この作品はキャラ設定等が一刀くんを中心に、わりと崩壊しております。原作重視の方はご注意下さい。
時代背景等も大きな狂いがあったりしますので、
『外史だから』で許容できない方は全力でブラウザバックを連打しましょう。
オリキャラも出ますので、そういうのが苦手という方も、さくっとまわれ右。
一刀君とその家系が(ある意味で)チートじみてます。
物語の展開が冗長になる傾向もすごく強いです。(人、それをプロット崩壊という)
この外史では一刻=二時間、の設定を採用しています。
それでもよろしい方は楽しんで頂けると幸いです。
「様々な疑問等あろうかとは思いますが、まずは自己紹介から参りましょうか」
邸宅の中庭に設けられた宴席に皆が腰を下ろした後、館の主人である魯子敬さんが柔らかな笑みを浮かべながら、
皆の顔を見渡した後に、そう切り出した。
「私は魯粛、字を子敬と申します。この寿春一体で商いをさせて頂いています。
本来は礼を尽くすべき場面ではありますが、私は今、美羽さまの座席でもあるので、ご容赦下さいね」
・・・そう、子敬さんの膝の上では、身体を彼女に預ける格好で、上機嫌の公路さんが未だに頭を撫でられていた。
少軒さんは愛らしいお嬢様を目に焼き付けないと・・・などと心の声が思い切り口からこぼれていたりする。
俺からすると、母親から無償の愛情を注がれている、愛娘。どうにもそう見えてくる。
思い出の中にある、紫苑と璃々ちゃんの母娘の姿が重なり、俺はわずかに頭を下げ、目頭を押さえていた。
「・・・ほんごー、だったかや? どうしたのじゃ?」
「・・・すいません、お二人を見ていると、よく知っている親子を思い出してしまって、ちょっと」
座席の位置の関係もあるのかもしれない。真っ先に気づき、声をかけてきたのは公路さんだった。
怪訝そうな、どこか心配そうな、そんな表情で。彼女のそういう表情を見たのは初めてで、少し驚きもあって。
「悲しいのかの?」
「いえ、ただ、ただ・・・懐かしくて。すいません、話を止めてしまって」
「うむ・・・」
俺は軽く頭を下げ直し、子敬さんに目線で続きを促す。
こちらを目を細めて見つめた後、彼女は縦に首を振り、笑みを再び浮かべて、話を再開させた。
「美羽さま、後で詳しく聞ける時間も作りますゆえ、今はご容赦下さいまし」
「そうですよ、お嬢様ぁ。まずはお互いの紹介が終わらないと、話も進められませんし~」
「う、うむ、七乃やゆーりがそう言うのなら判ったのじゃ」
公路さんが二人の言葉で落ち着いたところで、俺は懐かしさを振り払い、子敬さんたちへの礼を取る。
「このような席を用意頂けたことを感謝致します。私は、北郷一刀。字はありません」
「公謹さんからの使者から、お話は伺っております。どうぞ楽にして下さい、北郷さん」
「ありがとうございます、子敬さん」
彼女の優しげな微笑みに、俺も自然と笑顔がこぼれた。
が、その瞬間だろうか。空気が明らかに「ピシッ」と音を立てたのは。
幻聴とは思えないんだけど、横の華琳は深いため息をついているばかりで、同意を得ることも出来ず…。
公路さんは顔を真っ赤にして口をパクパクさせ始め、
子敬さんもほんのり頬を染めながら、『話に聞いていたものの、これはなんと強烈な・・・』と視線を逸らされた。
「傾国のなんとやらという奴でしょうかねぇ・・・この私ですら胸がバクバク言い始めましたよ~」
少軒さんは目をキラキラさせながら、なにやら意味不明な言葉を呟いたものの、
普段の怜悧な風貌はどこに行ったのか、顔が完全に緩んでボーっとした表情をした愛理が、
首を細かく縦に振り、全力で同意している。
「あー、やばいなこれ。同性の俺ですら、一瞬自分が飛んだわ。悠梨、ゆっくり深呼吸しとけ」
孟忠さんは子敬さんの頭を抱えるようにして、苦笑い。
こちらの他の皆も、顔が赤くなっていたり、呆れ顔だったり。
「ほんとーっにお兄さんという人は・・・!」
ぽかぽかぽかっ!
