―――友哉―――
強すぎる・・・そんな感想しか出てこない。恋ほどではないが、霞と同じぐらいの強さがある。そうだ、今俺が対峙しているのは、孫呉の王・孫策伯符。そしてその後ろに控えているのが呉の宿将・黄蓋。
孫策「なかなかやるじゃない?でも、もう飽きてきたのよねー。ねぇねぇ、またぶわあって赤くならないの?」
友哉「(ハァハァハァ)何のことですかッ!!」
ガキン!!
まったく、話しながらその強さは反則だろう。相手は剣を片手でストレートに振り下ろすだけ。しかしよけることすらできない。それゆえ受け止めるしかなくなるのだが、こっちはどうやっても二振りの蒼天を使っても何とかといったところだ。
毎度思うのだがこの『蒼天』は折れる気配を見せない。敵のほうが圧倒的に太い剣を使っているのに・・・まぁ流石は神様の剣といったところだろうか。
今度は、孫策が横薙ぎに剣を振るう。何とかバックステップでかわすがそこへ孫策が踏み込んできて下段から振り上げてくる。また二振りを使って何とか軌道を体からそらして再び距離をとる。
剣と刀が触れ合うたびに手がしびれる。正直言ってもう刀を握っているのがやっとだ。このままじゃマズい。何とかしようと二振りの刀を左は逆手にして下に、右は順手で上に水平に並べてかまえる。
孫策「そろそろ終わりにしましょう!」
言い終わるや否や、また上段からの振り下ろし。確実に俺の体の軸を狙ってきている。しかし先ほどまでとは違う点が一つだけ、剣速が断然早い。俺が受け止められないと確信しているのか、不敵な笑みがこぼれている。
だが俺とて何の対応策もなくやられるつもりはさらさらない。まっすぐ振り下ろされた孫策の『南海覇王』を二振りで受け止めはせず、そのまま左に流しながら・・・
ガキンッ!!
孫策「!?」
友哉「くそっ!」
目の前には先ほどまで後ろで静観していたはずの黄蓋が片手に持った剣で俺の『蒼天』を止めている。
黄蓋「やれやれ、策殿もまだまだということかの」
一度、間合いを取る。
今のは間違いなく俺の渾身の一撃だった。しかし黄蓋に止められてしまった。おそらくは構えを変えたあたりですでに見抜かれていたのかもしれない。
あの時、剣先を後ろに下げ孫策の『南海覇王』を横から押すように軌道を変えた。と同時に右前、すなわち孫策の左側へと大きく踏み出しながら刀を受け流したまま横薙ぎに一閃した。
孫策「窮鼠猫をかめなかったわね♪そ・れ・よ・り、こんなことしてていいの?」
孫策がチラッと視線を横へ向ける。それにならって俺も横を見る。
莉空さんが関羽とやり合っている。互角にも見えるがどうやら関羽はまだ全力を出し切れていないように見える。つまり莉空さんは劣勢。
孫策「華雄はいつまでもつのかしらね」
黄蓋「そうじゃのう。関羽が本気を出したら数合も持たんじゃろう」
何もなければ今すぐにでも莉空さんを助けに行く。しかし目の前に立ちはだかる二つの巨大な壁。恨みを込めて二人をギッと睨む。
孫策「あら、助けに行かなくてもいいの?」
笑ってやがる。俺程度の殺気ではたじろがせることすらできない。
黄蓋「お?どうやらけりが付きそうじゃのう」
莉空さんが肩を切られた。あの様子ではもう戦えまい。
孫策「行ってもいいのよ?」
友哉「何をたくらんでる!!」
孫策「ただ一つ条件を付けるだけよ。この戦いが終わったらあなたが呉に来てくれること。それで血を入れてくれたらなおのこといいんだけれど、まぁとりあえず来るだけでいいわ」
どうするべきか。これはつまり月達を裏切れということ。しかし俺の心はとっくに決まっている。第一、計画さえうまくいけばそんなのたいして関係ない。
友哉「わかりました。ただ俺たち負けるつもりはありませんから」
孫策「雪蓮よ」
友哉「は?」
孫策「だから、私の真名は雪蓮だっていってるの!」
友哉「何で俺に?」
孫策「そんなの決まってるじゃない♪未来の夫兼部下だから」
友哉「はぁ。じゃあ俺は友哉です」
孫策「わかったわ友哉。早く行きなさい」
友哉「ありがとうございます!」
俺は孫策たちに背を向け莉空さんの方へと走り出す。関羽がゆっくりと莉空さんへと歩み寄っている。
――間に合ってくれ!!!
