真・恋姫†無双~赤龍伝~第64話「七縦七禽?(三)」
木鹿大王と兀突骨を退けた、その夜……
孟獲「離すにゃーーっ!」
兀突骨によって劉備たちに引き渡され、縄で縛られた孟獲が大声で叫ぶ。
趙雲「朱里よ。どうするのだ? 今回もやはり逃がすのか?」
諸葛亮「はい。孟獲さんは、まだ私たちに負けたと思っていません。ですので今回も孟獲さんを逃がします。桃香様。よろしいですね」
劉備「うん。朱里ちゃんに任せるよ♪」
諸葛亮「はい」
そう言うと諸葛亮は、合図して兵士に孟獲の縄を解くように命令する。
関羽「何だか、納得しかねるな……」
諸葛亮「孟獲さん」
孟獲「な、何なのにゃ」
諸葛亮「これで、あなたは自由です。どうぞお帰り下さい」
孟獲「ふんっ。覚えていろにゃ! 次こそはお前たちを倒してやるのにゃ!」
解放された孟獲は、捨て台詞を吐きながら全速力で逃げていった。
張飛「行っちゃったのだ」
諸葛亮「また、すぐにやってくるでしょうから、迎え撃つ準備をしましょう」
劉備「うん。そうだね」
関羽「だが、朱里よ。今回は今までとは全く違っていたぞ?」
張飛「今日は怪我人がたくさん出たのだ」
趙雲「孟獲は良いように操られていたようだったな」
劉備「あの女の人……」
趙雲「うむ。桃香様や月たちを襲った女が、孟獲を操っていたのでしょう。まあ、あの氷雨とかいう女も、誰かの命令で動いているようですが……」
関羽「今度、現れた時は我が刀のさびにしてくれる」
月「あのぉ、失礼します」
月が天幕の中に入ってきた。
劉備「あっ、月ちゃん」
月「虎さんの手当が終わりました」
趙雲「おっ、今日の立役者の登場か」
月に続いて、虎の姿の赤斗と詠が天幕の中に入ってきた。
劉備「虎さん。今日は本当にありがとうね♪」
劉備が赤斗に近づき、赤斗の頭を撫でる。
関羽「………………」
関羽は何やら気に入らない様子だった。
趙雲「何故、そのような顔をしておるのだ愛紗よ? この虎殿が居らなければ、桃香様の命が危うかったのだぞ」
関羽「それは、そうだが……まだ、その虎が奴らの密偵ともかぎらないだろ」
赤斗(…………)
月「そんな……!」
劉備「愛紗ちゃん!」
詠「ちょっと、あんた! いい加減にしなさいよね! こいつは命がけで僕たちを守ってくれたのよ! そんな仲間を疑うなんて、どういつもりよ!」
赤斗(……仲間)
関羽「な、なんだと、虎や豹を操る敵がいたんだ。だから、私はもっとその虎を警戒すべきだと言っているのだ!」
詠と関羽が激しく睨み合いを始めた。
劉備「ちょっと二人とも落ち着いて、ね」
関羽「……はい。申し訳ありません」
詠「ふん」
劉備「愛紗ちゃん。私もその虎さんは敵じゃないと思うの。だって、私たちを守ろうとしてくれた虎さんは、愛紗ちゃんたちと同じだったから」
関羽「私と同じ……?」
劉備「うん。あの時、私ね。虎さんの声が聞こえた気がするの。私たちを守るって」
関羽「…………」
劉備「ね、愛紗ちゃんと一緒でしょ♪」
関羽「それは………」
月「愛紗さん、お願いです。虎さんを信じてあげて下さい」
関羽「…………」
張飛「……愛紗?」
趙雲「…………」
関羽「……………分かった。全部、私が悪いのだな」
そう言うと関羽は、天幕の外へと出ていってしまった。
諸葛亮「愛紗さん」
劉備「愛紗ちゃん、待って!」
趙雲「追わなくてもよい!」
関羽の後を追いかけようとした劉備たちを趙雲が制止した。
劉備「えっ、どうしてですか。星さん?」
趙雲「愛紗の奴は、ただ子供のように、拗ねているだけなのですから」
劉備「うぅ、でも心配ですよ」
