夢だ、夢を見た。
目の前に立つのは一人の女性。
百に迫る武装した兵に取り囲まれながらも、その女性は決して倒れなかった。
何度体に剣戟を浴び血を流しても、腕を片方落とすことになっても。
その女性は不気味に笑みを浮かべ、その武装した兵を皆殺しにした後果てた。
「頸は渡さなかったわよ……後は頼むわね……」
満足そうに目を閉じる女性を見届けた後、俺はきまって目を覚ます。
「……時間か」
陽の上がり具合を見て、そう呟き終えると着替えを始める。
それが終わろうとしたところで廊下から速足の足音が聞こえてきた。
「曹栄殿!起きて……なっ!?」
「皇甫嵩殿。その目はなんだ?」
「こ、これは失礼した。まさか、起きているとは万に一つも思っていなかったしだいで・・・」
「貴殿は私に喧嘩を売りにきたのか?」
そんな馬鹿なやり取りをしていると、また足音が聞こえてきた。
「皇甫嵩殿、曹栄殿は起きて……なっ!?」
「どうした朱儁ど……なっ!?」
「もういい。貴殿らの私に対する態度は十二分に理解した」
絶対コイツらコレが終わったら後悔させてやる。絶対の絶対だ。
「ふむ、どうやら何進様が貴殿をこの度の総大将に任じたのは間違いではないようだ」
「くっ……こんな若造に我らが従うなど未だに納得できんが……」
「はは!我ら老人はもうお役御免というところですかな!」
「なっ!?盧植殿!私はまだ貴殿より老いてはおらぬ!」
うん。煩い。大丈夫だよ、お前ら。あと数十年はくたばらねーよ。
「ほら、行くぞ。三人共。着いてこい。俺に着いてこれるのはお前らくらいだ」
『言葉遣い!』
「ぐっ……これだから宮中は嫌なんだ!はやく出るぞ!」
『くくっ……御意』
そそくさに部屋を出ると、後ろの三人が堪えるようについてくる。
柄に合わないか?自分でも分かっているわ。
外に出、外壁を上り見下ろすと数万を軽く超える軍勢が整列を終え、此方を向いていた。
「さて、この者たちの命生かすも殺すも貴方次第。その御覚悟はありますかな?」
「知るか。拒否権はなかった。あまり死なさず連れて帰る。……頼むぞ」
「フフッ、承知。なあ朱儁殿」
「おう!なあ盧植殿」
「うむ!承知した!なあ皇甫嵩殿」
……頼もしい限りじゃねーか。泣けてくるぜ。
がっくりとうなだれるとポンと皇甫嵩が肩を叩いて親指を突き立ていた・・・眩しいな、おい。
「さあ!将兵が言葉を待っていますよ。……御遣い様」
「巷の噂だろ。あの噂流した奴、絶対斬る」
『天より流星とともに現れたる御遣いが、天下に安寧をもたらす』
いつ俺が天から来た?俺は人の子だぞ?ちゃんと母親だって………居た。
別に天の御遣いの噂を流した奴は許す。だが俺が天の御遣いだと惑わせた奴は必ず斬る。
まあ、後ろの三人が本命だが。なんか冷汗かいてるし。
「さ、さあ!早くお言葉を!」
「斬られなく無かったら凛としていろ。いつも通り一言だけだ」
ビクッと動いた三人にほんの一瞬口元を緩ませながらも将兵全員が見渡せる場所へ移動する。
コイツら三人が鍛えた将兵だ。少なくとも馬鹿ではない。
これから何をしにいくか、何をするかは理解している。
右手を横に上げ、終わると同時に一言だけ発生する。
「……征くぞ」
『おおおおおおおおおおおおおおお!!!!』
いい終えると兵士たちの声が木霊する。
それが終わり、右手を降ろすと兵たちが転回し、行進を開始する。
それを確認し、城壁を降りると三人が馬を用意し、待っていた。
「いつも思うが絶対後ろの奴ら声聞こえてないよな」
「でしょうな。まあ酒が飲めればどんな宴会でも構わない。それと一緒でしょう」
なんか違くね?
