一刀SIDE
『黄』
「黄巾党……」
何故気付かなかった…
この時代、そして賊たちの肩の布や頭巾の色。黄色だった。
こいつらは黄巾党だ。
荊州は比較的早めに乱が収まったはずだが…その前が後か…詳しい時間帯は覚えてないからどうとも言えないが……
「とにかく街に戻って体制を建てなおさなければ……」
砂塵のせいで数が判断できない。
いや、しかし騎馬隊だと?単なる賊の略奪行為を越えてるじゃないか?
間に合わない……
あの街に潜り込んだ賊なんざ百ぐらいでしかないのに、あれは少なくもそれの何倍もしている。
「とにかく急がなければ……」
「一刀さん!!」
「!」
後を向くと、雛里ちゃんが俺が黄巾党を眺めている丘に上がってきていた。
「来るなと言っただろ!」
俺は急いで丘を走り降りてきて雛里をお姫様だっこで出来上げた。
「あわわー!」
「賊の騎馬隊が来ている。街に着くのも時間の問題だ」
「あわわ!ど、どうすれば…」
「わからない。とりあえず、街人たちに知らさなければならない」
「は、はい、あのそれは分かったから下ろしてください」
「急いでるって聞いてなかったのか?このまま走りぬく」
「あ、あわわー!」
雛里が慌ててるが、付き合ってる暇がなかった。
あの時は頭が真っ白になっていて、街に早く戻ることしか考えてなかったのだけど、後で考えると自分がどれだけ恥ずかしいことをしたのか気づいて何度かそこにあった壁に頭をぶつけていた。
「ぞ、賊がもっと来ているだと!?」
「…今から対応する準備をしなければこいつらぐらいでは済まないだろ」
「くぅぅっ、一体どうすればいいんだ!」
賊が更に来ているという話を聞いた街の人の顔には絶望の色がみえていた。
やっとなんとかなったかと思えば、これより更に強い連中が来るという。
「もうお終いだ……」
「全部ここで死ぬんだよ」
「いやだ、俺は、俺はまだ死にたくない!」
「こ、こんなところに居られるか、俺は逃げるぞ」
「どこに逃げるってんだよ!ここが俺たちの生きる場所だ。ここを離れてどこに行くてんだ」
「だからって座って殺されてたまるかよ」
「ざけんなよ、おい!俺たちは街の平民で、相手は何の戸惑いもなく一を殺すことが日常茶番事な賊だ!そんな連中が、しかもこんなさっきよりも何倍の数で来てるんだぞ!俺たちで勝てるわけねーだろ」
「うぅっ……」
負のサイクルはそうやって進んで、戦う前に街の人たちは絶望の中でもう死んでいる。
恐怖は人を愚かにする。一度恐怖に陥った人より馬鹿ないきものはない。
「一刀さん」
「うん?」
彼らの言う言葉を聞きながら黙っていると、雛里が俺にくっついてきた。
「この人たちに一刀さんのことを言ってもいいですか?」
「………」
雛里の言ってることはわかる。
たしかに、彼らに俺が天の御使いだと言えば、…たしかにこの絶望からは上がってこれるだろう。
だけど、そう簡単じゃない。
「駄目だ」
「だけど…」
「この人たちは単に絶望したわけではない。死ぬことが怖いんだ。にもかかわらずここに立っている。強ければ逃げればいい。それとも命賭けて戦えばいい。そのどっちの出来ないのは単に賊たちが来たら頸洗って彼らの剣に頸を捧げることでしかない。そんな連中に俺が天の御使いだから俺に付いて来いとか言ってみろ。得るのは希望ではない。単に自分の恐怖を隠すための隠し場を得るだけだ」
自分たちの恐怖に立ち向かうわけではない。俺に押し付けるだけだ。
「だからって他に方法があるわけでもないじゃないですか」
「………」
「…み、みなさん、心配することないです!」
俺が何も言わないから、雛里は皆に向かって叫んだ。
「なんだ?」
「こ、この人が、一刀さんは実は天の御使いなんです。みなさん、この前街に出ていた予言はご存知ですよね」
雛里を止めるつもりはなかった。
雛里としてはこれが唯一の方法だった。
だけど、
「天の御使いって…あの乱世を鎮めるっていう?」
「俺みたぜ?さっきあの人、木刀だけで何十人も賊を倒したんだよ」
「マジか!」
「よかった。やっぱ天は我々を見捨ててなかったんだ」
「お願いします。御使いさま、私たちをあの賊どもから救ってください」
人たちは絶望から戻ってきた。だけど、まだ怯えている。
それがどれだけふざけた話なのかわかるか、雛里?
