No.229508

鳳凰一双舞い上がるまで 幕間2

TAPEtさん

真・恋姫無双の雛里√です。
雛里ちゃんが嫌いな方及び韓国人のダサい文章を見ることが我慢ならないという方は戻るを押してください。
それでも我慢して読んで頂けるなら嬉しいです。
コメントは外史の作り手たちの心の安らぎ場です。

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2011-07-21 18:23:30 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:3651   閲覧ユーザー数:2999

倉√ にょろりと初対面

 

二日後、僕たちは裴元紹たちの山に戻ってきた。

山は入り口が茂みで塞がれてしまっていた。

雛里ちゃん曰く、僕が『再生成』する際に放った炎が過ぎ通った場所には、燃えた木や草などが回復し、生えて来たといっていた。

恐らく、その余波が全ての山に伝わって山は火災の被害を修復した上に、以前裴元紹たちが居た場所まで埋め尽くしたのではないかと思われた。

 

「でも、やっぱり他に生きた人は…ないんですね」

「………そうだな」

 

もし、あの黄金色の炎や粉に人を癒せる能力があるとしたら、木や、草だけでなく裴元紹たちも回復させることができただろう。

でも、誰もあれ以来山から出た者は居ない。ということは、あの力を得てしても、既に死んだ者には通用せぬということ。そして、それはつまり…この山に居た人たちは、倉と僕たち以外には全て既に死んでいたということだ。

 

「………」

「無理やり道を作ることも出来る。中に入るか?」

「……<<ふるふる>>いい」

 

倉は頭を振ってそれを断った。

 

「あのまま…休ませてあげたい…ここにはもう、誰も来ないようにから…」

「……そうか」

 

街の連中がここにまた手を出すことはないだろう。

奴らも人の皮を被っていればそんなことは出来るはずもない。

皆を埋葬してあげたいとも思ったが、こんな状況じゃそれすらもかなわなかった。いっそ、この山でそっと眠らせてあげた方がいいかもしれない。

ここで自分たちの夢を広げた彼らだったが、今は山全てが彼らの墓になってしまった。裴元紹と他の皆は、このままこの山の中で眠ることになるだろう。

 

「おじさま……」

 

倉はただ、目に届かないあの場所で、自分を守って死んだ裴元紹を思いながら暫くぼうっと山を見上げていた。

僕も、雛里ちゃんも目を俯いて、ここで死んだ彼らが良き眠りにつくようにと祈った。

 

・・・

 

・・

 

 

 

「……一刀…雛里ちゃん…帰ろ」

 

しばらくその場所に立っていて、倉は僕たちを振り向きながらそういった。

雛里ちゃんが昨日倉に真名を預けた。

倉の真名なんだけど、真名は親から決めてもらうものらしい。

親がない倉は真名がないわけだけど……そもそも倉という名前も雛里ちゃんが付けてくれたものだし、別に僕だって真名なんて持ってないから…問題ないのだろうと思う。うん

 

「もう大丈夫なの?」

「……うん」

 

雛里ちゃんは倉に近づいて、優しく彼女の抱きついた。

 

「大丈夫だよ…皆、きっと倉ちゃんがこうして残ってくれて喜んでいるから…」

「……うん…ありがとう、雛里ちゃん」

「……」

 

これは悲しい事件だった。倉にとっても、雛里ちゃんにとっても…

だけど、僕たちは立ち止まるわけにはいかない。これを新しい始まりへの要にしなければ、裴元紹たちの死は無駄にしかならない。

裴元紹があれだけ望んでいた平穏な日常…この世界にはそれが得られなくなった人たちが多く居るはずだ。

彼らを助けてあげたいと思う気持ち…裴元紹たちに出来なかった分、誰かにそうしてあげたいという気持ちが僕の心の中に溢れ出ていた。

 

「帰ろう、二人とも」

「あ、はい」

「…うん」

 

互いを抱きしめあっていた二人は僕の声を聞いて振り向いた。

で、その時……

 

『シューー――』

 

「?」

「あわ?」

「…あ」

 

その音の主が誰か分かった時…

 

「あわわーー!!」

 

雛里ちゃんは一気にパニっていた。

 

「へ、蛇、蛇がーーー!」

「え?!ちょっ、落ち着いて、雛里ちゃん?!」

 

山から降りてきた蛇が雛里ちゃんと倉の後に現れた途端、雛里ちゃんは驚いて僕の後に隠れた。

一方、倉は……

 

「………」

『シューーー』

「……美味しそう」

『シイィーーーー!』

「く、倉ちゃん!?早く離れて」

 

流石少女モーグリ(?)。山に住みついていただけはある。

あれ?そういえば、雛里ちゃんはずっと塾で生活してたら薬草採集する時とか蛇とか良くみるんじゃないのか?

