No.318555

真恋姫無双 華琳の兄

mirokuさん

二話目です。

皆さんコメントありがとうございました。
そして皆さんのコメントを見ていて気付きました。

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2011-10-15 08:12:58 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:6445   閲覧ユーザー数:5693

【蒼天すでに死す、黄天立つべし】

 

 

机上にはそう書かれた一枚の布が置いてあり、それを如何にも興味なさそうな目で曹栄は眺めていた。

 

 

「曹栄殿。野営の準備完了いたしました」

 

「ん。御苦労。休んでいいぞ、皇甫嵩殿」

 

 

そう言われると皇甫嵩は大きな溜息を吐くと近くにあった席に腰をおろした。

 

 

「蒼天すでに死す……ですか」

 

「……中々的は得ている。後半は酷いがな」

 

 

茶を啜りながらそう答えると皇甫嵩は「確かに」と呟き苦笑いを浮かべた。

 

 

「だがコイツらには感謝しないといけない。黄巾族。朝廷……何進。十常侍。悪いが全員俺の手の上で踊って貰う。そして最終的には消えてもらう」

 

「滅多なことを口にするものではありませんぞ、曹栄殿」

 

「関係ない。それにもう手遅れだ。俺たちが黄巾族を滅ぼす頃には全て終わっている」

 

「この戦力でできますかな?」

 

 

量るような感じで聞いてくる皇甫嵩を感じとると曹栄はふと笑みを浮かべ席をたった。

 

 

「確かに俺たちだけでは難しいだろう。できたとしても多大な損害を出すのも確か」

 

「なら諸国に代わりに血を流して貰えばいい。と言ったところですかな?」

 

「正解。アイツらも黄巾族には頭を悩ませてるはず。見返りはくれてやる。好きなだけ。血を流した分な」

 

 

その血が味方でも敵でも構わない。そんな意味を含ませて笑うと皇甫嵩は思わず冷汗をかいた。

 

巷では天の御遣いなどと噂されている本人が、血を流した分だけ見返りをやると言っている。

 

誰がそんな馬鹿な噂を流したのだろう……あ、私たちだ。

 

 

「フフッ、怯えているな。後悔しているな?皇甫嵩殿」

 

「……ぐっ」

 

「安心しろ。ああは言ったが俺だって人間だ。味方は最低限の被害で済むように尽力する。無論これから集まる諸国の奴らもだ。誰だって血は流したくない。痛いからな」

 

「それならよいのですが……」

 

 

どこか不安そうに答えると曹栄は楽しそうに笑みを浮かべた。

 

相手にどこまで本気に、どこまで冗談に、そう思わせからかうのは楽しい、そう感じているからだろう。

 

 

「さて、どこが最初に来るか。こういうのは結構重要だ。早い者勝ちという訳ではないが、早いにこしたことはない。少なくとも俺の中では印象に深く残る」

 

「……自信有り気ですな。曹栄殿」

 

 

そう皇甫嵩が尋ねると曹栄は当然と言った感じで茶を啜る。

 

それとほぼ同時に一人の兵士が天幕に入ってきた。

 

 

「申し上げます!」

 

 

報告しにきた兵に目を向け掌で続けるように促すと言葉を続ける。

 

 

「東方より無数の軍勢を確認!旗印からすると陳留の刺史曹操の軍勢かと!」

 

 

それを聞くと皇甫嵩は、「ほぉ」と関心したかのように息をもらし。

 

逆に曹栄はどこか不満そうに報告を受け、報告した兵に下がるように命をくだした。

 

 

「ふむ、流石曹栄殿の妹君と言ったところですかな?」

 

「気にいらない。他の奴らは何をしているんだ……」

 

「腹をくくりなさい、曹栄殿。いくら会いたくないからと言って格好つけても無駄です」

 

「ぐっ……別に会いたくない訳じゃない。会うのは久々だし……たが出来れば会いたくない」

 

 

跪いたら許してくれるのだろうか?いや、そんなことで許してくれるはずがない。

 

寧ろさらに怒りを買うだけ。此方の方が身分は上なんだ、軽々しく頭を下げるなと。

 

そんな曹栄の様子を見て皇甫嵩は心の中でひそかに笑う。

 

先程まであれだけ威厳のあった姿が一人の親族、妹、恋人にこのざまなのだから。

 

