No.224800

真・恋姫 呉伝 -為了愛的人們-第三十二話

獅子丸さん

第三十二話。


黄巾の乱終結寸前。
今回はモブ視点含みます。

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2011-06-26 03:45:08 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:18898   閲覧ユーザー数:14776

 

 

 

― 孫権Side ―

 

 

 

 

 

「右翼出すぎだ!矢を放ちつつ後退!」

 

「左翼はそのまま戦線をいじしてくださ~い」

 

「出すぎよ祭!!って母様も自重してください!!」

 

 

戦が始まりもう半日程経過している。

たかが賊・・・・・しかし、いかんせん数が多い。

押されてはいないが押せてもいない・・・・と言う所だろうか。

 

 

「もう直ぐ日が沈んでしまいますね~」

 

「だな。・・・・・蓮華様」

 

「わかっている。全軍!!戦線を維持しつつ徐々に後退しろ!!」

 

 

(ふぅ・・・・・思春達はもう一刀と合流したかしら。)

 

 

兵達が撤退を始めたのを見て、賊は追ってくる事なく砦へと引き返していく。

それを見届けて自分も陣幕へと足を向けた。

 

 

「はっはっは!右手が使えなくとも堅殿は堅殿じゃの!!」

 

「がっはっは!まさか盾で殴り倒すとはのぉ!」

 

「けっこう痛そうだよね~」

 

「堅殿!帰ったらあたしと手合わせしようぜ!」

 

「いいわよ。

それにしても盾って以外に使い道が多いのねぇ・・・・・。

もっと使いやすそうな物がないか一刀に聞いてみようかしら」

 

 

はぁ~・・・・・・。

宿将達と母様は陣幕で酒を飲みつつ今日の戦の話で花を咲かせていた。

それにしても・・・・

 

(姉様に続いて思春まで一刀の所に居るなんて)

 

私だけ遅れをとっている気がする。

 

 

「失礼します!」

 

「何事だ?」

 

 

陣幕に駆け込んできた伝令に冥琳が素早く反応して詳細を聞いている。

奇襲ではなさそうね・・・・・・。

話終えたのか伝令はすぐさま踵を返し陣幕から出て行く。

此方を向いた冥琳の顔は微妙に眉間に皺がよっていた。

 

 

「何かあったんですかぁ?」

 

「いや・・・・・蓮華様、義勇軍の・・・・劉玄徳が面会したいと」

 

「わかったわ」

 

 

冥琳の表情を見る限り良い話ではなさそうね・・・・・。

陣幕の外に控えている兵を伝令を出す。

それから少したって兵に案内され劉備達が陣幕へと入ってきた。

 

 

「面会に応じていただいてありがとうございます♪」

 

「いや、気にするな。・・・・・・・何故、急に面会など?」

 

 

そう問いかけながら目の前の人物達を観察する。

一人は劉玄徳・・・・・義勇軍を率いる頭目。

贔屓目に見ても目の前の人物が戦場で兵を率いているとは思えない。

もう一人は・・・・・黒髪の女。

その時、黒髪の女が一歩前に出て口を開いた。

 

 

「私から説明しましょう。

孫仲謀殿、不躾だとは思うが、私達に兵を貸していただけないだろうか?」

 

 

突然の提案。

私はその提案を受け冥琳を見る。

冥琳は小さく頷き私の目の前に立つ者達に視線を向けた。

 

 

「ほう・・・・・だが、提案する前にやる事があるのではないか?」

 

 

冥琳は、厳しい口調でそう切り返す。

冥琳の言う通り。

だから私はあえて返事をしなかった。

名も聞いていないのに答えてやる義理はない。

 

 

「っ!?し、失礼した。

我が名は関雲長、義勇軍を率いる将をしている・・・・」

 

「そうか・・・・・で、何故、兵を貸してほしいのだ?」

 

 

私は冥琳に事を任せもう一人の人物に視線をやる。

前の二人とは打って変わって幼い容姿。

どう見ても武官ではないだろう。

義勇軍に文官は必要ない・・・・・となると軍師と言うことになる。

その少女は忙しなく視線を巡らせていた。

 