 

「く、倉ちゃん!」

「…大丈夫、毒はない」

「それでも危ないからこっち来て」

「何で?」

 

そんなこと言ってるうちに、蛇の様子がちょっとおかしかった。

 

『シューー』

「あわわー!」

「!?」

 

蛇は自ら倉の方に近づいた。そして、倉の足首から脚にぐるぐると回って倉の体を昇ってきた。

 

「っ……くすぐったい」

「倉ちゃん!一刀さん、倉ちゃんが…!助けてー!」

 

雛里ちゃんが僕を抱きついて離さないのをやめてくれたらもうとっくに助けてに言ってるよ!とは流石に言えない。

それに、倉もあまり驚いていない様子なので多分ほっといても大丈夫だと思った。

 

「うん……」

 

いつの間に蛇は、倉の腕にまで昇ってきていたが、倉はそんな蛇がなすがままにほうっとおいていた。

 

「倉、なんか、すごく懐かれてるが…大丈夫なのか?」

「……ちょっとくすぐったい」

「…蛇の知り合いは?」

「……どういう意味?」

 

うん、僕がいっといてなんだが、意味不明だよね。

 

『シューーー』

 

「……連れて帰る」

「あわわー!そ、そんなのダメです!絶対にダメです!」

「いいじゃないか、別に毒蛇でもないし、問題起こしそうでもないし」

「どうして二人ともそんなに平然をそう言えるんですか?蛇ですよ?にょろにょろしてすごく気持ち悪いですよ?」

「雛里ちゃん、なんか蛇にトラウマとかあるの?」

 

嫌、普通女の子…というか一般人なら爬虫類には引くのが当然といっちゃ当然だが……この面子だとどうしても雛里ちゃんの方が変に見えてしまう始末。

 

結局、雛里ちゃんの猛反対にも関わらず、倉は蛇を連れたまま塾まで帰ってきた。

帰ってくる間、蛇とじゃれあいながら結構楽しんでいたが、それを見ていた雛里ちゃんは見るだけでもすごく気持ち悪そうな顔をして、挙句には行く途中で気を失ってしまったので、僕が抱いて山を昇るハメになった。

 

 

 

 

雛里√ ちゃんと言ってくらないと嫌

 

最近、雛里の様子がちょっと変だ。

 

「あ、雛里ちゃん、ちょっとお願いが……」

「あ、一刀さん、今ちょっと忙しいので後で聞きます」

 

と透き通る風のように行ってしまったり…

 

「……一刀、これ食べる?」

「いや、倉、それ毒キノコ…」

「……食べると気持ちいい」

「だからそれは中毒現象……」

「………一緖に気持ち良くなろう」

「お前その言い方危ないから!押し付けるな。どんな毒きのこだよ、それ。おい、雛里ちゃん、ちょっと助けてー」

 

「……二人で仲良くちちくりあってください」

「ぁぁ……」

「はい、あーん」

「ちょっ、マジやめ……!」

 

と酷いように言われたり…(ちなみに犯人は奏だった)

 

ついに昨日は……

 

「あわわー手が滑っちゃいましたー(棒読み)」

 

ガチャーン!

 

「はわわー!雛里ちゃん、大丈夫?」

「キャハ、鳳統ちゃん、大丈夫ですか?」

「……雛里ちゃん」

「…お茶をかぶった僕を心配してくれる人はないのか……そうか…」

「てわわ、一刀さん、大丈夫ですか?拭いてあげます…」

「うん、真理ちゃん、その心遣いは嬉しいけどせめて布巾で拭いてくれない?雑巾じゃなくて」

 

これ、絶対に嫌われてるよねー……

 

 

・・・

 

・・

 

 

 

 

「というわけで、緊急会議をお開きしたいです。議題、雛里ちゃんが僕に嫌味をしてる原因について」

「てわわ」

「キャハハー」

「……サッちゃんにお餌あげなきゃ」

 

で、集めたのがこの三人である。

孔明は今雛里ちゃんと一緖に薬草を取りに行ってる。

あ、ちなみにサッちゃんというのは倉が連れてきた蛇の名前だ。

 

「何か心当たりとかないかな?」

「キャハ、ハーイ」

「はい、奏」

「一刀さんが嫌いになったんじゃないですか?」

「はい、一球からデッドボール入りました。泣くぞこらー」

 

「……うん」

「はい、倉」

「……お腹減ってる?」

「雛里ちゃんが僕に嫌味してるのもう一ヶ月なんだけど」

「……別にいつもどおり」

「違うから。いつも通り違うから。普段どんなふうに見られてたから知らないけど違うから」

 

「てわわ」

「うん、真理ちゃん」

「一刀さんが怒らせたんじゃないですか?」

「僕が何をしたと……」

「そんなの一刀さんが一番良く知ってるはずなのですよ」

「と言っても…心当たりが…」

 

ここ最近、雛里ちゃんに避けられてばかりでどうもそんなことする余裕は……もしかして最初の日に恥ずかしいこと言ってはっちゃけたのでまだ怒ってる?

と言っても一ヶ月もか?謝るまで許してくれないってか?だが、あれは好きな人相手なら誰でもする愛情表現の一つと思……わな…い?

 

「てわわ?どうしてそんな必死に同意を求めるような潤い満ちた目でこっち見てるんですか?話が見えないです」

「キャハ、一刀さん男としてみっともないのですよ」

「僕もここ一ヶ月ほぼMP(Mind Point)削られたんだ。このままもう一度だけでも雛里ちゃんに嫌味されたら部屋にこもってシクシクなくかもしれんぞ」

「……一刀、頑張る<<ポンポン>>」

 

うん、心強いねー、倉は。

多分、倉は早く帰りたいだけなのは分かってるけど、もうちょっと真面目にやってくれ。

 

「そもそも鳳統ちゃんが一刀さんのこと避けてたのって、ここに来てほぼ最初からだったのですよ」

「てわ?そうでしたっけ?」

「多分…一刀さんが変わって色々あって……五日後ぐらいからじゃないですか?」

 

確かに、そのあたりからだった。

じゃあ、あの日以前に、僕が雛里ちゃんの気に障ることをしたということ…。

やっぱりあの部屋で口喧嘩したのがいけなかったのか?