恐怖は消えない。なのに俺という未知の存在に向けて希望を持っているんだ。
そんな連中がすることは一つだけだ。
その未知の存在へ自分の恐怖を全て押し付けること。
そのことで自分たちはまた幸せになれるだろうと勝手に思いながら。
「御使いさまの力なら、あんな下衆な盗賊など、一気に片付けるだろ」
「これで俺たちの街は助かった」
「避難所から女と子供たちを連れてこい。もう大丈夫だってよ」
直ぐにこうだ。
人間ってなんて自分勝手ないきものだ。
「あまえるんじゃねえ!!」
「「「「!!!」」」」
「か、一刀さん」
あまりにも大きく叫んでしまって、雛里は帽子をぐっとかぶった姿で、後を向いて上目遣いで俺を見た。
「お前たちの街だ。お前たちの家族だ。お前らには自分たちを自分で守るという意志はないのか!」
「だ、だけど、俺たちは賊と戦うなんて…」
「じゃあ、あれは何だ!」
俺は街のあっちこっちに気絶させて、木柱に縛られてある、先にここに来ていた賊たちの群れを指した。
その人たちをそうやって縛っておいたのは誰でもない街の人たちだ。
「でも、今来ている奴らはこんな雑魚と違うと言ったのは御使いさまでしょ」
「俺たちのような平凡な人間が勝てるはずがない!」
「……なら死ね」
「「「「!!」」」」
「一刀さん!」
「自分たちが弱いと思えば、より強い奴らに死ぬしかない。それは天の意志とか関係ない、この世の理屈だ。自分から弱さを認めて、強い奴らに頸を斬ってくださいと待っている奴らに、天は手を差し出さない」
「………」
「俺があの賊たちの前に出て、また何十人殺すことは出来るだろ。でも、他の何百は俺は構わんとしてこの街に突っ込んでくる。その時この街を守らなければならないのは誰だ?お前たちだ」
「………」
「この街も、お前たちも妻も子たちも、結局救うのはお前たち自身だ。俺はそこに力を添えることしかできない。もしお前たちが自分たちを助けないなら、俺もお前たちを助けることができない。天だってお前たちを助けることはできない」
俺が言えることは言った。
俺は人たちを盛り上げるとか、そんなことはできない。
ただ、現実を知らせて、それでもこの人たちが現実から逃げて天の御使いという雲の上の何かを望むのなら、この人たちにもう助かる方法なんてない。
「雛里」
「は、はい」
「お願いしよう。水鏡先生のところへ戻れ」
「嫌です。一刀さんが居るなら、私もここに居ます。私にもできることがあるはずです」
「本当に戦いになると、俺はお前を助けることが出来ないかもしれない。お前に傷一つでもできれば……」
できれば……」
「……水鏡先生と孔明に合わせる顔がない」
「だけど…」
「お前はまだ勉強中の生徒だ。ここに残って策を考えるとか。お前にそこまで望む人なんてここには居ない」
「……私は、一刀さんと一緖に居ます」
「!」
「私はいつか軍師になりたいです。だけど、それがそんなに遠い未来なんて、わたしは思ってません。生徒だからとか、そういう安易な理由、私たちには通用しません」
「雛里…」
あまりにも迷いがない雛里の顔に、俺は言葉を失った。
「一刀さんに出会う前だったら、私はここで誰か私は逃げていなさいと言われたら、きっと逃げていました。だけど、一刀さんを見てからそうじゃないってわかりました」
「………」
「私は子供じゃないです。いつまでも守られてる側に立っているわけじゃないです。一刀さんがこの人たちを助けたいと思うのでしたら、私のことも使ってください。きっと、役に立ちますから」
「……雛里、お前がここの人たちよりも上だ」
「ひゃうっ!」
俺は思わず雛里の頭を帽子越しで撫でた。
びっくりして更に帽子をかぶってしまう雛里の姿があったが、そんなことよりも今は大事なことがあった。
