合肥
呉軍は目前に迫っていた
霞は一刀からの援軍を信じ篭城を決意
隙あらば打って出る作戦だった
「ん、甘寧か」
日も夕暮れに染まるころ、霞は城壁から呉軍を眺めていた
すると、合肥から距離を取っていた呉軍の中から思春が単独で馬を出してきた
思春は霞を挑発するように城前を右へ左へ悠々と馬を走らせた
「誘っとるね。こらぁ行くしかないやん」
霞はやる気だ
しかし、部下は一騎打ちを受ける気の霞に不安を覚えた
「罠の可能性が高いかと。危険です」
「そらわーっとる、けどな、あないにおちょくられたままやと兵の士気にも関わるやろ?」
「それはそうですが」
「何よりうちの士気にいっちゃん関わる。ああ、後な」
「はっ」
「うちが甘寧ギャフンと言わせたら、真桜の隊以外全軍で呉のあほんだらを蹴散らす準備しとき」
霞は騎馬隊に出動準備を命じると一騎打ちに向かった
馬を走らせる二人はすぐに遭遇した
「今更挨拶いらんやろ」
「・・・・・」
霞が切りかかる
一騎打ちが始まった
折れた飛龍偃月刀は真桜によって完全に元通り
今日の霞は久しぶりの実戦に気合が入っている
一方、甘寧は二刀流
もはや片腕を蓮華に捧げる必要はない
両手で剣を持つことで馬の手綱がもてないのだが、思春は下半身のみで巧みに馬を操った
両者は一進一退の攻防を見せるが、馬上の戦いではやはり霞が数枚上だ
「くっ・・・・」
思春は圧倒的不利と見ると隙を見て霞に背を見せた
好機と見た霞が城に合図を送ると、城門が開き騎馬隊が雪崩打って出撃
思春を追う霞の後方に位置づける
撤退してくる思春を見ると呉の陣営はざわめきたった
「張遼が来るぞーーー!!」「遼来来 遼来来!」 「逃げろー逃げるんだー!」
張遼が来る
それだけで呉軍は蜘蛛の子を散らすように逃げ回った
霞は逃げる呉兵に目もくれず思春を追う
しかし思春も呉の名将、馬術もさることながら、自領内の地理を知り尽くした思春は
巧みに霞の追跡をかわし続けた
二人と張遼騎馬隊の追撃戦は長期戦となった
「将軍、これ以上の深追いは危険です。日も落ちかけています!」
「ドアホッ!甘寧の行く先孫権あり。このまま追撃して孫権を討つで!!」
思春が一騎打ちを誘ったのは夕刻前、罠の可能性が高かった
それでも霞は、この一戦でなんとしても思春と同時に蓮華を討ちたい
呉を一度蹴散らしたところで晋と連携を取られてしまえば防衛は不可能
ここで蓮華を討つ以外に道はない
この時、霞は冷静さを欠いていた
久しぶりの一騎打ち、思春と言う好敵手、討ちもらした自己への不満、そして飛龍偃月刀を使いたい欲求
利はあるが、霞には思春の背しか見えていない
日は完全に落ちた
暗闇の中、前方には相変わらず絶妙な距離を保つ思春
とどきそうでとどかない
捉えそうになるとかわされる
霞はそのたびに熱くなる
やがて、思春は川にぶつかった
「よっしゃ、ここで一気に勝負をかけるで!」
川は浅い
思春は馬に最後の力を出させるため鞭を入れた
霞と張遼騎馬隊も全力だ
もう少しで思春にとどく
そのとき
「黄蓋殿今です!」
「おう、全軍放てーーーーーーー!!」
対岸に積み重ねられた土塁、埋め尽くす弓隊、その弓隊は呂、黄の旗を掲げていた
霞の背中に冷たい汗が流れた
「全軍反転!!急げ!!!」
張遼騎馬隊は進路を転回
しかし浅瀬とは言え川の中、例え張遼騎馬隊と言えど迅速な行動はできない
霞は降りかかる矢の雨を偃月刀で払いのける
だが騎馬隊の隊員はそうは行かない
後方でばたばたと矢に射抜かれ倒れていく仲間達
川に入った騎馬隊はそのほとんどが討ち取られてしまった
僅かな生き残りと、川に入りきらなかった兵をまとめ、体制を整える霞
その全身は自身の不覚への怒りに震えていた
「高順、あんたは皆を率い合肥へ戻り、うちは・・・・・」
対岸の土塁をぐっと睨み付ける
霞は1人で突撃する気だ
「北郷様がお帰りになったのです。どうか、ご冷静に!」
北郷の言葉を聞くと、ようやく霞の振るえが止まった
高順は霞に思いとどまらせるため今後の方針を献策する
「一刻も早く合肥へ戻り、真桜様と防備を固めましょう」
「・・・・・下を見るのはなしや、速攻で合肥に戻るで!!」
張遼騎馬隊は1000にも満たない規模となった
「あれは・・・・ちっ!!」
合肥の方角から大きな煙が上がっている
この時、合肥を攻めていたのは霞を避け迂回した呉軍本隊、そして遼来来と逃げ回った擬兵達
あの逃げは全て作戦だった
真桜が危ない!
