― 曹操Side ―
正直な所、胸の内は悔しさで一杯。
『覇王の器』と自ら自負している私。
そして自ら覇王と成るべく生きてきた。
だけど今の私は自信を持って自らを『覇王』と称せる?
孫策の言葉通りだった北郷をこの目で見た今、私は『覇王』を自負する事に自信をなくしかけている。
孫伯符は間違いなく『王の器』これは揺るがない。
私、曹孟徳も『王の器』と自負している。
だけど北郷は『王の器』を持つ者でありながら『王佐の才』を持っている。
その二つを持ち合わせている北郷は、何もない状況からでも国を興すことができるはず。
だけど、北郷は自ら上に立つことをしない。
そして、自らを省みず他人の為にその才を惜しみなく使う事ができる。
それこそが『王佐の才』と呼ばれる所以。
『王の器』故に『王』に成らず、『王』を知るからこそ『本物』の『王』に仕える。
『王』を知る『天の御使い』が私と同じ『王の器』である孫伯符の元に降り立った。
この事実が『覇王』を自負する私の心に小さな闇を落としている。
「華琳様、そろそろ時間かと」
「えぇ・・・・・・・皆、無礼のないように」
「「「「「御意」」」」」
これから、連合軍を結成していた諸侯に沙汰が下される。
在る者は噂に流され、また在る者は戦勝による利益を得るため、そして在る者は自身の野望のため・・・・・・・。
もちろん私もそれに該当する。
緊急の措置として十常侍の息がかかっている者が居るかもしれない禁軍の代わりに北郷隊が玉間への通路に配置されていた。
その光景を見て、私と北郷の違いをまざまざと見せつけられた気がした。
正しき事を貫いた北郷、間違いだと判っていながらも道を正さなかった私。
私は確かに負けたのだ。
戦も『王』としての器も。
長く続いた玉間への道が開け目的の場所に到着する。
玉座がある中央を隔て左右に分かれている諸侯達。
私は左側へと移動し地に跪く。
中央を挟んだ右側には孫呉勢と董卓勢のみ。
左側は私達連合勢。
立ち位置からどちらが優位かわかるはず。
半刻もしないうちに全ての諸侯が玉間に集まった。
直ぐに皇帝が現れる。
「これより連合軍の詮議に入ります」
大司徒である董卓がそう宣言する。
私の心中は二つに分かれている。
潔く天命を受け入れろと言う私。
我が天命はまだ尽きていないという私。
心中の二人の私が葛藤している間も詮議は滞りなく進んでいる。
「陛下から何かございますか?」
全てを読み上げた董卓が皇帝に問いかけた。
心中が定まりきらないままだけど、もう時間がない。
私を信じ、ここまで着いて来てくれた者達の為にも私はここで屈してはいけない。
だけど、此処で自らの落ち度を認めずにいれば、確実に私だけならともかく、着いて来てくれた者達の天命まで潰える事になる。
ここで反旗を翻せば目の前に居る『天の御使い』は決して許しはしないだろう。
民の為に成らないと判断すれば確実にその者を処断する。
北郷はそれを自身の行動で皆に示して居るのだから。
黄巾戦の捕虜に対してもそう。
全て斬首にしても誰も咎めない中、捕虜になった者達を生かした。
人はそれを優しさと見る者が大半。
だけど、捕虜達の待遇を調べてみればわかる事がある。
揚州に放った細作からの情報では、捕虜になった者達は衣食住を保障された環境で揚州各地の開墾作業に当てられていた。
ただ開墾すれば罪が許されるはずもない。
捕虜になった者達の間には厳しい掟が設けられていた。
捕虜達は組み分けされている。
その組の中で脱走者や、更なる罪を犯した者が出た場合その組の者全てが死罪となる。
その代わり、自分達が犯した罪を悔い、贖罪として必死に開墾した者達はいずれ開放される。
ただし、その裁定は彼ら黄巾賊の被害にあった民達が下す。
斬首の方が以下に楽かわかるかしら?