 

「一刀さんが無理やり襲ったからとかじゃないのですか?」

「てわわ!?一刀さん、そんなことを……」

「……獣」

「違うから……そんなことなかったから」

「でも、この前鳳統ちゃんが攻めてたからその仕返しに、というのもありなのですよ」

「待て、それは何の話だ?」

「てわわ…鳳統お姉さん、大胆でした」

「だから何の話?僕が知らない間雛里ちゃん僕に何かしたのか?」

 

事件はますます迷宮に陥りつつあった。

 

 

 

「誘わなかったから…」

「……え?」

 

と、思ったら、答えは思いもしなかったところから出てきた。

 

「……一刀、誘わなかった」

「倉、どういうことだ?」

「……旅、あたしは一緖行くと言って…雛里ちゃんには一緖にいこって言わなかった」

「キャハ……」

「てわわ……」

 

二人とも僕をそんな目で見る理由は……つまりそれが激しくいけないことですと……

 

「嫌、……雛里ちゃんに…言わなかったっけ」

「…うん」

 

うわぁ……やべぇ…すっかり忘れてた。

嫌、もうなんていうか、雛里ちゃんは当然一緖に来てくれるよね、とか一人で思っていた自分がここに居る。

そうか、あの時誘ってなかったのか。水鏡先生に話す時も自然と雛里ちゃんも一緖に行くのだと先生までもが思い込んでいたし、僕さえもそれを疑わなかったのにそうか、僕は雛里ちゃんに何も言わなかったのか。

 

「よし、死のう」

「てわわー!ダメです」「キャハ、やっちゃってください」「………雛里ちゃんにはあたしが言う」

 

1:2で僕は死ぬ方に決まった。

というのは冗談で…

 

「今からでも謝って誘ったら許してくれるかな」

「……死なないんですか?」

「死なない、死なない」

「キャはー…つまんないです」

 

お前ここ最近殴られてないよな。

 

「という冗談はこれほどにしておいて、鳳統ちゃんもただちょっと拗ねてるだけですから、きっとうまくいきますよ」

 

ちょっと拗ねただけで僕はあの一ヶ月あんなひどい目にされていたのか。雛里ちゃん恐ろしい娘。

……そんな雛里ちゃんも好きだけど。

 

・・・

 

・・

 

 

その日、雛里ちゃんが帰ってきて僕の部屋に来た時、

 

「雛里ちゃん、だーいすきーー♡」

 

 

 

ガーン!ガチャーン!パーン!

 

(※しばしお待ちください※)

 

 

 

 

「せー……せー……はぁ……はぁ………////////」

 

あ、相変わらず素晴らしい技……DEATH

 

「……話がそれだけでしたら帰りますよ」

「一緖に居てって僕言ったことなかったっけ」

 

ピタッ

 

体は床にくっついたまま、僕がそう言うと雛里ちゃんは部屋を出て行こうとする足を止めた。

 

「……ずっと一緖に居てって」

「………言ってましたね、そんなこと…」

「……それでお誘いの代わりにはならなかったのか?」

「……」

 

床から立ち上がって雛里を後からそっと抱きついてみた。

 

「ごめん……謝るからもう怒らないで…」

「…嫌いにならないんですか?」

「?」

「こんな……ちっぼけな事であんなに嫌味したのに……不満事あったら自分から話したらいいのに…」

 

……

 

ギュー

 

「自分で言いたくなかったんだろ?……僕に言わずとも分かって欲しかったんだ」

「…言わないと、何も伝わりません」

「言わなくても、伝わる仲になりたい」

「…………」

 

ついつい雛里ちゃんがかわいいから、抱きしめるのがどんどん強くなっていく。

 

「一緖に、来てくれるよね」

「……はい」

「ずっと……」

「……はい、ずっと、一緖に居ます」

「うん、僕も…雛里ちゃんとずっと一緖に居るから…」

 

・・・

 

・・

 

 

 

 

真理√ 私の目にしか見えない小悪魔

 

「孔明の姉だと……諸葛子瑜のことですか」

「ええ、良く知ってますね」

 

それはあの事件から半年ぐらい過ぎた頃だった。

僕が孫策に殺され新しい命を得てから一ヶ月後、荊州にて孫策の母、孫文台の死が全荊州に伝わった。

水鏡先生曰く、最初から孫堅を荊州に連れ込んだのは、荊州の劉表と、揚州の上の地、豫州の牧、袁術の策だったらしい。

両翼の策にハマった孫堅は、荊州のある谷を進軍しているうち、出身不明の部隊に奇襲され、被害はそれほどではなかったものの孫堅ご本人は落石によって命を落とした。

以後孫堅の死体を見つけ揚州に戻った孫策だったが、江東は既に噂を聞いた豪族たちが独立を唱え、もう江東に孫家が立つところはなかった。

以後居場所がなくなった孫策は袁術のところにその身を託した。孫家の家臣たちはばらばらになって荊州、豫州に散った。

 