「時間は少ない!こんな娘までお前たちを助けるためにここに残ると言っているんだ!お前たちの街だ!お前たちの家族だ!迷い要素がどこにいあるというのだ!立て!勇気を搾り出せ!そこまですれば後は俺たちが押してあげる!全て守れるようにしてくれる!」
「ふざけるんじゃねえー!」
「!!」
「だ、誰ですか!今のは…」
「わ、私たちでは…」
「こっちだよ!」
その声は街人たちの群れ、そのもっと後から聞こえていた。
「…お前は!」
「くく、やっと見つけたぜ。貴様ほどの武ならきっと目立つだろうとはおもってたけどよ。まさか天の御使いだったのはな」
以前街であったチンピラ三人のうち親分の奴だった。
「何故貴様がここに居る」
「俺がこの群れの隊長だったんだよ。そして今来ているのは、俺たちの総大将さまだ!」
「何!」
こいつがこの群れの……まさか。
「おい、お前ら!どうして俺がこの街を選んだかわかるか?お前らがそんな頼りにしてるあの天の御使いのせいだよ!」
「………」
あいつの言うことを聞いて周りがざわめく。
「どういうことだ」
「御使いさまのせいで、街が襲われただと?」
「何故そんな……」
「あの時のことのせいでこの街を襲ったおというつもりか」
「そうだ!貴様があまりにも鬱陶しくやってくれたからな。おかげで俺は足に傷を負ったんだ」
「そんな理由で人たちを襲ったというのか!」
「知るかよ!俺たちの方が強いんだ!俺たちより弱いし頭のわりぃ連中は大人しく頸と金を差し出せばいいんだよ!」
「…とても縛られて言うようなセリフではないな」
俺はそうは言ったが、正直今あいつと俺の優劣は今の状態とは真逆だった。
もう直援護、いや、敵の本隊が来る。
そしたら、あのざわめいている奴らを纏め上げて戦うことができるのか?
「天の御使いか何知らんが、貴様はこの世を生きる方法がわかっちゃねー」
「何だと?」
「自分より強い連中を利用して、自分より弱い連中を踏みにじる。それが乱世の生き方なんだよ。正直に動いたところで結局頭を使わなきゃ意味がねぇ」
「それで、貴様がそこに縛られてるのもそのずる賢い策のうちと言うのか」
「ふん、易い挑発だな。まぁ、見ときなって」
余裕満々の顔で賊の小隊長と言ったあいつは街の人たちに叫んだ。
「おい、貴様ら!貴様らが誰一人死なずにこの危機をしのげる方法を教えてやろう」
「!」
「な、何だと」
「本当か?」
「ああ、俺は総大将のお気に入りなんだ。総大将が全力でここ来ているのも俺がここに捕まってるって分かってるからだよ。だから俺が行って話せば、総大将は軍を退く」
「!」
やられたか。
まだ迷っていた街の人たちが、自分たちが傷つかない方法があるという甘い誘いに乗ってしまっている。
彼がさっきまで自分たちをいじめ、そして自分たちが力を合わせ捕縛したやつだということを忘れて…
「お、俺たちがどうすればいい」
「そうだな…まずは…そこにいる天の御使いという奴を殺せ。そうすればこの街を攻めるのは止めてやる」
「!」
あいつ……
「御使いさまを……?」
「馬鹿な、そんなことができるわけが…」
「でも、でないと俺たちは……」
「みなさん、信じちゃいけません!一刀さんまで居なくなってしまったら、本当に賊たちが来た時私たちはお終いです」
「うるせーよ、お前に何がわかる!」
「ひっ!」
雛里が戸惑っている街人たちに訴えるが、既に恐怖満ちた人たちの耳には聞こえない。
「どうせ水鏡塾は街から遠い山奥にある。賊たちが攻める可能性は少ないんだ!お前なんてそこに逃げれば構わなしだが、こっちは街がやられるとお終いなんだよ!」
「だからって、一刀さんを殺したところで賊が攻めてこないなんてそんなの嘘に決まってます!」
「じゃあ、他に何の方法があるってんのか」
「方法ならあります。皆で一緖に戦えばきっと…」
「言っとくがよ、総大将の部隊は俺たちとは違う。本気で来るぞ。街で畑耕しながら生きてた連中に敵う敵じゃねぇ」