 

「仕方ない。皇甫嵩殿代わりに言ってきて労ってきてくれ。……必要なら連れて来てくれ」

 

「フフッ、御意。ご武運を……曹栄殿」

 

 

そう言い天幕から立ち去る皇甫嵩を見て曹栄は心の底で思う。

 

笑えねえ……と。

 

 

 

 

久しぶりだ。この日を、この日をどんなに待ち望んだことか。

 

春蘭たちに兵に駐屯の準備を任せ、秋蘭に桂花を連れ、曹操こと華琳は兄の陣中に訪れていた。

 

曹栄に、兄に会えることを楽しみにしながらも華琳は陣中に目を配る。

 

 

「約三万。それより少し少ないかしら?これが朝廷の討伐軍の本軍と言うのだから笑えるわね」

 

「しかし、兵たちの目付きはいいです。練度も我らの軍にひけをとらないでしょう」

 

「そんなの当然よ。私の兄よ。これくらい当然。だからこそ物足りないのよ」

 

「ただでさえ少ない討伐軍を来る途中で三分したそうですから仕方ないでしょう」

 

「完全に私たち諸侯を当てにしているわね。見なさい。兵の数に比べて軍事物資が異様に多いわ」

 

「確かに。おそらく必要な分だけ我ら諸国に与えるつもりなのでしょう」

 

「貰える物は貰っておくわ。いくらあっても困るものじゃないしね」

 

 

華琳と秋蘭がそれぞれの考察を述べあってる。

 

そんな中桂花は気にいらなそうに陣中を観察していた。

 

桂花の様子に華琳も秋蘭も気付いてはいたが、気にしないでいた。

 

 

「おお!居た居た。曹操殿!」

 

 

華琳が声のする方を振り向くと皇甫嵩が此方を向き自分の名を呼んできていた。

 

皇甫嵩とは初見で無く、何度か面識がある。

 

気付いた華琳は慌てて頭を下げようとするが皇甫嵩に手で制止される。

 

 

「よいよい、そのままで。お久しぶりです。曹操殿」

 

「此方こそ。お久しぶりです。皇甫嵩殿」

 

 

互いに軽く頭を下げ挨拶をする。

 

軽いという表現が正しいかは分からないが、軽く挨拶をすますとふと笑う。

 

 

「半年ぶりでしょうか?いやはや大変お美しくなられた」

 

「半年と……少々……ですね」

 

 

少々。そこをやや強く言う華琳を見て皇甫嵩は華琳の心中を悟った。

 

それと同時に曹栄の身を少しだけ案じた。

 

 

「それと後半は兄に頼まれて世辞を言い、機嫌をとるように言われましたか?」

 

「いやいやそんなことない。これは私の素直な感想です」

 

 

小声で聞いてくる華琳に穏やかに返す皇甫嵩だったが心中はそれほどでもなかった。

 

長年の経験からこれは相当キテると悟った。

 

早めに会わせ済ませた方がいい。そう思い一気に話を進める。

 

 

「それよりどうですかな、もう半年近くお会いしていないのでしょう?お顔をお見せになっては?」

 

「……是非」

 

 

是非。そう答えた華琳の冷たい声に思わず恐怖し、流石に不味いと悟り秋蘭と桂花に目線を移す。

 

 

「(お二人方、いざとなったらとめてください)」

 

「(……承知致しました)」

 

 

自信はない。そう思いながらも陣中で血を流す訳にはいかない。そう思い秋蘭が目線で返事を返す。

 

桂花は何も返さなかったが秋蘭を見て、ほっとしたように息をつく。

 

 

「それでは此方にどうぞ。曹操殿。お二人方もどうぞ」

 

「はっ。秋蘭、桂花。着いてきなさい」

 

 

華琳がそう言うと二人も返事を返し華琳の後に続く。

 

様々な思いがそれぞれの中を交錯する中、皇甫嵩は心の中で意思を固めていた。

 

会わせたらすぐ場を去ろう。それが一番だと。

 

 

 

 

曹栄は焦っていた。

 

後もう少しで華琳が俺に会いに来る。

 

そう思うと背中から冷たいものが止まらなかった。

 

どうすれば許してくれるだろうか、どうすれば納得してくれるだろうか?

