― 孫策Side ―
虎牢関を抜けた先、眼前に迫る洛陽の街。
グダグダ揉めているうだつの上がらない諸侯を放置して私達は軍を進める。
私達に追従してきたのは陳留の曹操、幽州の公孫賛、涼州の馬超、そして中山の安熹県尉である劉備。
私達が抜けた後、うだつの上がらない残りの軍が我先にと追従してきてるらしい。
洛陽が近づくにつれ、洛陽の門前に布陣する軍が目に付いた。
「冥琳」
「あれはこちらに向いているか?」
「・・・・・・向いてないわ。城門をはさんで唯整列してるだけみたい」
「ならば心配ない」
「わかった」
事態がつかめていないのか、進軍速度を落とす軍がある。
と言っても、速度を維持しているのは私達と曹操だけ。
勇んで付いて来た割には結局はその程度の連中だったってわけね・・・・・・。
「曹操軍に告ぐ!!武器を収めなさい!!」
隣で並走していた曹操軍の兵達は一斉に武器を下ろす。
曹操は何かを感じ取ったみたい。
私達孫家の軍は最初から武器を構えてはいない。
他の軍が警戒する中、いち早く現状を見抜く目を持っている曹操に少し感心した。
そんな事をしている内に私達は城門前に整列する董卓軍の直ぐ近くまでに来ていた。
私は軍を止め、馬から下りる。
それに従って冥琳達も同様に馬から下りた。
私は前に進む。
その後ろには連れてきた孫家の将がつき従う。
「遅れて御免なさいね♪」
「別に気にする必要ないわよ」
私の言葉に賈駆が直ぐに返事をしてくれた。
視線だけを動かし、周囲を見回す。
一刀がいない。
視線で賈駆に問いかけるとほんの一瞬目を瞑り、小さく頷く。
一刀が失敗したわけじゃないって事はわかる。
だけど言い知れない不安に駆られたのは気のせいじゃないと思う。
「武器を下ろして正解だったようね」
後ろから聞こえた声に引き戻される。
「流石ね曹操」
「そうでもないわよ。あなた達の真似しただけだもの」
そう言ってフフンと鼻で笑うしぐさを見せる曹操。
その決断をできる人間がどれだけいるかしらね・・・・・・。
曹操が視線を後ろに向けたのに釣られて振り返ってみる。
そこには遅れてきた諸侯達、そして先程名を上げた軍の将達が遠巻きから見ていた。
「何あれ?」
「状況がわかっていないのよ・・・・・・・・連合の頂点があれなんだし」
「あ~、言われて見ればそうね・・・・・・」
曹操との他愛の無い会話。
私は待っていた。
洛陽の街中から聞こえてくる歓声。
その歓声を向けられる人物達がこっちに向かってきてたから。
城門が重たい音を立てて開く。
いっそう大きくなった歓声が響くと同時に見慣れた部隊が出てくる。
「皇帝陛下が御見えです」
賈駆の一言で、その様子を見守っていた諸侯達は驚き、そして一斉に跪く。
「面を上げなさい」
その掛け声に私達は一斉に頭を上げる。
見慣れた部隊が割れ、ゆっくりと進み出てきたのは新たに皇帝となった劉弁その人だった。
だけど私はそんな事に興味は無い。
劉弁の後ろに隠れるように立つ一刀を見ている。
一刀の表情。
何時もの平和そうな表情は一辺たりとも見られない。
今の一刀の表情を私は好きになれない。
きっとあの時もあんな顔をしていたんだと思う。
そんな私の思考を遮る様に劉弁が言葉を発する。
「此度の戦、朕はまことに遺憾である!!