被害にあった民達が許さなければ捕虜達は永遠と土地を耕さなければいけない。
自分達が害した者達に許されなければ捕虜達の罰は息絶えるその時まで続く。
北郷は優しさと厳しさを均等に使い分けている。
そして、それこそが民が望んでいた物。
私が掲げる『信賞必罰』の理念を体現しているといっても過言じゃない。
もし、孫家の誰かが罪を犯したとしても北郷は情に流される事はないはず。
身を切る思いをしながらも罰を下す為に自ら手を下すでしょうね・・・・・・。
私も同じだから・・・・・・・。
北郷のお陰で決心がついたわ。
私が掲げる『信賞必罰』の理念。
私がそれを曲げるわけには行かないわね。
心の迷いが晴れ、私は顔を上げる。
私の目線の先。
孫策が私を見ていた。
視線が問いかけてくる。
覚悟はできたようね・・・・・と。
私は一度目を伏せ、小さく頷きながら孫策に視線を返しす。
「朕から一つだけ言って置く事がある・・・・・・・・・・・今回の件、先帝劉宏・・・・・そして朕が十常侍の悪行を見抜けなかった事も要因であろう・・・・。
よって、この漢王朝全てにも責があると思っておる」
私は少し驚いた。
私以外も驚いているはず。
皇帝が自分の責を認めるなんて前代未聞なのだから。
驚いて皇帝に視線をやってみれば、皇帝の視線がある場所に向いている事に気がつく。
その視線を追ってみれば妙に納得できた。
視線の先に居るのは皇帝とは別の『天』。
目を瞑り、腕を組みながら少し俯いて・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・。
私の目はおかしくないはず。
私は目を擦り、もう一度北郷を見る。
・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・。
うん、やっぱりそうね。
寝てるわ。
皇帝に視線を戻す。
皇帝は気付いていない。
確実に気付いていないわ。
必死に自身を変えようとしている姿を見せようとしている皇帝。
そんな事は露知らず、豪胆にもこの場で眠りこけている男。
流石に皇帝が不憫になった私は、孫策に合図する。
それに気付いた孫策は北郷と彼女の間を行き来する視線をなぞって男の状態に気付く。
あわてた孫策の様子を見て私は皇帝に視線を戻す。
幸か不幸か、皇帝と目が合ってしまう。
皇帝は話の流れからか、私達の方に視線を移していたらしく、あの二人のやり取りは見られていなかった。
問題の男に視線を移せば、表情が苦痛にゆがんでいた。
少し不思議に思い足元へと視線を落とせば両足を力一杯踏まれているのが見える。
もう一方の足を踏んでいる人物が気になり視線を上げてみれば孫策の右腕と名高い周公瑾。
孫策と周瑜はそ知らぬ顔で『天の御使い』の足を思いっ切り踏み続けている。
その光景が余りにおかしくて笑いそうになったけど何とか我慢する。
信賞必罰よ北郷。
少しかわいそうな気もするけど・・・・・・こんな時に寝ている貴方が悪いわ。
でも、お陰で少しすっきりしたかもしれない。
私は曹孟徳・・・・・・・・自らを『覇王』と自負する者。
皇帝が自らの非を認める程に北郷は正しい行いをした。
それが孫家の利に繋がっていたとしても正しい物は正しい。
たとえその他大勢に疎まれたとしても間違った事はしないというその姿勢を私も見習わせてもらうわ。
この間違いを今後の私の糧にする為に私はこの場所で起こった全てを受け入れる。
「皇帝陛下の意向、確かに承りました・・・・・・・・・。大司徒の私からも申し上げたい事がございます」
「申してみよ」
皇帝の話が終わり、続いて董卓が話し始める。
「陛下の思い、確かに承りました・・・・・・・・・私も同じ思いです。今回の事は私にも大きな非があります。
私は洛陽の為・・・・・いいえ、洛陽の民達の為に働きたいとの思いから大司徒と言う地位を賜りました。
ですが、そこには甘えもあったのだと思います・・・・・・・いいえ、確実にありました。
大司徒と言う地位であれば多くの人を助ける事ができる・・・・・・ただそれだけしか考えてなかったのです。
だからこそ先帝が亡くなられ、大将軍である何進様も亡くなられた後、私を大司徒に・・・と言う十常侍からの要請に答えてしまったのです」
