No.337709

真・恋姫†無双 真公孫伝 ~雲と蓮と御遣いと~ 1-25

真・恋姫†無双 真公孫伝 ~雲と蓮と御遣いと~ 1-25
更新させていただきます。

特に書くことがありません。
……というか、書けません(涙)。

2011-11-21 23:07:41 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:7930   閲覧ユーザー数:5644

 

 

 

 

この作品は【 恋姫†無双 】【 真・恋姫†無双 】の二次創作です。

 

三国志の二次創作である物に、さらに作者が創作を加えたものであるため

 

人物設定の違いや時系列の違い。時代背景的な変更もありますので

 

その辺りは、なにとぞご容赦をお願いいたします。

 

上記をご理解の上、興味をお持ちの方はそのままお進み下さい。

 

 

 

 

 

 

連合軍、董卓軍。

互いの先陣が敵を目指して突き進む。

 

董卓軍の先鋒は名将、華雄。

だが、今の彼女は

 

 

「孫策はどこだあぁぁぁぁ!!!!」

 

 

完全に頭に血が上っていた。

 

戦斧――金剛爆斧を引っ提げ、猛りながら進む。

連合軍先陣に展開していた部隊が俄かに動き始める。だが、それに先んじてどの部隊よりも早く、華雄隊に突撃していく一団があった。

 

 

「董卓軍、華雄!その首、貰い受けるでござるっ!!」

 

 

公孫賛軍の特攻隊長、周倉――舞流。

堰月刀を馬上で構え、華雄に負けず劣らずの大声で吠える。

 

そして、華雄隊、周倉隊、二つの隊が剣撃の音と共に交錯した。

 

 

 

両部隊が激突し、舞った砂煙が晴れる。

華雄と舞流。二人の得物、堰月刀と戦斧が刃と刃を合わせていた。

どちらも引かず、力は拮抗している。

そんな中、華雄が口を開いた。

 

 

「ふん、どこの馬の骨かと思えば、中々に出来ると見た。だが――」

 

「むぅ!?」

 

 

拮抗していた力の支点をずらされ、一歩前に蹈鞴を踏む舞流。

既に華雄は自らの戦斧を引き、次の攻撃態勢に移っていた。

 

 

「まだまだ経験が足らんっ!!」

 

 

猛った声と共に横薙ぎに迫りくる戦斧。

辛うじて上半身を後ろに下げたものの、舞流は自分の髪の毛が数本持って行かれたのを感じた。だが、それに呆けて立ち止まっているわけにもいかず、止む負えずバックステップで距離を取る。

 

 

「ほう、今のを避けるか。やはり、出来るな貴様。名を聞いておこう」

 

「……公孫賛軍、周倉隊隊長、周倉」

 

「貴様のような者が隊長か。貴様自身の武はともかく、人の上に立つということに関しては半人前だな」

 

「元よりそんなことは重々承知している。だが、某達が戦功を上げれば大殿も殿もより高みへと登れる。仕える者を定めた武人としてはこれ以上に心を砕くことなど無いでござろう」

 

「……その気持ちは分からんでもないがな。そうか、貴様はそういう奴か。なら――」

 

 

華雄が戦斧を構え直し、半足を引いた。

辺りに充満する殺気の濃度がより濃くなる。

そして華雄は

 

 

 

「――高潔な武人に対し、手加減などは失礼というものか」

 

 

 

獰猛に、笑った。

 

 

「――っ!!」

 

 

ゾクリ、と背筋が冷える。

ほぼ直感的に、本能的に、堰月刀を右に薙いだ。

 

 

ガキィィィィッ!!