諸侯等の目はちゃんと開いておるのか?諸侯等の耳はちゃんと聞こえておるのか!?朕は真に残念で仕方が無い・・・・・・」
私の耳には劉弁の言葉なんてまったく聴く気が無かった。
だた一刀だけをじっと見つめていた。
一刀は少し空を見上げスッと目と瞑り、小さく頷いた。
隣に控えていた亞莎は心配そうに一刀を見上げている。
影がいないのは何時もの事だけど、玲が見当たらないのが少し気になる。
劉弁の話は終わったのか、張遼に連れられ後ろに下がった。
それと同時に一刀が前に進み出てくる。
あの嫌な表情を顔に張り付かせたまま私達の横を通り過ぎた。
一刀が通り過ぎる瞬間、嗅ぎ慣れた嫌な臭気が鼻につく。
グッと下唇を噛む。
まただ。
また一刀は己を殺すんだ・・・・・・・・。
「そろいも揃って節穴の目をした馬鹿共が・・・・・・・・・・」
一刀の口から放たれた言葉に身が引き裂かれる思いがする。
「劉弁の言った通りだな・・・・・・・・お前達の目は見えていない!!お前達の耳は聞こえていない!!」
ごめんね一刀・・・・・・一刀の言う通りよ。
私には見えていなかった。
私には聞こえていなかった。
一刀が行動を起こすときは全部私達の為。
寿春の時だってそう。
黄巾戦の前だってそう。
そして今回だって。
何かが地面に転がる音がする。
「これを見ろ!!何だと思う!?・・・・・・・・・そこのお前これは何だ!!」
「そ、それは十常侍様達の・・・・・・・・・・・・」
「その通りだ。どうしてこうなったかわかるか!?」
「っちょ、ちょっと待ってくださいます!?さっきから怒鳴っているその男はいったい誰なんですの?」
私は、ただ黙って聴いている事しかできない。
一刀の邪魔をするなと言ってやりたい。
だけど、今の私にそれを言う資格なんて無い。
「俺か?・・・・・・・・「その御方こそ民が待ち望んだ『天の御使い』様です!!」・・・・」
意外な所からその声が聞こえた。
顔を上げてみる。
そこに居たのは見た事も無い少女。
賈駆が寄り添っているところから推察するにあれが董卓か・・・・・・・。
「れ、麗羽様!ボーっとしてる場合じゃないですって!!」
「麗羽様!!早く座ってください!!」
後ろから聞こえてくるどよめき。
一刀を目にした事がある人なんて私達孫家を除けば、そう多くはない。
噂に聞いた程度で顔を見た事が無い者の方が多い。
「あ、貴方は誰ですの!?」
「私は董仲穎。劉弁様のもと、僭越ながら大司徒の地位を賜っていた者です」
周囲が更にどよめく。
そりゃ、驚くわよね。
悪逆非道で名の通った董卓があんな可憐な少女じゃ驚いても仕方が無い。
私は董卓をじっと見つめる。
董卓の表情は悲しみの色で染まっていた。
あの子は一刀が何をするのか知っている。
私の直感がそう告げた。
「話を戻そう・・・・・・・・そこに転がっている十常侍は罪を犯した。だから俺が処断した」
口の端から暖かいものが流れ出す。
「連れて来い」
一刀の呼びかけに、董卓達の後ろに控えていた兵達が男を引きずってくる。
「こいつが今回の件の首謀者だ・・・・・・・・・何かいいたい事はあるか?張譲」
私は立ち上がる。
そして一刀の声がする方へと身体を向けた。
隣に居た曹操も私の後に続く。
「曹操、良く見ておきなさい」
「わかっているわ」
「あの男は私が知る限り、この大陸の誰よりも優れた器を持つ男よ」
「・・・・・・・・そのようね」
私は曹操に向けてそう告げた。
貴方ならわかるはずよ曹操。
貴方と一刀は良く似ている。
悔しいけど私は一刀とは違うわ。
誰かの為に別人に見えるほど仮面を被る事なんてできないから・・・・・・・。
そんな事を考えながら、私は一刀の背中をジッと見つめる事しかできなかった。
視界に写るのは張譲の猿轡を取り払う一刀の姿。
「ッゴホ!・・・・・・・わ、私は無実だ!!この男の言っている事は全てでたらめだ!!!」
周囲の視線が一刀に注がれる。
その視線を気にする事無く一刀は張譲を見下ろしている。
「言いたい事はそれだけか?」
一刀の物とは思えないほどの冷たい声が耳に入ってくる。
「私は何もしていない!!嘘じゃない!!信じてくれ!!!」
「どの口がそんな事を言うのだ?・・・・・・この口か?」
一刀は自身の武器の刃を張譲の口元に押し付ける。
もう止めなさい一刀。
そんな事しなくていいから。
一刀が手を汚さなくても私達はやっていけるから。
もう十分でしょ?
