No.244499

【南の島の雪女】第3話 布団の中の4人(完)

川木光孝さん

【あらすじ】
雪女である白雪は、故郷を脱走し、沖縄まで逃げてきた。
他の雪女たちは、脱走した白雪を許さず、
沖縄の妖怪たちに「白雪をつかまえろ」と要請する。

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2011-07-29 16:08:56 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:511   閲覧ユーザー数:508

【もう帰りたい】

 

「え? え?

 羽毛布団さん、白雪をつかまえにきたの!?」

 

疑惑のまなざしを、羽毛布団に向ける風乃。

 

「し、白雪…? だれ?

 自分は何も知らな…」

 

羽毛布団は必死に否定する。

 

「とぼけないでください。

 妖怪羽毛布団。

 あなたは、こちらにいる白雪様を

 つかまえようとして

 風乃様の家にきた」

 

紳士は、さらに言葉をつづける。

 

「羽毛布団の気持ちよさを利用して、

 白雪様を骨抜きにする。

 そして白雪様が動けなくなったところで

 捕縛し、つれていく。

 そういう算段だったのですね?」

 

「い、言いがかりだよ!

 だいたい、どうして自分がつかまえるの?

 そんな理由、どこにも…」

 

「理由? これを御覧なさい」

 

紳士は羽毛布団の一部をつまむ。

 

「ほつれ。よごれ。黄ばみ。やぶれ。

 羽毛布団としての寿命は、せまっている。

 少しでも寿命をのばすには、修繕が必要。

 修繕も、お金がなければできません。

 だから、白雪様をつかまえ、報酬を得ようとした」

 

「そ、そんな…」

 

紳士の真摯なまなざしに、反論できない羽毛布団。

 

「さあ、言い逃れはできませんよ」

 

「お、おい! 羽毛布団よ!

 本当なのか!

 たしかに気持ちよすぎて、動けなかったが…

 俺をつかまえるためだったのか!

 おのれ…油断ならん奴だな!」

 

白雪はあわてた声で、羽毛布団を問いつめる。

 

(まずい、完全に疑われている。

 そうだ、風子おばさんなら、事情を知っているから

 弁解してくれるはず!)

 

羽毛布団は、風乃の母親に視線を向けた。

 

「今日の朝食は、魚と味噌汁とトーストかい。

 おいしそうだね」

 

父親が話す。

 

「うふふ。

 魚は骨が入っているから気をつけてね」

 

母親はにこやかに答える。

 

(だめだ、とても助けを呼べる雰囲気じゃない…)

 

羽毛布団は絶望した。

ノドの奥に骨が引っかかったように、声が出せなかった。

 

【3対1】

 

「羽毛布団よ、俺をつかまえようたって、

 そうはいかねーな。

 なんせ、3対1だ。

 さっさと逃げたほうが身のためだぜ」

 

白雪は勝ち誇ったような笑みを浮かべる。

白雪の左には、紳士。右には、風乃。

 

羽毛布団に味方はいない。

 

(ほんとうに逃げたいんだけど…)

 

羽毛布団は、逃げる機会をうかがう。

 

「3対1?

 白雪様、まだ寝ぼけているのですか?」

 

「あ? どういうことだ。紳士」

 

「それは」

 

紳士は、羽毛布団のすぐそばに、そっと移動する。

 

「2対2だからですよ」

 

「は!?

 なぜ羽毛布団の側に移動する?

 紳士、お前、裏切るつもりか!」

 

「裏切るも何も、

 私は白雪様をつかまえるのが目的で

 風乃様の家に来たのですよ。

 何を今さら。

 私は、羽毛布団様の味方ですよ」

 

「くそっ。

 だが、2対2なら互角に戦える。

 おい、風乃。

 俺は羽毛布団を相手にするから、

 お前は紳士の野郎をぶちのめ…」

 

「お腹すいたー

 朝食たべてくるー」

 

風乃は、食卓につくと、ばくばくと魚をほおばりはじめた。

 

「ずるい! 俺も朝食食べさせろ!」

 

「うぐっ!?」

 

「どうした、風乃」

 

「ノドに…

 お魚さんの骨が…」

 

「大丈夫か、しっかりしろ!」

 

「ごめん…

 白雪、わたしはもう…」

 

風乃は、椅子に座ったまま、白目をむく。

首がかくんと、うしろに曲がり、動かなくなった。

 