風には背中を叩かれる始末。痛くないし、仕草がとても可愛くて、抱きしめたい衝動に駆られるんだけど、
俺、悪いことしたんだろうか。
「愛紗・・・俺なんかした?」
「知りませんっ! 無自覚すぎるのもそこまで行くと立派な罪ですっ!」
・・・最後には怒られてしまった。
その後、なぜか頭を撫でさせられる羽目になったり、公路さんや少軒さんが混じって、一緒に撫でられていたりした。
「さすがですね、北郷さんは・・・」
しみじみと子敬さんに呟かれ、孟忠さんも深く頷いているんだけど、
結局何が何だかわからないままに、なんとかお互いの自己紹介を終えることになるのだった。
自己紹介が終わり、いざ本題にという段になる。
ここから主に話すのは、孟忠さんと子敬さんのようだ。
「いろいろ説明はしなきゃいけないんだが、早速結論から行こうか。
理由は後で説明するから、まずは一旦飲み込んでくれな?」
「まずは、私たちの正体から、でしょうか。
私は、魯子敬という存在でありますが、この内には、北郷さんのお婆様の知識と意思が宿っています」
「・・・は?」
俺と華琳以外、袁家の皆以外に同様の疑問符が浮かぶ。俺と華琳にしたって、予想の大外の大外もいいところだ。
雰囲気とか、孟忠さんの笑い方とかそっくりだったとはいえ、正直斜め上過ぎるだろ・・・。
「俺には、北郷どのの爺様だな。憑依されてるようなもんだけど、もちろん、俺らの自意識はちゃんとあるんだぜ。
影響は受けてるだろうけどな」
「…訳が分からないわよ」
華琳が自分の思いも込め、皆の気持ちを代弁する。
全力で頷き、同意している皆の様子に、困惑している気持ちがすごく伝わっていて、思わず苦笑いが出てしまう。
と言ったって、俺も理屈で無い部分で、なんとなく感じ取っているだけだから、頭は納得できていない。
「これは俺の予想なんだけどな、ほんとは多分、俺が乗っ取られる予定だったんじゃないかな、と思うわ。
ただ、この世界には、既に俺の存在が確立してしまっていたし、
あんたらの爺さんがずっとこの世界にいるってのもまずいから、こうなったんじゃないかな」
そこで一度息を切り、孟忠さんは言葉を続ける。驚愕に固まる皆の顔を、困ったなといった顔つきで見渡しつつ。
「反則じみた知識を得る代わりに、感情としてのあんたらへの好意を擦りこまれた、って感じか。
俺が発狂しないように、つーのもあるんだと推測する。
三日間ぐらい、えらい頭痛に苦しんだものの、それが終わったら、
このとんでもない知識とか、あんたらへの好意とか、当たり前のように受け入れていたからなぁ」
「そもそも、元々は、孟忠に字すら無かったはずなのです。それが気づけば、周りは彼に字があるのが当たり前になっている。
タダヨシ様の『忠』という文字が使われているのも、皮肉ですよね。
孟忠と早急に誼を深められなかったら、私は自分が狂ったとしか思えなかったでしょう。
異端児、狂児と呼ばれる私が情けないことです。
概念や思想に捉われず、常に現実を見据えるのが私の信条ですのに」
「お陰で、元々気になっていた悠梨と親密になれるわ、
苦悩の共有が出来て、見事恋仲になれるわで、俺にとっては天啓とも言えるけどな!・・・って、痛てぇ・・・」
はしゃぐ孟忠さんの頭に、刹那、落ち込んだはずの子敬さんの右フックが見事に炸裂した。・・・多分。