 

 

舞流の脇腹からそう離れていない位置で、堰月刀が華雄の戦斧を止めていた。

それを視認し、状況を理解したことで初めて、舞流は自身の額に冷や汗が浮いていることに気付く。

無論、いつも手合わせをしていた星より攻撃のスピードは遅い。

だがしかし、気迫で言えば段違い。相手を殺そう(・・・)と掛かって来る者の気迫だった。

 

 

「はあっ!」

 

 

気合い一閃。

もはや語る言葉は無い、とでも言うかのように堰月刀に阻まれた戦斧を即座に引いて次の攻撃に移る華雄。

今度は左、脇腹では無く足へ。

 

もはや直感的にしか動いていない――いや、動けない舞流。

咄嗟に堰月刀を地面に突き刺し、それを支柱のように使い、飛ぶ。

すれすれで履物をカスって行く戦斧。だが、突き立ったままの堰月刀は無事では済まなかった。

 

 

「くっ!」

 

 

再び距離を取り、柄が短くなった堰月刀を悔しそうに見つめる。

辺りでは、舞流の隊が華雄の隊に押されつつあった。

戦経験の差。最も必要な要素が形になって表れていた。

 

 

(しま)いだ。貴様を討ち、孫策を殺す。奴だけは生かして置かん!」

 

 

舞流が肩で息をしているのを見て熱が冷めたのか、すでに華雄の眼には舞流の姿は映っておらず、その眼は自身の武を侮辱した孫策への怒りに燃えていた。

それ故に、だろうか。それとも、辺りの戦いの喧騒が激しい為だろうか。

どちらにせよ、華雄の耳には馬の蹄の音は届いておらず

 

 

 

「まだ戦っている相手から意識を外すというのは些か失礼ではないか?」

 

 

 

「なにっ!?」

 

 

唐突に響いた凛とした声に、意表を突かれてしまっていた。

同時に華雄の戦斧と、青龍を模した堰月刀がぶつかる。

鉄と鉄がぶつかる鈍い音を立てた。辛うじて馬上からの一撃を防いだ華雄。

衝撃で手が痺れるという久しく感じていなかった感覚に驚きを隠せないでいた。

 

 

その間に悠々と馬から降り立つ影。

その名は

 

 

「……関羽殿」

 

 

美髯公、関雲長。

汜水関の戦いの折り、猛将華雄を討ち取った豪傑の名。

 

その名を冠し、美しい黒髪を靡かせた一人の少女、愛紗。

舞流を救ったのは美髯公ならぬ、美髪公の助太刀だった。

 

 

 

突然の愛紗の登場に眼を丸くする舞流。

それとは別に今の一撃を信じられないかのように、驚愕に眼を見開く華雄。

唯一、愛紗はその場で涼しい顔をし、当面の敵である華雄から眼を離さない。

その場に沈黙をもたらした愛紗。だが、その沈黙を破ったのもまた、愛紗だった。

 

 

「舞流、退け」

 

「なっ!?な、なん――」

 

 

突然の愛紗の言葉に、舞流の表情が困惑と驚きに変わる。

だが、何かを続けて言う前にまた愛紗の声がそれを遮った。

 

 

「舞流。それ以上何か言うようであれば私はお前の頬を張ってでも、言うことを聞かせねばならない。この言葉の意味が分からないお前ではないだろう。仮にも一部隊を取りまとめる指揮官だと言うのなら自身の隊の状況くらい自覚するんだ。これでは悪戯に兵を消耗させるだけだろう」

 

「くぅっ…!」

 

 

悔しそうに顔を歪める舞流。それは自身の未熟さ故か、それとも。

 

 

「悪い、愛紗。舞流は俺が下がらせる」

 

「と、殿っ?!」

 

 

いつの間にか戦場のど真ん中に馬で乗り入れていた一刀が、舞流の肩を取る。

 

 

「お願いします、一刀殿。それと、貴方は文官なのですから後方支援が主な任務の筈。戦は武官である私達に任せてください。……貴方が傷つけば公孫賛殿も悲しむ」

 

「ああ、分かってる。でもな、愛紗。それは俺だけに言えることじゃない。愛紗だって、舞流だって、傷つけば誰かが悲しむんだ。もちろん、俺も。だから、気を付けろ」

 

