No.222444

真・恋姫†無双異聞~皇龍剣風譚~ 第十一話 仮面白馬・炎!? 前編

YTAさん

 どうも皆さま、YTAです。
 正直、今回のお話ほどがっつりコメディを書いた事は殆どないので、読者さんに笑って頂けるのか、とても心配しております。

 では、とりあえず、どうぞ!!

2011-06-13 02:04:56 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:3566   閲覧ユーザー数:2815

                            真・恋姫†無双~皇龍剣風譚~

 

                            第十一話 仮面白馬・炎 前編

 

 

 

 

 

 

「ご主人様、起きて下さい」

 耳元で、優しい声が囁く。

「ほら、さっさとしなさいよ!今日から引っ越しの準備で朝から忙しいって言ってたの、あんたじゃない!」

 自身に満ちた、快活なもう一つの声が、怒った様に言う。

『あぁ、そうだった。みんなが待ってるんだもんな―――早く起きなきゃ……』

 

 

 

 

 

 

 北郷一刀は覚醒した瞬間、脳がまだアルコールに支配されているのを感じながら、ゆっくりと瞼を開いた。目が、無意識に役立たずの忌々しい扇風機を探す―――しかし、無論、近所のホームセンターで、税込9.150円で叩き売りされていた照明一体型の扇風機など存在する筈もない。

 同然だろう。それ自体は言わずもがな、そもそも、動力である電気が考え出されるまでにすら、十八世紀ほど待たねばならないのだから。

 

 一刀は、未だ夢と現を行き来している頭で漠然とそんな事を考え、次の瞬間、ハッとして寝台から跳ね起きた。一刀が弾かれた様に寝台の横に目を向けると、その慌てた様子に驚いたのか、董卓こと月が、怯えた様な顔で一刀を見つめていた。

 その数歩後ろに立っていた賈駆こと詠も、普通ならば、月を驚かせた一刀に食ってかかる所なのだろうが、飛び起きた一刀の顔に浮かんだ表情―――恐怖?―――を見て、不審と驚愕の綯い交ぜになった様な顔で、時が止まった様に立ちすくんでいた。

 

 

「あ、あの……ご主人様?もしかして、悪い夢でもご覧になったんですか?」

 月が、おずおずとした様子で一刀にそう尋ねると、詠も心配そうな顔で寝台の横に近づいて来て、月の言葉を肯定する様に頷く。

「あんた、顔が真っ青よ?宿酔いが酷い様なら、薬蕩を持って来る?」

 

 一刀は、二人の言葉に頷くでも首を振るでもなく、珍しいものでも見る様な目で、暫く二人の顔を交互に見つめてから、不意に、両手で二人の身体を抱き締めた。

「へ、へぅぅ……!どうなさったんですか、ご主人様?」

「ち、ちょっと!?いきなりなにすんのよ、朝っぱらから!!」

 

 一刀は、片や恥ずかしさのあまり硬直し、片や形だけの抵抗をして見せる二人のメイドを抱きしめる手に、更に力を込めると、二人の顔の間に自分の顔を埋める。その瞬間、一刀の鼻腔を二人の香油の匂いが満たした。

「あぁ、月……詠……本物だ……」

 

 一刀が、ぼそりとそう呟くと、頬を染めた詠が、怪訝な顔で一刀に言った。

「はぁ?あんた、まだ寝ぼけてるの?ボク達に本物も偽物もある訳ないじゃない!」

「……夢をね、見てたんだ……十三年間」

「ご主人様?」

 

 月が、一刀の言葉の意味を測りかねて小さく首を回すと、彼女のうなじに、一刀が漏らした自嘲の吐息の熱が感じられた。

「最初の一・二年は、毎日だった……その後は、疲れてる時や、二日酔いの時、気分が滅入ってる時も……起きるのがしんどい朝は、いつも二人が夢に出て来て、俺を起こしてくれたんだよ?今みたいに」

 

