合肥を勝ち取った蓮華は、合肥を呉の盾とすべく早急に体制を整えていた
降伏した兵は厚遇したのち本国へ送還
破損した城壁も急ピッチで復旧
それほどここ合肥は要所だった
しかし蓮華の苦悩はまだまだ去らない
「張遼はまだ見つからないの?」
恐怖の象徴である張遼が捕まらない
先方部隊によると西方へ落ち延びた後、行方が掴めないとか
「西か、西なら北郷のところへ逃げたのかもしれぬな・・・・・」
とにかく張遼を遠ざけたい
蓮華の本音はその一点にあった
その後も蓮華は一人で指示を出し続けた
すると、慌しく指揮をする連華の元へ功労者達が帰還する
蓮華はとびっきりの笑顔で3人を迎えた
「3人ともよくやってくれた。特に亞莎」
「は、はい!」
「作戦の立案大儀であった。亞莎が居てくれれば、呉の未来も安泰ね」
「もももも、もったいないお言葉、これからも粉骨砕身がんばって・・・」
「がんばるのはいいけど、胡麻団子の食べすぎに注意してね」
「・・・・一日10個以下を目指します!」
呉の陣所内に笑い声が上がった
だがしかし
そんな明るい雰囲気をぶち壊しにする影が、呉に訪れる
「晋からの使者か、よし、通してくれ」
想定していた使者だった
大方、合肥を返還しろと要求してくるのだろう
合肥は建業のすぐ西方に位置しており、ここを抑えられてしまうと呉は常に首都を狙われていることになる
晋との会談は重要な一石になる
蓮華はもう一度気合を入れなおした
やがて、多くの兵を引き連れた晋の使者が蓮華たちの前にやってきた
「謁見恐縮にございます孫権陛下、私は董公仁、董昭とお呼びください」
「時間がないのでな。手短に頼む」
「では、直ちに合肥から兵を引き、この地を返して頂きたい」
やはり来たか
蓮華は軽く受け流すように
「この地を魏より勝ち取ったのは我ら呉である。返せとはお門違いではないか?」
「合肥は張遼等の反逆により、一時魏に属していただけのことでございましょう。
この地は晋の地でございます」
「ならば問う。晋は魏に反逆し地を得たのではないか?」
「これは異なことを、晋は正当に国を興したのであって、それを反逆と申されるか」
蓮華は鼻で笑うと、少しだけトーンを落とす
「仮にも呉と晋は同盟国。蜀に攻め入られている貴国とて・・・・・我が呉まで敵に回したくはなかろう」
全ては長安陥落が響いている
ここで引いては呉の思う壺と考えた董昭は一気に攻勢に出た
「陛下は民の噂話にご興味がありますかな」
「民の噂だと、くだらん」
「最近、巷ではこのような噂が出回っているそうでしてな
なんでも、孫権様は魏、蜀との和睦を願っているとか」
蓮華の表情がムッとする
「くだらぬ、民の噂に惑わされるとは情けない」
「荊州に孫尚香様を派遣したのは、妹君を蜀へ差し出し
お互いの誤解を解くためとか・・・・噂と言うのもなかなか面白い
あなた方は真名を交換するほどの仲。あたらずとも遠からずではないですかな?
・・・・・あくまでも噂ですがな」
妹を和睦のために差し出す
そんな噂があると聞いた蓮華は激高した
思春も刀に手をかける
「馬鹿な、貴様は私を愚弄するつもりか!!」
「では、何ゆえ第二王妃である孫尚香様を、蜀と接する荊州へ遣われたか」
「そ、それは、あの娘が勝手に・・・・・」
慌てたのは亞莎だった
小声で蓮華に
「いけません蓮華様、呉が一枚岩ではないと伝わり隙を与えてしまいます!」
蓮華は呼吸を整えると
「・・・・・小蓮にはそろそろ大きな戦を経験させたいと考えている。それだけだ
同盟を反故にする意思は断じてない」
「ならば、その証として合肥をお返し願いたい」
「呉の王である私が誓っているのだ、それでは証にならぬと言うか!」
董昭も絶対に引くわけにいかなかった
「なりませぬな」
「貴様・・・・」
蓮華は腰の剣に手をかけた
「信用なりませぬ。蜀を裏切り、荊州を奪い、果ては姉の孫策様までも裏切り呉を簒奪
そのような王の甘言を信じる董昭ではございませぬぞ!
信を得たくば合肥を返還される以外道はありませぬ!」
思春の姿が消えたかと思うと、次の瞬間には董昭の首元に刃を振り下ろしていた
「やめんか!」
思春を止めたのは祭の一喝だった
誰もが避けていた言葉、裏切り者
そう罵られるのは覚悟していたことだった
それでも、蓮華の心は酷く傷ついた
「権殿、皆がついております。ご安心くだされ」
祭が声をかけると、搾り出すような声で
「・・・・なんと言われようと、合肥は渡さぬ。それ以外に答えはない。お引取り願おう」
「・・・・残念ですが仕方ありませぬな。今日のところは引き下がりましょう」
董昭は帰っていった
董昭の言っていた噂はあっと言う間に広範囲に伝わった
噂は噂を呼び、あることないこと言いたい放題であった
「孫尚香だけでは許さぬと突っぱねられた呉は荊州全土の支配権まで蜀に差し出すらしい」
「呉が合肥を返さないのは魏、蜀と同調して都に攻め込むためらしいぞ。恐ろしい・・・・」
「呉王孫権は裏切りを繰り返している。もはや信用できん」
「呉の黄蓋将軍は年齢○○歳らしいグヘア」
噂は蜀にまで届き、荊州の軍事行動が一時停止してしまう事態にまで発展した
そして、ついに恐れていたことが起こった
「噂に踊らされおって晋の愚者どもめ!」
合肥を囲む晋の兵、その数およそ50万
「祭、思春は全軍に戦闘準備を、亞莎、ここまで来た以上和睦は難しい、なんとしても合肥を守るのよ」
「ですが、ここで晋と戦うのは・・・・」
蓮華は少し涙を溜めた目で亞莎に詰め寄った
「ここでおめおめと合肥を明け渡せと言うの?これ以上私に汚名を着させないで!」
亞莎は思った
蓮華の心の傷つき方は思っていたよりも深かった
この事態は蓮華の心の傷を読めなかった自分の責任だと
「後方に待機させている兵全てを前線にあげて、なんとしても晋を撃退し合肥の支配権を絶対の物にするわよ」
もう引き返せない
「・・・・・御意」
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噂の怖さ