この可憐な少女も北郷に変えられたようね・・・・・・。
洛陽で何があったのかは詳しくはわからないけれど、北郷の何かを見たに違いない。
「私は、大司徒という地位に付いて初めてその力の大きさに気付きました。何の覚悟もなく受け入れた私にはとても扱いきれないほどの力です。
周囲の人たちの助けもあり、何とか洛陽を変えようとしました。
ですが、私は余りにも弱すぎたのです。
裏で十常侍が動いている事も知らず、ただひたすら日々の政務に追われていただけだったのです。
覚悟もなく力もなかった私が身に余るほどの力を持った・・・・・・・。
力を持て余していた私に目をつけていたのが十常侍。
私はそのことにも気付けず、そして利用されてしまいます。
孫伯符様が仰っていました。
何も知ろうとしない、何も聞こうとしない、何も見ようとしない。
私はその全てに当てはまる人間です。
自ら知ろうとせず、自ら聞こうとせず、自ら見ようとしなかった結果が今回の大規模な騒乱を招いてしまったと思います。
この騒乱の原因の一端を私も担っているのです・・・・・・・・・」
そう言い終えた董卓は涙を流しながら俯いてしまう。
私は貴方を褒め称えるわ。
貴方は自分は被害者だと言い切れるはず。
だけど、自らの行いを振り返り、そして自分の非を認めることは容易にできる事じゃないのよ。
この私ですらさっきまで迷っていたのだから。
それに、力を持てば持つほど自分の非を容易に認めることができなくなるの。
北郷を除けば『天』である皇帝に告ぐ力を持っている貴方がそれを認めることは容易ではない。
非を認めればその力を瞬く間に失ってしまうかもしれないのだから。
でも、貴方はそれを恐れずにやってのけた。
相当の覚悟をしたのでしょうね・・・・・・。
「・・・・・・・・・よって、この詮議を終えた後、今回の責をとる為に・・・・私は大司徒の地位を返上したいと思います。
私のような無能者ではなく、御使い様のような御方にお任せになるべきです」
皆の視線が北郷に集中する中、私は別の事を考えている。
自らの責を認め、その地位を自ら捨てる・・・・・・。
貴方の名前は歴史に残るでしょうね。
力を恐れ、投げ出した愚か者としてか、はたまた自らの弱さを認め、より正しく力を使える者に国を任そうとした忠臣としてか・・・・・・。
恐らく後者、私はそう思う。
「先に言っておくが、俺はやらないぞ・・・・・・・俺には帰るべき『国』がある」
北郷のこの一言に・・・でしょうね・・・と心の中で思う。
北郷はこの朝廷を重要と見ていない。
むしろ、今回に関しては成り行き上助けただけかもしれない。
だからこそ『次は無い』と言ったのでしょう。
「・・・・・・・続けます。
今回の連合軍を結成し、世を乱したことに関してですが・・・・・・・・・。
私は不問に・・・「駄目よ」・・・・・え?」
それは駄目よ董卓。
私は董卓が言おうとした言葉を意図的に遮る。
「それは甘えでしかないわ、董仲穎殿。先の発言、貴方は自らの責を取ると言ったわね。
被害者である貴方が非を認め責を取るのに加害者である私達の罪が不問となるのは納得行かないわ」
周囲の諸侯から・・・・余計な事を言うな・・・・そう言いたいのでしょう、敵意が篭った視線が私に突き刺さっている。
だけど私は気にしない。
罪には罰を。
私は、私の信念を曲げないと決めたのだから。
「・・・・・・・・・わかりました。
陛下、連合軍に参加する者達への責に対する罰を進言いたします」
「申してみよ」
「連合軍に参加した諸侯は、今後一年の間、有事の際以外に民から税を徴収する事を禁じたいと思います。
兵を賄う為の糧食などは、まともに領地を治めていれば蓄えはあるはずです。一年程度税収がなくとも、朝廷に税を納めながらでもその領地が潰れる事はありえません。
もし税を徴収しない事で民の生活に支障が出るのであればその領地を返上してもらい、一時的に漢王朝の直轄地とすればいいかと思われます」
そう、それでいいのよ董卓。
貴方は無能者ではないわ。
たったあれだけのやり取りで権力に寄生している諸侯を一掃できるほどの案を出せるのだから。
「ふむ・・・・・・・では、大司徒からの案を採用しましょう」
「では、陛下」
「うむ・・・・・・根拠無き噂に流され連合軍を結成し、世を乱した者達に沙汰を下す!
