No.326932

真恋姫無双 華琳の兄

mirokuさん

三話目です。
何週間ぶりですかね?
相変わらず中身は白身だけですがよかったら見てくだしあ。

遅れた理由はなにかそれらしいことを次までに考えておくので許して下さい。

続きを表示

2011-10-31 00:49:46 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:5181   閲覧ユーザー数:4466

 

俺がこの地に留まってから早三日が経った。

 

都を出る時に俺がこの辺りに駐屯するという噂は既に立てておいたのも効果があったのだろう。

 

連日、名のある諸国の者共らが陣に駆けつけてくる。

 

最初三万弱だった軍勢は二十万に迫る数まで集まっていた。

 

これだけの兵が集まったと言うのに、俺の心は全くもって穏やかではなかった。

 

―――――その訳は

 

 

「おーほっほっほほほほほ!!」

 

 

天幕内に響き渡る甲高いやかましい声。

 

こんな奴俺は知らん。少なくとも知り合いだとは微塵も思われたくない。

 

 

「お久しぶりですね。曹栄さん、お会え出来て嬉しいですわ」

 

「ああ、俺もだよ。袁紹殿」

 

 

出来るだけ自然に、胸の中に殺意を隠しながらニッコリと笑みを返す。

 

そう言うと袁紹は満足そうに甲高い笑い声をあげた。……うぜえ。

 

今俺は諸侯らを集めて黄巾族を倒す為の軍議を行う為、皆を招いた。当然華琳も居る。

 

皆顔には出さぬが、袁紹の方を見て嫌そうな顔をしている。……本人は気付いてない。

 

 

「安心してください!曹栄さん!私にかかれば黄巾族の十万や、百万。居ないのも当然ですわ!」

 

「流石は袁紹殿。心強い限りです」

 

 

会議が進まない……皇甫嵩の方をチラッと見たが完全に無視された。

 

いっそ、斬ってしまおうか。多分今なら皆口裏を合わせてくれると思う。

 

 

「麗羽。いい加減になさい。会議がまったく進まないわ」

 

 

そんな物騒な考えを浮かべていると華琳が止めに入ってくれた。

 

持つべきものは優秀で兄思いの妹と言ったところだろう。

 

 

「あら、華琳さん。居ましたの?小さくて気付きませんでしたわ」

 

「……いいから座りなさい。皆それを望んでいるわ」

 

 

華琳と袁紹は幼少からの付き合いである。

 

それを華琳は多少鬱陶しいと思ってはいるが、アイツにとっては・・・まあ、数少ない友人だろう。

 

ちなみに俺もアイツのことはよく知っている。真名も昔聞いた。それで呼ぶ気は微塵もないが。

 

そして俺のこともよく知っている。それが厄介でもあるのだ。

 

 

「あら、随分良い子ですのね、華琳さん。やっぱり大切な兄……」

 

 

そう言いかけて思わず袁紹の言葉が止まる。

 

袁紹だけではない。全員が思わず俺の方の方を向き、中には顔を青ざめてる者も居る。

 

 

「あっ!!し、失礼しましたわ。そ、曹栄さん」

 

 

袁紹が慌てたように俺に謝り、すぐに席に座る。

 

それを見て俺は小さく息を吐くと、袁紹を一瞥し、立ち上がる。

 

 

(次はない)

 

 

そんな意味をのせて。

 

 

「では、始めましょうか。時間もおしています。行軍でお疲れの御方もいましょう。手短に」

 

 

 

ゴクリと、周りの諸国たちが息を呑む。

 

先程、袁紹に対し手を出すわけでも、言葉を出すわけでもなく黙らした時と違い、とても穏やかな表情をみせていたからだろう。

 

あの噂は本当であったか。

 

諸侯たちの頭の中に一つの噂が浮かぶ。

 

少し前曹栄が主となって、他の地域で同じような集まりがあった。

 

その時一人の諸侯が曹栄が若いのを見て、曹栄自身に文句を言うよな発言をした。

 

最初は聞き流していた曹栄だったが、軍議が始まっても黙らないのを見て曹栄は一度だけ言った。

 

 

『最初で最後だ。黙れ』

 

 

曹栄の言い方にも問題があったのだろう。その言葉に一人の諸侯が怒り、手に剣をかけた瞬間だった。

 

諸侯の頸は地に落ち、その前には諸侯の血が塗られた剣を持つ曹栄の姿があった。

 

