荊州の地を治めることになった、お兄さん。
劉琦さんと劉琮さんの二人からこの事が公になると、案の定色々な意見が出てきました。
ですが、民達からは概ね良好な印象を受けました。
問題は古くから劉表さんの仕えてきた人達ですが、劉琦さんと劉琮さんが話をまとめてくれました。
さらにお兄さんと相談して、その役職を変えることなく、以前と同じように働いてもらうことにしました。
これで、反乱分子は出ないはずです。
それと同時に、劉表さんが亡くなった事も公表しました。
その知らせに国中が悲しみに包まれました。
この悲しみを隠す必要はないと、お兄さんは国中で数日間喪に服す事に決めました。
時間的な余裕はあまりないのですが、けじめという意味です。
喪に服している間は、毎日やらなければいけない事以外は基本的に休みです。
政務が滞り、問題が起きるのではと心配しましたがそう言った事もなく、喪の期間が終了しました。
これでようやくお兄さん統治による政治が始まるかと思ったのですが、また一つ話が出てきました。
それは、お兄さんが劉琦さんか劉琮さんを娶るというものです。
それによって、名実共にお兄さんが荊州を治める事になるという事です。
ですが、それは劉琦さんと劉琮さんに断られました。
古参の人達から勧められても首を縦に振りませんでした。
「一刀様には、これだけ素晴らしい方々がそばにいらっしゃいます」
「その方々を差し置いて、私達のどちらかがその横になどと到底叶わぬ事です」
「ですが、一刀様さえよければ……」
「私達は、いつでもお待ちしていますよ」
そう言った二人の笑顔に、お兄さんも満更ではなかったようです。
なんでしょう。
お二人の事は嫌いではないはずなのに、少し苛つく自分がいます。
これはお二人にというより、お兄さんの態度に問題があるかと思います。
という事で、お兄さんのお腹をつねってみました。
「いたっ!! 風何するんだ?」
「いえ~。蚊が止まっていたようだったので、退治しておきました~」
「それでつねるか、普通」
「細かい事を気にしていると直ぐに禿げるぜ」
「宝譿、それを言ってはダメですよ~」
久々の宝譿とのやり取りで、なんとかごまかせたでしょうか。
お兄さんは、呆れたような表情をしています。
そんな私達の様子を見て、劉琦さんと劉琮さんは笑いました。
そんな和やかな雰囲気の中、お兄さんによる統治が始まりました。
こうして、お兄さんによる統治が始まりました。
まずやるべきは、国内の安定化……。
ですが、これは必要ありませんでした。
劉表さんの力により、国内はかなり安定していたのです。
その劉表さんの跡を、劉琦さん、劉琮さんで支えるわけですから問題ありません。
と思ったのですが、ここで一つ問題が発生しました。
劉琮さんの下で、特に問題の無かった蔡瑁さんが、自分の水軍兵を率いて曹操さんに降伏してしまいました。
曹操さんの軍は、数の上ではかなり大きなものになっており、正直太刀打ちできません。
ですが、その中で唯一弱点があるとすれば、曹操さんの軍は北方の人間で構成されていると言うことです。
曹操さんの治める魏と、私達の治める荊州や孫呉さらに蜀との間には長江という川と呼ぶには大きな川が横たわっています。
私達の所に攻めるには、どうしてもその長江を渡らないといけません。
それには、水軍が必要になるわけですが、今までは曹操さんはそれを持っていませんでした。
ですが、ここで蔡瑁さんが降伏したとなると、その水軍としての力も手に入れることになります。
そうなってくると、曹操さんはこれぞ好機とばかりに攻めてくるでしょう。
正直時間がありません。
今のままでは、大敗するのは目に見えているので、桃香さんそして孫策さんと協力してこの事態を乗り越えなければいけません。
まずはその段取りをするために、両国に使者を送りました。
曹操さんをどうにかしなければいけない。
それは皆さん判っているようで、案外順調に話が進みました。
そして、いよいよ曹操軍が南下してきているとの報が入り、私達は桃香さん、孫策さん達と合流するため、ここ赤壁の地に集まりました。
長江は、いつも変わらずその雄大な流れを私達の前に見せてくれています。
所々に見える地元の漁師さんが働いている姿を見ると、これから大きな戦があるという事を忘れさせてくれます。
長江を挟んで、曹操さんと対峙するような形で陣を取った私達ですが、まずは今後の方針を決めないといけません。
そこで、それぞれの代表者が集まり軍議を行うことになりました。
私達からは、お兄さんと私、そして白蓮さんは参加します。