黄蓋「此度のことは冥林に報告せんといかんのう。策殿が一人で突っ走って死にかけた、と」
孫策「えー!?祭ってばちょっとひどいんじゃない?今度お酒買ってあげるから冥林だけは」
黄蓋「これでしばらくは酒の心配はいらんの♪」
孫策「ちょっと祭!?図ったわね!?」
二人で笑いあいながら走り去る『猫をかめなかった窮鼠』を見届ける。
孫策(わるいわね、劉備、曹操。一足先にもらっちゃったわ♪)
―――莉空―――
もう駄目だと思った。肩を切られた瞬間に覚悟した。戦場で戦って散ることができるなら本望だ。人はみないつかは死ぬのだ。ついに私にもその瞬間がやってきたのだと。関羽が堰月刀を振り上げるのを見て私は目を閉じた。
――すまないみんな。すまない友哉。
頬を何かが伝い落ちていくのを感じる。ああ、私は泣いているんだ。最後まで友哉のことを思ってしまっている。どうやら心底惚れてしまったらしい。もっと友哉と一緒にいたいと思っているらしい。
――助けてくれ、友哉!
ピカアアァァァァァッ!!!!!!
突然の閃光がその場にいたもの全ての視覚を奪った。まるで目の前に太陽が落ちてきたのではないかと思った。目が開けられない。しかし誰かに抱きかかえられる感触がする。生まれて初めてのお姫様だっこ。死神も意外と悪いものではないのかもしれないと思った。最期ぐらいはいい思いをしてもいいだろうと。
しかし次の瞬間に耳に入ってきた声は予想外のものだった。
友哉「莉空さん、大丈夫ですか?」
―――友哉―――
関羽が莉空さんの目の前で足を止める。
関羽「さぁ言い残すことはないか?」
華雄「・・・」
もう間に合わない。そう思って懐に入れていた球状の陶器の容器を取り出す。
友哉「行っけぇぇぇえええ!!!!」
その容器を関羽と莉空さんの間に向って思いっきり投げつける。こんなときになって野球やってて良かったなとか思ったりする。その容器がぴったり二人の間の地面にぶち当たり砕ける。
ピカアアァァァァァッ!!!!!!
閃光があたりを支配する。ほとんど全軍がこの光を見たという。そう、あの容器の正体は閃光玉。
友哉が閃光玉を作ったのはちょっと前のこと。
街を散策して露天商を冷やかしていると、異質なものが友哉の目を引いた。
その名を『魔愚音死雨夢』
なんちゅー当て字とか思っていたが、店主の話を聞くとどうやら本当に『マグネシウム鉱』のようだ。意外に安かったので大量に買った。城に持ち帰り専属の鍛冶職人に精製を依頼した。毎度思うのだが、なぜかこの世界は技術がおかしい。
水着を作った時も油から糸作っちゃったし。もうこの際気にしたら負けなんだなとか自分を無理やり納得させた。とりあえず出来上がったマグネシウムを粉にしてもらって、少量を部屋の中で燃やしてみる。十分な光量がでるとわかったので、今度は閃光玉の開発に取り掛かった。
割れると火がつく仕掛け、これが一番の難題だった。それでもやはり作ってしまうのがこの世界の理なのだ。無理を通せば道理が引っ込んだ。しかしこの仕掛けがかなり値を張ったため実際に作れたのは試作品を含めて四つ。
これは最終兵器(?)なので城のみんなには見せていない。唯一知っているのは鍛冶職人のおやじだけ。工房で試したときにかなり驚いていたが、優れものと判断したようで仕掛けを改良しているらしいがいい知らせはまだない。
と、そんなわけで閃光玉を投げつけ関羽がひるんでいる間に莉空さんを掻っ攫って逃走。馬がいないので当然猛ダッシュ。
友哉「莉空さん、大丈夫ですか?」
莉空「友哉!!すまない・・・・」
一瞬喜んだように見えたが、すぐに表情が曇る。
友哉「いいんですよ。俺は莉空さんが無事でいてくれればそれで」
莉空「ありがとう、友哉・・・それでこの状態は何とかならないのか/////」
友哉「そうは言われましても・・・あ、恋!」
恋「莉空、怪我?」
うるうるフェイスで恋が莉空さんを見つめている。
莉空「あ、ああ。だが問題ない、心配かけてすまない」
莉空さんが陥落した。
友哉「恋、悪いんだけど莉空さん連れてってくれない?」
流石にこれ以上お姫様だっこはつらい。馬に乗っている恋に任せよう。
恋「わかった」
とりあえず途中で恋と合流して莉空さんを預け適当に馬を拾って関へと戻った。
とは言っても、もう虎牢関は捨てるしかない。一同はそのまま虎牢関を放棄し、決戦の地・洛陽へと向かった。
つづく
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どもどもcherubです。
え~、もうテストなんか知らん!
ということで戦線復帰いたしました。
今回が虎牢関最後の戦いになります。
でわでわ