No.290034

真・恋姫†無双 〜白馬将軍 龐徳伝〜 第2章 黄巾の乱 5話

フィオロさん

キーボードを打ちたくなったのに中々お話の投下が進まない・・・世の中の小説家の方々は本当に凄いなぁ。

2011-09-01 01:32:37 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:2130   閲覧ユーザー数:1802

 

 

 

 

 

 

「状況は!? 一体何が起こっとるんや?」

 

 

突如城壁の上から響いて来た、援軍と言う叫び声に驚き、少しして響いて来た城壁の守備兵の歓声に驚きながら、鍾会は漸く城壁の上に辿り着いた。

 

守備兵は皆、喜びを爆発させていた。誰もが疲労と重圧を重ねて来たために、敗北の可能性を感じていた。それを吹き飛ばす味方の援軍が、しかもざっと見て10万を越える大軍が、やっと現れたのである。

 

それは鍾会とて同じ事である。だが総指揮官である鍾会には冷静な判断が求められる。もし、現れた援軍がまた敗れたら、それこそ許は終わりである。援軍が黄巾党20万を撃破しない限りは、本当の意味で難が去ったとは言えないのだ。

 

 

「あ? 黄巾党が動き出しました!」

 

 

思考の海に沈もうとしていた鍾会を呼び戻したのは側近兵の一人である。

 

城壁の上から、その動きははっきりと見えた。幾重にも分厚い構えを施した黄巾党の包囲が薄くなって行くのを。許の城壁を取り囲んでいた黄巾党兵士が、北に向かって行くのを。

 

包囲から外れた黄巾党兵士は、駆け足で北の方角に向かい、ある地点で集結して陣を組む。

 

それは許より北東にある山を包囲しようと中央、右翼、左翼と綺麗に別れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「間違いあらへん、向こう(黄巾党)の将は素人やない。」

 

 

無軌道に暴れ回るだけである筈の黄巾党兵士が、整然と陣を構えるその光景は、よほど率いる将が兵士の信頼を得ていなければ出来る事では無い。元々黄巾党は渠帥と呼ばれる者が、集団を組んで居るため、ある程度は組織としての組み立てがある。しかし、急速に膨れ上がった黄巾党は渠帥の命に従わず無軌道に暴れ回る者が多いのが実情である。

 

そう言った意味で、許を取り囲んだ20万の黄巾党の軍集団は、鍾会の想像を上回る存在であった。犠牲を厭わずに城壁を登って来る敵の大軍の圧力は、彼女の精神も削っていた。守備兵や中の住民に関しては言うまでも無いだろう。

 

 

 

改めて視線を北東の山に陣を構えた援軍に目を向ける。

 

流石に距離があり過ぎて、旗に書かれた文字が解らないが、どうやらかなりの騎兵が居るらしい。黄巾党にも騎兵は居るが、先程の行軍を見る限り、1万には届かないだろう。

 

とは言え、それでも15万もの死を恐れぬ黄巾党兵士とどう戦うのか。数は明らかに黄巾党の方が上である。騎兵は走ってこそ、その力が最大限発揮される。もし、分厚い黄巾党の陣に動きが鈍り、乱戦となれば黄巾党が有利になるであろう。

 

幽州や并州で羌や匈奴を打ち破り続けた皇甫嵩をもあっさり戦死させたあの黄巾党を前にして、果たしてどこまで戦えるのか。

 

 

「何にせよ、武運を祈るで!」

 

 

右手を握り、左手で包んで(拝手と言う)北東に向かって、激励を飛ばす以外、今の鍾会に出来る事は無かった。

 

戦局を見守りたいのはやまやまだが、まずは城内の負傷兵を纏めて治療と休養を取らせ、いつでも出撃出来る体勢を整えねばならない。この許に残る兵士達に、負傷していない者は居ない。疲労を感じていない者は居ない。だが、この許を取り囲む兵士が総数で大凡2万まで減った。これなら強引に包囲を突破して官軍の援護に回る事も出来るであろう。