桃香さんのところからは桃香さんと諸葛亮さん、そして愛紗さんが参加するようです。
孫策さんの陣営からは、孫策さんと周瑜さん、そして黄蓋さんが参加します。
残りの皆さんは、いつ戦が起きても大丈夫なように軍を整えるようにしてもらっています。
曹操さんとどのように戦うか。
それを話すはずの場なのですが、なかなか話が合いません。
「戦ってもいいことなんてありません。話し合うべきです!!」
これは桃香さん。
「凄く甘いわね」
「甘いって……」
「話し合いって言うのは、同じ立場に立ったときに初めて成立するもの。今は曹操との戦力差が大きいからまずは無理ね」
「でも……」
桃香さんの意見に孫策さんが異議を述べます。
確かに、今のままでは話し合いも出来ないでしょう。
そうやって色々話は出ますが、一向に結論が出ません。
そんな中、周瑜さんが驚きの提案をしてきました。
「私は、曹操に対する降伏を勧めておこう」
「降伏!?」
降伏は選択肢としてありえないものではありません。
ですが、現状それを避けるために集まっているので、その中で降伏を勧めるとはなかなかです。
ただ、客観的に状況を見れば降伏するのが一番被害が無いかもしれません。
「降伏ってこうやって集まったのにですか?」
「そうだ」
桃香さんの言葉に、あっさりと返事をする周瑜さん。
「今の状況では、曹操に勝てる見込みは全くない」
「そんな事は……」
「まずは、その圧倒的な戦力差だ。戦での定石はまずは相手よりも多い人数で挑む事。私達は、その段階で既に負けている」
この三国が揃っても残念ながら曹操さんには遠く及ばない人数しかいません。
「次に私達に利のあった水軍だが、曹操に降伏した者がいる。その者は、劉表の下で水軍を率いていた。その者が今度は曹操の水軍を率いている」
こう言って、私達をみる周瑜さん。
残念な事に、その者は元々私達の所にいた者です。
その事を思って、私達を見たのでしょう。
「すまない……」
「いや、北郷は悪くないさ。現にその者が行った事を私が提案している」
蔡瑁さんの事で謝ったお兄さんに対して、周瑜さんが答えました。
その後一度伏し目がちにして、再び私達を見て言いました。
「第三に、これ以上江東の民達を苦しめたくない。……それだけだ」
戦をするとなると、そこに住む民達に負担をかける事になります。
それは避ける事の出来ない事実です。
民の事を思えば、戦をしないと言うのは正しい選択です。
周瑜さんの提案に、その場が静まりかえりました。
周瑜さんの言葉に、反論のしようもありません。
しかし、その周瑜さんに反論する人がいました。
その人は黙って周瑜さんの言葉を聞いていたかと思うと、話が終わるやいなや前に進み言い始めました。
「我が軍師殿は、臆病風にでも吹かれたのかのぉ」
「なっ!!」
臆病風……と言われればそうかもしれませんが、それをそのまま言葉にする人がいるとは思いませんでした。
その人は、孫策軍の黄蓋さんで、先代の孫堅さんの頃から仕えている古参の武将さんです。
周瑜さんに対するその言に、周りにいる人達が驚きの声を上げました。
ただ、当人の周瑜さんはあくまで涼しい顔でいましたが。
「祭殿、臆病風とはどういう事か?」
「その言葉の意味そのままじゃ」
「私は物事を客観的に把握して、その結果を述べたまで。それが臆病風と?」
「分析検証大いに結構。じゃが、やってもいない戦を、頭から負けるなど言う段階で、臆病風と言わずなんというのじゃ?」
「……それだけ言うのであれば、祭殿は私達が勝てるとでも?」
「無論、そのつもりじゃ」
黄蓋さんはそう言うと、先ほど周瑜さんが指摘して事を反論して見せました。
「戦で人数が揃わず相手より少ないなど多々あること。堅殿の時代よりそんな中で勝ってきたのじゃ。ましてや、今は三国の連合。劉備軍には関羽、張飛という猛者がおる。北郷軍にはあの呂布がいると言うではないか。もちろん、我が孫策軍も負けてはおらぬがな。この者達が手を組めば数の違いなど些細な事じゃ」
確かに、武将という話でいけば私達は曹操軍に負けてはいません。
「次に水軍じゃが、あれは短い月日でどうにか出来るものはない。そんな急造な曹操軍に我等の水軍が劣るはずもなかろう」
蔡瑁さんは、劉表軍で水軍を率いていました。
それをそのまま今まで経験のない曹操軍で試すのはやはり難しいという判断でしょう。
「最後に江東の民達のことじゃが、曹操なんぞにひれ伏す位なら死を選ぶくらいの気概をもっておろう」
全てではないにしろ、そう思う人がいてもおかしくはありません。
「なるほど……。ですが、祭殿が指摘した事は全て精神論の延長でしかない」