斬った後、曹栄は懐から一握りの金を集まった諸侯らに見せて言った。

 

 

『これだけの金で俺は不問になる。つまり諸侯らはこれだけの価値しかないと言うことだ』

 

 

事実曹栄がそのことで罪に問われることはなかった。

 

上に一握りの金を渡しただけで。

 

 

皆ただの噂だと思った。

 

参陣し、曹栄に挨拶した時曹栄は此方を笑顔で労ってくれた。

 

だが、この瞬間皆は確信した。

 

噂は本当であったのだと。

 

頬を緩ませ喋る曹栄を見て、諸侯らは心の中で曹栄に恐怖した。

 

そんな中曹栄の心中はほっとしていた。

 

どうやら、麗羽の発言に何かを感じとったやつはいないだろう。

 

うまいこと昔やった噂がいい所で効いたらしい。

 

………ただ一人を除いては。

 

僅かだが、ほんの一瞬だったが俺を見、すぐに華琳に目を向けた震える袁術の隣に腰かけてる女。

 

 

(……江東の小覇王、孫伯符か。さて……)

 

 

どう片づけてしまおうか。

 

軍議の進行を進めながらも、俺は密かに孫策を亡き者にする手段を考えていた。

 

 

 

軍議は円滑に進んでいる。

 

皆が俺の言葉を真剣に耳に入れ、そして何事にも反論することなく順調に進んでいく。

 

まあ、反論する余地がない。そして反論する勇気がないだからだろう。

 

だからこそ、頭の中には余裕がある。

 

悩ましい。出来れば向こうから俺に斬る理由を作ってくれるとありがたいんだが。

 

 

「はーい」

 

 

お気楽な感じの声が天幕の中に渡る。声のする方に目線を向けると一人の女が手を挙げていた。

 

有難い。そっちから来てくれるとはな、孫策。

 

 

「お、おい孫策」

 

 

隣で喚いているのは袁術だろう。狼狽している。

 

その気持ちは分かる。自分に火の粉が飛んできたら厄介だもんな。

 

 

「いいじゃない。アンタに迷惑はかけないわ。曹栄様に聞きたいことがあるの」

 

「うっ……」

 

 

言うと、袁術が此方をちらちらと見てきた。

 

なんていうか、小動物みたいで可愛い。何も喋らなきゃだが。

 

 

「わ、分かった!しかし妾は何も関係ないぞっ!?」

 

「分かってるわよ」

 

 

落ちぶれたもんだな、孫家も。

 

昔アイツが生きていた頃は馬鹿な袁家の下で飼いならされているような家柄じゃなかっただろう。

 

 

「それで、いいかしら?曹栄様」

 

「ん、ああ」

 

 

不味い不味い。

 

進行役の俺がぼーっとしてたら話にならない。

 

しかし、これは好都合。軍議を止めてまで話をするんだ。くだらない内容だったらそれを口実に斬ってしまえばいい。

 

周りの奴らも孫策の身を……いや、自分の身を案じている。

 

まあ、それを理解していない馬鹿な奴なんて居ない――――――

 

 

「貴方に好かれるにはどうすればいいのかしら?」

 

「………はっ?」

 

「だーかーら!貴方に好かれるにはどうしたらいいの?」

 

「…………」

 

 

なんだ、コイツ?自殺志願者か?今までの流れ何も見てなかったのか?

 

 

「……質問の意味が分からない。もう少し分かりやすく言ってくれないか?」

 

「そのままよ。私は貴方が気にいった。だから貴方に好かれるにはどうすればいいの?」

 

「……それは告白と解釈しても構わないのか?」

 

「うん。別にいいわよ」

 

「…………」

 

 

駄目だ、コイツ。想像を絶する馬鹿だ。

 

まあ、公衆の面前で俺に対し、この状況で告白する度胸は買ってやるが……

 

 

「……気持ちは嬉しい。だが時と状況を把握しろ。軍議に私情を挟むな」

 

「あら、私情じゃないわよ。これは私たち諸侯らの総意でもあるわ」

 

 

頭が痛くなってきた。

 

諸侯らの総意?その諸侯には野郎だって居るんだぞ、女ならいざ知らずそんな総意嬉しくねえ。

 

……ん、待てよ。好意?諸侯らの総意?