「これでまず1人倒しました。

 白雪様、どうします? 降参ですか?」

 

紳士は、勝ち誇ったかのように言う。

 

「お前なにもしてねーだろ」

 

白雪はあきれたように言った。

 

【2対1】

 

「羽毛布団とハブが俺の相手か…

 眠気と毒がいっせいに襲ってくるとか

 地獄以外の何者でもないな」

 

白雪は、目の前で対峙している、

南国紳士と羽毛布団を見て、懸念をしめした。

 

「白雪様、お覚悟を」

 

「くっ。

 せめて、風乃が魚の骨にやられていなければ」

 

自分を守ってくれるはずの風乃は、

魚の骨をノドにひっかけて倒れた。

 

状況は2対1。

味方はいない。

 

ここが雪国なら、吹雪や息を使って、

相手を凍らせることもできただろう。

 

しかしここは沖縄。雪女の技は使えない。

自らの手足をぶつけるぐらいしかない。

 

羽毛布団はともかく、

ハブである南国紳士を相手に素手で対抗する。

それは、身も凍るほど、危険な戦いだ。

 

きわめて不利。きわめて絶体絶命。

どうするどうなる白雪。

 

「あの…紳士さん…」

 

羽毛布団が口を開く。

 

「羽毛布団様、どうしました?」

 

「あの、自分、戦う気はないんですけど…

 ただの、通りすがりなので」

 

「おやおや…

 何を言っているのですか、羽毛布団様」

 

羽毛布団と紳士がもめている。

1対1になるかもしれない。

白雪は、少し顔がほころぶ。

希望の光が舞い降りたことを感じた。

 

「ちょっと羽毛布団様。

 お耳をお貸しください」

 

紳士は、羽毛布団の耳に近づき、小さな声でつぶやく。

 

「え?」

 

「あなた、人間ですよね?」

 

「!?」

 

【羽毛布団逃げろ】

 

「あなた、人間ですよね?」

 

「!?」

 

「静かに。白雪様に気づかれます」

 

「は、はい」

 

「どんな理由であなたが羽毛布団をかぶっているか

 わかりませんが。趣味ですか?」

 

羽毛布団は、首を横にふった。

 

「…失礼しました。

 羽毛布団をかぶるのは、趣味ではないと。

 それはさておき。

 あなたはここから逃げたいと思っている。

 そうですよね?」

 

羽毛布団は、無言でこくりとうなずいた。

 

「これから私は白雪様と

 取っ組み合いの大喧嘩になる予定です。

 私が白雪様と取っ組み合いになっているスキに、

 あなたはこっそり逃げるのです」

 

「で、でもそれじゃ…」

 

「私のことはご心配なく。

 一撃や二撃でやられるほどヤワじゃないので。

 さあ、早く逃げるのです。

 白雪様に気づかれる前に!」

 

「…とっくの昔に気づかれているわけだが?」

 

白雪は、紳士と羽毛布団のすぐうしろに立っていた。

白雪の様子から察するに、こそこそ話はすべて

聞かれていたようだ。

 

【羽毛布団の正体】

 

白雪

「紳士はすごいな。

 羽毛布団をよく人間だと気づいたな」

 

紳士

「羽毛布団の妖怪は、沖縄にはおりませんので。

 人間が羽毛布団をかぶっているだけだと

 判断したまでです」

 

羽毛布団

「羽毛布団の妖怪なんて、全国どこみても

 いない気がするけど…」

 

白雪

「なんでまた、お前は羽毛布団なぞかぶっているのだ?

 マニアか?」

 

羽毛布団

「ふーのー(風乃)が怖いので、羽毛布団に隠れているだけです」

 

白雪

「わかる、わかるぞ。

 でも、素直に共感できてしまう自分が嫌だ…」

 

白雪は、風乃を怖いと思ってしまう自分に嫌気がさし、

頭をかかえた。

 

【羽毛布団の正体と事情】

 

「私は、隣に住んでいる、中城若葉と申します。

 お兄ちゃんが、羽毛布団をついうっかり

 ふーのーの家に落としてしまったので、回収しに来ました。

 そしたら、ふーのーに会ってしまって。

 私、幼いころに、ふーのーに怖いことをされて…

 ふーのーが怖い私は、通りすがりの羽毛布団を演じてしまいました」

 