趙雲「桃香様。今は放っておけば良いのです。そのうち頭も冷えるでしょう」
劉備「……分かりました」
劉備は趙雲に言われ、関羽を追いかけるのを諦めた。
月「どうしよう詠ちゃん。私のせいかな?」
詠「違うわよ。悪いのは愛紗の奴よ。自分が桃香を守れなかったから、虎に嫉妬しているのよ!」
赤斗(…………)
詠「あんたも気にする必要はないわよ」
関羽が出ていった天幕の出口を見ていた赤斗に、詠が話しかけてきた。
赤斗(ありがとう)
赤斗も詠を見てお礼を言う。
月「くすっ。二人はすっかり仲良しさんだね♪」
赤斗と詠の様子を見て、董卓は微笑んだ。
赤斗(でも、やっぱり……)
月「あ、虎さん?」
詠「はあー、やっぱり行くのね。あんたは……」
詠は目の前の虎が、関羽の後を追いかけていくのではないかと予想していた。
そして、予想通りに不思議な魅力を持つ虎は、関羽の後を追いかけていった。
詠はそれを月と一緒に見送るのだった。
赤斗(この辺りにいると思うんだけど……)
赤斗は関羽の匂いを辿っていた。
すでに本陣からも出て、夜の森の中を進んでいく。
赤斗(……いた)
赤斗は泉の横で、俯いて座っている関羽を見つけた。
関羽「誰だ!」
気配を感じた関羽が赤斗の方に振り向く。
関羽「………………お前か)
赤斗(…………)
黙って赤斗は関羽の横に座る。
関羽「……何しにきた。私を笑いにきたのか?」
赤斗(ふるふる)
黙って首を横に振る。
関羽「お前は本当に不思議な奴だな。まるで人間のようだ。だから……」
赤斗(うん?)
関羽「だから……、私はお前に嫉妬したのかもな」
赤斗(関羽さん)
関羽「本来なら私が桃香様を守らなければならないのに、桃香様の身に危険が迫っている時に居たのは、私ではなくお前だった」
赤斗(…………)
関羽「…………………………………………悪かったな」
赤斗(はい?)
関羽「さっきは密偵と疑って悪かった。本当なら、桃香様を守ってくれた礼を言わなければならなかったのに」
赤斗(別に気にしてないよ)
関羽「今ここで礼を言わせてほしい。我が主を守ってくれて、ありが……!!」
関羽が礼を言い終える前に、何者かの気配を察知して、関羽と赤斗に向かって襲いかかってきた。
咄嗟に関羽と赤斗は躱して、襲いかかってきた者を確認した。
木鹿大王「見つけたぞ」
関羽「お前は!!」
現れたのは、無精髭を生やし頭から虎の毛皮を纏った大男だった。
木鹿大王「我が名は木鹿大王。我が獣が世話になった礼をしにきた」
赤斗(……木鹿大王!)
関羽「なるほど。だが、こちらこそ貴様の獣にやられた、兵士の仇を取らせてもらうぞ!」
木鹿大王「…………」
無言で木鹿大王は、地面に両手を突く。
赤斗(土下座?)
関羽「何のつもりだ?」
木鹿大王「我が獣たちの恨み、思い知るがいい」
そう言うと木鹿大王の身体が変化を始めた。
関羽「何だ……これは?」
赤斗(!?)
目の前で木鹿大王の姿が変貌していく様を、二人は茫然と見ていた。
そして、木鹿大王は完全に人間の姿でなくなった。
まるで、その姿は全身に黒い鋼鉄の鎧を身に纏った獣だった。
しかし、本当の鎧を纏っているのではない。
木鹿大王の皮膚は鉄のように硬く。爪や歯は剣のように鋭くなっていた。
もともと巨体だった木鹿大王の身体は更に巨大になり、三㍍近くになっていた。
口からは涎がだらしなく溢れ、目は狂気に満ちている。
もうそこに居るのは、さっきまで居た無精髭を生やした大男ではなく、この世に居るはずのない怪物だった。
赤斗(狼男か! こんなのありえない!)