拳速が早すぎて、殆ど見えなかったから。
「・・・見えた? 俺、殆ど駄目だった」
「えぇ。しかし、目を逸らしていたら、とても。商人の早さじゃないわよ」
さすが俺の彼女は格が違った。・・・いえ、言ってみたかったの。
「この局面で言う事ではありませんね、孟忠?」
「は、はひ・・・」
孟忠さんの頭からは、湯気やら煙やらと思えるものが立ち上っている。一撃が入ったのは、確かなのだ。
「とまぁ、いつもの風景ですよねー」
まぁ、いい笑顔でさらりとのたまう少軒さん。
爺ちゃん婆ちゃんの関係性に照らせば・・・ああ、すごく納得出来てしまう。
体調のいいときの婆ちゃんがこんな感じだ。
「元々、孟忠さんと、こほん…子敬さんは仕事柄、顔を合わす機会が多かったんですよ。
それで一気に親密になって、お嬢様の味方になってくれる方ということで、私やお嬢様も誼を結んだわけですね~。
まぁ、お嬢様は子敬さんに一気に懐いてしまって、私としては少し寂しくもあるのですが・・・」
「それまでは私は、商人衆や豪族の中でも、取り纏め役という立ち位置から、
どの役人の方とも、特別に親しくなっていたわけではありませんでしたので」
「さてさて、さくっと続きです。伯符さんとかはもう御存知と思いますが、
お嬢様の下についている家臣団は殆ど先代からの古狸さんばかりで、甘い汁を吸ってばかりで、
まぁ、言ってしまえば、すっごくお荷物集団なわけですね~。
幼い純粋無垢で頭の足りない阿呆なお嬢様を御輿として、好き勝手やっているわけです。悪評とかは全部お嬢様に被せて・・・」
けらけら笑いながら、軽い調子でいう少軒さんだが、その口調の裏には黒い感情が渦巻いている。
しかし、しっかり公路さんを褒め蔑むことも忘れない辺りが、彼女も相当残念というか。
「わはは! 褒められ・・・てない気がするのは何故かのう?」
怪訝そうな顔をする公路さんを、子敬さんが苦笑いしつつ宥めるのを見やりながら、少軒さんは楽しそうに言葉を続ける。
「数が多すぎるので、私一人じゃ下手に手を出せないというのもあったんですが・・・正直、本当に鬱陶しかったんですよね。
ただ、そこに、あの腐れ狸たちとも程よい関係を持っていて、意図する情報を流せる子敬さんや、
近衛軍を束ねる孟忠さんが加勢してくれる情勢で、北郷さんが南下してくると聞いて~動いちゃいました♪」
「?…動いた、というのは?」
「民衆の反乱ですよぉ♪ そろそろ、城門の外や内で暴れ始める頃だと思いますよ~。
ちょうどいい御輿もいましたし、私や美羽さまも子敬さんに会いに行く名目で、さっさと避難出来ましたし」
圧政に耐えかねた民衆反乱を誘発した…!? が、鎮圧できる軍の統率をする孟忠さんはここにいるんだぞ?
「…街が普段以上に活気が無く、静まりかえっていたのは、そういうわけか」
「そういうわけですよぉ、公謹さん。反乱している皆さんにお嬢様が本日こっちに来ていることなんて、もちろん漏れてませんし、
幸い、子敬さんの家は郊外にあり、屋敷の周りを固めるのは、孟忠さん率いる精鋭の近衛軍ですから♪
おまけに、北郷さんの周りにいる女性武将さんたちの力をお借りできれば、より万全ですよね~」
「…屋敷に暴徒と化した連中が向かってきたら、対抗せざるを得ないから、ということ?
だけど、その話を聞いた俺たちが逃げ出すという選択肢は無かったのかな?