 

 

……ああ、そういうことね。

 

成程、簡単な話だ。コイツらが此処に来た本当の意味を考えれば分かる話じゃないか。

 

まあ、何人かは真に朝廷に忠義を見せる為に来た奴も居るだろう。

 

或いは、苦しむ民の為に今回のコレに参加した奴も居るだろう。これは上より希少だろうが。

 

だが大抵の連中は違う。そんな思いがあったとしてもそれはついで。

 

なら目的は何か?簡単だ。

 

 

名を売りたいんだ、俺に。朝廷の権力者の一角とされる俺に。

 

そして今回のコレに参加した見返りを求めている、それが大数だろう。

 

なら自分で考えろ……そう言いたい所だが……まあいいだろう。

 

 

「……そうか。なら教えてやる。俺に好かれたいなら簡単だ」

 

 

一度ふと間を持ち、軽く息を吐いた後言葉を出す。

 

 

「殺せ」

 

「……えっ?」

 

 

孫策が言葉の意味が分からないのか間の抜けた声を出す。

 

他の諸侯らも意図は読めていないようだ。

 

 

「殺してこい。黄巾族を。躊躇いは要らない。簡単だろう?」

 

「………」

 

「俺はちゃんと戦果で評価する。殺しただけ……いや、言葉が悪いな。働いただけ評価する」

 

「………」

 

「何度も言うが躊躇う必要はない。なに、気にするな。中には賊になりたくなくとも賊になった奴もいるだろう。ただ暴れたい馬鹿な奴もいるだろう。国を想い反旗を翻したものもいるだろう」

 

 

皆曹栄の言葉を黙って聞いている。

 

曹栄の出す重圧に先程以上に何もなせないでいる。

 

 

「だが関係ない。賊は賊。差別は駄目だ。目の前に立つ奴はすべて斬れ。老若男女関係無しにだ」

 

「………」

 

「この場合差別の使い方は間違っていませんかな?」

 

「皇甫嵩殿……話の途中だ。終わってからにしろ」

 

 

皇甫嵩の言葉に一瞬場が和むような感じがしたが、それも束の間。

 

すぐに曹栄が言葉を続ける。

 

 

「はっきり言う。俺には俺の目的がある。その為なら手段は選ばないし、賊が千人、万人と死んだ所で正直興味が無い。賊だけじゃない、貴様らや、貴様らのところの兵にも特に興味はない。あるのは俺直属の兵たちと一部の人間だけだ」

 

 

そう言い一瞬だけ華琳の方を向く。

 

ずっと目を閉じ、視線を下に向けていた華琳だったが、僅かだけ口元が緩んでいた。

 

 

「一部の人間……ね」

 

 

孫策がそう言いながら俺に、そして華琳に目線を向ける。

 

もう完全に俺と華琳の関係はばれている。だが、もういい。それが俺の弱点になることはない。

 

 

「失礼します!」

 

「ん、どうした?」

 

 

突如天幕に入ってきた兵士を呼びよせる。

 

すると兵士が周りに聞こえないように俺に報告する。

 

 

「分かった。下がっていい。それと出陣の準備だ、……皇甫嵩殿」

 

「はっ!!」

 

 

名を呼び目で合図を送ると頭軽く下げ、天幕を先に後にする。

 

出陣とまで言ったんだ、これで分からない馬鹿は居ないだろう。

 

 

「どうする?別に着いてこなくても……「…ガタッ」……ん」

 

 

俺が言い終えるより早く、さも当然のように華琳が立ち皆に頭を下げると無言でその場を後にする。

 

 

かっこいいな、おい。あれじゃ惚れるのも仕方ない。

 

 

心の中で笑いながら見ていると続いて孫策が立ちあがりその場を去る……涙目の袁術を連れて。

 

その後袁紹が何か喚きながら場を後にしたのを皮切りに諸侯らが天幕を出ていった。

 

来る者拒まず、去る者追わず。

 

それでいい。少なくとも来た奴は使える奴。去る奴は使えない奴だ。

 

 

 

結果を言うと大抵の諸侯らは全員着いてきた。

 

それもそうだ、諸侯らにも見栄はある。袁紹がいい例だ、それに皆釣られた感じだろう。

 

 

「……前言撤回だな。来ても使えない奴らばっかりだ」

 

「しかし、使える者も居たのでは?」

 

 

馬上で一人言のように呟くと皇甫嵩が言葉を返してくる。

 

 

「注目すべきは早く席を立った奴と最後まで席に座っていた奴だ。前者は華琳……それと孫策だな。袁術は……いれなくていいだろう。後者は特に居なかった」

 