もう十分傷ついたでしょ?
後は私達に任せてよ・・・・・・・。
「止めてください!!」
沈黙を破り怒声が周囲に響き渡る。
視界の端に写るその姿に怒りがこみ上げてくる。
「何を止めるんだ?」
「何の権限があってその人をいたぶるんですか!?御使いさん!!」
「逆に問う。お前は何の権限があってこの俺に意見しているんだ?」
「貴方には何の権限も無いはずです!!」
「ほう・・・・・・・・お前にはその権限があるのか?」
「私は小さいながらも県尉の位を持っています!!だけど、貴方は位の無い一介の将に過ぎないはずです!!」
体の奥底から湧き出る怒りが抑え切れそうに無くなる。
そんな私の背中にそっと手が据えられた。
「落ち着きなさい、今貴方が出て行けば全てが台無しになるわよ」
「っ!」
曹操に、そう諭され駆け出しそうになっていた自分の足を無理やりもとの位置に戻した。
「たかが県尉がたいそうな口を利く・・・・・・・・おい、そこのお前。俺はなんだ?」
「・・・・・・・・『天』でございます」
「そこのお前は?」
「『天』と聞き及んでおります」
「お前は?」
「『天』であらせられると・・・・・」
「もう一度聴くぞ劉備・・・・・・・・・・俺は『何』だ?」
明らかに動揺している劉備。
お前みたいな小娘が一刀に勝てるわけ無い。
『何も知ろうとしない』『何も見ようとしない』『何も聞こうとしない』・・・雲を掴むような理想を掲げるだけで自ら何もしようとしない。
そんなお前が、自らの身を削ってまで『何かを知り』『何かを見て』『何かを聞こうとする』一刀に勝てるはずなんて無い。
「で、でも!!それは唯の噂で・・・・・・「事実である」・・・・・・え?」
「その噂は事実だというておる・・・・・・・・先帝である劉宏は、その者を朕と同等の『天』だと認めたのは事実である!!」
「!?」
ほらね。
これこそが、お前と一刀の大きな違いよ。
何もしないお前では一生たどり着くことのできない境地に一刀は居るのよ。
「聞いたとおりだ劉備。・・・・・・・・お前に口出しする権利は無い!!何も知ろうとしないお前達もだ!!!
この張譲と言う男は罪を犯した!!!罪状を述べる!!!
一つ!私腹を肥やすため各地の諸侯から多額の賄賂を受け取っていた罪!!
一つ!自らの権力を行使するため、禁軍内部に素行の知れないものを紛れ込ませ裏で操っていた罪!!
一つ!宦官と言う立場を利用し、後宮内部に秘密裏に使用する部屋を作らせた罪!!
一つ!自らの権力惜しさに大司徒である董仲穎を拉致し、その部下を脅し意のままに操ろうとした罪!!
一つ!・・・・・・・・」
一刀は十常侍の悪行を次々と暴いていく。
一つ告げるたびに後ろに控えている兵が竹管を地面に積み上げていく。
「これで最後だ。
一つ!!!!自らの欲の為、現皇帝である劉弁を拉致し監禁した罪!!
・・・・・・・異論がある者はいるか?・・・・・・・・・・いないのであれば刑を執行する!!!」
そう言った後、周囲を一度見回した一刀は小さく息を吐く。
一刀の様子に、ズキリと胸が痛む。
そんな中、耳に入ったあの声・・・・その声を聞いて、私の感情を抑えることを止めた。
「待ってください!!それが事実か調べたんですか!?その人は漢王朝の重鎮です!!
簡単に処刑すれば王朝が機能しなく・・・・・・・・「黙れ!!!!!!」・・・・・っ!?」
「今度は誰がそう言った!!誰からそう聞いた!!その男が王朝の重鎮だと!?朝廷が機能しなくなるだと!?
お前の目には、この大陸がどう写っていた!?お前の耳には、この朝廷の何が聞こえていた!!お前は民達の何を知ろうとした!?