「うっ…!」
更に縛られている賊の小隊長の言葉に、人たちの目はどんどんこっちに向かってくる。
「一刀さん!」
「………雛里、こっちに来い」
もうこいつら目が本気になってる。
「さあ、殺せ!あの天の御使いとか言う奴さえ殺せば、お前たちは助かる」
あいつは、最初から俺を殺すためにここまでしていたかのように言っていた。
俺のせいで街が焼かれたと言っても、間違いはない。
だが、
「俺を殺したところで街が助からないということが分からない阿呆から俺に槍を向けろ。相手になってやろう」
「うっ……」
「…う、うるさい!俺たちのことも助けないで何が天の御使いだ!」
「俺が天の御使いでないとして、俺が死んだところで本当に助かると思う奴は前に出ろ」
「う、うおおおお!!!」
「腰が抜けてる!」
包丁を持って仕掛けてくる街人の一人を、急所を避けて木刀で突く。
「うぐぅ…!」
「お、おい、大丈夫か!」
「一気にかかれよ!一人一人で相手できねーよ!」
後から賊の小隊長の声を聞いて、もう自分たちで考えることを諦めた街人たちは同時に何人も持ってる武器をふるってくる。
「雛里、無闇に離れるな。くっついてろ」
「あ、はい。一刀さん!」
「分かってる。傷は付けない。所詮は平民だ。罪はない」
が、厳しいな。この状況。
遠くで来る恐ろしい賊は相手にできなくて、群れになって自分たちを助けてあげると言った男と子供一人には手が出せるか。
「うぐぅっ」
「ぶぐぉっ!」
考えることをやめてただ人が言うことを聞くことは楽だ。だが、そこに自分たちの幸せがあることはまた少ない。
「ちっ!」
「一刀さん、これ以上は…」
「仕方がない。何か方法を考えないと…」
賊が来る前に俺の手で街の人たちを全部倒すはめになる。
所詮は恐怖に押されて何の技もなくものを振るう雑魚敵だ。何重重ねて来たところでこっちが負けることはない。
ただ、
「うわぁあああああ!!」
「ちっ!」
行かない。あの姿勢だと、急所狙いじゃないと後の雛里まで傷つく。
「済まん!」
「うげっ!」
木刀で喉を突くと、槍を振るっていた相手はそのまま無様にこけ倒れた。
「おい、貴様ら!何やってんだ!何人がかりでも倒せねーとか、もう時間がねーんだぞ!」
「う、うおおお!!」
後の賊の小隊長の声を聞いて、ない力まで振り絞って自分たちの最後の希望の炎を吹き消すために仕掛けてくる人たちを見ていると、その姿が可哀想とさえ覚えてきた。
人間は恐怖に満ると所詮はこれだ。何も考えず言う通りに従う獣と化す。そして命じられたからって、自分たちの為だからってその罪を隠すことになるだろう。
「現実を見ろ!時間はもう少ない!まだ分からんか!俺を殺したところでお前たちが助かることはないということを自分たちでも分かっているはずだ!」
「だ、だけど、他に方法がない!」
「方法はあった。だけど、お前たちは易い道を選んだ。厳しい現実を敢えて避けて幻のように、夢のように楽な道を選ぼうとした。そんな道選んだところで一歩も進んでないのと同じだ!」
「うぐぅっ……!!」
恐怖は人を不合理にする。愚かにする。
自分たちがしていることがどれだけ無駄なことなのかを知っていながらも敢えて考えないようとする。そして、こうして死んだら自分たちを救ってくれなかった天を呪うだろう。
ほんと、どれだけ馬鹿なんだろうか。人って。
その点、あの賊の小隊長は確かに自分が言った通りだ。
ずる賢く生きて、自分より強いものを利用して、弱いものは踏みにじる。
そういう生き方は、たしかにこの乱世ににて有用な物なのかもしれない。
「ええい、何やってるんだ!早くあいつを殺せ!お前らも死にたいのか!」
……いや、待って……
「違うな」
「へ?」
「そういうことか!」
お前は世の生き方を知ってるわけじゃなかったんだ!
