No.334704

真・恋姫†無双 真公孫伝 ~雲と蓮と御遣いと~ 1-24

真・恋姫†無双 真公孫伝 ~雲と蓮と御遣いと~ 1-24
更新させていただきます。

凄く、眠い。
だけど、明日の、起床は、朝の、5時。

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2011-11-14 23:43:33 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:7797   閲覧ユーザー数:5588

 

 

 

この作品は【 恋姫†無双 】【 真・恋姫†無双 】の二次創作です。

 

三国志の二次創作である物に、さらに作者が創作を加えたものであるため

 

人物設定の違いや時系列の違い。時代背景的な変更もありますので

 

その辺りは、なにとぞご容赦をお願いいたします。

 

上記をご理解の上、興味をお持ちの方はそのままお進み下さい。

 

 

 

 

 

 

軍義後

袁紹軍天幕近く。

 

 

「な?だから嫌な予感がするって言ったろ」

 

 

白蓮が天幕から少し離れた位置で、疲れた声を上げる。

一刀と雛里はそれに苦笑いでしか返せなかった。

 

 

「ホント見事に白蓮の嫌な予感当たったな。今後は袁紹関係の勘は全面的に信じることにしよう」

 

「そ、そうですね。軍師として勘はどうかと思ってましたけど、有りかもしれません」

 

「だろ?でも、麗羽関係だけの勘か……なんだか自分が情けなく思えてきたよ」

 

「まあ、あんまり気にし過ぎるのも良くは無いと思うけどな。当たったら儲け物、ぐらいな認識でいいんじゃないか?」

 

結構無責任っちゃ無責任なことを軽く言う一刀。今度は白蓮と雛里が苦笑する番だった。

自軍の天幕への道を辿りつつ、そういえば、と一刀が口を開く。

 

 

「先陣は劉備軍。そういうことだけはバッチリ決めやがったな袁紹。曲がりなりにもこの連合の大将に収まったんだから当たり前と言えば当たり前だけど」

 

「ああ、まあその横暴に私が口出ししたからうちも一緒に先陣だけどな。いくら桃香への助け舟とはいえ少し早まった気がするよ」

 

「でも桃香のところとうちとで軍合わせればそこそこにはなるだろ?今回は経験を積むのに絶好の機会って考えておけばいいんじゃないか?」

 

「確かに北郷さんの言う通り、私達の軍は大きな戦の経験が少ないです。私が入った後も小規模な賊討伐だけでしたから。ですが、大きな戦の先陣となると――」

 

「ま、白蓮は心配すんなよ。俺たちは桃香を助けたその判断、間違ってたなんて思っちゃいないから」

 

「お、おう。……ありがと」

 

 

雛里の言葉を遮る。

白蓮はポンと頭の上に乗せられた一刀の手を払うことなく、少し照れた表情で口をボソッと動かした。

それを見ていた雛里の口が「いいなぁ……」と動いたのは誰も知らない。

そして自軍、公孫賛軍の陣に着くと同時に

 

 

「はあ……お取り込み中失礼するわよ」

 

「!?」

 

 

後ろから突然呆れたような声がした。

 

 

 

 

ビクッと肩を震わせ、後ろを振り返るとそこには、先ほどまで袁紹軍の天幕に共にいた曹操が声色と同じく呆れ顔で立っていた。その後ろには黒髪と水色の髪をした二人の女の子が控えている。

 

 

「なんだ曹操かよ」

 

「なんだとはご挨拶ね公孫賛。イチャイチャしていたから陣に着くまでは呼び止めないで上げたというのに。感謝の一つくらいあってもいいんじゃない?」

 

「なっ、ばっ!?そ、そんなんじゃねぇよっ」

 

「白蓮、言葉使い悪いぞ」

 

 

一刀は指摘し、密かに嘆息もする。

イチャイチャしているように見えていたことを曹操に指摘され、内心では少し動揺もしていたが、その辺は白蓮に力一杯否定されたことでチャラになっていた。

 

 

「どこから着いてきてたんだよ?」

 

「“なあ?だから嫌な予感がするって言ったろ”辺りからかしらね」

 

「初めっからじゃん?!」

 