 

直ちに指示を出し、自らも指揮をとるために城壁から降りて各方面に指示を飛ばし始めた。

 

 

 

だから

 

 

 

その光景を見る事は無かった。

 

 

 

開戦初日の今日、戦争は決着が着いた。

 

 

 

黄巾党15万は、呆気無く、涼州兵を中心とした官軍11万の前に、蹂躙され尽くしてしまったからだ。

 

 

 

 

 

 

兗州は陳留。ここ陳留とその周辺、定陶や任城でも多くの黄巾党兵士が現れ、その猛威を振るっていた。

 

しかしここ陳留周辺では、黄巾党兵士は陳留大守の軍勢によって悉く駆逐されている。

 

流石に都市部から離れた村落にはすぐ陳留大守の軍勢の庇護が及ばず、被害を出している。が、害をなした黄巾党共は数日の内に怒れる陳留大守の軍兵によって駆逐され、次から次へと現れる黄巾党兵士も、その同胞達の惨状が広まるに連れて陳留周辺からは姿を消しつつあった。

 

姿を消した黄巾党兵士達は、元々は豊かな陳留の富を狙うものが大多数であり、それが命懸けで、しかも陳留大守の軍兵が精強で、富を奪えない事を知るや、陳留から別の地域へと足を運んでいた。

 

そんな時に黄巾党兵士に広まった噂があった。曰く「許は陳留に劣らぬ程豊かである」「許は陳留程敵が強く無い」と言うものであった。

 

奪えなければ餓死が待ち受ける黄巾党兵士達はこの流言飛語に直ぐ飛びついた。しかも陳留周辺のみならず、他の地域に居た黄巾党にも伝わったためか、許を狙う黄巾党兵士は10万を大きく越えたのである。

 

この情報を掴んだ陳留大守は急いで集められる限りの兵を集め、僅かなりとも訓練を施しつつ、詳細な情報を集めるために許の存在する豫州方面、即ち頴川や汝南に通常の10倍の細作を派遣する。

 

しかし、その派遣した細作達が陳留大守に齎した情報は、大守とその幕僚達にも俄には信じ難い報告であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、間違いないのね、桂花?」

 

「はい、同じ情報を許周辺に放った細作達が伝えて来ています。大筋ではほぼ間違いないでしょう。」

 

「なんと・・・」

 

「むぅ・・・」

 

「嘘ぉ・・・」

 

「さいですか・・・」

 

 

陳留の中心の政庁。そのさらに中心に存在する大広間。陳留大守曹操と、その軍師である荀彧。曹操の両腕両足であり、未だ天下にはその名を知られてはいないが、抜群の将器を誇る夏候淵、夏候惇、曹洪、曹仁。

 

曹家軍の軍事や政治の中心を担う人物達が、その表情に驚愕を浮かべているのは、先日放った細作達の掴んだ情報の内容にである。

 

曰く「許を包囲していた黄巾党は、官軍により殲滅され尽くされた」と言うものであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「情報は間違いなく正しいのでしょうけれども、俄には信じられないわね。」

 

曹操の一言は、この場に居る全員の見解と言って良い。

 

「はい、官軍は装備の質はともかく、練度や士気は大して高くありません。今回の黄巾党の叛乱に対して緊急に徴兵、募兵した兵ですから、訓練を施そうにも時間が無さ過ぎます。

 おまけにあの名将・皇甫嵩が敗死したばかりで、只でさえ低い士気はどん底にまで落ち込んでいたと思われます。」

 

 

はっきり言って官軍を取り巻いていた状況は、最悪であった。漢王朝の忠臣として名高く、辺境の異民族や中原の賊徒を相手に一度たりとも負けた事の無い百戦錬磨の名将である皇甫嵩が、黄巾党20万の前に敗死したのである。

 