連合に参加した諸侯は、今後一年の間民から税を取る事を許さぬ!!
もし、領地が乱れるような事があれば即座にその領地を没収し地位を剥奪する!
異議がある者はおるか?異議があるのなら申してよい・・・・・・」
この場、この状況で異議を唱える者なんて・・・・・・・。
「ありますわ!!」
居たわね・・・・・・・・・空気が読めない人間が一人・・・・・・・・。
「麗羽様!!駄目ですってば!!」
「麗羽さまぁ~!!」
「申してみよ」
はぁ~・・・・・・・・。
まさかここで異議を申し立てるとは思わなかったわよ麗羽・・・・・。
「孫策さん達はどうなるんですの!?連合に参加していたじゃありませんか!!」
っちょ・・・・・・・まだ気付いてなかったの!?
「あら?冥琳、私達連合に参加してたの?」
「いや、そんな筈はないが・・・・・・・」
「していたじゃありませんか!!軍議にも顔を出していらしたでしょう!?」
「私達は呼び出されただけよ?」
「その通りだ。私達が洛陽に向かっていた所に連合軍が陣取って居た為、通り抜ける事ができなかったのでな・・・仕方なく陣を張っていた。
そこに、私の元に来いと呼びつけたのは・・・・・確か貴殿だった筈だが?」
「それに私達は、軍議の場でも連合に参加するなんて一言も言ってないわよ」
「へ、屁理屈ですわ!!」
「いい加減にしなさい麗羽・・・・・・・孫伯符の言う通りよ」
流石に麗羽が哀れになって止めに入る。
私もまだまだ甘いわね・・・・・・。
「密かに驚いていた者達も居るみたいだから言っておくわ。
孫呉の兵達はあの行軍中、戦闘行動に繋がる事は一切していないわ。槍は持っていたものの、一切構えては居ないしね。
聡い者達はそれに気付いていたでしょう?
孫呉は最初から戦争をする気が無かった事は明白。その証拠に、この洛陽の前で陣を構えていた董卓軍を目にしても速度を緩める事も無く、
ましてや、武器を構える事すらしなかったのは貴方達も見ていたでしょう?