(まるで何かを探しているようね・・・・・・)

 

 

「・・・・実の所、賊の数が多すぎて私達だけじゃ押さえきれそうにありません・・・・・」

 

 

そう答えた関羽は悔しそうに下を向く。

それはそうだろう・・・・・。

各地で名を馳せているとはいえ所詮義勇軍。

連れている兵の数も、そして錬度もたかが知れている。

さっきまで騒いでいた母様達も、じっと劉備達を見据えていた。

そんな中、母様が突然此方に来て口を開いた。

 

 

 

 

 

 

「それならば今直ぐ戦場から去れ」

 

 

此処にいる誰もが思っていたであろう事を、本人達の目の前ではっきりと言い放つ。

当の本人達も唖然としている。

 

 

「っな!!私達は民を苦しめる賊の倒すためにここに来ているのだ!!」

 

「何を勘違いしているのか知らんが、お前達のような輩に兵を貸すなぞ出来る筈がない」

 

 

母様はそう言いながら私の横に来る。

 

 

「ど、どうしてですか!?

貴方達だって黄巾賊を倒しにきているんですよね?」

 

 

激興する関羽をよそに劉備がそう問いかけてくる。

母様の言っていることはもっともだ。

母様に視線をやると目を瞑り答えようとしない。

まったく母様も人が悪い・・・・・。

私を試しているのだろう。

冥琳も同様に答える様子がない。

私だって母様の娘。

孫家の目指す理想はこの体すべてに刻み込んでいるのだから。

 

 

「そうだ・・・・私達は民を苦しめる黄巾賊を倒しに来ている。

だからと言って兵達を貸せと言われ、はいそうですか・・・と貸せるはずもない。

それに、兵を借りてまで、戦をする必要はあるのか?」

 

「それは・・・・・・」

 

「少しよろしいでしょうか?」

 

 

今まで黙っていた少女が口を開く。

 

 

「なんだ?」

 

「ありがとうございます、私は諸葛孔明、義勇軍で軍師をさせていただいています。

・・・・・失礼ですが、兵を貸せない理由・・・・お聞かせ願いませんか?」

 

「ふむ、では逆に聞こう。

兵を貸さなければいけない理由を聞かせてもらえないか?」

 

 

軍師と聞いて冥琳がすぐさま反応する。

 

 

「私達義勇軍は、現在北門を攻めています。

ですが、もし私達が敗退すれば北門の敵はすぐさま東門、西門へと標的を変えるでしょう。

そうなれば東門を攻めている孫仲謀さん、西門を攻めている曹孟徳さんの両軍への負担は甚大なものになるはずです。

それに正直な所、今の状況では私達は四日持てばいい方です」

 

「ふむ・・・・・・仮にそうだとしよう。

だが、兵を貸したからといってお前達が北門を守りきれる保障はどこにもない。

大方、曹操殿の所にも行ったのだろう?

そして断られたのではないか?」

 

 

冥琳の問いかけに諸葛亮は沈黙する。

その沈黙は冥琳が言った様に、曹操にも断られたと言う事が事実であることの肯定。

その時、沈黙を破るかのように伝令が駆け込んでくる。

 

 

「し、失礼します!!皇甫嵩将軍が・・・・「失礼するぞい・・・・・っと、来客中であったか」」

 

「爺、何の用だ?」

 

「相変わらずじゃのう・・・お主が戦場で暴れまわっていたと聞いて、その話を肴に酒でも飲もうかと思ってな。

・・・・・で、何の話をしておったんじゃ?」

 

「兵を貸してくれ・・・・・だそうだ」

 

「ほう、たしか・・・・・・劉備じゃったかの?

