No.229922

【ショートショート】テントリ

川木光孝さん

とある塾に、虫が大量発生。
困りかねた塾長は、殺虫スプレーを購入するが…

2011-07-22 22:44:51 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:734   閲覧ユーザー数:731

 

「塾の生徒たちは秀才ぞろい。

 テストで90点以上は当たり前。理想は100点。

 全員が一流大学を目指しています」

 

自慢げに語る、塾長の猫山氏。

 

ところが、万事がうまくいくとは限らない。

最近、猫山氏は悩んでいた。

 

悩みの種は「虫」。

塾内に虫が大量発生し、生徒が勉強に集中できないでいる。

 

にっくき虫軍団。

主力は、ゴキブリ。クモ。芋虫毛虫に蛾。

たまにムカデやハチ、こおろぎ、ヤスデ。

どこから湧いてくるのか、皆目見当もつかぬ。

 

女子生徒などは悲惨きわまり、

卒倒する者もあらわれ、塾を辞める始末。

顔面にゴキブリがはりついて、

PTSDになった者もいるとか、いないとか。

 

猫山氏は、重大な危機感を感じていた。

 

このままでは生徒たちの受験に影響が出る。

不合格続出。塾の評判も下がる。

塾の評判が下がれば…これ以上、何も言うまい。

 

塾の将来はダークだ。

猫山氏は、ため息が止まらなかった。

 

そんなある日、猫山氏にセールスの電話が届いた。

 

「新型殺虫スプレー『ナイスプレー』販売中!

 このスプレーを1回吹きつけるだけで

 部屋中のあらゆる『虫』が死にます。

 ぜひお買い求めください!」

 

猫山氏はさっそくナイスプレーを購入。

生徒たちを教室に集め、スプレーを教室内に吹きつける。

クモやゴキブリが次々と死んでいった。

「これで虫はいなくなる! よかったよかった!」

猫山氏も生徒たちも大喜び。

これで勉強に集中できる。誰もがそう思った。

 

突然、バタリと生徒が倒れた。

 

「おい、どうした?」

 

生徒は白目をむき、ぴくりとも動かない。呼吸もない。

脈を調べるが、動いていない。

つまり死んでいた。

 

またしても、生徒がバタリ。2人目だ。

やはり死んでいた。

 

なおも生徒たちは次々と倒れていく。

猫山氏だけが生き残った。

 

「バカな! このスプレーは虫しか殺せないはず!」

 

猫山氏はさけんだ。

なぜ生徒たちが死んでいくのか、まったく理解できない。

 

このスプレーは人間には効かない。

現に、自分は生きているではないか。

 

生徒たちの死体の前で、うんうんと小一時間ほど悩み、

猫山氏にある結論が導き出される。

 

「塾の生徒たちは秀才ぞろい。

 テストで90点以上は当たり前。理想は100点。

 全員が一流大学を目指しています」

 

猫山氏は気づいてしまった。

優秀な生徒たちが「点取り虫」だということを。

 

 


 
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