一方、荊州でも一大事な事件が起こった。

孫堅の死が荊州に伝わってから半月で、荊州の文官の3分の1が自分の仕事に働かず、家に篭ったのである。

理由は簡単だった。

仕事をサボったのは、水鏡先生に教わった人たちや、または先生に恩をきった人たちであった。

劉表の策によって自分たちの恩人で師匠である水鏡先生と、自分たちの弟子が危険な事件に巻き込まれた上に、塾を閉じるハメにまでなったことが知らされた後、先生は何もしなかったのに皆が突然荊州に反旗を起こしたのである。

挙句には、劉表が使者を塾に送って深く謝罪までして、先生が荊州中にサボタージュをやめるように手紙を送って、やっと事件は静まった。

一人の英雄を殺して、荊州全域が一ヶ月ストップしたとすると、損と益とどっちが大きいかは劉表としては微妙であろう。

 

こんな中、元々迅速に連れてこようとした諸葛瑾から、水鏡先生に『現状が収まるまで友として助けてあげたい』という書簡が戻ってきた。

それで水鏡先生はそれから三ヶ月を待ってあげた。

そして、今僕に、諸葛瑾を連れてくるように言ったのである。

 

「他に、行く者はないでしょうか」

 

孫策と周瑜は僕が死んだと思い込んでいるはずだ。バレることはないだろう。

それでも、彼女らの近くに行くことはあまりいい気分ではない。

 

「そもそも、自分は諸葛子瑜さんとは面識もありません。どうやって話せばいいか……」

「私からの手紙を見せてあげたら、彼女も分かってくれるはずです」

 

そう言いながら、水鏡先生は僕に手紙一通を差し出した。

 

「私が直接言ってもいいでしょうけれど、残念ながら私は他に片付けなければ行けないことができて…他の娘たちはまだ幼いから、遠くまでお使いはお願いできません」

「………わかりました。…しかし袁術のところから干渉することはないでしょうか」

「……もし私たち門下のことにまた文句を言おうとする者があったら……今度は政は進まないぐらいでは済まないでしょう。彼らもそれを分かっているはずです」

「…ぁ」

 

先生、すっごく悪役っぽいです。

 

「あ、あと、朱里と真理には言わないでください。後でびっくりさせて上げたいので…」

「あ……それですが…先生……」

 

真理ちゃん…僕のとなりに居ます。

 

「てわわ……」

 

 

 

それで、僕は豫州に向かうことになった。

雛里ちゃんには大雑把に用件を話して、そのままさっさと出発した。

 

「で、どうして付いてくるの?」

「てわわ…だって……早く百合お姉さまに会いたいです」

 

そして真理ちゃんはいつの間にかついてきてました。

 

「いや、帰って来るまで半月はかかるよ?塾で居なくなったら……」

「半月ぐらい居なくても誰も気づきませんから…」

「……それ、言って悲しくならない?」

「てわわ……<<うるん>>」

 

うわ、頼むから泣かないでくれ。

 

「それに……これから一週間は、北郷さんのこと独占できるんですから」

「…はい?」

「てわわ、何でもありません」

「……まぁ、一人で居るよりはいいだろうな。言葉相手が居るのが…」

 

倉は勉強してる間は外出禁止、雛里ちゃんは倉の側においておきたいから連れて来なかったから、来る時にはちょっと寂しいかなぁと思ったし……というか二週間も雛里ちゃんに会えなかったら結構キツイとおもってしまう自分がここに居る。

もはや中毒症状。

 

「北郷さん」

「うん?」

 

ふと振り向くと、後で真理ちゃんが居座っていた。

 

「どうしたの?」

「……足痛くて…もう歩けないです」

「あぁ……」

 

もう結構歩いたからな……塾の中で生活してると体力が劣る。

雛里ちゃんの場合は良く山を回って薬草の採集とかしていたらしいけれど、真理ちゃんはあまりそういうことに加わってそうにないし……

 

「仕方ないな。ほら」

「てわっ!」

 

僕は居座っている真理ちゃんをおんぷして立ち上がった。

 

「てわわ//////」

「港に行く行商人団でもあったら乗せてもらおう。港に着いたらそこからは船だから大分楽だろうな」

「……」

「…真理ちゃん?」

「てわ?!あ、は、はい、そうですね……」

 

結構疲れてるかな。大分声が沈んでる。

 

「そもそも行く必要とかあるのか?孔明から聞くに諸葛子瑜は護衛が必要なぐらいの年でもなさそうだったけど」

「あ、お姉さまはその…ちょっと道に迷い易い人なんです。それで…元々は劉表さんのところに仕えようとしたのが、間違って江東まで流れ込んじゃったのですよ。

「………」

 

何で、襄陽に行く道で江東に流れることが出来るんだ?

それは方向音痴というレベルなのか?

