真・恋姫†無双~赤龍伝~第61話「虎・虎・虎」
赤斗「ここはドコだ?」
赤斗は暗闇の中を彷徨っていた。
夢なのか、それともあの世なのか、赤斗には分からなかった。
頭に響く声に従って、奥義“狂神”を発動させてからの記憶がない。
だが、発動と同時に、熱くて眩しい金色の光が、自分の中に入り込んできた事だけは憶えていた。
しかし、今は全く光のない場所にいる。その事が余計に赤斗を不安にさせた。
赤斗「やっぱり、死んじゃったのか……」
気持ちが沈む。
赤斗「でも、…………雪蓮を守れてよかったかな」
赤斗の気持ちが少し明るくなる。
赤斗「けど、これからどうなるんだろ? やっぱ三途の川に行くのかな? 船には乗りたくないんだけどな……」
そんな事を考えていると、今まで暗闇だった場所に、ほんの僅かな光が差しこんできた。
赤斗「あっ」
その光は、今にも消えそうな脆弱なものだったが、赤斗は独りでに光へと向かって走っていた。
光は近いようで遠かった。消えないで欲しいと何度も思いながら、赤斗は光に向かって走り続ける。
赤斗「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
もう何時間も走っているように思えた。もしかすると、走り出して何秒もたっていないかもしれない。
赤斗には時間の感覚すら分からない。
そして、永遠なのか、一瞬なのか分からないうちに、赤斗は光のもとにたどり着いた。
赤斗「着いたっ……なっ!!」
その時、脆弱だった光は辺り一面の暗闇を照らす強い光へと変わった。
赤斗(うぅ、何だったんだろ、今の光?)
徐々に光が収まる。
赤斗(何だ……ここは?)
赤斗が周りを確認すると、そこは蒸し暑いジャングルだった。
赤斗(あ、暑い……何でこんな所に居るんだ……ん?)
赤斗は自分が四つん這いになって歩いている事に気が付く。
赤斗(これは、もしかして……)
この格好に赤斗は身に覚えがあった。
恐る恐る自分の手の平を見た。
しかし、そこにあったのは見慣れた自分の手の平ではなく、やはり“肉球”だった。
赤斗(なんじゃこりゃーーーーーーーーっ!!)
以前と同じように、昔の刑事ドラマの有名なシーンを再現してみた。
赤斗(あれ? でも、今回は犬じゃない?)
手の平だけでなく、身体全体を確認する。
やはり、そこにあるのは自分の身体でもなく、犬のセキトの身体でもなかった。
そこにあったのは、黄色と黒の縞模様のある身体だった。
赤斗(虎かーーっ!?)
赤斗は自分が虎の姿になっている事に気がついた。
大きさは約一㍍ぐらい。恐らくまだ子供だろう。
赤斗(今回は虎……。やっぱり、これも夢?)
以前、夢で犬のセキトになって、恋や陳宮に出会った事を思い出していると、咽がひどく渇いている事に気がつく。
赤斗(のど渇いたな~。水を飲みに行こう。どこかに川か池はないか)
とりあえず、色々考えるのは止めて、咽を潤すために移動を開始した。
赤斗(はぁはぁ……ん! この匂いは)
虎になって嗅覚が良くなった赤斗は、水の匂いを嗅ぎつけた。
赤斗(近いな。はぁはぁ、早く行こう)
こうしている内も、咽はどんどん渇いていく。
赤斗は水の匂いがした方へと急いだ。
暫く茂みの中を進む。そして、茂みを抜けるとそこには、きれいな泉があった。
赤斗(はぁ、はぁ、あった!)
少女の声「きゃああああぁぁーーーーーっ!」
赤斗「えっ?」
すぐそばで聞き覚えのある少女の悲鳴が聞こえた。
劉備「と、と、虎ーーっ!」
悲鳴がした方を見ると、そこには劉備と関羽、張飛、諸葛亮がいた。
赤斗(劉備さん? っていうか! 何で裸なんだ!)
