大きな戦を前に、曹操さんへと降伏した黄蓋さん。
黄蓋さんの乗った船が曹操さんの陣地へと行く前に、孫策軍の追撃隊が組織されて追いかけていました。
残念な事に、黄蓋さんに追いつくことはなかったのですが、私はそれが故意に行われたことのように思えてなりませんでした。
そして、この黄蓋さんの降伏劇も私達が曹操さんに勝つために必要な布石。
そのように感じました。
ただ、黄蓋さんの降伏で士気が下がり気味である事は否めません。
士気を上げるために張三姉妹に頑張ってもらおうかなと思いましたが、それは避けました。
まだ張三姉妹の正体を他の国々の人達に知られるわけにはいきません。
なので、星ちゃんをはじめ武将の皆々で頑張ってみましたが、なかなかに難しいです。
そして、黄蓋さんが降伏してから数日。
ついにこの時を迎えました。
正直準備万端とは言い難いです。
黄蓋さんの件で士気も下がり気味。
状況としては、最悪ではないにしろそれに近い状態です。
それでも、孫策さんをはじめ孫呉の皆さんは活き活きとしています。
そう、あの降伏を薦めた周瑜さんでさえ。
こうなるとやはりあの黄蓋さんの降伏は、勝つための必要な布石だったのでしょう。
逆に桃香さんの所は、なにやらそわそわしています。
主に桃香さん本人がですが……。
諸葛亮さんは、この戦の先を見据えている。
そのような動きをしていました。
そういえば、鳳統さんの姿が見えません。
後方で何かしているのでしょうか?
そして、私達北郷軍。
当初は、黄蓋さんの件があって落ち着いていませんでしたが、お兄さんがかなり冷静になっていたので、それにつられてみんなも落ち着いてきました。
星ちゃんは、自分の軍の編成が済むや否やお兄さんにちょっかいを出しています。
華雄さんが自分の武器の整備に余念がありません。
霞さんは、景気づけにとばかりに腰に下げているお酒を飲んでいます。
と、いつもと特に変わらずな感じです。
一番の驚きはあの袁紹さんこと麗羽さんです。
「今日こそあの小娘に目にものを見せてあげますわ!!」
と、なぜか一人息巻いています。
ですが、麗羽さんが出張るとろくな事がないので、今回も後方に下がっていてもらうつもりです。
「風、緊張しているのか?」
白蓮さんが話しかけてきました。
「そうですね~。あれほどの大軍を目の前にして緊張しないのはお兄さんか星ちゃんくらいですよ~」
そう、対岸にいて距離としてまだまだ離れているはずの曹操軍ですが、ここからでも相当大きいことが判ります。
「しかし、どうやって戦うんだ? このまま水軍で突撃しても返り討ちにあうのが関の山だぞ」
「その辺りは大丈夫だと思いますよ~。何かのきっかけがあるはずです~」
具体的な事は私も聞いていません。
ですが、黄蓋さんが何か行動を起こしてそれが合図になるはずです。
「しかしなぁ。あの大軍を倒すには火計がいいんだろうが、水上じゃ火計は効果無いからなぁ」
「そうですね~。そして、この風もそれを阻んでいますね~」
風は曹操軍からこちら側。
つまり、私達からすると向かい風となっています。
たとえこのまま火矢を放って火計を行っても、風向きでこちらに被害が出るだけです。
「とりあえず、待つしかないか」
そう言って、白蓮さんは自分の持ち場へと戻っていきました。
白蓮さんとの会話に出てきた火計。
まさか、水上の戦いで火計を成功させるなどこの時の私には思いもよりませんでした。
長江を挟んでの睨み合い。
一体どれだけ経ったのでしょう。
動き出したら負け。
そんな空気が、この戦場を取り巻いていました。
だからでしょうか、圧倒的有利なはずの曹操軍も動き出す様子がありません。
この膠着状態がそれこそ永遠に続きそうな、そんな風に感じていた時です。
にわかに風向きが変わりました。