「……ありがとうございます、一刀殿。そう言っていただけるのは素直に嬉しいですね。さあ、早く」

 

「行くぞ、舞流」

 

「と、殿っ!で、ですが――」

 

「それ以上言うな。少なくとも命を助けられた奴が口出しすることじゃないよ。もちろん、俺もだ。もしそれでもなにか言いたいことがあるなら、俺が聞いてやる。ただし、拳骨覚悟でならな」

 

 

長身な癖にわりと軽い舞流を肩で支え、馬に押し上げる。

同様に、自分も馬に乗り一刀は声を張り上げた。

 

 

「周倉隊は撤退!裴元紹隊、北郷隊はそれを援護しつつ戦域を離脱しろ!劉備軍関羽隊、済まないが後を頼む!!後続の公孫賛軍本隊が援兵を送る、それまで頑張ってくれ!!」

 

 

「「「「応っ!」」」」

 

 

気合い充分に発せられた兵達の声を背に、一刀は手綱を握り、馬を駆った。

離れて行く愛紗の背を肩越しに見つめながら、一刀は呟く。

 

 

「心配だけど、愛紗は勝てるさ。なんたって軍神、関羽なんだからな」

 

 

あまり史実の人物像と重ねて見たくは無かったが、史実を事実と認識させるほどの武の片鱗を垣間見ながら、一刀の脳裏には愛紗が華雄を討ち、悠々と戻って来る姿が思い浮かんでいた。まるでそれを、一度見たことがあるかのような(・)、鮮明さで。

 

 

 

 

 

そこから左程離れていない位置。

華雄を追い、関から出陣した張遼がいた。

白い服を身に纏い、直槍を構えた少女と相対して。

 

 

「そこ、どいてくれへんか。ウチ、あの馬鹿連れ戻さんとうちの大将と軍師に顔向けでけへん」

 

「それは無理な相談だろう、張文遠。一対一の武人同士の真剣勝負、邪魔立てする気か?」

 

「あんたの言うことは理に敵っとる。でもな、その矜持を曲げてでも助けなあかん。それが約束なんや」

 

 

星と張遼。

お互いに部隊を後ろに待機させ、個人同士で視線を交わし合う。

その眼は静かに、だが奥には闘志の炎が垣間見えた。

 

 

「そうか。なら道は一つだな」

 

「奇遇やな。ウチも解決策は一つしかないと思っとった。話、交渉が決裂したっちゅーことは」

 

「ああ、これしかあるまい」

 

 

星は直槍――龍牙を。

張遼は堰月刀――飛龍堰月刀を。

龍の名を冠する武器を。

スッ…と静かに構えた。

片や押し通る。片やその道を阻む。お互いの眼を見た時から、既に予期していた戦闘。

華雄と愛紗の戦いが動なら、星と張遼の戦いは静。

 

 

「公孫賛軍客将、趙子龍」

「董卓軍将軍、張文遠」

 

 

静かにお互いが名乗りを上げる。

その名に覚えがあるのか、張遼が眉をピクリと動かした。

 

 

「趙子龍……最近噂の公孫賛軍の猛将か。アンタと戦えるっちゅうんは光栄やな」

 

「なにを言うかと思えば。神速の張文遠の名の方が遥かに通りは良いだろう」

 

「その名も重いと言えば重いんやけどな。神速、やで?神様の速さっちゅ-ことはその上が無いみたいやんか」

 

「その口調、神速よりもさらに先を目指すかのように聞こえる。私はまだ天に昇る最中なのだがな。だが、それ故に昇り途中で神を屈させるのも悪くないか」

 

 

 

 

どこかで馬が一声鳴いた。

それが、合図だった。

 

 

 

 

一刀と初めて手合わせをした時より数段早いスピードで張遼に迫る星。

だが、そこは神速の張文遠。

神速の用兵術もさることながら、本人とてその名に恥じない一角の武人。

 

同じようなタイミングで地を蹴った張遼は、迫る星の槍を自らの堰月刀で受け止めて見せた。だが、星の攻撃は止まらず、受け止められた状態そのままに、槍を滑らせ突きの動作に移る。線の攻撃から点の攻撃。

 

 

ブゥンッ!!