それと、お前らはそれでいいのか?いいんだろうな。お前らだし。
「それが嫌ならもっと大きな声を出せばいいでしょう」
「かっこつけたい年頃なんだ」
そう言うと後ろから溜息が聞こえてきた。だが、呆れといった感じではなかった。
馬に跨り、兵たちが行進しているのを確認を終えると空を見上げた。
相変わらずこの国の空は淀んでいた。
洛陽を出て、数刻の時が経った。
特に問題なく行軍は進んでいる。この調子なら問題はないだろう。
「皇甫嵩殿。予定通り軍を三つに分ける。北は盧植殿、南は朱儁殿。俺達は東だ」
「それは重々承知していますが、本当に西はいいのですか?」
「西には董卓殿が居る。それに馬騰殿も・・・西の賊には同情する」
「ああ、そうですな」
あの二人が賊如きに後れをとるとは天地がひっくり返っても、思えないし、ありえない。
「しかも董卓殿の所には呂布が居る。アレが居る限り西も董卓殿も安心だ」
「フフッ……」
「……なんだその笑いは?」
「いえ、そういえば董卓殿と真名をこの前交換したと聞きまして……」
「ああ、董卓殿だけでなく、呂布、後他に数人とも真名を交換したが、それが?」
真名とは親しい者同士で相手を呼び合う時に使うもの。
(ちなみに皇甫嵩ら、三人も知っている。仕事中だから使う気はないが)
それが男と女で呼び合うとなると、まあ親族、もしくは恋人くらいだろう。
真名は交換したが、董卓らとそんな関係を俺は望んでないし、持つつもりはない。
例え、それが向こうが望んだとしてもだ。
そう思っていると皇甫嵩が耳元に近づき囁いてくる。
「妹君がこの話を聞いたらどう思いますかな?」
「なっ!?」
「それとも恋人と言い変えた方がよろしいですかね……ねえ、曹栄殿?」
その言葉に体中から嫌な汗が大量に流れてくる。
特段熱い気候がする場所、時期でもないのにだ。
「皇甫嵩殿何故それを私に今尋ねてきますのかな?」
「分かりませんかな、曹栄殿?」
「…………何が望みだ」
「察しがよくて助かります」
総大将を脅すとはいい度胸じゃねーか。
いやだが、アイツにばれたら不味い・・・背に腹は代えられない。
今回の戦だって俺が南方に行く予定だったんだ、なのにアイツが……
「よろしいですかな?曹栄殿」
「ん、まあ言ってみろ」
最高に嫌な予感しかしないけどな。
「朱儁殿、盧植殿からです。兵の配分が少ない。もう少し回してくれ……だそうです」
「なんで直接俺に言ってこねーんだよ」
「いえ、二人に貸しがあるもので……」
「まさかこの前の飲み代のツケのことじゃねーだろうな?」
「……………」
「図星かよ、この馬鹿野郎!」
泣けてくる。本当に選抜はこれでよかったのか、自信が無くなってくる。
「……三千ずつ」
「はい?」
「それが限界だ。俺が調整しとくから伝えて来い」
「……感謝します」
そう言うと去っていく皇甫嵩の後ろ姿を見送り溜息を吐く。
分かっている。明らかに不足していることも、苦労していることも。
百万を超えると言われている黄巾族を相手此方は十万に届くか届かない兵力。
それをさらに三分にしないといけない。
「頭が痛い。伸し上がるなら今しかないぞ、華琳」
それに乗り遅れるような馬鹿な妹でも、………女でもないのは確かだが。
『いい?月に一度は必ず私の前に顔を出すこと……いいわね?』
『ああ、必ず守るよ』
「………最後に会ったのはいつだったかな」
少なくともその約束は守っていない。それは確かだ。
会った時のことを想像し、思わず溜め息を吐いた。
半年だ。最低でも半年。それ以上の時が経っているのは確実。
金髪の少女が馬に跨りながら心の中で呟いていた。
何が、月に一度は会いに来るよ。楽しみにしていても毎回毎回来るのは断りの文。
少女の後ろには数多くの将兵が続いていた。
だが、皆どこか顔色が悪く、息を乱し今にも倒れそうにしている者も居た。
皆この少女の覇気、いや、殺気にやられているのだ。
「か、華琳様……どうかお気を鎮めくださ……」
黒髪の身分が高そうな女性が恐る恐ると言った感じで話しかけるが、最後まで言葉を出すことはできなかった。
その様子をやれやれと言った感じで見ていた水色の髪の女性が代わりに話しかける。
「華琳様、お気持ちは分かりますがどうかお気を鎮めください」
でないと兵たちにも影響がでる。そう付け加えると少しずつ気が鎮まってきた。
「ふぅ……そうね。ありがとう、春蘭。秋蘭」
笑顔で振り返る主を見て二人は一安心する。だが、少女が振り返った所で溜息を吐く。