 

「お前の姉妹はろくな人がないな」

「てわわ……ごめんなさい」

 

・・・

 

・・

 

 

その夜、僕たちは港に着いた。

もう遅くなって商人団の船は明日出発するらしい。

僕たちは一泊泊まろうと旅館に向かったのだが……

 

「え、一人用の部屋しかない?」

「はい…この時期だと商人団が多く泊まって…部屋がないわけではないですが…二人用の部屋を一人に泊まらせるのは禁止されてます」

「…てわわ」

 

嫌……あ、ややこしい。

 

「料金倍出すからなんとかなりませんですか?」

「申し訳ありません。港にある旅館共通の規則ですので……」

「てわわ。北郷さん、仕方ありません」

「いや、でも……」

「?」

 

うわ、女将がこっちを変な目で見てる。

 

「…一人室でお願いします」

 

 

一人用の部屋は僕が過ごしていた塾の部屋よりはずっと狭いところだった。

あるのはベッドとテーブル一つにぐらい。

 

「鞄でも持ってくるのだったのにな……」

「ベッド…一つしかありませんね」

「真理ちゃんが寝たらいい。僕は床で寝るから」

「てわ?」

 

布団があったらいいんだけど…まぁ、このままでもいいでしょう。

 

「床でねるって……ダメですよ、そんな背中痛みます」

「大丈夫だよ、17年間そうしてたから……この体じゃなかったけど」

 

椅子でもあったら座って寝るけど、それもない。質低いな、この部屋。

 

「……一緖に寝ましょう」

「……はい?」

「これからもずっと旅館や船でで一人用の部屋しかもらえないでしょうし、一週間も北郷さんを床で寝かせるのはいけないと思います」

「いや、ほんと僕は大丈夫だから」

「私は言われてもないのに勝手に北郷さんに付いてきたんです。そのせいで北郷さんに迷惑かけたり……荷物になりたくないです」

「昼おんぶされたのは?」

「!!」

 

あ、滑った。

 

「………<<うるん>>」

「ああ、わかった、わかった、布団で寝る、寝るから泣かないで」

 

口を縫ってあげたい。

 

・・・

 

・・

 

 

「てわわ…ごめんなさい、駄々こねちゃって……」

「……雛里ちゃんや他の娘には内緒にな」

「はい…どうせ、鳳統お姉さんは私が居ることも気づいてないですし…」

「アハハ……でも、なんか倉には見えた気がするね」

 

あの見舞い行った時も気づいてたし…僕のことも直ぐ分かったし…

やっぱ倉も只者じゃないよな。

 

「あの、腕、貸してもらえますか」

「うん?……ああ」

 

枕が一つしかなかったので、僕が枕を使って、腕を真理ちゃんの方は伸ばすと、真理ちゃんはその腕に頭を乗せた。

 

「てへへ…☆」

「………」

「……あ、あの、北郷さん」

「うん?」

「迷惑ですか…?やっぱり……こうして、北郷さんに構おうとするのって」

 

真理ちゃんは恐る恐るそう聞いてきた。

どうして今になってそんなこと聞いて来るのだろう。

 

「知ってる。真理ちゃんは長く人にかまってもらったことがないんだよね…孔明にも、水鏡先生にも…雛里ちゃんなんてお前が居ることも知らないし」

「……はい。だから…北郷さんの事を知って…本当に嬉しかったです」

「………寂しかったんだよね」

「………」

 

いつも近くに居るのに、誰も気づいてくれない。

僕は自分の意志で一人になっていたけど、真理ちゃんは一人になることを強制されていた。そうなるしかなかった。

世界が自分の存在を気づいてくれない。

それがどれだけ寂しいことだろうか…今の僕にはそれが理解出来る。

以前の僕なら、僕が居たその環境を寂しいと思うことさえも拒絶していた。

でも、今はまたそんなふうになれというと…一人になれというと、僕は多分寂しくて死んでしまうだろう。

 

「私、人の話をこっそり聞くのが好きでした」

「うん?」

「周りに気付かれないから、部屋の中に入っても、誰も気づきません。……あの日も、朱里お姉さまと鳳統お姉さんが夜松明一つにを持って暗い山の奥に入った時も…私はそれを見ていました」

「あ」

 

真理ちゃんって…あの時そこにいたの?

でも、見た覚えは…

 

「でも、私はついて行きませんでした。だって怖かったものですから…」

 

そう、普通、あんな小さい子どもが松明一つをあてにして暗い山の奥に入るなんて…出来ることじゃない。しちゃいけないことだった。

だから、真理ちゃんはそこに入らなかった。でも、雛里ちゃんは入って、そして僕に会った。

 

「もし、私があの時北郷さんに会っていたら……私も……北郷さんにあんなに想われてたでしょうか」

「……………」

 

一瞬言葉に迷った。

言う言葉が見つからなかった。

 

そんな可能性も…あったかもしれない。

でも、僕は雛里ちゃんに会って…そして雛里ちゃんのことが好きになった。

もし、あそこで見たのが真理ちゃんだったら……?

 

「………ごめんなさい、変なこと聞いちゃって」

 

気づいた時は答えてあげるタイミングを完全に失っていた。

 

「私は私のこと気づいてくれる人に会っただけでも…十分嬉しいです。言いましたよね、一生お仕えするって……冗談で言ったわけじゃないですからね。鳳統お姉さんみたいに誘われてはないですけど、勝手に付いて行っちゃいますから…」

「え、嫌、待って……」

「……ダメですか<<うるん>>」

「っ」

 

お前、それ卑怯だぞ(汗)

 

 

「…はぁ…、もうわかった……」

「……てわわ♡」

 

真理ちゃんは僕の返事に嬉しそうに僕の腕に手を絡んできた。

 

 

 

 

百合√ 皆のお姉さん、百合ちゃんだよー☆

 

一週間後、僕たちは豫州で袁術が孫家の者たちに任せた地域の城に着くことが出来た。

 

「子瑜さまから返事をもらいました。どうぞ」

「ありがとうございます」

「ありがとうございます」

 

「おい、今返事が二つ聞こえなかったか?」

「さあ、そういえば、女の子の声が聞こえたような……」

 

・・・

 

・・

 

 

「真理ちゃん……頼むから」

「てわわ、ごめんなさい、つい…」

「諸葛子瑜に会うまで誰も会わなければいいんだけど……」

 

下手しても孫策や周瑜に会うことはない方がいい。

 

「誰だ!」

 

ギクッ!