このぐらいの包囲網なら、正直破ることは容易いんだけどな」
愛紗に華琳、雪蓮に冥琳、貂蝉がいる。華佗も自分の身は十分に守れる奴だ。
軍師勢の皆を守りながらでも、十分に突破は可能といえる。
確かに子敬さんの力は必要と言えど、華琳の身の危険を天秤にかける基準など、俺には、無い。
「そこで・・・もう一つだけ話をさせてくれ。
俺や悠梨がこんな反則的な知識を得た理由にもなると思っているんだが、
この大陸の各地で流星が流れ、天の御遣いが降り立ったという風評が飛び交っているって、知っていたかい?」
「…各地、でだって?」
「天の世界の言葉を借りるなら、『御遣いのバーゲンセール』状態が大陸に起こってるんだよ。
俺たちが確認できているだけでも、涼州に陳留、天水近辺に、河北の本初さまの所にも。
幽州にもって話だが、ここは情報が錯綜していて、ハッキリしない。それに、各諸侯に取りこまれたかどうかまでは判らん。
洛陽でも目撃談があるぐらいだから、ひょっとすると帝の周辺にも降り立っているかもしれない。
ちなみにこの寿春にも『北郷一刀』は降り立っている」
「なっ!?」
「ただ、この地に降り立った偽物さんは、不遜にもお嬢様に手を出そうとしましたので~。
私としては八つ裂きにしてやりたかったのですが、孟忠さんや子敬さんの進言もあって、
鞭打ちの刑に処した後、放逐したんですよね~。
情報操作させて頂いたお陰で、目論見通り、反乱軍の指導者に収まってくれていますが」
衝撃の事実の羅列に、逆にこうなると頭が冷えるというか。
俺は静かに瞳を閉じ、即座に通信用の式神を懐で握りしめた。
『…于吉、聞こえるか。こっちの話、聞いてただろ?』
『気付かれないように微弱な力にしておいたのですが…これはなかなか』
『微かに氣のような力が通ったのが判ったよ。
華佗に氣脈の拡張をしてもらってから、その辺りは今までより敏感に感じられるようになってる。
さて、それよりも。そちらには『俺』は降り立っていたのかい?』
『…ええ。情報統制は私の方で引きましたが。
どうにも、ご老人たちの介入で、さまざまな外史の貴方が放りこまれているようですね。
広がり過ぎた外史の統合目的でしょうが…。北郷一刀は北郷一刀を以て制す、確かに有効なやり方だとは思いましたよ。
こっちの北郷さんは、現在、公孫賛配下の一文官として働いていますので、すぐに大きな影響を及ぼすことは無いかと』
『…星たちはなにか言っていた?』
『外見や雰囲気は瓜二つでも、瞳に映る意志や覚悟に雲泥の差があり、見誤ることは無い、と。
玄徳どのには、未来知識で盗めるところは盗め、と助言したようです。ま、外史の経験による個人差はあってしかるべきでしょう。
左慈がとりあえず殺そうとするので、止めるのが一苦労ですね』
『幽州の俺はしばらく静観、か。左慈の件は、えっと、うん、頑張って? あ、本初さんの所にも降りたみたいだから、要注意で。
こっちにも降りてるみたいだけど、なんというか俺の駄目っぽいところが抽出されてるみたいで、今からお仕置きするつもり』
『…排除されますか?』
『会って話してから考えるよ。それが俺のやり方だし』
『承知しました。何かあればこちらからも連絡します』
『宜しく。じゃあ式神の氣は遮断させてもらうので、それじゃ』
念話で伝えると同時に、于吉の妖力を吹き飛ばす為、式神に一気に俺の氣を流し込む。
バシュッ!…と炸裂音にも似た音を立てて、式神はただの人形へとひとまず戻った。
瞳を開けると、皆それぞれの表情をしている。納得顔、驚き顔、獰猛な獣の顔つきの人…ん?