何故ならこういったやり取りは既に何度も行われているからだ。
二人の溜息の理由がとって分かる。
「なあ、曹栄殿は大丈夫だろうか?」
「……どうだろうか?華琳様の扱いには慣れているが、流石に今回ばかりは……」
先のやり取りを想像し、また二人合わせて溜息を吐いていると猫耳の頭巾を被った少女が話に入ってくる。
「ねえアンタたち、少し聞いてもいいかしら?」
「むっ?なんだ、桂花?」
桂花と呼ばれた少女は、どこか苦々しい顔で口を開く。
「アンタたち二人、華琳様の『兄』とやらとは幼少の頃から付き合いがあるのでしょう?」
『うむ』
やたらと『兄』という言葉を強調する桂花に二人は桂花の意中を悟ったが何も言わずに揃って返事だけ返した。
「アンタたち二人。それに華琳様から色々聞かせてもらったけど、男にしてはマトモな方な人物なんでしょう?貴方たち二人は華琳様の『兄』に真名を預けたのでしょう?でも貴方たちは教えてもらえなかったの?」
桂花は二人が華琳の兄の真名を呼ばずにいたのを不審と思ったのだろう。
桂花の言うとおり二人とも曹栄には自分たちの真名を授けている。だからこそだろう。
「ああ、それか」
桂花の意中を察した秋蘭は納得し、その理由を言う。
「まず桂花に言っておくことがある。曹栄とはあの方が考えた名・・・まあ、偽名だ」
「………はっ?」
秋蘭のその言葉に桂花は間の抜けた声が出る。
「ちょ、ちょっと待って!?曹栄ってアレでしょ!?宮中では実質一番の実力者で民たちからは天の御遣いと呼ばれてたりする人でしょ!?」
「うむ、それと華琳様の兄だ。と言ってもそれを知っているのも親しい者だけだがな」
「そんなことはどうでもいいわよ!ならなに!?華琳様の『兄』とやらは民全員騙しているの!?」
「そんなことと言うなら、あの御方は帝に謁見した時も曹栄と名乗ったようだぞ」
「………いかれてるわ」
民だけならまだしも、いや、それも問題だが帝まで騙しているのだ。
ばれたらただでは済まない。それこそ華琳様までにも飛び火が・・・・・
「そんな失態犯すような御方ではないよ。頭もキレるし、腕も立つ。それは桂花も知っているだろう?」
「うっ……」
曹栄という人物のことは桂花もある程度知っている。
宮中で突如頭角を現し、十常侍、何進と言った人物らと同等の地位を築いた人物。
しかも十常侍や何進らと違い自らの実力でのし上がってきた。
政では斬新な法案をいくつも提唱し、武においても数々の戦果をあげている。
しかし、それだと十常侍や何進に妬まれ出世することは容易ではない。
それでもあそこまで伸し上がれたのは無視できない実績、それと人付合いだろう。
十常侍と何進が対立しているのに対し、曹栄は両方とも今でも友好な関係を気付いている。
曹栄を手中に収めた者が宮中を制す。
知恵者の中では十常侍と何進、曹栄を味方につけた方が勝つとまで言われている。
簡単な話今や時の人。その名が偽名と言うのだから桂花が「いかれてる」と表現したのも頷ける。
「で、なんで偽名なんて使っているのよ?」
やや今の話を聞いて疲労の色を見せる桂花だったが、核心を尋ねてくる。
「偽名を使わなければならない理由なんて限られているだろう?」
「……そういうこと」
秋蘭の話を聞いて合点がいったのだろう。桂花自身も一つ心当たりがある。
桂花が納得すると春蘭が秋蘭の肩を叩いてきた。
どうやらまた主君の機嫌が悪くなったらしい。
秋蘭が桂花に視線を向けると桂花は無言で頷いた。
「華琳様の兄……ね」
そこだけは認めよう。だがそこまでだ。
「……まあいいわ。ただアレだけは認めないわ!華琳様の恋人なんて絶対!」
そう拳を握りしめる右手には曹栄と書かれた文が握られていた。
後書き。
特にありません(笑)
久し振り真恋姫無双をやって書きたくなったので書いてみました。
ちなみにやったのは真恋姫無双までです。
長編か単編になるかは分かりませんが間違いなく投稿は不定期になると思われます。
それでもよろしければ見てやってください。
所々誤字脱字あるいは意味不明な表現があるかもしれませんがそこは御愛嬌といったところで(笑)
それでは今日はこの辺で。またお会いできたら嬉しいです。
追伸
魏が一番好き。
華琳が一番好き。
後は分かるな?
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真恋姫無双の二次創作です。
ノープランです。
タイトル通りです。
もしよかったらみてくだしあ