 

「てわわ、北郷さん、バレちゃいました、どうしましょう」

「落ち着け、僕たちはちゃんと許可もらって入ってきたんだ」

「誰がここに通した」

 

その聞き覚えがある声に向かって振り向くと、そこには太陽に良く焼けた皮膚に、知的そうなメガネをかけている女性が居た。

 

「門番も者にちゃんと許可を得ています」

「ここは城でも一部の人間しか来れない。ここにはなんの用だ」

 

どうやら僕に気づいていないらしい。服も制服じゃないし、顔も違うから全然まあ当然だけど。

 

「子瑜さまに会うために来ました。水鏡先生からの伝言を持ってきています」

「!!」

 

それを聞いた周瑜の額に皺が出来た。

 

「もう時間切れか……」

 

周瑜は唇を噛み締めながらそう呟いた。

 

「その手紙、見せてもらおうか」

「申し訳ありませんが、ご本人以外には見せることが出来ません」

「私は彼女の友たちだ。何も害になることは…」

「水鏡先生がなさることです。例え友と言えど、それによってあの方の怒りを避けることはできないでしょう。孫家の軍師殿」

「!!」

 

周瑜は僕を貫くような視線で見つめた。

 

覚えているぞ、周瑜。

もしあの時お前さえ居なければ、僕は孫策に殺されることはなかった。

だからってお前を憎んでいるわけではない。お前が居なければ、孫策は元には戻れなかっただろう。

でも、おかげで僕は雛里ちゃんに悲しい思いをさせてしまった。

僕はあの日を忘れない。

お前とお前の親友が僕たちにしたことを……忘れると思うな。

 

「子瑜さまがどこへいらっしゃるか教えていただけますでしょうか」

「………付いてこい」

 

周瑜はそのまま振り返って、歩き始めた。

 

「いこ」

「は、はい」

 

僕と真理ちゃんもその後を追った。

 

 

・・・

 

・・

 

 

 

「百合、私だ」

「冥琳さま?」

 

がらっ

 

「!」

 

門が開かれた時、僕は息を飲んだ。

嫌、なんというか……そこにはまた美しい女性が立っていた。

長い金髪を三つ編みで巻いて片方に落とし、その目はまるで世界のすべてを受け止めることができそうな仁慈さ溢れる姿であった。

服は孔明や真理ちゃんみたいな意匠で、帽子がちょっとこぼれ落ちそうになってるのは真理ちゃんと一緖だった。

 

「どうなさいましたか?まだ話すことが…」

「否、今度はお前に用事がある者を連れてきたまでだ。水鏡先生からの者らしい」

「!」

 

それを聞いた諸葛瑾は少し悲しそうな顔をした。

 

「わかりました。ありがとうございます。冥琳さま」

「……では、私はこれで」

「はい…お気をつけて…」

 

周瑜がそのままその場所を後にして、諸葛瑾は私の方を見た。

 

「先生からの…伝言を…?」

「はい」

「…私に戻ってきなさいとおっしゃってますか?」

「それは私も内容を確認していない故で分かりません」

「……分かりました。中へどうぞ」

 

諸葛瑾はそう言って僕を中へ誘った。

僕が中を見ると、真理ちゃんはいつの間にもう中に入っていたという。

余程、姉のことが好きのようだ。

 

 

 

 

「これです」

 

僕は諸葛瑾に水鏡先生からの手紙を渡した。

それを恐る恐る開けた諸葛瑾はその手紙を読み始めた。

 

「………」

「…てわわ…お姉さま」

 

手紙を見ている諸葛瑾を見ながら、真理ちゃんは心配そうなかおをしていた。

それも仕方がなかった。手紙を開ける諸葛瑾の手はとても緊張していた。

 

「…………ん…」

 

手紙を読み終えて、諸葛瑾は手紙を下ろして、淹れてきたお茶を一杯飲んで、落ち着いた顔で私を見た。

 

「だから…あなたがこのすべての事件の原因というわけですね」

「……手紙にそう書かれていたのですか?」

「ええ、その手紙を持っていくものが、天の御使いとして先生が受け入れた山賊の群れと街を融合させようとしたけど、失敗し私の妹と師妹たちを危険に晒した挙句、塾を閉じることに決定的な影響を与えたと…」

「っ……」

「違います!百合お姉さま!北郷さんはそんなつもりであんなことをしとわけではありません!」

 

真理ちゃんが僕のために弁護の言葉を言ってくれたけど、百合にはそれが届かなかったらしい。

 

「自分の存在が、水鏡先生と他の皆にどれだけ迷惑な事をしたかは十分承知しています。お詫び申し上げます」

「………」

 