 一刀は、そこまで言ってから腕の力を緩め、二人から身体を離すと、「でも―――」と、言葉を続けた。

「目を覚ますと、当たり前だけど二人は居なくて、いつもと同じ、自分の部屋の天井があるだけ……そしてまた、いつもと同じ毎日が始まるんだ。俺にとってはずっと……その一瞬だけが、二人に会える唯一の時間だった……だから今も、目を開けた瞬間、いつもの自分の部屋なんじゃないかって思っちゃってさ―――驚かせて、ごめんな」

 

「じゃあ、通じてたんですね……」

 月は、一刀の話を噛み締める様に最後まで聞くと、俯きながらそう呟いた。

「え?」

 一刀が怪訝そうに問い返すと、月は嬉しそうに微笑んだ。

 

 

「私達、毎朝ご主人様のお部屋を掃除する時、ずっと御挨拶してたんですよ―――『ご主人様、おはようございます』って。毎日ご主人様のお部屋で心を込めて御挨拶してたら、天の国にも届くかも知れないと思って……ね、詠ちゃん?」

「ボ、ボクは別に……月が言うから付き合ってただけよ!」

 

 月は、呆然とした顔で二人を見つめる一刀に悪戯っぽい笑顔を向けると、片手を口に当てて小さく笑った。

「ご主人様―――詠ちゃん、あんな事言ってますけど、毎日ちゃんとご主人様にお話してたんですよ」

「ちょっと、ゆ、ゆ、月!?」

 月は、顔を真っ赤にした詠があたふたと止めようとするのも無視して、言葉を続ける。

「『早く起きないと遅刻するわよ』とか、『ちゃんと寝グセ直しなさいよ』とか……」

 

「そうだったのか……」

 一刀は、ぷいと顔を横に向けてしまった詠と、相変わらず嬉しそうに自分を見ている月を交互に見遣った。

「じゃあ、あれは、夢じゃなかったんだな……二人の俺を想ってくれた心が、情けない俺を励ましてくれたたんだろ、きっと」

 

「ホント、暫く振りにあっても、そうやって平気な顔して恥ずかしい事言うトコは変わんないわね、アンタ―――って!?」

 詠が、照れ臭そうな声でそう言い終わらない内に、一刀は、もう一度二人を抱き寄せた。

「何でも良いさ。こうして、二人にまた会えたんだから―――おはよう、月、詠……」

 

 一刀が穏やかなでそう囁くと、二人は一刀の頭越しに微笑みを交わした。月は、素直に嬉しそうに。詠は、どこか困った様な顔で。

「おはようございます。ご主人様……」

「まったく、さっさと起きなさいよ、バカ……」

 そして二人は、どちらかともなく一刀の広い背中に腕を回して、優しく抱き返した―――。

 

 

 

 

 

 

 

 公孫賛こと白蓮は、深い溜め息を何度も吐きながら、自分の部屋の荷物を整理しているところだった。

「あぁ、最悪だぁ~」

 白蓮は、朝から何度も繰り返してきた台詞をもう一度口にして、俯きながら小さく首を振った。

昨夜、北郷一刀の帰還を祝って催された宴の乾杯の時、成都城の城門の前で幸せな妄想に浸っていた(前話参照)白蓮は大遅刻をやらかし、そのせいで、宴の開始が四半刻(約30分)程も遅れてしまったのである。

 

 お陰で、居並ぶ重臣達からは大いに失笑を買ってしまったし、若干四名ほど居る大食らい達には、殺意が込められた凝視すら受けてしまった……と、言うか、特に紅い人の視線は本気で怖かった。

 そのせいもあってか、昨夜はいくら飲んでも全然酔えなかったし、一刀の顔をまともに見る事も出来なかった……。そんな訳で、本当ならば二・三日は部屋に籠もって体育座りでもしていたい所ではあるのだが、各国との日程調整が済み次第、一刀と重臣達は都に向かう事になるので、その引っ越し準備がある為に我儘も言ってはいられず、こうして荷物整理に精を出しているのである。

 