「そこを退け!」
「なっ!」
俺は倒れていた人の槍を持って柱に縛られて叫んでいた賊の小隊長の首筋直ぐ横に槍を刺さった。
「ひっ!」
「そうじゃないんだ…実は本当に焦っているのは、本当に恐怖に満ちてるのはお前なんだ。だからそうやって急いでる。余裕満々なのじゃない。焦ってるんだよ」
「な、何を言ってるんだ!俺んちの総大将が来れば貴様らはお終いだ!」
「いや、始末されるのはお前だけだ」
「!!」
「これだけの兵たちを、しかも完全武装させて連れてきたんだ。なのにこんな無様に負けてしまった。責任を取って殺されるだろう」
「!」
図星かな。
「じゃ、じゃあ、一刀さんを殺せと言ったのは…?」
「ただの八つ当たりだ。悪あがきなんだ。こいつはこのままだとどうせ死ぬ。恨みがある俺も道連れしようとしただけさ」
「ふ、ふざけるな!貴様なんか…!裴元紹さまに出会ったら一捻りもない!」
「そうか、総大将の名は裴元紹か。これはまた中々の人物が出たものだ」
「そ、そうだぞ!何時かは張三姉妹の一人、張宝さまの武将だった方だったけど、ある戦いで負けてバラバラになったところを、あの人は俺たちと一緖に荊州に来た」
「そして、山にでもこもって静かにそこんところ通る商人を襲って部下たちを養っていたところ、貴様が街で変な騒ぎ起こして俺に八つ当たりして」
「!」
「勝手に兵を連れてここに来て負けてしまった。いや、負けたことはどうでもいい。彼にとっては見事な軍令違反だろう」
「……貴様さえなければ、この街を襲ってここの財宝を持って帰れば、きっとお頭も喜ぶはずだった。俺を副頭に付けたかもしらねー」
「もう遅いがな。貴様さえあいつに付け出せば、裴元紹は大人しく戻ってくれるだろう」
「ほ、本当ですか、御使いさま!」
「やった!これでこの街は助かったぞ!」
俺の言葉を聞いた街人たちはやっと武器を下ろして喜んだ。
「へん!俺が大人しく連れて行くと思うなぐはっ!」
「口が多い奴だ……まぁ、その舌三寸で今まで生きてきただろうけど、これでおしまいだな」
鳩尾を拳で叩くと、武装も解除された賊の小隊長はそのまま気絶した。
「み、御使いさま」
「…何だ?」
「さっきは本当に申し訳ありませんでした」
小隊長の奴を気絶させたところで、街の人の一人が俺にそう言った。
「何を謝っているのかさっぱりだな」
「で、ですが…」
「お前らはただ怯えていただけだ。何をしていない」
「お、俺たちを許してくれるのですか?」
「…………こいつは自分がこの街を攻撃したのは俺のせいだと言ったな?それは事実かもしれない」
「…へ?」
呆気無い顔になったその人と、後で騒ぐ人たちを見て俺は言った。
「まだ街が助かるって決まったわけではない。所詮は賊だ。下手をするとこのまま街を焼かれるかもしれない」
「そ、そんな…!!」
「じゃあ、俺たちはどうすれば…!」
「…俺がこいつを連れて賊たちに当たる。もしもの時を備えて、お前たちは急いで街を防御する準備をしろ、雛里が手伝ってくれる」
「あ、あわわ!」
突然呼ばれた雛里が驚いた顔で俺を見た。
「出来るな、雛里」
「………はいっ、頑張りましゅ!」
「よし、それほど緊張した方が丁度いい」
「あわわ、か、からかわないでくださいよぉ」
「ふふっ」
俺は気絶した賊の小隊長を持ち上げて人たちに言った。
「一度無様な姿を見せてくれたことはいい!だけど、二度目は駄目だ!もうお前たちを説得している時間はない!護りたいものがあるのなら、自分たちの力を搾り出せ!俺に先出していた殺気をお前たちを傷つけようとする賊たちに回せ!街を、家族たちを守るために全力尽くせ!そしたら俺もそこに力を添える。天もお前たちを助けてくれる!」
「……わかりました」
「雛里、ここを任せた。俺は前に出て時間を稼ぐ」
「はい、わかりました。もしうまくいかなかったら……」
「ああ、その時は直ぐに戻って皆と戦う。無茶はしない」
「…わかりました」
まぁ、大人しく戻ってくれればいいのだがな。
そううまくはいかないだろう。
「急がないとな…」
俺は賊の小隊長を持ったまま街の外へ向かった。
裏話
「……ここにあるの?黄巾賊残党の陣の倉に…?」
「はい、あそこに……例の物が」
「…あ」
「……氷龍、そして鳳雛か」
「左慈さま、これらはなんなのですか?」
「……氷龍は…僕よ」
「…え!?」
「的確に言うと、僕の一部。貂蝉たちが僕を一度殺した時、僕の力を奪うために負な感情らを僕から引きとって、封印した。その封印された負の力は貂蝉の手から日本の卑弥呼に渡されたけど…戦国時代にて卑弥呼がその封印を盗まれたそうよ。その後戦国時代にある修羅のような者が現れ、どの家かを問わずに見える人は誰でも持っている剣で殺し尽くしたというわ。卑弥呼がその者を見つけ殺した時、彼はこの剣を持っていたのだけれど、この剣に僕から取ったその負の力が入っていたらしい。それで卑弥呼はまたその剣の力を封じるため、当時名高い匠であった北郷家の者に、封印のための鞘を頼んだ。そしてできたのは鳳雛。その後その外史にて氷龍は鳳雛に封じられたまま、北郷家の家宝として受け継がれてきたの」
「左慈さま……もしこの剣があれば、左慈さまの力がもっと強くなるのですか?だからここに来たのですか?」
「…元はそのつもりだったんだけどね……ちょっと鞘から外してみようかなっと」
シャキンー!