何か思惑や、打算があったとしても、連合に参加していない事は明白よ・・・・・・」
はぁ・・・・・・常識の無い幼馴染を持つと苦労するわ・・・・・・・。
そんな事を考えながら、私は小さくため息を吐くのであった。
― 凌統Side ―
「ハァ・・・・・・・・ハァ・・・・・・・・」
大変な事になった。
まさかこんな事になるとは予測していなかった。
普通に考えれば心配の種が減ったと喜べばいいはずだ。
だが、何かがおかしい。
こんなにも突然。
こんなにもあっさり。
こんなにも簡単に幕引きされる筈は無い。
急いで一刀様に知らせなければ。
「ハァ・・・・・・ハァ・・・・・・・・」
乗っていた馬を乗り潰してしまった俺は全速力で走る。
洛陽までもう少しだ。
― 孫策Side ―
まったく・・・・・・。
私達の発言を肯定した曹操を見ながらそう呟く。
内心では少し嬉しかったりするんだけれど。
「他に、異議がある方は居ませんか?」
董卓はそう問い掛け、これ以上異議が無いのを確認した後に詮議の場を締めた。
「はぁ~・・・・・・・やっと終わったわね。さて、私達は宿に戻るわよ」
「ちょっと孫策さん!!失礼ではありませんの!?皇帝陛下の御前ですわよ!?」
ま~た面倒臭いのがつっかかってきたわねぇ・・・・・・。
玉間から出ようとした私に突っかかってくる面倒な人間。
「麗羽、ちょっといいかしら?」
「なんですの?華琳さん」
曹操は何故か持っている筆で紙に何かを書いて袁紹に見せる。
「これなんて読むかわかるかしら?」
「その位私にもわかりますわよ!!『からけ』ですわ!!!」
そう言って高笑いをする袁紹を無視して曹操が書いた文字を除き見る。
「のぅ七乃、あれは『くうき』と読むのじゃないかえ?」
「っひ!?み、み、みみみ美羽様がぁ~!!」
「ど、どうしたのじゃ七乃!?」
あ、あはは・・・・・・は・・・・・・・・。
一瞬にして緩んだ空気を小さな咳払いが払拭する。
「袁本初よ、孫伯符は『何』を従えているのか申してみよ」
「孫策さんが従えている『何』かです?・・・・・・・・・・なんでしょう?」
「麗羽様、れ・い・は・様!」
「うるさいですわねぇ・・・・・なんですの猪々子さん?」
「あの人です、あ・の・ひ・と!!」
袁紹の真横でヒソヒソと・・・・・って言ってもまる聞こえなんだけど・・・・・話す袁紹の部下らしき人物。
その人物が指を刺す先を目で追う袁紹。
たどり着いた先の人物を見て、首をかしげる袁紹。
え?・・・・・・・・まさか本当にわかってないわけ?
「あの男がどうしたと言うのですの?」
「だ~か~らぁ~、あの人は『天』なんですってばぁ~」
「そうですよ麗羽様・・・・・城門で皇帝陛下も認めていたじゃないですか・・・・・」
もう一人の部下らしき人物が詳しく説明しているらしい。
見る見る内に袁紹の顔が青ざめる。
「あ、あ、あ、あの『天』を従えていると言うんですのぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーー!!!!」
「のぉ七乃・・・・・・・麗羽姉様はやっぱり馬鹿なのかのぉ?」
「美羽様が・・・・・・・・・美羽様が・・・・・・・・・・・」
七乃・・・・・・・そのまま死なないわよね?
「そう言うこと・・・・・・私は『今の所』は朝廷の臣で居るだけよ。・・・・けれど、私は『天』を頂に掲げない。
私が掲げるのは『民』だけよ。
皆も覚えておきなさい、私達は『民』があってこそ今の地位に居るという事を。
たとえ『天』であっても『民』を害するのであれば、私は容赦なく牙を剥くわ」
私は信念を持って思いの丈を言葉に乗せて放つ。
私は、この信念を持って『王』と成る。
「そう言うことです袁本初。私は『天』だから正しいという考えが間違っていたと気付きました・・・・・・いえ、気付かされたのです。
私は『天』だからと崇められるだけの皇帝になるつもりはありません。
だからこそ『天』と知っていて尚、それを従える孫伯符に『王』を名乗る事を許したのです。
今のこの王朝には『天』を恐れずに意見してくれる物が必要です。
ですから・・・・・「駄目だ」・・・・・・・御使い殿?」
劉弁の言葉を一刀が遮る。
「それでは駄目だ。力ある者に頼り切るのは認めない」
「そうね、一刀の言う通りよ。
私は既に漢王朝を見限っているわ。今までが今までだもの、仕方ないでしょ?
