No.229669

【南の島の雪女】第3話 布団の中の4人(8)

川木光孝さん

【あらすじ】
雪女である白雪は、故郷を脱走し、沖縄まで逃げてきた。
他の雪女たちは、脱走した白雪を許さず、
沖縄の妖怪たちに「白雪をつかまえろ」と要請する。

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2011-07-21 23:53:11 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:434   閲覧ユーザー数:427

【受け入れがたい光景】

 

 

冗談のような光景が広がっていた。

 

緑あふれる庭先に。羽毛布団をかぶって。

人が3人寝ている。

 

3食すべてケーキになるような、常識はずれの光景。

受け入れるには、時間のかかる光景だった。

 

「あらまあ。

 あんなに気持ちよさそうに寝て。

 起こすのが悪いわ。

 私も、あの羽毛布団にもぐりたい」

 

母親は満面の笑みをうかべ、

頭のうえにハートを飛び散らせた。

 

「…50万円ですから、あの布団」

 

若葉は、庭から目をそらし、ぽつりとつぶやいた。

 

 

【うなされる風乃】

 

 

「ううん…ハブが…ハブが…

 はなれて、うう…」

 

羽毛布団をかぶっている3人のうち、

真ん中の一人が、うなされている。

風乃だ。

 

「風乃! 風乃!

 起きなさい!

 それは夢よ!」

 

母親は、勢いよく、羽毛布団をはぎとった。

 

「あ…あれ?」

 

風乃は、目をさました。

身体をおこす。

服には、少し土と草がついていた。

風乃は、土と草をはたきおとす。

 

「おはよう。

 ずいぶんうなされてたけど、

 悪い夢でも見たのかしら?」

 

「わたし、遊女になって、

 紳士さんの首をしめていたら…

 実は、白雪の首をしめていて…

 そしたら、ハブにぐちゃぐちゃにされて…」

 

「あらまあ、愉快な夢だったのねぇ。

 …それにしても、この布団、気持ちよさそう」

 

にこにこ顔の母親。

羽毛布団に気を奪われて、風乃の話をあまり聞いていない。

 

 

【若葉、帰ります】

 

 

「じゃあ、羽毛布団は受け取ったので、帰ります」

 

若葉は、風乃の母親から羽毛布団を受け取ると、

丁寧に折りたたみ、そそくさと帰ろうとしていた。

 

「今度は、私もその羽毛布団に寝させてねー」

 

風乃の母親は、笑顔で、若葉に話しかける。

 

「ははーそーですねー」

 

若葉は適当に答えて、視線を下に落とす。

 

庭に、よくわからない、謎の人たちが寝ている。

 

一人は、黒いスーツ姿の男。

顔はかっこいい。ただ、季節感がない。

 

もう一人は、ジーンズ姿の女性。髪は長い。

普通の大人の女性のように見える。

 

いずれも、面識はいっさいない。

 

こいつらも、風乃の呼んだおばけに違いない。

放っておこう。かかわらないでおこう。

 

若葉は、紳士と白雪に触れることなく、

無視して通り過ぎようとした。

 

「あれ? 誰かいるの?」

 

風乃が、若葉の姿に気づく。

 

「ぎくっ」

 

一番声をかけられたくない人に、声をかけられてしまった。

 

若葉は、気づかれたくない一心で、

たたんだばかりの羽毛布団を開いた。

そして、頭にかぶる。すっぽり覆い、正体を隠す。

 

「通りすがりの羽毛布団です」

 

 

 

 

次回に続く!

 

 


 
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