 

そんなことを考え初めてからもう幾分か時が経った。

 

結果あまりいい考えは浮かばなかった。

 

 

「(素直に謝ろう。それで駄目なら諦めよう)」

 

 

そう、それが一番だ。辺に機嫌をとろうとしたって華琳には通用しない。

 

誠意を見せ、心の底から謝ろう。それで駄目なら……別れよう。

 

ただそれを言うのは向こうが切り出したらだ。此方からは絶対に持ちかけない。

 

何故?

 

そんなこと決まってる。それは嫌だから。アイツが好きだから。それ以外に何もない。

 

 

「曹栄殿。陳留の刺史曹操殿がお見えになりました」

 

 

来たか。

 

皇甫嵩の声を聞き覚悟を決める。というか半分ヤケだ。

 

まあ、会いに来てくれただけ見捨てられてはいないのだろう。

 

 

「通していいぞ、皇甫嵩殿」

 

「はっ!それと軍の見周りがあるので私は失礼させていただきます」

 

 

逃げやがったな、あの野郎。

 

呼びとめようとしたが、既に皇甫嵩の気配は消えていた。

 

 

「失礼します……曹栄殿」

 

 

思わず息が止まる。

 

天幕を潜るその姿は相変わらず小さく。とても大きかった。

 

「綺麗になったな、華琳」などと声をかけたら間違いなくやられる。言葉を慎重に選びながら地に片膝をつく華琳に話しかける。

 

 

「久しぶりだな、華琳。半年振りか?」

 

「華琳?誰かと勘違い致していませんか?曹栄殿」

 

 

不味い。何が慎重に言葉を選ぶだ。せめて正しい日数だけでも数えておくべきだった。

 

心の中で頭を抱えながらも次の言葉を考えていると秋蘭と一瞬だけ目があった。

 

ただすぐに頸を横に振り地に目を伏せてしまった。

 

分かった。覚悟を決めよう。本当に。

 

 

「俺が悪かった、華琳。だから顔を上げてくれ。そして出来れば抱き締めさせてくれ」

 

「……そんな資格あるとでも?」

 

「頼む。俺だってさみしかった。どんな償いでもする。だから許してくれ」

 

「……駄目よ。やっぱりまだ許せないわ。少なくとも触れさせてはあげないわ」

 

「……そうか」

 

 

少なくとも今回はかなり華琳も本気らしい。分かっていたことだが。

 

昔同じようなことをした時はこの程度で済ましてくれたのだが、そうもいかないようだ。

 

 

「仕方ないな。許してくれるまで諦めよう。おって沙汰をする。下がれ」

 

「……行くわよ。秋蘭、桂花」

 

 

互いに冷めたようにそれだけ言葉を発する。

 

華琳が後ろを向いた時、秋蘭と連れのもう一人が非難のような眼差しをしていた。

 

気に要らないか?もう少し言葉を選べか?

 

猫耳の方は最初ニヤニヤとした感じでいたが、今は違う。おそらく心中は秋蘭と同じだろう。

 

 

「分かったよ。このままじゃまた悲しませてしまう。多少の恥はかこう」

 

「……何を言って……きゃっ!?」

 

 

そう言い終わったと同時に後ろを向いていた華琳に背中から抱きついた。

 

突然の、予想外の出来事だったのだろう。華琳が可愛げな声をあげる。

 

 

「は、離しなさい!!私は許可を与えた覚えはないわよ!!」

 

「いやだ、離さない」

 

 

華琳が抵抗の意味を表すかのように肘を俺の胸に当てたり、足を払い俺からなんとか逃れようとするが決して華琳から手を離さない。

 

時折肘や、足が体の急所に入ったりするが絶対に。寧ろさらに力を込めて抱きしめる。

 

 

「しゅ、秋蘭や桂花も見てるのよ!!らしくないわよ!!こんなことする貴方じゃないでしょう!?」

 

「関係ない。別にいいだろ、恥をかいているのは俺だけだ」

 

 

自分の妹に背中から抱きつく。こんな情けない姿……恥をかくのは俺だけだ。

 

 

「それに寂しかったのは本当だ。ずるいよ、お前は。春蘭に秋蘭だって居た」

 

「だ、だったら会いにくればよかったじゃない!そうすれば私だって………!!ああ、もう離れなさい!!どうせ貴方の計算の内なんでしょう!?」

 