この男のような者達の所為でこの大陸は疲弊した!!この男のような者達の所為で朝廷は腐っていた!!この男のようなもの達の所為で民達は苦しんでいた!!
何も見ようとしない!!何も聞こうとしない!!何も知ろうとしない!!
掴めもしない理想だけしか見えていないお前は、この男と何も変わらない!!!そんな輩に口出しする権利は無いと知れ!!!!!!!!」
私は身の内に吹き出した怒りを全てぶつけた。
我慢ならなかった。
「まったく・・・・・・・少しは落ち着いたかしら?」
「落ち着けるわけ無いわ」
曹操の言葉に短く返事をし、剣の柄に手を掛け劉備に向かって行く。
その手に何かが触れる。
振り向けば剣を握る手に一刀が触れていた。
「かず・・・・・・・」
一刀は私の耳元で呟いた。
『ありがとう』
何に対しての礼かわからない。
だけど、私の体から嘘みたいに怒りがスッと消えていく。
「張譲の刑罰を執行する!!刑は斬首の後この大門にて晒し首とする!!!十常侍の一族郎党は財を全て没収の後、洗いざらい調べ上げ追って劉弁自ら沙汰を下す!!」
周囲にそう宣言し、一刀は張譲へと向き直る。
奇声を上げながら必死に命乞いをする張譲を冷たく見つめる一刀。
一刀が静かに目を閉じた後、張譲の首が宙に舞った・・・・・・・。
「次はお前だ劉玄徳!!・・・・・・・言いたい事は全て孫伯符が代弁してくれた!!
お前は此処に居る資格は無い!!『天』の権限を持って県尉の地位を剥奪する!!!即刻この洛陽から立ち去れ!!!!」
「「「「「っ!?」」」」」
同情はしない。
一刀が初めて『天』の権力を行使した。
その意味がわかる?
お前にはわからないでしょうね。
お前は『天』から必要ないと言われたも同然だという事を身をもって知りなさい。
「これにて裁きは終了する!!・・・・・・・・劉弁!」
この場に幕を引いた一刀は劉弁の名を呼ぶ。
「はい・・・・・」
「俺が手を貸すのはこれで最後だ・・・・・・・・次は無い。この言葉の意味がわかるな?」
「しかと心に留めておく事にします・・・・・・・・御使い殿、少し此方へ来ていただけますか?」
劉弁に呼ばれた一刀はそれに従い劉弁の側へ行く。
劉弁から何か話しかけられ、じっと私を見つめてくる。
その後、劉弁と言葉を交わした後、私の目の前まで歩いてきた。
「孫伯符」
その様子を見ていた劉弁が私の名を呼んだ。
「・・・・・・・・なにかしら?」
私は、あえて一刀に接する時と同じ目線で話しかける。
一刀の目がそうしろと言ってるから。
「今回の件、朕はそなたに、大きな恩義を感じています。そなたが『天の御使い』を寄越してくれなければ、どうなっていた事か・・・・・。
よって、その恩義に感謝して、そなたに『王』を名乗る事を許します。
『天の御使い』が従うそなたには『王』の地位を許す程度では足りないかもしれませんが・・・・・・・・」
違う。
私は何もしてない。
私は唯了承しただけ。
やったのは全部一刀なんだから。
私が『王』を名乗る資格なんて無い。
「私は!・・・・・え?・・・・・・かず・・・と?」
否定しようとした私の手を一刀が握り締めていた。
目が合うと左右に首を振る。
そして私が良く知る一刀の声が聞こえてきた。
「俺は、雪蓮が『王』として収める国の為に働きたい・・・・・・・孫家の治める地の人達はみんなそう思っているはずだ。
孫伯符と言う民の平和を願う『王』の元で民達と笑って暮らしたい」
そう言って一刀は微笑む。
そして、私の手を離し真剣な顔をして私の前に立つ。
「我!『天の御使い』北郷一刀は切に願う!!