関羽「バケモノめ!」
木鹿大王「ぐるるるっぅぅぅぅぅっ!」
黒い巨獣と化した木鹿大王は、唸り声をあげて赤斗と関羽に襲いかかった。
赤斗(うっ!)
赤斗は躱しきる事が出来ずに、右前足に傷を負ってしまう。
関羽「はああぁぁーーーーーーっ!!」
青龍偃月刀で関羽が反撃するも、木鹿大王はその巨体と裏腹に素早い動きで躱していく。
赤斗(速い!)
関羽「おのれーー!」
木鹿大王「がるるるっ!」
しかし、ついに武神とも謳われる関羽の攻撃は、木鹿大王に命中した。
関羽の一撃を受けた木鹿大王は、左肩から僅かだが血を流す。
関羽「ふっ、血が流れるのなら、倒せるという事だな。覚悟しろ!」
関羽が冷静さを取り戻していく。
木鹿大王「ぐるるっ、ちょ、調子にののの乗るなよ」
赤斗(へえ。あの姿になっても喋れるんだ)
木鹿大王「か、覚悟すするのは、おおお前たちだ……」
関羽「なに!」
赤斗(姿が……消えていく)
木鹿大王の姿が闇夜に溶け込んでいく。
関羽「に、逃がすか!」
消えていく木鹿大王に関羽が斬りかかる。
しかし、木鹿大王の姿は消え、関羽の青龍偃月刀は空を切った。
関羽「消えた……」
赤斗(……逃げた? いや、そんなはずはない!)
関羽と赤斗は周辺を見回すが、木鹿大王の姿も気配も匂いも見つからない。
関羽「いったいドコに行ったのだ!」
赤斗(もしかして擬態か何かか?)
関羽「きゃっ!」
赤斗がそんな風に考えていると関羽の悲鳴が聞こえた。
赤斗(関羽さん!?)
赤斗はすぐに関羽のもとに駆けつける。
関羽「うぅ、大丈夫だ……心配するな」
関羽は顔面蒼白になり、辛そうな表情を見せ、青龍偃月刀を杖代わりにしていた。
赤斗(うっ、これは……!)
関羽の背中には、大きな獣の爪痕があり、そこからは血が次から次へと流れていた。
関羽「はぁはぁ、姿が見えなかった。……だが、奴はいる!」
赤斗(見えない敵か。ならば……“月空”)
赤斗は奥義“月空”を発動される。
自分の気を周囲に張り巡らせレーダーの役割をする“月空”なら、たとえ姿が見えずとも月空の範囲内なら見逃さない。
関羽「この感じは…………お前なのか?」
赤斗のすぐ横にいる関羽は、“月空”の発動に気が付く。
関羽「この感じ、この気、以前どこかで………………そうか! この気は……風見殿と同じ……!?」
赤斗(え? 気が付いてくれた?……っ!!)
関羽に名前を呼ばれ、関羽の顔を見ると同時に“月空”の範囲内に見えない何かが侵入してきた。
赤斗(あぶない!)
関羽「なっ!」
赤斗は関羽に体当たりして攻撃を躱した。
関羽が居た場所に大きな爪痕だけが残る。
関羽「お前、もしかして今の攻撃が分かったのか?」
赤斗は首を縦にふる。
関羽「はぁはぁ、やはり、そうか」
赤斗(だけど、僕の爪や牙じゃ奴は倒せない。関羽さんの協力が必要だよ)
赤斗は目で関羽に訴える。
関羽「ふっ……任せろ」
赤斗(え?)
関羽「奴を仕留めるのは私がやる。お前は奴がどこから来るのか教えてくれ!」
赤斗(でも、教えるってどうやって…………そうだ! 関羽さん、こっち!)