 だが、そんな千々に乱れた精神状態で、大がかりな荷造りが効率良く進む筈もなく、一度、手に持った物を見つめて溜め息を吐いては元の場所にそれを置く、などと言う不毛な事を、ただ延々と繰り返しているのであった。自分でも、気持ちを切り替えなければとは思うのだが、極々一般的な羞恥心の持ち主である白蓮に取って、それは言うほど簡単な事ではない。

 こんな時は、心臓に毛が生えている上に、すぐに何でも忘れられる麗羽が羨ましくて仕方がない。

 

 白蓮が、そんな事を思いながら部屋を見渡すと、箪笥や本棚から出した大量の荷物の中に埋もれていた白木の箱が目に入った。その周りは、十字に結んだ麻縄で幾重にも頑丈に縛られている。

 白蓮はそれを手に取って麻縄を解くと、そっと蓋をずらした。その中には、白い仮面と短い外套(マント)が、きちんと折り畳んで納められていた。

 

「そう言えば、これも随分、使ってないな―――結局、最後まで『偽華蝶仮面』扱いだったし……持って行ってもしょうがないか……」

 白蓮は、そう呟くと、箱に蓋をして、力無く立ち上がった―――。

 

 

 

 

 

 

 

 一刀は、身支度を済ませて朝食を食べた後、午前中一杯を各部署の視察と指示出しに費やして過ごし、今は手の空いている人物を探して、街に昼食を摂りに行こうとしている所だった。頭の中で、視察した時の進捗状況から時間が空きそうな人物を予測しながら中庭を歩いていると、一刀の視界の隅に、見知った後ろ姿が映った。

 

「(お―――白蓮じゃないか……)」

 一刀は、内心そう呟いて足を止めて白蓮に声をかけようとしたのだが、彼女の様子が少しおかしい事に気が付いて、喉元まで出かかった言葉を飲み込んだ。白蓮の事だから、大方、昨日の乾杯の時に遅刻したのを気に病んでいるのだろう事は何となく解るのだが、如何せん、彼女がぼーっと突っ立っている場所が、どうにも奇妙だった。

 

 そこは、今回の引っ越しに際して不要な物を集めておく為の、言わば臨時のゴミ集積所だったのである。この時代では、基本的に『燃えないゴミ』や『資源ゴミ』などは殆ど存在しないので、一度、中庭にあるこの集積所に不要な物を集め、薪や焚き付けになりそうな大物は後で分解し、それ以外の小さ過ぎる物などは纏めて焼却してしまおう、と言う事になっていた。

 

 白蓮は、そんな場所に一人で佇んでいたのである。何かを間違って捨ててしまって、それを探しているとでも言うのなら、もっと顔を動かすなり、しゃがみ込んで見るなりしそうなものなのだが、当の白蓮にはそんな様子も見受けられず、ただ俯きながら立っているだけだった。

 一刀が、声をかけるタイミングを逃してしまった事もあって、暫くその様子を黙って眺めていると、白蓮は意を決した様に顔を上げ、両手に持っていたらしい“何か”をゴミの山に投げ捨てて、振り返りもせずに、一刀が居るのとは反対の方向に歩き去ってしまった。

 

「白蓮の奴、一体どうしたんだろ?何時になく神妙な感じだったけど……」

 一刀は、そんな事をひとりごちながら、先程まで白蓮が立っていた場所まで歩みを進めると、彼女が捨てたらしい物を何ともなく見遣った。それは、1メートル四方程の白木で出来た、薄い簡素な箱だった。

 一応、麻縄で十字に封がしてあるものの、いい加減に結んである為に随分と緩んでいて、蓋がずれてしまっている。

 

 

 箱から覗いている“モノ”に後ろ暗い興味を覚えてしまった一刀は、箱を手に取って麻縄を解き、蓋を開けた。

「ん?―――これは……!!」

 一刀は、箱の中に入っていた“モノ”を、思わず手に取った―――それが、これから起きる悲劇の始まりになるとも知らず……。

 

 

 

 

 

 