それが合図になったのでしょう。
曹操軍の船から煙が上がり始めました。
それは瞬く間に多くの船に飛び火していきます。
まるで船を繋いで一つのものにしたかのような、火の移り方です。
ここで、孫策さんが声を上げました。
「機は熟した!! 全軍突撃だ!!」
「明命は、祭殿の救出にあたれ!!」
「はっ!!」
孫策軍が、曹操軍に向かって突撃していきます。
あの時黄蓋さんをむち打ちにしたあの少女が、今度は黄蓋さんの救出に向かうようです。
私達も、孫策軍に負けるわけにはいきません。
「北郷軍もいきますよ~!! 星ちゃんは中央、霞さんは左翼、華雄さんは右翼からお願いします~」
「応!!」
「恋さんは、お兄さんと共に中央を進みます~」
「……わかった」
「恋殿、いきますぞ!!」
私もお兄さんと共に前線へ進みます。
本当は、後方で待機するのが安全なんでしょうが、これからの事を考えると多少危険でも前線に進んで何か実を取らないといけません。
恋さんがいればまさかの事態にはならないでしょう。
自陣は、白蓮さんと麗羽さん、美羽さんにお任せしておきます。
斗詩さん、猪々子さん、七乃さんもいますし、白蓮さんならあのお二人を抑えられるはずです。
劉備軍も私達にあわせて進んでいきます。
ですが、その軍を率いているのは黄忠さんや厳顔さんです。
愛紗さん、鈴々ちゃんの姿は見えません。
おそらく諸葛亮さんの考えなのでしょう。
曹操軍は火計で相当な痛手を被っているので、愛紗さん達がいなくても何とかなりそうです。
数が少ないとはいえ、この三国の突撃は相当なものです。
それでも、火計で圧倒的不利な状況の曹操軍ですが、反撃を仕掛けてきます。
特に、曹操さんの脇を固める夏侯姉妹はこの火計が無かったかのような動きをしてきます。
「華琳様を傷つける者は、この魏の大剣の錆にしてくれる!!」
「我が弓は神の弓。この戦場の全ての者を射抜いてくれる」
二人が動くたびに、その周りには多くの死体が積み重なっていきます。
圧倒的有利とはいえ、この状況はまずいです。
「恋さん、お願いします~」
「……コク」
恋さんは私の言葉に頷いたかと思うと、夏侯惇さんの前に立ち塞がります。
「……呂布か、相手にとって不足なし」
そう言って、夏侯惇さんが自慢の剣を振り下ろします。
「……遅い」
恋さんはそれを簡単にいなしたかと思うと、すぐさま攻撃を仕掛けます。
「ぐっ!!」
恋さんの攻撃をなんとか防ぐ夏侯惇さん。
ですが、防ぐので精一杯のようで攻撃に移ることが出来ません。
「姉者!!」
すかさず、夏侯淵さんの矢が飛んできます。
「……ぬるい」
恋さんは、夏侯惇さんを攻撃しながら夏侯淵さんの矢を落としていきます。
「こいつ、化け物か……」
恋さんの動きに、夏侯淵さんが驚きます。
「さすが恋殿!! 最強ですぞ!!」
そんな恋さんの動きに、ねねさんが大喜びしています。
私もそんな恋さんの動きに、思わず見惚れてしまいます。
それがよくなかったのでしょう。
気が付くと、すぐそばに曹操軍の兵士さんが来ていました。
そして、私に向けて刃が振り下ろされようとしていました。
周りの兵士さんは、他の兵士さんを抑えるので精一杯のようです。
私も護身用に武器を持っていますが、とてもじゃないですが間に合いません。
やられる……。
そう思って、目を閉じました。
今まで実感はありませんでした。
私もいくつかの戦場をくぐり抜けてきたので、それなりの場数は踏んでいると思っていました。
ですが、基本的には本陣で後方の指揮を執るのが役目だったので、そこまで実感は伴っていませんでした。
今、この時に初めて戦場の怖さ、そして死という実感を感じています。
しかし、それを感じるには遅すぎました。
結局、死んでしまっては全てが終わりです。