ちなみに荀彧は練度と士気の低さについて言及したが、実は皇甫嵩が総大将になると聞いて、官軍全体の士気はおおいに上がっていたのである。「知勇兼備」「敗北知らず」「縦横無尽」「大樹将軍(光武帝の功臣団「雲台二十八将」の第七位の馮異)の再来」と、皇甫嵩の将軍としての実績は、天下に知らぬ者は居ないとさえ言われる程の威名を轟かせていたのである。

 

これほどの「天下の大将軍」が呆気無く命を落としたのである。当然、現在天下で最強の軍勢であった皇甫嵩の軍勢を打ち破り、総大将を敗死させた黄巾党20万は、皇甫嵩より強いと言う事。すなわち真の天下最強の軍勢である、と言う事を天下に示したと言えるのだ。

 

 

「黄巾党の兵士は総じて士気の高い兵士です。士気が高ければ訓練されていなくても、ある程度の組織立った戦術を取る事が出来ます。」

 

「それだけではない。只の賊と侮れば奴らの死を恐れぬ戦い方に、こちら側が飲み込まれる。

 奴らには只の賊共とは違った、覚悟の様なものがある。それが奴らに死を恐れさせぬのだ。」

 

「おまけに叩いても叩いても出て来るんだもの。油虫(ゴキブリの事)じゃあるまいに、正直勘弁して欲しいわぁ。」

 

「この前の細作共の報告では、黄巾党の騎兵が数多く豫州方面に向かったとの知らせも入っています。練度はやはり別にしても、騎兵を揃えると言う考えを持った人物が居るとなると、それを指揮する将も、出現していると見るべきでしょうね。」

 

 

彼女達も、黄巾党とは幾度と無く戦った経験から、生半可な力や策では、数と士気の高さを備えた黄巾党を討ち滅ぼす事は出来ない、と言う事を十分体験しているのだ。

 

超一流の名将と軍師、さらには精強な軍兵を持つ彼女達ですら、黄巾党の恐ろしさを侮る事は無い。たとえそれが無軌道に暴れ回る獣(けだもの)であろうとも、その獣を侮れば手痛いしっぺ返しが来る事は容易に想像出来るからである。

 

 

 

 

 

 

 

「ところで」

 

 

少し重苦しい空気になったのを入れ替えようとしたのか、それとも曹家軍の要の将軍4名と軍師に比肩する重要人物で、本来この軍議の場に居てもおかしく無く、また曹操本人に取っては少々気になる人の事

 

 

「一刀はどうしているのかしら?」

 

 

北郷一刀、その人に触れたのである。

 

 

「北郷でしたら、今日は城下町の巡察に出ています。北郷が組んだ治安向上策が上手く行っているのか視察したいと言っていましたので。」

 

「あやつがその、えーと・・・」

 

「警察、だ。姉者。」

 

「おおう、それだ秋蘭。その警察を作って大分経ちましたが、配下の者共が以前に比べて明らかに城下町の様子が良くなったと言っておりました。」

 

「報告も聞いていたくせに一々自分で確認する必要がどこにあるのよ・・・そんな事下々の文官に任せておけば良いのに! 全く、非効率的なんだから。」

 

「あら? 桂花ったら今日は一刀と仕事する時間が少ないから不機嫌?」

 

「ちょ!? 華琳様誤解です! いつもいっつもあの男は私の・・・ううぅ、想像するだけで妊娠してしまいそうです!!」

 

 

無茶苦茶な事を言う荀彧ではあるが苦笑する曹操と夏候淵と曹洪、きょとんとする夏候惇と曹仁・・・曹家軍の中心を担う人物達の、いつものやり取りだったりする。

 

 

 

 

 

 

 

 

「失礼する。ああ、皆居たんだな。丁度良い。」

 

 

曹操達が意識を男性の声が聞こえて来た方向、即ち部屋の入り口に向けると、そこには想像した通りの人物、即ち天の御遣い事、北郷一刀がそこに居た。

 