「待てー!待つのだぁ~!!」

「冗談じゃないっての……!」

 白い仮面を付けた男は、燕人張飛の大気を震わせる様な大声を背に受けてぼそりとそう呟くと、走っていた屋根の上から跳躍し、次の屋根に着地した。

 

 白い外套をはためかせ、猛将張飛率いる警備隊に追われて成都の街を疾駆するこの男の正体は、もう皆さん御承知であろうが、北郷一刀その人である。一体なぜ、こんな面倒くさい事になったのか。

 それを知るには、今から半刻(約1時間)ほど前、一刀が、白蓮の捨てて行った『DX仮面白馬なりきりセット』を拾った所まで、時間を戻さねばならない―――。

 

「う~む……」

 一刀は、手に取った白い仮面を繁々と眺めると、小さく唸った。一体どうして、白蓮はこれを捨てて行ったのだろうか?一刀の思い出す限り、何だかんだ言って、白蓮は結構ノリノリだった記憶がある。

「とりあえず、このまま捨てておくべきか、それとも返しに行くべきか……それが問題だ……」

 

 本人がいらないと思って捨てたのだから、そっとしておけば良いものを、それが出来ないのが、北郷一刀が北郷一刀たる所以である。まして、物が物であり、昨日の今日であれば、尚の事だ。

「まぁ、いずれにしても、話のきっかけにはなる、か……」

 一刀は、そうひとりごちて仮面と外套を箱にしまうと白蓮の部屋に続く道を歩き始めた。

 

 そうして東屋を過ぎ、中庭の外れにある小さな池に差しかかった時、水面に映った自分の姿を何となく見た一刀の脳裏に、あの、悪魔の囁きが聴こえたのである―――。

『You、それ、ちょっと付けてみちゃいなYO!』と。

 一刀は、ピタリと足を止めると、澄んだ水面と、自分の脇に抱えられている木箱を順番に見つめた。

 

 

「まぁ、ちょっとだけ―――ちょっとだけなら……」

 一刀は誰にともなくそう言うと、箱から仮面と外套を取り出して顔に装着し、ついでに外套も羽織って、水鏡に自分の姿を映してみた。

「おぉ!これは意外とイケるんじゃないか?」

 

 一刀は、満足そうに言って頷いた。元々、自分が着ていたロングコートが白だった事もあり、コーディネイトとしては悪くないし、重ね着した短い外套が、ちょうど両肩口と背中の記章を隠し、重武装チックな感じになっているのも悪くない。流線的でシンプルな仮面のデザインだって、こうして見ると結構、恰好良いじゃないか。

 

 一刀がそんな事を思って、池の前で一人悦に入っていると、背後から聞き慣れた元気な声が掛けられた。

「もしかして、お兄ちゃんか?そんなところで何してるのだ?」

 一刀は後になって、『何故あそこで深く考えもせずに振り向いてしまったのか』と、寝る前などに悶々と考える事になるのだが、それはまた別の話である。

 

 兎に角、その時の一刀は上記した通り、何ら深く考える事なく義妹の声に振り返った―――振り返ってしまった。後日、一刀は白蓮に語る事になる……『あの時、刻が凍った』と。

「…………」

「…………」

「お……お前、誰なのだぁ!?」

 

「あ、やっぱり?」

 一刀は深い溜め息を吐くと、厄介なのに捕まったと思った。せめて見つかったのが、紫苑や星―――いや、星は宜しくない。下手をすれば、鈴々以上に宜しくない事になる……。兎に角、この自分の姿を冗談で済ませてくれる人物ならば良かったのに……。

 

 一刀は、痛み出したコメカミを指で摩りながら、どうしたものかと考えた。以前、白蓮がこの仮面を付けた時、思わず鈴々を真名で呼んでしまい、腕を捻じり上げられてしまった事があった。あれは嫌だ。

 義妹に腕をキメられて悶絶するなんて、兄として余りにも惨め過ぎる。なら、仮面を取ってしまえば良いのだろうが、鈴々の事だ。翌日には城中に、一刀が仮面白馬弐号だとか何とか、そんな噂が広がってしまうに違いない。