関羽「ど、どこへ行くのだ!」
赤斗は関羽の服の裾をくわえて、泉へと誘導する。
関羽「あっ、なるほど!」
関羽も赤斗の考えが分かったようで、自分から泉の中へと進む。
赤斗(怪我していて、辛いかもしれないけど……泉の中なら)
関羽「心配するな。この程度の傷。ここなら姿が見えずとも、泉に入ってきたらすぐに分かる!」
関羽は膝まで水に浸かり、青龍偃月刀を構える。
赤斗(やっぱり、足が着いても溺れそうで水は嫌だな……)
赤斗は胴体のすぐ下まで水に浸かりながら、“月空”は発動させて敵の攻撃に備える。
赤斗(長期戦はこちらが明らかに不利。奴もそれは分かっているはず……どうする?)
二人には時間がなかった。
背中の傷から出血が止まらない関羽。
奥義を発動させたままで、どんどんと体力を消耗させていく赤斗。
このままじゃ、木鹿大王の爪や牙で殺される前に、二人は力尽きるだろう。
関羽「はぁ、はぁ……」
赤斗(来ない。ならば…………)
赤斗「があああぁぁーーーーーっ!!」
赤斗は天に向かって、雄叫びをあげる。
ただの雄叫びではない。龍が咆哮するが如く、相手に覇気をぶつける技“龍咆”だった。
関羽「これは覇気か!」
赤斗(これなら……)
関羽(今の覇気なら、鈴々や星が気がつくな。そうでなくとも、誰かしら偵察にくるはず。そうなったら奴も動かざるおえなくなる。この虎はそんな事まで……)
関羽が考えた通り、今の膠着状態が動かすのが赤斗の狙いだった。
木鹿大王「ぐるるっ」
先程までは長期戦に持ち込んで、関羽たちの消耗を待つだけで良かった。
しかし、先程の虎の尋常でない咆哮で誰かが必ず来る。
たとえ誰が来ようとも、今の木鹿大王は負けない自信はある。
だが、援軍が来る事よりも、援軍が来た事により、せっかく追い詰めた関羽を取り逃がしまう事の方が心配だった。
木鹿大王の目的は、自分が手塩に育てた獣たちの仇打ち。
仇である関羽をこのまま逃がすわけにはいかなかった。
木鹿大王は援軍が来る前に、関羽を仕留める事に決めた。
赤斗(……来た!)
月空の範囲内に木鹿大王が入った事に赤斗は気がついた。
赤斗「がるるる!」
関羽「……来たのか」
小声で関羽が尋ねる。
赤斗も首を縦にふって答える。
木鹿大王は月空の範囲を出たり入ったりを繰り返している。
攻め込むタイミングを計っているようだ。
赤斗(来ないなら、こっちから行くぞ!)
月空の範囲内に再び木鹿大王が侵入したと同時に赤斗は動く。
関羽「おい、待て!」
関羽の声を後ろに聞きながら、赤斗は木鹿大王に向かって走り出した。
赤斗「があああーーーっ!」
木鹿大王「!!」
自分が攻め込む事ばかり考えていたのか、木鹿大王は赤斗への反応が遅れた。
赤斗の牙は木鹿大王の首へと食い込む。
木鹿大王「ぐぐぐっ、ぎぎ貴様ぁぁ!」
木鹿大王と赤斗とでは圧倒的に体格も力も違う。
赤斗は首に咬みついたまま、身体ごと振り回され地面に叩きつけられる。
しかし、決して赤斗は離さなかった。
赤斗(関羽さん!!)
関羽「はああああぁぁぁーーーーっ!」
気合とともに関羽の青龍偃月刀が、木鹿大王に振り下ろされた。
つづく
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ただ今、赤斗が虎になってしまい、劉備のもとに厄介になる事になったので、いまだに蜀?√に脱線中です。
主人公も含めてオリジナルキャラクターが多数出てきます。
未熟なため文章におかしな部分が多々あるとは思いますが、長い目で見てくださると助かります。