こやつらに兵を貸せと言っても頷くことはなかろうて」

 

「どうしてですか!?力をあわせなきゃあんなに一杯いる賊に勝てるはずないじゃないですか!」

 

 

はぁ・・・・とため息をつく。

所詮は義勇軍・・・・・・。

今、ああ言っている本人は純粋にそう思っているのかもしれない。

だけどそれはあくまで義勇軍だからこそ通用する理屈。

私が口を開こうとすると皇甫嵩将軍が横から割って入ってくる。

 

 

「まぁ、義勇軍であるお主等にはわからん事じゃろうて・・・・・。

そうじゃの、わしの所から援軍を向かわせよう。

南門は賊の将の方針か知らんが、積極的に攻めて来んようじゃからのぅ・・・そっちに兵をまわしても問題ないじゃろう。

但し、お主等に兵を貸すわけではないからな?

朱儁をそっちに行かせるから、うまく連携取ればよかろうて。

と言うわけじゃ・・・・・わしらは今から酒を飲む。

お主達もさっさと帰って明日に備えるがいい」

 

「あ、ありがとうございます!!・・・・・愛紗ちゃん、朱里ちゃんかえろっか。

孫権さん・・・・・ご迷惑おかけしました・・・・・。

それじゃ、失礼します」

 

 

そう言って劉備達は陣幕から出て行った。

なんだかとても後味が悪い面会だったわね・・・・・・。

 

 

「ったく、爺は相変わらず甘い・・・・・・」

 

「別に良かろうて。

いくら有名であろうと一万に満たない義勇軍だけで抑える事なんぞできんとわかりきっておったしのぉ。

それに兵を貸すわけでもない、朱儁も旨く立ち回るじゃろうしな。

ほれ、堅苦しい話は終わりじゃ」

 

 

将軍はそう言ってさっきまで母様達が飲んでいた場所まで行き、

腰を下ろして酒を飲み始めた。

それに伴い母様達も何事もなかったかのように杯を傾け始める。

そして冥琳はため息をつきながら明日の準備をすると言い残し陣幕の外へと出て行った。

残された私と穏。

 

 

「穏・・・・・あれでよかったのだろうか?」

 

「あれでいいんですよ~。

こう言っては何ですけど、あの人達に兵を貸す義理はありませんし。

それに兵と言えども一人の人間、孫家の兵は愛すべき民であり家族ですからねぇ」

 

 

穏の言葉を聴き、密かに安心する。

私は間違ってないのだと・・・・・・。

ふぅ・・・と息を抜いて椅子に深く腰掛ける。

姉様だったらなんて言ったのかしら?

私は今、姉様の代理としてこの椅子に座っている。

正直言えば私にはまだ早いと思った。

姉様のように、揺るがずに堂々と王としてここに座るには、私はまだ未熟なのだと改めて思い知る。

姉様はいったいどれだけの重責を背負っているのだろう。

そんな事を考えている時ふと思い出す。

 

 

「一刀の所に送った伝令はまだ帰って来てないのか?」

 

「帰ってきてませんねぇ~。

ですが一刀さん達から洛陽を発った・・・との知らせは届いていますから明日には此処に到着すると思いますよ~」

 

「そう」

 

 

明日になれば一刀にあえるのね。

姉様が迷惑かけてなければいいのだけど・・・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

― 甘寧Side ―

 

 

 

 

 

 

「お待ちしておりました雪蓮様」

 

「久しぶりね思春」

 

「おかえりなさいませ雪蓮さま!」

 

「明命も久しぶり♪」

 

 

南陽の黄巾砦から四里ほどの場所。

私達はそこで雪蓮様、それに一刀殿と合流した。

 

 

「二人とも久しぶり」

 

 

そう言って一刀殿は私たちのところへと歩み寄ってくる。

 

 

「よくぞご無事で」

 

「お久しぶりです一刀様!」

 

 

一刀殿達の様子を見るに洛陽での事は成功したと見ていいだろう。

流石は一刀殿というところか・・・・・。

 

 

「亞莎も久しぶりです!」

 

「はい!明命も元気そうで何よりです」

 

 

私も亞莎と挨拶を交わし、久しぶりの再会を喜んだ後、現状と冥琳様の策を伝える。

 

 

「なるほどねぇ♪・・・で、私は?」

 

「雪蓮様は北郷隊の一部を護衛に付けて本陣へ・・・・・との事です!」

 

「っちょ!?明命、それホントなの?」

 

「はい!!」

 

「え~・・・・・・・私だって暴れたいのにぃ・・・・・・・」

 

 

雪蓮様・・・・・・・・。

相変わらずご自由な方だ。

一方、一刀殿はすぐさま亞莎と相談し雪蓮様の護衛を選出し始める。

一通り終えた後、私達は冥琳様の策を成功させるために移動を始める。

 

 

「んじゃ、亞莎の案で行こう・・・・・二人もそれでいいよな?」

 

「はい!流石亞莎です♪」

 

「特に問題ありません」

 

「んじゃ、護衛隊の皆!そっちは任せたぞ!

