あれは、姉さまが張遼に負けた数日後のことだった
「司馬懿からの密書?」
思春から手渡された密書
その内容を見た私は驚愕することになる
「・・・・合肥の後方に50万の兵が控えているだと・・・・・」
冥琳は言っていた
合肥は囮、晋の本命は荊州だと
けど、この密書に書かれていることが事実だとすれば
「華琳の狙いはここだ」
さらに密書にはこう続いている
呉は北郷一刀を抱き込もうと手練手管したと聞いている
その罪、万死を持ってしても償い切れず
北郷一刀と関係を持ったものは弁明を許さず投獄
3年間ありとあらゆる拷問を与えた後、斬首とする
蓮華は飛び上がってしまった
「そ、そんな・・・・姉様、小蓮、皆・・・・」
張遼の率いる50万の晋軍が合肥を拠点に建業を攻めれば
呉が滅ぶのは火を見るよりも明らか
そして拘束された将は・・・・・
「思春、急ぎ50万の兵の事実確認を。それと、このことは他言無用よ」
「はっ」
数日後、思春から50万の兵は事実と伝えられた
さらに数日
「また、華琳からの密書・・・・」
再び届けられた密書
そこには甘い蜜のような誘惑が書かれていた
蜀を裏切り、姉孫策を討て
さすれば呉の安寧と荊州の支配を認める
北郷一刀への罪も見逃そう
荊州戦線の報告は毎日来ているが、どの報告も芳しくはない
荊州が陥落し、張遼率いる50万の兵が呉に殺到すればもはや逃げ場はない
戦場で死ぬか、自害するか、3年の拷問の後に斬首以外道はない
蓮華は思春を見る
思春の表情はいつもと同じだった
思春は命をかけて私を守ってくれる
きっと、最後まで戦い、私と運命を共にするのだろう
「絶対にだめ・・・・そんな結末だけは・・・・」
思春に、皆に、そんな思いをさせたくない
小蓮、祭、穏、亞莎、明命
皆の顔が思い浮かぶ
「姉様、冥琳・・・・・」
蓮華は華琳の計画書に王印を押した
「晋の様子は?」
蓮華と思春は城壁から晋を見渡し対策を練っていた
「目だった動きはありません。いつでも攻撃できる態勢にあるようですが」
合肥を囲む晋の軍勢
蓮華は思春を大将軍とし、参謀に亞莎、軍の統括に祭を起用
兵の数は後方から呼び寄せた援軍を加えおよそ10万
晋の5分の1の兵力だった
「亞莎、建業の守備隊からさらに1万を呼び寄せて」
「お、お言葉ですが、それでは建業が手薄に」
「合肥が持ちこたえれば問題ないはずよ。急いで!」
50万の兵は脅威
だが、そこに張遼はいない
そしてこちらには思春と祭、亞莎がいるのだ
蓮華は勝てると信じていた
やがて、建業からの援軍がたどり着くと、合肥の守備はさらに堅固となった
「晋め、来るなら来なさい」
高まる士気
呉の兵たちは準備万端だった
「一大事です!一大事です蓮華様ー!」
大慌てで走りこむ亞莎
肩を上下させ、苦しそうに呼吸をしながら
「はぁ、はぁ、建業が、建業が・・・・」
「落ち着いて、建業がどうしたの?」
「はぁ、はぁ、はぁ、張遼の攻撃を受けています!」
蓮華の頭は真っ白になってしまった
建業
霞、稟、真桜は兵を伏せ機会を待っていた
そして、ついに建業の守備隊が合肥へ召集
真桜を拠点に残し霞と稟は騎馬隊を率いて出陣
稟の狙い通りとなった
「それにしても、相変わらず稟のやることはえげつないなぁ。孫権ちゃんがかわいそうやで」
稟はめがねをくいっとあげると
「戦争ですから」
と一言だけ
あの噂の発信源は何を隠そう稟だった
駆虎呑狼の計
晋との戦いで手薄になった建業を落とし一気に勝負を決める
