― 曹操Side ―
戦場の雰囲気が一変した。
それと同時に砦の各所から黒煙があがる。
「華琳様」
「わかっているわ、桂花」
「いえ、黒煙の事ではありません・・・・・・数刻ほど前に北門に現れた部隊が砦内へと侵入したとの報告が」
「へぇ~・・・・・・どこの部隊かわかるかしら?」
「はい、炎緋に銀で十・・・・・恐らく孫家の御遣いの部隊かと」
予想が外れたわね。
ここには来ないと思っていたのだけれど・・・・。
それにしても、たった一部隊で砦へ侵入。
そして結果が目の前の黒煙・・・・・。
『天の御遣い』・・・・・侮れないわね。
「桂花、この戦、さっさと終わらせてしまいましょう」
「御意、いかがいたしましょう?」
逃げてきたであろう賊が西門に殺到しはじめている。
恐らく他の門も同様。
だけど、所詮賊。
内部から炎で炙られ我先に・・・・と逃げることしか考えていない賊など私達の敵ではないわ。
「そうね・・・・・門から出てくる賊共を囲んでしまいなさい・・・・出来るのなら砦内に押し返してしまってもいいわ」
「でわ、押し返しましょう。
伝令!夏侯惇、夏侯淵両隊は包囲を狭めつつ敵を砦内に押し返せ!
李典、于禁隊は城壁に張り付きつつ包囲を狭めなさい!
楽進隊は抜け出した賊を逃がさぬよう遊撃隊とする!」
フフ・・・・・さぁ、どう動くのかしら『天の御遣い』
今はまだ砦内にいるのでしょう?
各所に群がる賊の押さえで手一杯な諸侯は救出に行けないわよ?
それに砦内は火の海でしょうしね。
『天の御遣い』
顔も知らぬ貴方の実力、見せてもらいましょう・・・・・・。
― 周瑜Side ―
砦から上がった黒煙を目にし、薄く笑みを浮かべる。
良くやってくれた思春、明命・・・・・・それに一刀。
これで厄介な攻城戦はしなくていい。
「ただいま~」
帰ってきたか。
「おかえり、雪蓮。
珍しく真っ直ぐ帰ってきたようだな・・・・・・」
「行こうにも行けなかったのよ・・・・・・」
「ほぅ?」
「ったく、北郷隊は融通利かないのよ・・・・こっそり抜け出そうにもあの盾でガッチリ固められちゃって抜け出せないし」
ふむ、北郷隊はそう言う使い方もできると言うことか・・・・・。
雪蓮は間近で行われている戦に参加できずにご機嫌斜めのようだ。
「おかえりなさい姉様」
「ただいま、蓮華・・・・・・王の代理はどうだった?」
雪蓮は笑いながら蓮華様にそう問いかけた。
そんな二人をよそに視線を戦場へと向ける。
「・・・・・・蓮華様、門が騒がしくなってきたようです・・・・・号令の準備を」
「え!?私が!?」
「そうよ、蓮華。
この戦では、蓮華が大将軍・・・・・最後までやり遂げなさい」
「・・・・・・は、はい!!」
蓮華様の決意と時を同じくして門が開く。
(来たか・・・・・)
現れたのは盾。
門前で右往左往していた賊を押しのけ、門を守るように陣を張った。
慌てる様子のない所を見るに、門の内側も制圧を完了しているのだろう・・・・・。
「『目』から伝令です・・・・・北郷隊、布陣完了との事」
「ご苦労。・・・・・・蓮華様、敵の逃げ道は塞ぎました・・・・号令を」
「わ、わかった・・・・・・。
聞け!!孫後の兵よ!!我らが民を苦しめし目の前の賊の退路は断たれた!!