決して孫策の言うことを聞いちゃ駄目だからな!!」

 

「「「「「御意!!!」」」」」

 

「っちょ!一刀!?」

 

「いや、言っておかないと絶対突っ込むだろ?」

 

「少しは信用し・・・・「冥琳様からも同様の事を言われています」・・・・・冥琳!!」

 

 

流石は一刀殿。

雪蓮様の性格を見抜いておられる。

何気なく一刀殿に視線を向けると視線が交差し柔らかな笑みを向けられる。

急なことで恥ずかしくなり慌てて目をそらす。

私が一人浮ついた気持ちになっていると前方の兵から報告が届く。

 

 

「前方二里に砦、そして砂塵を確認!!」

 

「よし・・・・・んじゃ雪蓮、寄り道せずに本陣に向かうんだぞ」

 

「そんな子供にお使いを頼むように言うなー!!・・・・・・一刀、無理はしないでね」

 

「あぁ、雪蓮も気をつけてな」

 

 

お二人はそう会話を交わし部隊は二つに分かれる。

 

 

「さてと、影!」

 

「御側に」

 

「もう驚かないぞ・・・・・っと、配置は?」

 

「問題ない」

 

 

相も変わらず食えない男だ。

間諜の腕は一流だが性へ・・・・・もとい、性格が・・・・・。

 

 

「よう、甘寧・・・・・一刀様に恥をかかせるなよ?」

 

「ふん、貴様に言われるまでもない」

 

「お、お二人とも喧嘩はいけません!!」

 

 

明命が慌てて止めにはいる。

突っかかってくるのはこの男で、私は別に相手をしていないのだがな。

 

 

「はいはい、おふざけはそこまで・・・・・亞莎、もう一度確認を」

 

「はひ!

私達は黄巾賊が根城とする砦の中に思春さんと明命を無事に送り込むこと最優先とします。

砦は中心に岩山を抱える放棄されていた物をそのまま根城として使っています。

門は東西南北に配置されており東に我ら孫家、西に陳留の曹孟徳、南には皇甫嵩将軍。

そして北には義勇軍と、報告によれば皇甫嵩将軍の所から朱儁将軍が援軍についているそうです」

 

「義勇軍?・・・・もしかして劉備か?」

 

「はい、確かそのような名だと」

 

「将は黒髪の強そうな人が一人、赤い髪の小さな将が一人、あとは軍師らしき女の子がいましたよ!」

 

「ありがとう明命。

前二人はある程度予想がつくとして、軍師か・・・・・・・少し早いな」

 

 

一刀殿はそう呟くと何かを思案している。

皆その様子を見守っている。

 

 

「いや、今考えても一緒か・・・・・ごめん亞莎続けて」

 

「はい!

先に述べたとおり進入できるのはその四つの門しかありません。

賊は篭城戦ではなく野戦を選択しているのを見るに明確な軍師などは存在していないと見ていいと思います。

そして私達のとる行動は1つ。

門が開いてる場所を狙っての一転突破、そして離脱」

 

 

簡単にそう言ってのける亞莎。

はたから聞けば無理だと跳ね除けられてしまうような策だ。

だが一刀殿が反対しない所を見るに不可能ではないと言う事。

明命は多少不安がっては居るが私はそうでもない。

一刀殿とその一刀殿が率いる隊はこの大陸でも異色の存在。

どう動くのか・・・・・それを知るのは一刀殿本人とその軍師である亞莎、そして冥琳様・・・・・・認めたくは無いが凌統のみ。

 