それが稟の作戦だった
さらに、噂の広がりが予想以上だったため、夷陵の戦線を膠着させる事態に
これは考えていた以上の成果だった
西へ去ったと聞いていた張遼が突然呉の都に現れ攻撃を仕掛けてきた
残された守備兵は錬度が高くない兵たちだったのもあり
霞と張遼騎馬隊を操る稟を止めるすべはない
「このまま城までいけそうやん。んで、中にはどうやって入るん?」
「我らの侵攻に合わせ内通者が門を開く手はずになっています」
「ほんま、用意周到やなぁ、おりゃああああ」
霞の前に立ちはだかった呉の兵は群がる虫を払うように蹴散らされてしまう
やがて、守備兵たちは霞を見ると逃げ出しはじめてしまった
「我は張遼ーー!死にたいもんはかかってきぃ!!」
「遼来来!」「遼来来!」「遼来来!」「遼来来!」「遼来来!」「遼来来!」
霞たちと城門に一直線の道ができた
「よし、合図を」
稟が指示を出すと一人の兵が上空に矢を放つ
矢の先には火薬が仕掛けられ、まるで花火のように大きな爆発音を発した
爆発音が轟くと、建業本城の城門が開き始める
それを見た霞は騎馬隊の速度を速めた
「おっしゃ!稟、いくでーー!!」
一気になだれ込もうとする霞
霞たちの前に障害物は何もない
そしてついに城門が完全に開き、つり橋も降ろされた
「・・・・・っ!止まりなさい霞!」
「全軍停止ー!!!・・・・っと、なんで止めるねん稟!」
勢いを止められてしまった霞が稟に食って掛かるが
稟は苦虫を噛み潰したように城門を睨んでいた
すると、中から悠々と、王者のオーラをかもし出す女性2人が騎馬隊を率いこちらに向かってきた
「孫策に、周瑜やん。なんや、内通者はあの二人やったんか?」
「・・・・違います」
雪蓮は霞たちに立ちはだかると、稟の足元に向け2つの首を投げつける
それは内通者の首だった
「・・・残念だったわね、稟」
稟は雪蓮に
「私の見立てでは、あなた方は一刀殿に付くと考えていたのですが」
「・・・・・一刀はいい子よ、でもね、私の信用がほしければ、死線の一つや二つ共に潜り抜けてくれないと」
「一刀殿への思いは偽りだったと?」
「私が信じるのは、共に死線を潜り抜けた仲間だけよ」
雪蓮の横に立つ冥琳
「噂を流したのは稟であろう?」
「はい」
「あの噂は広がり続け、私の元へも届いていたのだよ」
稟の舌打ちが聞こえた
「噂を知らなければ、私と雪蓮は身を引くつもりだった。しかし、蓮華様の危機となればそうも行くまい」
冥琳は噂を聞き
・稟の仕業であること
・呉と晋を戦わせる意図があること
・狙いが建業であること
3つを瞬時に見破った
雪蓮も稟へ言葉を放つ
「それに、私が妹の蓮華と男を天秤にかけると思われてたと思うと、かなりむかつくのよね・・・・」
雪蓮の殺気が稟に向けられた
「ヒッ!」
稟はその殺気に飲み込まれそうになる
だが、霞が稟と雪蓮の間に入り稟を守る
「なんやごちゃごちゃ言う取るけど、要するにあんたら倒せばうちらの勝ち
あんたらがうちらを倒せばあんたらの勝ち、そういうことやろ?」
霞は偃月刀を二人に突きつけた
雪蓮は稟に向けていた殺気を霞に向けた
「要するにって言うな・・・・」
「孫策、少しは体力戻せたんか?前回みたいんじゃ、話しにならんで」
「当然よ。今の私に死角はないわ・・・・」
張遼・郭嘉 対 孫策・周瑜
呉の命運を決める戦いが始まる
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