No.241100

【南の島の雪女】第3話 布団の中の4人(9)

川木光孝さん

【あらすじ】
雪女である白雪は、故郷を脱走し、沖縄まで逃げてきた。
他の雪女たちは、脱走した白雪を許さず、
沖縄の妖怪たちに「白雪をつかまえろ」と要請する。

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2011-07-28 20:16:21 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:560   閲覧ユーザー数:556

【風乃家の食卓。ゲスト:羽毛布団】

 

 

若葉は、風乃に気づかれたくない一心で、

通りすがりの羽毛布団を演じたつもりだった。

 

そしたら、いつの間にか、風乃家の朝の食卓に参加していた。

風乃、母、父、白雪、紳士。そして若b…羽毛布団。

 

家族の輪の中に、一人だけ羽毛布団がゲスト参加している。

 

「あれ?」

 

若葉は、羽毛布団の中で首をかしげた。

羽毛布団が少し動く。

 

どうしてこんなことに。若葉はわからなかった。

 

気づいたら、「羽毛布団さんいらっしゃ~い」と

満面の笑みを浮かべた風乃にひっぱられ、

そしたら食卓だ。

 

通りすがりの羽毛布団と一緒に、

朝食をとるつもりか。

皿洗いまでさせるつもりか。

さっぱり意味がわからない。寝言は寝て言え。

と若葉は思った。

 

「じゃじゃーん!

 今日のゲストは、羽毛布団さんです!」と風乃。

 

「今日の」という言葉がひっかかるが、

一応、自分はゲストらしい。

と若葉は認識した。

 

「おい、お前もゲストじゃないのか?」

 

白雪は、隣に座っている南国紳士に声をかける。

 

「私、3年前から何度かゲストになってましたので」

 

「準レギュラー!?」

 

白雪は、あいた口がふさがらなかった。

 

【羽毛布団の職業と住所】

 

 

「え…えと、羽毛布団、です」

 

空気の読める若b…羽毛布団は、自分の名前を名乗った。

いや、名乗らざるを得なかった、というべきか。

名乗る以外の選択肢は用意されていなかった。

 

ここは適当に答えて、さっさときりあげる。

若b…でなく羽毛布団はそう思った。

 

「さて、質問です。

 羽毛布団さんの職業と住所は?」

 

「職業は学生で、住所は…

 那覇市金城の○○○の○です」

 

「う、羽毛布団ごときに

 職業と住所があるだと…!?」

 

住所不定無職の白雪(※第2話参照)は、

羽毛布団に住所と職業があることに驚愕し、

衝撃を受けるのだった。

 

だが正確には、羽毛布団の中の人の

職業と住所であることを、白雪は知らない。

 

【となりの羽毛布団】

 

 

「え!? 那覇市金城の○○○の○!?

 その住所、わたしのとなりだよね。

 わたしの家の隣に住んでるの?」

 

風乃は、羽毛布団の職業が学生であることに

一切つっこまなかった。

 

「そうだよ」

 

こくりと羽毛布団はうなずいた。

 

「羽毛布団があるってことは、それをかぶって

 寝てる人がいるってことだよね。

 おかしいなぁ、隣って、

 うーん、誰か住んでたっけ」

 

風乃は、頭に指をくっつけて、くるくる回す。

何かを思い出そうとして、思い出せないようだ。

 

一応、親の世代も含め、

20年以上はつきあいがあるはずなのに、

思い出すのに時間がかかっているのはなぜだろうか。

羽毛布団は複雑な気分になっていく。

 

「あのね、風乃。

 隣に住んでるのは、なかぐす…」

 

母親は、風乃に何かを言おうとしている。

 

「わ、わわわ!」

 

羽毛布団はごにょごにょと忙しく動いた。

ばれてはならない。

決してその名を口に出してはいけない。

 

羽毛布団のあわてぶりを見て、

母親は空気を読むべきだと察した。

 

「なんでもないわ」

 

「どしたの? 変なお母さん」

 

風乃は首をかしげた。

 

(ほっ…

 よかった。名前を言わないでくれた)

 

羽毛布団は、胸をなでおろした。

 

「隣に住んでるのは、中城若葉だろう。

 あと、その兄と父母」

 

父親が、母親に代わって答えてしまった。

 

(お・じ・さ・ん!!!)

 

羽毛布団は、思わず声をあげそうになった。

 

【忘れられたお隣さん】

 

 

「なかぐすく…わかば? 誰?」

 

風乃は、初めて名前を聞いたかのような表情で、

父親にそいつは何者かとたずねる。

 

「前も言っただろう。お隣の、同い年の。

 おぼえてないのかい」

 

「うーん…」

 

風乃は腕組みして、必死に思い出そうとするが、

記憶の糸はぷつりと切れてしまっていたようで、

なんにもなんにも思い出せなかった。

 

(…おぼえてない。よかった。

 はやく、話題を切り替えよう)

 

羽毛布団は、今がチャンスだとばかりに

話題を切り替えようと、頭をフル回転させた。

 

「そんなことより、

 早く朝食を食べてしまいましょうよ。

 冷めますよ」

 

羽毛布団は、話題を中城家から朝食へとシフトさせる。

 

「そうよそうよ。

 みんな、もう食べてしまいましょう」

 

母親がたたみかけるように言う。

 

「それもそうだね。

 羽毛布団さん、はい、味噌汁」

 

風乃は、羽毛布団に味噌汁を手渡す。

 

「しまった、腕がない」

 

羽毛布団は、味噌汁を受け取ろうとして気づいた。

自分には、腕がない。

 

「じゃあ、わたしが飲ませてあげる。

 口をあけて」

 

「しまった、口もない」

 

「羽毛布団さん、

 朝食を食べるの向いてないね」

 

「向いてる向いてないの問題じゃない…」

 

羽毛布団は、イスの上でがっくりとうなだれた。

 

【もう帰る】

 

 

「朝食はもういいので、帰ります」

 

羽毛布団は、席を立ち上がり、帰ろうとした。

 

「待って、羽毛布団さん」

 

風乃がたずねる。

 

「なんです」

 

「どうして、この家にきたの?

 朝ごはんを食べにきたわけじゃないでしょう?」

 

「そ、それは…」

 

羽毛布団を取り戻しにきた、と言いたかったのだが

羽毛布団が「羽毛布団を取り戻しにきた」と言うと

意味不明な事態になりかねない。

 

しかし、他に理由は思い浮かばない。

 

「私にはわかりますよ。

 あなたがこの家に来た理由」

 

スーツ姿の紳士的な男が、びしりと指差して言う。

鋭い眼光だ。真剣なまなざしだ。

この紳士的な男には、何もかもお見通しなのだろう。

 

どんな理由を言うかはわからないが、

きっと周囲を納得させてくれるような

紳士的な理由を言ってくれるだろう。

 

羽毛布団は、期待した。

 

「白雪様をつかまえに来たのですね?」

 

「…はい?」

 

周囲を納得させてくれるような、紳士的な、理由…

 

 

次回に続く!


 
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