 

「亞莎、そんなに上手くいくのでしょうか?」

 

「問題ありませんよ明命。

一人の脱落者も無く無事にお二人を砦の中までお送りします!」

 

 

一刀殿に付いて日が浅い亞莎ですら自身をもってそう言えるのだ。

私は一刀殿を信用して口を挟まない。

むしろ一刀殿の名を貶めることにならないようにと奮起しているほど。

 

 

「二人は門に突入した瞬間に陣外に出られるよう左右に穴を開けるので、そこから速やかに潜入をお願いします」

 

「「わかった(はい!!)」」

 

 

「報告!!開いている城門は北門のみ!!義勇軍、朱儁軍は押されており、賊はその隙を付いて北門から続々と出てきているようです!」

 

 

伝令の言葉に一刀殿と亞莎が顔をあわせ頷く。

 

 

「恐らくは他門と比べ北門を攻める兵が劣っている事が原因だろうな。

数は多くても所詮は賊、強い者を相手にするよりも弱い者へ・・・・と言った所か」

 

 

凌統の言葉に頷く。

認めるのは癪だがその通りだろう。

 

 

「まぁ、北門を攻めてる人達には申し訳ないが俺達にとっては好機。

皆、準備はいいか?」

 

「「「「応!!!!」」」」

 

 

いよいよだ。

一刀殿との初めての共同作ぎょ・・・・・では無かった、共同作戦。

気を引き締めて行くとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

― 朱儁Side ―

 

 

 

 

 

それは突然の事だった。

後方より砂塵が上がって居るとの報を受けた。

そして、その砂塵は我らと義勇軍の間を悠々と抜けていく。

 

 

「なんだあれは・・・・・・・・」

 

 

目の前を通過して言った物。

白銀の光を反射するそれはまるで1本の巨大な槍。

前後左右を盾のようなもので覆われていた。

われわれの横を通過して行った巨大な槍は黄巾賊と相対すると同時に一本の牙門旗を掲げた。

 

 

「炎緋に銀で十・・・・・・まさかあれが・・・・・」

 

 

炎緋の牙門旗は孫家の軍色。

確か孫伯符の用いる牙門旗の色であったはず。

そして『十』。

賊討伐の際に耳にしたことがある。

鉄壁の守りを誇り、いかなる攻撃も跳ね除ける隊があると。

そしてその隊を率いるのは『天の御遣い』。

そしてその隊の掲げる牙門旗には『十』の一文字。

牙門旗を掲げると同時にそれは動き出す。

巨大な槍は賊の大群に躊躇することなく徐々に勢いを上げてぶつかった。

 

 

「何と言う事だ・・・・・・・・・」

 

 

あっという間にそこには大きな穴が開いた。

巨大な槍よりも大きな穴が。

賊は何が起こったのかわからないのだろう。

怒声、悲鳴、困惑。

様々な感情が見て取れる。

そんな事はお構い無しと言うようにその巨大な槍はさらに勢いを増し、門からあふれ出てくる賊をなぎ倒して行く。

 

 

「朱儁殿!!今が好機かと!!」

 

 

部下からの進言で我に帰る。

あまりにも信じられない光景と勢いに目を奪われていた。

 

 

「全軍突撃!!」

 

 