「え、私は?」

 

「……お前は別だろ」

 

 

ボケなんて要らねーよ、と心中思いながらふと溜息を吐く。

 

呆れるように周りの景色に目を向けるが、あるのは人、人、人。正直何も面白くない。

 

 

「戦前に不謹慎では?」

 

「別にいいだろ……まだ遊びたい年頃だろ。普通なら」

 

「妹君を見習っては?」

 

「だから俺は今ここで文句一つ口にせず黙って行軍してるだろ」

 

 

態度だって周りの奴らに気付かれないようにしている。

 

だったら親しい者に少し不満を洩らしても許してくれてもいいだろう。

 

 

「それよりほら、見てみなさい。アレを」

 

 

それよりって……お前から振ってきたんだろうと思いながらも皇甫嵩が指をさす方向に目を向ける。

 

するとそこには数百から数千の軍勢が目に映る。

 

 

「……義勇軍?結構な数だな、旗は劉と言うことは最近噂になっている劉備とやらのか?」

 

「でしょうな。どうします?」

 

「どうするもこうするも此方からは無視だ。向こうが声をかけて来た時に相手をすればいい」

 

 

そう返すと同時に一人の兵士が報告をしてくる。

 

内容は極めて単純。自分らを軍に加えて欲しいのこと。

 

こちらとしては軍の枷になるような奴は御免蒙りたいが気になることがある。

 

 

「盧植の紹介文ねぇ……」

 

 

ざっと目を通すと確かに盧植の推薦文であった。

 

内容を要約するとどうやら劉備は盧植の教え子らしい。後は小真面目な推薦文。

 

 

「言い変えるなら盧植殿の秘蔵っ子ってところでしょうか?」

 

「……それは期待できるのか?」

 

「………」

 

「………」

 

 

互いに押し黙る。

 

アイツは信頼してる……信頼はしているが……少し抜けているところもある。

 

だからこそ不安だ、つーかアイツの推薦文なんて見たことない。

 

 

「……軍の行軍はこのままだ。たかが義勇軍如きに行軍を止められるか」

 

「義勇軍はいかがします?」

 

「……噂を聞く限りじゃ使えないってことはないだろう。推薦文もある、一番後ろにつけてやれ。それと最低限の物資も分けてやれ」

 

 

そう言い、目で兵士に合図を送ると頷きその場を後にし、義勇軍の方に向った。

 

 

「実際に会って判断しなくてよろしいので?」

 

「必要ない。所詮は義勇軍、例外はない。だが差別はしない。働いたら働いただけ評価するさ」

 

 

見れば義勇軍が移動し、俺たちの後ろにつくのが見えた。

 

兵の動きを見る限り噂通り、使えないってことはないだろう。

 

物資は今までの働きに対するご褒美と言ったところだ。

 

勿論これが褒美の全てという訳ではない。残りをやるかは働き次第だ。

 

 

「それより一つだけ聞きたいことがあるのですが……」

 

「ん、なに?」

 

「もし私に秘蔵っ子みたいな存在が居たとしたらどう思います?」

 

「……」

 

「……」

 

 

呆れるように心の中で溜息を吐く。

 

俺のお前に対する評価がそんなに気になるのか?

 

俺はお前が俺に対する評価の方が数十倍気になると言うのに……

 

 

 

 

「……」

 

 

ぼーっと女は馬上の上で空を見上げていた。俗に言う上の空というやつである。

 

 

「……雪蓮」

 

「ん……なに?冥琳」

 

 

雪蓮と呼ばれた女は先程曹栄に告白した人物、孫策。雪蓮とは孫策の真名のこと。

 

対する冥琳と返された女は孫策の親友で有り、軍師でもある周瑜の真名のことである。

 

 

「どうした、先程から空ばかり見上げて」

 

 

お前らしくもないと、かけている眼鏡を直しながら言うと雪蓮はまた空を見上げたまま一言言う。

 

 

「んー考え事」

 

 

そう言うと冥琳は心の中で思う。

 

らしくない、少なくとも私の親友孫策はそういう感じの人間ではない。

 

なら何が彼女をそうさせているか、軍師である彼女からすれば答えは簡単だった。

 

 

「そう言えば曹栄とやらはどんな人物だったんだ?」

 

「……」

 

 

その言葉に孫策は無言のまま冥琳の方に視線を向ける。

 

流石私の親友。長年の付き合いだけはある、簡単に私の心の中を悟られた。

 

