさん)を見つめているさだこの目。

なんつーか、最早物の怪というより普通のぬいぐるみ好きの女の子の目だ。

 

その手に100円を渡した。

真剣そのものの端麗な顔が獲物のリラックマを凝視している。

 

「――クマさん、頂戴いたします」

 

凛々しい宣言とともにさだこのしなやかな手が動いた。

筐体に優しく触れるように、

ポン、ポン。

小気味よく連続でボタンが押される。

 

って。

「狙った位置でボタン押せよっ!? クマじゃなくてアーム見ろよ!?」

「え?」

もちろほぼ取り出し口の直上でアームが下がる。

 

スカッ。

 

「……」

「……」

「いや、そんな捨てられた子犬みたいな顔で俺を見られても困るんだが」

まあ……気持ちはわからなくもない。

ちなみに俺の見立てでは、さだこのUFOキャッチャーの才覚はズバリ0だ。

 

「見ちゃいられねぇな、いられねぇよ」

貸しな、と前に出たのは竜司だ。

気だるそうにコインを投入。

左手はポケットの中というやる気が薄いポーズ。

「こういうのは、肩に力入れすぎるからミスんだよ」

だがその目だけはしっかりと獲物(クマさん)を見つめている。

 

そして。

 

「……一発で取りやがった」

「ほらよ」

竜司がクマさんをさだこに手渡した。

「いいんですかっ?」

「ああ。オレはいらねぇからな」

「本当ですかっ! わ~っ、ありがとうございますっ! 竜司さん、このクマさんは大切にします」

「そうしてやってくれ」

めちゃくちゃ嬉しそうにリラックマを抱きしめてやがる。

その顔は満開の桜の花みたいで、見ただけで「私、幸せです」なんていうのが伝わってくるくらいだ。

……。

別に悔しくなんかないからな。

 

 

 

 

UFOキャッチャーを離れ、ゲーセンの中を歩いていると、

「こいつは……」

竜司が突然足を止めた。

「なんか面白そうなのでもあったか?」

「面白くなりそうなのがあるな」

「面白くなりそう?」

竜司の口元が歪んだ。良くない兆候だ。

 

竜司が立ち止まった場所。

UFOキャッチャーとゲーム系のコーナーの境目だ。

そこは二つのコーナーを区切るかのようにパンチングマシンが置いてあった。

パンチングマシンというのは、筐体についているサンドバッグにパンチをしたときにどれくらいのパンチ力だったのかを測ってくれる機械だ。

俺達も中学のときによくやったものだ。

確か記憶によると、中学のときに「俺より強い奴に会いに行く」が口癖の岡本君がグローブを付けずにトライしていたっけな。

結果、骨折をして病院に運ばれた。

恐らく彼は教室内に座っているだけでもその目標を達成していたことだろう。

ぶっちゃけ、どうでもいい記憶だ。

 

「またなんで今更こんなもんに目をつけたんだよ? 中学のときはこういうの好きだったが、今は全く興味ないぞ」

「オレも自分のパンチ力なんかにはこれっぽっちも興味がねぇ」

「だったらなんでやりたいんだよ?」

「興味があるのは……」

竜司の目線が流れた先。

「はい?」

クマさんを抱きしめたさだこが立っていた。

「ああ、なるほどな。確かに興味ある」

さっきの買い物袋を持ってもらったときの一件もある。

成り損ないでも鬼は鬼。それがどの程度の力があるのか見たいのだろう。

俺だってちょっと見てみたい気がする。

もしかしたら表示されているネットランキングとやらの上位を取れるかもしれないしな。

 

「これはどういう遊びですか?」

言われた通りにクイクイとグローブをはめるさだこ。

日本美人とグローブの組み合わせはかなり異彩を放っている。

そしてもう片方の腕はクマさんを抱きっぱなしという不思議極まりない格好になってしまっている。

ぬいぐるみはよっぽど気に入ったのか離す気が全くないらしい。

「的が書かれたサンドバッグが出てくるから、それを殴って倒す。どうだ、簡単なゲームだろ?」

「ふふっ、それでしたら私にもできそうです」

がんばりますね、と張り切るさだこ。

筐体にコインを投入した。

 

――ウィーン、ガショコン。

 

サンドバッグが立ち上がった。

後ろの画面には悪党っぽい奴が映し出されていて、ウヘヘウヘヘと言っている。

 

「あの真ん中の赤いのを叩いて倒せばいいんですか?」

「おう」

同時に隣の竜司が、

「カズ、ネットランキングの5位以内に入る方にファミーユのアイスティー1だ」

「俺は無理な方にフルーツパフェな」

「高けぇよ。ま、いいけどな」

ネットランキングというのは言わば全国ランキング。

いくらなんでも5位は無理だろう。

それを裏付けるように、

「行きますっ」

ぬいぐるみを抱いたさだこが腕を振り上げるが、肘も閉まっていなければ、拳だって外側に沿ってしまっている。

そのポーズは女の子そのものだ。

真剣なところ悪いが可愛らしい。

どうでもいいけど、ぬいぐるみも離す気ないのな。

で、竜司の顔を覗き込むと苦い表情。

 