「そうか。だいたい事態は理解した。

 風乃は今、魚の骨をノドにひっかけて

 ダウンしているから、逃げるなら今のうちだな」

 

「ええ、そうですね…

今のうちに逃げましょう。

 ありがとうございます。

 えっと、前が見えないので、羽毛布団はとりますね」

 

羽毛布団は、羽毛布団を脱いだ。

 

羽毛布団の中から、髪を肩まで伸ばした人物が

あらわれた。年齢は、風乃と同じくらいだろうか。

まぎれもなく人間。

 

「ほう、それがお前の正体か」

 

白雪は驚いて言った。

 

「あ、あなたがたは…?」

 

羽毛b…ではなく、若葉も同様に驚いていた。

庭で倒れていた、謎の男女が目の前にいたからだ。

 

「俺たちの正体を話している時間はないだろう?

 さ、風乃が気づく前にさっさと逃げとけ」

 

白雪は言った。

 

「は、はい。では…」

 

「あー待て。

 最後にひとこと言わせてくれ」

 

「?」

 

「その羽毛布団、なかなか気持ちよかったぞ。

 いくらで売っているのだ?」

 

【お値段】

 

羽毛布団の値段を告げたあと、若葉は足早に

風乃宅を去っていった。

 

「はぁ…」

 

白雪はため息をついていた。

 

「どうしたのです」

 

白雪の横に立っている紳士は、問いかける。

 

「あの羽毛布団、高いのだな。

 今の俺には買えんよ」

 

「住所不定無職の白雪様には、

 酷な値段ですね」

 

「…ハブの皮は高く売れるのかい?」

 

白雪は、自分の手の鋭い爪をきらりと光らせた。

 

【紳士の忘れ物】

 

「さて、私は帰りますよ。

 お邪魔しました」

 

「おい、待て、紳士。

 お前、何か忘れてないか?」

 

「はて? 何か?」

 

「はて、じゃないだろ。

 忘れ物だよ、忘れ物。

 お前、この家に忘れ物をしたんだろう?

 いったいどうするのだ。探さんのか」

 

「今日は帰ります。

 また探しに来ますよ」

 

「ずいぶん悠長な。

 お前がそう言うなら、止めはせんが…。

 ところで、今さら聞くが、何を忘れたのだ?」

 

「ハブを一匹」

 

 

【南の島の雪女】第3話 布団の中の4人 完(といいつつ次ページに少しだけ続く)

 

【第3話 あとがき】

 

最後まで読んでくださった方、途中まで読んでくださった方、

実は、あとがきから読み始めている方。

 

初めましての方は初めまして。

作者です。

 

読んでくださった方、支援&コメントいただいた方、

まことにありがとうございます。

 

羽毛布団がやたら活躍するお話でした。

 

正直、この話を書き始めたころは、

ここまで「羽毛布団」というキーワードを用いるとは

思ってませんでした。

 

私に、いったい何があったんでしょうか。

眠かったのでしょうか。

 

それはさておき。

羽毛布団、羽毛布団、と書いてたら眠くなってきました。

 

これから、ただの布団(2000円)で寝ようと思います。

おやすみなさい。

 

では、次のページで、第3話は最後となります。

最後までどうぞ、お楽しみくださいませ。

 

【青ざめる母親】

 

「痛いですよ、白雪様…」

 

紳士は後頭部に3つほどタンコブをはやしていた。

 

「うるさい!

 人の家にハブを持ち込みおって!

 ハブを見つけるまで、帰さないからな!」

 

「し、白雪~」

 

白雪を呼ぶ声がする。

その声の主は、風乃の母親だった。

 

よろよろと、青ざめた顔で、

白雪に寄りかかる母親。

 

「お義母さん。いったい、どうした。

 その青ざめた顔は!」

 

「く、苦しい…」

 

「ま、まさか! お義母さん!

 ハブにかまれて!」

 

「ノドに魚の骨が…」

 

白雪が、テーブル席の奥を見ると、

風乃の父親もノドをおさえて苦しそうにしていた。

理由を聞く必要はない。

この家族のことだから、おそらく同じ理由だ。

 

「なんだか、俺も苦しくなってきた」

 

白雪はあきれはて、疲れたのか、

骨のささってないノドをおさえ、

顔を青くするのだった。

 

 

【南の島の雪女】第3話 布団の中の4人 ほんとの完

 


 
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