一斉に我が軍は駆け出す。

目の前の賊は突然現れた部隊の一方的な攻撃に、唯でさえ纏める者の居ない賊軍は浮き足立っている。

向かってくる賊を切り捨てながら、巨大な槍が通過した場所にたどり着く。

その場所はもっと凄惨な状況だと思っていた。

とてつもない勢いで巨大な鋼の槍の一撃を受けたのだ。

だがその場所に臥して呻きを上げている者達ばかりだった。

死に至った者は少ない。

賊は一様に鈍器で殴られた様な傷が目立つ。

腕を骨折している者、足を骨折している者、その両方を骨折している者。

それを見て気付いた。

あの部隊の攻撃は致命傷を避けては居るがその攻撃を受けた賊は、皆戦線に復帰できそうにないのだ。

そしてもう一つ。

あの部隊に所属しているであろう兵士の死体が見当たらない。

普通は賊とは言えあれほどの敵にぶつかれば、必ず死傷者が出る。

戦とはそう言うものであり、それが普通なのだ。

だが、この場にあの部隊の兵の痕跡すら見当たらない。

あの部隊が通った場所は敵も味方も倒れておらず、倒れているのはその道筋を塞いでいたあの部隊の外郭に位置する賊のみ。

その様子は、まるで船が水を掻き分け進んだ道筋のような印象を受けた。

その道筋が続く先を見れば、あの部隊が未だ勢いを増しながら一直線に門へと向かっていくのが見て取れた。

 

 

「何と言うすさまじさだ・・・・・・・私達も負けてはおれん!!

全軍!賊共を砦から引き離せ!!あの勇敢な部隊を援護するぞ!!!」

 

「「「「「「「「「「「「オオオオオオオーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」」」」」」」」」」」」

 

 

私は周囲に指示を出しながら、巨大な槍を見つめていた。

城門に近づいたそれは城壁から降り注ぐ矢すら物ともせずに城門の中へと消えていった。

それを見届けて辺りを見回す。

たった一つの部隊が次々と迫り来る大量の賊を難なく蹴散らして、押され気味だった戦況をあっという間にひっくり返してしまった。

我が軍よりも遅れて動き出した義勇軍も戦線を押し上げている。

徐々に賊の中には逃亡者も出始める。

たった一部隊だ。

そのたった一部隊が賊軍の命運を変えたのだ。

賊共にとっては恐怖以外の何者でもないだろう。

近づく事もできずに一方的にやられてしまったのだ。

逃げ出したくもなるだろう。

不謹慎なことだが私の思考は既に目の前の戦には向いていなかった。

そんな中、急に盛大な雄叫びが聞こえてきた。

方角は東。

 

 

「朱儁様!!砦の各所から火の手があがっております!!」

 

「これが狙いだったのか・・・・・・・・」

 

 

砦の各所から炎が上がり賊の叫び声が木霊している。

 

(終わったな・・・・・・)

 

心の中でそう呟き、周囲の兵達に最後の命令を下す。

 

 

「逃げ出してくる賊どもを蹴散らせ!民を苦しめた賊を決して逃がすな!」

 

 

短い返事をし、兵達は逃げ惑う賊を追って動き出しす。

それを見届けた後、私はあの部隊が駆け抜けて行ったであろう東方を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

― 凌統Side ―

 

 

 

 

 

「前方に黄巾、方位は現状維持!」

 

「「「「「「応!!!」」」」」」

 

 

俺は部隊の中程に位置し、進軍速度にあわせ駆けながら周囲の様子を逐一部隊に伝えていく。

巨大な盾で囲まれた、外も確認できない状況でどうやって見ているのかって?

答えは簡単だ。

一刀様の天の知識を用いて作られた厳密には違うらしいが『潜望鏡』と言う名の小さな穴を覗けば壁盾の高さ以下からでも周囲を確認できる優れた道具を使っているからだ。

何時もなら戦場を見渡せるような場所に飛ばした細作が『手旗信号』と呼ばれる音のない暗号で周囲の状況を知らせてくれる。

その送られた信号は部隊や軍の各所に配置した細作が逐一軍師や将に詳細を伝える。

それに一刀様は孫家の将やそれに伴う軍師にも同じように『潜望鏡』を渡していて自分の目でも周囲を確認できるようになっている。

一見不便なように見えるが此方からは相手を知ることができる、しかし相手からは此方の様子をうかがうことが出来ないのだ。

実の所、城攻めには一切向いてないと言う弱点があるが・・・・・。

 

さて、そんな事は今はどうでもいいか。

細かな状況を俺の目の前にいる一刀様に伝える。

 

 

「外郭!!槍盾を展開!!円盾隊は盾を用いて槍盾を固定しろ!!ぶつかるぞ!!押し負けるな!!!!」

 

「「「「「「「応!!!!!!」」」」」」」

 

 