 

 

風切り音が鳴るほどの一撃。

張遼は首を傾け、その一突きを避ける。

と、同時に堰月刀の柄を星の顎に向かって跳ね上げた。

 

しかし、星もそれを予期していたのか顔を後ろに下げた。それだけの動作で張遼の攻撃は空を切る。お互い、自身の攻撃が通らなかったと判断するが早いか、即座に一歩、二歩と引き、再び得物を構えて相対した。

 

張遼の頬に赤い線が浮かぶ。

星の顎に摩擦でできた火傷の様な跡が残る。

二人の龍は、その様子を見てどちらともなしに、ニイッ……と笑んだ。

 

 

「アカンなぁ、ウチ楽しくなって来よったわ」

 

「私もだ張遼。だが良いのか?楽しんでいては華雄が討ち取られてしまうぞ?」

 

「はっ!あんな阿呆でも一角の将や。そう簡単にやられへんわ」

 

「そうだといいな。だが、それは敵うまい。華雄と相対しているのは私が知りうる限り最も強い武将だからな」

 

「ほう……そりゃ楽しそうやわ。正直、華雄に相手取らせるのは勿体ないで――なんて言いたいとこやけどな。それはそれで華雄に失礼や。だからウチはアンタで我慢する」

 

「ほざけ。お互いに本気を出していない身、ここからはその頸を獲るつもりで行かせてもらおう」

 

 

星はそう言って構えを変えた。

その姿、闘気に何かを感じ取ったのか、口元を二ヤリと、とても楽しそうに歪めた張遼も構えを変える。

 

身体から放出される闘気でお互いの髪がふわりと動く。

辺りの砂塵が二人を中心に舞い上がる。

どちらが先だったか。

素人目に見ては全く分からない速さで、二人の龍は言葉も交さぬまま激突した。

 

 

 

 

 

 

「北郷さん、舞流は――乗ってましたか」

 

 

前線からの離脱。

途中で合流した張飛隊に関羽隊の援護を一時的に任せ、下がった北郷隊、周倉隊、裴元紹隊。後続の公孫賛軍本隊と合流する為に馬を走らせていた一刀に、燕璃が追い付いた。一刀の後ろに乗っていた舞流を見て、密かに安堵の息を吐く。

 

 

「ああ、愛紗に助けられた。このまま一旦、後続隊と合流するぞ。舞流の軍令違反に関しちゃそれからだ」

 

「はい。……それにしても」

 

「ん、どした?」

 

 

なぜかこちらを見ながら思案顔になった燕璃に、一刀は怪訝な表情を浮かべた。

 

 

「いえ、妙に指揮官の振る舞いが板に着いてきたな、と」

 

「褒めても何も出ないぞ?俺なんてまだまだ半人前だよ」

 

「ま、半人前なのは知っていると言うか当たり前ですが」

 

「……お前は時々、人の心に刺さることを平気で言うよな。歯に衣着せないって言うかさ」

 

「それが私という人間ですから。ま、冗談はさておき、本当に感心しているんですよ」

 

 

一刀のジト眼を軽く受け流し、燕璃にしては珍しく他人を褒める様な言葉を使う。

 

 

「……なんですかその、珍しい物を見た的な蔑みの眼は」

 

「お前にとっちゃ珍しい物を見たっていう眼は蔑みの眼なのか……?」

 

「違いますよ、何言ってるんですか」

 

「お前が言ったんだよっ」

 

 

漫才のようなことをしているが、ここは戦場。

一刀、燕璃共にその表情には緊張が垣間見える。

唯一

 