孫伯符よ!『王』と成りて民の為に平和をもたらしてはくれまいか!!!!」
『天の御使い』である北郷一刀は地に跪き、胸の前で拳に掌を合わせる。
『天』が最大限の礼を取り、私に願い、請うている。
後ろでも何かが動く気配がする。
振り帰った私の目に写ったもの。
孫家の将達、孫家の兵達・・・・・・・・・孫家に関わる者、その全てが一刀と同様に跪いていた。
その光景を、遠巻きに見ている諸侯。
その光景を、直ぐ近くで見ている曹操。
その光景を、自身の目で見ている私。
何もできない私が『王』?
一刀に頼ってばかりの私が『王』?
決心ができずにいる私に声を掛けてきた者が居た。
「貴方は何か勘違いしているのではないかしら?孫伯符」
「・・・・・・・私は」
「断言してあげましょう・・・・・・・貴方は『王の器』を持つ者よ・・・・この私、曹孟徳が認めるほどのね。
考えても御覧なさい?あの広大な揚州を一気に纏め上げる程の力を持ち、そして治める地の民・・・・・いえ、そうでない地の民にも名君と称される。
それに、これだけの家臣や兵が何の迷いも無く跪く。
そして何より、途轍もない『器』を持つ『天の御使い』すら貴方の前に跪く。
何を迷っているのか知らないけれど、貴方は間違いなく『王』に成る資格を持つ者。迷う必要などこれっぽっちもないわ」
曹操につられ周囲を見回す。
みんな、本当に私でいいの?
跪いたまま私を見つめていた冥琳と目が合う。
その瞬間、とても優しく微笑んでくれる。
そして、冥琳は小さく頷いた。
私は、改めて一刀に視線を戻す。
じっと私を見つめ居ていた一刀も同様に小さく頷いた。
私は体の中に巡っていた淀んだ空気を限界まで吐き出す。
そして、限界まで新鮮な空気を体中に巡らせる。
一つだけ誓いを立てよう。
民に平和をもたらすその時まで、私は何があろうとも『王』であり続ける。
無様な姿は見せられない。
私を信じてくれている皆のためにも。
そして、こんな私の元で働きたいと言ってくれた一刀の為にも。
私は目を瞑り、もう一度深呼吸をした後、劉弁に視線を向けた。
「我は孫伯符。その恩赦、謹んで受けよう!!
我は、今この時より『王』と成る!!!異議があるものはいるか!?」
宣言と同時に、周囲を見回す。
誰一人文句を言う者は居ない。
「我が『王』よ、国号はいかが致しますか?」
冥琳が一歩前に進み出てそう告げる。
昔、冥琳と決めていた事がある。
もし、私が、孫家の誰かが『王』に成るその日が来たら国の名前はこれにしようと幼い冥琳と二人真剣に語り合った。
冥琳も覚えていたのね・・・・・・・。
一刀には悪いけど、これだけは我侭言わせてもらうわね。
「国号は『呉』とする」
「御意」
冥琳は嬉しそうに笑って立ち上がり跪く兵達の方へを向く。
「聞いたか皆の物!今この時より、我らは孫呉の兵と成る!!我らが『王』、孫伯符の名を汚さぬよう精進するべし!!」
「「「「「「「「「「御意!!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」
「宜しい、では呉の軍師として最初の命令を下す!!!我らが『王』の誕生を祝うため、盛大に雄叫びを上げよ!!!!!!」
「「「「「「「「「「「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」
地を揺るがすような雄叫びが洛陽に響き渡った。
身体が震える。
歓喜からなのかもしれない。
恐怖からかもしれない。
そんな私の身体に優しく触れる手があった。
視線を送ってみると私の横に一刀が居た。
腰に添えられた手。
その手の温もりから伝わってくる何か・・・・・それはとても優しい物。
そのお陰か、私の身体から震えが消えていた。
「一刀・・・・・・」
「ん?」
「これからも私を支えてくれるのよね?」
「もちろん」
そう言って笑う一刀。
その一言で一切の不安が消えてしまった私は何て現金なんだろう・・・・。
そんな事を考えながら、一刀と二人、未だ声を上げ続ける兵達を見つめていた・・・・・・。
― 董卓Side ―
私は、何て弱いんだろう・・・・・・・・。
『天の御使い様』に保護された時そう思いました。
恋さんと別れる時、御使い様の隊の陣形が変わり徐々に閉じていく視界。
隣では呂蒙さんが悲しそうな顔をしていました。
恋さんと並び立つ御使い様。
天下無双と名高い恋さんにも負けないほどの存在感を放っていました。
私を助けるためにたった二人であんな大勢の兵達を相手にあの場に残った御二人。