俺達は『蜂針』と言う陣を敷いている。

元々はこんな突撃に使う陣ではなく、金剛陣と組み合わせて使う陣形なのだが、賊相手にはこれでも十分な威力を誇る。

仕組みは単純。

本来は金剛陣の中央先端、そこから蜂の針のように飛び出て敵陣に突き刺す。

そしてその場所を押し広げ毒と言う名の味方を敵の中に打ち込む。

用途としては敵本陣強襲や広がった敵陣の分断。

打ち出される味方部隊の兵種によって敵に与える効果も使い方も変わってくる。

そして今回、その毒の役割を担うのが『甘寧』と『周泰』だ。

注入する毒はたったそれだけだ。

小さな二つの猛毒。

その毒を打ち込むだけの今回は針のみで行動できる。

簡単に言えば蜂の腹から切り離された針が自由に動き回っている・・・それが今の北郷隊だ。

そしてその針は棘を生やしていた。

 

 

「影、方向は大丈夫か?」

 

「あぁ、問題ない・・・・・この勢いのまま・・・・・・・来るぞ!!!堪えろ!!!!!!」

 

 

俺がそう言い放つと同時に兵達は手に持った盾とその隙間から突き出る槍の衝撃に唸りを上げて耐える。

この隔絶された陣形の外から聞こえてくるのは痛みと恐怖による叫び。

一刀様も人が悪い。

一思いに殺してやれば良いものを・・・・・。

そう思ってしまう。

一刀様曰く。

 

『むやみやたらに殺してしまうのは獣以下、酷いと思うかもしれないけど殺さずに生かす・・・・・それ相応の怪我はしてもらうけどね』

 

 

だそうだ。

優しいのか鬼畜なのか良くわからん。

だが戦略としては理にかなっている。

相手を殺すよりも怪我をさせて生かすことによって相手の士気は大きく下がるだろう。

そして人は目の前で苦しむ者を見れば、無意識にそれを自分に置き換えて恐怖する。

ある者は目の前で苦しむ者達を助けようとするだろう。

ある者は目の前の光景から恐怖に駆られその場から逃げ出すだろう。

そして一番の痛手・・・・・軍にとって怪我人は足枷でしかないのだ。

戦に参加できなくなった者を放置すれば、それは非人道的でそんな事をする主に誰も付いては来ないだろう。

だからと言って助ければ、軍にとっては戦働きの出来ない人間を抱え込む事となる。

少数ならまだしもそれが大人数になれば戦に出れない者の為に兵糧を消費することになる訳だ。

そして人数は変わらないまま戦に出る人間は減る。

あくまで理論上の話だが極めればこれほど効果的な戦略はない。

まぁ、一刀様はその後に言葉を付け加えた。

 

『皆を守るために命をかけている兵達に、人の命を奪わせる行為はなるべくさせたくないからね』

 

言葉だけ聴くと、なんて慈悲深いのだろう・・・・と思う。

だがしかし、これはある意味天然の鬼畜なんじゃないかと思ってしまうのもまた事実だ。

っと、今は敵陣の中だった。

 

「・・・・・・矢が来るぞ!!予備隊は頭上に盾を展開しろ!!

亞莎、城門が近い・・・・・・何処に穴を開けるのか指示をくれ」

 

「はい!この勢いであれば、先端が城門に突入したと同時に・・・そうですね・・・・・・・第一部隊の最後尾と第二部隊の最前列の間に空けて下さい。

その際、隊の速度は落とさずに、第二部隊最前列のみ陣内に移動させます」

 

「亞莎も軍師らしくなってきたな・・・・・影、亞莎の進言通りに」

 

「御意・・・聞いていたか甘寧!周泰!城門まで直ぐだ第二部隊最前列まで移動して合図を待て!!」

 

「お前に命令される筋合いはない!!」

 

「思春殿!?そんなことしている場合じゃ・・・・・・」

 

「あぁもう・・・・ほら、二人とも時間がないから早く位置に付いて!!」

 

「一刀殿がそうおっしゃるのなら・・・・行くぞ明命!!」

 

「は、はい!!」

 

「二人とも気をつけてな!!」

 