優しそうだった子瑜の目は、今は完全に私を警戒、軽蔑しているような目つきになっていた。

無理もない。

僕がしたことがどれだけ雛里ちゃんたちを危険な目に合わせたか、そこに居た僕が一番良く知っている。

 

「でも…こうも書かれています」

「?」

 

でも、彼女はそれだけではなかった。

 

「彼は私の一番大事な弟子の一人に、私に教えられなかった、軍師として一番大切なものを教えてあげました。軍師に一番大切な事、自分が成すべきことのために、自分の身の危険を恐れず仕える人のために力を振り絞ること。それを彼女に教えてくれた彼を、私は全身全霊を持って尊重します。彼は私たちにとって災殃よりも祝福です」

「あ……」

「……先生はこんな風に話しを覆すのが好きな人ではありません。いつもはっきりした文章で、人の性質を評価します。そんなあの方が、こんな風に書く人とすれば、その人は人を救い出す真の天の御使いか、それとも極悪の外道でしょう」

 

諸葛瑾の顔は一段柔らかくなっていた。

 

「そして、あなたは私の弟子である娘たちのために命も惜しまなかった。そんなあなたを外道を評する、私は極悪な人ではありません」

 

それから諸葛瑾は頭を下げながら言った。

 

「私のかわいい妹たちを守ってくれて本当にありがとうございます」

「なっ!…あ、頭を下げないでください。自分は……外道と言われた方がもっとふさわしい人間です」

「いいえ、私には分かります。あなたはいい人です。いい人で、人に嘘を着くことができない、いつも本気でぶつけるから、周りから誤解されることもあるでしょうけど、それでもあなたの本性は優しさから生まれています」

「………」

 

諸葛瑾は最初に会った時のあの目をしていた。

まるで僕が本当に極悪外道だとしても、それさえも許してくれそうなそんな目を……

それは自分の師妹たちを心配している仁慈な姉の瞳。

どう見ると、母のそれみたいな感じだった。

 

「会いたくてこっそり塾を出てくるほどもあるお姉さんだね。真理ちゃん」

「え、真理ちゃんがここに……」

 

その時、諸葛瑾は周りを見回った。そして、ずっと隣の席で自分の服の裾を摘まんで見上げている自分の末の妹の姿に気づいた。

 

「…真理ちゃん♡」

「百合お姉さま」

 

諸葛瑾は妹に会ったことが本当に嬉しそうに真理ちゃんのことを抱きしめた。

抱きつかれた真理ちゃんも、姉の元気そうな姿を見て嬉しそうに抱きつかれた。

 

「ごめんね、早く気づかなくて」

「大丈夫です…お元気そうでなによりです、百合お姉さま」

「朱里ちゃんは元気にしてる?雛里ちゃんも?」

「はい、皆元気にしています」

「怪我した人とかは?」

「皆大丈夫です……あ、でも北郷さんは……」

「北郷……あ、そういえば、お名前を…」

「あ、自分は、北郷一刀と言います。姓が北郷で、名が一刀です」

「そうなのですか…私は諸葛瑾と言います。字は子瑜、真名は…百合って言います」

「え?」

 

え、いや、初対面なのに真名を……

 

「てわわ、お姉さま?」

「いいのですか?」

「構いません。妹たちを助けてくれた人ですし、真理ちゃんも真名で呼んでいるのを見ると、大した人だということぐらい分かります。真理ちゃんのことが見えるんですね」

「はい、ずっと…」

「まぁ、それはすごいですね……姉たちもちゃんと気づいてくれないのに…小さい時からかまってもらえなくていつも寂しそうにしていた娘です」

「てわわ…お姉さまぁ…」

 

やはりか……

 

「手紙にはなんと書いてありますか?やはり…自分たちと一緖に帰ってくるように…?」

「……先生は私の判断を尊重するとだけ書いてありました……私に決めなさいと書いてあります」

 

諸葛瑾は迷っているような声で言った。

 

 

「……あなたはどう思いますか?私が……師妹たちのところに戻るべきだと……?」

「…自分の意見は、この状況にとって客観的な判断の邪魔になると思います」

 

諸葛瑾は孫呉にとって大事な人材だ。彼の存在は、蜀の諸葛亮ほどではなくても孫呉に大きな力となったことは確かだ。

でも同時に、彼の息子である諸葛恪によって、孫呉と諸葛瑾の家族たちは最後を迎えることもまた事実。

どの道、バラバラになった孫呉にとっては一人の人材も惜しいだろう。

孫呉のことを考えたところでは、諸葛瑾…百合さんにはここに残ってもらうべきだろう。

 

だが、孫家の現指導者、孫策の手によって僕たちの夢は絶たれた。裴元紹たちの思いは霧散になり、僕は雛里ちゃんたちを失いかけた。

そんなことを考えたら、そんな彼女らを助けるような発言は微塵もしたくもない。

 

「百合さん…あなたが見るに、孫伯符はどんな人ですか」

「……まだ若い方です。一軍を率いるには気迫も、経験もまだまだ足りません。戦争にても経験は豊富も、性質上人の話を聞かない。君主としての経験は積もるとしても、王の器になるには足りないでしょう」

「……随分と低い評価ですね」

「今回あの方が見せてくれた行動からの判断です。選ぶとすれば、孫策さまは私が仕えようと思う方ではないでしょう……ただ、」

「?」

「孫仲謀さま、あの方なら可能性はあります」

 