こんなちっぽけな私の為に命の危険を顧みずにあの場に残る御二人。
私は弱い。
私は情けない。
私は何もできない。
それを再度自覚しました。
御使い様が率いる隊。
その本隊に合流した後、呂蒙さんはすぐさま行動を開始しました。
隊を複数に分け、あっという間に宮中の制圧に乗り出したんです。
そこからはあっと言う間でした。
混乱する宮中を瞬く間に制圧。
十常侍が犯した罪の証拠を押さえる事も忘れていませんでした。
その間に呂蒙さんは私を連れたまま後宮内へと兵を進めます。
騒ぎ立てる侍女達を全て無視してたどり着いたのは見知らぬ暗い通路。
その先で大勢を相手取り、一人戦っていた覆面をつけた男の人。
呂蒙さんは兵に待機するように伝えた後、音も無くその一団に向かって駆け出しました。
私は駆け出す直前の呂蒙さんに、少し恐怖を覚えました。
何の感情も見えない、だけどたった一つの感情だけはハッキリとわかる・・・・・・そんな表情。
呂蒙さんが、音も無くその一団に紛れ込んだ瞬間、聞くに堪えない悲鳴が聞こえてきました。
私には何が起こったのかわかりません。
次々と倒れていく兵達だけが私の目に写っていました。
少しして、一団から誰かが抜け出して来ます。
「頼んだぞ」
顔の見えない男の人は一言そう言って、私に一人の女性を託してきました。
その女性は劉弁様。
意識をなくして居るようですが、落ち着いた呼吸を繰り返しているところ見るに無事なようでした。
男の人は私達の様子に納得いったのか兵達に指示をした後、すぐさま踵を返し阿鼻叫喚を絵に描いたようなあの場所へと戻っていきました。
またしても途切れる視界。
聞こえてくるのは金属がぶつかり合う音と悲痛な叫び。
だけど、それもほんの数瞬。
ぶつかり合う金属の音も、聞くに堪えない悲鳴も止みました。
その代わりに聞こえて来たのは、嗜めるような男の人の声。
そして、所々聞こえる会話と嗚咽を含んだ悲痛な嘆き。
「こんな奴らの所為で・・・・・一刀様がまた御手を汚してしまいました。・・・・・・私がもっと確りしていれば」
「お前は良くやっている。・・・・・一刀様は既に覚悟しているんだ。
一刀様が兵達によく言っているだろう・・・・・・・自分が弱いと思うならもっと強くなれ。そうでなければ誰も守れないとな」
私達を守る兵達の中にはそれを聞いて嗚咽を漏らしている方も居ました。
胸が締め付けられます。
この方達は、それほどまでの覚悟を持っているのだと。
この方達は、自分の信じる御方を想って涙しているのだと。
この方達は、あの御方が傷つく事が辛いのだと。
あの時御使い様はこう仰いました。
『死ぬ気概があるのなら這ってでも生き延びろ』
そしてこうも仰いました。
『泣きながらお前を助けてくれと懇願する友がいるのを忘れるな。それを忘れない限り、お前は死ぬ気で生きる事ができるはずだ』
厳しい口調。
だけどその言葉には確かな優しさがあったのだと・・・・・・今、それに気づきました。
今私が居る場所。
そこから聞こえた男の人の一言。
『そう思うならもっと強くなれ』
私は一人、心の中でその言葉を繰り返します。
自分が弱いと思うならもっと強くなれ・・・・・・そうでなければ誰も守れない・・・・・・・・。
その後、兵を連れて広間へと急ぐ最中もずっとその言葉を心の中で繰り返していました。
「「一刀様!!!」」
先頭を走っていた御二人の声に思考を引き戻され頭を上げた私の目に写ったのは思わず目を背けたくなる光景でした。
床には至る所に転がる兵達の死体。
壁や天井まで飛び散った血。
床にポッカリと残っている何の汚れも無い空間。
そして二対の足跡。
その足跡の先には、ここを出るときに目にした二人の背中。
すぐさま行動を起こした呂蒙さんと覆面の男の人。
御二人が、部屋の隅に固まって怯えている兵達を次々に捕縛していく中、私は腕に劉弁様を抱えたままその場に座り込んでいました。
それからどうなったのか、私は覚えていません。
気づけば寝台の上。
目に写ったのは、泣きながら私に縋り付いていた詠ちゃんの顔。
そして、目を覚ました私を見つめ優しく笑う『天の御使い』様の御顔。
この時、私は覚悟を決めたんだと思います。
『私は弱い・・・・・・・だから強くなろう』
少しでも御使い様の負担を減らせるように。
少しでも御使い様の力になれるように。
そして、守られるのではなく、誰かを守れるように。
あとがきっぽいもの
一刀くん 情けないとこ いつ見せる? 字余り 獅子丸です。
なんて言うか、一刀くんさ、笑いを取るつもり無いだろ?