今こそ好機!!全軍・・・・・・突撃!!!!!!!」
蓮華様の号令とともに兵達が雄叫びを上げて賊軍に向かって突撃をかける。
逃げ惑う賊。
この戦の行く末は見えたも同然。
「『目』から伝令・・・・・曹操軍は西門を封鎖、あふれ出た賊は砦内へと押し返されたようです。
次に南門、こちらは出てきた賊を包囲殲滅しているとの事。
最後に北門ですが、各門から賊が殺到しており、朱儁将軍は奮闘しておりますが義勇軍は徐々に押されつつあるようです」
「わかった」
やはり、そうなったか・・・・・。
南門は問題なかろう、西門の曹操軍・・・・・・この速さで西門を封鎖したと言うことは黒煙が上がったと同時に動いたと言うこと。
今後、曹孟徳の動向に注意しておくべきかもしれないな。
さて、北門だが・・・・・。
「蓮華様、北門に援軍を送ろうと思うのだが・・・・・」
「苦戦しているのか?」
「どうもそうらしい・・・・ここで賊を殲滅しておかなければ後々集結でもされればまた面倒なことに」
「わかったわ・・・・隊の選択は冥琳に任せる」
「御意」
援軍に送る隊を選ぶため視線を戦場に向ける。
今だ門を守る北郷隊は除外して・・・・そうだな、ここは黄蓋隊と程普隊に行ってもらうとしよう。
既に収束しつつある南門の殲滅戦を見やりつつ両隊に伝令を放った・・・・・。
「あー!私も行きたーい!」
「却下」
― 一刀Side ―
黄巾の乱は終結した。
首謀者である張角、張宝、張梁は焼け焦げた姿で発見された。
一応確認のために見に行った。
はっきり言って見るべきじゃなかった・・・・・・・。
思い出したくもない。
その後陣に戻り胃の中の物をすべて土へと返した。
落ち着いてから、ふと気付く。
あの死体はどう見ても男の物。
この世界では、殆どの有名な人物が女性。
もしや・・・・との思いと、念の為に・・・・との思い。
そして、思い過ごしでなければ何かの役に立つかもしれない・・・・と言うわけで、細作をこの戦場に居る各軍に放った。
案の定ビンゴ。
張角達と思われる人物が、曹操軍に匿われているとの情報。
曹操と言えば青州黄巾党を自分の傘下に引き入れた人物。
黄巾党の首謀者を捕縛しているのに公表していない。
面倒なことになりそうだなぁ・・・・なんて考えていた矢先に伝令が飛び込んできた。
「・・・・・・・マジで?」
「ええと・・・・マジとは何でしょう?北郷様」
「あぁ、本当に?って言う意味なんだけど・・・・・今はそれはおいといて・・・・・」
皇甫嵩将軍には張角達の死体を確認するときに挨拶した。
そして今の伝令の話では・・・・・・。
「邪魔するわよ」
なんか来た。
知らない人が陣幕に入ってきた。
一人はクルクルツインテール金髪娘。
二人目は黒髪ロングオデコな美女。
三人目は水色髪のショートな美女。
「貴様!!華琳様をじろじろ見るなど失礼ではないか!!」
「・・・・・・・・っは?」
「だから、華琳様をじろじろ見るのは失礼だといっているのだ!!」
「いやいやいやいや・・・・・。
勝手に人の陣幕に入ってきたのはそっちだろ?」
「なんだと貴様!!」
「春蘭下がりなさい、その男の言う通りよ」
「しかし!!「姉者」・・・・むぅ」
陣幕に入ってきた人達に驚き、動けなくなっていた伝令に雪蓮達に伝えるように告げ、
目の前のお客さんに視線を戻す。
はぁ・・・・・とため息をついてこの状況をどうするか思案する。
「貴方が噂の『天の御遣い』かしら?」
「ご名答・・・・ようこそ曹孟徳殿。
後ろの二人は・・・・・・夏侯元譲に夏侯妙才ってところかな?」
「なぜ私達の字を知っているのだ!?」
「曹操様はともかく、私達はここに来て一度も名乗っていないはずだが?」
なるほど、夏侯惇は激情タイプの将っぽいな。
そして、夏侯淵は冷静なタイプか・・・・。
問題は曹操・・・・・今のやり取りに全く反応を示さずに俺を見ている。
これは多少厄介だなぁ・・・・・・。
「『天の御遣い』だからな。
なんなら今曹孟徳殿の元に居る将の名を上げて見せようか?」
「面白いわね・・・・・言ってみなさい」