孫仲謀…孫策の弟、ここだと妹か……

 

「経験はどれも浅いですが、文台さまは孫策さまよりも孫権さまが王の器を持っているとおっしゃっていました。あの方が孫呉の王になれば、私は迷いもなくあの方の為に働くでしょう」

「……でも、孫策の下では迷うのですか?」

「……師妹の仇の人です。乱世で同じ門下の人と戦うことには十分ココロが決まっていましたが、これは話が違います」

 

百合さんは少し考えて、ふと真理ちゃんの顔を見ながらにっこりと笑ってまた僕の方を見た。

 

「部屋を用意しておきます。今日はここで休んで、明日は一緖に出発しましょう」

「戻られるのですか」

 

というか、明日?早くないか?

 

「ええ、真理ちゃんを見ていたら、朱里ちゃんたちの顔も見たくなりました。随分長い間帰っていませんし、一人じゃ帰る事もできません。この度に戻って皆の顔を見ましょう」

「は…あ、お部屋は結構です。孫策に会ってもあまりよろしくないですので…外にもう泊まる所を予約してあります」

「あら、そうですか。ならば……あの、真理ちゃんは…」

「はい、ここで寝かせてくれたら助かります」

 

さすがにここに来るまでずっと一緖の布団で寝たとは言えんな。

 

・・・

 

・・

 

 

 

 

 

余談

 

 

「うん?」

 

城を出て旅館に向かう先、街の一片から騒がしい声がした。

 

「離れろ!こいつがどうなってもいいのか!」

「ひ、ひぃぃい!!」

「おばあちゃん!!」

 

男一人が、老婆の首に短剣を押し付けて何やら物騒になっていた。

 

「おい、どうなってるんだ」

「この辺りで暴れていた黄巾党の残党らしいけど、警邏していた警備にバレて婆さんを人質に……」

「!!」

 

黄巾党…ここにもいたか……

……よし!

 

「おい、そこのお前!」

「!な、なんだ!」

「その婆さんを離せ」

「はん!人質を放せと言われて放すぐらいなら人質にしてもねー」

「…なら、僕を代わりに捕まればいい」

「なんだと?!」

 

まずはあの老婆を安全にしないからには話にならない。

 

「お前がつかまえてる婆さんを見ろ。もしその婆さんがお前のその剣を見て驚いてショック死でもしたら後はお前が死ぬだけだ」

「っ……ぐぬぬ…」

「ほら、その婆さんを放せ。代わりに僕を捕まえればいい。武器もないぞ」

「……貴様、何者だ」

「通りすぎていたただの青年さ。……さあ、どうする」

「……良いだろう。下手なことしたら分かってるな」

「ああ」

 

僕は少しずつアイツの方に近づいた。

アイツは婆さんを押すように放ち、代わりに僕を捕まえる。

 

「っ!」

「大した正義感だな。婆さんを助けるために自分が人質になるとは……」

「………すまん」

「何?」

「はぁああ!!」

 

一気に奴の腕を無理やり僕の首周りから離させた。

咄嗟の僕の動きに対応できず、掴まったと一緖に宙を一度回る。

 

「ぐあぁっ!」

「おい、警備!街の警備はここに居るか!早く捕縛しろ」

「あ、はい!」

 

結構な騒ぎ起こしたが…見てるほど酔ってるみたいだし、これぐらいならまだそれほど重罪には……

 

 

 

 

「その必要はないわ」

 

 

 

 

ブチッ!

 

「…なっ!」

「ぐああああああああああああ!!!!」

 

僕が制圧していた男の口から、生叫びが聞こえた。

そして、いつの間に奴の背中には剣が刺されていた。

 

「何っ!!」

「ありがとう、おかげで助かったわ」

 

上をむくと、

 

忘れもしない。

あの残酷そうな顔。

あの炎の中でもそんなに冷たさに満ちていたその顔が、僕を見下ろしていた。

 

「孫……伯符」

「ぐ、ぐるじぃいい……」

「しぶとい虫ね」

 

ぶちっ!

 

「ぐぁあああ!!」

「おい、やめろ!何故殺す必要がある」

「私たちが収める街殺人騒ぎを起こした。審問する必要もないわ。許すまじ、殺す以外の選択肢なんてない」

「お前にはそんなに人の命が軽いのか。そんなに人の血を流すのが瞬き一つもせずとも出来ることなのか」

「こいつは人じゃないわ…何者かは知らないけど、お婆さんを助けてくれてありがとう。でも、これからはこっちの仕事よ。」

 

孫伯符……!!!

 

「……誰がお前に人の罪を許す許さないの裁きをする権利を与えた。貴様が正義という言い訳を持ってこの人を殺すこと、貴様があの山で無実な人たちを殺したことと、この人が生きるために人を殺してしまうのとどっちが罪深い!」

「!!……貴様、何者?」

「僕が北郷一刀。貴様に一度殺された男が。そしてここで約束する!次に会った時に貴様がまた正義を被って人を殺していると、僕は貴様を殺すことを躊躇しない!絶対にだ!」

「!!」

 

孫伯符……歴史は貴様を英雄を覚えるだろう。

だけど、僕の記憶に貴様は、『獣』以下だ。

 

 

・・・

 

・・

 


 
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