 

ふふん、となぜか勝ち誇ったように笑む曹操だったが、不思議と眼は笑っていなかった。

 

 

「で?何の用だよ。劉備だったらこの陣にはいないぞ」

 

「なんで私が劉備に会いにいかないといけないのよ。公孫賛、あなたに用があってきたのよ」

 

 

フン、と不快そうに鼻を鳴らして口火を切る曹操。

桃香と行動していた時に不愉快な思いでもしたのだろうか。桃香と曹操では価値観、理想共に違う故に仕方が無いと言えばそれまでだが。ともあれ話の腰を折るわけにもいかず、一同は黙っていた。

 

 

「用?……曹操が興味を引きそうな物なんてウチにはないぞ。それこそ劉備のところの関羽辺りだったらお前の眼を引くんじゃないか?」

 

「あら、慧眼ね公孫賛。確かに関羽ほどの将が劉備如きの旗下に居るのはもったいないと思っていたところよ」

 

「……冗談で言ったつもりが図星かよ。ていうか如きとか言うなよ」

 

「あら失礼。確か劉備と貴方は同門だったわね」

 

 

全く失礼と思っていなさそうな面持ちで、曹操は謝罪した。

本人の中では謝罪をするレベルの話では無かったと容易にその顔から窺がい知れたが。

 

 

「どうにも話が逸れているわね。公孫賛、私はさっきの軍儀のことで礼を言いに来たのよ」

 

「……え?なんだって?よく聞こえなかったんだけど」

 

「さっきの軍義の件で礼を言いに来たと言っているのよ」

 

 

 

 

沈黙。

 

 

 

 

「はぁ!?」

 

 

そして驚愕。

白蓮は曹操の口から語られた言葉に驚いた。吃驚した。驚愕した。

 

 

「貴様、公孫賛!!華琳様の礼の言葉に驚くとはどういう了見だ!一太守の分際で華琳様に礼を言われるなど有り難すぎる事だぞっ!私だって華琳様に“よく頑張ったわね、春蘭”とか言われることなんて滅多にないというのに!」

 

 

曹操の後ろに控えていた内の一人、黒髪の女の子が吠える。

というかここにも人前で真名を盛大にぶちまけるお人が。それどころか自分の真名まで暴露していた。さらに若干、ひがみになっていた。

と、そこで白蓮と曹操の間に長身の影が割って入る。

 

 

「“一太守の分際”……?大殿への侮辱、聞き捨てならないでござるな」

 

 

舞流だった。

自分の得物である堰月刀を片手に威圧していた。

 

 

「分際は分際だ!華琳様はいずれ天下を取られるお方、その辺の奴らとは格が違うっ!」

 

「大殿とて幽州の太守を務められる方だ。その双肩に背負う重責は我らには考えもつかぬ。それを知ってなお、先の侮辱を取り消さぬというなら某が相手になるでござる」

 

「馬鹿か貴様はっ!もう一度言ってやる!華琳様はいずれ天下を取るお方なのだと言っている!一太守とは違うのだっ」

 

「ふふん、馬鹿と言ったか。貴殿はどうやら知らぬらしい……いいか、天の世界にはこんな言葉があるのでござる」

 

 

ゆらり、と舞流を包む空気が変わる。

その変化と天の言葉という単語に黒髪の女の子も何かを感じ取ったのか、朴刀を構えた。

そして、舞流はくわっ!と眼を見開き、告げた。

 

 

 

 

 

「馬鹿と言った方が馬鹿!!なのでござる!!」

 

 

 

 

 

一瞬にして辺りを包む空気から殺気的な物が消えた。

砂塵と共に木の葉が舞う。

唯一、舞流はそれに気付かずに勝ち誇った顔をしていた。

 

 

「そうでござるな、殿!」

 

「俺に話を振らないでください、お願いします」

 

 

正直なところ他人の振りをしたい、一刀は心の底からそう思った。

その心模様が如実に表れ、他人行儀な応答になっていた。

 

そもそもそれは別に天の国――というか現代の言葉じゃ無いし。この世界にも普通にあった。俺の教えたこと全部を天の国の言葉だと思ってもらっても困る。

 