 

 そうすれば、自然と星の耳にもこの話が入り、間違いなく朱里の二の舞に……。

「答えるのだ!なんで男のお前が、偽華蝶仮面の恰好をしてこんな所にいるのだ!?答えによっては、容赦しないぞーっ!!」

 一刀の絶望をよそに、鈴々は蛇矛の穂先を一刀に向け、猛虎でも縮み上がりそうな闘気を全身に滾らせ始めた。

 

 

 その迫力たるや、慣れていない人間なら卒倒するレベルである。実際、慣れている筈の一刀でさえ、全身の皮膚が粟立ってしまっていた。

「えぇい、ままよ!!」

 一刀はそう叫ぶと、脇目も振らずに駈け出した。最初は、宮中を逃げ回り、紫苑辺りを見つけて仲裁してもらおうかとも思ったのだが、よくよく考えれば、宮中には星も居る筈で、もし紫苑を探している最中に星にバッタリ出くわしでもした日には、目も当たられない。

 

「待てー!待つのだ、偽偽華蝶仮面!!」

「嫌だぁ!何にもしないから放っておいてくれぇぇ!!」

「ダメなのだ!後ろ暗い事がないなら、大人しく鈴々に捕まって仮面を取るのだ!!」

「それだけは無理だって!絶対無理!!」

「じゃあ、やっぱり捕まえるのだ!!者ども、出合え出合えーなのだ!!」 

「人を呼ぶな!大ごとにしないで下さいお願いだから!ドちくしょぉぉぉぉ!!」

 こうして、一刀と鈴々の地獄の追い掛けっこが始まったのである―――。

 

 

 

 

 

 

 で、現在―――どうにか隙を見て『起龍体』になる事だけは出来た一刀は、辛うじて鈴々と警備隊の追っ手を交わし、市街の屋根の上を逃げ回っている訳である。

 「くそぅ、鈴々め!相変わらず良い足してやがるぜ!いっそ、むしゃぶりついてしまいたいぞ!!」

 ランナーズ・ハイで脳内がエンドルフィン漬けになった一刀は、自分でも訳のわからない事を叫びながら再び跳躍して、屋根から屋根へと飛び移った。どうにか距離は稼いだものの、鼻の利く鈴々の事だ。またすぐに追いつかれるのは目に見えている。

 

 実際、鈴々とその部下たち両方の目から、完全に姿を消せるのは僅か数瞬ほどしかないし、一刀の帰還を祝って軽い祭り状態の市街地は人でごった返していて、とても人目に着かずに着地出来る所などなさそうだ。一刀が、忍び寄る絶望と懸命に闘っていると、何処からか、あり得ないくらい完璧な高笑いが聴こえて来た。

「ん?あれは……」

 一刀が立ち止まって周囲を見渡すと、二里(約1km)ほど先にある屋根の上に、見覚えのある後ろ姿の三人組が突っ立っていた。

 

 

 ここからでは後ろ姿しか見えないが、あの三人が屋根の上に居ると言ったら、もう“あれ”をやっているとしか考えられない。兎も角それならば、麗羽が居る所には猪々子が居り、猪々子が居る所には斗詩が居る筈である。

 麗羽は端(はな)から当てにはならないが、斗詩ならばこちらの事情を分かってくれるだろうし、斗詩が了解してくれれば、猪々子も話を合わせてくれる可能性が高い。

 

 事態がここまで拗れてしまった以上、最早、全てを無かった事にするのは不可能だろう。ならば、せめて、適当にうやむやに出来る妥協案を考えるしかない。

 一刀は、大きく息を吸って呼吸を整えると、目を閉じて、こんな時に良い策を授けてくれそうな軍師の顔を思い浮かべた。

 

「(朱里と雛里……はこれに関してはダメっぽいな。詠か音々音……は、絶対、鼻で笑われて終わりな気がする。桂花は……いや、良い悪い以前に、こんな弱みを握られたら、俺の人生終了のお知らせ確定だろ……)」