 

「んーそうね。難しいわね」

 

「難しい?」

 

「彼を何て表現すればね。最初は恐い人だと思ったけど、思ったより優しかったり……」

 

「……表現が幼稚しすぎやしないか?」

 

 

呆れるように冥琳が息を吐くが、雪蓮は気にしないと言った感じで笑う。

 

雪蓮は冥琳と比べて頭のいい方ではない、が、それでもまるっきし駄目と言う訳でもない。

 

それだからこそ、冥琳は雪蓮の表現に呆れたのだった。

 

 

「そう言わないでよ。あ!でも安心して!働いたらそれなりに評価してくれそうよ!」

 

「……してくれそう…ね。それは身分等関係無しにか?」

 

「うんうん!それは間違いないわ!あ、でも危なくなっても助けてはくれない……かな?」

 

「はぁ……」

 

 

不確定要旨が多すぎる。

 

今に始まったことじゃないが雪蓮に仕えるのは本当に疲れる。

 

……それを苦に思ったりしたことはあれど、それを後悔したことは一度もないが。

 

 

「むー……冥琳が実際会って見ればいいのよ」

 

「……そんな機会そうそう訪れるものじゃない、それより見てみろ」

 

「…え?」

 

 

振り返ると大地一帯を覆い尽くす程の黄色の布を来た人がいる。

 

黄巾族だ、それも数万では済まない程の大軍勢である。

 

 

「うわー凄い数ね。私たち連合軍より多いんじゃない?」

 

「倍近くあるな。まあ、数だけだが」

 

 

各々感想を洩らすと一人の兵士が此方に駆け寄ってくる。

 

それに気付き、冥琳は兵士が目の前に来たと同時に声をかける。

 

 

「どうした?」

 

「はっ!先程曹栄殿使者が来て、孫策殿に是非来てもらいたいとのことですが……」

 

「……曹栄が?こんな時に?」

 

「あっ!……もしかして!!」

 

「どうした?………雪蓮?」

 

 

見れば雪蓮の額から汗が出ていた。

 

 

「……どうしよ、冥琳。私斬られちゃうかも」

 

「……はっ?」

 

「……あ、でも何で此処で…あ、もしかして戦前の生贄?」

 

「……」

 

 

前言撤回してもいい。今私は冥琳に仕えたことをこの上なく後悔している。

 

 

「……斬られるようなことをしたのか?」

 

「え、いやまあ……したと言うか、聞いたというか、何と言うか……」

 

「……心覚えはあるのだな」

 

「……うん」

 

「……」

 

「……」

 

「あ、あのう……孫策様?周瑜様?」

 

 

雪蓮を睨む冥琳に対し、雪蓮はその視線が痛いのか目をそらしていた。

 

やがて呆れたように冥琳が兵士に伝えた。

 

「すぐに参上する」……と。

 

 

 

 

「とりあえず……だ。何だ、その様は?」

 

 

雪蓮と冥琳が二人揃って曹栄の前に立った時、彼が最初に発した言葉はそれだった。

 

二人には分からないが、何故か曹操と夏侯姉妹もその場に居たが目を丸くして此方を見ていた。

 

何故なら二人共どうしてか息を乱し、憔悴した顔をしていたからだ。

 

 

『……気にしないで(いただきたい)』

 

「……まあ、別にいいけどさ」

 

 

二人の反応を見て曹栄は深く聞かないことにした。

 

誰にだって聞かれたくない事はある。それに時間もない。

 

 

「それより孫策、お前何で呼ばれたか分かるか?」

 

「……え、えーっと……」

 

「まあ、分かる訳ねーよな。もし分かったとしても口に出すのは難しい」

 

 

クックックと不気味に笑う曹栄を見て二人は心の中で同じことを思う。

 

自然と雪蓮と冥琳の目が合い、無言のまま見つめ合う。

 

 

「ん、何覚悟を決めたような目してるんだ、二人共。時間が無いから答えを言うぞ?」

 

「……ええ、いいわよ」

 

「……ん?」

 

 

曹栄は何か妙な違和感を感じたが、先程言った通りに時間がないのでソレを無視した。

 

二人を一瞥し、大地を覆い尽くす黄巾族の方を指指して言う。

 

 

「見れば分かると思うがすぐそこに黄巾族が来ている。だがあんな大軍相手に正々堂々正面から戦うつもりなんて微塵もない」

 

(……ん?)