が、侮る無かれ。舞流が指を突きつけた先で黒髪の女の子がぶるぶると震えていた。

 

 

「そ、そうだったのか……!!」

 

 

怒りでは無く、驚愕で。

 

 

「ふふん、思い知ったでござるか。これからは馬鹿と言うのを控え――む?……殿、今某は大変なことに気付いてしまったでござる」

 

「聞きたくない」

 

 

あまりに阿呆過ぎるから。

 

 

「これはもしや“馬鹿と言った方が馬鹿”と言った時には既に自分が相手より一回多く馬鹿と言ってしまっているという非常に高度な罠なのでは……!!」

 

「百パー違う」

 

「うおぉぉぉぉ!!!!そ、某の方が馬鹿になってしまったっ」

 

「ふ、ふふっ補欠を掘ったな!」

 

「墓穴だ、姉者」

 

 

曹操の後ろに立ち控えていた水色の髪をした女の子が冷静にツッコむ。

 

「そう、それだ、墓穴だ。ふ、ふふっ墓穴を掘ったな!貴様の言う通りなら馬鹿と言った方が馬鹿というその――しまったぁぁぁぁ!!!!また馬鹿と言ってしまったっ」

 

 

「姉者、話が進まん。少し黙っていてくれ」

「舞流、話が進みません。少し黙っていてください」

 

 

両サイドからの辛辣な言葉。

水色髪の女の子は黒髪の女の子を引っ張って行き、燕璃は舞流を引っ張って行った。

距離が離れても遠くの方から馬鹿という単語が聞こえ続けていたが。

 

 

「これは一刀殿のせいですな」

 

「俺のせい!?ってか星いつのまに……」

 

 

いつの間にやら隣には昨日袁紹領の街で買ってきたメンマ壺を抱えた星がいた。

唯一、曹操軍側で残った曹操。

辺りは嵐の去った後のような静けさを取り戻していた。

 

 

 

 

 

 

「ある意味驚いたわよ。春蘭と同じ思考の持ち主がこの世にいたなんて」

 

 

半分独り言のような声でしみじみと舞流の消えた方向を見る曹操。

独り言と言うには距離が近いのでこちらには丸聞こえだったのだが。

 

 

「無駄な時間を使ったわね。どこまで話したかしら」

 

「あ、ああ。えっと…礼を言いに来たってところまで」

 

「そうだったわね。それだけ言いに来たのよ、それじゃあ、せいぜい劉備と協力して頑張りなさい」

 

 

本当にそれだけ言ってあっさりと踵を返す。

こちらがポカンとしているうちに曹操は迷い無い足取りで去って行った。

 

 

「なんだったんだ、あれ。というか礼?私には覚えが無いんだけど……」

 

「いや、軍儀の時に曹操が袁紹を連合のまとめ役にって押しただろ?その直後に白蓮がそれを後押しする形で賛成したじゃん。あのままそういう流れにならなかったら曹操一人で推薦した責任を負うことになっただろうからな。その礼だろ、多分」

 

「というかそれを見越して白蓮様は賛成したんじゃ……?」

 

 

一刀と雛里、軍義に同席し白蓮のやったことに口出ししなかった二人が、揃って白蓮の顔を覗き込んだ。だが公孫伯珪を侮る無かれ。ある意味凡人では計れない感性を持つ人物。

 

 

「いや、全然そういうの考えて無かった。……あれ?まずかったか!?」

 

 

期待を裏切らない良い人白蓮。

真顔で言ったその言葉に、二人同時に盛大にズッコケた。

 

 

「それにしても随分と物騒なことを仰っていましたね、曹操殿は」

 

「ありゃ燕璃、舞流は?」

 

「むこうで頭を冷やさせています」

 

「まあ妥当な判断だよな」

 

「水の入った桶に顔を突っ込ませて千数えるまで顔を上げるな、と」

 

「今すぐ止めさせろっ!」

 

「冗談ですよ。そんなことさせるわけが無いでしょう」

 

「お前の冗談は本気にしちまうんだよ、真顔で言うから」

 

「ちなみにあの子はそれぐらい余裕ですよ?」

 

「うそ!?マジでか!?」

 