文字にしてる俺の身にもなってくれ!!
当初の予定とぜんぜん違うじゃないか!!
もっとお馬鹿キャラのはずなのにorz
こんな感じで獅子丸は嘆きながら文字にしています。
と言うわけで解説に・・・・・・・っといきたいんですが、今回は止めにしておきます。
なんて言うか、解説不要な話しな気がします。
『真・恋姫 呉伝 -為了愛的人們-』・・・・・この物語の最大の分岐点になる話です。
孫策にとっても、一刀にとっても、曹操にとっても、劉備にとっても。
此処で大きく運命が変わったといっても過言ではないかもしれません。
ですので、読者様方にこの話を解説して作者の考えを押し付ける様なことはしたくありません。
ですので、今回の後書きは解説無しとしました。
で・・・・・これで終わるのも味気ないので、どうでもいい話。
41話で書きました アイ アム スパルター!!!!な映画のお話。
コメント欄でも書いていますがもう一度ここで紹介します。
映画名『300(スリーハンドレット)』
コメントで書いた通り、ピチピチのパンツを穿いたガチムチマッチョな漢達が盾と槍、そして剣で自らのプライドを守るために命を掛けて戦う話。
燃えます。
萌えじゃなくて燃えます。
そして、戦闘シーンが秀逸です。
物凄くカッコイイ!
カメラアングルや、戦い方、剣や槍、そして盾の使い方。
何処をとってもカッコいいんです。
YouTubeで『300』と検索してみればわかります。
戦闘シーンだけを抜き取った動画が一杯出てくるはずです。
どの戦闘シーンをとってみても燃えます。
何処がどうで・・・・・・って説明したいですが無粋なので止めます。
見てください。
男なら絶対に燃えるはずです。
ヒロインは美人?・・・・・・知りません。
ヒロインなんてどうでもいいぐらいに漢達がカッコいいんです。
獅子丸の書く北郷隊は正直なところこの映画からインスピレーションを受けています。
41話でも書いた円盾の陣形は、映画の中で使われていた物をまんまパクって居ると認めます(ぁ
この映画の集団戦闘シーンから北郷隊の元が出来上がっています。
まぁ、北郷隊の馴れ初めはどうでもいいとして、この『300』と言う映画は本当にお勧めです。
コメント欄にも書いてありました。
『レッドクリフ』にも似たような陣形が出てきていたという話ですが、獅子丸は蜀が主役の映画に期待してなかったので見ていませんw
ですが、『300』に出てきたシーンをパクったんじゃないか?的な話を聞いた事がありますw
擁護するわけではないですが、『300』の戦闘シーンはパクりたくなっても仕方ないほどのカッコよさです。
この後書きを読んで、すこしでも気になったのであればぜひ見てみる事をお勧めします。
めんどくさいと言う方は戦闘シーンだけでもYouTubeで見てくださいb
というわけで、今回はこの辺で
次回も
生温い目でお読みいただけると幸いです
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第四十二話。
物語の大きな分岐点になる話です。
この話以降、原作通りの道を辿るわけではなくなります。
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