「……うーん、これは使い物にならないかな。何百年も一人で居ながら人の負の感情を吸ったせいで完全に個別の存在に固定されちゃった……いわば付喪神みたいな?」
「付喪神って……じゃあ」
「……まぁ、化けたりは…しないと思うけどね。(ならいいなー)」
キリッ!
「なっ!」
「左慈さま!」
「うわっっと!」
シャキーン
「……ふう、危なかった。鞘から外した途端これだよ。持っている人の頸を狙うとかありえないわ」
「大丈夫なのですか?」
「うん…でも……いや、もしくは僕を狙っていたのかしら。僕が本体であることを気づいたのかな」
ガタガタっ
「何か鞘に抑えられてるままでも動いてるし。ここから離れた方が良さそうね」
「剣をこの外史の一刀さんに渡さなくて良いのですか?探しているようですけど…」
「うん?大丈夫だよ。どうせここに来るから。一刀も……」
「……うぅん?」
「?」
「あら、まあ、こんなところに人が…?」
「……?!だ、れ?」
「ああ、ごめん、起こしちゃったかしら。もう帰るからね、邪魔してごめんね」
「だ、だれ?ここ……おじさんの……おじさん…出かけた……」
「うん、そうだね。分かってるわ。今頃裴元紹なら……街にほぼ近づいているかしら」
「…………」
「そんなに警戒しなくていいわ。別にここの物を盗みに来たわけじゃないから。あなたは倉番かしら。ダメよ、ちゃんと見ていないと」
「………」
「……………あら」
「どうしたのですか、左慈さま」
「……ふふっ、そういうこと」
「??」
「ああ、僕たちはもう帰るね。邪魔してごめんね」
「左慈さま、どうなさったのですか?」
「別に…それじゃあ、ちゃんと見張りしててね。倉番ちゃん」
スッ
「!……きえ……た?」
・・・
・・
・
あとがき
人を奮い立たせ、街を守るというのは天の御使いとしての第一歩を飾る大事な儀式(?)ですが、
そのことがうまくできなかったこの北郷一刀、
果たして彼には天の御使いになる資格はあるのでしょうか。
そして、雛里の思いとは裏腹に、彼女から逃げようとする一刀はどんな選択をするのでしょうか。
という感じにしてみました。
人は恐怖に陥ると愚かになります。
愚かになった人は難しく厳しい話より自分に優しく希望的な話が好きです。
だけど、本当の希望はそんなふうには訪れないのです。
それを知っていても、恐怖に支配されている人には、それを知ろうとする、現実を知ろうとする心がない。
そんな人たちに、例え天から来た全知全能な存在が助けに来たとて、彼らを救えるのでしょうか。
自分には疑問です。
というわけで、次回の一刀と雛里の話を期待してください。
裏話の方はきにせんでいいですよ?
……いや、ほんと
ノシノシ
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真・恋姫無双の雛里√です。
雛里ちゃんが嫌いな方及び韓国人のダサい文章を見ることが我慢ならないという方は戻るを押してください。
それでも我慢して読んで頂けるなら嬉しいです。
コメントは外史の作り手たちの心の安らぎ場です。
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