どうやら劉備たちは、泉で水浴びをしていたようで、全員が裸になっていた。
関羽「桃香様!」
関羽が劉備の前に駆け寄り、赤斗を警戒する。
張飛も赤斗を睨みつけてくる。
赤斗(どうしよう。下手に近づくと斬られそうだし。けど水は飲みたいし。どうしよう)
赤斗は悩みながら、その場でウロウロと動き回る。
関羽「何だ、この虎?」
諸葛亮「何だか困っているようですね」
劉備「もしかして、この虎さん。お水が飲みたくて来たのに、私たちが居るから、飲めなくて困っているのかも」
張飛「きっとそうなのだ!」
そう言うと張飛は、裸のまま虎の赤斗に近づいてくる。
諸葛亮「えっ、鈴々ちゃん!」
赤斗(な、なに? そんな格好で来ないで!)
張飛「おい虎! 鈴々たちに遠慮しないで、水を飲むといいのだ」
赤斗(へっ?)
関羽「おい、鈴々!」
張飛「大丈夫なのだ。この虎、鈴々たちを襲う気はないのだ」
劉備「でも……」
張飛「桃香お姉ちゃん。ここは鈴々に任せてほしいのだ」
劉備「…………うん。分かった。じゃあ、鈴々ちゃんに任せるね♪」
関羽「桃香様っ!?」
劉備「大丈夫だよ。愛紗ちゃん。鈴々ちゃんに任せよう」
関羽「しかしっ!」
諸葛亮「あの……愛紗さん」
恐る恐る諸葛亮が関羽に話しかける。
関羽「なんだ朱里!」
関羽が諸葛亮を睨みつける。
諸葛亮「はわわ、えーと多分ですが、そんなに心配しなくても大丈夫だと思います」
関羽「どうして、そんな事が分かるんだ?」
諸葛亮「その虎さんが私たちを襲う気があるなら、きっと私たち、もう襲われていると思うんです。なのに襲って来ないと言う事は、本当に水を飲みにきただけなのかもしれません」
関羽「うぅ、確かに、こうしている間も襲ってくる気配がないな」
張飛「ほら、水を飲むのだ」
赤斗(ほっ。良かった。何とか水が飲めそうだ)
赤斗は泉に近づいて、ようやく水を飲む事ができた。
劉備「うわー。本当に水が飲みたかったんだね」
諸葛亮「そうみたいですね」
赤斗(ふぅーー。生き返ったーー。けど、これからどうしよう)
関羽「桃香様。そろそろ皆の所に戻りましょう」
劉備「そうだね。水浴びしてさっぱりしたしね♪」
劉備と諸葛亮が泉から上がっていった。
関羽「行くぞ。鈴々」
張飛「分かったのだ。じゃあ、バイバイなのだ」
張飛も赤斗に対して手をふり、関羽と共に劉備たちの後を追っていった。
赤斗(はあー。正直、安心したな。あれ以上、裸のまま目の前に居られたら困るもんな)
裸の劉備たちが、目の前から消えて赤斗はホッとした。
赤斗(そうじゃない! 劉備さんたちの後を追わなきゃ! ここがドコか分からない以上、知っている人を見失う訳にはいかない!)
赤斗は急いで劉備たちの後を追いかけた。
赤斗(……あそこか)
赤斗は茂みの中から、発見した劉備の陣を見ている。
赤斗(このまま陣に入れば、即殺されるな)
劉備を見失わないよう必死に劉備を追いかけたが、陣を前にして赤斗は悩んでいた。
赤斗(さて、どうする?)
?「きゃああーーーーー!」
悩んでいると陣の中から悲鳴が聞こえた。
赤斗(今の声!)