私だけじゃないわ・・・・・・この大陸に住む『民』は漢王朝を見限っている者が大半だわ。
それは、この間の乱で身にしみているはずよ」
これを言った事で反乱を疑われるようならそんな朝廷はもういらないわ。
一刀だって言ってたじゃない。
『漢』はこの先必ず滅びるって。
今ここで立て直すことができないのなら私達の手で終わらせてあげる。
「・・・・・・・・・・では、どうすればいい?」
皇帝の言葉に一刀は反応しない。
・・・・・・・私が判断するべき事というわけね。
「・・・・・・・・・・・・『王』を名乗る事を認めてもらった御礼に教えてあげる。
これは私の持論だけど・・・・『民』の目線で物を見て、公平に判断できる者を側に置きなさい。
本当は自分自身の目で見るのが一番なんだけど・・・・・・・、貴方の立場じゃ無理でしょうしね。
それが出来ないのであれば出来るものを側に置けばいいのよ。
自分にその才がなくても、どかに才を持つ者が必ず居る。
その才を持つ者の中から、この人間なら任せて大丈夫と確信できる者を自らの懐に招き入れる。
私は一度曇った事があるから自信があるわけじゃないけど・・・・・・・まずは、人を見る目を養う事から始めなさい。
まぁ、大司徒が抜ける訳だから代わりになる人物の推薦くらいはしてあげるわ。
最初で失敗すれば、もう後がないわけだしね」
そう言い切った後、一刀を見ると、小さく笑っていた。
ごめんね、一刀。
漢の滅亡を止めてはいけないって言葉はちゃんと覚えてるわ。
でもね、このまま急激に『漢』が衰退すれば、その皺寄せが『民』に来ることになる。
『民』が苦しむ事になるのは出来るのなら避けるべきよ。
それに、私が今現在この大陸唯一の『王』に成ったことで不満を持つものが出てくるはず。
そういった輩は必ず『漢王朝』を傘に着て私達を亡き者にしようとするはずだわ。
だからこそ今の『漢王朝』には真っ当な道に進んでもらわなくちゃいけない。
まぁ、一刀だって自分で『漢王朝』の滅亡を止めちゃったわけだし文句ないわよね?
だから笑ってるんでしょ?
「わかった・・・・・・・今聴いた話は確かに心に刻んでおくとする。
それで、代わりになる人物を推薦してくれると申しておったが・・・・・・・・」
「そこにいるじゃない。統治してる地では公平な君主として評判も高くて才を見抜く目も持ってる。性格はちょーっとひん曲がってるかも知れないけど・・・・・・・・」
そういいながら一人の人物を指し示す。
「・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
「は?じゃないわよ・・・・・・・私は貴方を推薦してるの」
そう言いながら曹操の前に立つ。
「・・・・・・・どうして私なのかしら?私は連合に参加して『漢王朝』利用しようとしたのよ?
そんな輩を推薦するなんて、貴方馬鹿じゃないの?」
曹操は、半分怒りが混ざった声を放ちながら私をにらみつける。
「あら、私は伊達や酔狂で推薦してるわけじゃないわよ?」
「おい、雪蓮・・・・・・・・」
私の背後から一刀が私を呼ぶ。
わかってるわよ一刀。
曹操が力をつけたら私達の敵になるかもしれないって思ってるんでしょ?
それでいいのよ。
私達だけが力をつければ、必ず反感を買う事になる。
『漢王朝』って言う見本があるでしょ?
「ほらみなさい・・・・・・・・北郷だって反対のようじゃない」
「一刀は心配性なだけだからほっといていいの。私はね、貴方を評価してるのよ曹孟徳。
私と並び立つほどの『王の器』を持つ者としてね。
貴方は一刀に良く似てるわ・・・・・・・まぁ、そのひねくれっぷりはまったく似てないけど。
でも、それ以外は似てると思うのよ。・・・・・・・・それに貴方もわかってるでしょ?
断言するわ・・・・・・・ここにいる連合に参加した諸侯の内の大半は私が『王』に成ったことを良く思ってないわ。」
「でしょうね。貴方は力を持ちすぎているもの。
『天』である北郷をはじめ、あの広大な揚州を一気に纏め上げる程の武と知。
そして、それを歓迎する『民』からの信・・・・・・・最後に貴方の『王の器』
これだけ揃っていれば、妬むなと言うほうが無理よ」
曹操の言葉を聴いて・・・・・あぁ~それだけあれば妬まれても仕方ないわ・・・・・と自ら納得してしまう。
苦笑しながらも、私の目は曇ってなかったと確信する。
やっぱり貴方じゃないと駄目。
『王』の私に媚びる事無くそうやって意見を言える者なんて孫家の中にしかいないわよ?