「ははっ、やっぱりばれてる……」

 

 

そうさ、こんなの全て俺の思惑通りだ。

 

ただ普通に謝っても、正面から抱きしめても華琳は絶対許してくれない。

 

一度思いっきり突き放して、華琳を少し後悔させてからじゃないと絶対に許してくれない。

 

 

「もういいわ!今回だけは許してあげるわ!だから早く離れなさい!」

 

「……嫌だ」

 

「………はっ!?」

 

「駄目だ、離したくない。というより離せない。……察してくれ」

 

 

無理だろ。この状況で離す?絶対に無理だ。

 

 

「踏み出すきっかけが欲しかった。お前に冷たくあたれば、きっと秋蘭が非難してくる。そうすれば俺は一歩踏み出せる。現に踏み出せた。だけどやっぱ無理だ」

 

「……どういうこと?」

 

 

察してくれよ。本当に、誰だって分かるだろう?

 

 

「……死ぬ程恥ずかしい。秋蘭と連れに会わせる顔ができるまでもう少しこうさせてくれ」

 

「……はっ?」

 

 

そう言い終わると同時に自分の顔を華琳の背中に埋める。

 

今俺の顔は間違いなく真っ赤に染まっている。その証拠にもの凄く体が熱い。

 

 

「笑いたきゃ笑え。この行為自体もかなり恥ずかしい。だが今顔を上げるよりはマシだ」

 

 

少しだけ視線を上に向けると秋蘭が微笑ましそうに此方を。

 

何か言いたげに詰め寄ろうとする猫耳の口と体を押させ此方を見ていた。

 

 

「もう……馬鹿兄(にぃ)。自業自得よ。でも、それだけじゃないのでしょう?」

 

「あ、ああ。会えて嬉しい。本当に、本当に……」

 

「ええ、私もよ。彗(スイ)兄様」

 

 

こうして俺は華琳に許しを得る代わりに、秋蘭と、後で名前を聞くことになる桂花に生涯最高の恥ずかしい姿をみせることになった。

 

 

 

 

一度背を向け表情が見えないように大きく深呼吸をする。

 

その次に自分の顔を掌で一度覆い、そしてもう一度深呼吸をする。

 

 

「今さら格好つけても遅いわよ?彗兄様」

 

「違いない。だがこんな顔見せたくない」

 

 

華琳の言葉に返事を返し、もう一度深呼吸をし、掌を顔に当てる。

 

顔の熱がすっかりひいたのを確認し、ほっと息を洩らす。

 

 

「よし、大丈夫だ。適当に楽にしてくれ。秋蘭と……「桂花よ」……桂花も楽にしてくれ」

 

「なっ!?アンタ今何て……!!」

 

「桂花。華琳がそう呼べと言ったからそう呼んだ。文句は華琳に言え」

 

 

桂花とは多分真名だろう。

 

おそらく初対面でいきなり真名で呼ばれて動揺、怒りを買ったのだろうが知ったことか。

 

茶を入れる為に桂花から目線を切り、湯呑に茶を注ぐ。

 

 

「なに、不満なら俺のことも真名で呼んで構わない。真名は彗だ。まあ、好きに呼べ」

 

「あんたなんか全身精液男で十分よ!!」

 

「ああ、それでいい。俺はお前を桂花と呼ぶ。はい、お茶。洛陽で一番いいやつだ」

 

「ぐっ……」

 

 

桂花は華琳に助けを求めるかのように視線を向けるが華琳はそれを無視し、茶に手をのばしていた。

 

 

「洛陽で一番ね……民が苦しんでいると言うのにいい身分ね」

 

「そう言いながら飲んでんじゃねーか」

 

「兄様が淹れてくれたお茶だもの。無駄にする訳にはいかないわ」

 

「ああ、そう。秋蘭お前も……あ、悪い。挨拶してなかったな。久し振り。会えて嬉しいよ」

 

「ふむ、私はついでですか?彗様」

 

「華琳の次じゃ不満か?秋蘭」

 

「ふふっ、滅相もありません。私もお会いできて嬉しいです。彗様」

 

「それでいい」

 

 

互いに口元を緩めながら、相手を測るように会話を終えたと同時に茶を差し出す。

 