「精神論でも構わん。やりもしない戦に初めから負けると言うよりはのぉ」
黄蓋さんの言い方は、何となく鼻につきます。
そう、いわゆるけんか腰というものです。
周瑜さんは、表情こそは変えていませんが、正直心の中までは判りません。
「祭殿……、その言い方は私を愚弄しているのか?」
「そう取られても結構。元より、臆病風に吹かれたような軍師の指揮では我が軍は勝てる戦も勝てなくなってしまうからのぉ」
この言葉が決定的だったのでしょう。
今までのらりくらりとしていた周瑜さんの表情が変わりました。
「誰かある!?」
「はいっ!!」
周瑜さんの言葉に、小柄な少女が姿を現しました。
「この者をむち打ち百回の刑に処せ!!」
「はい。……ってえ!?」
周瑜さんの指定した人は黄蓋さんです。
その相手を見て、その少女は驚きました。
「私に対する愚弄は、雪蓮に対する愚弄と同じ。その者には相応の罰を与えねばならない」
「はっはっはっ!! 言葉で負けたら今度は武力か!! つくづく情けないのぉ」
「……早く連れて行け」
「はい……」
黄蓋さんの悪態に、周瑜さんはうつむきながら気にしないとばかりに、また少女に命令しました。
その少女は渋々黄蓋さんを連れて行きます。
「あの、止めないんですか?」
桃香さんが孫策さんに言います。
「これは、祭が悪いしねぇ。私に止める権限はないわ」
「でも……」
「これは、我が軍での話だ。口出し無用!!」
渋る桃香さんに、周瑜さんが言い切りました。
確かに孫策軍内部での話にですが、この状況はあんまりよくないです。
これから一致団結して曹操軍と戦わなければならないのに、その内部で不協和音が響いているようです。
少女に連れて行かれる黄蓋さんを見ながら、白蓮さんが近づいてきました。
「北郷、大丈夫なのか?」
状況を憂いだ白蓮さんがお兄さんに耳打ちをします。
「大丈夫だと思うよ。俺の知っている史実があれだとすると、これは必然だから」
「なんだ、それは?」
お兄さんの回答に首をひねる白蓮さん。
「風~」
お兄さんの言葉に要領を得なかった白蓮さんは、私に助けを求めてきました。
「風にもお兄さんの意図は分かりませんが、大丈夫だと思いますよ~」
そう言って、私は桃香さんの居る方向を見ました。
桃香さんと愛紗さんは、白蓮さんと同じように今の状況を憂いでいるようです。
諸葛亮さんに対して、必死に聞いています。
しかし、諸葛亮さんはお兄さんと同じく問題ないという立場を取っているようです。
あの諸葛亮さんが問題ないと思うのであれば、これは問題ないのでしょう。
「私達の問題で話を折ってすまない。今日はこれで解散としよう」
周瑜さんのこの言葉で、この日の軍議は終わりました。
その後私達の所をはじめ、桃香さんの所でも黄蓋さんが周瑜さんを愚弄し処分されたという話が流れました。
これはあまりよくない事ですけど、あの場で問題にならなかったので成り行きに任せました。
案の定、陣地内ではこれで大丈夫なのかというような話が出てきました。
ただ、これはあくまで孫策軍での問題という事で私達は今ままで通りであるという事を貫きました。
そして、その日の夜に更なる事態が発生しました。
孫策軍の陣地から、曹操軍に向けてある舟が出航しました。
黄蓋さんが孫策さんを裏切り、曹操さんへと降伏してしまいました。
あとがき
かなりお待たせしました。
内容が二転三転してなかなか書ききれませんでした。
あとは、例の大震災。
そこまで影響はなかったのですが、モチベーションを戻すのに時間がかかりました。
と、何を言っても言い訳にしかならないですね。
今回の話ですが、前話のあとがきで書きました三国志史上最大の戦、赤壁の戦いの導入部になります。
正直赤壁の戦いはどのように始まるのか色々調べてこんな感じだったかなという風に書いてみました。
いかがだったでしょうか?
有名な苦肉の策っぽく書けたかなぁ。
次は、赤壁の戦い本編になると思います。
少しでもオリジナルな感じを出せていけばいいかなって思っています。
次もまた期間が空いてしまうかもしれませんがお待ちいただけると幸いです。
今回もご覧いただきありがとうございました。
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真恋姫無双の二次小説です。
風の視点で物語が進行していきます。
約4ヶ月ぶりでの投稿です。
かなりお待たせしてしまいました。
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