だからこそ私は貴方を推薦するの。
「それよそれ♪
私に意見できるのって呉の将達を除けば貴方ぐらいのものよ。
もう一度言うわ、私は貴方を推薦する」
「・・・・・・・・」
まったく・・・・・・・どうせ、自分の力でのし上がりたいとか、私から情けを掛けられてるんじゃないかとか思ってるんでしょうね・・・・・・。
「曹操、言ってたわよね?自分は私を認めてるって」
「えぇ、確かに認めているわ」
「その時の答えを今返してあげるわ。
私は、貴方を認めてるのよ・・・・・・・同じ『王の器』を持つものとしてね」
「っ・・・・・」
「私と並び立つ程の『王』に成ってくれなきゃ困るのよ。
一刀とそっくりな貴方が『王の器』を持っていないなら一刀もその程度って事になるわ。
そうなれば私の目が曇ってたって事になっちゃうじゃない・・・・・・。
まぁ、ありえないけどね♪」
曹操の顔から徐々に笑みがこぼれだす。
わかってくれたようね。
「アハハハハハハ!流石、私が認めた『王の器』を持つ者ね!
いいでしょう、受けてあげるわ!!
後から後悔しても知らないわよ?
私がこの『漢王朝』を真っ当な姿に戻してみせる。貴方の国に負けないほどの力を持つまで高めてみせましょう!」
「言ったわね、曹孟徳。さっきも言ったけど、もし『漢王朝』が『民』の為にならないと思ったら私達は直ぐに牙を剥くわ」
「その言葉そっくりそのまま返すわ、孫伯符。・・・・もし、貴方達『呉』が『民』にとって危険な存在となるのなら私が息の根を止めてあげる」
「「フフ・・・・・・・アハハハハハハハハハハハ!!!」」
二人同時に笑いがこらえ切れなくなって声を出して笑う。
そうよ、それでいいの曹操。
『呉』だけが力を持ちすぎてはいけない。
力を持つものが一つだけなら必ず綻びが出てくる。
力を付けなさい曹操。
そして『王』に成りなさい。
その時になって初めて、対等の立場で本気の言葉をぶつけ合いましょう。
今は私が先じているけど、貴方なら直ぐに追いつくはずよ。
だから待っているわ。
「話がついたようですね・・・・・・・・では、曹孟徳を私の後任として大司徒に着いて貰おうと思いますが・・・・陛下のご意思はいかがでしょう?」
「その前に一言いいでしょうか?」
「申してみよ」
「ありがとうございます。・・・・・・先に申しておきます。
私が大司徒の任に着くのであれば、陛下には覚悟を決めていただきます。
私は甘くありませんので・・・・・・・・・・」
早速脅しをかけるなんてやるわね。
ま、劉弁の『器』を図ってるんでしょうけど。
「その覚悟とは如何なるものか?」
「では、一つ例を挙げましょう。
私が大司徒となった暁には、たとえ陛下といえども不正は許しません。
陛下といえど、それ相応の罰を受けていただきます」
きっついわねぇ・・・・・・・。
まぁ、それ位の覚悟をしろってことなんだろうけど・・・・・・・。
「む・・・・・・・」
「いかがなさいますか陛下?」
えげつな・・・・・。
脅しをかけた後に満面の笑みで選択を迫るとか・・・・・・・やっぱ一刀に似てるわ。
「・・・・・・・いいでしょう。曹孟徳を董仲穎の後任として認めます」
「どなたか異議があるものは?」
劉弁の発言を聞いて董卓がすかさず諸侯に問いかける。
この状況で口を挟める輩はいないわよ。
内心では納得いかなくてもそれを表立って口にする勇気なんて持ちあわせちゃいないんだから。
「決まりのようね・・・・・・・それじゃ、解散でいいかしら?」
「私達も朝廷から身を引きましたので下がらせていただきます」
「うむ・・・・・・・これにて、詮議は了とする。曹孟徳・・・・いえ、大司徒よ・・・後は任せる」
「御意・・・・・・・では皆の者、これにて詮議は終了する。