なんで雪蓮は、戦場に立つ時のような目つきになっているのだろうか。
「かぁ~ずと~♪ いつの間にそんな鋭い氣を操れるようになったのかしら~。
ねぇ、ちょっと死合いましょうよ、私うずうずして来ちゃったぁ…」
え!? ここに反応するの!? …け、軽率だったか…。
「仕合の文字が絶対に違うよね? というか、どう見ても俺死ぬ気が…つーか、お願いだから空気読んで!?」
「ご主人様に危害を加えるというなら、雪蓮どのといえど容赦はせん!」
前に南海覇王を抜き放っている雪蓮に、後ろに青龍偃月刀を構え、一戦も辞さずという構えの愛紗。
二人の覇気に充てられてか、「ピィィィィィ!」と小鳥のような悲鳴を上げながら、公路さんは激しく痙攣してるし…。
華琳は…ああ、どう切り抜けるのか興味津々といった顔で、冥琳は胃の辺りを抑えて痛みを堪えてる。
少軒さんも、子敬さんと一緒に公路さんを庇いながら、お手並み拝見って顔つきだ。
…あぁ、もう! 俺は猛獣使いでも何でもないんだぞ!
「はっ!」
一気に気脈解放。
この庭園にいる皆を覆えるぐらいに一気に氣を拡散させ、特に雪蓮、愛紗、公路さんの辺りに多めに氣を振り分ける。
氣の総量だけは出鱈目に多いと言われるだけあって、それでもまだ余裕があるのがありがたい。ただ、長時間はもたないだろうけど。
道中で連戦後の夜明けとかにこっそり練習していた甲斐もあったようだ。
ただ、これを攻めに向けるのはどうにも致命的に下手らしい。
何度も試したけど、広範囲への攻撃の意図を持たせようとすると、すぐに霧散してしまうんだよな。
「なにか…暖かい、のじゃ…昔、そう、ととさまに抱き締められた時の、あの感じ…。
それに空気が薄っすら蜂蜜色に輝いているのじゃ…」
「…もう、こんな優しく包み込まれたら、これ以上突っかかれないじゃない…ズルいわよ、一刀」
「なんと、不思議な感覚…ご主人様に直接触れてもいないのに、優しく抱きしめられているような…」
うん、氣の量がいくら多いとしても、華琳みたいな畏怖を伴う覇気は持っていない俺としては、
こういうやり方しかないかなと考えていた。
「ふふ、一刀の氣に抱擁されるのもいいものでしょ。
これで直接腕の中にいたりすると、ある種の桃源郷みたいな気分が味わえるわよ」
試行段階でいろいろ実験台になってくれた華琳にも本当に感謝である。
加減を間違えると、体内に侵入されているような錯覚を覚えて、気持ち悪くなるって言っていたし。
敵対相手の動きを鈍らせるには有効かも…と助言をもらえている。いずれ使うこともあるだろう。
とにもかくにも。険悪な一触即発の状況は脱せたようだ。
「黄金色の王の氣…ご主人様、すごいでしゅ!」
安定して噛んでくれる朱里にも、ある意味感謝。日常って奴を取り戻させてくれる。
「これは…! 全く、どこまでも期待を超えてくれるものだ…これは本気で王に仕立て上げたくなるな、ふふふ」
なぜか感心しきりの冥琳だが、不穏なことを言ってないか…?