 

「……」

 

 

自身が敬愛する愛紗、一刀の両者に叱責された舞流だけは意気消沈な表情で馬に揺られていたが。

 

 

 

 

 

 

連合軍中核。

袁紹、袁術の両者は最も後ろに布陣しており、中核は曹操軍と馬超軍が担っている。

前線からさほど離れていない自陣の外で、曹操は一人笑んでいた。

 

 

「なかなかやるわね。周倉はともかく、趙雲は是非に欲しい人材だわ。それに趙雲を相手取っている張遼も」

 

「またですか、華琳様。前者は公孫賛が手放しますまい。後者は――趙雲が討ち取らねば可能でしょうが」

 

「そもそもあれ程の人材がなぜ公孫賛の元で埋もれているのかが分からないわね。そうは思わない、桂花?」

 

 

夏候淵の台詞に応える、と言うよりは独り言の様な口調で不機嫌そうに嘆息する曹操。

その不機嫌そうな表情を薄い笑いに変化させ、脇に控えるフードを被った軍師――荀彧にからかう様な口調で問いを投げ掛けた。

 

 

「はい。癖は強いと思いますが、少なくとも春蘭の様な脳筋よりかは使えるかと。……個人的は、賛成出来かねますが」

 

「なんだとぉ!桂花、今日と言う今日は叩き斬る!斬ってやるっ!」

 

「落ち着け姉者。桂花もいちいち姉者を激昂させるのは止めてもらえるか。私が大変なんだぞ」

 

 

即座に激昂した姉、夏候惇を抑えながら抗議する夏候淵だったが、そんなのは私の知ったことじゃない、と言わんばかりに明後日の方向をプイと向く荀彧。

 

 

「なぜ個人的には賛成できないのか教えてもらえるかしら、桂花」

 

 

そんな三人を見ながら微笑を浮かべ、聞き逃さなかった荀彧の独り言の意味を、答えを知っているのにも関わらず語らせようとする曹操。

その言葉に、憮然としている様な面持ちで頬を若干赤く染めながら荀彧は応える。

 

 

「そ、それは……華琳様の」

 

「私の?何?言ってみなさい」

 

「華琳様のっ、ちょ、寵愛を受ける時間が減るからですっ!!」

 

 

大声で言ったにも関わらず、武器の手入れや馬の手入れをしている兵は振り向かない。

夏候惇、夏候淵、並びに荀彧と曹操がそういう(・・・・)関係であることは周知の事実だからである。と、言うより面と向かって聞く勇気も無いのだが。

 

その色んな意味で恥ずかしい台詞を言う前より赤くなった荀彧を見ながら、曹操は満足そうに微笑む。一部の兵士はその笑顔に背筋の寒くなるような、自分達が知り得ない何かを感じた。

 

それを少し離れた位置で見る、三つの影。

 

 

「あー……相変わらず全開やなぁ、大将」

 

「うん、相変わらず間に入りにくい空気なのー」

 

「…沙和、真桜。話してばかりいないで手を動かせ」

 

 

魏が誇る三羽烏。

李典、于禁、楽進の三人である。

 

 

「ウチらホンマに待機でええんか?」

 

「ああ、秋蘭様の指示だ。命あるまで待機と」

 

「まあ、なるようにしかならないの~。公孫賛軍も劉備軍も弱いわけじゃないから大丈夫なの~」

 

 

于禁の楽観した、しかし案外的を射ている台詞に李典、楽進の両名は感心しつつ、たった今、戦端が開いている前線を見る。

 

劉、孫、公の旗は左程動いていない。

少し離れた位置では深緑の関旗と紫の華旗がぶつかっており、さらにそこから離れた位置で紺碧の張旗と薄い色の青を基調とした趙旗が激突している――かに見えたがそちらは微妙な距離を保って整然と止まっているのみ。

 

だが、その中心からは尋常ではない闘気が立ち上っていた。

無論、関羽隊と華雄隊のぶつかる戦場も同様に。

 