 

「そこでだ、曹操。孫策。残りの奴らでアレを引き付けるから合図と同時に左右から襲撃しろ」

 

(……あれ?)

 

「曹操は右。孫策は左だ。それと仕掛けた時アレの退路を断つように立ちまわってくれると有難いんだが?」

 

(……アレレ?)

 

「……なあ、孫策。声に出ているんだが斬られたいのか?」

 

 

額を指で支えながら曹栄が呆れたように尋ねてくる。

 

そう言われて周りを見渡すと皆目を瞑ったまま頸を横に振っていた。

 

 

「はは……ごめんなさい。てっきり斬られるのかと……」

 

「……悪いが漫才をやっている暇はない。それで出来るのか?」

 

「余裕よ!余裕!任せてちょうだい!久々に腕が鳴……「待て」……冥琳?」

 

 

快く引き受けようとした雪蓮だったが、突如後ろに控えていた冥琳がそれを遮る。

 

雪蓮を止めたあと冥琳は曹栄の方に振り向き言う。

 

 

「いくつか尋ねたいことがよろしいか?曹栄殿」

 

 

そう尋ねてきた冥琳に対し、曹栄は小さく笑みを浮かべて返す。

 

 

「……手短にな」

 

「では聞かせて頂きたい。何故我が主、孫策とそこにいる曹操をこの役に命じたのか?」

 

 

曹操。或いはその態度に気にいらなかったのか、華琳の後ろに居た春蘭が割ってでようとしたが、すぐに華琳に止められ何も言わぬままそこに控える。

 

 

「簡単な話だ。今回の陣営に来た諸侯らの中でお前ら二人が一番使えそうだったから」

 

「……ッ!!」

 

「なんだ?回りくどい言い方をした方が良かったか?」

 

 

見下すような態度で相手を小馬鹿にするような感じで曹栄が尋ねてくる。

 

それに対し、冥琳が何も言わずで居ると曹栄はそのまま言葉を続ける。

 

 

「お前ら二人は俺の御眼鏡に適った。喜べ、俺がお前ら二人に手柄を立てさせてやる。中央に集中したアレを左右から挟撃する。お前ら二人は最少の被害で最大の戦果をあげることができる」

 

「し、しかし我らは袁術の客将です。袁術の許可無しには……」

 

「それなら取った。向こうも快く快諾してくれた。何故か怯えていたがな」

 

『(何故かね……)』

 

 

心当たりがある華琳と雪蓮は心の中で同時に思う。

 

当の曹栄も何故袁術が怯えてたかはしっかりと理解している。

 

 

「ほらもういいだろ。敵は待ってくれない。早く頷け。嫌なら代わりは居る」

 

「(……ならもう少し時間を……!!……ああ、そうか)」

 

 

成程、わざと時間を与えなかったのか。

 

要するに此方に考える時間を与えさせない。此方は頸を縦にするしかないように。

 

確かに悪い条件ではない。此方は大した損害を被らず、戦果を上げることができる。

 

その戦果も曹栄が保障してくれるだろう。……むっ?

 

突如肩を叩かれたので振り向くと雪蓮の姿があった。

 

 

「引き受けましょう。悪い条件じゃないわ。ねえ、ご褒美も期待していいのよね?」

 

「……ああ、いいぞ。出来るだけ期待に応えてやる」

 

「……雪蓮……ああ、分かったよ。引き受けよう」

 

「よろしい。なら行け」

 

 

そう言うと二人は一礼してその場を後にした。

 

先程も言った通り突然のことだ。急いでやらないといけないことがあるだろう。

 

 

「……で、何が目的?」

 

「……ん、どうした曹操殿。貴殿も準備しなくていいのかな?」

 

「……恍けないで。それに何時だって出れるわよ」

 

「そらそうだ。お前には予め言っておいたしな。なら孫策には何故直前まで教えなかったか?」

 

「……自分で考えろ……ってことかしら?」

 

 

そう言うと曹栄は小さく笑い言う。

 

 

「ほら行け。春蘭…秋蘭…華琳を頼むぞ」

 

『はっ!!』

 

「ちょっと!私が賊如きに不覚をとるとでも思っているの?」

 

「なに……念の為さ。ほら行け。曹操殿」

 

「ッ!!……失礼します」

 

 

少し怒り気味に去る華琳を見て溜息を吐きながら思う。

 

念には念を。それに越したことはない。

 

 

 
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