何やら手に竹簡を二つ携えて。

 

 

「一刀。丁度良い、とは?」

 

「報告したい事が二つある。一つは警察の現在の状況と、それを受けて今後に向けての政策の提案。もう一つが許方面の細作からの詳細な報告。どっちから?」

 

「後者よ。内容を把握したら、あなたが説明しなさい。」

 

「解った。ええと・・・陣容は官軍11万と黄巾党15万。官軍は許に到着後、4つの代替に別れて、本陣は北東の小高い山に布陣。黄巾党は三つの大隊に別れて布陣。本陣は中央軍にあった模様。」

 

「ふむ、基本通りの布陣と言った所だな。」

 

「おい北郷。官軍の総大将は誰なのか解らないのか?」

 

「ん、ああ。官軍の総大将は・・・龐徳と言う人物だそうだ。」

 

 

その名を聞いた瞬間、一刀を除いた5人は頭の中に「?」が浮かんだ。

 

 

「誰?」

 

「聞いた事がありませんわ。」

 

「桂花は?」

 

「残念ながら私も龐徳と言う名に心当たりはありません。」

 

「龐徳とやらが総大将か。そもそもどこの人物なのだ?」

 

 

曹操とその幕僚達には初耳の人物であった。だがそれも仕方無い事である。

 

朝廷に報告された匈奴40万殲滅の功績は馬騰のものであるし、そもそも辺境の異民族の事等どうでも良いと考えている、現在絶賛権力争い中の外戚と宦官に取っては、歴史に燦然と煌めく武勲であっても、どうでも良い事に過ぎなかった。理由は単純、それが権力争いに、直接的にも間接的にも寄与する事ではないからだ。正確には寄与させる事が出来ない、と言うべきか。

 

現在こそ馬騰は漢王朝の高官ではあるが、かつては今は亡き韓遂や閻行と共に叛乱に参加した経験もあるため、その存在を危険視する向きが、外戚勢力も宦官勢力も一致しているのである。

 

もし、どちらかの勢力が馬騰に要請して涼州の精鋭部隊を率いて来させたら? 外戚側も宦官側も、もしかしたら馬騰が漁夫の利を決め込むのではないか、と言う懸念がある。それに大軍を招こうにも大義名分が無ければ、何が起こるのか解らないと言う危険性もある。つまり、両勢力ともリスクが高い上に、リターンが見込めるか解らないと言う認識のために、触らぬ神に祟りなし、と言う状況になっている。

 

結局、匈奴40万殲滅の大功は、天下には広がらなかったのである。最も、意図的に龐徳と言う涼州の中心人物が存在する事を、馬騰と龐徳が隠している事も大きいだろう。他にも後漢王朝建国の功績で名高い馬援の子孫である馬騰と馬超の名は、非常に通りやすいと言う側面もあった。

 

こうした事情故に、洛陽を中心に張り巡らせた曹操の情報網に、龐徳の名前は引っかからなかった。これが馬騰、もしくは長女の馬超であれば、曹操も納得しただろう。馬騰に関しては言うに及ばず涼州牧・征西将軍。馬超はその長女で錦馬超の呼び名で名高い。匈奴殲滅の大功を抜きにしても、名門の血筋故に二人の名は知れ渡っている。

 

 

 

何にせよ、龐徳の名を知る人間は、曹家軍には居なかったのである。

 

 

北郷一刀を除いて・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

仕事見つからない・・・orz

 

 

 

それは兎も角として、漸く馬超や馬岱以外の恋姫キャラを出す事が出来ました。そして一刀も登場させられたのでホっとしています、がオリジナルの主人公が居る中で本来の主人公を出すのは結構勇気がいりました。

 

曹仁と曹洪は、この小説を書いている中で、どうしても出したいキャラクターでした。細かい事は、また先のお話で書きたいと思っております。

 

 

 

それでは、また次のお話でお会いしましょう。

 

 

 

 

 


 
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