 

「秋蘭、後ろに布陣している馬鹿達を牽制しておきなさい。関羽が華雄を破ったら動くわ」

 

「はい。姉者と桂花は孫策に注意を頼む。ほぼ間違いなく汜水関への一番乗りを決め込むつもりだ」

 

「なにぃ!?孫策め、華琳様より先んじて功を取ろうとするとは不届きな!」

 

「そんなことぐらい、とっくに予測済みよ。おそらく、張遼は撤退すると思われますが、追撃なさいますか?」

 

 

曹操からの指示を承った秋蘭の言葉に反応する二人。

猛る夏候惇を鬱陶しそうに横目で見つつ、荀彧は曹操に更なる指示を仰ぐ。

 

 

「追撃は良いわ。それより汜水関を制圧しつつ早めにむこう側へ抜けた方が良策よ。……もたもたしていたら後ろの考え無しが何を言い始めるか分かったものじゃないわ」

 

 

物憂げな表情をし、頬杖を付く曹操に荀彧は見惚れていたが、そのモヤモヤしている胸中だけは誰も推し測ることが出来なかっただろう。最古惨の夏候惇や、夏候淵でさえも。

 

 

 

 

 

 

 

再び前線。

一刀が舞流を自身の馬に乗せ、去って行ったのを満足気に見送ると、愛紗は表情を引き締め華雄に向き直る。

 

 

「すまない。真剣勝負を邪魔立てするつもりは無かったのだが、黙って彼女を殺させるわけにもいかなかった」

 

「ふん、真剣勝負などとは程遠い。殺すつもりになればいつでも頸を取れるような手合わせを真剣勝負と言えるか」

 

 

内心の驚愕、手の痺れを押し隠して華雄も愛紗に向き直る。

舞流の時とは違い、いつ仕掛けられてもいいように臨戦態勢だった。

 

 

「それは侮蔑か?答えによっては――」

 

「そんなもの我が武への自信に……いや、違う。――慢心、だろうな」

 

 

愛紗の台詞を遮り、途中言葉を濁しながらも華雄は笑いながら応えた。不思議と、自然に言葉が零れ出ていた。

さきの将の頸を獲らなかったのは自身の油断、慢心だったと。その笑みは、どこか自嘲めいていた。

 

そんな華雄の様子を見た愛紗の表情が変わる。

警戒から、何かを悟った様な表情へと。

 

 

「――そうか。董卓軍将軍、華雄殿。この戦い、間違い無く私が勝つ。なればこそ……降ってはくれないだろうか」

 

「ふっ、どうやら私は恵まれているようだ。逝く前に高潔な武人二人と手合わせ出来ようとは」

 

「華雄殿」

 

「――言うな、関羽とやら。確かにお前は強い。正直、勝てる気がせん。おかしな話だな。自分の武には絶対の自信があったというのに、さきの一撃でそれが根こそぎ奪われたかのようだ。……こんな経験は、二度目だ」

 

 

覚悟を決めた者の、強い意志の宿った眼が何かを懐かしむように細められ、閉じられた。

 

 

「だが私とて武人の端くれ。むざむざ敵に投降することは断じてせん!!それが忠義というものだ!!」

 

 

が、それも一瞬。眼を再び見開いた時には、瞳の中に猛る炎が燃えていた。

紛うこと無き、武人の瞳。

それ一つで、華雄の覚悟を感じ取った愛紗は、無言で青龍堰月刀を構える。

雌雄を決するは、一撃。

 

 

互いに気を高め、これ以上語る言葉無し、と思った愛紗だったが、その考えとは逆に華雄が口を開く。

 

 

「関羽、一つ忠告しておこう。私の自信を折ったのはお前で二人目だ」

 

「……二人目?」

 

「ああ、そして一人目の名は――呂奉先」

 

 

 