「……冗談に決まっているでしょう」

 

 

燕璃の冗談に付き合わされつつも嫌そうな表情をしない白蓮。

その場にいた一同はある意味感心していた。と、同時に相変わらず太守らしくないとも思っていたが。

 

 

「で?燕璃、物騒っていうのは天下うんぬんの話か?」

 

「ええ、未だ漢王朝がギリギリで機能している世ですから。あまり褒められた言動ではないでしょう」

 

「まあ確かにな。いくらクズみたいな王朝でも未だ機能しているわけだ。他の諸侯に聞かれでもしていたら、この連合の矛先が曹操に向きかねん」

 

「クズって凄い自然に言ったな」

 

「冗談ですよ、一刀殿」

 

「星と燕璃の言ってることは冗談に聞こえないことが多すぎんだよ」

 

 

今度は一刀が星にツッコミを入れる。この様子、というか共通点で仲が悪いなりにも星と燕璃の二人は似た者同士なのが分かる。というか最近、自分と白蓮がツッコミ要員になってる気がするなー、と一刀は密かに思っていた。

 

 

 

 

 

 

一方その頃、孫策軍陣地

 

 

「~♪」

 

「軍義に出る前は不満そうにしていたというのに、えらくご機嫌だな雪蓮」

 

「あ、分かる?面白いもの見つけちゃったのよねー♪」

 

「誰だか知らんが、策殿に面白がられるとは運が悪いのう」

 

「祭ひどーい。なんで私に興味持たれるのが運が悪いことに繋がるのよ?」

 

「分からいでか?」

 

「う~ん……心当たりは少し」

 

「少ししかない時点で頭を抱えたくなるが、話半分には聞いておこう。それで?お前が興味を持つとなると曹操辺りか?」

 

「曹操にも少しは興味あったんだけどねー。今は天の御遣い君かな」

 

「天の御遣い……ああ、幽州の公孫賛が保護したとか言う例のあれか」

 

「そっ。中々カッコよかったわよ」

 

「……雪蓮、頼むから懸想を抱いたとかそういう類いの話なら」

 

「違うわよ。でもそうねー……もしあの子に最初会ってたのが私だったらお持ち返りはして来ちゃったかもしれないわね」

 

「勘か?」

 

「うん、勘」

 

「策殿の勘はよく当たるからのう」

 

「……」

 

「あれ、どうかした?冥琳」

 

「ん、なにがだ?」

 

「今、変に難しい顔してたわよ?策を考えるときの変に悪い顔でも無くて、普通に変な顔」

 

「変と連呼されるのは不愉快だな。いやなんでもないさ、少し天の御遣いと言う単語に引っかかりを覚えただけだ」

 

「ふぅん……よし、じゃあその辺の話も含めて今から――」

 

「酒は無論、禁止だ」

 

「えー!……冥琳の馬鹿」

 

「ほう……?今何か聞こえたが私の気のせいか?どうも酒一年禁止令を出したくなるくらいの暴言が聞こえた気がしたのだが」

 

「うそうそうそ!ごめん冥琳、冗談だって!……なんで無言でお酒保管してある倉庫に歩いてってるの?ちょっと祭!あなたからも止めて、頼むから!」

 

「お、おい冥琳?それはさすがに酒が可哀想じゃろう」

 

「なら貴方がたが飲まない酒は兵たちに分けてしまっても構いませんね?おーい穏!今すぐ簡易酒庫にある酒を全て――」

 

「ちょ、ちょっと冥琳ー!!」

 

 

 

 

 

 

汜水関内部、城壁上。

そこでは二つの影が眼下の連合軍本陣を見ていた。

 

その影の一つ――否一人が弾かれたように顔を上げる。

 

 

「ど、どうした張遼。なにかあったか?」

 

「いや……なんや今、酒がとんでもない危機に陥ってるような気がしてん」

 

「はぁ?なんだそれは。今は酒よりもここをどう守り切るかが先決だろう」

 

「なんや初めて華雄の口からまともな事聞いた気ぃするわ」

 

 