「やっぱりお兄さんは風の掲げる日輪ですね~。ふふふ、なんだか嬉しくなるのです」
「さすが一刀さまです…我が王たるお方…」
風は嬉しさの中に何故か得意げな色が混じり、愛理は溶けてしまっている…おーい、人前だぞー。
貂蝉は頬を染めながらくねくねしてるし、華佗はなんだか満足げだ。
「大気も薄く黄金色になっていますし、これは不思議な感覚ですね~。ね、子敬さん~」
「…ええ。こんな優しい『氣』があるだなんて。まるで生娘のように、心が弾むよう」
「おいおい、悠梨。本気になるのはごめんだぜ」
「大丈夫ですよ、孟忠。私はもう『生娘』ではありませんし、政子さんの意識もありますから。
ただ、少軒はまずいかもしれませんね」
「だ、大丈夫ですよぉ~。お嬢様一筋の私がこの程度で…」
「ふふ、隠し切れていませんよ。『七乃』。顔や仕草に出ています」
そう言いながら、ほんのり頬が赤い少軒さんの真名を俺達の前で初めて呼び、
彼女のおでこを優しく指でツンと突付いた、子敬さんのその仕草は。
「…そっくりだよ、婆ちゃん」
調子に乗った少年期の俺を叱る時の婆ちゃんの姿に重なって。
子敬さんと孟忠さんが、この世界での俺の祖父母の生き写しみたいな状態なんだってことが、
理屈じゃなく、そうなんだって、飲み込めていたんだ。
俺の分身が旗印となり、城外城下で民たちの一斉蜂起が起こり、悪徳官僚共を駆逐しながら、公路さんを探し始めた頃。
俺は鎮圧に乗り出す旨を公路さん達に告げ、身支度を手早くまとめ、
門の外で屋敷に近づいてくる『黄』と『程』の旗印を待っていた。
少軒さんの指示で既に、寿春近郊の山賊掃討に当っていた、祭さんと程徳謀さんの部隊がこちらに合流する手はずになっていたのだ。
「手際のいいことだね、少軒さん。実際、前の記憶、あるんだろ」
俺や華琳が纏うは、白く光を反射する正装。愛紗や雪蓮も既に戦支度を終えている。
隠密部隊は義封さんに任せたのか、明命も姿を見せていた。
冥琳以外の軍師勢や、公路さんや子敬さんは屋敷内で待機。貂蝉に護衛を依頼済だ。
屋敷外は変わらず、孟忠さんが固めてくれている。
支度前に、子敬さんに一点気にかかることがあったので、手早く確認を済ませている。
これで鎮圧への道筋は変えずに行ける見通しも立った。
「何を断定してらっしゃるかは判りませんが、記憶って何の事ですか~?」
「そうじゃなきゃ、貴女は孟忠さんや子敬さんを信じられなかったと思うから。
かつて、自分以外に公路さんを護れる者がいない世界で、人を見る目を徹底的に磨き上げていたであろう貴女が、
何の根拠無しに、普通に聞けば世迷言と思えるような二人の言を取り入れるはずが無い」
「…そして?」
「その根拠がかつての『北郷一刀』を知っていたとすれば、ある程度腑に落ちる、かな」
「天の御遣いで孫呉の大都督、かつ呉の姫や武将さんたち全員の夫となった北郷さんを、ですか~?」
「…人が悪いね~、少軒さん。俺も人のことは言えないけど」
「ええ~。やっぱり北郷さんに近しい存在の方の傍だと、ご本人さんがいなくても、ある程度呼び戻されるものがあるようで…。
あー、お嬢様と旅を続けている中でも、北郷さんのことは風評で伝わってきてましたよ?
それで、『悠梨』さんたちの知識を加えれば、ふふふ…今回の『一刀』さんなら、
お嬢様を御輿に使う事も考えるかな~ぐらいは考えちゃいました」
「孟忠さんたちの知識ってその辺まで及んでたんだ…というか、真名もやはり交わしていたんだね」
「はい~。最後の直接会っての見極めまでは、と思いましたから」
「で、少軒さんの、お眼鏡には叶ったのかな?」
「これからは『七乃』でいいですよ、『一刀』さん。その代わり、お嬢様も含めて、護り切って頂きますから~」
「…謹んで預からせてもらうよ。さて、祭さんたちを出迎えて、『取り込み』に向かうとしようか」
監査役として、張少軒、もとい…七乃さんは同行するとのことだった。
ここまで手はずを整えてもらったのなら、さて、俺も結果を出さないとね…。
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前回のあらすじ:魯子敬宅に訪れる前に袁家に翻弄される一行であった。
人物名鑑:http://www.tinami.com/view/260237
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