「やぁ~~っ」

さだこの気が抜けるような掛け声。

顔なんて(> <)こんなんだ。

はぁ……やれやれ。

可愛らしいと言えばそうなのだが、

「おいおい」

どちらからともなくそんな苦笑が漏れる。

 

「キャッ」

腕が、繰り出された、のだと思う。

 

光った。

そんな気さえした。

 

 

刹那の空気圧縮。

 

 

ドッッッッッッッグゥォォォォォォオォオォオォンッッッッ!!

 

 

室内でビル解体用の巨大ハンマーをぶん回したときのような腹に響く轟音が地面を揺らす!

一瞬遅れて突風が俺を襲った!

パンチングマシンの筐体が後ろのゲーム機を跳ねのけながら3mほど吹っ飛ぶ!

跳ね上げられたイスが天井を、床を激しく打ち鳴らす!

 

「な……ッ!?」

吹っ飛んだマシンがようやくその動きを止めた。

その筐体がゆっくりと後ろへ傾く。

 

……ゴゥンンン……――。

 

…………。

……。

 

パンチングマシン、完全に沈黙。

「…………」

「…………」

ついでに俺と竜司も完全に沈黙。

 

――バサッ。

 

俺の足元に、さだごが付けていたと思われるグローブが落ちてきた。

ボロボロのそれはなぜか焼け焦げた跡さえある。

 

「はぁ!? いや、はぁぁぁぁっ!? はぁぁぁぁぁぁっ!?」

なんじゃこりゃぁぁぁっ!?

ようやく出た声はもう声じゃなかった!

 

「倒れましたっ」

「倒れました、じゃねぇよ!! 殴り倒したんだよ!! ってか台ごと倒すんじゃねぇよ!!」

「賭けはオレの勝ちでいいか?」

「この状況でそれ言うお前のハートすげぇよ!? 剛毛ビッシリだろ!?」

おいおいおいおいおいおいっ!!

こいつどんな腕力してるんだっ!?

ぬいぐるみを抱いたあのポージングからどうすればこんなダイナマイトパンチが生まれるんだよ!?

いやいや、落ち、落ち、落ち着け俺!

今問題にするのはそこじゃない!

息を整えあたりを見回す。

 

元あった場所から遥か後方で倒れているパンチングマシン。

パンチ直撃を受けたであろう真ん中のサンドバッグ部分は爆散している。

さらに散乱したイスやら何やら。

 

……。

…………。

………………ヤバイ。

やばいやばいやばいっ!

頭の中では非常警報が鳴り響いている。

パンチングマシンの弁償っていくらぐらいかかるんだよ!?

いや待てよ、こいつは叩かれるために存在してるわけだからこんなんなって本望なのか?

……。

んなワケないよなっ!?

 

今まで客がいなかったが、周りから『今、ゲーセンの方からギャリック砲が放たれたような音がした』『マジかよ、鳴上!? ヤベーじゃん!! よくわかんねぇけどヤベーじゃん!!』と人の声が近づいてくるッ!

 

「竜司、さだこ、逃げるぞ!!」

「賛成だ」

「え、え?」

 

よくわかっていないさだこの手を取り、目一杯の速度で走り出した。

竜司もすぐさま後に続く。

ガッチガチと食器の袋が音を立てるが今はそんなことを気にしていられない!

幸いなことに人目に触れることなくゲーセンを脱出!

寂れたゲーセン様様ってとこか!

 

「竜司っ、どうするッ!?」

「いつものとこだろ!」

 

さらに速度をあげ、ブリックモールへ向けて走る。

そこには丁度いい避難場所があるのだ。

 

 

 

 

「ハァッ、ハァッ、ハァッ……」

ブリックモール、もう一人の幼馴染のバイトしている喫茶店の前。

俺と竜司で肩で息をしていた。

 

「ハァっ、ハァッ…竜司よぅ、なんて、こと…思いついてくれんだよっ」

「正直悪かった。予想以上のパワーだ。こんなになるとはな」

「ったく、ハァッ、ハァッ、いつも面白いこと見つけるとそうだよなっ! 今回はそっちのおごりだからな!」

「ああ、わかったわかった」

息を整え、もう一人の幼馴染が働くバイト先に入ろうとした。

そこで足が止まった。

「あれ? さだこは?」

その姿は、どこにもなかった。

 

まさかあのドジ……っ!

 


 
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