秋蘭が軽く頭を下げ茶を口にしたのを確認すると最後に桂花に視線を向ける。

 

 

「お前も呑むか?桂花」

 

「だから気易く私の真名を呼ばないでよ!全身精液男が淹れたお茶なんていらないわよ!!」

 

「……少し静かにしろ。外の奴に聞こえる」

 

「はあ!?聞こえたら何か問題……ッ!!」

 

 

瞬間桂花の息が詰まる。

 

理由は明確だ。

 

彗が桂花に向けて、覇気をこれかと言わんばかりに浴びせているからだ。

 

常に華琳の傍に居た桂花からして見ればある程度の免疫はある。

 

誰がそれを持ってしても今の桂花には耐えることができないでいた。

 

桂花の方を見るとぜえぜえと息を乱し、額には汗が滲んでいた。

 

 

「そう、それでいい。公の場では常に俺にその態度をとっておけ。そうすれば長生きできる」

 

 

もう理解しただろう。

 

公の場で俺にそんな態度を取ったら軍律を乱したとして斬る。無論例外はない。

 

 

「お前たちにも言っているんだぞ、華琳。秋蘭。分かっているな?」

 

「フフッ……貴方に私が斬れるかしら。彗兄様」

 

「俺に斬られる覚悟があるなら、斬ってやる。俺の手でな」

 

 

互いに相手を見下すかのような冷笑をすると、二人揃って茶を啜る。

 

その様子を秋蘭はどこか微笑ましく見ていた。

 

例え同じ腹の中から産まれてこなくとも、例え性が異なっていたとしても、この二人は紛うこと無き兄妹だと。

 

 

 

 

「それじゃあ私は帰るわね」

 

「ああ、秋蘭。華琳を頼む。それと春蘭にもよろしく頼む」

 

「心得ました。彗様。お体にお気をつけください」

 

「ん、ありがとう」

 

 

そう華琳と秋蘭に別れの挨拶をすると、華琳たちは陣を去っていった。

 

結局桂花とやらはほとんど会話しなかったな。

 

まあ、男嫌いみたいだし、多少脅したから仕方ない。

 

………それにしても

 

 

「疲れた」

 

 

そう一言だけ発し、椅子に力が抜けたかのように座り、そのまま机に倒れ込む。

 

それと同時に来るのは安堵感。

 

色々あったが何とか丸く収まったと思っていいだろう。そう思わないとやったいけない。

 

 

「それにしても」

 

 

綺麗になっていた。本当に。

 

半年と少し会わないだけでああも人とは成長するものだろうか?

 

それとも会いたかった分だけ会った時に俺が勝手に美化させてしまったのか。

 

 

「まあ、相変わらず背と胸だけは小さいままだったが」

 

「あら、誰のこと?」

 

「ん、そんなの決まって………えっ?」

 

 

倒れていた体を起こし、顔を上げる。

 

すると先程別れを告げたばかりの華琳の姿がそこにあった。

 

 

「……前とは違い、短い別れだったな」

 

「随分余裕ね。それで、先程のことは誰のことだったのかしら?」

 

 

なんだろう、華琳の背後から黒い氣のようなものが見える。幻覚だろうか?

 

 

「……なんで戻ってきたんだ?」

 

 

そう言うと華琳はバンッ!と机を叩き、一枚の手紙を俺に渡した。たいへんお怒りだそうで。

 

さてどうしたものかと思いながらも、特にいい案が思いつかなかったので手紙に手を伸ばした。

 

 

「……これは俺の書いたやつか。宛先は……荀家の……ああ!思いだした。あの猫耳荀家の荀彧か」

 

「ええ、そうよ。これ書いたの貴方で間違いないわね?」

 

「ああ、名門荀家の中で一人抜けてる奴が居たと聞いてな。こっちも人材不足だったから誘いの手紙を書いたんだ。まあ、今の朝廷に見切りをつけたんだろう。返事は返ってこなかったが」

 

 

他にも何人か使えそうな奴に誘いの手紙は書いたが、知恵者はやっぱココがいい。

 

他の奴も今の朝廷に就くくらいなら……と頭が働くんだろう、おかげで大変だが。

 

うん。よく考えたら我ながら無駄なことをしたものだ。

 

 

「ふぅー桂花自身にこの手紙が来た時には既に私のところに居たのよ」

 