チェシャ猫を髣髴とさせるニヤリとした笑みを浮かべそう切り替えされた。
微妙に墓穴掘ったかも・・・・・。
今、ここに来ている将なんて流石に把握していない。
まぁ、適当に名を上げてみるか・・・・。
「でわ、お言葉に甘えて・・・・・曹仁子孝、曹洪子廉、曹純子和、李典曼成、于禁文則、楽進文謙、荀彧文若・・・・・「もういいわ」
もういいのか?」
とりあえず、現状で居そうにない人物を除外して上げてみた。
途中で止めるって言うことはある程度当たりだったのかも。
まぁ、ついでだし揺さぶりをかけておこう。
「えぇ、十分だわ」
「あぁ、重要な人物を言い忘れていた・・・・・・張角、張宝、張梁、この三人がついさっき曹孟徳殿の陣営に加わっていたな」
「「!?」」
なんとまぁ、わかりやすい。
曹操の後ろに控えていた二人に驚きの表情が広がる。
まぁ、曹操はこめかみをピクリとさせた程度で相も変わらず俺を見ているが。
「・・・・・・・何が望みなのかしら?」
不意に曹操がそう問いかけてくる。
うーむ、やっぱりこの世界でも曹操は次元が違うのか・・・・・。
にこやかに、切り返してくるとは・・・・・。
「別に何も・・・・・・で、何のようなんだ?」
とりあえず、張角達を引き入れたのは知ってるぞとアピールできたし話を進める。
何の用があって雪蓮達じゃなく俺の所へ直接来たのかを知らなければ話にならない。
「次期『皇帝』の顔でも見ておこうかと思ってね」
「はぁ?どこからそんな話を聞いたのか知らないが俺は『皇帝』になんかなるつもりは一切ない」
「あら、そうなの?・・・・『皇帝』と『同等』と認められたと耳に挟んだのだけれど?」
へぇ・・・もうその噂が届いてるのか。
うちの細作の仕事が速いのか、もしくは洛陽に自身の細作を放っていたか・・・・・。
「あぁ、『同等』だ・・・・・だが、俺には『皇帝』なんて言う偽りの権力に興味はない」
「何だと貴様!!『皇帝』を偽りの権力などと!!」
「姉者!!」
「春蘭下がりなさい!!」
「しかし!!」
うーむ・・・・・・。
ここまで夏侯惇が怒るって事は、未だ曹操軍も王朝の権力の下にいるという事かな?
曹操の様な人間が、俺が言った事を気付いていないはずもないだろうし・・・・。
少し煽ってみようかな。
「外野は黙っていろ・・・・・・先程から怒鳴り付けてくるが、俺は『天』だぞ?
今まで我慢していたが・・・・これ以上狼藉を働くのならお前の首だけでは済まさん」
「っな!?」
「『天の御遣い』の言う通りよ春蘭。
私が『今』話している人物は『天』よ・・・・・・この意味、漢王朝の臣ならわかるわね?」
「っぐ!・・・・・申し訳・・・・・ありません」
うーむ・・・・・。
曹操の考えが全く読めない。
『漢』を馬鹿にしてみても冷静。
そして『天』と言う言葉を出してみても、この冷静な態度・・・・・。
俺の言葉の意味に気付いている。
だけど、あくまで漢王朝の臣という体制を崩すことはない。
やっぱり俺の世界の曹操と同様に自分の勢力に漢王朝を吸収するつもりなのかな?
それに夏侯淵も一切動揺していない所を見ると『皇帝』よりも『曹操』の方に忠誠を誓っている。
夏侯惇の方は感情の起伏が激しくて今一読み取れないけど、曹操の言葉に素直に従うのを見る限り夏侯淵と同じかもしれない。
そして曹操・・・・・この人は確実に『朝廷』に対しての忠誠が薄い。
最初は『天の御遣い』の粗捜しでもしに来たのかと思ったけど・・・どうも違うらしい。
何が狙いなのかさっぱりだ・・・・。
「まぁいい・・・・・で、唯の面会ならもういいだろ?
用が済んだのなら帰ってくれ。
流石に今日は疲れているからな・・・・・」
「あら、まだ話は終わってないわ」
「・・・・・・・それじゃ、早く終わらせてくれないか?」
ぼろを出す前に切り上げたかったのに・・・・・・。
立ち上がるのやめて椅子に座りなおしながら先に進めるように促す。
「そう邪険にしなくてもいいのではないかしら?・・・・まぁ、いいでしょう。
『天の御遣い』・・・・私達の陣営に来ないかしら?」
「「華琳様!?」」
おいおい・・・・。
ここで引き抜きかよ!?