連合軍の者は私を含め後ほど勅書を出す・・・・・・・逃げる事はまかりならぬと心しておきなさい」
ふふ・・・・早速本領発揮のようね。
さて、私達はゆっくり休みますか・・・・・。
「さぁ~行くわよ、みんな」
私達は宿に向かって歩み始める。
ここまで色々あった。
色々ありすぎた。
そんな風に今までの事を思い出しながら。
あとがきっぽいもの
王らしく なってきたかな 孫伯符 獅子丸です。
ネタがないので俳句ネタを引っ張っています。
さて、何気にここ数日ハイペースで投稿している気がします。
あれです、ノリにノってるのでキーボードタッチが進みます。
っていうか、ここ最近のTINAMIは重すぎです。
余りにも重いのでTINAMIが重い理由がどこかに出てないかとググって見たところあっさりと原因発覚。
何でもイラスト投稿サイト?でやらかした人がいるらしいですねw
そしてそのサイトの運営の対応がひどかったらしいです。
自分はアルカディアって所から他の作者様がTINAMIで書いていたお陰でここにたどり着いたので、
今問題になっているサイトがどう言うところなのかはさっぱりわかりません。
某掲示板で書いてある批判を見るに運営が・・・・・・ってのはなんとなくわかりましたけどw
まぁ、そのサイトからの難民がTINAMIに流れてきているのが原因らしいです。
コメントの返信で反映されてなかったり、コメント書いている途中で間違って投稿したのが反映されて消そうとしても消せなかったり・・・・。
早く改善される事を願っておりますb
ってな訳で解説?に移ります。
最初は曹操さん。
曹操さんちょっと折れそうになったけど復活する話。
やっぱり曹操さんは凄いです。
自分の非を認めるのって社会に出て上の立場になればなるほど難しいですよね。
一つのミスが命取りになる事だってあるわけで・・・・・・。
小さなミスでも立場が上になれば鬼の首を取ったように非難される事もしばしば・・・・・。
保身に走ったり、自分に危害が及ぶのが怖い人は自分より立場が下の人間に押し付けたりしますしね・・・・・・。
まぁ、そんな人がいる中でこういう決断が出来る人こそ本当に上に立つべきなんだと思います。
お次は凌統さん。
え?なにがあった?
何かあったにしても「ハァハァ」は駄目だろう!
あなた、そっち系の人なんだから!!
以上。
最後に孫策さん。
孫策さんが『王』として自らの考え通りに動く話。
一刀に頼りっぱなしの状態になっていた孫策さん。
『王』としての覚悟を決めたようです。
自ら認めた曹操さんを、わざとけしかけました。
一刀の言っていた『漢王朝の滅亡を止めてはいけない』的な言葉を自らの意思で曲げました。
一刀も結果的に助けたわけだしw
そこから孫策さんは何かを見出したのかもしれません。
これからの孫呉は一刀一人じゃなくて、孫家に仕える将達皆が王の下で活躍してくれるかと思います。
一刀くん無双はここで終わるのかもしれないwww
さて、まだまだ書いてない事がある反董卓連合編です。
董卓達の処遇や、いつの間にか居なくなっていた程普さん。
そして何処に言ったか小悪党。
呉に残っている将達は何をしているのか・・・・・等々。
終盤っぽかったくせにまだ終わらないという(ぁ
ってなわけで、TINAMIはリニューアルしましたが何時もと変わらぬ終わり方で〆ます。
次回も
生温い目でお読みいただけると幸いです。
Tweet |
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第四十三話。
TINAMI様、リニューアルおめでとう!!
投稿したくても出来なくてヤキモキしちゃったYO!!
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