「そうか。別にいいさ、俺が目をつけた。そいつが華琳の所に居る。何も問題ないさ」

 

「そう。私もさっき桂花がたまたま手紙を落として知ったのよ。まあ、無意味かも知れないけど一応伝えにきたのよ」

 

「無意味だな。そんなことを言う為に戻って来た訳じゃないんだろう?」

 

 

悪い笑みを浮かべて言うと華琳は少し顔を赤くして下を向く。

 

少しすると決心がついたのか大きく深呼吸をして此方に向き直った。

 

俺には華琳が何故戻ってきたか理解している。

 

まあ、俺だけやって満足しちゃったからな。

 

 

「おいで、華琳」

 

「………んっ」

 

 

両手を広げて声をかけると、両手に収まるように俺に体を預け、頭を胸に埋めてきた。

 

 

「フフッ、そんなに秋蘭や桂花に見られるのが嫌だったか?まあ気持ちは分からないでもないが」

 

「嫌よ。秋蘭はともかく桂花にまでこんな情けない姿見せられないわ」

 

 

顔を埋めたまま両手で華琳が思いっきり抱きしめてくる。

 

俺は片手を華琳の背に伸ばし、もう片方の手で華琳の頭を優しく撫でる。

 

 

「悪いな、華琳。もう少しで全て片付く。そしたら約束通りそれからは華琳の傍にずっと居る」

 

「……ん。期待しすぎないで待ってるわ。すると裏切られた時辛いもの」

 

「……一度失った信用を取り返すのは大変だな。ほら、行け。あまり長居しすぎると不審に思われる」

 

「……分かってるわよ。色々噂は聞いてるわ。あまり無茶しないでね」

 

「俺の台詞だ。お前も無茶しすぎるなよ」

 

「分かっているわよ……」

 

 

そう言い、最後に頭を撫でると少し満足そうに笑顔を見せてくれた。

 

本心はまだ不満だろうが、そろそろ戻らないと本当に不審がられる。

 

それを華琳も察知し、名残惜しそうにしながらも俺の体から離れていった。

 

 

「ん、もういいのか?」

 

「ええ、続きは時間がある時たっぷり相手してもらうわ」

 

 

そういうと華琳は、自らの唇に指を当て妖艶な笑みを浮かべていた。

 

 

「あと、次はないわよ。じゃあね、戦場で」

 

「ああ、期待してるからそのつもりで」

 

 

そう言うと今度こそ本当に華琳が陣を後にした。

 

華琳が去った後、ふと息を吐き椅子に腰をおろした。

 

本当にこれでよかったのか。やはりずっと傍に居るべきだっただろうか。

 

 

「どう思う、皇甫嵩殿」

 

「おや、気付かれていましたか」

 

 

そう言うと天幕の影から皇甫嵩が出てきた。

 

盗み見、盗み聞きとはいい度胸だ。まあ、ずっと居た訳ではないが。

 

 

「冷静に今振り返ると誤った判断だったのかもしれない。華琳とずっと一緒に居る為に選んだ道だが、アイツを見るといつも思う。最初からずっと一緒に居るべきだったんじゃないかと」

 

「お答えしかねます。しかし、後悔すべきではないかと」

 

「……そうだな」

 

 

それでは今まで殺した奴、殺してしまった奴にあまりにも失礼だ。

 

そう頭の中で理解はできているが。やはり難しいものだ。

 

果たして人生を一度も悔いることなく終えることができる人間がいるだろうか?

 

終わりよければ全て良し。

 

俺の頭の中をそんな逃げるような言葉が思わず浮かび、俺は溜息を吐いた。

 

 

 

後書き

 

今週超忙しいです。来週もっと忙しいです。再来週もっとry

 

やっぱノープランは無理がありました。今さらですね(笑)

 

そういや本文にオリ主のこと全然書いてなかった。身なりとか!

 

次話の後書きに書いておきたいね。

 

え?本文でうまく表現しろ?

 

無理無理(笑)できないって、そんなの(笑)

 

とまぁーこんな感じですが許してくだしあ。作者は文才ないんです。

 

では今回はここまで。またお会いできたら嬉しいです。

 

 

追伸。

 

分かった。蜀と呉はやる。董と袁もだ。

 

後は分かるな?

 

 


 
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