 一刀は、脳裏に浮かぶ顔を次々とスライドさせて行く。冥琳や稟には、切ない顔をされて溜め息とか吐かれそうで嫌だし、亞莎は(この場合)朱里や雛里と同じ匂いがする。穏では時間が掛かり過ぎるし……。

 

「ハッ!?風!!」

 そう、彼女ならば―――普段から飄々として、どんな馬鹿馬鹿しい事でも冷静に観察し、更に、見た目に反して意外とエグい策をサラリと口に出す事に定評のある程昱さんならば、こんな時にどう言う策を考えるだろうか?

 

「風の様に考えろ、風の様に考えろ……風の様に考えろ―――!!」

 一刀が再び走り出しながら、そう自分に言い聞かせると、頭の中でモヤモヤとしていた思考が、ゆっくりと風の姿を形作って行く。

『おやおや……流石はお兄さん。義妹に追い掛けられて息も絶え絶えなんて、とんだ変態さんですね~』

 

「(いやいやいやいや!そんなディテールまでは再現しなくていいから!)」

『そうですかぁ~?お兄さんは、相変わらず“いけず”さんですね~。ではでは、お兄さんが作り出した風っぽい思考回路である私が、ちょっと考えて上げるのですよ~』

 

 一刀は、ぐんぐん迫って来る三バカ―――もとい、三人娘達の背中を見つめながら、エンドルフィンに冒された脳が生み出した風の幻の声に、耳をすました。

「(はぁ!?いやいや、それじゃ本末転倒じゃないか!?)」

 一刀は、脳内の風が提示した策を聞いて、思わず足を止めた。

 

『いえいえ~、そんな事はないのですよ~。要は、正体をバラさずに“とりあえず”この事態を収拾したいんですよね~?それなら、この策が一番なのです。名付けて、“瓢箪から種馬”大作戦なのですよ~』

「(いやまぁ、確かに駒と馬で、ちゃんと掛かってるけども……てか、これ考えてるの俺自身なんだよな―――ヤバい、そうとうキテるな、俺……)」

 

 一刀は脳内の風を首を振って掻き消すと、改めて冷静に考えてみた。確かに、脳内の風―――つまり、一刀が『風ならこう言った方向で考えるのではないか』と考えて具現化した思考回路の導き出した答えは、あながち的外れではない。

 しかし、もしも失敗すれば、白蓮同様、残念過ぎる結果に終わった挙句、正体が露見してしまう可能性もある。だが―――。

 

「このままじゃ、どの道逃げ切れないしな……」

 一刀は、意を決した様にそう呟くと、進行方向を変えて速度を上げた―――。

 

 

                                    あとがき

 

 さて、今回のお話、如何でしたか?

 最初の月詠コンビの下りは、かなり前から『再会させたらこんな感じのシーンにしたいな』と考えて温めていたものです。本当は、個別シナリオの冒頭にしたくて、専用のサブタイまで考えていたのですが、全体のストーリーラインが、当初考えていたのとは微妙に異なってしまい、タイミング的に出すにはここしかなかったので、差し込む事にしました。

 いずれ、月と詠の個別シナリオも書きたいなぁ……。

 

 今回のサブタイ元ネタは、『マシンロボ クロノスの大逆襲』OPテーマ

 

 マシンロボ・炎/マーチン

 

 でした。

 スパロボにも登場した事があるので、ご存じの方も多いかも知れませんね。実際、リアルタイムの時、まだ物心付いていなかった私もスパロボでこの作品を知り、VHSで見直した口ですwww

 今回のストーリーを考えている時に何故かこのサブタイが思い浮かび、本筋が決定しました。

 

 タグや作中でも触れていますが、仮面白馬、意外と恰好良い気がするんですよね。恋姫本編の中だと、白蓮さんや華蝶連者、袁家の人達のキャラが濃過ぎて、オモシロ残念な感じになっちゃってますけどwww

 

 では、また次回、お会いしましょう!!


 
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