にっしっしと歯を見せて笑うのは汜水関を守る二将の一人、張遼。

下は袴。上には着物のような服を羽織り、惜しげも無くさらしたその上半身をさらしを巻くことでカバーしている。というかぶっちゃけ、裸同然。

 

 

「む……」

 

 

張遼の言葉に憮然とした面持ちながらも何も言わなかったのは、やはり二将の内の一人、華雄。鎧と言うよりそのほとんどが布地の服。張遼と同様にお腹を曝け出しており、引き締まった肢体、というかヘソをこちらも惜しげも無く見せつけていた。

 

防御的な機能がほとんど見込まれない服を着て戦場に来ている辺り、この二人の実力と自信のほどが窺がい知れる。

 

 

「あれ?怒らへんのな」

 

「お前の軽口に付き合っている場合でも無いだろう。それにしても――」

 

 

眼下を見ながら一旦言葉を切った華雄。

その視線の先には反董卓連合各諸侯の旗。

 

 

「袁紹、袁術、曹操、馬騰、だけでも厄介だというのに、最近噂の劉備、そして北の公孫賛が名を連ねているとはな」

 

「一応、馬騰は参加してないみたいやで?そん娘の馬超ちゅう子が大将らしいわ」

 

「それでも大勢は変わらないだろう。それにしても義勇軍を率いる劉玄徳……弱い者を守る噂の仁君が聞いて呆れる」

 

「ま、多分むこうは月っちのこと知らへんからあんなけったいな連合に居るんやろうけど。事情を知ってるウチらからしてみれば不愉快極まりないで。ま、んなこと言うても状況は変わらへんし、むこうはむこうでなんや事情とかあるんやろな」

 

「弱い者を守る正義の味方――ふん、事情を知っているなら間違い無く董卓様に着いたと予想できる分、腹が立つがな。だが確かに戦う理由は人それぞれ、知ったことではなかったか」

 

「まあ、せっかくの戦や。ウチは楽しませてもらうで」

 

 

張遼は自らの得物、飛龍堰月刀を肩に担ぎながら笑う。

既にその眼は強者と戦える喜びにうち震える猛者の眼に変わっていた。

 

 

「分かっているとは思うが、一番大切なのはこの関を――」

 

「何回言う気や。一番大切なんはこの関を守って少しでも時間を稼ぐこと、そんくらい分かっとるわ」

 

「そ、そうか。いや、すまん」

 

「……ウチとしては一番心配なんはあんたなんやけどなぁ、華雄」

 

「む?張遼、何か言ったか?」

 

「いいや、なんも」

 

 

先ほどの獰猛な眼とは違い、この戦の先を見据えているような達観した眼をしながら、張遼は人知れず大きな溜息を吐いた。

 

 

(……ホント、熱くなりすぎる気性さえ無いんやったら普通に良将呼んだってもええんやけどなー、華雄)

 

 

 

 

 

 

そして、残念ながらいつの世も悪い予感というのは当たる物で。

 

 

「だから落ち着けっちゅ-ねん!!」

 

「これが落ち着いていられるかぁぁぁぁ!!!」

 

 

数刻も経たない内に、張遼の杞憂は現実に変わっていた。

 

 

 

 

「ふん!我が母と戦い、散々に敗走したその気持ちを慮って江東の虎、孫文台が娘、孫策が相手をしてやろうと申し出ているにも関わらず、穴の中で身を縮こまらせているだけとはな!董卓軍の名将、華雄が聞いて呆れる!」

 

 

汜水関前で仁王立ちになり高らかと声を張り上げているのは袁術軍の客将である孫策だ。

あれは近付き過ぎじゃないか?と思いながら、先陣を劉備軍と共に任された身であるわけだから下がることもできない。と、いうか

 

 

「なんで孫策……さん?がさっきから関の前で仁王立ちして、華雄を標的に挑発してんだ?」

 

「某が聞いたところによると、劉備殿のところに孫策殿が共闘を申し出た、とのことでござる」

 

「ま、構わないのではないですか?あちらもこちらも利用する物は利用する、ということですから。その考えで言えば孫策殿の行動も至極当然のことかと」

 