霞達は全速力で合肥へ向かった
すると追撃される真桜達を発見、周囲を囲まれ逃げ場がないようだ
「真桜を救出する。呉を皆殺しにしたれ!!」
包囲された友軍目掛け張遼騎馬隊が決死の突撃を仕掛ける
包囲網を敷いた呉軍は突然の張遼襲来に面を喰らってしまった
張遼が恐ろしいのは演技ではなく事実だった
霞は鬱憤を晴らすかのように呉兵を討ちまくった
包囲されていた真桜達の奮闘もあり呉の包囲部隊は瓦解、なんとか真桜との合流に成功する
「真桜!」
「姉さんすんません!守りきれませんでした」
「取られたもんはしゃーない。生き残ったのは?」
「ここにいるもんだけです・・・・」
ざっと300
たったそれだけだった
「合肥を攻撃したのは?」
「蓮華はん本人です。あっと言う間でした・・・・」
合肥を失った霞と真桜達がいるのは呉の領地
一刀のいる襄陽は遥か西
日は既に昇り始めていた
からくも合肥から落ち延びた2つの部隊は一時、退路にある森林の中に逃げ延びた
ようやく一息の休憩を取る二人
だが、呉の追撃部隊はそこまで来ている
「進退窮まる。やな。堪忍や、真桜」
「何言うてますの。うちかて将ですよ。覚悟の上です」
「……負けっぱなしは気分が悪い、一泡ふかせんと、うち成仏できんわ」
「このまま捕まるぐらいなら、でっしゃろ?」
二人は最後の一撃を呉に加えることを決意する
霞、真桜直属の隊員たちも合意した
「今までよく尽くしてくれた。これが最後の戦いや。一人でも多く道連れにしたり!!」
「隊長に会えんかったのは皆も悔しい思う。けど、うちらは最後まで北郷隊や!北郷隊の意地、見せたりぃ!!」
「「「「「おおおおおおーーーー!!!」
最後の闘志を燃やした
呉の追撃部隊は目の前だ
森の中から突撃のタイミングを計る二人
ふいに背後から声をかけられる
「あなた方に死なれては、一刀殿が困るのですよ」
「「稟!」」
「説明は後、すぐさま私の指示通りに動いてもらいます」
霞と真桜は稟の指示に従い地面に落ちている枝を拾い10ほどの騎馬に取り付ける
「後ろを振り返らず西へ走りぬけよ。5里ほど先にある南北への分かれ道に達したら、枝をはずし身を隠せ」
馬に枝をつけた張遼騎馬隊の隊員は森を抜け、道に出ると大量の土煙を上げ西へ駆け抜けた
土煙を見た呉の追撃部隊は張遼が逃げたと思い追跡
霞たち残党は森に身を隠し九死に一生を得ることとなった
「稟、あんたどうしてここに、もしかして援軍がきたんか?」
待望の援軍到来かと霞は喜びの表情を見せる
「援軍ですよ。私一人ですが」
立った一人の援軍
敗残兵たちに落胆の色が見える
「合肥を落としたのは呉なのでしょう?」
「そうやけど・・・・」
稟は眼鏡をくいっとあげると
「想定どおりです。落としたのが呉で幸いでした」
「な、なんやと!どういう意味や!!」
霞は稟の胸倉をつかむ
それでも稟は表情を変えず
「・・・・合肥を取ったのが呉なら、報復できると言っているのです」
Tweet |
|
|
26
|
0
|
追加するフォルダを選択
パソコンが壊れました。代用のノートで書いてますが、データ全部飛びました