呂奉先。

その名を聞き、愛紗は自分の背筋が一瞬凍ったのを感じた。

天下無双の飛将軍――呂奉先。

 

 

 

「呂…奉先」

 

「ああそうだ。この汜水関を越えた先、虎牢関に詰めている。間違っても勝てるとは――いや、戦おうとは思わん事だ。奴は、次元が違う」

 

「……なぜ、そんな忠告を?」

 

「なぜだろうな。多分、私を討ち取った者が負けるのは嫌だと言う私の我儘かもしれん。……もし張遼と対することがこの先あったなら、伝えてほしい。“すまない、私の失態だ。お前の名にまで傷をつけてしまった、許せ”と」

 

「確約は出来ないが、分かった。出来うる限り伝えよう」

 

「重ね重ねすまんな。ふっ、私がこれほど殊勝に頼みごとを出来るとは驚きだ。……おしゃべりは終わりだ。さあ、死合おうか――関雲長っ!!」

 

 

残る未練を振り切るかのように、華雄は吠えた。

まるで、今ここにはいない誰かに、自身の武の誉れを、最後と覚悟した戦いを伝えるかのように。

 

 

 

「劉玄徳が義の刃、関雲長――参るっ!!」

 

「董卓軍、華雄――いざ、我が生き様をその眼に焼き付けよ!!」

 

 

 

覚悟を決めた相手に出来る最高の手向け。

それは、手を抜かないこと。お互いに決着は一撃。

 

 

 

「はああああっっっ!!!」

「おおおおおっっっ!!!」

 

 

 

交錯する刹那、華雄は、心底満足そうに、笑っていた。

戦場に一際高く、鈍い鉄の音が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

擦れ違いざま、互いに渾身の一撃を加えた。

背を向け合う二人は動かない。

いつの間にか、周囲の両隊による喧騒は止み、その場にいる誰もが見入っていた。

 

 

 

「ふ、ふははははっ!!」

 

 

 

静寂の中、華雄の笑いが響き渡る。

とても可笑しそうに、だが、どこか悲しげな笑い。

やがて、それは止む。

 

 

「見事だ、関羽。私もまだまだ未熟だったということだな。虎牢関へ行く貴様らの武運を祈ろう。…………董卓様、申し訳っ…あり…ません」

 

 

最後に、不敵に笑って見せた彼女は、そのままの表情で地に倒れ伏した。

だが倒れる直前、唇を噛み締め、悔しそうに、申し訳なさそうに呟かれた、唯一残る後悔の言葉は誰にも――愛紗にすらも聞き取れなかった。

 

 

倒れた華雄を見、愛紗は何かに祈るよう、眼を閉じる。

だが、それも一瞬のこと。

 

倒れた華雄に毅然と背を向け、自身の得物――青龍堰月刀を天へと掲げる。

 

 

 

 

 

「敵将華雄!劉玄徳が一の臣、関雲長が討ち取った!!!!」

 

 

 

 

凛とした声が、戦場に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

【あとがき】

 

 

 

真・恋姫†無双 真公孫伝 ~雲と蓮と御遣いと~ 1-25

【 汜水関の闘い 猛将の散り様 】

更新させていただきました。

 

 

正直、PCの前で悶絶しながら書いておりました。

一つ、白蓮と同じく不遇な将を退場させねばならなかった自身の不名ゆえ。

一つ、どうにも戦闘描写が苦手な為、肩の辺りがゾワゾワする嫌な違和感ゆえ。

……難しいですね。インスピレーションが天から降って来ないものか(;一_一)

 

 

とりあえず、原作通り愛紗が華雄さんを討ちました。

一応、今後の進行に不可欠な回……だったと思います。

おそらく溜息を吐きながら投稿ボタンを押しているでしょう。

……なんだか非常にネガティブなあとがきで申し訳ない。

なんとか次の投稿までには回復していると思いますので、どうぞよろしくお願い致します。

 

 

 

 

 


 
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