「嫌な言い方するよな、燕璃は。まあ、確かに間違っていないけど。袁術軍の客将に甘んじてもいられないから、なんとか戦功を立てようってことだろ?俺達も頑張りたいもんだよな、白蓮の為にも。それにこれなら俺達がなんか考えて籠城戦を瓦解させるより遥かに効率が良さそうだ」

 

「ふむ、中々な洞察力だな、天の御遣い。なぜ孫策が袁術の客将でいることに不満を感じていると思った?」

 

 

一刀、舞流、燕璃の三人が公孫賛軍の本陣から少し離れた位置で状況把握に勤しんでいた時、その背後から不意に凛とした女性の声が響く。

その声の主――眼鏡を掛けた長身の女性、は歩みを進め、一刀達三人の隣に並んだ。

 

 

「軍義の時に不満そうな顔してたから。後はまぁ……勘かな。それで、どちらさま?」

 

 

史実を元に、などと言えるはずも無く。

お茶を濁すように締めくくり、長身の女性に問い掛けた。

 

 

「ああ、すまない。私はあそこで吠えている孫策の…まあ、保護者みたいなものだ」

 

「保護者?……ってことは、周公謹か」

 

「ほう、私のことを知っているのか。いや、流石だよ天の御遣い」

 

 

一刀に自身の名を当てられたことに少なからず驚き、表情を動かす女性、周喩。

だが、すぐさまその表情は無に戻る。軍師は常にポーカーフェイスでいなければならない、なんて決まりは無かったと思うのだが。と、思いつつ会話はそれきりになる。

 

未だ何の動きを見せない汜水関に業を煮やしているのか、孫策が若干精彩を欠いているように見えた。大声を張り上げ続けていれば体はともかく喉は疲れるだろう。加えてここは戦場、いつにも増して空気がピリピリしていた。

 

 

「天の御遣い」

 

「北郷でいいよ、周喩さん」

 

 

突然呼ばれたことに驚きもせず、一刀は応した。

 

 

「なら私のことも周喩でいい。北郷、お前はこの戦をどう見る」

 

 

突然の質問。舞流は自分の領分で無いのを既に理解しているようで、城壁の上にひたすら視線を注ぎ続ける。一歩で燕璃は正反対に、顎に手を当てて思案する体勢に入っていた。

一刀は周喩と共に孫策を見たまま、微動だにしない。だが、その沈黙も長く続くことは無く、一刀はおもむろに口を開く。

 

 

「それってこの連合がどうこうってこと?」

 

「まあ、そう考えてもらっても良いだろう。私が求める答えに関しては微妙に論点がズレるがな」

 

「俄か連合」

 

「簡潔だな。だが正直なのは嫌いでは無い。それに中々、的を射ている」

 

 

簡潔かつ今の連合の状態を如実に表している一刀の言葉に周喩は笑む。

その周喩の笑みが失笑の類では無かったことに密かに胸をなで下ろす一刀。

相手は周公謹。呉の基盤を築いた知者であり、王佐の才を持つ人物。

正直、先ほどから嫌な汗が止まらないでいた。

 

 

「この反董卓連合のことに関しての意見だったら、情報が少なすぎるとしか言えないよ」

 

「ふむ、例えば?」

 

「例えるも何も俺達は“董卓が洛陽で暴政を敷いて民を苦しめている”ってだけしか知らない」

 

「そして、孫策殿のところも、それくらいの情報しか無いからこうして他勢力に対して情報収集を行っている――違いますか?」

 

 

一刀の台詞を引き継ぐような形で燕璃が話に割って入る。

相変わらずその顔からは表情が汲み取れなかったが、その声ははっきりとした強さに満ちていた。

 

 

「ふふっ……そうか、公孫賛のところにも中々にキレる頭がいるというわけか」

 

「買い被りすぎだよ、少なくとも俺に関しちゃ。それに知者、周喩に褒められてもなぁ……もしかして眼付けられちゃった?」

 

「さあ、どうだか。初めは孫策が興味を持ったと言うから面白半分で接触したが……ふむ、孫策が気になると感じたのも分かる気がするよ。中々面白い男だな、北郷殿。公孫賛には勿体ないかもしれん」

 

 

抜き身の刃のような視線で一刀を射抜く周喩。

試されている――直感的に一刀はそう感じた。

 