悲鳴を聞いた赤斗は、とっさに陣の中へと向かった。
兵士「と、虎だぁーー!」
兵士「陣の中に虎が入り込んだぞーー!」
虎の姿を見て、陣の中の兵士が騒ぎ出す。
赤斗はそんな事は構わずに、悲鳴がした方へと走る。
赤斗(ここか!)
そう言うと赤斗は、一つの天幕の中へと駆け込んだ。
詠「えっ、何? 虎っ!?」
天幕の中には、月と詠が居た。
二人は急に虎が天幕に入ってきたので驚いている。
月「詠ちゃん」
詠「月、下がって! しっしっ、あっち行きなさいよ!」
赤斗(えっと、さっきの悲鳴は月の悲鳴だったよね。……なのに、何も起きていない?)
関羽「どうしたのだ! なっ、虎!?」
そう言って関羽が天幕の中に入ってきた。
赤斗(うわー、最悪だ)
関羽「何故、こんな所に虎が?」
詠「知らないわよ! 大きな虫が天井から落ちてきたと思ったら、急に虎も入ってきたんだから!」
赤斗(何だ、虫か……)
関羽「お前もしかして、先ほどの虎か?」
関羽は答えが返ってくるはずもないのに赤斗に尋ねる。
赤斗(はは……そうでーす)
関羽「おのれ、こんな所までつけてくるとは、覚悟は出来ているなっ!」
青龍偃月刀を構えながら、関羽は徐々に赤斗との間合いを詰め始める。
赤斗(やばい。どうしよう)
出入り口は関羽の背後。逃げるのは難しい。
赤斗(なら、仕方がないか)
関羽「なに!」
赤斗は観念して、その場に伏せる。関羽に敵対する意思がない事を知らせる為に。
月「愛紗さん」
関羽「何だ、月?」
月「その虎さんを助けてあげてくれませんか?」
詠「ちょっと、月!」
関羽「何だと!」
月「ダメ……ですか?」
月に懇願され、関羽は暫く考えこんだ。
関羽「はぁー。…………好きにしろ」
月「ありがとうございます」
関羽は青龍偃月刀を収めて、天幕を出ていった。
詠「月。どうして、その虎を庇うの?」
月「だって、この虎さん。とても優しいよ」
そう言いながら、月は伏せている赤斗の頭を撫で始めた。
詠「優しい?」
月「うん」
詠「何でそんな事が分かるのよ?」
月「うーーんとね。目かな?」
詠「目?」
月「うん♪ この虎さんの目、何だか赤斗さんの目に似ていると思わない?」
赤斗(……月!)
詠「えーー、そう?」
月「虎さんが天幕に入ってきた時は驚いたけど、私たちの事を心配してくれている目をしていたから、怖くなかったよ」
詠「分かったわ。……月の好きにすると良いわ」
月「うん♪ ありがとう。詠ちゃん♪」
月はとびっきりの笑顔を詠に見せる。
月「これから、よろしくね。虎さん♪」
赤斗(うん?? ……これから?)
詠「ちょっと待って月! もしかして、この虎をここに置くつもりなの?」
月「え、ダメかな?」
詠「それは危険よ! いつ襲ってくるか分からないじゃない」
月「……さっき好きにして良いって、詠ちゃんが言ってくれたから」
月の顔が泣きそうになる。
詠「あーもう! 分かったわよ! ……月の好きにしなさい」
月「えへへ♪ ありがとう。詠ちゃん♪」
再び、月はとびっきりの笑顔を詠に見せるのだった。
月「じゃあ改めて、これから、よろしくね。虎さん♪」
赤斗(よろしくね。月♪)
虎となってしまった赤斗は、劉備陣営にいる月と詠のもとで過ごす事になった。
つづく
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この作品は、基本的に呉√にそっては行きますが、今回から脱線します。また、主人公も含めてオリジナルキャラクターが出てきます。
未熟なため文章におかしな部分が多々あるとは思いますが、長い目で見てくださると助かります。