読めないはずだ・・・・・始めから、そのつもりでここに来ていたんだろう。
なんだよ、その怪しい笑みは・・・・・。
あれだ、この人絶対Sだ・・・・・。
「あら?人様の陣営で孫家の将を引き抜こうなんて・・・・・なかなか面白い事してるわね」
・・・・・陣幕の入り口に雪蓮がたっていた。
うわー・・・・・。
口は笑ってるけど目が笑ってない・・・・・・。
「一刀は私の物よ?それを横からかすめ取ろうなんていい度胸してるわね」
「あら、『天の御遣い』は貴方の伴侶なのかしら?」
「っち、違うわよ!・・・一刀は孫家の将よ」
「じゃあ、貴方の物ではないじゃない」
「一刀は孫家の物・・・・孫家の物は私の物よ♪」
なんて言うジャイアン理論・・・・・・。
っと、なんか雲行きが怪しくなってきた・・・・。
さっさと止めたほうがよさそう・・・・・。
「雪蓮、心配しなくとも俺は孫家の将・・・・・という訳で曹孟徳殿からの誘いは断る」
「まぁ、そうでしょうね・・・・・主の前で『はい』とは言えないでしょうし?」
「残念ながら、孫家の絆はその程度の揺さぶりで切れる事はない」
「あら残念・・・・・まぁ、いいわ。
そろそろお暇しましょう・・・・。
あぁ・・・・・・これだけは言っておくわね。
私は、欲しいと思った物は必ず手に入れる主義なの」
「だから私の物だって言ってるでしょ!」
雪蓮の言葉はなんのその、ニヤリと微笑みながら俺を見つめてくる。
あ~・・・・・なんか面倒な人に目をつけられちゃったなぁ・・・・・・・・・。
あとがきっぽいもの
いや~、華琳様はぶれなさ過ぎて予想通りの展開しかかけません獅子丸です。
黄巾戦はここであっさり終結です。
そして今回後半からは黄巾編の肝、諸侯との対話が始まりました。
それにより、次回からは以前言っていた通り、蜀アンチへとまっしぐらの展開になります。
さて、本編の華琳様について。
短いですね。
戦闘シーンは書く必要なかったので短いです。
見たことも無い人間をしれっといたぶる華琳様。
唯それだけの話・・・・・・。
お次は冥琳。
今回この作戦を指示したのはこのお方。
あまりたいした作戦ではないです。
所詮黄巾の乱なので。
北郷隊の使い道を知っていて、それを使いこなすのはこの人の役目。
黒髪褐色眼鏡美女は徐々に其の実力を発揮してくれることでしょう。
さて、お次は一刀君。
なんていうか、ジョーカーを使ってみたものの華琳様には通用しなかった。
そんなお話。
春蘭は相変わらず。
秋蘭は流石に驚くほかなかったようです。
華琳様はジョーカーを切ったおかげで火をつけてしまった・・・・そんな感じですかね?w
華琳様のことだから、とりあえず顔だけでも見ておきましょう的な感じで来訪。
その後自身の陣営の事を暴かれ、尚且つ三姉妹の事を気づかれている。
天の力かどうかは知らないが、一刀の持つ能力は得難いもの・・・・・。
ってな感じかな?
んで、お次は32話で出てきた陣形の話。
作者の力量が足らなかった所為で上手く伝える事が出来なかったので
恒例の陣形画像添付。
『蜂針』は基本単体で動くための陣形ではなく金剛陣の各派生に組み込まれるものです。
読んで字のごとく蜂の針をイメージしてあります。
蜂の尾の先端から飛び出る針、そこから獲物へと毒を注入する。
これが『蜂針』の使い方。
尾は金剛陣の傘の部分。
そして其の先端から飛び出すのが針。
其の針の中から飛び出すのが毒。
うん、やっぱり文字だけじゃ上手く伝える自信がない。
と言うわけで↓画像。
これが組み込まれた状態。
ぱっと見『連弩』と大して違いがありません。
中央の三列が『蜂針』です。
三列の内、左右が針の部分。
そして中央の赤い部分が毒。
発動すると↓。
わかりにくいかも・・・・・。
発動した場合は↑の絵のように傘の最先端の部分ごと敵陣へと食い込みます。
ある一定距離押し込んだら、中央の赤の部隊が陣形をさらに食い破る仕組み。
『連弩』又は『連山』→『蜂針』→『毒』と言う三段構えの陣構成。
毒の部分は兵種によって様々な使い道があります。
例えば騎馬兵はこれは突破力を重視した毒。
弓兵であれば毒を放出せずに針の中に留めたまま敵陣の真っ只中での一斉射撃など。
二枚目の画像で赤くなった逆鶴翼を次弾として注入する事も可能。
とまぁこんな感じです。
では、長くなりましたので今回はこの辺で。
次回も
生温い目でお読みいただけると幸いです。
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第三十三話。
気づけば三十話超えてました・・・・・。
黄巾戦あっさり終結。
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