 

「むしろ俺には勿体ないくらいの主だと思うよ。こんな胡散臭い男を懐に迎え入れるだなんて器が大きすぎると思わないか?」

 

「……そうだな。ふっ、それを言えばうちの主も負けてはいない」

 

「まあそりゃね、江賊を配下に加えるくらいだし」

 

 

その一刀の言葉に一瞬だけ眉をピクリと動かした周喩だったが、暴言や罵りの類では無いことを理解すると、再び沈黙を貫くに至った。

 

そして

 

 

「…む。殿、“華”の旗が動いたでござる!」

 

「孫策!旗が動いた、来るぞ!」

 

 

戦場に二つの凛とした声が響き渡る。

一刀、燕璃共に城壁の上を見上げると、上がっていた筈の華旗が消え、紺碧の張旗のみが風に靡いていた。

同時に関の向こうから

 

 

「あんのボケナスなに勝手しとんのやぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 

と、謎の関西弁が響いていたのに頸を捻りつつ、

 

 

「伝礼!」

 

 

一刀は自身の隊の部下を呼ぶ。

その声は公孫賛軍、北郷一刀としての声色だった。

 

 

『はっ』

 

「本隊に伝令。“華旗に動きあり、戦端を開く準備をされたし”。一応、孫策のところから行っているかもしれないが、劉備軍の陣にも同様の報告を頼む」

 

「華雄に続いて張遼が出てくる可能性も捨てきれないので、そのこともよろしく伝えて下さい」

 

『はっ!了解です』

 

 

一刀の口頭文と燕璃の補足した事柄を聞いて部下は短く了解の意を示した後、伝礼に走った。それを見届け、再び門に視線を注ぐ。今まさに門が開き、華雄率いる騎馬隊が突撃を敢行する場面であった。

 

 

「舞流、燕璃。一旦下がって白蓮たちと合流するぞ。うちの軍の先鋒は星、桃香の軍の先鋒は愛紗。そこに孫策軍。俺達が巻き込まれかねない布陣だ」

 

「はい、了解です」

 

 

燕璃の返事が聞こえた。

続いて舞流の――

舞流の――

舞流の――

 

 

「あれ?」

 

 

ふっと振り向けば、そこには一迅の砂塵が舞うのみ。

遠目に自身の隊を率いて華雄へ突撃を敢行する少女の姿が見えた。

その手に、堰月刀を引っ提げて。茶髪で、ポニーテールの、少女が。

 

 

「あいつはアホの子かぁぁぁぁっ!!!!」

 

「残念ですがその通りです」

 

 

 

 

 

 

【あとがき】

 

 

 

真・恋姫†無双 真公孫伝 ~雲と蓮と御遣いと~ 1-24

【 反董卓連合 脳筋達の宴 】

更新させていただきました。

 

 

 

最近、急な気温の変化及び中途半端な気候の為、体調不良を訴える知人が続出。

案外、私は平気です。仕事で疲れている以外は至って健康です。

今日も片手にオロナミン。元気ハツラツ!とまでは行きませんけどね。

 

 

 

 

今回は汜水関攻め。

張遼と華雄さんの登場でした。

台詞は少なかったですが、恋姫の世界でもう一人、不遇のキャラクターを上げるとするなら華雄さんでしょう。残念ながら、これは華雄ルートでは無いので、おそらく次やその次の回は書きながら、華雄さんの不遇さに私は涙していると思います。

 

 

そういえばこの間、特に理由も無く真・恋姫の説明書をペラペラと。

「真には左慈とか出てないんだよな~」とか「左慈の声優って緑川さんだったっけ、無駄にカッコいいなぁオイ」とか思いつつ、眼に止まったのは白蓮の声優。

 

 

“柚木かなめ”

 

 

「……マジで?」ってなりました。

いや、ほんと知らなかったです。

リトルバスターズというkey作品をやったことのある方は分かると思いますが、西園さんです。日傘をさした天然素材。○○好きなあのお方です。

 

 

白蓮←→西園さん

 

 

「同姓同名の別人じゃなくて?」と思った瞬間でした。

 

 


 
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