もっと、お兄さんと一緒に歩んでみたかった。
そう思いながら、覚悟を決めました。
カキン
私が覚悟を決めて目を閉じたときです。
金属がぶつかり合う音が聞こえました。
驚きながらゆっくりと目を開けると、そこには信じられない光景が繰り広げられていました。
私に向けて振り下ろされていた刃は、お兄さんの剣で防がれていました。
「この野郎!!」
お兄さんはその刃を押し返すと、兵士さんに向けて蹴りを繰り出しました。
蹴られた兵士さんは、船の縁にぶつかりそのまま気を失ってしまいました。
「風、大丈夫か?」
顔を覗き込みながらお兄さんが言ってきました。
「大丈夫ですよ~」
お兄さんに心配させまいと答えます。
「ならいいけど……」
そう言いながら、お兄さんは私を庇うように立ち塞がっています。
こうやって守られるのは情けないですが、悪い感じはしません。
こんなお兄さんの後ろ姿を見惚れてしまいました。
いつの間に、こんなに強くなったのでしょう。
「俺もただだらだらしていた訳じゃないさ。星や霞、華雄なんかに鍛えられれば嫌でも強くなる」
私の心でも読めたのでしょうか。
聞いてもいないのに、お兄さんが答えました。
この後も曹操軍の攻撃は続きましたが、お兄さんや兵士さん達のおかげで大事には至りませんでした。
そして、夏侯姉妹や他の武将さん達は、恋さんをはじめ他の皆さんで抑え込んでいるようです。
両方とも痛手を負いながら、それでもなかなか進展しません。
そんな中、大きな銅鑼の音が響いてきました。
「姉者、退却だ」
「なんだと!! 私はまだやるぞ!!」
「華琳様の命令は絶対だ!!」
「くっ、仕方ない。次会った時には決着を付けてやるからな!!」
「……いくらやっても変わらない」
夏侯惇さんの言葉に、いつもの調子で結構きつい言葉を話す恋さん。
それに対して何か言いたそうな夏侯惇さんでしたが、夏侯淵さんがそれを抑えて自陣へと引き上げていきます。
「恋殿、追い打ちをかけますぞ!!」
「いえ~、私達も退却しましょう~」
まだまだやりたそうなねねさんの言葉でしたが、私はそれを止めさせました。
よく見れば孫策軍も劉備軍も退却を始めています。
その中で、私達だけ追い打ちをかけるのもおかしいです。
それに退却した曹操軍に対する対応は、諸葛亮さんが行っているはずです。
その状況を確認してから動いても、遅くはならないでしょう。
とにかく、初戦にしては曹操軍に対し相当な痛手を負わせることが出来ました。
特に、この戦での主力となる水軍に関しては、そのほとんどを失わせる事に成功しました。
こちらもそれ相応の痛手を負わされましたが、そこまで酷い事にはなっていません。
初戦は間違いなくこちらの勝利です。
私達は、意気揚々と自陣へと引き上げました。
あとがき
風ストーリーの24話お届けしました。
赤壁の戦いの初戦となります。
戦いのシーンを書くのはやはり苦手です。
そんな中でなんとか書いてみました。
ちょっと恋のチートっぷりがありえないかも……。
船上での戦いというのが実際どういうものなのか判らなくて、今回書いたような展開にもっていけるのか。
それすら不安ですけど、まあフィクションだしいいかな(笑
次で赤壁の戦いは終わりの予定です。
水軍を失いこの場での戦いを諦めた曹操軍に対し三国連合はというような感じですね。
すでに朱里が手を打っていたりしますが、その辺に少し変化を加えて面白くできたらなと思っています。
今回もご覧いただきありがとうございました。
Tweet |
|
|
34
|
4
|
追加するフォルダを選択
真恋姫無双の二次小説です。
風の視点で物語が進行していきます。
前回かなり時間かかってしまったので
今回は早めにという事で頑張ってみました。
続きを表示