「御意!(ハイ!)」

 

 

まったく・・・・・・。

頭上から降り注ぐ矢は陣の各所に配置されている壁盾兵が頭上に掲げた盾で防いでいる。

今この俺達は、ある意味鋼鉄で出来た筒の中にいるようなものだ。

『潜望鏡』で周囲を見回すと賊共の表情には恐怖が張り付いている。

そりゃそうだろうな。

もし俺が外からこの部隊を見れば同じような顔をするだろう。

それほど、この部隊は異様な姿をしているのだから。

そうこうしている内に直ぐ目の前に城門が迫る。

 

 

「(十一、十二、十三、十四・・・・・)今だ!!!!」

 

 

掛け声と同時に陣から、勢い良く飛び出して行った二つの影を見届ける。

 

 

「成功だ」

 

「よし!!亞莎次はどう動く?」

 

「影さん、砦内の様子はどうなっていますか?」

 

「正面に岩山に沿って立てられた砦、その手前に左右へ伸びる大通り」

 

「でわ、私達はこのまま東門に向かいましょう。

出来うる限り賊をひきつけながら思春さん達の陽動として動きます。

ある程度ひきつけたら東門を制圧、そのまま門の前後を塞ぐように隊を展開して賊の逃げ道を塞ぎます!!」

 

 

ほう、門を制圧して逃げ道を塞ぐか。

となると・・・・・・・。

 

 

「一刀様、俺は最前列で隊を先導する」

 

「無理はするなよ?」

 

「一刀様の命令は絶対だ。

命を無駄にする気はこれっぽちもない」

 

「わかった。

それじゃ・・・・凌公績!!最前列で我が隊を導け!!」

 

「御意!!!」

 

 

俺は前へ前へと駆ける兵達の間を縫うように走り抜ける。

さぁ、久しぶりの前線だ、副隊長の名に恥じぬよう腕を振るうとするか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あとがきっぽいもの

 

 

戦闘描写を文字にすることが出来なかった獅子丸です。

もう詳しい描写は省いていいや・・・・・そんなこんなで書きあがった今回の話。

ガキーンやドゴォ!など文章に書き込むのもどう後思ったんでモブ視点で補完。

 

さて、まずは孫呉の至宝蓮華様。

一刀よりも先に劉備とごたーいめーん。

とりあえずは微妙にヤキモチ焼いて王代理として少しだけがんばった話。

 

お次は思春。

まぁ、黄巾戦での動きの説明が主だったのかな?

一刀との初めての共同作ぎ(ryに気合を入れていた思春さんの話。

 

 

お次は影。

 

今まで謎だった北郷隊の視野の話(ぁ

潜望鏡+手旗信号。

潜水艦です。

手旗信号は自軍やや後方、高台や木の上からこれまた一刀提案の望遠鏡を使って戦場を見て、

それを手旗信号で陣営内各所に配置された専用の伝令に伝えます。

ですので基本的に『目』は二人一組。

一人が戦場の動きを逐一口頭で伝え、もう一人がそれを手旗信号で伝える。

陣内の『口』は望遠鏡でそれを確認し部隊の将や軍師に伝える。

『口』は基本的に将や軍師のそばに控えています。

お次は『蜂針』

これは作中で読んでもらえれば問題ない・・・・・・・・はずです。

プスッと刺して毒(部隊)を注入。

そんな戦術です。

今回の場合はその針の部分だけミサイルのように発射されたとでも思ってください(ぁ

横から棘(槍)が突き出した痛そうなミサイルだとイメージしてもらえれば(ぇ

 

 

んで、モブキャラ朱儁将軍。

モブキャラなんで設定すらありません。

北郷隊の様子を外からの視点で解説してもらうために出てきたような人です。

他に説明は要りませんよね?w

 

 

と言い訳で、次回は黄巾戦終結。

そしてお待ちかね?の英傑会談へと続く・・・・・・予定ですb

 

 

 

と言うわけで今回はこの辺で

 

次回も

 

生温い目でお読みいただけると幸いです。

 

 

 

 

 

 

 


 
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