【受け入れがたい光景】
冗談のような光景が広がっていた。
緑あふれる庭先に。羽毛布団をかぶって。
人が3人寝ている。
3食すべてケーキになるような、常識はずれの光景。
受け入れるには、時間のかかる光景だった。
「あらまあ。
あんなに気持ちよさそうに寝て。
起こすのが悪いわ。
私も、あの羽毛布団にもぐりたい」
母親は満面の笑みをうかべ、
頭のうえにハートを飛び散らせた。
「…50万円ですから、あの布団」
若葉は、庭から目をそらし、ぽつりとつぶやいた。
【うなされる風乃】
「ううん…ハブが…ハブが…
はなれて、うう…」
羽毛布団をかぶっている3人のうち、
真ん中の一人が、うなされている。
風乃だ。
「風乃! 風乃!
起きなさい!
それは夢よ!」
母親は、勢いよく、羽毛布団をはぎとった。
「あ…あれ?」
風乃は、目をさました。
身体をおこす。
服には、少し土と草がついていた。
風乃は、土と草をはたきおとす。
「おはよう。
ずいぶんうなされてたけど、
悪い夢でも見たのかしら?」
「わたし、遊女になって、
紳士さんの首をしめていたら…
実は、白雪の首をしめていて…
そしたら、ハブにぐちゃぐちゃにされて…」
「あらまあ、愉快な夢だったのねぇ。
…それにしても、この布団、気持ちよさそう」
にこにこ顔の母親。
羽毛布団に気を奪われて、風乃の話をあまり聞いていない。
【若葉、帰ります】
「じゃあ、羽毛布団は受け取ったので、帰ります」
若葉は、風乃の母親から羽毛布団を受け取ると、
丁寧に折りたたみ、そそくさと帰ろうとしていた。
「今度は、私もその羽毛布団に寝させてねー」
風乃の母親は、笑顔で、若葉に話しかける。
「ははーそーですねー」
若葉は適当に答えて、視線を下に落とす。
庭に、よくわからない、謎の人たちが寝ている。
一人は、黒いスーツ姿の男。
顔はかっこいい。ただ、季節感がない。
もう一人は、ジーンズ姿の女性。髪は長い。
普通の大人の女性のように見える。
いずれも、面識はいっさいない。
こいつらも、風乃の呼んだおばけに違いない。
放っておこう。かかわらないでおこう。
若葉は、紳士と白雪に触れることなく、
無視して通り過ぎようとした。
「あれ? 誰かいるの?」
風乃が、若葉の姿に気づく。
「ぎくっ」
一番声をかけられたくない人に、声をかけられてしまった。
若葉は、気づかれたくない一心で、
たたんだばかりの羽毛布団を開いた。
そして、頭にかぶる。すっぽり覆い、正体を隠す。
「通りすがりの羽毛布団です」
次回に続く!
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【あらすじ】
雪女である白雪は、故郷を脱走し、沖縄まで逃げてきた。
他の雪女たちは、脱走した白雪を許さず、
沖縄の妖怪たちに「白雪をつかまえろ」と要請する。
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